Volume 261,
Issue 5,
2017
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【4月第5土曜特集】 乳癌のすべて
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医学のあゆみ 261巻5号, 351-351 (2017);
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疫学
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医学のあゆみ 261巻5号, 355-360 (2017);
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乳がんは,日本人女性のがん罹患のなかで最多であり,その罹患率は一貫して増加している.死亡率も同様に増加傾向を示していたが,2008 年以降は横ばいとなっており,とくに,40 歳代から50 歳代前半では2000 年ごろより死亡率の低下がみられる.罹患率増加の背景には,月経や出産に関連する要因などの確立したリスク要因の保有状況の変化や近年のがん検診受診率の増加の影響が想定される.また死亡率が2008 年以降には横ばいとなった点については,一般に検診による早期発見・早期治療や治療の進歩の影響が想定されるが,年齢階級別にみて死亡率の動向が異なる(40~54 歳は減少傾向であるが60 歳以上では増加傾向)ことから解釈は容易でなく,さらなる検討が必要である.欧米においてはエストロゲン受容体陽性乳がんが増加し,陰性乳がんが減少しているというデータもあり,日本人におけるサブタイプ別の動向の把握が重要な課題である.
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検診の最新情報
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医学のあゆみ 261巻5号, 363-367 (2017);
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マンモグラフィによる乳がん検診は死亡率減少効果の証明された唯一の検診法であるが,若年者や高濃度乳房(dense breast)では診断精度が低下し不利益である偽陽性が増えるなどの問題点が指摘されている.超音波検査は乳腺濃度に影響を受けずに乳房腫瘤を描出できるため,マンモグラフィの弱点を補えるモダリティとして期待されている.Japan Strategic Anti-cancer Randomized Tria(l J-START)は超音波検査の乳がん検診での有効性を検証する目的で行われたランダム化比較試験で,初期の結果としてがん発見率の上昇,感度の上昇,中間期がんの減少などが報告されている.超音波の追加で発見されたがんの多くは腫瘤径の小さい浸潤がんであり,将来の死亡率減少効果につながる可能性が期待できる結果であった.一方,超音波の追加によって要精密検査(要精検)率の上昇,特異度の低下,侵襲的検査の増加などの不利益の増加も明らかとなっており,超音波追加の総合的な有用性に関しての慎重な考察が必要である.
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医学のあゆみ 261巻5号, 368-372 (2017);
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欧米ではハイリスクグループにおけるMRI スクリーニングに関して多くの研究がなされ,MRI の感度が圧倒的に高いことが報告されてきた.このような現状を踏まえ,2012 年に日本乳癌検診学会から『乳がん発症ハイリスクグループに対する乳房MRI スクリーニングに関するガイドライン』が発表された.これから増えることになる乳房MRI スクリーニングの精度管理を念頭に入れたものである.また,厚生労働科学研究費を用いた「わが国における遺伝性乳癌卵巣癌の臨床遺伝学的特徴の解明と遺伝子情報を用いた生命予後の改善に関する研究」が行われた.そのなかには,国内初の乳房MRI 前向き試験「BRCA1/2 変異陽性者のMRI 検診の有用性の検討」が組み込まれており,MRI を契機に発見された乳癌が報告された.今回,日本でも動き出した「乳癌ハイリスクグループに対するMRI スクリーニング」の意義について,これまでの経緯と今後の展望を踏まえて言及したい.
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医学のあゆみ 261巻5号, 373-376 (2017);
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マンモグラフィ(MG)と超音波検査(US)が併用された乳がん検診では,読影において総合判定を行うことが推奨されている.本稿ではその方法を解説する.総合判定により乳がん検診の感度を落とさずに,特異度を上昇させることができる.総合判定において,MG では見えないがUS で病変がある場合,MGで境界明瞭平滑な腫瘤や局所的非対称性陰影(FAD)が認められた場合にはUS 所見が優先されることが多い.MG で浸潤の可能性のある腫瘤,石灰化,明らかな構築の乱れが認められた場合にはMG の所見が優先されることが多い.
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診断・治療の進歩
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医学のあゆみ 261巻5号, 379-384 (2017);
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マンモグラフィ(MMG)は検診で乳癌死亡率の低下を証明したモダリティである.しかし,MMG 上,背景乳房の濃度が高い場合,“dense breast”と称され,乳癌が乳腺に隠れて検出能が落ちてしまう問題がある.また乳房の濃度の上昇とともに乳癌の罹患リスクが上昇することも知られており,dense breastの検診をいかに行うべきかというのは大きな問題である.大規模なJ-START の結果で40 歳代女性に対し乳癌検出率の向上が示された超音波,再現性・技師技量に左右されない標準化を実現した自動乳房超音波,短時間撮影法でも高い乳癌検出能を示した造影乳房MRI,要精査率を低下させるトモシンセシス,高精細画像により小さな乳癌の検出も可能とする乳房専用PET,血流のある腫瘍を際立たせることで検出率の改善を図る造影MMG など,種々のあらたな画像検査が登場している.いずれの検査もMMG と比較して高濃度乳房に対する感度の向上を示しているが,どの検査が,よりよいかということについては,これからの課題である.
