Volume 262,
Issue 10,
2017
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【9月第1土曜特集】 眼科治療の進歩
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医学のあゆみ 262巻10号, 835-835 (2017);
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ドライアイ
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医学のあゆみ 262巻10号, 839-844 (2017);
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2010年12月にジクアホソルナトリウム(DQS)点眼液が,2012 年1 月にレバミピド(Rbm)点眼液が処方薬として,世界ではじめて日本に登場し,日本のドライアイ診療は,パラダイムシフトを迎えた.すなわち,これらの点眼液の臨床での使用を契機に世界に類をみない新しいドライアイの診断,治療の考え方が生まれるとともに,ドライアイの病態の理解が飛躍的に進歩した.新しいドライアイの診断,治療の考え方は,それぞれ,眼表面の層別診断(TFOD),眼表面の層別治療(TFOT;図1)と名づけられ1),アジア諸国にも広がりつつある.現在,日本のドライアイ診療の考え方やその実際は,世界トップと言えるほどに,進歩を遂げてきている2).本稿では,TFOD に基づくTFOT を中心に日本のドライアイ治療の現状について紹介したい.
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角膜・結膜の疾患
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医学のあゆみ 262巻10号, 847-850 (2017);
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角膜上皮幹細胞疲弊症の症例では,片眼性の場合は反対眼の角膜上皮幹細胞を用いた培養自己角膜上皮細胞シート移植,両眼性の場合は培養自己口腔粘膜上皮細胞シート移植,両眼性でも結膜上皮が正常な場合は培養自己結膜上皮細胞シート移植などの再生医療が適応となる.しかしこれらの再生医療は,“再生医療等の安全性の確保等に関する法律”の厳格な運用により高コストとなり,実施が困難になっている施設が多い.角膜内皮に対する再生医療は,培養ヒト角膜内皮細胞を懸濁状態にして注射針などで前房内に注入し,うつ伏せ状態を維持する方法での臨床応用が開始されている.内皮細胞の再生医療ではより良質で大量培養が可能な細胞ソースの開発が続けられるものと考えられる.
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医学のあゆみ 262巻10号, 851-856 (2017);
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角膜移植はもっとも古い歴史をもつ臓器移植であり,世界では1905 年に報告され,日本においても行われるようになってから50 年以上経過している.全層移植や表層移植といった従来の角膜移植には,良好な視機能を長期にわたって維持するには多くの問題点があり,それらを解決するために,障害部位のみを移植する選択的層状角膜移植が開発された.この選択的層状角膜移植では機器やレーザー技術の進歩や,再生医療技術の進化とともに,さまざまな技術が融合して発展を遂げている.人工角膜は現時点では最後の手段として用いられるが,今後の技術革新に期待がかかる.今後も人工角膜,角膜再生技術の進歩とともに角膜移植医療がより発展していくものと考えられる.
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医学のあゆみ 262巻10号, 857-862 (2017);
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円錐角膜は進行性の角膜変形疾患で,角膜中央下方が菲薄化・突出して正乱視・不正乱視を引き起こす疾患である.従来は不正乱視の矯正のためにハードコンタクトレンズの処方を行い,コンタクトレンズを装用できなくなった場合や,急性水腫が引かない場合などに角膜移植を行うのがスタンダードの治療であった.近年,円錐角膜の新しい治療として,リボフラビン(ビタミンB12)を点眼,角膜に浸透させUVAを照射して,角膜実質のコラーゲンを架橋する角膜クロスリンキングが,“円錐角膜の進行を止める”方法として登場した.また円錐角膜の“進行”の検出には,前面形状だけでなく後面形状,角膜厚も測定できる前眼部光干渉断層計(OCT)やScheimplufg 型前眼部解析装置が登場し,円錐角膜のより細やかな変化をとらえることができるようになってきた.本稿では,角膜クロスリンキングの登場により変化してきた最近の円錐角膜の治療戦略について述べる.
