医学のあゆみ
Volume 264, Issue 4, 2018
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特集 ライフコースの観点からみたコホート研究とその成果
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ライフコースの視点からみるコホート研究
264巻4号(2018);View Description Hide Description世界的な少子高齢化が進行するなか,ライフコースの視点から,人生の各ステージにおける生活習慣や環境要因が,短期・中期・長期的に人の健康や生活に与える影響を,複眼的な視点から解明することが求められている.さらに,その研究成果を健康増進,疾病の重症化予防,健康寿命延伸の観点から,現場での実践や政策展開に資するために,日本におけるコホート研究成果の統合やデータリンケージによるデータ利活用の推進が求められる状況にある.今後の胎生期・小児期・思春期・成人期・高齢期におけるデータベース間の相互利活用や,ライフコースアプローチによる研究進展のためにも,本稿では,ライフコースアプローチによる研究概要や,分析モデルの視点を紹介し,各コホートデータからの報告につなげる. - 【出生からのコホート】
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子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)
264巻4号(2018);View Description Hide Description子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)は,環境省の事業として2010 年度から開始された環境化学物質の健康影響に主眼をおいた出生コホート研究である.全国15 カ所の地域で,約10 万組の親子の参加を得て,調査が継続されている.エコチル調査は母親の妊娠期から調査をスタートして,子どもが13歳に達するまでの期間,追跡調査を継続する計画となっており,ライフコースのなかで,胎児期から学童期までをカバーするものである.エコチル調査は環境化学物質の影響をとらえることを第1 の目標に設定しているものの,そのアウトカムとして考えられているものは多岐にわたり,またそれらには遺伝,生活習慣,社会経済因子など,多くの要因が関連する.そのため,調査内容には多くの疾患や健康状態と環境化学物質以外の種々の要因が含まれている.エコチル調査の成果は環境保健領域にとどまらず,幅広い分野に及ぶことが期待される. - 【小児からのコホート】
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世界および日本の子どものコホート研究
264巻4号(2018);View Description Hide Description子ども期からコホート集団を追跡調査することで,子どもにとってどのようなかかわり方や社会環境の場合に,子どもの健康を守ることができるのかについてのエビデンスを創出することができる.世界にはこのようなコホート研究が数多くあり,重要な研究成果を発信している.たとえば,イギリスの出生コホートからいえることは,幼少期の貧困,養育環境,親のかかわり方がその後の健康において非常に重要だということである.日本の代表例として,厚生労働省が実施している21 世紀出生児縦断調査(2001 年のある2 週間に出生した子ども約50,000 人を追跡している調査)があり,すでに15 歳までの追跡がなされている.この調査から数多くの調査結果が報告されており,日本の子どものための健康政策,教育政策,そして子育て世代への支援策にいかされることが期待されている. - 【成人勤務者のコホート】
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大阪の勤務者における生活習慣病の変化
264巻4号(2018);View Description Hide Description勤務者の健康が企業の経営面にも大きな影響を与えるという“健康経営”の考え方が広がっており,勤務者の健康上の問題点を把握することはますます重要になっている.本稿では,大阪の勤務者の健診結果から,生活習慣病が2000 年代以降,10 年間でどのように変化したかを,生活習慣の変化を交えて検証した.男性は10 年前の同じ年齢層と比較して,運動をしている人の割合が増加し,喫煙および飲酒者の割合が減少していたが,間食夜食をする人の割合が増加していた.生活習慣病に関しては,肥満,脂質異常症および糖尿病の頻度が増加していた.女性は運動をしている人が増加する一方,喫煙および飲酒者の割合も増加していた.女性の生活習慣病に関しては脂質異常症が増加していた.男女とも加齢とともに高血圧,脂質異常症,糖尿病が増加していたが,とくに女性においてこれらの増加が顕著であった.こうした勤務者集団の健診結果を長期的にモニターし,企業として対処することが健康経営の一助となる. -
労働者の健康格差のメカニズム解明のための大規模多目的パネル調査(J-HOPE 研究)
