医学のあゆみ
Volume 260, Issue 5, 2017
Volumes & issues:
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【2月第1土曜特集】 いま臨床医が知っておくべき高血圧のすべて
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- 高血圧の現状
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循環器病の発症率・死亡率減少に対する高血圧治療の貢献
260巻5号(2017);View Description Hide Descriptionわが国では循環器疾患発症の半分以上が血圧高値に起因するものと考えられ,高血圧対策は最重要課題である.過去50 年間で脳卒中発症率・死亡率は著しく低下したが,高血圧の早期発見と早期指導・治療および減塩対策などによる国民の血圧低下の成果と考えられる.一方,心疾患については年齢調整死亡率は低下しているが,人口の高齢化に伴い患者数・死亡数のさらなる上昇が予想される.国民全体の血圧値は過去50 年間に大きく低下したが,高血圧有病率はいぜんとして高く,また今後上昇の危惧もあり,予防対策(ポピュレーション戦略)を強化する必要がある.また,高血圧の治療率および管理率は過去30年間で改善傾向であるが,まだ十分とはいえない.未発見や未治療の高血圧者を減らす対策(ハイリスク戦略),さらに,医療機関における血圧管理の改善が必要である. - 診断
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さまざまな血圧パラメータ(血圧変動も含む)―どの値が臨床的に有用か
260巻5号(2017);View Description Hide Description高血圧は日本人の心血管イベントに対する最大のリスク因子であり,24 時間にわたる厳格な血圧コントロールが重要である.「高血圧治療ガイドライン2014(JSH2014)」では診察室外血圧測定が重視され,家庭血圧測定や24 時間自由行動下血圧測定の普及とともに,白衣高血圧や仮面高血圧という概念が広く認識されるようになった.仮面高血圧の病態のなかでも早朝高血圧と夜間高血圧は臓器障害や心血管イベント発症と密接に関連しており,積極的な治療介入が必要である.血圧変動性の増大は臓器予後と関連するが,その背後には全身血行動態アテローム血栓症候群(SHATS)の病態があり,SHATS を構成する血管障害と血行動態ストレスの2 つの要素は相乗的に悪循環を加速させ,心血管イベントのトリガーとなる.SHATS の病態のなかでも,まずは早朝高血圧を治療ターゲットにすることがSHATS の悪循環を断ち切るうえで重要である.そして“予見先制医療(anticipation medicine)”こそ,“心血管イベントゼロ”をめざしたパーフェクト個別医療につながる手段であると考える. -
自動血圧計の時代へ―水銀血圧計置き換えとしての自動血圧計とその原理,精度,導入効果
260巻5号(2017);View Description Hide Description“水銀に関する水俣条約”を受けて日本でも2020 年以降,水銀血圧計の製造・販売が原則禁止される.その置き換えとして考えられるのは,アネロイド(指針)式や電子表示式の手動血圧計,および血圧算出まで自動で行う自動血圧計である.自動血圧計特有の導入効果として,正しい測定手順をより確実に行えること,測定結果の客観性が得られること,および時間効率の向上などがある.また,現在の自動血圧計の測定原理は血管音を用いないオシロメトリック法が主流で,あらゆる条件下で信頼性が高い.自動血圧計の測定精度や安全性については,法的に適合が義務付けられた規格が存在し,国際整合が進んでいるほか,学会指針と工業規格との統合も始まっている. -
各種血管機能検査を高血圧診療に活かすには
