医学のあゆみ
Volume 263, Issue 11, 2017
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特集 iPS 細胞技術を駆使したがん,感染症のあらたな制御
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再生したキラーT 細胞を用いたがんの免疫細胞療法― 他家移植用の即納T 細胞製剤の開発
263巻11・12号(2017);View Description Hide Descriptionがんの免疫療法の領域では,細胞傷害性T 細胞(CTL)を利用した養子免疫療法は一定の成績をあげているが,患者由来のCTL はすぐに疲弊してしまうという問題点があった.この問題に対して,著者らはiPS 細胞技術を用いた戦略を進めている.まず抗原特異的CTL からiPS 細胞を作製し,そのiPS 細胞からCTL を再生すると,すべてが元のCTL と同じ特異性をもつCTL になる.著者らは2013 年に,まずメラノーマ抗原MART-1 特異的CTL の再生に成功し,最近さらに高品質なCTL の分化誘導に成功した.現在臨床応用に向けて,特定のTCR 遺伝子をiPS 細胞に導入する方法の開発を進めている.この方法をHLA ハプロタイプホモiPS 細胞株に利用すれば,他家移植用の“即納可能な再生CTL 製剤”を作製できると考えている.最初の臨床応用例としては,WT1 抗原を標的とし,急性骨髄性白血病を対象とした戦略を考えている. -
再生iPS-NKT 細胞を用いたがん免疫療法の開発
263巻11・12号(2017);View Description Hide DescriptioniNKT 細胞は単一のT 細胞受容体(TCR)α鎖を発現する細胞で,その受容体は人類に共通である.また通常のiNKT 細胞のTCR は,CD1d に結合した糖脂質を認識するが,そのCD1d もすべてのヒトに共通である.ゆえに,NKT 細胞の抗原はすべての担がん患者に応用でき,活性化するとNKT 細胞は速やかに大量のIFN-γを産生し,NK 細胞を活性化する.iNKT 細胞の直接的抗腫瘍効果は,NK 細胞に比較して弱いが,その抗腫瘍効果を高めることができれば,がんを直接殺傷できる有効な手段となりうる.そこで,治療に利用するためには機能性の高い再生iNKT 細胞を作製することと,iNKT 細胞を大量に誘導する技術が必要である.著者らは,iPS 細胞技術を利用してiPS 細胞へとリプログラミングさせた後,iNKT 細胞に再分化させることで,再生ヒトVα24+ iNKT 細胞(iPS-NKT 細胞)を誘導しえたので,その有効性を示す. -
iPS 細胞由来MAIT 細胞を用いた細胞治療・再生医療の可能性
263巻11・12号(2017);View Description Hide DescriptionMAIT 細胞は自然免疫型T 細胞に属するヒト最大のT 細胞亜集団で,自然免疫と適応免疫とを橋渡しする.MAIT 細胞は微生物からの生体感染防御において重要な役割を果たすとともにヒト自己免疫疾患,肥満・2 型糖尿病などの生活習慣病,がんなど,広範囲の免疫関連疾患にも関与している.これらの疾患ではMAIT 細胞は血中から消失するが,感染やがんでは感染部位や病変部にMAIT 細胞が集積する.疾病から回復したヒトではふたたび血中にMAIT 細胞が戻ってくるが,重度の感染症やHIV 患者ではこの回復がみられず,院内感染や日和見感染によって生命の危機にさらされる.MAIT 細胞は増殖能が貧弱で,アポトーシスにより死にやすいことから,疾病で失われたMAIT 細胞を外部から補うことで免疫能を取り戻すことができると期待される.本稿ではこの実現のため,iPS 細胞由来MAIT 細胞の可能性について紹介したい. -
同種iPS 細胞由来γδT 細胞を用いたがん免疫療法の可能性
263巻11・12号(2017);View Description Hide DescriptionγδT 細胞は,T リンパ球の多くを占めるαβT 細胞とは異なる特徴をもつT 細胞である.1 つの種類のγδT細胞が多くの種類のがん細胞を攻撃することができる.また,γδT 細胞は,自己のがん細胞のみならず他人のがん細胞であっても攻撃することができる.したがって,iPS 細胞から大量にγδT 細胞を作製すれば,1 品目で多くのがん患者の治療に役立てられる可能性が考えられる.iPS 細胞由来γδT 細胞を用いたがん免疫療法は,一般に新規治療法が真の実用化に至るために必要な6 つの要素,すなわち,①大きな潜在的市場がある,②既存の治療法では治療困難な疾病を標的とする,③iPS 細胞独自の特徴を活用している,④要素技術に臨床的現場での先行事例がある,⑤臨床効果において進歩性がある,⑥技術的基盤がある,という要素のすべてを満たすものであることから,実用化の可能性が大きく期待できるものである. -
