医学のあゆみ
Volume 260, Issue 6, 2017
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特集 ウイルスの増殖・病態発現機構に関する最新の知見
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エボラウイルスの増殖・病原性発現機構の最先端の知見
260巻6号(2017);View Description Hide Descriptionエボラウイルスはヒトを含む霊長動物に重篤な出血熱(エボラ出血熱またはエボラウイルス病)を引き起こす.エボラ出血熱の発生は散発的でおもにアフリカに限局しているが,2013 年12 月にギニアで発生したエボラ出血熱は過去に類をみない大規模な流行となり,西アフリカ諸国にとどまらず欧米においても感染者を出し,世界的な問題となった.この流行を契機に,エボラウイルスに対するワクチンおよび治療薬の開発研究が加速されたが,いまだ実用化には至っていない.また,本ウイルスの病原性発現メカニズムにも未解明な部分が多く残されている.近年,ウイルス増殖過程におけるエボラウイルス蛋白質のあらたな機能,およびウイルス蛋白質と宿主因子との相互作用が明らかになってきた.本稿では,エボラウイルスの増殖および病原性発現に関する近年の研究を中心に紹介する. -
インフルエンザウイルスの抗原変異とその予測
260巻6号(2017);View Description Hide Description毎年冬に流行する季節性インフルエンザは,高齢者や乳幼児で重症化しやすく,多数の犠牲者を出す.季節性インフルエンザウイルスの抗原は頻繁に変異するが,つぎのインフルエンザシーズンにおいて,どのような抗原変異株が流行するのかを予測することは現行の技術では非常に困難である.著者らは最近,人工的に作出した多様な抗原性をもつ季節性ウイルスのライブラリーから,さまざまな抗原変異株を単離し,それらの遺伝子性状および抗原性状を分析することで,将来出現する季節性ウイルスの抗原変異を予測する技術を開発した.今回著者らが開発した予測技術と従来の予測法を組み合わせることによって,これまでより精度の高い抗原変異予測が可能になると考えられる. -
ヘルペスウイルスの増殖・病態発現機構の最先端の知見
260巻6号(2017);View Description Hide Descriptionヒトヘルペスウイルス(HHV)は初感染の後,大部分が無症候の潜伏感染や持続感染といった感染様式に移行し,人類と一種の共存状態を形成する.宿主免疫の低下などにより,この共存状態が破綻した際,HHV は再活性化しヒトに病態を引き起こす.抗ウイルス剤がもっとも早く適応されたウイルス群であるため,HHV感染症は制御されていると思われがちであるが,抗ウイルス剤の効果は限定的である.また,現代医学ではHHV の排除は不可能であり,高い感染率と繰り返される回帰発症のため,HHV は静かに,多くの人びとを苦しめている.本稿では,代表的HHV である単純ヘルペスウイルス(HSV)のウイルス増殖機構と病態発現機構に関する最新知見を紹介する. -
エンテロウイルスと受容体についての最新の理解
260巻6号(2017);View Description Hide Descriptionエンテロウイルスは直径30 nm ほどの小さなRNA ウイルスである.代表格であるポリオウイルスが使用する受容体(ウイルスが細胞侵入のために結合する細胞表面分子)は1 種類のみであり,その受容体に結合したポリオウイルスは構造変化を起こしゲノムRNA を放出する.受容体が1 種類のみというポリオウイルスは,エンテロウイルス属のなかでは異端なのかもしれない.B 群コクサッキーウイルスやエンテロウイルス71 型(EV71)は2 種類以上の受容体を使用することが明らかとなっている.これらの受容体にはウイルス構造変化を誘導するものと誘導しないものとがあり,ポリオウイルス受容体よりも複雑なメカニズムで感染・病原性発現に関与していると推察される. -
AIDSウイルスとヒトの進化的軍拡競争―ウイルス蛋白質とヒト蛋白質の相互作用からみえてくる進化的せめぎあい
260巻6号(2017);View Description Hide Descriptionヒト免疫不全ウイルスⅠ型(HIV-1)はレトロウイルスの一種であり,後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因ウイルスとして周知されている.近年の細胞生物学的研究から,ヒトはHIV-1 に無防備なわけではなく,その複製を強力に抑制する蛋白質を有していることが明らかとなっている.そのような蛋白質は制限因子(restriction factor),あるいは内因性免疫(intrinsic immunity)と称され,その代表例としてヒトAPOBEC3ファミリー蛋白質が知られている.細胞性シチジン脱アミノ化酵素であるAPOBEC3 蛋白質は,放出されるウイルス粒子に取り込まれ,HIV-1 の複製を酵素活性依存的に強力に抑制する.一方,HIV-1 はviral infectivity factor(Vif)という蛋白質をコードしており,APOBEC3 蛋白質をユビキチン/プロテアソーム経路依存的に分解することにより,その抗ウイルス効果を拮抗阻害する.ヒトは7 つのAPOBEC3 遺伝子を保有しており,うち3 つが強力な抗HIV-1 活性を示す.加えて興味深いことに,ひとつのAPOBEC3 遺伝子には多型があることが明らかとなっている.本稿ではAPOBEC3 とVif の相互作用について概説するとともに,そこからみえてきた,ヒトとAIDSウイルス(あるいは哺乳類とレトロウイルス)の進化的なせめぎあいを紹介する. -
C型肝炎ウイルスの増殖・病原性発現機構の最先端の知見
260巻6号(2017);View Description Hide DescriptionC 型肝炎ウイルス(HCV)の宿主域は狭く,肝に高い親和性を示す.患者血清由来のHCV を増殖できる培養系の開発は困難をきわめていたが,ウイルスゲノムが自己複製するレプリコン細胞,特定の細胞株で増殖可能な実験室株,そして病原性を解析できるトランスジェニックマウスが確立され,HCV の増殖性や病原性発現機構が徐々に明らかになってきた.これまでにHCV の感染増殖に関与する多くの宿主因子が報告されているが,肝特異的に発現しているmiR-122 とアポリポ蛋白質はそれぞれウイルスゲノムの複製と粒子形成に関与し,HCV 感染の肝指向性を規定している.またコア蛋白質を発現するトランスジェニックマウスはインスリン抵抗性や脂肪肝を経て肝細胞癌を発症するが,コア蛋白質の成熟に必須なプロテアーゼであるSPP を阻害するとコア蛋白質の病原性が消失することから,SPP 阻害剤はあらたな抗HCV 薬の標的になる可能性がある. -
