医学のあゆみ
Volume 264, Issue 13, 2018
Volumes & issues:
-
【3月第5土曜特集】 リハビリテーション医学・医療のすべて
-
-
- 総論
-
リハビリテーション医学・医療の展望
264巻13号(2018);View Description Hide Description超高齢社会となったわが国では,リハビリテーション医学・医療の対象として,小児疾患や切断・骨折・脊髄損傷に,中枢神経・運動器・循環器・呼吸器・腎・神経筋疾患,関節リウマチ,摂食嚥下障害,がん,スポーツ外傷・障害などの疾患や障害が積み重なってきている.さらに,外科手術前後,フレイル,サルコペニア,ロコモティブシンドロームなども加わり,ほぼ全診療科に関係する疾患,障害,病態を扱う領域になっている.日本リハビリテーション医学会では,リハビリテーション医学について,①機能回復,②障害克服,③活動を育む,の3 つのキーワードをあげている.ヒトの営みの基本である“活動”に着目し,その賦活化を図る過程がリハビリテーション医学の中心であるという考え方である.リハビリテーション医学・医療の専門家が,リハビリテーション科医である.2018 年度からはじまる専門医教育に合わせて,“活動を育む”優れたリハビリテーション科医を育成するために,日本リハビリテーション医学会監修のリハビリテーション医学・医療コアテキストの上梓が予定されている. -
急性期のリハビリテーション医学・医療の役割と位置づけ
264巻13号(2018);View Description Hide Description近年,さまざまな疾病や外傷に対して急性期からリハビリテーション治療を行うことが有用であると広く認識されるようになってきた.急性期医療での治療の最大の目的は,救命を含めた疾病や外傷の治療,および精査であることはいうまでもないが,疾病や外傷そのものの経過で生じる障害以外に,治療期間中の安静臥床によってあらたな障害が生じることがある.このような障害に対して適切な医学管理のもとで行われる,可能なかぎり高負荷,長時間,高頻度の起立や運動を行うことが急性期リハビリテーションのコアとなる.このようなリハビリテーション診療を実践するには,患者の状態の適切な評価ができる医学的知識をもち,技術的に習熟したスタッフが必要である.急性期にリハビリテーションを十分に行うことが,回復期・生活期での日常生活動作能力の効率よい改善に役立ち,より快適な生活,健康寿命の延伸につながる. -
回復期のリハビリテーション医学・医療の役割と位置づけ
264巻13号(2018);View Description Hide Description回復期リハビリテーション(回復期リハ)は回復期リハ病棟が制度化されたことにより,量的に大きく充足された.回復期リハ病棟ではより高い機能,動作・活動向上,さらに社会参加を目標に,医師,看護師,理学・作業・言語聴覚療法士,MSW(社会医療福祉士)など,全職種・全職員が協働して病棟単位でリハを実施する.患者は疾病だけでなく運動,感覚,認知機能,摂食・嚥下,排泄,さらには社会・環境など多岐にわたる障害を有するため,多職種がチームとなって対応する必要がある.回復期リハビリテーション病棟協会の2016 年度の調査での日常生活動作(ADL)は,入院時機能的自立度評価表(FIM)は71点,FIM 利得は20.2 点であった.また,退院先は自宅が68.7%であり,一定の成果を達成している.一方,近年重症化,重度化といった問題が生じており,リハ医療にとどまらない対応も求められてきている.さらにリハ関連職種の若年化,リハ科専門医の不足という問題もあり,質的基盤についてさらなる向上が必要である. -
生活期のリハビリテーション医学・医療の役割と位置づけ
264巻13号(2018);View Description Hide Description近年,人口の高齢化を背景にして医療機能の分化ならびに連携の推進,地域包括ケア体制の構築に向けた取組みが推進されている.生活の場での医療がふたたび注目され介護との連携の重要性も示されているなかで生活期におけるリハビリテーション医療への期待も高まっている.心身機能,活動,そして参加を念頭にして人びとのくらしを支えていくことを目的としているリハビリテーション医学・医療の果たす役割は大きい.生活期リハビリテーション医療の対象は高齢者ばかりではなく,小児,そしてさまざまな経過を呈する多様な疾患による障害をもった方々,また難病やがん患者も含めて介護期から終末期への連続性も念頭におき,より広い範囲でとらえ,考えていく方向にある.現状は医師の関与は十分とはいえず,今後はリハビリテーション科医による診療活動とともに生活期リハビリテーション医療に関心をもつ医師が増え,リハビリテーション科医と連携して活動されることが期待される. -
