Volume 264,
Issue 1,
2018
-
【1月第1土曜特集】 腸内細菌と臨床医学
-
-
Source:
医学のあゆみ 264巻1号, 1-1 (2018);
View Description
Hide Description
-
総論
-
Source:
医学のあゆみ 264巻1号, 5-11 (2018);
View Description
Hide Description
腸内細菌叢構成菌をはじめて顕微鏡観察したのはオランダのLeeuwenhoek であり,17 世紀のことである.しかし,彼は専門性をもつ研究者ではなかったため,腸内細菌叢の研究の開始は19 世紀後半であった.Pasteur は乳酸発酵を行う乳酸菌,Escherich は大腸菌,Tissier はBifidobacterium,Moro はLactobacillus を分離培養した.20 世紀初頭,Methnikoff は長寿とヨーグルト中の乳酸菌との関連性を提唱した.またEggerth とGagnon はBacteroides,Eubacterium などの嫌気性菌を分離した.これらの先達によって確立された滅菌法および純培養法を基盤にして,20 世紀後半に動物およびヒトの腸内細菌叢の形成ならびに疾患との関連性についての多数の研究が行われた.Gustafsson とMidtvedt は無菌動物,Dubos とShaedler はSPF マウスの原型であるNCS マウスの作出を行い,腸内菌叢の研究に活用した.わが国の光岡知足は腸内細菌叢の嫌気培養技術の確立を行うとともに,ヒトの腸内細菌叢の形成についての先駆的研究を行った.Fuller はプロバイオティクスを,「宿主の微生物バランスを改善することによりその投与が宿主に利益的に作用する生きた微生物」と定義した.これらの先達の腸内細菌叢に関する研究成果は現在,隆盛を極める腸内細菌叢研究の確固たる基盤となっている.
-
Source:
医学のあゆみ 264巻1号, 13-20 (2018);
View Description
Hide Description
ゲノム解析法が進歩し,2007 年からアメリカとEU でフローラに関する大規模なプロジェクトがスタートしたことで,ヒトフローラへの関心が一気に高まった.とくに腸内フローラと疾病の関係が取りあげられるようになり,多くの16S rRNA のシークエンスを基とした分子生物学的解析やメタゲノム解析の報告がなされている.これまでの培養法で積み上げられてきた成果とは切り口が異なるが,その本質の概念は大きな差はない.ヒトは出生直後から腸内に菌が検出され,離乳期後に大きく変動し成人型へと移行する.高年齢になるとビフィズス菌が減少してClostridium が増加する.おおまかにいうと腸内フローラの多様性が少なくなり,dysbiosis 状態になると病的状態に近づく.腸内フローラの構成は食事などの生活習慣,ストレス,環境に大きな影響を受ける.
-
Source:
医学のあゆみ 264巻1号, 21-26 (2018);
View Description
Hide Description
腸内細菌叢をはじめとする腸内微生物叢と健康・疾病との関係がつぎつぎと明らかにされ,腸内微生物叢の研究はますます活気づいている.このブームともいえる潮流のきっかけをつくり支えている技術のひとつが,次世代シーケンサーを使ったメタゲノム解析である.腸内微生物叢を対象としたメタゲノム解析には,16S rRNA メタゲノム解析と全ゲノムショットガンメタゲノム解析の2 種類があり,それぞれに特徴がある.メタゲノム解析の実施に際しては,この2 種類のメタゲノム解析の特徴を理解し,試料の保存・処理方法など最低限の注意点を守って実施することが重要である.現在では,解析単価も下がり,解析を委託することができる会社も増えたため,腸内微生物叢を対象としたメタゲノム解析はもはや,一部のラボでしか行われない“特殊な”解析ではなくなった.今後,腸内微生物叢を対象としたメタゲノム解析は,糞便以外の幅広い試料や腸内細菌以外の真菌・ウイルスなどを対象にしても実施されると考えられる.
