Volume 264,
Issue 9,
2018
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【3月第1土曜特集】 ライソゾーム病のすべて
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医学のあゆみ 264巻9号, 713-713 (2018);
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ライソゾーム病の基礎
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医学のあゆみ 264巻9号, 717-720 (2018);
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ライソゾームがde Duve により発見されてすでに65 年経ち,またライソゾーム病の概念が確立され55 年経過,ライソゾーム病の病因,病態,診断法は大きく進歩した.近年では,遺伝病のうちでもっとも治療法が進歩し,酵素補充療法,低分子治療薬が開発され,最近では遺伝子治療も行われている.早期診断治療のため,新生児スクリーニングも一部の疾患で開始されはじめた.
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医学のあゆみ 264巻9号, 721-724 (2018);
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ライソゾームは1955 年にド・デューブ(Christian de Duve)によって発見された細胞小器官のひとつである1).彼は肝細胞内の加水分解酵素を含む顆粒が膜に包まれていることを生化学的に発見し,それらの顆粒をギリシア語の“lyso”(分解)+“soma”(小体)を語源としてlysosome と名づけ,1974 年にノーベル医学生理学賞を受賞している.ライソゾームは細胞膜と同じ一重の脂質二重層でできた袋であり,内部はpH4~5 と酸性に保たれており,そのなかに60 種類以上の加水分解酵素などを含んでいる.各種の基質を酵素処理するため,ゴミ処理工場とよばれる.このなかに含まれる酵素欠損により,ライソゾーム病と総称される先天性代謝異常症をきたすことが知られており,分解できない基質がこのライソゾーム内に蓄積されることが観察されるため,別名ライソゾーム蓄積病とよばれている.近年,このライソゾームはオートファジーという,二重膜の袋に取り囲んだ内容物を分解する細胞内消化システムにも重要なかかわりをもつことがわかるようになっており,ただのゴミ袋としての機能から,細胞内のさまざまな活動とかかわる重要な細胞内小器官としての位置を占めるに至っている2).本稿では,このライソゾームの基本的な構造,機能について概説し,ライソゾーム病の理解の一助としたい.
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医学のあゆみ 264巻9号, 725-733 (2018);
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ライソゾーム病は50 種以上の水解酵素の欠損で発症する.ライソゾームに蓄積する物質は酵素欠損により脂質,ムコ多糖,オリゴ糖などの複合脂質,あるいはプロテアーゼの欠損に伴う蛋白質などさまざまであり,臨床症状にも反映する.本稿ではそれぞれの蓄積物質の種類,構造,代謝経路の異常などについて解説する.
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ライソゾーム病の臨床
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医学のあゆみ 264巻9号, 737-742 (2018);
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ライソゾーム病は,細胞内小器官のライソゾームにかかわる酵素の異常や代謝経路の基質の蓄積によりさまざまな臓器に障害を引き起こす遺伝性疾患群の総称である.その多くは常染色体劣性遺伝形式を取り,ホモ接合体あるいは複合ヘテロ接合体として遺伝子変異を受け継いだ場合(一部突然変異あり)に異常をきたす.遺伝子変異により表現型がほぼ決定する疾患もあれば,同一家系内で同一の遺伝子変異であっても症状がまったく異なる疾患まで実に多彩である.それは,ライソゾームという共通項で分類してはいるが,酵素の種類により本来の細胞内機能がまったく異なり,標的基質や標的臓器もそれぞれの疾患で異なることが要因のひとつである.疾患により症状に差異は生じるものの,すべてのライソゾーム病が遺伝性疾患であるため,患者本人と家族の不安は大きく,遺伝形式や疾患特異性を十分に理解したうえでの遺伝カウンセリングが大切である.