リハビリテーション医学の卒前・卒後教育
264巻13号(2018);View Description Hide Description日本における高齢化,医療システムの変化などからリハビリテーション医療の需要が高まっており,それに応えるためのリハビリテーション医学教育の整備は大きな課題である.卒前教育では,医学教育モデル・コア・カリキュラムにリハビリテーションに関係する多くの項目が含められるようになったが,教育を供給する側の体制整備が不十分である.医師臨床研修制度におけるリハビリテーション医学の卒後教育は,不十分な状況が続いている.最低1~2 カ月間のリハビリテーション科における研修を必須化するなどの措置が必要である.リハビリテーション科専門医をめざす医師への卒後教育は,2018 年度からの新専門医制度でかなりの進歩がみられている.とくに基幹施設,回復期リハビリテーション病棟を含む複数の施設での研修,適切に見直された研修カリキュラムの整備により,十分な知識と技能をもつ専門医を育成することができると考えられる. - 神経系リハビリテーションの新しい流れ
-
リハビリテーション医学と臨床神経生理学の進歩
264巻13号(2018);View Description Hide Description臨床神経生理学は,ヒトの中枢神経系,末梢神経系の機能をさまざまな方法で診断・評価し,治療に役立てる学問であり,この分野の発展はめざましい.脳波・筋電図ばかりではなく,誘発電位,経頭蓋磁気刺激法,脳機能イメージングなども近年それに含められており,中枢神経系・末梢神経系の区分を越えた学問へと発展し,リハビリテーション医学の関連分野のひとつとして,診断,評価,治療などさまざまな臨床場面でたいへん役立つ学問である.本稿では臨床神経生理学について概要を述べた後に,リハビリテーション医学・医療での有用性について,具体的な例をあげながら解説していく. -
生活期における脳卒中片麻痺に対する経頭蓋磁気刺激療法
264巻13号(2018);View Description Hide Description脳卒中後の上肢麻痺に対する低頻度反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)と集中的作業療法の併用療法(NEURO®)は,いままでよくならないとされていた生活期の上肢麻痺の機能改善に有効な治療法であることが示唆された.しかし,重度麻痺には効果が薄い.現在,ボツリヌス毒素療法との併用,磁気刺激のパラメータの検討,薬との併用などを施行しており,さらなるNEURO®の精度向上が期待できるだろう. -
脳卒中片麻痺に対する経頭蓋直流電気刺激
264巻13号(2018);View Description Hide Description経頭蓋直流電気刺激(tDCS)は非侵襲的大脳刺激法(NBS)のひとつで,脳卒中などの中枢神経障害による運動機能障害や神経心理学的障害に対して用いられる.tDCS は大脳皮質ニューロンを刺激するが,脳深部への刺激効果は少ないため,脳表面の比較的浅い部位,とくに上肢がおもなターゲットとなる.また経頭蓋磁気刺激(TMS)と比較して刺激の空間分解能および時間分解能は低いが安全性が高く,機器が比較的廉価で小型で携帯可能なことから,ロボット訓練などほかの運動療法と組み合わせたさまざまな併用療法への応用が期待されている.近年では脳由来神経栄養因子(BDNF)が片麻痺の改善に関与することが報告されていることから,tDCS による片麻痺の改善にBDNF 分泌が関与する可能性も考えられる.本稿では脳卒中片麻痺に対するtDCS について解説する. -
脳卒中片麻痺に対するhybrid assistive neuromuscular dynamic stimulation(HANDS) therapy
264巻13号(2018);View Description Hide DescriptionHybrid assistive neuromuscular dynamic stimulation(HANDS)therapy は,脳卒中片麻痺患者における上肢機能を改善させる目的に開発されたあらたな治療法で,随意運動介助型電気刺激装置と上肢装具を1日8 時間装着し,3 週間行う治療である.中等度から重度の上肢麻痺において有意な上肢機能の改善,ならびに日常生活での実用性を改善させることが可能である.機序に関しても脊髄相反性抑制の改善,運動野皮質内抑制の脱抑制などが電気生理学的に確認されている.近年は外来でのプログラムも開発され,またBrain machine interface との併用により,重度片麻痺患者においても実用性の改善が認められている. -
