医学のあゆみ
Volume 262, Issue 11, 2017
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特集 Onco-Nephrology(癌と腎臓病)
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がん化学療法と急性腎障害(AKI)
262巻11号(2017);View Description Hide Descriptionがん化学療法においては高い頻度で急性腎障害(AKI)が発症し,非発症例と比較して有意な治療成績の悪化と関連することは明らかとなっている.AKI の発症機序はさまざまであり,補液および薬剤の減量・中止により改善する軽症AKI から,集中治療・血液浄化を必要とする重症AKI まで,臨床像も多岐にわたる.なかでも,侵襲度の高い化学療法を必要とする血液疾患に発症するAKI の予後はきわめて悪い.がん治療における腎疾患の重要性がOnco-Nenphrology として再認識されているが,この集学的アプローチにおいてAKI の予防と治療,AKI の経過中における透析療法,薬物の用量調節に関して専門的な見地からケアにあたることが,腎臓医には求められるであろう. -
分子標的薬と腎障害
262巻11号(2017);View Description Hide Description近年,癌の発症・進展メカニズムに直接関与する分子を標的にした分子標的薬の開発が進み,担癌患者の生命予後は改善しつつある.分子標的薬は従来の抗癌剤と比較して毒性は低いが,さまざまな臓器に対する副作用が報告されている.腎に関する代表的な副作用としては,①血管内皮細胞増殖因子(VEGF)およびVEGF 受容体(VEGFR)を代表とするチロシンキナーゼに対する分子標的薬による高血圧,蛋白尿や低カルシウム(Ca)血症,②EGFR ファミリーに対する分子標的薬による低マグネシウム(Mg)血症,③mTOR に対する分子標的薬による蛋白尿や血清クレアチニンの上昇,があげられる.また担癌患者では慢性腎臓病(CKD)合併例が多く,とくに腎障害性の抗癌剤と併用する場合などは,すべての分子標的薬使用中に血清クレアチニンのモニタリングが重要となる.さらに分子標的薬は臨床導入されてまだ日が浅く,今後あらたな副作用が確認される可能性があることから,情報収集に努めつつ,使用期間中は腎機能や電解質を含めた慎重な患者観察が必要である. -
腎移植患者に関連する悪性新生物―適切な待機期間とスクリーニング
262巻11号(2017);View Description Hide Description腎移植患者は悪性新生物罹患のハイリスク患者といわれているが,すべての癌腫に当てはまるものではない.また,悪性新生物の原因としては,Epstein-Barr virus(EBV) によるpost-transplant lymphoproliferativedisorder(PTLD) に代表されるウイルスに起因するものや,免疫抑制剤に起因する皮膚癌などがある.それぞれの癌腫の罹患率やその原因についてはさまざまな文献において考察されており,それらを参考に移植前,移植後のスクリーニングを行うことが重要である. -
がん薬物療法時の腎障害ガイドライン
262巻11号(2017);View Description Hide Description2016 年に『がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2016』が発行された.本ガイドラインはすべての成人がん患者を対象とし,がんに対する薬物療法による直接的な腎障害を対象とした.がんに対する医師,薬剤師,看護師,その他のすべての医療従事者を対象に,日常診療においてよく遭遇すると考えられる臨床上の疑問(CQ)についての判断材料になることを企図して作成した.がん薬物療法施行時の腎機能評価や,薬剤の多様性,医療経済との関係や患者の意見の反映など,本ガイドライン作成上の問題点はあるものの,日本腎臓学会,日本癌治療学会,日本臨床腫瘍学会,日本腎臓病薬物療法学会の4 つの異なる学会が協同して作成したガイドラインであり,できるだけ多くの方に参考にしていただきたい.本稿では本ガイドラインのCQ のうち,シスプラチンに関するCQ について解説した. -
がん化学療法時の腎機能指標
262巻11号(2017);View Description Hide Description腎機能低下時の薬用量調整基準には糸球体濾過値(GFR)を用いる.GFR の推算式としては,Jaffe 法で測定したクレアチニン(Cr)値を用いる場合にはCockcroft-Gault 式を用いることができるが,現在わが国で頻用されている酵素法による血清Cr 値を用いる場合には,日本腎臓学会が提唱しているeGFR 計算式を用いることが推奨される.筋肉量が標準値より著しく異なると考えられる患者では,推算式によるGFR は不正確となるため,イヌリンクリアランス(Cin)によるGFR 実測値を用いるか,実測Ccr を補正することが安全である.筋肉量に影響されないシスタチンC などの指標を組み込んだ推算式の開発が求められる.薬剤投与量は,体格によらない固定量(g/day など)と体格で調整する場合(mg/m2など)がある.前者では体表面積補正をはずしたGFR(mL/min),後者では体表面積補正のGFR(mL/min/1.73 m2)を用いることに注意が必要である. -
がん患者における電解質異常・貧血のマネジメント