-
Source:
医学のあゆみ 264巻1号, 27-33 (2018);
View Description
Hide Description
今日,国際的に急増しているヒトマイクロバイオーム研究から,ヒト腸内細菌叢の変容(dysbiosis)が臓器や組織を問わず全身的なさまざまな疾患とかかわることが明らかとなってきた.これらの疾患患者の細菌叢のdysbiosis の評価はコントロールとなる健常人の細菌叢データとの比較による.一方で,食・生活習慣などの腸内細菌叢に影響するさまざまな要因がたがいに異なる国・集団の健常人データの相違に関する知見は乏しい.そこで著者らは次世代シークエンサー(NGS)を用いて日本人(成人)健常人の腸内細菌叢データを収集し,それらと他の国々(欧米中などの11 カ国)の健常人データと比較し,日本人腸内細菌叢の特徴,国・集団レベルでの多様性,さらには細菌叢構造と食習慣などとの関連性を調べた.
-
Source:
医学のあゆみ 264巻1号, 34-38 (2018);
View Description
Hide Description
腸内細菌叢を構成する細菌種は,多様な分子機構により宿主腸管免疫系の誘導・教育・機能獲得などに影響を与える.正常な腸内細菌叢による宿主免疫系の構築は,病原性細菌に対する生体防御に機能するとともに,食事成分などの無害な抗原に対する免疫寛容の誘導においても必須である.近年,腸内細菌叢の乱れが炎症性腸疾患のみならず多様な疾患に関与することが明らかとなっている.今後,宿主免疫系と腸内細菌叢の共生関係維持にかかわる分子機構のさらなる解明が,多様な疾患の病因解明および新規治療法の開発につながることが期待される.
-
Source:
医学のあゆみ 264巻1号, 39-45 (2018);
View Description
Hide Description
肥満は食習慣や運動習慣などの環境要因と遺伝的要因が複雑に絡み合うことで発症し,糖尿病などのエネルギー代謝疾患に代表される生活習慣病の主要因となりうることが広く知られている.近年,この要因のひとつとして腸内細菌の影響を示唆する報告が多数なされており,腸内細菌叢の破綻が肥満や糖尿病などのエネルギー代謝疾患の発症につながる可能性が科学的にも証明されはじめた.そして,腸内細菌叢の変化が宿主に及ぼす影響の実質的な分子実体として,腸内細菌代謝産物が注目され,その宿主側受容体機能解析によるエネルギー恒常性維持機構の分子メカニズムが明らかとなりつつある.本稿では,腸内細菌および腸内細菌代謝産物の変化と,エネルギー代謝疾患との関連について,現在までの知見と今後のあらたな予防・治療戦略について述べる.
-
Source:
医学のあゆみ 264巻1号, 46-50 (2018);
View Description
Hide Description
近年,腸内常在細菌叢の異常(dysbiosis)が多くの疾患の発症に関連することが注目されている1).腸内常在細菌と宿主の免疫系は密に相互作用しており,腸内細菌の刺激によって宿主の免疫系は成熟し,逆に腸内細菌の刺激によって産生されるIgA 抗体が腸内常在細菌叢を制御している.抗体は獲得免疫の主たるプレーヤーであり,病原菌の感染時には病原菌特異的な抗体が検出可能である.一方,腸内常在細菌叢はすくなくとも100 種以上の菌種で構成されており,食事や抗生物質などの外的要因で日々変化している.このような状況において,腸管IgA 抗体が腸内常在細菌の何を認識して腸内細菌叢を制御するかについてはほとんど明らかにされていない.著者らはマウスの小腸由来IgA 産生細胞からハイブリドーマを作製し,各モノクローナルIgA 抗体が認識する腸内常在細菌由来分子を同定した.本稿ではこの細菌由来分子を中心に,IgA 抗体による腸内細菌制御機構について考察をする.
-
各論
-
Source:
医学のあゆみ 264巻1号, 53-58 (2018);
View Description
Hide Description
過敏性腸症候群(IBS)の病態に腸内細菌が大きく関与している可能性が高い.まず,IBS は感染性腸炎に罹患し,回復した後で発症する一群があることが知られている.IBS の腸内細菌組成も健常人とは異なる.IBS 糞便中の短鎖脂肪酸の濃度は消化器症状,quality of life,性格傾向にまで影響している.短鎖脂肪酸の種類による健康維持とIBS 病態の分水嶺を腸内細菌が左右するモデルが注目される.一方,ストレスは腸内細菌組成を変容させ,粘膜透過性亢進と内臓知覚過敏を招き,IBS の病態に沿った病理変化を起こす.IBS の腸内細菌を変容させる手段として,抗菌薬投与,糞便移植,プロバイオティクス投与がなされている.プロバイオティクス投与で症状が改善する場合には,同時に抑うつを中心とする中枢機能が改善する.IBS の腸内細菌を脳腸相関に沿ってさらに検討する活動が有望である.