260巻5号(2017);View Description Hide Description高血圧症は心血管イベントのもっとも重要なリスクであるが,ほとんどの患者には自覚症状がない.そのため,患者そして医療従事者ともにそのリスクを実感できず,治療が手遅れになることも少なくない.われわれは,高血圧症の原因が生命予後を確実に悪化させる全身血管の動脈硬化であることを強く自覚しなければならない.動脈硬化の進行を評価するのに有用であるのが各種血管機能検査である.その検査から得られた各種指標は,いずれも患者の予後予測に有用であるが統一的な血管機能検査は存在しない.血管機能検査には評価する内容により多くの種類があり,それぞれ実臨床における役割も異なる.血管機能検査はともすれば余分な検査と誤解されやすいため,検査説明の段階で医療従事者および患者自身が検査の内容や有効性について理解しておくことが重要である.本稿では動脈硬化の病態生理から各種血管機能検査の特徴,高血圧診療への応用法について述べる. -
高血圧診療に有用なバイオマーカー
260巻5号(2017);View Description Hide Descriptionバイオマーカーは,疾患の診断,病勢および治療効果を把握するのにきわめて有用な指標である.Creactiveprotein(CRP)などの炎症性マーカーや尿酸は高血圧の発症の予測因子であるとともに,心血管病の発症予測因子である.N-Termina(l NT)pro-BNP および Cardiac Troponin T は高血圧性臓器障害である心肥大と関連し,死亡の予後予測因子でもある.高血圧による腎障害の指標として,アルブミン尿,シスタチンC およびL-FABP が有用である.最近,マイクロRNA が,高血圧の発症,臓器障害の進展に関与していることが明らかとなっている. - 病態に応じた治療法
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高血圧の発症予防:生活習慣の改善はなぜ必要なのか―高血圧・循環器病予防療養指導士の創設と役割
260巻5号(2017);View Description Hide Description高血圧は進行性の疾患であり,血圧は若年のうちから加齢に伴って緩徐に上昇する.加齢に伴う血圧上昇の程度はナトリウム(Na)摂取量と相関しているといわれており,その他にも肥満,身体活動の不足,カリウム(K)の摂取不足,アルコールの摂取過剰といった要因が高血圧症に関与しているとされる.喫煙は血圧に対する影響は一過性であるが,連用すれば持続的な高血圧の原因となりうること,高血圧症の治療目的たる循環器病のリスク上昇をきたすことから,介入が必要である.多岐にわたる患者の生活習慣への指導を医師だけで外来で実施することは困難であることから,高血圧診療に携わる多職種に向けて,循環器病の予防を目的とした高血圧・循環器病予防療養指導士の認定制度が2015 年から開始された.これからの高血圧診療にはこうした療養指導の専門家との連携に加えて,減塩啓発や喫煙対策などの社会的な取組みとの連携も求められている. -
肥満を合併する高血圧
260巻5号(2017);View Description Hide Description本態性高血圧発症リスクの約7 割が肥満と考えられおり,肥満合併高血圧は治療抵抗性であることが少なくない.肥満によって起きる心拍出量の増加や,肥満の結果生じる低酸素血症や高粘調性血液は血圧上昇の原因となる.また,肥満病態では腎周囲の脂肪による腎の圧迫,鉱質コルチコイド受容体活性化を含む組織レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系活性化,腎交感神経活動の増加によって圧利尿曲線は右にシフトし食塩感受性高血圧となる.さらに,脂肪由来レプチンによる中枢性交感神経系刺激と肥満病態で活性化する中枢神経系proopiomelanocortin 経路による交感神経系依存性血圧上昇も肥満に合併する高血圧発症に関与する.したがって,肥満合併高血圧患者の血圧管理には食事療法や運動療法による減量を行うとともに,肥満病態にかかわる要因を念頭において降圧薬を選択することが重要である. -
糖尿病を合併する高血圧
