医学のあゆみ
Volume 262, Issue 9, 2017
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特集 Brugada 症候群のエビデンスに基づいた治療戦略
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Brugada 症候群の疫学
262巻9号(2017);View Description Hide DescriptionBrugada 症候群は,12 誘導心電図のV1-V3 誘導におけるJ 波増高と特徴的なST 上昇を呈し,主として若年~中年男性が夜間に心室細動を引き起こして突然死する可能性のある疾患群である.日本を含む東アジアで比較的頻度が高く,coved 型ST 上昇の有所見率は,欧米の成人で0.02~0.15%程度,日本の成人では0.1~0.3%程度である.日本では95%近くを男性が占め,30~40 歳代に発症のピークがあり,その平均発症年齢は45 歳である.また突然死の家族歴を有するものは12~14%である.Brugada 症候群の予後は心停止・心室細動蘇生例は再発リスクが高く,一方,無症候例は比較的良好である.日本の報告によると,Brugada症候群の心事故発生率は,心室細動既往例で年8~10%,失神例で年0.5~2%,無症候例で年0~0.5%程度である.また高位肋間記録による自発性Brugada 症候群の予後は通常肋間記録による自発性Brugada症候群と同等であるが,薬剤負荷によって診断されたBrugada 症候群は予後が良好と報告されている. -
Brugada 症候群の遺伝的背景と遺伝子診断
262巻9号(2017);View Description Hide DescriptionBrugada 症候群(BrS)には現在23 個の関連遺伝子が報告されている.そのうち心筋Na チャネル遺伝子SCN5A が全体の10~20%を占めるといわれる.しかし,その他の遺伝子を入れても遺伝子変異の陽性率は30%程度である.これは,23 個以外の遺伝子に有力な遺伝子がある可能性,エクソン領域以外の遺伝子領域に変異がある可能性,単一遺伝子疾患ではなく他因子疾患である可能性,線維化などの後天的要因や環境要因などを含めた複雑な疾患である可能性がある.これらを解明するために,網羅的遺伝子解析手法であるエクソームやゲノムワイド関連解析(GWAS)が行われており,しだいにBrS の病態が明らかになりつつある. -
Brugada症候群の不整脈基質 ― 再分極異常と脱分極異常
262巻9号(2017);View Description Hide DescriptionBrugada 症候群は特徴的なST 上昇波形を示し,夜間に心室細動から突然死をきたす疾患で,当初は明らかな器質的心疾患はないと考えられていた.不整脈の機序としてはBrugada 症候群の動物モデルにより,右室心外膜面での活動電位の形態変化が特徴的な心電図と心室細動の発生を引き起こす再分極異常説が考えられていた.しかし,近年の心外膜穿刺による直接的な心外膜マッピングにより多彩な異常電位が心外膜面に存在することが示されるようになった.さらに剖検心や心外膜生検で右室流出路の心外膜側に心筋線維化,脂肪浸潤が認められ,局所の心筋障害による伝導障害が特徴的な心電図や不整脈発生の機序となっている考え方が強くなってきている(脱分極異常説).一方の説のみでは臨床現象をすべて説明はできず,いずれの説が正しいのかはいまだに決着がついていないが,脱分極-再分極の関係は独立したものではなく,不整脈発生にそれぞれの現象が深く結びついている可能性がある. -
Brugada 症候群の診断基準 ― 臨床症状,心電図,負荷試験
262巻9号(2017);View Description Hide DescriptionBrugada 症候群の診断基準において重要なのは心電図診断であり,第2 肋間上までの高位肋間記録を含め,V1~2 誘導の1 誘導以上において自然発生あるいは薬物負荷後にタイプ1 心電図が認められた場合としている.一方,ST 波形は日差変動や日内変動を示し,時期によっては正常化していることもあるため,頻回の心電図記録や12 誘導Holter 心電図が推奨される.また,発熱時の記録や薬物および運動負荷や経口糖負荷などの負荷試験によってタイプ1 心電図を顕性化させることも有用である.診断基準はタイプ1 を示す心電図所見および症状を伴う臨床歴が認められれば,症候性Brugada 証拠群として診断される.とくに,自然発生および発熱誘発性タイプ1 心電図は,エビデンスレベルにおいて予後を規定する重要な所見である.一方,心電図所見のみで臨床歴がない場合でも無症候性Brugada 症候群として診断可能であるが,それに加え家族歴や遺伝子変異(SCN5A)は診断の信頼性を高める所見となる. -