-
Source:
医学のあゆみ 264巻1号, 59-64 (2018);
View Description
Hide Description
カプセル内視鏡やバルーン内視鏡の開発により,小腸の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)/アスピリン起因性小腸粘膜傷害の発生が高頻度であることが明らかとなった.NSAIDs/アスピリン起因性小腸傷害の形成過程で,腸内細菌,とくにグラム陰性菌が,Toll-like receptor 4 を代表とする自然免疫を刺激し,それによって炎症が惹起されることが明らかとなっている.また,臨床的によく使用されている酸分泌抑制剤であるプロトンポンプ阻害薬(PPI)の内服が小腸細菌叢(フローラ)のdysbiosis を誘起し,NSAIDs 起因性小腸傷害を増悪させる可能性が示唆されている.現在,NSAIDs/アスピリン起因性小腸傷害治療薬として決まったものは存在しないが,治療薬候補としてプロバイオティクス,プレバイオティクスの機序をもつ薬剤があげられており,臨床研究や基礎研究でエビデンスを集積しているところである.
-
Source:
医学のあゆみ 264巻1号, 65-70 (2018);
View Description
Hide Description
腸管に存在する膨大な種類の細菌の構成バランスは炎症性腸疾患の病態に深く関与している.この構成バランスは遺伝因子,環境因子,胃酸抑制剤や抗生剤などの医療因子,食物,腸管上皮,腸管免疫など多種多様な要因により制御されている.一方,腸内細菌も腸管上皮や腸管免疫系を制御して複雑に入り交じったネットワークを形成している.このネットワークの正常なバランスを逸脱した変化は炎症性腸疾患発症の一因となる.わが国は腸内細菌に対して臨床的に豊富な実績と歴史を有している.細菌の正常な構成バランスを維持するためのprobiotics や栄養療法は古くから用いられているとともに,Crohn 病に対する糞便移植も1995 年に世界に先がけて実施されている.また,腸内細菌の作用機序を解明するためのあらたな科学的根拠もわが国より発信されている.本稿では炎症性腸疾患の病態に関与する複雑な“腸内細菌ワールド”を基礎と臨床の側面から簡潔に解説する.
-
Source:
医学のあゆみ 264巻1号, 71-75 (2018);
View Description
Hide Description
大腸癌の発生・進展において,腸内に常在する微生物叢が関与し,そのなかでもとくに口腔や腸内の常在細菌群のひとつであるFusobacterium 属が重要な役割を果たしていることが報告されている.また,Fusobacterium 属のF. nucleatum が大腸癌で炎症を惹起し,ミスマッチ修復遺伝子のMLH1 の高メチル化を引き起こすことも明らかになりつつある.これらの研究成果は,serrated pathway から発生するmicrosatellite instability(MSI)陽性癌の発癌過程で,Fusobacterium がその発生だけでなくエピゲノム異常にも関係していることを示唆している.これまでに著者らが行った臨床検体での解析では,Fusobacterium属は日本人大腸癌の56%で陽性であり,その発現レベルが高い群ではMSI 大腸癌の頻度も有意に高くなることを明らかにしてきた.また,人種差においては,F. nucleatum は日本人の癌9%,アメリカ人の癌13%で陽性,またMSI は日本人の癌8%,アメリカ人の癌16%で陽性であり,いずれも日本人の大腸癌で頻度がやや低い傾向が認められた.これらの結果は,人種による大腸癌のF. nucleatum 陽性率の違いがMSI の頻度に影響を与えている可能性を示唆している.一方,F. nucleatum と生活習慣に関して,質素な食事(全粒穀物,野菜,魚)を多く摂取することでF. nucleatum 陽性大腸癌の発生リスクが低くなるというアメリカの大規模なコホートを用いた報告もあり,今後,大腸癌のFusobacterium 研究はその発生やMSI 陽性癌における発癌機構解明だけでなく,食生活の改善による癌予防など将来的な臨床応用も期待される.