260巻5号(2017);View Description Hide Description糖尿病と高血圧の合併は,心血管イベントリスクを増大するため原則として厳格な管理が必要となる.わが国の高血圧治療ガイドラインJSH2014 では,冠動脈疾患よりも脳卒中の発症率が高いというわが国に特徴的な疾病構造を踏まえて,糖尿病合併高血圧では130/80 mmHg 未満という厳格な降圧目標を推奨している.第一選択薬としては腎保護作用が優れていることを重視してACE 阻害薬およびアンジオテンシン受容体拮抗薬を用いるが,糖尿病合併高血圧は単剤でのコントロールが難しいことが多く,降圧が不十分であればCa 拮抗薬または少量のサイアザイド系利尿薬を追加,さらに必要であれば3 剤を併用する.糖尿病の心血管イベントリスクは,全身の動脈硬化性疾患,冠動脈疾患,脳血管疾患,心不全,慢性腎臓病など併存症に大きく依存する.したがって,個々の症例において年齢,病態,合併症・併存疾患のスクリーニング・治療などの含めた包括的な個別医療が重要となる. -
慢性腎臓病(CKD)を合併する高血圧―微量アルブミン尿陽性患者から透析患者まで
260巻5号(2017);View Description Hide DescriptionCKD と高血圧の間には病因的に双方向関係がある.CKD の存在は高血圧患者の予後に大きな影響を及ぼすため,すべての高血圧患者に検尿とeGFR 測定が必要である.CKD 患者の脳卒中を含む心血管疾患,生命予後を改善するためには適切な血圧管理が重要である.降圧目標・降圧薬を決定するうえで,原疾患(糖尿病かどうか),蛋白尿の有無が重要な役割を果たす.糖尿病を合併する場合は130/80 mmHg 未満の厳格な降圧をめざす.糖尿病非合併CKD では尿蛋白の有無が降圧目標を左右する.尿蛋白・尿クレアチニン比(g/gCr)を測定し,0.15 g/gCr 以上で蛋白尿(+)と判定する.蛋白尿(+)の場合は130/80mmHg を降圧目標とし,蛋白尿(-)の場合は140/90 mmHg 未満を降圧目標に設定する. -
冠動脈疾患を合併する高血圧―冠動脈疾患の一次予防と二次予防
260巻5号(2017);View Description Hide Description高血圧は冠動脈疾患の主要な危険因子であり,正常高値血圧でも冠動脈疾患のリスクは高いことが知られている.降圧治療によって高血圧患者の冠動脈疾患リスクは低下することが多くの臨床試験で示されている.高血圧だけでなく他の心血管危険因子も含めた総合的な心血管リスクが高い患者では,降圧治療による心血管イベントの絶対リスク低下の程度がとくに大きい.このような心血管リスクの高い高血圧患者に対しては,厳格な降圧治療が有益である可能性が示唆されているが,冠動脈疾患を伴う高血圧患者に対する降圧目標についてはエビデンスがまだ十分ではない.本稿では高血圧患者における冠動脈疾患の一次予防および二次予防について,最近の臨床試験の知見も合わせて概説する. -
心不全,心房細動を合併する高血圧
260巻5号(2017);View Description Hide Description心不全の原因となる疾患は多岐にわたる.そのなかでも高血圧は,心筋組織に慢性的な負荷を与えることにより心不全を引き起こすだけでなく,直接的に心筋組織に障害を与えうる急性心筋梗塞などの虚血性心疾患の危険因子であることから,もっとも重要な心不全の基礎疾患であると考えられている1).また,加齢に伴い増加する心房細動は高齢高血圧患者に多く観察され,心不全の増悪因子でもある.本稿では,心不全や心房細動を合併する高血圧の治療について,それぞれの病態に応じて概説する. -
脳卒中予防をめざした血圧管理―脳卒中の一次予防と二次予防
260巻5号(2017);View Description Hide Description高血圧は脳血管障害発症に関与する重要なリスク因子であり,脳出血,ラクナ梗塞,アテローム血栓性脳梗塞ととくに関連が深い.一次予防の立場からは背景因子を考慮し降圧目標を設定する必要がある.若年者,前期高齢者は140/90 mmHg 未満,後期高齢者は150/90 mmHg 未満,糖尿病,蛋白尿を伴う慢性腎臓病では130/80 mmHg 未満をめざす.降圧薬の種類は背景因子(年齢,合併症)を考慮して選択する.慢性期の二次予防においては臨床病型(脳梗塞,脳出血,くも膜下出血)を問わず降圧目標は140/90mmHg 未満とする.ただし両側頸動脈高度狭窄,脳主幹動脈閉塞ではとくに下げすぎに注意する.また,ラクナ梗塞,抗血栓薬服用患者(頸動脈や脳主幹動脈の50%以上の狭窄,閉塞例を除く),脳出血,くも膜下出血ではさらに低いレベル130/80 mmHg 未満をめざすことをすすめる.推奨される降圧薬は,Ca拮抗薬,ARB,ACE 阻害薬,利尿薬である. -
無症候性高尿酸血症を合併する高血圧―XO 阻害薬をどう使い分けるか