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医学のあゆみ 264巻9号, 743-748 (2018);
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ライソゾーム病は,高分子化合物のライソゾームにおける代謝が障害され,種々の高分子化合物が蓄積することによって発症する疾患群である.蓄積する物質によりスフィンゴリピドーシス,ムコ多糖症,ムコリピドーシス,糖原病などに分類されている.単一の酵素活性低下,スフィンゴ脂質活性化蛋白質欠損,種々の機序による複数の蛋白機能の低下,輸送蛋白の異常などの病因が存在する.ライソゾーム病を疑わせる一般的な所見としては家族歴の存在,進行性の症状,多臓器にわたる症状,治療抵抗性の症状などがある.特異的な症状としては神経学的退行,肝脾腫,脱髄,骨・関節症状,皮膚症状,眼科的所見などがある.主訴からライソゾーム病を想起し,ついで一般検査や画像検査を行い,最終的に酵素活性測定などの特異的検査を実施して確定診断に至る.ライソゾーム病の症状・診断法を理解するには基礎的事項を理解することが重要である.
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医学のあゆみ 264巻9号, 749-755 (2018);
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ライソゾーム病は,ライソゾーム内酸性分解酵素の遺伝的欠損により,分解されるべき物質がライソゾーム内に大量に蓄積し,多臓器に障害をきたす遺伝性疾患である.酵素補充療法が認可され,治療法開発が進むにつれ,早期診断がますます必要となったが,固有の臨床症状に加え,特徴的な画像所見が診断に役立つことが知られている.画像所見は,蓄積物そのものを示す場合もあれば,蓄積物に起因する組織破壊,機能障害を反映しているものもある.ムコ多糖症など骨変形をきたす疾患は,単純X 線で脊椎,胸郭,手指の多発性異骨症の検出が鑑別に役立つ.ポンペ病では,グリコーゲン蓄積を反映した肝CT,骨格筋CT が疾患固有の変化を示す.頭部MRI 所見は中枢神経障害をきたす各疾患に特徴的な所見を示すが,クラッベ病などの脱髄所見,神経セロイドリポフスチン症などの神経細胞脱落,ムコ多糖症の脳血管周囲腔拡大など,各疾患の病態を反映している.
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ライソゾーム病の診断
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医学のあゆみ 264巻9号, 759-764 (2018);
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ライソゾーム病の診断には,組織生検による形態学的診断,血液・尿中の基質や中間代謝産物の定量・定性測定,ライソゾーム酵素活性測定による生化学的診断,およびライソゾーム酵素蛋白の遺伝子解析による遺伝子検査などが用いられる.確定診断は,酵素活性測定によるライソゾーム酵素活性低下の証明により可能であるが,一部のライソゾーム病で認められるpseudodeficiency(偽欠損)とよばれる健常者と患者の鑑別,保因者診断や出生前診断などは,酵素活性測定による生化学的診断のみでは困難である.その場合は酵素蛋白の遺伝子における病因変異を同定する遺伝子解析による遺伝子診断が有用である.また,遺伝子検査は,疾患の重症度や病型の推測や化学シャペロン療法の適応の判断にも有用であるため,ライソゾーム病の確定診断には生化学的診断と遺伝子診断を組み合わせることが一般的である.
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医学のあゆみ 264巻9号, 765-770 (2018);
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先天代謝異常症のスクリーニングは,1963 年のアメリカにおけるフェニルケトン尿症(PKU)をターゲットとして開始された.わが国でも1977 年よりガスリー法を用いた古典的スクリーニングが開始され,ほとんどすべての新生児がマススクリーニングを受診し,全国で年間約100 万人以上の新生児が検査を受けている.ライソゾーム病については,近年,酵素補充療法(ERT)の使用が可能となり,早期診断および早期治療の重要性が増している.アメリカにおいては,2000 年以降に新生児スクリーニングの対象疾患の拡大に関する議論がすすめられ,ライソゾーム病も候補としてあげられ国際的な研究が広がりをみせている.ろ紙血を用いた酵素活性測定法の開発や責任遺伝子の変異に関する知見の集積などにより臨床応用が可能となった.一方で,ライソゾーム病の新生児スクリーニングおよびハイリスクスクリーニングをすすめていくなかで,遺伝カウンセリング体制の充実やスクリーニング陽性者に対するフォローアップ体制の確立は,重要な課題である.また,重症度や病型に応じた治療効果の違いなどの長期予後に関するデータ蓄積についても,今後の研究が期待される.