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医学のあゆみ 262巻10号, 863-869 (2017);
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アレルギー性結膜炎はアレルギー性結膜疾患のなかで結膜に増殖性変化を認めないタイプであり,自覚症状は搔痒感,他覚所見は結膜充血の頻度が圧倒的に高い.アレルギー性結膜炎の発症にはⅠ型アレルギーが中心的な役割を果たす.したがって,治療はⅠ型アレルギーを抑制する抗アレルギー点眼薬が中心となる.抗アレルギー点眼薬は,①メディエーター遊離抑制作用薬と,②ヒスタミンH1 受容体拮抗作用薬に大別される.搔痒感の抑制には後者が,初期療法には前者が用いられることが多い.抗アレルギー点眼薬で症状を抑制できない場合にはステロイド点眼薬が用いられるが,副作用として眼圧上昇(ステロイド緑内障)に注意を払う必要がある.
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医学のあゆみ 262巻10号, 871-876 (2017);
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角結膜感染症の治療の中核をなすのは,抗微生物薬の局所投与(点眼・眼軟膏)であることはいうまでもない.細菌に対しては,フルオロキノロン系がもっとも使用されているが,セフェム系やアミノグリコシド系も起炎菌に応じて使用することが推奨される.真菌に対してはアゾール系が使用できるようになったが,いぜんとしてピマリシンが重要である.ヘルペスの治療はアシクロビルが中心となる.角膜炎については眼感染所学会によるガイドラインがあり,参考になる.このように,角結膜感染症の治療は確立されており,最近の臨床研究もその検証を行っているものが多く,標準化が進んでいるが,一方で,主となる薬剤がフルオロキノロン,ピマリシン,アシクロビルである状態が20 年以上続いており,これを打破するブレークスルーとなる研究がなかなかないこと,標準化が進んでもなお個々の症例のばらつきが大きく,それに関する研究が困難であることが現状の問題点である.しかし今後,新しい抗ウイルス薬の開発や光線力学療法(PDT)の臨床応用などが期待される.
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涙器・水晶体・強膜・ぶどう膜の疾患
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医学のあゆみ 262巻10号, 879-884 (2017);
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涙液は涙腺から分泌され,眼表面を潤した後に涙道へ導かれ,鼻腔に排出されるが,なんらかの異常によりこのバランスが崩れたときに流涙症状が起こる.涙流涙は液分泌亢進による分泌性流涙(lacrimation)と,導涙機能の低下による導涙性流涙(epiphora)に分けられるが,その原因はかならずしもひとつではなく,いくつかの要因がかかわりあって起こることも多い.そこで診察にあたっては涙腺,眼瞼,眼表面,涙道,鼻腔とすべての部位について丁寧に診察する必要があり,流涙症状の要因を可能なかぎりみつけだすことが重要である.そして,発症に強く関与している要因に対して,侵襲性の低い治療から優先して治療計画を立てることが大切である.流涙症をきたす代表的な病態は涙道疾患であるが,近年,鼻内視鏡を用いた鼻腔手術の進歩による涙囊鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)鼻内法の発展や,涙道内視鏡の登場による涙管チューブ挿入術の飛躍的な進歩により,治療方法の選択が大きく変わってきている.本稿では,流涙症診断と涙道診療・治療について,最近の話題を交えて述べる.
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医学のあゆみ 262巻10号, 885-891 (2017);
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近年の白内障手術はめざましい発展を遂げており,現在では白内障を治療する開眼手術から,より質の高い術後視機能を獲得する復眼手術へとその意味合いが変化してきている.水晶体超音波乳化吸引術(PEA)においては,高頻回パルスモードや横発振を組み合わせた超音波発振方法を取り入れることにより,手術侵襲の軽減と手術効率の向上を両立できるようになった.また眼内レンズ(IOL)においては,さまざまな機能を付加することによって術後視機能が著しく向上した.さらに最近になりフェムトセカンドレーザーによる白内障手術装置が開発されて,手術の精度が,より向上している.また,従来は良好な術後視機能を獲得することが困難であった,水晶体囊によるIOL の固定が不可能な症例に対しても,術式の進歩によって良好な術後視機能を提供することが可能になっている.