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医学のあゆみ 261巻5号, 385-390 (2017);
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オンコプラスティックサージャリーは根治性と整容性の両立をめざした手術で,乳房温存術への応用にはvolume displacement technique とvolume replacement technique がある.乳房内組織のみで乳房を形成するvolume displacement technique では乳頭乳輪を偏位させないことが重要であり,放射状の皮膚切除や乳頭乳輪の位置を修正する手技などが有用である.乳房外組織を利用するvolume displacementtechnique は下部領域乳癌が適応となることが多い.広背筋皮弁や穿通枝皮弁はドナーサイトの負担が大きいが,比較的ドナーサイトの負担が少ないvolume replacement technique としては乳房下溝線部脂肪筋膜弁,crescent technique,abdominal advancement flap などがある.術式選択にあたっては,切除部位,切除量,乳房の形状や性質,左右のバランスとともに年齢や予後,手術以外の乳癌治療とのバランスも考慮すべきである.
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医学のあゆみ 261巻5号, 391-395 (2017);
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ランダム化比較試験のメタ解析により,腋窩リンパ節郭清(ALND;胸筋合併乳房切除術の一連の手技オンコプラスティックサージャリーは根治性と整容性の両立をめざした手術で,乳房温存術への応用にはvolume displacement technique とvolume replacement technique がある.乳房内組織のみで乳房を形成するvolume displacement technique では乳頭乳輪を偏位させないことが重要であり,放射状の皮膚切除や乳頭乳輪の位置を修正する手技などが有用である.乳房外組織を利用するvolume displacementtechnique は下部領域乳癌が適応となることが多い.広背筋皮弁や穿通枝皮弁はドナーサイトの負担が大きいが,比較的ドナーサイトの負担が少ないvolume replacement technique としては乳房下溝線部脂肪筋膜弁,crescent technique,abdominal advancement flap などがある.術式選択にあたっては,切除部位,切除量,乳房の形状や性質,左右のバランスとともに年齢や予後,手術以外の乳癌治療とのバランスも考慮すべきである.ランダム化比較試験のメタ解析により,腋窩リンパ節郭清(ALND;胸筋合併乳房切除術の一連の手技として施行)はALND 非施行(単純乳房切除術)と比較して,局所再発率を低下させ,よって生存率の向上に寄与すると考えられる.ただし,薬物療法や放射線治療によりALND の有効性は修正される.センチネルリンパ節生検(SLNB)はアイソトープ法を用いるとSLN 同定率が99%と良好である.SLN をスキップしてnon-SLN に転移する偽陰性率は10%弱である.しかし,ALND の省略後の腋窩再発率はSLN 転移陰性,SLN 微小転移,SLN マクロ転移のいずれであっても低い.ランダム化比較試験よりSLN 転移陰性ならばALND の省略は標準的治療である.さらに,SLN 転移陽性でもいくつかの条件を満たせば,ALND の省略は標準的治療である.その条件として重要なものは,SLN の微小転移(2 mm 以下)であること,または,領域(腋窩)リンパ節への放射線治療が行われることであろう.
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医学のあゆみ 261巻5号, 396-400 (2017);
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近年,マンモグラフィ検診の普及によって,欧米諸国ばかりではなく日本においても非浸潤性乳管癌(DCIS)の発見数が著しく増加している.そのなかでマンモグラフィ検診における過剰診断(over diagnosis)が重大な問題として取り上げられている.増加したDCIS の患者に対して,いままで通りの手術治療を行うことが適切なのかどうかの議論も起こっている.イギリスでは癌細胞のnuclear grade によってDCIS をlow risk とhigh risk に分けて,low risk に対してはactive monitoring を行うという前向きの臨床研究が始まっている.本稿ではDCIS のgrade 判定の重要性と今後のDCIS における非手術も含めた治療方針の展望について述べることとする.
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医学のあゆみ 261巻5号, 401-404 (2017);
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非浸潤性乳管癌(DCIS)は乳管上皮がモノクローナルな増殖を認め,乳管基底膜外への浸潤を認めない乳房の病変であり,検診の広がりによって,DCIS の罹患率は大きく増加している.これまでDCIS に対しては浸潤癌のprecursor と考えられ,手術,放射線治療,内分泌療法が行われてきたが,その多くが予後良好であり過剰治療の可能性を指摘されている.一方high-grade DCIS や40 歳未満の若年者は予後不良である.最近の研究でDCIS は単一の疾患でなく,形態的,免疫組織学的,生物学的にも異なるheterogeneousな疾患であることがわかってきている.今後は臨床的に意義のあるDCIS の分類を確立し,lowgradeDCIS に対するactive surveillance や非手術などの最小限の侵襲の局所療法やhigh-grade DCIS に対するあらたな治療開発など,バイオロジーに基づいた治療戦略が望まれる.