264巻4号(2018);View Description Hide DescriptionJHOPE(Japanese study of Health, Occupation and Psychosocial factors related Equity)は,労働者の健康格差の実態とそのメカニズムを解明することを目的として開始された多目的パネル調査である.文部科学省新学術領域研究(研究領域提案型)“多目的共用パネル調査”〔平成21~25 年(2009~2013)〕で確立された研究で,重要な指標を毎年繰り返して調査する枠組みで実施されている.労働者の健康格差の問題は,単純に医学的な知識で解決できるものではないために,医学のみならず,心理学,経済学,社会学の専門家がチームを構成して研究している.平成22~25 年度(2010~2013)に,全国12 事業場にまたがる労働者のべ14,000 人分のデータが4 年間にわたって蓄積されている.さらに,この一部は平成26~29 年度(2014~2017)も継続して追跡されている.このパネル調査では,多様な背景を有する労働者の社会経済的要因や新しく注目されている職業性ストレス尺度が,生活習慣に関する詳細な問診,代表的な循環器疾患危険因子,ストレス関連バイオマーカー,抑うつなどの精神的健康度とともに,標準化された方法で毎年測定されている. - 【中年期住民のコホート】
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The Circulatory Risk in Communities Study(CIRCS)
264巻4号(2018);View Description Hide DescriptionCIRCS(Circulatory Risk in Communities Study)は,秋田,茨城,大阪,高知の5 地域の住民約12,000 人を追跡する保健事業を主体としたダイナミックコホート研究である.そのうち秋田,大阪については1963年に追跡を開始しており,わが国の現存する大規模コホート研究のなかでは最古のグループに属する研究と位置づけられる.ベースライン調査は共通の方法で毎年行っており,そのつど新しい調査項目を盛り込んで,脳卒中,虚血性心疾患および要介護認知症の発症を追跡している.本稿ではCIRCS の特徴と,研究から得られた脳卒中の新しい生活習慣因子や生活習慣関連バイオマーカー,CIRCS の特徴ともいえる保健事業の効果に関する知見や,最近開始された認知症に関する研究について概説する. -
多目的コホート研究から次世代多目的コホート研究へ
264巻4号(2018);View Description Hide Description多目的コホート研究(JPHC Study)は,1990 年に開始した10 都府県11 保健所管内の40~69 歳の地域住民14 万人を対象とした前向き追跡調査である.生活習慣などに関するアンケート調査を,ベースライン,5 年後,10 年後に実施し,13 万人がいずれかに,8 万人がすべてに回答している,また,ベースラインと5年後には血液試料の収集も行い,6 万人がいずれかに,2 万人がいずれにも提供している.異動(死亡の際は死因),がん・脳卒中・心筋梗塞の罹患などを追跡し,これまでに300 編を超える英文原著論文として出版してきた.また,2011 年からは,7 県の40~74 歳の地域住民26 万人を対象として,次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT)を開始した.11 万5,000 人から研究参加への同意と生活習慣に関するアンケート調査への回答が得られ,5 万5,000 人から血液と尿の提供を受けた.追跡情報としては,異動や電子化医療情報などを活用した疾病罹患・治療状況,さらには介護の状況について収集を行っている.5 年後,10 年後の調査も予定している.将来的には,国際競争力をもてる日本人数十万人規模の分子疫学コホートでの解析が可能となるよう,進行中の各コホート研究と連携して,統合できる方法や仕組みを構築することが課題である. -
吹田研究 ─ ライフコースの観点からみた中年期住民のコホート
264巻4号(2018);View Description Hide Description吹田研究は,1989 年に30~79 歳の吹田市民から性別・年齢階級別に無作為抽出した吹田市民を対象としたコホート研究である.年代によりリスク因子の意義が異なることがある.腹囲や身長は年齢により差が大きいため,腹囲・身長比と循環器疾患発症リスクとの関連を年齢階級別に検討した.また,メタボリックシンドロームの統一診断基準は,とくに中年層において循環器疾患のハイリスク者を同定するのに有益である.さらに,生涯リスクを考慮することによって,中年期から高齢期の心筋梗塞や脳卒中のリスクを把握することができ,循環器疾患予防のための啓発にも有用である.中年期は生涯にわたる疾患リスクを見直し,健康寿命を延ばすための大切な時期である.高齢化社会を迎えるわが国において,年齢をより細分化してリスクを評価することによって,より適切な予防対策やリスクコントロールが求められる. - 【高齢者住民のコホート】
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JAGES(日本老年学的評価研究)