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医学のあゆみ 262巻10号, 893-898 (2017);
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ぶどう膜炎は感染性ぶどう膜炎,非感染性ぶどう膜炎,仮面症候群の3 つのカテゴリーに分けられ,それに応じた治療が行われる.近年のぶどう膜炎の治療の進歩として,①眼内液を用いたPCR 検査の進歩により感染性ぶどう膜炎の確定診断ができる症例が増えたこと,②懸濁ステロイド剤の眼球周囲注射が普及したこと,③生物学的製剤などの新しい全身投与の免疫抑制剤が使われるようになったこと,があげられる.①は誤診による経過不良例を減らすことに役立ち,②は遷延性の黄斑浮腫や硝子体混濁の治療として不可欠な治療となっている.また,③は再燃を繰り返す難治性ぶどう膜炎症例での再燃抑制やステロイド剤内服の副作用の軽減に有用である.2016 年にTNF 阻害薬であるアダリムマブが,難治性の非感染性中間部・後部・汎ぶどう膜炎に対して保険適応となり,ぶどう膜炎に対する治療の選択肢は増加してきている.
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医学のあゆみ 262巻10号, 899-905 (2017);
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これまでの非感染性強膜炎の治療はステロイド点眼や非ステロイド性抗炎症薬,副腎皮質ステロイド全身投与が中心であった.しかし,ステロイド投与による全身合併症やステロイド性高眼圧・続発緑内障,ステロイド中止による強膜炎の再発が問題となっていた.近年,免疫抑制剤点眼や,免疫抑制剤全身投与,生物学的製剤などが使用できるようになり,治療の選択肢が広がった.強膜炎の原因として多い関節リウマチ(RA)やANCA 関連血管炎に対しては,各種免疫抑制剤や生物学的製剤が保険適応となっている.これらの治療薬の進歩により,ステロイド投与による副作用の回避と長期的な炎症コントロールの改善が見込まれる.
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医学のあゆみ 262巻10号, 906-912 (2017);
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本稿では,眼周囲に生じる腫瘍の治療について概説する.“眼周囲”とは,眼球以外の眼を守るまた視機能を有効に使う際に必要な目の周りの器官を指す.それぞれあげると,白目を守る結膜,目を動かす外眼筋や目の動きを潤滑にする眼窩脂肪,黒目を守る涙液を算出する涙腺,瞬きによって黒目を潤し,また汗が目に入らないようにしたり外傷の際に目を守る眼瞼,涙が溜まって見えにくくならないように鼻へと涙を排泄する涙道などである.紙面の関係から,結膜,眼瞼,眼窩に生じる腫瘍に対する治療について述べるが,腫瘍であるので手術治療を主とするが,眼周囲悪性腫瘍のうち最頻度である悪性リンパ腫に対しては,ステージングにて限局していれば放射線療法,また結膜などの眼表面の新生物に対しては眼科ならではの抗がん剤の点眼治療などが治療方法としてある.腫瘍の性質,部位と大きさ,患者の治療方法の希望などを鑑みながら治療を行っていく.
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緑内障
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医学のあゆみ 262巻10号, 915-919 (2017);
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緑内障性視神経症の病態の解明はあらたな治療法の開発につながるが,これまでのところ積極的に行われている治療法としては眼圧下降しかないのが現状である.その根拠は欧米でのランダム化比較試験の結果1-3)に基づいており,眼圧下降治療により有意に進行が遅延したと報告されていることによる.正常眼圧群でもその有効性は示されており1,4),正常眼圧緑内障の割合が高い日本5)においてもそれに準じた治療を行っている.眼圧下降治療の方法はいくつかあるが,大部分の緑内障患者にとっての第一選択は薬物治療(点眼薬)となる.医療サイドとしては,患者の点眼アドヒアランス(「サイドメモ1」参照)6)を維持させ,薬物効果を最大限引き出させるために,数ある薬剤の特性を十分に理解しておく必要がある.本稿では,現在までに使用可能な緑内障点眼薬についての歴史を振り返り,現在臨床試験途中の段階である眼圧下降薬,あるいはドラッグデリバリーシステムについてまとめたいと思う.