260巻5号(2017);View Description Hide Descriptionプリン骨格を有し腎排泄性であるアロプリノールの弱点を解決するため,新規キサンチンオキシダーゼ(XO)阻害薬としてフェブキソスタットとトピロキソスタットが現在使用可能である.新規XO 阻害薬は産生過剰型か否かの病型によらず,中等度腎機能低下までであれば通常量で高率に血清尿酸値管理目標が達成でき,長期に痛風関節炎の発症が予防できる可能性が示されてきた.本稿では,無症候性高尿酸血症を合併する高血圧患者に対する本薬の使用意義に関して述べる. -
高齢者の高血圧―フレイル,認知症を合併する高血圧の管理
260巻5号(2017);View Description Hide Description高齢者の高血圧有病率は非常に高く,高齢者の脳心血管病発症への高血圧の寄与度は高い.近年の後期高齢者も含めた大規模臨床試験の結果から,降圧療法は年齢にかかわらず高齢者の予後を改善させることが示唆されている.一方,高度の虚弱(フレイル)や認知症を有する高血圧患者の前向き臨床試験はなく,疫学研究の結果からこのような患者への降圧療法の恩恵は乏しいことが示唆される.したがって,高齢者高血圧においては個々の患者が有する背景因子を総合的に勘案して降圧療法の適応や降圧目標を設定することが求められ,ときに降圧療法を減弱したり中止したりする必要性が生じることも認識する必要がある. -
がん患者の降圧療法―血管新生阻害薬と薬剤性高血圧
260巻5号(2017);View Description Hide Descriptionがんと循環器疾患の両者を合併する症例が生活習慣の変化と高齢化により増加するとともに,高血圧領域においてがん治療に関連した薬剤性高血圧症が注目されている.近年,がん化学療法の進歩はめざましく,とくに分子標的薬の登場によりがん症例の予後が改善している一方で,従来の殺細胞性抗がん剤では認めなかった心血管系副作用を呈する症例が増加している.なかでも血管新生阻害薬はその有効性から固形がんを中心に広く用いられている分子標的薬であるが,心機能障害,血栓塞栓性,高血圧などの心血管系副作用が出現する.とくに投与開始直後から血圧上昇を高頻度で認めることから,適正ながん治療を施行し継続するために薬剤性高血圧に対する発症早期の治療ならびに管理が必要である.本稿では,血管新生阻害薬により発症する血圧上昇の病態を中心に薬剤性高血圧に対する降圧療法について腫瘍循環器医の見地から概説する. - エビデンスに基づく降圧療法
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血圧はどこまで下げるべきか―SPRINT 以後の世界はどのように変わるのか
260巻5号(2017);View Description Hide DescriptionSPRINT は,収縮期血圧120 mmHg 未満の厳格降圧により心血管イベントが抑制され,高齢者高血圧でも同様の結果が認められることを報告して,われわれに大きな衝撃を与えた.しかし,血圧の測定法が特殊であり,また一次エンドポイントに加えられた心不全がアウトカムを引っ張ったことなどが明らかとなっており,120 mmHg 未満という数字がひとり歩きすることは好ましいことではない.しかし今後,超高齢社会を迎えて心不全発症が増加することが予想されており,高齢者においても忍容性が得られれば厳格な降圧が重要であると思われる.正確な降圧目標についてはあらたなエビデンスの構築がまたれるが,すくなくとも現在より厳格な降圧が求められるであろうと予測される. -
降圧利尿薬の使い方
260巻5号(2017);View Description Hide Description日本人は食塩摂取量が多いことが特徴的であり,降圧治療においては減塩が重要であるが,とくに降圧利尿薬は食塩感受性高血圧や治療抵抗性高血圧患者への使用が推奨される.降圧薬としては一般的にサイアザイド系利尿薬が使用されることが多く,他にループ利尿薬,アルドステロン受容体拮抗薬が使用さている.大規模臨床試験の結果から利尿薬単独でも併用使用でも心血管イベントや脳卒中の抑制効果が期待される.また,アルドステロン受容体拮抗薬は臓器保護作用を示すエビデンスもある.2 型糖尿病を含む代謝への影響は,DIME 試験の結果からも少量使用であれば安全に使用できる.経済的にも安価であるため医療費を削減するうえでも,もっと積極的に考慮すべき降圧薬である. -