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ライソゾーム病の最新治療の現状と展望
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医学のあゆみ 264巻9号, 773-777 (2018);
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ライソゾーム病の治療としては,対症療法と根本療法としての①造血幹細胞移植,②酵素補充療法,③基質合成抑制療法,④シャペロン療法,⑤遺伝子治療,⑥細胞治療などが知られている.対症療法としては,①薬物療法,②リハビリテーション,③呼吸管理(気管切開,人工呼吸器療法),④栄養管理,⑤在宅医療などが行われている.ライソゾーム病は全身病であり.神経系,循環器系,呼吸器系,骨・運動器系など各種臓器が障害される.したがって,その障害に対する治療は各診療科と共同して行う総合的(集学的)な診療とならざるをえない.ライソゾーム病の患者はそのQOL を維持するために実に多くの医療的援助,サポートを必要としている.ライソゾーム病を診療している医師,医療者は患者の病態をよく把握して必要なときに必要な援助を適切に行っていくことが求められている.
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医学のあゆみ 264巻9号, 779-784 (2018);
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ムコ多糖症1 型に対する造血幹細胞移植(HSCT)が報告されてすでに40 年近い歳月が流れ,この間,HSCT に関連する医療技術として,組織適合性の高いドナーの選択を可能とするHLA の検査方法,有効で毒性の少ない移植前処置や移植片対宿主病(GVHD)予防法,ウイルスの再活性化をモニタリングするreal-time PCR や生着動態を正確に判定するキメリズム解析方法などが開発され,移植成績は飛躍的に向上した.また,症例の蓄積と長期間の観察によってHSCT の疾患別,臓器別の効果の評価が可能となり,精神発達遅滞,低身長,呼吸循環状態をはじめ,関節拘縮などの日常生活動作に対する有効性が明らかにされてきた.とくに問題となる中枢神経症状への効果は,移植時年齢が小さく,かつ中枢神経症状が軽微で,生着状態が良好なほど優れており,早期診断に基づく早期移植,そして完全ドナータイプへの生着を可能とする移植前処置の採用が重要である.
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医学のあゆみ 264巻9号, 785-788 (2018);
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酵素補充療法とは,先天的に欠損しているライソゾーム酵素を体外から定期的に投与する治療法である.現在,酵素製剤が日本で承認されているライソゾーム病はゴーシェ(Gaucher)病,ファブリー(Fabry)病,ポンペ(Pompe)病,ムコ多糖症Ⅰ型,Ⅱ型,ⅣA 型,Ⅵ型,酸性リパーゼ欠損症,の8 疾患であるが,対象疾患は増加傾向にある.1~2 週間に1 回,酵素製剤を点滴により静脈内に投与する治療法である.症状の改善や進行予防に効果を認めるが,酵素に対する抗体産生により酵素補充療法の効果が減弱することがあり,免疫抑制剤の投与を必要とする場合がある.また,現行の静脈内に酵素を投与する方法では,血液脳関門(BBB)により脳内に酵素を供給することができない.そのため,多くのライソゾーム病にみられる中枢神経症状に対して効果を期待できないという問題がある.この問題を克服するために,酵素の脳室内投与や血液脳関門を通過できる修飾型酵素の静脈内投与が試みられている.
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医学のあゆみ 264巻9号, 789-792 (2018);
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ライソゾーム病に対する低分子治療薬として,基質合成抑制療法とシャペロン療法がある.基質合成抑制療法は,セラミドからグルコシルセラミドを合成するグルコシルセラミド合成酵素に対する阻害活性をもつ低分子化合物を用い,ライソゾーム内の蓄積基質を抑制する方法で,わが国ではゴーシェ病とニーマン・ピック病C 型に適応がある.シャペロン療法とは,標的とするライソゾーム酵素に特異的に結合する低分子化合物を用い,変異酵素蛋白質を構造的に安定化することで,酵素活性を上昇させ,ライソゾーム内の蓄積基質の分解を促進する方法である.ともに経口治療薬で,酵素補充療法と比べ点滴静注による投与が不要であることや免疫系の問題がないなどの利点がある.また,血液脳関門を通過する化合物においては,脳病態に対する治療効果が期待されている.