262巻11号(2017);View Description Hide Description担癌患者において電解質異常,貧血は非常によくみる合併症である.いずれも患者の予後やquality of life(QOL)に関与するものであり,悪性腫瘍の治療に携わる医師は精通しておく必要がある.電解質異常,貧血ともに,化学療法に関連する場合や,悪性腫瘍そのものに関連する場合など,非担癌患者とは別に考慮すべき点がいくつかある.本稿では,電解質異常のなかでも頻度の高い高カルシウム(Ca)血症,低ナトリウム(Na)血症,低マグネシウム(Mg)血症,低リン(P)血症,低カリウム(K)血症を取り上げた.これらのなかでとくにCa,Mg,P はルーチンの採血で測定しないことが多く,見落としやすい電解質異常であり,担癌患者においては定期的な測定が望ましい.貧血に関しては,通常の腎性貧血と同じ管理を行うと生命予後の悪化や血栓症の合併症のリスクが上がる可能性があり,貧血是正の目的(QOL 維持>臓器・生命予後)に応じた担癌患者独自の対応が必要となる. -
末期腎不全患者におけるがん診療の実態
262巻11号(2017);View Description Hide Description近年,末期腎不全患者のがんは発生も死亡も多いことが明らかになっている.本稿では,末期腎不全患者のがん診療実態,とくに診断,治療について述べる.末期腎不全患者のがん診断における検診はアメリカでは費用対効果の面から推奨されていないが,日本ではいまだ結論がでていない.がんの外科治療では術直後の合併症や他病死の多いことが特徴的である.薬物治療では個々の薬剤の代謝や透析性に応じて用量や投与タイミングを決定する必要があるが,末期腎不全患者への有効性や有害事象に関する詳細なエビデンスはほとんどない状況である.完治不能ながんとの向き合い方も末期腎不全がん患者の重要な課題のひとつである.近年,人生の最終段階と考えられる状態において,日本透析医学会から,「維持透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」がまとめられた.
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連載
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- 臓器移植の現状と課題 9
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小腸移植の現状と課題
262巻11号(2017);View Description Hide Description◎小腸移植は短腸症や腸管運動障害などの腸管不全に対する究極の治療である.腸管不全の患者でも経静脈栄養によって食事によらずに栄養をとることは可能ではあるが,カテーテル感染症や腸管不全関連肝障害によって生命の危険にさらされ,点滴を毎日行わなければならないなどのQOL の低下が問題となっている.小腸移植は,近年成績が向上し,また移植後はQOL 向上が期待できるため腸管不全の治療となりうる.しかし小腸移植が一般的治療として受け入れられるには,さらなる長期成績を向上するために拒絶の制御などの基礎研究を行う必要がある.また小腸移植を普及するためには腸管不全の患者に対して小腸移植という選択肢を提示し,移植施設への適切な紹介していかなければならない.そして経済的なサポートをしていくために法的に認められている臓器移植のなかで唯一保険適用になっていない状況を改善していかなければならないだろう. - テレメディシン ― 遠隔医療の現状と課題 3
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遠隔医療と健康経営
262巻11号(2017);View Description Hide Description◎当社では,遠隔医療を用いた健康リスク改善研修において,従業員の健康状態改善に効果を認めた.通院状況,食生活,運動のいずれも良い状態とはいえない多忙な従業員に,職場や日常における生活習慣を確認,理解したうえで,その改善を指導し,多面的にフォローし,継続して効果が得られた.昨今,会社と健康保険組合が課題解決に向けて協働し,企業の生産性向上と被保険者の健康づくりをともにめざす形に進化させていくことが期待されている.健康に関して当社では施策を実施して終わりとするのではなく,めざす姿を明確にしたうえで,分析を重ね,あらたな施策を検討していくべきと考えている.今後,遠隔医療も活用して,さらなる効果的な推進を行なうためには,産業医や保健師,看護師,産業保健スタッフなどチーム体制を整え,より従業員の職場や日常生活の実情にあったきめ細かい介入をしていくことが重要と考える.
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TOPICS
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- 薬理学・毒性学
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- 医用工学・医療情報学
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- 生化学・分子生物学
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FORUM
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- 生殖倫理の現況と展望 NEW
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- 生殖倫理の現況と展望 1
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病院建築への誘い―医療者と病院建築のかかわりを考える特別編―病室空間を考える
262巻11号(2017);View Description Hide Description◎本シリーズでは,医療者であり,建築学を経て病院建築のしくみつくりを研究する著者が,病院建築に携わる建築家へのインタビューを通じて,医療者と病院建築のかかわりについて考察していきます. - パリから見えるこの世界 60
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