264巻4号(2018);View Description Hide DescriptionJAGES(Japan Gerontological Evaluation Study;日本老年学的評価研究)プロジェクトは,1999 年にはじめられた高齢者を対象としたコホート研究である.プロジェクトの所期の目的は,世界でトップレベルの健康長寿を誇る日本の高齢者を身体・心理・社会的な側面から多面的に描きだすことにあり,現在も時代に応じて随時目的を検討・修正しながら調査・研究を続けている.JAGES は,市町村が3 年ごとに策定する介護保険事業計画に向けた調査を共同で行う形で,毎回市町村を増やしながら調査を実施してきた.2010 年調査以降,子ども期の生活程度や逆境体験を調査項目に入れ,高齢期の健康指標との関連を検討してきた.今後,生活習慣病へのライフコースの影響を検証するため,すでに健診データと結合するなどの改善を行っている.さらに,質問紙調査と要介護認定,死亡データにとどまらない医療レセプトや介護レセプトなどのデータと結合することができれば,より詳細な研究が可能となるであろう. -
東京都健康長寿医療センター研究所の高齢者コホート研究
264巻4号(2018);View Description Hide Description東京都健康長寿医療センター研究所で現在進行中の地域在住高齢者を対象としたコホート研究は7 つあり,いずれも身体的検査のみならず,日常生活動作,身体機能,社会機能,心理・認知機能,栄養・口腔機能などの高齢者総合的機能評価を含んだ調査内容となっている.そのうち比較的最近の複数のコホート研究データを統合し,約5,000 人規模のサンプルサイズで分析を行い,日本人高齢者の性・年齢階級別の体力標準値(握力,開眼片足立ち時間,通常・最大歩行速度,通常・最大歩行歩幅)と体組成標準値(体重,脂肪量,徐脂肪量,四肢筋肉量)を決定した.これらの標準値は,欧米人とは異なる日本人に適したサルコペニアやフレイルの評価指標に応用可能であると考えられる.また,当研究所で最も長期の追跡研究である草津町コホート研究のデータを分析した結果,日本人高齢者のフレイルが,健康余命のエンドポイントである自立喪失に大きく影響していることが明らかとなった.高齢期の健康水準を規定する要因解明のためのライフコースアプローチ研究の遂行が望まれる.
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連載
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- テレメディシン ― 遠隔医療の現状と課題 16
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ゲノム医療の展開と医療ビッグデータ時代の到来
264巻4号(2018);View Description Hide Description◎2016年,日本医療研究開発機構(AMED)は前年度のゲノム医療実現推進協議会の「中間取りまとめ」に準拠してゲノム医療実現への積極的な予算措置を開始し,わが国もいよいよゲノム医療実現の推進政策へと舵を切った.しかし,欧米を眺めてみると,すでにアメリカでは7 年前の2010 年に,5 歳の男児の原因不明の炎症性腸疾患に対して次世代シーケンサを用いて原因遺伝子変異を同定して劇的な治療の成功を納め,これが全米中に大きなインパクトを及ぼしてゲノム医療の怒濤の進展がはじまっている.また,ヨーロッパもアメリカとは異なる方向であるが,社会福祉国家の理念のもと,予防医学の飛躍的な向上をめざしてゲノム情報を活用した「大規模ゲノム・バイオバンク」が各地で推進されている.ゲノム医療のこれらの流れに伴い,ゲノムをはじめとする網羅的分子情報は爆発的に増大し,医療はいまや新しい医療ビッグデータの時代を迎えつつある.それに伴い,「ビッグデータから革新的知識の発見」という新しい課題も生じてきた.遠隔医療も生命分子情報のビッグデータ時代を迎えて伝達する医療情報も大きく変化するものと思われる.本稿は,到来しつつある網羅的分子情報のビッグデータ時代の現状と課題を論じた. - 救急医学 ― 現状と課題 7
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東日本大震災以降の新しい災害医療体制― 平成28 年熊本地震でさらに何を学んだか
264巻4号(2018);View Description Hide Description◎わが国の災害医療体制は,阪神・淡路大震災(以下,1.17)の教訓に基づき構築された.1.17 以降,急性期災害医療体制を充実させるため,DMAT(災害派遣医療チーム)が創設され,災害拠点病院が指定整備され,広域災害救急医療情報システム(EMIS)ができ,広域医療搬送計画が作成された.東日本大震災(以下,3.11)においては,まさにこの急性期災害医療体制4 本柱が試される結果ともなった.しかし,3.11 は,地震・津波災害であり,医療ニーズが1.17 とはまったく違ったこともあり,あらたな課題が噴出した.3.11 以降の災害医療の方向性は,厚生労働省通知文「災害時における医療体制の充実強化について」の9 項目で示された.この9 項目の目標の具現化を行っている最中に平成28 年熊本地震(以下,熊本地震)が起きた.熊本地震では,3.11 以降の新しい災害医療の真価が問われた.熊本地震においては,3.11 の教訓が活かされ,県レベル,二次医療圏レベルで災害医療コーディネーターが機能し,シームレスな医療支援を行うことができた.しかし,医療と保健のさらなる連携強化が課題として残った.
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- 生殖倫理の現況と展望 14
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