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医学のあゆみ 264巻9号, 793-798 (2018);
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ライソゾーム病の遺伝子治療は,造血幹細胞移植が効果のある疾患に対して,造血幹細胞移植の欠点,すなわちドナーが得られない,拒絶,GVHD などの副作用,を補う形で,自己の造血幹細胞に正常遺伝子を導入し移植するという方法である.これであればドナーは不必要でかつ,拒絶,GVHD なども心配が少ない.ただヒトにおいてはじめて効果が報告されたのは異染性脳白質変性症である.一方,酵素補充療法などの一般的治療では脳が治療できず,これを目的に脳へベクターを直接投与する方法も発展してきている.いずれにせよ遺伝治療はライソゾーム病の治療法の欠点を補う治療として今後の発展が期待される.
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各論
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医学のあゆみ 264巻9号, 801-806 (2018);
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ゴーシェ病は,ライソゾーム加水分解酵素のひとつである酸性β-グルコシダーゼ(GBA;EC3.2.1.45)の活性低下・欠損により発症する先天代謝異常症であり,もっとも早く治療(酵素補充療法)が可能になったライソゾーム病である.400 を超えるGBA 遺伝子変異が報告され,遺伝学的に多様性に富むが,同様に臨床的にもきわめてheterogeneity に富んだ疾患として知られている.近年,ゴーシェ病の基本病態についてのあらたな知見やパーキンソン病との神経変性機序の関連も示唆されてきている.本稿では,ゴーシェ病の基本病態から臨床的多様性,治療に至るまでを概説する.
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医学のあゆみ 264巻9号, 807-813 (2018);
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ファブリー(Fabry)病は,ライソゾーム酵素であるαガラクトシダーゼ(GLA)の先天的欠損により発症する先天代謝異常症である.幼児期より,四肢末端痛,発汗障害,成人期となってから進行性の腎不全,左心肥大,脳血管障害を発症する.X 連鎖遺伝形式をとるが,女性ヘテロ接合体症例も男性ヘミ接合体患者に比べて症状の進行は遅いものの発症するのが特徴である.日本で酵素補充療法(ERT)が,ヨーロッパではケミカルシャペロン療法が承認され,ファブリー病は治療可能な先天代謝異常症のひとつとなっている.ERT については,進行し線維化した組織には効果が乏しいと報告されており,早期治療介入が治療戦略となる.ケミカルシャペロン療法はERT と同等の効果が期待できると報告されているが,治療法としての位置づけがまだ不明確であること,GLA 遺伝子変異により有効な症例が限定されることが欠点となる.ファブリー病は,発症から診断までに約15 年を要すると報告されており,発症から診断・治療介入の期間を短縮することが今後の課題である.
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医学のあゆみ 264巻9号, 814-818 (2018);
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ニーマンピック病はライソゾーム蛋白の機能喪失に起因するスフィンゴミエリンとコレステロールの細胞内蓄積を特徴とするライソゾーム病である.酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(ASMD)によるA型(神経型)とB 型(非神経型),NPC1 あるいはNPC2 蛋白異常によるC 型(NPC)とそれぞれ異なる原因による.治療は,B 型に対しては酵素補充療法が開発されており,C 型では内服薬Miglustat が使われているが,あらたな治療薬の開発もすすんでいる.ライソゾーム病では早期治療開始が重要であり早期診断法の開発がすすんでいる.ASMD は酵素活性測定により診断されるが,濾紙血を用いた酵素活性測定法が開発され新生児マススクリーニングが可能となっている.NPC の診断は患者の培養皮膚線維芽細胞を用いたコレステロール染色(フィリピン染色)と遺伝子診断によるが,オキシステロールやその代謝物を対象とした血液や尿を用いたあらたなスクリーニング法が開発され実用化されている.