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医学のあゆみ 261巻5号, 405-409 (2017);
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術前化学療法は乳癌のサブタイプにより治療効果および予後が異なることが明らかになり,その意義もサブタイプ別で異なる.病理学的完全消失(pCR)となった場合,HER2 陽性乳癌やトリプルネガティブ乳癌においては独立した予後予測因子となる一方,ER 陽性HER2 陰性乳癌ではpCR 率も低く,予後に影響しないと報告されている.しかしER 陽性乳癌であっても術式のダウングレードが期待できる.術前化学療法を行うと,浸潤癌および周囲の乳管内成分の広がりを診断することは困難になることがあり,残存病変の評価はマンモグラフィ(MMG),磁気共鳴画像(MRI),超音波(US)の所見を総合的に評価し判断することが重要である.さらには原発腫瘍のサブタイプも考慮したうえで,治療効果の評価,切除範囲および術式の判断を決定する必要がある.今後,術前評価の正診率の向上により,乳房手術,腋窩手術の省略が期待される.
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医学のあゆみ 261巻5号, 410-416 (2017);
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Liquid biopsy は,癌における空間的・時間的不均質性に対応する手段として注目されている.単に組織生検の代用として低侵襲であるという点のみでなく,全身の状態を反映しうるという点で,組織生検の限界を克服するための手段としても期待されている.その代表であるcfDNA やctDNA は特定の遺伝子のメチル化を用いることにより,早期発見や治療モニタリングに応用されており,遺伝子増幅・遺伝子変異を用いることにより,治療効果予測のほか,治療耐性機序の解明や耐性克服へ向けて応用されている.一方,CTC はその数のみでなく生物学的な解析が進み,癌の転移過程の可視化や転移機序の解明に貢献している.さらに体外で培養することにより,薬剤感受性や薬剤開発に応用する研究が進んでいる.今日の臨床試験は,こうしたliquid biopsy を試験デザインの中心に組み込む動きが加速しており,薬剤開発のみでなく,診断・治療を組み入れた治療戦略全体を構築する手段として位置づけられている.
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医学のあゆみ 261巻5号, 417-421 (2017);
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乳がんでは治療方針を決定する際にバイオマーカーを検索することが重要である.血液中を循環する腫瘍由来の物質をとらえることで,がんの診断やバイオマーカーの検索,治療経過のモニタリングなどを行う試みがリキッドバイオプシーである.血液中のマイクロRNA(miRNA)は腫瘍と宿主の関係をリアルタイムに反映していると考えられている.miRNA はさまざまな細胞過程にかかわっており,臨床応用が期待されている.現在,血液中miRNA を早期診断マーカーとして実用化することをめざし,13 種のがんを対象とした大規模な研究が国立がん研究センター,国立長寿医療研究センターをはじめとした産官学連携により進められている.本プロジェクトからは,乳がんの早期診断マーカーとして5 つのmiRNAを組み合わせ,乳がん患者を健常人と判別できることが報告された.治療への応用としては,miR-27bやmiR-34 をミミックすることが試みられている.
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医学のあゆみ 261巻5号, 423-428 (2017);
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遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)の原因遺伝子BRCA1・2 はゲノムの安定性維持に関与し,その機能不全を伴う乳がん・卵巣がんに対しPARP 阻害薬やDNA 障害型抗がん剤による合成致死療法が開発されている.また,漿液性卵巣がんの全ゲノム解析で約50%に相同組換え修復(HR)関連遺伝子の変異が検出され,PARP 阻害薬や白金製剤などによる治療が有効である可能性が示され,また,臨床試験の結果もすでに報告された.しかし,BRCA1・2 遺伝子変異陽性にもPARP 阻害薬の耐性症例が存在し,そのメカニズムも報告されている.そこで,homologous recombination deficiency(HRD) score など,感受性例の選定指標の開発が重要となる.一方,HR 機能が維持されているがんに対し,HR 阻害薬によりがん細胞に修復機能不全を誘導し,ついでPARP 阻害薬または白金製剤により治療する新規がん治療法の開発も進み,期待されている.
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医学のあゆみ 261巻5号, 429-432 (2017);
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遺伝子変異によって発症する乳癌は,全体の約5~10%といわれている.乳癌の診断時に家族歴などから遺伝性乳癌のリスクを評価し,それらの情報提供を行うようになってきた.遺伝性乳癌の代表的なものに,遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)があり,あらたに発症しうる乳癌・卵巣癌へのリスク低減を含めた治療戦略を考えることは重要である.リスク低減の方法としては,①サーベイランス,②手術療法,③薬物療法,に分けられる.本稿では乳腺外科の立場から,HBOC 診療のなかでも手術療法に重点をおいて最新のエビデンスに基づき報告する.
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医学のあゆみ 261巻5号, 433-437 (2017);
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乳癌領域における分子イメージングで,現在のところ実際に臨床応用されている検査はFDG-PET である.FDG-PET は糖代謝の亢進した癌細胞や癌組織を画像化するので,乳癌病巣の原発巣や遠隔転移巣の描出に優れるが,腺腫などの良性病変や炎症組織にも集積するために特異度は低い.FES-PET やHER2-PET などの乳癌に特異性のある腫瘍親和性薬剤も研究され,臨床応用が期待されている.一方,乳癌領域に限定されないが,光による分子イメージングが現在大きく進展を遂げており,臨床応用されつつある.さらに近赤外光を使用した分子イメージング技術の進化形である近赤外光線免疫療法は「正常の細胞を傷害せずに癌細胞のみを殺傷する」という癌治療の究極の課題を光イメージングの技術を応用することで実現可能としつつある.またMRI を使用した分子イメージングも研究中であり,次世代型のGd 錯体造影剤を使用したナノミセル抗癌造影剤も開発されているが,近い将来にMRI 画像によるコンパニオン診断薬として利用できる可能性がある.