後天性(二次性)Brugada 症候群
262巻9号(2017);View Description Hide DescriptionBrugada 症候群は心電図上,右側胸部誘導のcoved 型あるいはsaddle-back 型とよばれる特徴的なST上昇を示し,心室細動や時に心室頻拍といった致死性不整脈を生じる心疾患である.近年ではその遺伝子変異も含め,疾患の成因や心電図学的特徴の機序が明らかとされつつある.右室細胞における外向き電流の増大や内向き電流の減少といったイオン電流系を修飾する状況や薬物の使用ではBrugada 型心電図を示すこともあり,いわゆる後天性QT 延長症候群になぞらえて,後天性(二次性)Brugada 症候群とよばれる.薬剤ではNa+チャネル遮断薬,Ca+チャネル遮断薬,抗うつ薬などが,また急性虚血,電解質異常,発熱,低体温,物理的圧迫などさまざまな状況でBrugada 型心電図が誘発されることが報告されている. -
Brugada 症候群のリスク評価― 体表面心電図,失神,家族歴,電気生理学的検査
262巻9号(2017);View Description Hide DescriptionBrugada 症候群(BrS)は,おもに若年から中年男性において心室細動を発症し,突然死を引き起こす症候群である.診断には,第2~4 肋間でV1 あるいはV2 誘導にtype 1 心電図を認めることが必須である.最近,心電波形に加えて,病歴,家族歴,遺伝子検査の合計点数で診断する上海スコアシステムが発表されたが,その他にもさまざまなものが提唱されている.体表心電図では自然発症のtype 1,fragmented QRS,早期再分極(J 波)の存在が重要である.病歴では不整脈原生失神が重要である.突然死家族歴に関しては,近年懐疑的な報告が多い.電気生理学的検査では不応期が200 ms 未満,および2 連刺激以内で不整脈が誘発された場合がハイリスクとなりうる.しかしこれらの評価法をもってしても,いまだハイリスク群を確実に同定するのは困難であり,今後いっそうの研究が望まれる. -
リスク評価 ― 特殊心電学的診断法,画像診断によるあらたな知見
262巻9号(2017);View Description Hide Description非侵襲的に計測可能な特殊解析心電図指標を用いて,ハイリスクのBrugada 症候群患者をある程度同定することができる.わが国からこの領域に関する研究報告が数多く出されている.加算平均心電図で測定される心室レイトポテンシャルがその筆頭としてあげられ,小規模ながら心拍変動指標,T 波オルタナンス,QT 間隔指標についても有用とする報告が複数出されている.近年,解析精度が高い画像診断を用いて,Brugada症候群の病因を評価した研究報告がいくつか出され,あらたな展開をみせている.これまでBrugada 症候群は心筋の器質的変化を伴わないとされてきたが,心臓MRI 遅延造影画像で微細な器質的異常が認められることが報告されている.本稿では,まずリスク評価における特殊心電学的診断法の有用性について解説し,つぎに画像診断で評価したBrugada 症候群に関する最近の知見について紹介する. -
リスク階層化とガイドライン
262巻9号(2017);View Description Hide DescriptionBrugada 症候群のリスク階層化では臨床所見がもっとも重要であり,type 1 心電図(coved 型ST 上昇)に加えて,心室細動(VF)・心肺停止(CA)を認める患者がもっともリスクが高く,植込み型除細動器(ICD)のクラスⅠ適応となる.心室性不整脈が原因と考えられる不整脈原性失神やNa チャネル遮断薬負荷試験によらない自然発生type 1 心電図を認める患者は,次にリスクの高いグループ(中高リスク)である.一方で,非不整脈原性失神を認める患者,2 連期外刺激以下でVF が誘発される患者,突然死の家族歴やSCN5A 変異を有する患者は,次のリスクグループ(中・低リスク)となる.Na チャネル遮断薬誘発type 1 心電図のみを認める無症候症患者の不整脈リスクはもっとも低い.これらの臨床所見に加え,心電図所見や特殊解析心電図指標を考慮して,不整脈リスクを総合的に判断することが重要である(表1). -
Brugada 症候群に対して有効な薬剤はあるか