上肢機能障害に対するロボットリハビリテーション
264巻13号(2018);View Description Hide Description脳卒中や脳外傷などの中枢神経損傷による機能障害に対するリハビリテーションでキーとなるコンセプトは運動学習である.脳科学の発展は運動学習のさまざまな側面を明らかにしており,とりわけ運動学習の前提として注目されている脳の可塑性を引き出すニューロリハビリテーション治療の開発は,リハビリテーション医療全体のなかでも大きな潮流となっている.ニューロリハビリテーション治療の中心的な方法論であるCI 療法(constraint-induced movement therapy)はあらゆるリハビリテーション治療のなかでももっともエビデンスが確立した治療法であり,運動学習の本質が豊富に含まれている.最近は,CI 療法の効果をさらに増強するような方法や,通常のCI 療法の適応外であった重度の症例に対しても適応を拡大するような治療法の報告が増えている.リハビリテーション治療を支援するロボット(以下,リハビリテーションロボット)はそのなかでもっとも有力な方法のひとつである.本稿では,運動学習とCI療法を概説しながらロボットリハビリテーションの位置づけを解説し,主要機器について紹介する. -
歩行・バランス練習支援ロボットの特徴と効果―運動学習の観点から
264巻13号(2018);View Description Hide Descriptionリハビリに関連するロボットのうち,本人がリハビリに取り組む際に効果の高い練習を提供することによって,本人の機能障害・能力低下を軽減することを目的とするものが,練習支援ロボットである.本稿では練習支援ロボットの有効性について,著者らが開発したウェルウォークとBEAR を例にあげて解説した.ウェルウォークは片麻痺患者の歩行練習を支援するロボットである.長下肢装具型のロボット脚を装着しトレッドミル上を歩行することで,早期から介助量が少なく,代償運動も少ない歩容を多数歩練習できる.バランス練習アシストは,立ち乗り型ロボットの上でゲーム形式の練習を行うことで,バランス能力の向上をめざすロボットである.2 つのロボットの共通点は,運動学習の変数を柔軟にコントロールし,運動学習に有利な環境を提供することである.練習支援ロボットを有効活用するためには,運動学習の視点が重要である. -
機能的電気刺激による歩行再建
264巻13号(2018);View Description Hide Description機能的電気刺激(FES)は,中枢神経障害による運動麻痺に対しプログラムされた刺激による機能再建を行う治療法である.適応として脳卒中,脳外傷,脊髄損傷,脳性麻痺,多発性硬化症などがあり,治療効果のエビデンスも多く蓄積されている.FES は下肢用では麻痺性内反尖足・下垂足の歩行再建などが可能であり,表面電極システムを中心に臨床的に十分実用的な製品がある.合併症も少なく,筋肥大,耐疲労効果などの筋再教育ができること,促通効果があり,痙縮減弱,血流改善など,病態改善に有効である.現在,費用面での患者負担が軽減されるよう,公的支援の拡充に努めている. -
脳血管障害に対する再生医療とリハビリテーション医学・医療―脳梗塞の再生医療
264巻13号(2018);View Description Hide Description著者らは1990 年代初頭より,脳梗塞や脊髄損傷の動物モデルに対して各種幹細胞をドナーとした移植実験を繰り返し行ってきた.そのなかでも1990 年代後半から,骨髄間葉系幹細胞を有用なドナー細胞として注目し,経静脈的に投与することで著明な治療効果が認められるという基礎研究結果を多数報告してきた.現在,自己培養骨髄間葉系幹細胞を薬事法下で一般医療化すべく,治験薬として医師主導治験を実施し,医薬品(細胞生物製剤)として実用化することを試みている.本治験薬の品質および安全性については,PMDA と相談しながら前臨床試験(GLP,non-GLP)を実施し,また,札幌医科大学のCPC(細胞プロセッシング施設)で適正製造基準(GMP)に基づいて製造している.治験薬の成分は自家骨髄間葉系幹細胞(剤型コード:注射剤C1),製造方法は培養(患者本人から採取した骨髄液中の間葉系幹細胞を自己血清を用いて培養したもの)である.脳梗塞については2013 年2 月に治験届を提出し,医師主導治験を開始している.また,脊髄損傷については2013 年10 月に治験届を提出し,医師主導治験を実施した.2016 年2 月には厚生労働省の再生医療等製品の先駆け審査指定制度の対象品目の指定を受け,薬事承認を受けることをめざして現在進行中である. -