β遮断薬の使い方―高血圧専門医の冷淡さに対する心臓専門医の言い分
260巻5号(2017);View Description Hide Description高血圧治療ガイドライン(JSH2014)で降圧療法の第一選択薬から外されたβ遮断薬であるが,循環器疾患に目を向けると,突然死の予防や心不全患者における心機能の改善,また,冠動脈イベント発症の予防など心臓病治療に必要不可欠な薬剤であることには異論がないであろう.高血圧に対する臨床試験ではβ遮断薬は糖尿病惹起作用,臓器障害,心血管病抑制効果で他剤に劣るというのが外されたおもな理由であるが,これらの試験ではアテノロールやメトプロロールなど比較的古い薬剤に基づいた成績であり,β遮断薬が主要降圧薬であることには変わりない.一方,カルベジロールやビソプロロールなどのβ遮断薬は従来慎重投与であった心不全などの病態での有効性が報告されており,現状を反映したエビデンスの構築が求められる. -
レニン-アンジオテンシン系阻害薬の使い方
260巻5号(2017);View Description Hide Descriptionレニン-アンジオテンシン(RA)系阻害薬はRA 系を阻害して血圧を降下させる薬物である.RA 系の律速酵素はレニンであることから,まずレニン阻害薬の開発からはじまり,アンジオテンシンアナログ(AⅡのアミノ酸の一部を改変させることによってAⅡとAT1 受容体の結合を競合的に阻害するペプチド)の臨床応用も試みられた.最初に臨床応用に成功したのはアンジオテンシン変換酵素阻害薬であった.引き続きAT1 受容体阻害薬が開発され,ついにレニン阻害薬の開発にも成功した.現在上市されているRA 系阻害薬は,降圧効果に優れているうえに,降圧を超えた腎保護作用と,心不全患者における心保護作用,糖尿病発症予防作用も有することが証明されており,第一次薬として処方されることも多い.RA 系阻害作用による副作用として高カリウム(K)血症に注意が必要であるが,押しなべて安全性が高く,カルシウム(Ca)拮抗薬とともに処方の多い降圧薬である. -
カルシウム拮抗薬の使い方
260巻5号(2017);View Description Hide DescriptionCa 拮抗薬の作用機序は,直接血管平滑筋を弛緩することであるため,その降圧効果は確実かつ用量依存的であり,内因性の神経内分泌因子の影響を受けることは少ない.血管拡張作用により脳・心・腎などの臓器血流は維持され,高齢者や腎不全患者においても安全に使用することができ,重篤な副作用が起こることは少ない.降圧薬としておもに用いられるのはL 型Ca チャネルを抑制するジヒドロピリジン系のCa 拮抗薬であるが,ジルチアゼム,ベラパミルは心抑制作用により頻脈性不整脈にも使用される.また,N 型,T 型Ca チャネルの抑制効果を併せもつジヒドロピリジン系Ca 拮抗薬には,交感神経活動抑制,蛋白尿減少,アルドステロン分泌抑制などの効果が期待できる.Ca 拮抗薬が積極的な適応となるのは狭心症や脳血管障害に対してであるが,糖尿病や慢性腎臓病など厳格な降圧が必要とされる場合にも併用薬として有用性が高い. -
多剤服用患者における処方整理・減薬・合剤使用のコツ
260巻5号(2017);View Description Hide Description少子高齢化の荒波のなか,病気を治す医療から健康寿命の延伸をめざす地域包括ケアの時代を迎えている.自覚症状に乏しい高血圧の治療においてコンコーダンス医療を実現するためには,必要最小限度で安全かつ効果的な治療が求められている.本稿では,高齢者に多く認められる多剤服用者において,安全に減薬・処方整理を行うための基礎知識を整理し,薬物治療の効果を高める“適塩化”をはじめとする生活習慣修正にも触れるとともに,最近数多く発売されている配合剤を使いこなすための病態把握のポイントについても述べてみたい.さらに,最近話題の血圧変動性のとらえ方や配合剤選択のポイントなどにも言及し,外来,施設,在宅で高齢者高血圧の治療をどのように実践するかについて,開業医の立場から概説する. - 高血圧診療のTOPICS
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原発性アルドステロン症―変わるコンセプト