-
Source:
医学のあゆみ 264巻1号, 76-81 (2018);
View Description
Hide Description
日本人の腸内細菌叢は世界の国とは距離をおく特徴的なものであり,Bifidobacterium 属が多いことも特徴である.糞便中Prevotella 属が減少することが慢性便秘症で観察されるが,粘膜関連細菌叢ではBacteroidetes 門が増加している.慢性便秘患者の糞便を無菌マウスに移植したノトバイオート研究からあらたな病態機構の解明が進みつつあり,短鎖脂肪酸,胆汁酸などの腸管内代謝物研究が進められている.慢性便秘症に対する糞便移植も試みられている.
-
Source:
医学のあゆみ 264巻1号, 82-87 (2018);
View Description
Hide Description
肝疾患の機序は腸内細菌の異常に加え,腸管バリアー機能異常(leaky gut),さらには肝における腸内からの攻撃因子に対する過剰応答性が重要なメカニズムであると考えられる.アルコール性肝障害の機序は,これまではアセトアルデヒトによる肝への直接障害と考えられてきた.近年ではそれに加え,アルコールによって発生した腸内細菌による飽和脂肪酸合成の低下,その結果脂肪酸を餌とする乳酸菌の減少があり,さらに乳酸菌で維持されてきた腸管バリア機能の低下や,腸内からのエンドトキシンなどの肝への曝露が起こり肝障害が発症するとする詳細な機序が明らかになった.また,最近患者数が増加している非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)では腸内細菌の異常に加え,腸管透過性の異常,肝でのエンドトキシン感受性の亢進など多数の機序を介して疾患が増悪することが考えられている.肝疾患の終末像である肝硬変では,その腸内細菌叢の異常は口腔内細菌の増加を特徴とすることが明らかにされた.現在,肝の病態解明に際しては,腸内細菌が上記のように重要な役割を果たしていることが明らかになった.原発性硬化性胆管炎(PSC)ではモデル動物の知見より,常在腸内細菌が胆管の障害に保護的に働いていることが示唆されており,腸内細菌のdysbiosis が胆管の障害発症に強く関与していると考えられている.
-
Source:
医学のあゆみ 264巻1号, 88-93 (2018);
View Description
Hide Description
腸内細菌とさまざまな疾患との関連が明らかにされており,臨床医学のなかで,疾患の発症予測法への応用や治療標的として注目されている.著者らは,循環器疾患と腸内細菌との関連を調査する臨床研究と腸内細菌がどのような機序で心血管病に影響を与えるのかを解明する基礎研究を実施している.そのなかで,冠動脈疾患に特徴的な腸内細菌叢を同定しており,現在その関連機序の解明や治療への応用研究を継続して行っている.さらに,心不全との関連も調査が進んでおり,広く心血管病における腸内細菌叢への介入治療の可能性を追求している.本稿では世界で行われている腸内細菌と動脈硬化性疾患との関連研究の現状を紹介し,この分野の将来展望を述べたい.
-
Source:
医学のあゆみ 264巻1号, 94-98 (2018);
View Description
Hide Description
2 型糖尿病・メタボリックシンドロームは生活習慣の乱れから,内臓脂肪の蓄積と慢性炎症が生じ,インスリン抵抗性を発症することが病態の基盤と考えられている.しかし近年,この病態に腸内細菌のdysbiosis が関与していることが明らかにされた.この病態では,腸内細菌において短鎖脂肪酸産生やムチン層維持能の低下が認められ,高エンドトキシン血症が生じ,宿主にインスリン抵抗性を引き起こしている.腸内細菌の機能を補完する治療として,プロバイオティクスや便微生物移植術が試みられ,病態の改善が報告されている.メトホルミンや胆汁酸吸着剤などの既存の薬剤も,腸内細菌の機能変化を介して病態の改善に寄与していることが明らかとなった.一方,食品用乳化剤は腸内細菌を介して病態を悪化させる可能性が示されている.腸内細菌を利用した2 型糖尿病・メタボリックシンドロームのあらたな治療戦略が期待される.
-
Source:
医学のあゆみ 264巻1号, 99-104 (2018);
View Description
Hide Description
妊娠経過が進むにつれて妊婦の腸内細菌叢のα多様性は減少し,β多様性は増加していく.細菌種の構成異常(dysbiosis),炎症,体重増加はメタボリックシンドロームの特徴であり,2 型糖尿病のリスクを増大させる.メタボリックシンドロームと同じような変化が正常妊婦でも起こっていることがわかってきたが,妊婦にとっては腸内細菌叢の変化は必要なものであり,正常の妊娠経過や胎児の成長に貢献していると考えられている.このような妊娠という環境の変化に加え,妊娠中の食事や抗菌薬の使用により母体やその子における腸内細菌叢の変化が生じ,児の免疫機構にも影響を及ぼし,アレルギーをはじめとする種々の疾患を併発する可能性が示されはじめている.炎症が関与している流産や早産をすこしでも減らすためにも,妊娠中はもちろん妊娠前や授乳期における腸内細菌叢の自己管理が重要である.