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医学のあゆみ 261巻5号, 439-444 (2017);
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閉経前乳癌の術後補助内分泌療法としては,エストロゲンの産生およびその作用を抑制することが重要である.『乳癌診療ガイドライン2015 年版』によると,閉経前ホルモン受容体陽性乳癌に対する術後ホルモン療法として,タモキシフェン(TAM)およびLHRH アゴニスト(LHRHa)が推奨されている.5 年間のTAM 投与は推奨グレードA で強く勧められており,10 年間のTAM 長期投与も推奨グレードB で勧められる.しかし,TAM とLHRHa の併用は推奨グレードC1 となっている.TAM の長期投与は閉経前患者のあらたなオプションとして加わったが,リンパ節転移陽性などの再発の危険が高い患者を対象として検討すべきである.SOFT 試験ではTAM にLHRHa 併用の上乗せ効果は,35 歳未満の若年者で化学療法を行っても卵巣機能が維持されている患者で認められている.SOFT 試験とTEXT 試験の統合解析結果からは卵巣機能抑制状況でTAM よりもアロマターゼ阻害薬の有効性が示されているが,閉経前患者に対するアロマターゼ阻害薬の投与は現在わが国では保険適応となっていない.
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医学のあゆみ 261巻5号, 445-451 (2017);
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CYP2D6 は,タモキシフェン(TAM)を体内で活性体に代謝するさいに重要となる酵素である.以前よりCYP2D6 の酵素活性を低下させるゲノタイプをもつヒトは,TAM 治療効果が不十分であることが報告されてきたが,一方で関係を認めないとする報告も存在する.この矛盾した結果が報告されている原因として,解析サンプルの不適切性などが報告されている.また,厳格な基準でサンプルを選択しメタ解析を行ったところ,強い関連が認められた.さらに,著者らが行った世界初の多施設共同前向き臨床研究の結果,TAM 効果のサロゲートマーカーであるKi-67 変動とCYP2D6 ゲノタイプの間に有意な関連を認めた.日本の乳がん診療ガイドラインにおいて,CYP2D6 のTAM 治療効果マーカーとしての推奨グレードは十分なものではないが,現在欧米を中心としたあらたなガイドラインを作成中であり,その結果が注目される.
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医学のあゆみ 261巻5号, 453-456 (2017);
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乳癌の約70%はエストロゲン受容体陽性であり,その大部分がエストロゲン依存的に増殖・進展する.そのため,エストロゲンの産生やエストロゲン受容体の機能を阻害するホルモン療法が効果的である.ホルモン療法は閉経前乳癌と閉経後乳癌において用いられる薬剤が異なり,エストロゲン受容体陽性閉経後乳癌においてはエストロゲンの局所産生を抑えるアロマターゼ阻害薬(AI)が高い治療効果を示し,第一選択薬として頻用されている.しかしAI に対して耐性を示す例も少なからず存在し,耐性機序の解明や効果的な次治療の探索が精力的に行われている.著者らもこれまでにさまざまなAI 耐性細胞株を樹立して,AI 耐性機序には多様性が存在することや,エストロゲン-エストロゲン受容体への依存性という観点から大きく3 つに分類することができ,さらにそれぞれの群において効果的と思われる次治療が異なることを見出した.本稿ではこれらAI 耐性の3 つの分類と次治療の可能性ならびに,近年注目されている選択的エストロゲン受容体抑制剤のフルベストラントに関して概説する.
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医学のあゆみ 261巻5号, 457-461 (2017);
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転移乳癌,とくに遠隔臓器に転移のある乳癌に対して完全治癒を求めることは困難であり,このような症例に対する治療の目標は生活の質を保ちつつ延命を得ることにある.内分泌療法は化学療法に比べて有害事象の程度は軽く,良好な忍容性が期待できること,エストロゲン受容体(ER)陽性の乳癌において効果が期待できることから,最も好ましい治療であると言える.一次内分泌療法にわずかでも反応がみられた場合には,二次治療も内分泌療法の適応があり,できるだけ作用機序の異なる薬剤を逐次交代で続けることがよい.治療抵抗性をきたした際には,別の内分泌療法薬を単剤逐次投与で用いるが,治療効果を予測することは困難で,治療時の腫瘍量,増悪までのプロセス,治療反応性を評価しながら次の薬物療法を選択することになる.一方,内分泌療法と併用することで,内分泌療法の効果をより増強させる分子標的療法が開発されてきた.ER と膜型増殖因子受容体のシグナル間にはクロストークが存在しており,両者のシグナル伝達経路を遮断することにより,腫瘍縮小や効果持続期間の相乗・相加的効果が期待されている.この目的でmTOR 阻害薬,PI3K 阻害薬,CDK4/6 阻害薬などが使用,あるいは開発されつつある.さらに,生命予後に危険が迫っている状況では,化学療法がただちに必要な場合もある.良好な腫瘍縮小効果が得られた後には,内分泌療法が再度適応となる場合があり,投与順序については固定されたものではなく,患者の希望を重要視することが必要である.
