Volume 260,
Issue 11,
2017
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特集 ゲノム医療時代に突入した遺伝性腫瘍診療
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医学のあゆみ 260巻11号, 941-942 (2017);
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【リファレンス情報とその活用の展望】
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医学のあゆみ 260巻11号, 943-948 (2017);
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がんはゲノムの疾病であり,環境変異原の関与に加えて遺伝的素因が発症に重要な役割を果たしている.Knudson の2 ヒット理論以来,がん抑制遺伝子の解明が進み,現在では多くの遺伝性腫瘍疾患の原因遺伝子が同定されている.次世代シークエンサーの登場によってこれまで実施が困難であった,大規模なヒト全ゲノム解読が可能になり,多人数集団の全ゲノム情報が集積されはじめた.日本でも東日本大震災後の被災地での医療復興をめざし,東北メディカル・メガバンク計画が立ちあがり,日本人集団のゲノム配列が2,000 人規模で公開されている(全ゲノムリファレンスパネル).これらの情報を分析することで,家族性腫瘍原因遺伝子の遺伝的多様体の正確なゲノム座標や頻度が明らかとなり,臨床的意義不明の多様体の意義が推定可能となってきている.本稿では,日本人における参照ゲノムパネルの情報から,家族性腫瘍遺伝子の現況について概説する.
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医学のあゆみ 260巻11号, 949-953 (2017);
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ゲノム医療は,臨床的インパクトのみならず,その研究開発における学術的・経済的インパクトも大きな分野である.アメリカでは遺伝性腫瘍の遺伝子診断,がんの分子標的薬に対するコンパニオン診断薬の開発などの分野でゲノム医療の臨床活用がすでにはじまっている.また,イギリスでも10 万人ゲノム計画が2013 年からはじまり,医療・製薬,その他の関連企業と連携して,個々人のゲノム情報を医療やヘルスケアシステムの本流に導入しようとしている.今後数年の間に,ゲノム医療の対象疾患・病態などは順次拡大し,より早期の医療介入,予防・先制医療に軸足が移っていくものと推測される.ゲノム医療の社会実装という観点からは,倫理的配慮,大規模データの情報処理・品質管理,人材育成など検討すべき課題が多い.そうしたなか,わが国では“臨床ゲノム情報統合データベース整備事業”が2016 年度から開始される運びとなり,本稿ではその目標,取組みなどを概説する.
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医学のあゆみ 260巻11号, 955-960 (2017);
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次世代シーケンサー(NGS)の臨床応用における障害のひとつに,専門のオペレーターへのデータ解析依頼があげられる.弊社csDAI はおもにlinux 上で動作しているGATK Best Practices に準拠したNGS データ解析パイプラインをWindows PC 上に移植し,quality control 解析,変異call,アノテーション付与を自動的に行うGUI 環境を提供している.MiSeq 規模のターゲットシーケンシング(TS)データであれば普通のデスクトップPC でも半日程度で解析可能であり,臨床検査の現場からデータを外部にもち出すことなく,またインターネット非接続環境でデータ解析を行うことが可能になる.
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【偶発的・二次的所見の展望】
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医学のあゆみ 260巻11号, 961-966 (2017);
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次世代シークエンサーを用いたマルチジーンパネル検査,全エクソーム解析(WES),全ゲノム解析(WGS)が実際の医療に急速に統合され,ゲノム医療を受療できる患者が増えていくことが予想される.ゲノム医療では大量の遺伝情報を取得することが可能になるため,本来目的としていた所見以外の所見,偶発的所見(IF)と二次的所見(SF)が出てくることがある.たとえば,患者のがんに効果的に利く抗がん剤選択を目的に検査をしたところ,遺伝性腫瘍の原因となる遺伝子(生殖細胞系列)に病気につながるバリアントがみつかるということも想定されうる.臨床的有用性のあるIF/SF は返却を申し出るべきと考えられると同時に,受検者の状況や選好に合わせた結果の返却を注意深く進めなければならない.検査を提供する側がどこまでの解析結果を責任もって返却できるか,受検者が何をどこまで知りたいか,受検者が結果を受け止められる状況にあるかを考え,個々の検査実施のなかで,どこまでの結果を返却するかを決定していくことが大切であろう.