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医学のあゆみ 264巻9号, 820-827 (2018);
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ガングリオシドは,ニューロンの形質膜を構成する重要な成分である.ガングリオシドの加水分解酵素の欠損は,中枢神経系に基質であるガングリオシドの蓄積をもたらし,最重症型では新生児期や乳児期早期から発達遅滞,神経学的退行など重篤な症状をきたす.GM1 ガングリオシドの加水分解酵素の遺伝子であるGSB の代謝異常症として,中枢神経症状を主体とするGM1 ガングリオシドーシスと骨病変を主体としたモルキオ症候群B 型に分類される.GM2 ガングリオシドーシスは,HEXA,HEXB,GM2A 遺伝子異常により,進行性の中枢神経症状をきたす.いずれの疾患も,それぞれの基質の蓄積のみならず,酸化ストレス,オートファジー,小胞体ストレス,自己免疫応答のような種々の病原性カスケードが二次的に活性化されている.現在有効な治療法は確立されていないが,これらの病態を踏まえさまざまな治療が研究されている.
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医学のあゆみ 264巻9号, 829-832 (2018);
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ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症(LAL-D)は,細胞内に取り込んだコレステロールエステル(CE)やトリグリセリド(TG)を加水分解するライソゾーム酸性リパーゼ(LAL)の活性が低下し,全身の臓器にCE・TG が蓄積する常染色体劣性遺伝疾患である.LAL-D には乳児型で重症のWolman 病(WD)と小児・成人型のコレステロールエステル蓄積症(CESD)がある.WD はライソゾーム内への著しい脂質蓄積を生じ,肝不全,脾腫,骨髄不全,呼吸障害,小腸吸収不全,下痢,重度成長障害など重度で多彩な症状を呈し,生後半年までに死亡する.副腎石灰化は診断的価値が高い.CESD ではWD より病勢が緩徐で,肝腫大,脾腫大,高トランスアミナーゼ血症,LDL コレステロール高値,HDL コレステロール低値をきたし,進行すれば肝硬変症,脳血管障害,虚血性心疾患を引き起こす.診断には小滴性脂肪沈着,泡沫状マクロファージなど特徴的な肝組織学的所見やLAL 酵素活性測定,LIPA 遺伝子解析が有用である.組換えヒトLAL による酵素補充療法(セベリパーゼアルファ)が2016 年5 月に保険適応になった.
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医学のあゆみ 264巻9号, 833-840 (2018);
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ライソゾーム病領域で白質ジストロフィーをきたす代表的な疾患としてMLD(異染性白質ジストロフィー),GLD(Krabbe 病)がある.この2 疾患は同じスフィンゴ糖脂質代謝経路の異常であり,症候も類似している.MLD では基質であるスルファチド,GLD ではサイコシンが蓄積し,その神経系細胞への毒性により脱髄(髄鞘が破壊されること)を中心とした中枢・末梢神経障害を呈する.おもな臨床症状として,MLD は神経症候以外に胆囊病変をきたすことがあるが,GLD は基本的に神経症候のみである.確定診断は各疾患の原因となる酵素欠損や蓄積する基質を証明すること,あるいは遺伝子解析による.治療はMLD では現在根治療法がなく,開発中の造血幹細胞を標的とした遺伝子治療が期待されている.GLD は発症早期の造血幹細胞移植が有効とされるが効果に限界があり,遺伝子治療や基質合成阻害剤などとのコンビネーションによる相乗効果が検討されている.