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医学のあゆみ 261巻5号, 463-468 (2017);
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Luminal/HER2 乳癌はホルモン受容体(エストロゲン受容体あるいはプロゲステロン受容体)陽性で,なおかつヒト上皮成長因子受容体(HER2,c-erbB-2 ともよばれる)蛋白質の過剰発現またはHER2 遺伝子の増幅した乳癌である.Luminal/HER2 乳癌は,内分泌療法と抗HER2 療法,化学療法も含めてもっとも治療の選択肢が多いが,治療抵抗性も少なくない.ホルモン受容体とHER2 シグナル経路における複雑な分子双方的クロストークは,治療抵抗性メカニズムのひとつと考えられており,現在,クロストークにかかわるいくつかのシグナル分子を標的とした薬剤の開発が行われている.本稿ではホルモン受容体とHER2 受容体を介したシグナル経路のクロストークについて,さらにそれらを考慮した分子標的薬について解説する.
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医学のあゆみ 261巻5号, 469-472 (2017);
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ホルモン受容体〔エストロゲン受容体(ER)とプロゲステロン受容体(PgR)〕陽性乳癌は乳癌全体の80%以上を占める.ホルモン受容体陽性症例には術後薬物療法および進行再発乳癌に対する治療,ともに内分泌療法が第一選択となる.一般的にER の発現量が高いほど内分泌療法の奏効性が高く予後良好であり,ER の発現量はER 陽性乳癌の生物学的特性に関与する.一方,PgR はエストロゲン応答遺伝子のひとつで,その発現量には血中エストロゲン濃度も関与する.ER 陽性乳癌のほとんどは遺伝子発現プロファイル解析に基づく内因性サブタイプ分類でluminal A(増殖が遅く予後良好)またはluminal B(増殖がやや速く予後不良)サブタイプに分類される.補助薬物療法として,luminal A-like(Ki67 低発現)には内分泌療法単独を,luminal B-like(Ki67高発現)には内分泌療法に加えて化学療法の適応が推奨されている.
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医学のあゆみ 261巻5号, 473-477 (2017);
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近年,luminal type 乳癌におけるホルモン療法耐性メカニズムの解明とともに,あらたな分子標的治療薬の開発や臨床試験,臨床への導入が進められている.再発luminal type 乳癌の治療戦略はホルモン療法を主体とした治療が中心であったが,CDK4/6 阻害薬,PI3K 阻害薬,FGFR 阻害薬,HDAC 阻害薬などの基礎研究や臨床研究が進んでおり,これらとの併用療法が新規治療選択として期待されている.なかでもCDK4/6 阻害薬は再発luminal type 乳癌におけるfirst line あるいはsecond line での臨床試験が進んでおり,近い将来,再発luminal type 乳癌に対する治療戦略が大きく変わる可能性がある.一方,これらの新規治療薬のもつあらたな副作用や費用対効果の問題,またより複雑な耐性獲得に対する後治療の問題など,今後も多くの検討すべき課題が残っている.
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医学のあゆみ 261巻5号, 478-482 (2017);
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不均質(heterogeneity)とは,異種の成分または部分からなることである.本稿ではintratumoral heterogeneity(同一腫瘍内の不均質)について述べる.不均質には空間的不均質と時間的不均質がある.空間的不均質とは,ある時点での部位別の異質である.時間的不均質とは,ある部位での時間経過につれて起こる変化による異質である.癌治療においては,癌の原発巣における不均質と癌の原発巣と転移巣での不均質の問題がある.原発巣と転移巣での不均質の機序としては,原発巣に少数存在する癌細胞の転移,原発巣に多数存在する癌細胞が転移した後の変質が考えられる.癌の腫瘍内不均質は,薬物療法における治療抵抗性の問題,遺伝学的検査におけるサンプリングバイアスの問題に大きくかかわると考えられる.癌の腫瘍内不均質をいかに診断するかということが,重要な課題となりつつある.
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医学のあゆみ 261巻5号, 483-488 (2017);
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Triple negative breast cance(r TNBC)は ER,PgR,HER2 遺伝子発現を伴わない乳癌である.ホルモン受容体およびHER2 によらない細胞増殖機序により制御される腫瘍群と理解される.TNBC には異なる遺伝子変異や形質的特徴を有する癌が混在しており,それぞれ細胞増殖機序が異なるため,最適な治療法も異なっている.TNBC に多いintrinsic subtype,TNBC subtype および組織型を紹介し,つぎに相互の関係性について解説し,さらにアポクリン癌,髄様癌,化生癌,腺様囊胞癌などについて考察する.