262巻9号(2017);View Description Hide Description植込み型除細動器(ICD)装着後の繰り返す心室細動(VF)の抑制には,β刺激薬イソプロテレノールの点滴静注が有効である.慢性期にもVF の再発を認める症例には,キニジン(Ⅰa 群抗不整脈薬),ベプリジル(Ⅳ群抗不整脈薬),シロスタゾール(ホスフォジエステラーゼ阻害薬)が再発予防に有効な場合がある.なかでもキニジンは,慢性期のVF 再発予防について有効症例の報告がもっとも多く,第一選択薬と考えられる.合併する心房細動などの上室性不整脈には,Ⅰc 群抗不整脈薬は禁忌であり,キニジン,ベプリジルが投薬可能である. -
Brugada 症候群の非薬物治療― ICD,カテーテルアブレーション
262巻9号(2017);View Description Hide DescriptionBrugada 症候群の突然死予防に有効と証明された唯一の治療法は植込み型除細動器(ICD)である.ただし,心室細動(VF)を予防するには抗不整脈薬やカテーテルアブレーションによる治療が必要となる.カテーテルアブレーションの有効性に関しては,無作為比較試験はなく,さらに長期間の経過観察が必要であることには間違いないが,それらの初期成績がきわめて良好で,心電図所見が正常化する症例も多いことも事実である.
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連載
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- 臓器移植の現状と課題 8
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腎移植
262巻9号(2017);View Description Hide Description◎腎移植は血液透析や腹膜透析と並んで末期腎不全治療の3 つのうちのひとつであり,生命予後の改善,QOL の改善,医療経済の面で優れていることから,小児から高齢者まで腎移植できる状態の場合は腎移植が勧められる.わが国では亡くなった方からの腎提供が残念ながらきわめて少なく,親族からの腎提供に恵まれた患者には生体腎移植が広く行われている.腎移植の適応拡大が進んでおり,高齢レシピエントの腎移植や抗ドナーHLA 抗体陽性など免疫学的ハイリスクの腎移植が増えている.腎移植後の移植腎生着率は向上し,2001 年以降の生体腎移植の5 年生着率は94.6%,献腎移植の5 年生着率も87.5%であった.透析と比較して腎移植の心血管合併症のリスクが低いことから腎移植患者の生命予後は優れるが,免疫抑制療法の影響により悪性腫瘍の頻度は透析治療より高い.これは数少ない腎移植の欠点であり,定期的なスクリーニングと早期治療が望ましい. - テレメディシン ― 遠隔医療の現状と課題 2
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ICT の導入と医療現場の変革
262巻9号(2017);View Description Hide Description◎最近,遠隔医療(Telemedicine)という言葉がよく聞かれるようになってきた.日本のICT 技術は世界でも最先端を走るなか,医療においてもICT 化が進んでおり,遠隔医療にふたたび脚光があたっている.従来,医師法第20 条により無診療診察が禁止され,基本的には対面診療としなければならない点が大きな壁になってきた.厚生労働省は通知により遠隔医療の規制について解釈を何度か修正してきたが,最終的なガイドライン化には至っていない.一方で,世界中で巻き起こるICT を使った医療の効率化の波にのって,政府の検討会でも遠隔医療の話し合いが行われ見直しがはじまっており,今後診療報酬での評価を含め進む可能性がある.著者らは現在の医師法でも問題がないD to D(医師同士をつなぐ)を実施しながら,その有用性を判断し,つぎにD to P(医師が患者を直接診る)に進むための準備を進めている.本稿では,遠隔医療の壁と現状の状況,そして,いまできる遠隔医療とは何かを解説した.
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病院建築への誘い─ 医療者と病院建築のかかわりを考えるVol.4
262巻9号(2017);View Description Hide Description◎本シリーズでは,医療者であり,建築学を経て病院建築のしくみつくりを研究する著者が,病院建築に携わる建築家へのインタビューを通じて,医療者と病院建築のかかわりについて考察していきます. -
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