多能性幹細胞からミエロイド系細胞への分化誘導技術と疾患治療への応用
263巻11・12号(2017);View Description Hide Descriptionミエロイド系血液細胞に属するマクロファージ,樹状細胞,および顆粒球は,個体発生,感染防御,免疫応答制御,組織修復,恒常性維持などにおいて重要な役割を担っている細胞である.これらの細胞を細胞医薬品として投与することができれば,さまざまな疾患の治療に応用できる可能性がある.しかし,人体から採取したミエロイド細胞を増殖させることはできないため,単球由来の樹状細胞を用いたがんワクチン治療以外には,このような医療はほとんど実施されていない.増殖能力を有する多能性幹細胞(ES 細胞あるいはiPS 細胞)を細胞ソースとして,ミエロイド系血液細胞を安定製造できるようになれば,この問題を解決できる可能性がある.本稿では,過去20 年の間に報告された,マウスあるいはヒトの多能性幹細胞からのミエロイド系血液細胞の作製についての研究を紹介する. -
再生医療時代におけるあらたな移植免疫制御
263巻11・12号(2017);View Description Hide DescriptioniPS 細胞は適切な環境下で培養することでありとあらゆる細胞種へ分化誘導することが可能であり,移植臓器不足問題が深刻化するなかであらたなドナーソースとして注目されている.一方で,移植に付随して起こる拒絶反応の問題は,iPS 細胞を用いた医療においても考慮するべき点である.著者らはこれまでにiPS 細胞から作製した免疫抑制性細胞によってレシピエントの治療を行い,iPS 細胞由来組織の生着期間が延長可能であることを見出してきた.そのほかにも免疫チェックポイントを標的としたり,HLA の遺伝子改変によって拒絶を起こりにくくするなど,多能性幹細胞であるからこそ可能になる免疫制御法が開発されてきている.より安全なiPS 細胞由来組織移植を提供するために,今後ますます免疫学的研究を発展させていく必要がある. -
胸腺の再生 ― 現状と課題
263巻11・12号(2017);View Description Hide Description胸腺はT 細胞分化を支持する臓器である.本稿では胸腺の発生と構造について紹介した後に,T 細胞と胸腺上皮細胞の分化過程について概説する.両者にはそれぞれが分化するために互いにシグナルを送り合うという相互作用依存性がみられる.胸腺上皮細胞は皮質上皮細胞と髄質上皮細胞からなる.この10 年ほどの間に,共通前駆細胞や各系列に特異的な前駆細胞,自己複製能を有する幹細胞の存在を示唆する報告が相次いだ.このような幹細胞・前駆細胞が存在することから,胸腺は一般に高い再生能を有する.一方,成人後は急速に退縮することもよく知られている.このため,中高年の患者が造血幹細胞移植を受けた場合,T 細胞の再生が遅れることが問題となっていた.胸腺の再生について現在行われている開発研究や臨床試験の多くは,胸腺を生体内で再生させることに主眼をおいている.一方で,他の細胞に転写因子を強制発現することで人工的に胸腺上皮細胞を作製する試みや,ヒト多能性幹細胞から胸腺上皮細胞を再生しようという研究も行われている.まだ十分に機能的な胸腺上皮細胞が試験管内で再生されるには至っていないが,今後の発展が期待される. -
細胞初期化技術を応用したがんエピゲノム研究
263巻11・12号(2017);View Description Hide Description細胞のアイデンティティーは,DNA メチル化やヒストン修飾のようなエピジェネティックな機構によって安定的に維持・継承されている.iPS 細胞の樹立成功を代表とするさまざまな研究を基盤として,現在では1つの体細胞からあらゆる細胞種への人工的な細胞運命転換が可能となった.iPS 細胞の誘導過程を含めた細胞の運命転換過程では塩基配列情報の変化は必要としないが,その一方で,大規模なエピゲノムの改変が誘導される.近年,細胞初期化技術をがん研究に応用することによって,がんの遺伝子異常を背景としたままがん細胞のエピゲノムに積極的に介入し,がんエピゲノムの本質や意義に迫ろうとする研究が行われている.本稿では,細胞初期化技術を応用したがん研究について,最近の現状と今後の展望を概説する. -
疾患iPS 細胞 ― 血液疾患の病態解明への応用