脊髄損傷に対する再生医療とリハビリテーション医学・医療―慢性期脊髄損傷治療への挑戦
264巻13号(2018);View Description Hide DescriptioniPS 細胞技術を応用した脊髄損傷に対する再生医療が大きな期待を集めている.神経幹細胞移植の効果は,これまで亜急性期モデル動物を中心に確立されてきたが,慢性期モデルでは運動機能回復が得られないことも明らかになっている.損傷部に形成されるグリア瘢痕が移植細胞の遊走を物理的に妨げ,さらに機能再生に重要な軸索伸展を阻害する因子が発現してくることなどが原因であり,それを標的とした薬剤との併用療法の研究が広く進められてきている.他方でこれまで細胞移植とリハビリテーションの併用に関する報告は非常に少なく,両者の併用がどのような効果をもたらしているのか十分に明らかになってはいなかった.本稿では国内に10 万人以上いるとされる慢性期患者への再生医療の実現化へ向けてどのような方略が考えられるか,とくに基礎研究領域におけるリハビリテーションに関する知見を織り交ぜながら論じる. -
Brain machine interface のリハビリテーション医学への応用
264巻13号(2018);View Description Hide DescriptionBrain machine interface(BMI)は,脳機能の一部と機械を融合させることにより障害を軽減するための技術であり,その臨床応用が実現すれば,障害者にとって大きな福音となりうる.BMI に関する研究は,当初は障害された機能を補うための機能代償型BMI の開発がおもに進められ,パソコン,環境制御装置,電動義肢・装具,意思伝達装置などの制御に応用されてきた.近年は,BMI を中枢神経の可塑的変化を誘導し,重度麻痺そのものの回復を促す手段として活用する機能回復型BMI に関する報告が急速に増え,あらたな可能性が広がりつつある.本稿では,主として脳卒中後の重度上肢麻痺に対するBMI リハビリテーション治療の動向を概説するとともに,慶應義塾の医工連携チームが進めてきた脳波BMI リハビリテーションシステムの開発と実用化に向けての取組みを紹介する. - 運動器リハビリテーションの新しい流れ
-
ロコモティブシンドロームの概念と運動器リハビリテーション
264巻13号(2018);View Description Hide Descriptionわが国は超高齢社会を迎え,多くの人が関節や脊椎など運動器の障害による症状を訴えている.こうした症状は加齢とともに回復がいっそう困難となり,運動器の障害により要支援・要介護になる高齢者がもっとも多い(約25%)(表1)ことが報告されている.運動器症候群(ロコモ)はそうした症状・状態の総称であり,健康日本21(第二次)にロコモ認知度の向上や足腰に痛みのある高齢者の減少などが盛り込まれるなど,ロコモの予防,早期発見,早期治療は国をあげた喫緊の課題である.まずは簡易なロコモチェックを行い,ロコモの可能性に気づくこと,つぎにロコモ度テストでロコモ度を判定することが肝要である.また,ロコモ予防には,地域でのロコモ教室(地域共生社会)の活用も有用である.本稿では,ロコモの概念ならびにリハビリテーションについて概説する. -
関節リウマチ治療の進歩とリハビリテーション医療
264巻13号(2018);View Description Hide Description関節リウマチ(RA)は原因不明の肉芽腫性関節炎であり,遷延化する関節炎により機能障害,日常生活の制限,活動への参加の制約をきたす.RA のリハビリテーション治療の目的は,生物学的製剤が登場する以前は“不動による合併症の予防と進行抑制”と受動的であったが,登場以後は“臨床的寛解導入までの関節保護・機能維持とその後の機能的寛解,構造的寛解の達成”と能動的な目的へと大きく変化した.また,治療成績とともにRA 患者は生命予後も改善したが,同時に加齢に伴う障害や認知症への対応も必要となってきた.薬物治療が進歩してもRA に対するリハビリテーション治療の有用性が失われることはない.その効果を最大化するためには,RA 患者を“生活しにくさをもつ人間”としてとらえ,適切な機能評価に基づいた,その人にとって必要とされるリハビリテーション治療や援助を実践していくことが重要である. -
骨関節の三次元キネマティクスとリハビリテーション医学・医療