-
Source:
医学のあゆみ 264巻1号, 105-110 (2018);
View Description
Hide Description
多発性硬化症(MS)の患者数は近年顕著に増加しているが,著者らは,急速に進んだ食生活の欧米化(westernization)が腸内細菌叢偏倚を介して免疫系の変調,ひいてはMS 発症の増加につながっている可能性を考えている.興味深いことに,この数年,日・米・欧各国からMS の腸内細菌叢偏倚(dysbiosis)を確認する研究成果が発表された.制御性T 細胞を誘導する酪酸産生菌(butyrate producing bacteria)の減少やTh17 細胞を誘導する菌種の増加などが報告されているが,これらの異常の一部はwesternizationに起因するものかもしれない.腸内細菌叢偏倚を矯正する方法として食生活の改善,糞便移植,特定の菌種の補充療法なども検討されている.腸内細菌叢と薬剤感受性の対応を解析する研究,腸内細菌由来の新薬の開発も加速しており,脳の病気MS を腸内環境の制御によって根治に導く時代の到来が予想される.
-
Source:
医学のあゆみ 264巻1号, 111-117 (2018);
View Description
Hide Description
後退性自閉症(RA)は生後15~30 カ月に発症し,消化器症状を伴っている場合が多い.このような患児には,Clostridiales の増加を特徴とするfecal microbiota の異常が現れ,特定の腸内代謝物の増加がみられる.また,自閉症スペクトル障害(ASD)児は機能性胃腸障害(FGID)を伴っている場合が多い.このような患児には,Clostridiales の増加を特徴とするmucosal microbiota の異常(fecal dysbiosis)が現れ,粘膜中にcytokines やtryptophan-serotonin system の分子の異常で示されるmucosal dyshomeostasis がみられる.消化器症状を呈するRA 患児とFGID をもつASD 患児は,ほぼ同じサブタイプのASD に階層化されると考えられるが,いずれの場合もintestinal clostridiales が重要な役割を演じていることが明らかになった.
-
Source:
医学のあゆみ 264巻1号, 118-122 (2018);
View Description
Hide Description
糞便微生物移植法(FMT)とは,多様性が低下した患者の腸内細菌叢を健常人の腸内細菌叢に置換する治療法である.その原型は4 世紀ごろには試みられており,長い歴史を有する治療法であるが,近年の基礎医学的な研究の進展に伴って急速に普及が進み,あらたな展開が模索されつつある治療法となっている.本法は致死性の疾患であるClostridium difficile 感染症の治療において,劇的な治療効果を発揮した.現在は,過敏性腸症候群などの機能性疾患への治療応用や,自閉症やうつ病・糖尿病などの消化管疾患以外への治療応用が模索されている.さらに,安全性・簡便性を向上させるために,健常人の糞便を集めた糞便バンクの開発や,カプセル化した細菌カクテルの開発など,さまざまな試みが進められており,今後の発展が期待されている治療法である.
-
Source:
医学のあゆみ 264巻1号, 123-127 (2018);
View Description
Hide Description
プロバイオティクスは以前から注目されていたが,近年の解析技術の向上に伴い,さまざまな疾患や病態に腸内細菌叢の関与が示され,その重要性や将来性がより期待されている.プロバイオティクスの活用法として,いわゆる有用菌と考えられる菌を補充して腸内細菌叢のバランスを改善することを目的とするが,有用菌のなかでも特定の機能をもった菌を探し出して補充する方法が多い.また,治療のターゲットは消化管に限らず,免疫機能などの制御を介してアレルギーなど全身のさまざまな病態を改善する可能性が示されている.一方で,その有効性を示す証拠は検討によってさまざまで,プロバイオティクス開発の背景にある問題点もわかってきた.現在,科学者の研究データ,企業の開発力や安全な生産体制,行政の承認体制などの連携によって消費者に高品質で安全かつ科学的に有効性が示されたプロバイオティクスが提供できるよう世界中で開発競争が続いている.