260巻5号(2017);View Description Hide Description原発性アルドステロン症の沿革 原発性アルドステロン症(primary aldosteronism:PA)は,副腎から自律的に過剰産生されたアルドステロン作用により起こる症候群で,二次性高血圧の原因疾患である.以前はまれな疾患とされていたが,当初考えられていたよりも当疾患が高血圧に占める割合は高く,実際にはその一部しか診断されていないことがわかってきた.PA は高血圧患者の5~10%が合併し,治療抵抗性高血圧のなかではさらに高い割合を占める.近年,PA は,心血管疾患や腎機能障害といった臓器障害の合併症の頻度が,年齢,血圧などが同等の本態性高血圧より有意に高いことがわかり,適切に診断・治療することでこれら合併症の割合は本態性高血圧と同程度まで減らせることから,早期にPA を発見し,治療することが重要となる.2008 年にはじめてアメリカ内分泌学会より診療ガイドラインが策定され2016 年に改訂,日本でも日本内分泌学会から2009 年に診療ガイドライン,2016 年に「わが国のPA 診療に関するコンセンサスステートメント」,日本高血圧学会から2009 年にJSH2009,その後2014 年にJSH2014が発表された.ガイドライン策定や啓発活動により,当疾患の重要性は徐々に浸透してきており,近年のガイドラインの策定ではさらに医療経済的視点,公衆衛生学的視点からも強化されている.PA スクリーニングの浸透に伴い,典型的な当疾患の特徴を示すような症例の割合が相対的に減少し,本態性高血圧と区別が難しい軽症のPA 症例が多く拾われるようになっており,当疾患を的確に診断し,適切な治療を施すことがますます重要となっている.PA の各論について基本的な事柄から詳細まで概観しつつ,最新の知見を盛り込んで解説していく. -
災害と高血圧
260巻5号(2017);View Description Hide Description1995 年に発生した阪神・淡路大震災以降,2004 年の新潟県中越地震,2011 年の東日本大震災,そして2016年に発生した熊本地震と,大災害が起こるたびに,被災者における高血圧や糖尿病など生活習慣病の管理が課題としてクローズアップされた.とくに高血圧に関しては,全国に4,300 万人いると推定されているもっとも多い疾患であること,食事や生活環境,ストレスなどの影響を受けやすいことから,脳卒中や急性心筋梗塞など“災害関連死”ともいえる病態を予防するために,適切な評価と管理が必要である. -
非薬物降圧治療の可能性―RDN,デバイス,遠隔モニタリング
260巻5号(2017);View Description Hide Description利尿薬を含むクラスの異なる3 剤の降圧薬を用いても降圧目標を達成できない治療抵抗性高血圧には,非薬物療法が今後適応になってくる可能性がある.高血圧には自律神経が深く関与しており,局所の自律神経を標的とすることにより,降圧や心血管保護をめざす非薬物療法が臨床応用されはじめた.その代表として,腎デナベーション(catheter-based renal sympathetic denervation:RDN)と頸動脈洞動脈圧受容体刺激療法(baroreflex activation therapy:BAT)がある.さらには,ICT(information and communication technology)を利用した多職種による血圧の遠隔モニタリングによる介入がある.本稿では,これらの非薬物降圧治療の可能性について概説する. -
高血圧ワクチンから薬物予防まで
260巻5号(2017);View Description Hide Description超高齢社会に突入するわが国において社会保障費の増加が問題とされており,そのためには右肩上がりに増加する医療費を,医療の質を保ちながらも抑制していく方策が求められている.高血圧はもっとも多くの国民が罹患している疾患であり,その予防あるいは早期治療介入により生涯治療の薬剤をすこしでも減らすことができれば,医療費削減に大きく寄与できる可能性がある. 本稿では,高血圧に対する新しい治療法の開発として,治療ワクチンの開発および早期治療介入による予防治療という観点での研究を紹介する.
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