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医学のあゆみ 260巻11号, 967-972 (2017);
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近年,ゲノム解析機器のめざましい進歩により,ゲノム情報を活用した医療が急速に進展している.その恩恵とともに,本来の目的とは異なる二次的所見(SF)の結果開示というあらたな課題も生じており,国内外でその対応策について議論が行われている.静岡県立静岡がんセンター(SCC)では近未来のがんゲノム医療のシミュレーションとして,当院で手術を受けたがん患者を対象に,新しいがん診断,治療技術の開発を目的としたプロジェクトHOPE(High-tech Omics-based Patient Evaluation for Cancer Therapy)という臨床ゲノム研究を進めている.さらに,希望者にはアメリカ臨床遺伝学会(ACMG)のガイドラインに準じた56 遺伝子(24 疾患)と,遺伝性腫瘍関連遺伝子14 遺伝子について,十分な倫理的配慮のうえ遺伝カウンセリングを行い,結果を被験者へ返却している.これまで研究に継続的に参加したがん患者の約66%は,自身の遺伝子解析結果を知りたいと開示を希望し,研究参加に同意したがん患者の約1%に遺伝性腫瘍の生殖細胞系列変異が認められた.臨床ゲノム研究における二次的所見の結果開示は国内では前例のない試みであり,実際に結果開示を行うなかではじめて見えてくる課題も多い.今後もこれらの経験を活かし,患者と家族にとって最善な近未来のがんゲノム医療に向けた医療体制づくりを進めていきたい.
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医学のあゆみ 260巻11号, 973-976 (2017);
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小児がんは,全年代に発生するがんの1%にも満たない希少がんである.しかし,最近の網羅的遺伝子解析技術の発達およびその臨床応用に伴い,小児がん患者,とくに難治の患者から遺伝性腫瘍の患者が見出されることが報告されている.遺伝性腫瘍のなかでもっとも重篤な疾患のひとつであるLi-Fraumeni 症候群(LFS)は,患者本人のみならずその家族への影響を鑑みると,見落としてはならない疾患であり,その診断には,“TP53 病的バリアントのスクリーニングの基準”を熟知することによってLFS を疑うことが第一である.本稿ではLFS コンポーネント腫瘍である乳がん,軟部肉腫,脳腫瘍,副腎皮質がん,骨肉腫の特徴と,LFS に比較的特異的ながん種である悪性葉状腫瘍,退形成亜型横紋筋肉腫,脈絡叢がん,SHH 型髄芽腫,low-hypodiploidALL を中心に概説する.
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【持続可能な医療実装の展望】
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医学のあゆみ 260巻11号, 977-981 (2017);
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癌は遺伝要因,環境要因,生活習慣の組合せによって発症すると考えられているが,一部の癌ではその原因のほとんどを遺伝要因が占めている.家系内に共通の癌が多発性にみられる場合を家族性腫瘍とよび,家族性腫瘍のなかでも原因遺伝子が明らかにされているものが遺伝性腫瘍である.1980 年代以降,多くの遺伝性腫瘍の原因遺伝子が明らかとなり,患者や家系内血縁者の遺伝子診断を行うことにより臨床現場に大きな影響をもたらしてきた.しかし,遺伝子診断は一部の研究者に依存せざるをえず,研究という形で一部の施設でのみ実施可能である.そのようななかで,甲状腺髄様癌にするRET 遺伝学的検査と,網膜芽細胞腫に対するRB遺伝学的検査が一部の施設で先進医療として認可され,ついに2016 年4 月に両遺伝学的検査が保険適応として認可されるに至った.