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医学のあゆみ 262巻10号, 921-926 (2017);
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緑内障治療において,エビデンスに基づく唯一の治療は眼圧を下げることである.そのため,緑内障手術は眼圧を下げるために行われ,大きく濾過手術と流出路再建術に分けることができる.濾過手術は眼内と眼外をつなぐバイパス手術であるため,眼圧下降効果は大きいが,感染症や低眼圧黄斑症など重篤な合併症を引き起こす可能性がある.一方,流出路再建術は濾過手術に比べて眼圧下降効果は劣るものの,重篤な合併症を起こしにくい.しかし,従来の眼外からのアプローチでは手術手技が煩雑で時間がかかることや,同部位に追加で濾過手術を行う場合に負の影響を及ぼすことが指摘されていた.近年,眼内からのアプローチで,低侵襲で容易,手術時間も飛躍的に短時間で行うことができるさまざまな流出路再建術が登場してきている.現在,国内で行うことができるこれらの術式の特徴と成績を紹介したい.
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医学のあゆみ 262巻10号, 927-931 (2017);
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濾過手術は前房と結膜下組織の間にあらたな房水流出路を作製する手術である.最初に全層濾過手術が普及した後,術後低眼圧の抑制に有利な線維柱帯切除術が主流となった.全層濾過手術と比較すると弱かった線維柱帯切除術の眼圧下降効果は,マイトマイシンC の応用によって飛躍的に上昇した.また,過剰濾過に伴う合併症の発生率を低減させるため,非穿孔性線維柱帯切除術が一時期広く行われたが,長期的な眼圧下降効果は従来の線維柱帯切除術に劣ることが判明し,現在では限られた症例にのみ行われている.一方,術後早期の濾過量をコントロールする目的で術後のレーザー切糸術が確立され,ステップバイステップに眼圧下降をはかることができるようになり,安全性向上に貢献している.線維柱帯切除術に代わる新しい濾過手術としてチューブシャント手術があり,特有の利点と欠点に注意が必要である.
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医学のあゆみ 262巻10号, 932-936 (2017);
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トラベクレクトミーが効きにくい病型である続発緑内障や,過去に内眼手術を受けたことある症例,トラベクレクトミーが失敗に終わった症例に対して,プレートのあるチューブシャント手術が有効である.シリコン素材のプレートとチューブで構成されるインプラントを用いる.国内では,バルベルト(R)緑内障インプラント(エイエムオー・ジャパン社)と,アーメド(R)緑内障バルブ(ニューワールド・メディカル社)の2 種類のインプラントが承認されている.上記の緑内障患者を対象にして行われた海外での臨床試験では,統計学的有意にトラベクレクトミーよりもバルベルト緑内障インプラントを用いたプレートのあるチューブシャント手術のほうが術後成績がよかった.アーメド緑内障バルブよりもバルベルト緑内障インプラントのほうが術後眼圧が低く維持されるが,低眼圧による合併症が多い傾向にある.手術対象となる症例を絞り込み,術式を選択することが望ましい.
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医学のあゆみ 262巻10号, 937-941 (2017);
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原発閉塞隅角緑内障(PACG)は房水流出路である隅角の閉塞による眼圧の上昇により発症し,急性,亜急性または間欠性の著しい高眼圧により視力障害の原因になりやすい疾患である.東アジア系民族,女性,高齢者に多い.原発開放隅角緑内障(POAG)の数倍失明しやすいと考えられている.しかし,PACGの予備軍である原発閉塞隅角症(PAC)およびその疑い(PACS)においては,手術により治療または予防が可能である.隅角開放を目的として行われる手術加療が第一選択となり,薬物加療のみの予後は不良である.一次的な手術療法にはレーザー虹彩切開術,レーザー周辺虹彩形成術,周辺虹彩切除術,隅角癒着解離術,水晶体再建術がある.急性,慢性,各病期に応じて手術適応や選択を行うが,適応は明確ではない.散瞳,抗コリン剤による急性発作の誘発は手術後には生じない.一次的な手術療法の後に眼圧下降を目的とする薬物,手術加療はPOAG と同様に行われる.続発性の閉塞隅角は原発性と似た機序でありながら一次的手術療法が異なるので,鑑別には注意を要する.