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医学のあゆみ 261巻5号, 489-493 (2017);
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トリプルネガティブ乳癌(TNBC)は,ホルモン受容体もHER2 も発現していない,いわゆる除外診断としてのサブタイプであるため,個々の症例の生物学的な性質の違いは大きい.全体としては悪性度が高い症例が多く化学療法の効果が高いサブタイプではあるが,各種薬剤に対する反応も異なるため,効果的な治療を行うには亜分類が必要である.2011 年に587 症例のTNBC に対する遺伝子発現解析の結果が報告された1).Unclassified を含めると7 つに分類され,それぞれに対して効果が期待される薬剤が考察された.さらに2015 年に行われた198 例のTNBC を用いた包括的な遺伝子および発現解析では4 つに分類され,それぞれの予後が報告された2).これらの研究から,いくつかの特徴的な生物学的な特徴が明らかになってきた.すなわち,①basal-like(BL),②mesenchymal-like(ML),③luminal androgen recepto(r LAR),④immunomodulatory(IM)の4 つである.TNBC が4 つに亜分類されたというには時期尚早であるが,重要な4つの治療戦略に関連することは間違いないので,これらについて自施設の研究結果も交えて解説する.
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医学のあゆみ 261巻5号, 494-502 (2017);
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HER2 陰性進行乳癌に対する血管新生阻害薬は,一次治療におけるパクリタキセルとベバシズマブの併用療法が標準治療となっている.しかしその結果はいまだに明瞭な答えを導き出せておらず,無増悪生存期間では改善が認められるものの,全生存期間ではその有用性を十二分に発揮できていない.ベバシズマブは血管内皮細胞増殖因子(VEGF)-A を標的としたモノクローナル抗体薬であるが,血管新生阻害薬の抗体薬にはそのほかにもVEGF-A 以外のリガンドすべてを標的とできるアフリベルセプト,VEGF の受容体を標的としたラムシルマブなどがある.後者の抗体薬はすでに結腸直腸癌のみならず,胃癌や非小細胞肺癌の標準治療に組み込まれている.さらにVEGF 受容体の下流にあるチロシンキナーゼ阻害薬はVEGF 以外にも作用するマルチキナーゼ阻害薬であり,数多くの薬剤が腎細胞癌,甲状腺癌の標準治療の一翼を担っている.乳癌に対してもこれらの薬剤の有用性が検証されているが,いずれにおいても乳癌の標準治療のひとつとはなり難い結果である.本稿では乳癌に対する血管新生阻害療法の現状を概説し,将来への展望へと結びつけたい.
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医学のあゆみ 261巻5号, 503-508 (2017);
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HER2 陽性乳癌は,近年抗HER2 薬の進歩により予後がおおいに改善した.HER2 陽性乳癌の診断に用いられるHER2 検査法には変遷があり,わが国ではトラスツズマブ病理部会が国内外の現状,とくにASCO/CAP ガイドラインを把握したうえでHER2 検査ガイドを発行し,これまでに3 回改訂され,現在第4 版が発行されている.本稿では,これまでのHER2 検査判定基準の変遷と将来展望について解説を行う.
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医学のあゆみ 261巻5号, 509-513 (2017);
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HER2 陽性乳癌は予後不良であるが,HER2 に対するヒト化モノクローナル抗体であるトラスツズマブをはじめとする抗HER2 療法の出現によりその予後は大幅に改善されている.HER2 陽性転移再発乳癌に対しては,トラスツズマブ,ペルツズマブ,トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1),ラパチニブなどの抗HER2 療法をどの順序と組合せで用いるかが重要である.CLEOPATRA 試験において,トラスツズマブ+ドセタキセルにペルツズマブを上乗せすることでPFS,OS とも延長したことから,一次治療としてトラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセルがもっとも推奨される.二次治療としては,EMILIA 試験でT-DM1 がラパチニブ+カペシタビンに対しPFS,OS とも延長したことから,T-DM1 が推奨される.ER 陽性HER2 陽性転移再発乳癌では症例により内分泌療法単独あるいは抗HER2 療法(トラスツズマブあるいはラパチニブ)と内分泌療法の併用を考慮してよい.
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医学のあゆみ 261巻5号, 514-520 (2017);
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経口フルオロウラシル(FU)剤にはテガフール(FT),UFT,ドキシフルジリン(5’ -DFUR)をはじめとしてS-1,カペシタビンなどがある.わが国では再発転移乳癌における治療のみならず術後療法として経口FU 剤を臨床的に用いてきた背景がある.これまで国内で術後補助療法における経口FU 剤によるエビデンスが構築されてきたが,静注化学療法レジメンを中心とする標準的レジメンとの比較試験のデータは少なかった.近年,再発転移乳癌の一次療法としての有用性を示すデータ,術前化学療法により腫瘍が残存した症例における術後療法としての有用性を示すデータなど,エビデンスレベルの高いデータが出てきており,経口FU 剤の臨床的価値が改めて注目されてきている.本稿では,経口FU 剤に関してこれまで行われてきた重要な臨床試験のデータをいくつか紹介し,経口FU 剤の臨床的位置づけと今後の展望について触れる.
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医学のあゆみ 261巻5号, 521-529 (2017);
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骨転移は乳癌の遠隔転移としてはもっとも多い部位で,ほかの癌と比較しても最多である.乳癌骨転移患者の平均余命はこれまで約2 年程度と言われてきたが,転移が骨にしか認められない場合は数年を超える長期生存も期待される.しかし,骨転移には骨痛や骨折に伴う運動障害がquality of life(QOL)を著しく低下させるため,長期にわたって患者を苦しめることもある.そのため治療は単に乳癌に対する抗腫瘍効果だけでは不十分で,疼痛と骨折の対策も必要である.しかも,病的骨折を伴う乳癌骨転移症例では死亡リスクも増大すると言われている.このようななか,骨転移に特化した治療薬が開発された.それが骨修飾薬(BMA)である.本稿ではBMA による乳癌骨転移と乳癌治療における二次性骨粗鬆症対策について,および顎骨壊死などBMA の重篤な有害事象に関する話題を中心に概説する.