264巻13号(2018);View Description Hide Descriptionそもそも体の動きはそのひとつひとつを構成する骨関節の動きの複合であり,一つひとつの正確で詳細な解析・評価によってはじめて十分な理解ができるようになる.しかし運動器は皮膚に被覆されているためにこれまでその動きに関して十分には明らかにされてこなかった.従来の研究手法ではさまざまな欠点があったのである.著者らの教室では十数年前より独自に骨関節の三次元動態を解析するシステムを開発してきた.これは従来のCT,MRI,X 線イメージ装置を用いて三次元動態解析を行うという技術である.これを用いることにより正確で詳細な術前手術計画,術後評価ができるようになって手術およびその後のリハビリテーション治療体系が大きく変わろうとしている.その一部を紹介したい. -
関節軟骨損傷に対する再生医療とリハビリテーション医学・医療
264巻13号(2018);View Description Hide Description関節内の関節軟骨は硝子軟骨からなり,軟骨欠損は関節鏡検査や磁気共鳴画像MRI によって診断される.軟骨損傷はけっしてまれではなく,競技レベルが上がると軟骨損傷の割合も増加する.軟骨組織の自己修復能力は限られており,一般に2 cm2以上の関節軟骨損傷は永続し,関節痛やスポーツ障害だけでなく,変形性関節症に移行する可能性がある.このため,多くの治療方法が考案されてきた.自家培養軟骨移植(ACI)は軟骨欠損の新しい治療技術であるが,ほかの治療より優れているとはかぎらない1).また,現在の術後リハビリテーションは初期の第一世代ACI 技術や専門家の意見,動物の基礎研究,臨床バイオメカニクスの組合せで,科学的な証拠に乏しい.修復部位に過負荷をかけることなく治癒反応を促進させ,患者の機能を最大限回復させる,証拠に基づいた新しい術後リハビリテーションガイドラインが切望されている. -
上肢切断に対する新しい治療―筋電義手の今
264巻13号(2018);View Description Hide Descriptionリハビリテーションロボットは,今や医療のみならず介護の現場でも使用されるようになってきている.しかし,これらのリハビリテーションロボットは,現場で十分に有効活用されるところまでには到達していない現状がある.その理由としてあげられるのが,①装着性・操作性,②指導可能なリハビリテーションチームや設備の確保あるいはメンテナンス体制,③公的支給制度ともかかわる価格の問題,などである.しかし,リハビリテーションロボットのなかでも筋電義手については,以前より,補装具の種目に含まれていることで障害者総合支援法により給付が受けられ,平成25 年(2013)5 月からは,労働者災害補償保険法における支給対象も拡大され,公的支給制度に関する整備は進んできた.しかし,支給制度以外に存在する課題の解決がいまだ不十分なために,筋電義手の普及率が高いとはけっしていえない状況にある.リハビリテーションロボットのひとつでもある高機能で有用な筋電義手が,上肢切断に対する新しい治療手段として,今後さらに普及する必要があると思われる. -
外骨格型ロボットを用いた運動器疾患に対するリハビリテーション医療
264巻13号(2018);View Description Hide Description医療用のロボットは,リハビリテーション(リハ)訓練支援ロボットと生活支援ロボットに大別される.リハ訓練支援ロボットは上肢障害に対するものと下肢障害(歩行障害)に対するものがある.本稿ではリハ支援ロボットであるHAL を用いた運動器疾患のリハについて述べる.HAL は,①両脚用,②単脚用,③単関節タイプ,④作業支援用(腰タイプ),に大別される.両脚用は脊髄疾患に伴う下肢の麻痺,単関節タイプは人工関節置換術などの膝関節手術後や頸髄症による上肢麻痺,腕神経損傷術後のリハのほか肩関節疾患への適用も試みている.腰タイプは股関節屈曲位からの伸展動作をアシストする機能があり,各種作業における腰部負担軽減を目的として用いている.運動器疾患に対するロボットリハは,時間当りの訓練量の増加やセラピストの負担軽減,訓練内容の質の担保などのメリットだけでなく運動学習への寄与も期待できる. -
高齢者脊椎疾患の手術療法の進歩とリハビリテーション治療
264巻13号(2018);View Description Hide Descriptionわが国の高齢化率(総人口に占める65 歳以上の人口)は,平成28 年(2016)10 月1 日現在,27.3%に達した.脊椎変性疾患の有病率は加齢とともに増えていくので,増加の一途をたどっている.脊椎変性疾患をもつ多くの高齢者に保存療法が施行されているが,従来,その内容は牽引や温熱療法などの物理療法や頸椎カラーや腰椎コルセットによる装具療法が中心であった.近年,脊椎変性疾患に対する運動療法を中心としたリハビリテーションの効果検証やあらたな知見が報告され,その重要性が再認識されている.一方で,脊椎手術は手術機器やインプラントの改良によって低侵襲化が進んでおり,高齢者にも適応が広がる傾向にある.治療がきわめて困難であった高齢者の脊柱変形の矯正も,侵襲を抑えながら良好な治療効果が得られるようになった.術後は早期離床が一般的となり,リハビリテーションを進めやすくなった.本稿では,高齢者の脊椎疾患の治療の進歩について,おもにリハビリテーション治療と脊椎手術の概略を中心に解説する. -