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網膜・硝子体の疾患
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医学のあゆみ 262巻10号, 945-950 (2017);
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糖尿病黄斑浮腫(DME)に対して抗VEGF(vascular endothelial growth factor)薬の適応拡大が飛躍的発展の一歩となった.多くの大規模臨床試験によってDME に対する有効性だけでなく,網膜症を抑制することも示され,これまで標準的治療であった網膜光凝固術に取って代わる可能性が見出された.しかし,抗VEGF 薬の効果を維持するためには永続的に硝子体注射を行わなければならず,実臨床においては現実的ではない.同時に眼内炎のリスクのみならず,社会経済,患者や医師の負担増大などさまざまな問題も生じている.少なからず網膜に侵襲を加えることが治療の宿命であった網膜光凝固術も進歩を遂げ,近年では閾値下凝固によるきわめて低侵襲な治療を行える凝固装置が開発された.従来から広く行われているステロイド局所投与,硝子体手術,次世代の網膜光凝固術などを症例に応じて選択しコンビネーション治療を行うことによって,抗VEGF 薬硝子体注射の回数を減らすための治療戦略を確立することが今後の課題である.
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医学のあゆみ 262巻10号, 951-956 (2017);
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滲出型加齢黄斑変性は,網膜中心部の黄斑部に生じる脈絡膜新生血管からの滲出・出血を特徴とする進行性の疾患である.2011 年にはわが国の中途失明原因の第4 位を占め,今後も患者数の増大が見込まれている.複数の疾患感受性遺伝子が報告されているほか,発症の危険因子として加齢,喫煙,肥満,光線曝露,心血管疾患の既往などが報告されている.近年まで視力予後を改善させる治療法はなかったが,2003 年に光線力学療法,2008 年に抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬が使用可能になり,抗VEGF 薬を継続的に眼内投与することで病巣の安定化を得ることが可能になった.それでもなお,視力改善の程度は限定的であり,その効果を維持するためには頻回の眼内投与が必要である.2014 年9 月にはわが国で自家iPS 細胞由来網膜色素上皮シート移植の第一症例の移植が行われ,世界的関心を集めている.現在は安全性の確認の段階であるが,難治性の本疾患に対し期待される治療法である.
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医学のあゆみ 262巻10号, 957-962 (2017);
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網膜静脈閉塞症(RVO)は,おもに動脈硬化を原因として網膜静脈が閉塞する疾患(有病率約2%)であり,黄斑部に浮腫が起こると視力が著しく低下する.わが国では,RVO の黄斑浮腫に対し,以前よりレーザー治療やステロイド注射,硝子体切除術などの治療が行われていたが,2013 年8 月以降,抗血管内皮増殖因子(VEGF)抗体の硝子体内注射(抗VEGF 療法)が開始され,RVO 治療は大きく変わった.抗VEGF療法は,RVO の黄斑浮腫に対し顕著な治療効果をもつ反面,単回治療では長期の鎮静化は得られず,繰り返し治療を要するため,膨大な医療費と患者負担など多くの課題が残されている.抗VEGF 療法を第一選択とする現在のRVO 治療には,黄斑浮腫に対する他治療との併用,また網膜虚血に対する網膜光凝固治療の適応と時期などを含め,まだ議論すべき問題が残されている.
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医学のあゆみ 262巻10号, 963-967 (2017);
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黄斑円孔の治療は硝子体手術であり,術後成績は良好である.オクリプラスミンなど薬物治療は実用化されていない.また,Stage 1 および2 にまれに自然閉鎖がある.黄斑上膜の治療も硝子体手術(内境界膜剝離を含む)であり,術後成績は小切開硝子体手術を用いることで,良好である.また,光干渉断層計(OCT)による網膜外層の観察が術後視機能の予測に有効である.変視症の改善の予測の不確実性など,本手術特有の特徴を術前に患者へ説明する必要がある.