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医学のあゆみ 264巻9号, 843-849 (2018);
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ムコ多糖症(MPS)は,造血幹細胞移植療法や酵素補充療法により治療可能な疾患であり,早期診断が望まれる.全身性の疾患で,幅広い診療科にわたり受診する機会があり,当該疾患を疑うことができれば早期診断は可能である.受診する契機となる症状としては,鼠径・臍ヘルニア,発達の遅れ,とくに言葉の遅れや多動,頭囲拡大や骨・関節の変形,繰り返す中耳炎や難聴,心雑音,角膜混濁,肝腫大,低身長(ただし乳幼児期は過成長).丁寧な病歴,家族歴の聴取によりこれら共通する症状の有無を確認し,身体診察では,広範な蒙古斑,ヘルニア,粗な顔貌,関節所見,肝腫大が参考になる.MPS を疑えば,全身骨単純X 線検査,尿中ウロン酸分析にて蓄積物質を特定する.確定診断には病型別で欠損する酵素の活性を測定する.遺伝子解析は,重症度や治療法の選択において有益な情報が得られる.現在,中枢病変,骨病変へのより効果的な治療法の開発がすすめられている.
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医学のあゆみ 264巻9号, 851-856 (2018);
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神経セロイドリポフスチン症(NCL)は遺伝性の神経変性疾患であり,神経細胞を含めたさまざまな細胞のライソゾーム内に自家発光を有する蓄積物質を認める.成人型の一部を除き常染色体劣性遺伝形式をとり,進行性の運動発達退行,痙攣,視力障害をきたし,一般に小児期の発症では予後が不良である.臨床病型として,乳児型(infantile type),乳児期遅発型(late infantile type),若年型(juvenile type),成人型(adult type),の4 型に分類される.近年,ライソゾームに関連する酵素をコードする遺伝子を含めた14 遺伝子の異常が本症の原因として報告されている.本症は同一の遺伝子変異であっても,臨床経過が異なる対立遺伝子異質性をもつ.多様な発症機序が示唆されているが,不明な点が多い.本症における根本療法はないが,近年CLN2 では脳室内への酵素補充療法の中枢神経系への効果が報告されており,早期診断・治療が重要になっている.
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医学のあゆみ 264巻9号, 857-861 (2018);
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ポンぺ病は,ライソゾーム酵素acid α-glucosidase 欠損により,さまざまな組織のライソゾームにグリコーゲンが蓄積して発症するまれな常染色体劣性遺伝性疾患である.おもに肥大型心筋症と進行性ミオパチーを発症し,乳児型と遅発型に分類される.乳児型は,乳児期早期にフロッピーインファント,肥大型心筋症,呼吸不全を発症し,自然経過では多くの症例は1 歳までに死亡し,遅発型では心筋は通常侵されないが,肢帯筋優位の筋力低下や呼吸筋の筋力低下をきたし,歩行障害や呼吸不全に陥る.酵素補充療法により乳児型の生命予後が著しく改善し,遅発型では筋症状の進行が抑制されているが,「ポンぺ病診療ガイドライン2017」によりポンペ病の診療におけるクリニカルクエスチョンに対する推奨が策定された.現在では多系統の組織に異常が生じる点が再認識されるようになり,日常診療でモニタリングすべき項目について認識をあらたにする必要がある.酵素補充療法の限界を克服すべく,新規治療酵素,遺伝子治療,核酸医薬の開発などの挑戦が続けられている.
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医学のあゆみ 264巻9号, 862-867 (2018);
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糖蛋白質代謝異常症は,ライソゾームの機能低下により糖蛋白質の分解が障害され,糖鎖や糖蛋白質が蓄積する疾患群である.そのなかにはマンノシドーシス,フコシドーシス,シアリドーシス,I-cell 病などが分類されており,特徴的な顔貌,全身性の骨変化,肝脾腫,血球細胞の空胞化などが共通して認められる.多くの糖蛋白質代謝異常症はライソゾーム酵素の遺伝子変異によるが,I-cell 病はライソゾーム酵素の輸送にかかわるマンノース6 リン酸(M6P)残基の付加過程の異常で生じ,多くのライソゾーム酵素の細胞内輸送が障害されている.