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医学のあゆみ 261巻5号, 530-536 (2017);
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診療現場ではガイドラインの認知度が非常に高くなっている.しかし,ガイドライン共通の項目があることを知る人は少ないと思う.つまり,どのような診療を対象とするにしても,誰が,誰のために,誰により,何の目的で,どのようにして作成され,どのように使用すべきかを知る必要がある.さて,がん患者の苦痛と感じる症状は多彩である.がんに起因するがん随伴症状のコントロールは,がん治療の重要な目的である.また,がん治療に随伴する治療随伴症状にも腫瘍専門医は注意し,その予防と治療の知識と技術を習得すべきである.がん治療の選択においては,支持療法をうまく併用することががん治療を成功させる秘訣である.とくに,化学療法に伴う悪心・嘔吐は,治療完遂率に影響を与え,結果的にがん化学療法の用量強度を低下させ,本来期待されるべき化学療法の効果が得られないというエビデンスがある.日本癌治療学会(JSCO)では2010 年にわが国ではじめての制吐薬適正使用ガイドラインを発刊し,その後2015 年に改訂版を出版した.その意義は,適切な支持療法のもとで効果的ながん化学療法を行うことである.現在,日本医療機能評価機構では日本国内のガイドラインの質の担保と向上をめざして,各ガイドライン作成母体に同じ要領でガイドラインを作成するように推奨している1).本稿では制吐薬の適切な使い方を解説する.
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医学のあゆみ 261巻5号, 537-541 (2017);
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乳癌の放射線治療に関して最近論議されている事項のなかから,乳房温存療法における寡分割照射,加速乳房部分照射(APBI),放射線が不要なグループ,リンパ節領域への照射について最近の報告を紹介する.寡分割照射は3 週間治療が有効性で従来の通常分割照射と同等で,有害事象は同等か少ないため,あらたな標準治療法のひとつとなってきた.APBI はまだ議論があり,日常臨床には限定的に使用されることが勧められている.高齢のluminal A 患者への放射線治療は省かれる方向であるが,さらに研究が必要である.リンパ節領域への照射に関しては腋窩郭清後,センチネルリンパ節生検後について述べる.放射線による心障害については発症と線量の関係が論じられるようになってきた.
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あらたな研究・診療体制
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医学のあゆみ 261巻5号, 545-549 (2017);
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NCD-乳癌登録は一般社団法人日本乳癌学会によって管理されており,現在はNational Clinical Database(NCD)のプラットフォーム上で運営・管理されている.NCD-乳癌登録には2015 年時点で75,000例を超える新規登録があり,2004 年からのデータ約66 万例(2016 年7 月時点)が登録されている.このようなシステムを活用することで乳癌症例の多い施設に在籍していない会員でも乳癌登録の巨大なデータベースを用いて研究をすることが可能になる.すでに会員からの知恵でインパクトのある研究を創出されはじめた.しかし予後入力や再発入力などまだまだ改善が必要な点も多い.NCD-乳癌登録が今後さまざまなプラットフォームとして使用され,日本の乳癌診療の向上に役立つように今後も研究が必要である.さらにライフサイエンス領域の蓄積されていくデータはこれからもますます増え続けていくものと想定され,現在すでに存在するデータ,これから集まってくるデータを理解し,ビッグデータを患者個人に還元するために,柔軟に研究方法を変化させて対応していく必要がある.本稿では,NCD-乳癌登録を用いた臨床研究,今後このプラットフォームを用いてどのような研究が可能かを含めて紹介する.
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医学のあゆみ 261巻5号, 551-554 (2017);
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“診療の質指標(QI)”は医療そのものの質を示す代表指標である.言い換えれば医療施設で最低限行われていなければならない指標といえる.診療ガイドラインは科学的根拠(evidence-based medicine:EBM)に基づいた日常診療を実施する支援ツールとして医師,看護師,薬剤師などをはじめとする医療チームで広く利用されているが,今後の展望として,現実に行われている診療がどの程度,標準治療に沿っているのかを評価することが望まれる.そのためには診療の質を評価する指標を作成し,がん医療の均てん化の達成度を測定していくことが必要である.本稿ではわが国の乳癌診療におけるQI の評価の研究の推移,その方法論について概説する.