ムンプスウイルスの糖鎖受容体―ムンプスウイルスのHN蛋白質と糖鎖との相互作用解析
260巻6号(2017);View Description Hide Descriptionムンプスウイルスは気道から侵入し全身のさまざまな組織を標的として感染する.なかでも腺組織や神経系に高い親和性をもち,唾液腺炎や生殖腺炎,難聴,脳炎といった特徴的な臨床像を呈する.一般的に,ウイルスと宿主細胞側に存在する受容体との結合が,ウイルスの組織への親和性や病原性を決定づける重要な因子のひとつである.そこで著者らはムンプスウイルスと宿主細胞上の受容体との相互作用に着目し,ムンプスウイルスの組織特異性を解明することをめざして研究を行っている.本稿では,著者らの研究で明らかになったムンプスウイルスのhemagglutinin-neuraminidase(HN)蛋白質の構造と,受容体である糖鎖分子との相互作用を中心に,糖鎖を受容体とするその他のいくつかのウイルスについての知見も併せて紹介する. -
ジカウイルスの世界的な流行と最近の知見
260巻6号(2017);View Description Hide Descriptionジカ熱は熱と痛み,発疹などを伴う蚊媒介性ウイルス感染症である.近年,東南アジア,南太平洋,南米の熱帯地域において流行が急速に拡大しているとともに,流行のない地域においても輸入症例が上昇傾向にある.2015 年,ブラジルでは約130 万人がジカウイルスに感染したと推測された.ジカ熱の流行に伴い,ブラジルでは小頭症の新生児が急増していることが報告され,もっとも多い北東地域では通常より約75 倍の小頭症症例が報告された.さらに,小頭症の胎児の脳組織にウイルス遺伝子が検出され,ジカウイルス感染と小頭症や発達障害との関連が強まり,世界保健機関(WHO)は2016 年2 月に国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern:PHEIC)を宣言した1).しかし,ジカ熱に対する有効なワクチンと治療薬は開発されておらず,もっとも有効な対策は蚊に刺されないことである.日本においては2013 年にはじめての輸入症例が確認されて以降,2016 年10 月現在,11 症例が報告されている2).日本では近年,デング熱などの蚊媒介性感染症の輸入症例が年間数百症例も報告されており,とくに蚊が活発に活動する夏季においては,早期発見や蚊の対策など国内侵入対策が重要である.
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連載
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- グローバル感染症最前線-NTDs の先へ 18
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GHIT Fund―日本発の官民パートナーシップによるグローバルヘルスへの挑戦
260巻6号(2017);View Description Hide Description人間と感染症の戦いはまだまだけっして終わっていない.日本が有する研究開発能力を感染症対策のために活かすことは,国際貢献のみならず安全保障の観点からもきわめて重要といえる.2016 年,日本は議長国としてG7 伊勢志摩サミットを開催し,保健分野では感染症対策の強化や創薬開発のさらなる推進を具体的貢献策として発表した.グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)は,外務省,厚生労働省,製薬企業,ビル&メリンダ・ゲイツ財団などの共同出資によって2013 年に設立された,グローバルヘルス分野の製品開発に特化した非営利・国際機関である.GHIT Fund は途上国で蔓延する感染症に対する治療薬,ワクチン,診断薬の研究開発を支援しており,早期研究から臨床試験段階にわたって60 件以上のプロジェクトに対してこれまで投資を行っている.今後,日本が感染症に対抗すべく創薬開発をさらに推進し,保健医療の面から国際的貢献を果たしていく役割はきわめて大きい. - 性差医学・医療の進歩と臨床展開 4
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遺伝的制御と内分泌制御による性分化・性差構築の制御
260巻6号(2017);View Description Hide Description有性生殖によって世代を継ぐ生物には,多彩で明瞭な性差が存在する.それらの生物は雌雄で異なる性染色体を有し,この性染色体上に位置する遺伝子が性差の構築に重要な役割を果たしている.なかでも性決定遺伝子の役割は重要で,性腺の性を決定し,その結果として産生する性ホルモンを規定することから,性差構築のマスター遺伝子と考えられてきた.一方,性染色体には性決定遺伝子以外にも多くの遺伝子がコードされており,最近ではヒストン修飾にかかわる遺伝子の役割が議論されはじめた.これらの遺伝子は多くの細胞で発現し,クロマチン構造に性差を誘導することで,遺伝子発現に性差をもたらすと考えられている.個体の性差構築を理解するにはこのあらたな遺伝的制御系と性ホルモンによる内分泌制御系の相互作用の検討が不可欠である.
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TOPICS
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- 呼吸器内科学
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- 救急・集中治療医学
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- 糖尿病・内分泌代謝学
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FORUM
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- パリから見えるこの世界 53
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- ゲノム医療時代の遺伝子関連検査の現状と展望 4
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