263巻11・12号(2017);View Description Hide Description血液細胞や線維芽細胞などの体細胞にリプログラミング因子とよばれる遺伝子を導入することにより,ES細胞とほぼ同等の自己複製能と分化多能性をもつiPS 細胞を誘導することが可能になった.iPS 細胞は,体を構成するさまざまな細胞にin vitro で分化誘導することが可能である.このことから,患者の体細胞からiPS細胞を樹立することにより,患者と同じゲノムプロファイルをもつ細胞を誘導することが可能となり,さまざまな領域においてiPS 細胞技術を用いて疾患のモデリングが行われるようになった.血液の領域においても先天性骨髄不全症候群や腫瘍性疾患(骨髄異形成症候群,急性骨髄性白血病,慢性骨髄性白血病など)において,患者の細胞からiPS 細胞が樹立され,病態モデルの構築に成功している.今後iPS 細胞技術を用いた研究により,疾患のメカニズム研究や創薬研究において新しい知見が得られることが期待される.
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連載
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- テレメディシン ― 遠隔医療の現状と課題 13
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画像認識を用いた食事の記録,解析ツール:FoodLog
263巻11・12号(2017);View Description Hide Description◎健康管理にとって食事記録は必須の手段であるものの,その健康医療の現場ではいぜんとして記録用紙へのテキストでの記入という古典的な手法に頼っている.手間のかかる作業であるだけに,その情報技術による革新が望まれている.著者らはスマートフォンでそのデジタル写真を利用し,画像認識・検索で支援する新しい食事記録の仕組みFoodLog を開発し,一般公開してきた.本稿ではその概要を紹介し,そこから得られるデータの統計について紹介し,今後の展望について論じる.
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救急医学 ― 現状と課題 4
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重症外傷における大量出血と凝固障害― 外傷と凝固異常
263巻11・12号(2017);View Description Hide Description◎重症外傷患者の急性期死亡原因としての出血はきわめて重要である.外傷患者の急性期に認められる凝固異常は,アシドーシス,低体温などの生理学的恒常性破綻や輸液・輸血による希釈などに起因するものであり,治療に伴う副産物であるとされてきた.2000 年以降,外傷そのものによる生じる急性期凝固異常の存在が広く認識されてきている.外傷とこれに伴うショックそのものにより惹起される線溶亢進病態であるacute traumatic coagulopathy,さらに大量輸液・輸血治療などの蘇生にかかわる因子が加わり形成される総体としてのtrauma-induced coagulopathy がこれらを形成するが,そのメカニズムはかならずしも明確ではない.しかしいま,凝固障害の回避と治療戦略であるdamage control resuscitation は,重症外傷に対する治療戦略としての世界的中心的課題である.
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TOPICS
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- 消化器内科学
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- 腎臓内科学
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- 脳神経外科学
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FORUM
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- ノーベル生理学・医学賞2017
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病院建築への誘い─医療者と病院建築のかかわりを考えるVol.5
263巻11・12号(2017);View Description Hide Description◎本シリーズでは,医療者であり,建築学を経て病院建築のしくみつくりを研究する著者が,病院建築に携わる建築家へのインタビューを通じて,医療者と病院建築のかかわりについて考察していきます. - 生殖倫理の現況と展望賞 11
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