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医学のあゆみ 260巻11号, 982-988 (2017);
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がんのゲノム医療のおもな目的は,腫瘍組織のゲノム情報からactionable な遺伝子変異を見出し,分子標的治療の適応を判定することであるが,腫瘍組織の解析に伴い,偶発的所見として生殖細胞系列変異が認められる場合がある.一部のがんは遺伝性腫瘍として発症する場合があり,原因遺伝子の生殖細胞系列変異の検出は分子標的治療の適応を判定するコンパニオン診断として利用される.未発症血縁者の遺伝子検査は将来の発症リスクの推定と予防的介入の対象となるので,遺伝子検査の実施にあたっては遺伝カウンセリングの提供が必要となる.全国のがん診療連携拠点病院で遺伝性腫瘍を専門とする遺伝カウンセラーおよび臨床遺伝専門医は不足している.次世代シークエンサーを駆使するゲノム医療の実現が期待されるが,人材育成も含め現在のがん医療においてただちに均てん化が可能な段階ではなく,当面は専門医療機関に集約化して実施されるべきであることが指摘されている.
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連載
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グローバル感染症最前線-NTDs の先へ 22(最終回)
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医学のあゆみ 260巻11号, 994-1002 (2017);
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グローバルヘルスは大きな転機を迎えている.持続可能な開発目標(SDGs)に向けた動きが加速し,テロ,移民・難民問題,気候変動など,保健分野と競合するアジェンダも注目されている.近年の世界的な高齢化や疾病構造の変化に伴い,ユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)を中心とした強靱で持続可能な保健システムの実現がグローバルヘルス政策の議論の中心になった.保健関連の開発援助資金が頭打ちとなるなかで今後大切なのは,民間も含めて途上国内のリソースをいかに活用するかを途上国と一緒に考えていくことである.こうした流れは日本にとって追い風となっている.UHC のさきがけである1961 年の皆保険導入以来,比較的低コストで良好な健康指標を達成してきた日本の経験と知識,そして低成長・少子高齢社会のなかで将来の保健システムをどう再構築していくのか,という2 つの側面から,日本の保健医療は世界から注目されている.いままさにグローバルヘルスで日本の時代がやってきたのだ.それは同時に,開発援助のみならず,国家安全保障および経済成長戦略の観点からも国益に結びつく.2016 年のG7 伊勢志摩サミットは日本が主導してグローバルヘルスの課題を前進させる重要な機会となった.日本が推進してきたUHC によって,将来の公衆衛生上の緊急事態にも耐えうる強靱な保健システムの構築に資するというメッセージを世界に伝え,今後のグローバルヘルス政策へ大きな影響を与えるものとなった.
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性差医学・医療の進歩と臨床展開 8
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医学のあゆみ 260巻11号, 1003-1009 (2017);
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消化器疾患でも頻度,成因,病態,予後などに性差が認められる.食道癌,胃癌,肝癌,大腸癌はいずれも男性に多く,ときに予後・再発にも性差が影響する.過敏性大腸症候群,機能性胃腸症は女性に多く月経周期と関連が示唆される.ウイルス性肝疾患では病態の進展とともに男性の比率が高くなる一方,治療においてはインターフェロンを基盤とした治療において男性がより有効であった.しかし,治療効果の違いも,direct anti-virus agen(t DAA)の出現により男女差はなくなった.自己免疫性肝炎や原発性胆汁性肝硬変は圧倒的に女性に多い.非アルコール性脂肪性肝疾患は男性では30 代がピークであるが,女性では閉経後は急増し約20~25%となり,閉経・性ホルモンとの関連が示唆される.アルコール性肝障害は女性が男性に比較し少ない飲酒量,短期間で肝障害をきたす.胆囊結石保有率は女性に多く胆囊癌も女性に多いが,胆管癌は男性に多い.急性膵炎,慢性膵炎はともに男性に多く,成因の第一位は男性がアルコール,女性では胆石性である.膵癌には性差がみられない.膵囊胞性腫瘍のうち漿液性囊胞腫瘍と粘液性囊胞腫瘍は女性に多く,膵管内乳頭粘液腫瘍は男性に多い.
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TOPICS
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免疫学
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医学のあゆみ 260巻11号, 989-990 (2017);
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臨床検査医学
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医学のあゆみ 260巻11号, 991-992 (2017);
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形成外科学
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医学のあゆみ 260巻11号, 992-993 (2017);
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FORUM
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ゲノム医療時代の遺伝子関連検査の現状と展望 8
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医学のあゆみ 260巻11号, 1011-1015 (2017);
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書評
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医学のあゆみ 260巻11号, 1016-1017 (2017);
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