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医学のあゆみ 262巻10号, 969-975 (2017);
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裂孔原性網膜剝離は進行した場合,失明に至る重大な疾患ではあるが,手術治療によってほとんどの症例で網膜復位が達成されるようになった.網膜剝離に対する手術療法として代表的なものに強膜内陥術と硝子体手術があり,前者はいわば古典的術式であるが,現在でも必要な術式である.一方の硝子体手術は1970 年代初頭に開発された技術が現在の術式の基本となっているものの,2002 年に報告された小切開硝子体手術などの技術革新により,近年急速に発達し普及した術式である.これらの新しい技術はほとんど今世紀に入ってから開発されたものであり,病態の理解と相まって種々の網膜硝子体疾患に対する硝子体手術の適応拡大,治療成績向上,低侵襲化に寄与している.網膜剝離に対する硝子体手術も例外ではなく,術式として強膜内陥術に代わって硝子体手術を選択する割合が急速に増しているのは世界的な傾向である.
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視神経・その他の疾患
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医学のあゆみ 262巻10号, 979-984 (2017);
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視神経炎治療は,通常ステロイド大量点滴療法が選択されるが,治療前に感染症の除外診断が必要である.また,ステロイド治療前に合併症予防として全身検査を行うとともに抗体検査が必須である.とくに抗アクアポリン4(AQP4)抗体は陽性例でステロイド抵抗性の視神経炎をきたすことが多い.視神経炎の抗体検査には抗AQP4 抗体のみならず,再発と関連がある抗MOG 抗体も測定したほうがよい.ステロイド抵抗性視神経炎であれば血液浄化療法も治療選択肢に入る.ステロイドや血液浄化療法後の後療法には少量のステロイド内服および免疫抑制療法が用いられる.虚血性視神経症では動脈炎性の場合にステロイド大量点滴療法が行われ,非動脈炎性なら経過観察となる.うっ血乳頭の場合は脳疾患などの原疾患の治療が優先される.Leber 遺伝性視神経症にはいまだ決定的な治療法がないが,ミトコンドリア遺伝子ミスセンス異常を標的とした遺伝子治療やコエンザイムQ10 内服などが候補にあげられている.
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医学のあゆみ 262巻10号, 985-989 (2017);
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斜視は多様なうえに,個人個人で程度が違うので,どれひとつ取っても同じ斜視はない.斜視に対する治療は,非観血的治療として屈折矯正,プリズム療法などが従来からあるが,2 年前から待望のボツリヌス治療がわが国でも行えるようになり,治療の進歩につながることが期待されている.手術に関しては,近年開発されてきた後天固定内斜視に対する上・外直筋縫着術や,回旋斜視に対する上下直筋の水平移動術などが盛んに行われるようになり,その有効性も多数報告されてきている.なかでも,回旋斜視に対する手術では,本人の複視の自覚の消失が最大の目標となるが,術中に自覚的な回旋斜視角の定量ができる装置(Cyclophorometer)を用いることで,さらに目標達成度が増してきている.
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医学のあゆみ 262巻10号, 990-993 (2017);
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眼瞼下垂により上眼瞼縁が瞳孔領にかかると上方視野障害を中心とした視機能障害が生じる.その他,眼精疲労,頭痛,肩こりなどを引き起こす場合もある.眼瞼下垂の病因は腱膜性,筋性,神経原性,機械性,外傷性など多々あるが,近年コンタクトレンズの長期装用も眼瞼下垂の原因になることがわかってきた.現在,眼科での保険適応の眼瞼下垂手術は“視機能の保持,改善”という根本原則のうえに行われている.術式は下垂の程度やタイプに合わせて多種多様にあるが,おもなものとして挙筋腱膜縫着術,眉毛下皮膚切除,前頭筋吊り上げ術,ミュラー筋タッキングなどがある.最近では吊り上げに人工素材シート(ゴアテックス(R)人工硬膜)を用いたり,切開・止血に炭酸ガスレーザーを使用した術式が開発されている.