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医学のあゆみ 261巻5号, 555-559 (2017);
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一般社団法人日本乳癌学会(以下,学会)の専門医制度委員会の立場から,乳腺専門医の現状と日本専門医機構(以下,機構)における新制度での乳腺専門医について解説する.平成29 年度(2017)から開始予定であった機構によるあらたな専門医制度が1 年延期された.平成30 年度(2018)から初期研修を終えた医師を対象に,外科,内科,眼科,産婦人科などいわゆる19 基本領域の専門医を修得するための専門医制度が開始される.機構による専門医とは,「それぞれの診療領域における適切な教育を受けて,十分な知識・経験を持ち,患者から信頼される標準的な医療を提供できる医師」と定義されている.さて,乳腺専門医はいわゆるサブスペシャリティ(以下,サブスペ)であり,より高度な専門性を有する医師である.機構による新制度がまだはじまっていない状況から,あらたな制度下での乳腺専門医の育成は数年遅れる見通しである.読者におかれては,不確定な要素が多い内容であることを前提にご一読いただければ幸いである
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医学のあゆみ 261巻5号, 560-564 (2017);
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乳癌学会の施設認定制度は乳腺専門医の育成と認定を前提として構築されてきたが,診療施設の質の担保という観点からはかならずしも十分な制度とは言えない.患者目線,国民目線で見てわかりやすい施設認定制度とその質の担保が求められており,制度の改善には欧米で実施されている施設要件,qualityindicato(r QI)の収集,監査などを伴ったブレストセンターの認証制度が参考になると思われる.一方であらたな制度見直しにより施設認定に高いハードルが設定され,現場にさまざまな負担増が課せられると,施設の集約化が過度に進み,結果として患者アクセスが制限されることが懸念される.本稿では,欧米の施設認証の現状を取りあげ,わが国の今後の方向性について考察する.
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医学のあゆみ 261巻5号, 565-571 (2017);
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乳がんの好発年齢は,社会のなかでも家庭のなかでも中心となって活動をしている時期と重なる.そのため,がん罹患は家族,血縁者,職場の同僚や学校のつながりなど,多くの関係者を巻き込むことになる.乳がんの病理学的悪性度の違いなどにもよるが,ほかのがん種と比べて一般的に乳がんの治療期間は長く,中長期的な支援を考えるサバイバーシップはとても重要になる.本稿ではサバイバーシップの考え方を整理するほか,PRE-vivo(r 遺伝子変異陽性の未発症者),META-vivo(r 転移性乳がん患者)といった新しい考え方を紹介し,その課題と意義を整理する.また,2016 年12 月に改正がん対策基本法が成立したことを踏まえ,10 年ぶりの改正となった法の特徴を紹介すると同時に,サバイバーシップとどのような関連が生じるのかを概説する.
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医学のあゆみ 261巻5号, 572-576 (2017);
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21 世紀の医療界が“Conquer cancer,conquer breast cancer”を達成するために大きく動くなか,日本の使命は乳がん医療の発展に貢献することであり,世界のオピニオンリーダーのひとつと評価されるだけの成果を上げることが求められている.そのためには日本の臨床試験グループがそれぞれの特徴を生かし,英知と努力を結集してall Japan として活動することが重要となる.Japan Breast CancerResearch Group(JBCRG)は,2002 に任意団体として発足し,2007 年からは一般社団法人として,わが国および多国間における良質の臨床試験およびトランスレーショナルリサーチ,コホート研究,ファーマコゲノミクス研究などを通じて公共の福祉に貢献することを目標に活動してきた.全国の約270 施設が参加し,これまでに20 以上の臨床試験を行っており,また世界全体の56 の試験グループから構成される国際共同試験グループであるBIG(Breast International Group)にも加盟している.
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医学のあゆみ 261巻5号, 577-582 (2017);
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JCOG 乳がんグループは1978 年から活動を開始し,当初は標準的薬物療法の開発を目的に臨床試験を行ってきた.しかし時代の潮流とともに標準的な集学的治療(外科治療,放射線治療,薬物療法など)の確立をめざす方向に変化を遂げた.現在,全国40 施設の参加により,以下の2 つの試験が登録中,2 つの試験がプロトコール作成中であり,さらに今後は術前化学療法後のno surgery の意義を問う試験を検討中である.①JCOG1017:stage Ⅳ乳がんに対する原発巣切除の意義を問うランダム化第Ⅲ相試験.② JCOG1204:再発高リスク乳がん術後のインテンシブフォローアップの意義を問うランダム化第Ⅲ相試験.③JCOG1505:low risk DCIS に対する非切除・内分泌単独治療の妥当性を検証する単アーム第Ⅲ相試験.④ JCOG1607:高齢者HER2 陽性再発乳がんに対する1st line 治療でのT-DM1 治療の妥当性を検証するランダム化第Ⅲ相試験.
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医学のあゆみ 261巻5号, 583-588 (2017);
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プレシジョン・メディシン(精密医療)とは,遺伝子,環境,ライフスタイルに関する個々の違いを考慮した予防や治療を確立し,実践することを指す.その本質は,遺伝子変異などの客観的指標を用いて特定の特徴を有する患者あるいは患者予備群を囲い込み,グループごとに治療戦略や予防策を講じることによって,高い費用対効果を得ることである.乳癌領域ではサブタイプ分類に基づく治療戦略など,プレシジョン・メディシンの原型がすでに実践されてきた.近年,次世代シークエンサー(NGS)の登場により,実臨床において癌関連遺伝子の網羅的解析を行うクリニカルシークエンスが可能となり,アメリカではプレシジョン・メディシンの実践をめざした新しいタイプの臨床試験が開始されている.本稿ではプレシジョン・メディシンの概念とその実際について概説し,乳癌領域におけるプレシジョン・メディシンの現状と,今後の展望について述べたい.