小児と成人の扁平足障害に対する評価とリハビリテーションアプローチ
264巻13号(2018);View Description Hide Description扁平足とは,足部の内側縦アーチが低下または消失した変形である.変形は生直後に加えて歩行開始後間もない幼児期から成人まで幅広くみられ,整形外科やリハビリテーション領域で扱うことが多い.本稿では,幼児期にみられる関節弛緩性を基盤とした可撓性扁平足,年長児にみられる有痛性非可撓性扁平足,さらには成人期扁平足障害の代表病態である後脛骨筋腱機能不全に焦点をあて,病態や成因,特徴的所見,ならびに病態,病期や障害を把握するための評価法,リハビリテーションアプローチを含む保存治療の適応や内容について述べる. - 内部障害とがんのリハビリテーション医学・医療の新しい流れ
-
高齢者,呼吸器疾患に対する呼吸器リハビリテーションの進歩
264巻13号(2018);View Description Hide Description高齢者の多くが肺炎で亡くなっていることより,高齢者に対する呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)は,慢性の呼吸器疾患を有している患者に対するもの以外は,かなりの部分が肺炎のリハビリテーションとなる.しかし,高齢者においてはターミナルケアや社会的事情により,身体的にはまったく同じ重症度の肺炎でも,ICU にいたり一般病棟にいたりする.したがって,一般病棟であっても重症である場合が多く,そのような患者にリハビリテーションを行う場合には,集中治療におけるリハビリテーションと同様の対応が必要となると思われる.慢性呼吸器疾患の呼吸リハにおいては,「呼吸困難→不活発→廃用→運動能低下→さらなる呼吸困難」という負のスパイラルがすべての慢性呼吸器疾患患者には存在しており,呼吸リハの最大の効果はこの負のスパイラルを断ち切ることにより発揮される. -
神経筋疾患の呼吸リハビリテーションの進歩
264巻13号(2018);View Description Hide Descriptionデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)など進行性の呼吸筋力低下を呈する神経筋疾患では,進行すれば人工呼吸により換気を補助しなければ生存できない状態に陥る.1950 年前後にはポリオの呼吸筋麻痺に対して鉄の肺が用いられたが,現在では非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)が推奨されている.しかし,これだけでは治療として不十分であり,胸郭を軟かく保つことや気道クリアランスなどがリハビリテーション治療として重要である.とくに,咳が不十分な患者における気道クリアランスについては,排痰補助装置(MI-E)が有効であり,以前から使用されてきた.これは,気道内に陽圧をかけ強制的に吸気させた後,急激に陰圧にシフトし,咳を補助するものである.最近は,percussion や吸気トリガーなどが取り入れられ,より効果的になってきている.また,人工呼吸器を使用している患者において日常生活動作(ADL)やquality of life(QOL)の維持・改善,さらに行動範囲の拡大を図ることも重要である. -
心不全に関するリハビリテーション医学・医療の進歩
264巻13号(2018);View Description Hide Description慢性心不全患者は,かつてはリスクが高いということで運動療法を中心とする心臓リハビリテーションの適応疾患から除外されていた.しかし,欧米において1990 年以降多くの研究により慢性心不全の運動療法の効果と安全性が確認されてきており,運動耐容能,自覚症状,生活の質(QOL)を改善することが明らかになってきた.エビデンスも蓄積されており,近年多施設研究によりその予後改善効果が認められた.運動療法の分子生物学的機序も徐々に解明されてきている.わが国でも保険診療として認められるようになったが,臨床レベルでの普及はまだこれからである.運動療法にさいしては,禁忌疾患を除外して,事前の病態チェックと運動負荷試験が重要である.低強度・短時間から開始し,毎回のモニタリングが肝要である.有酸素トレーニングのほかに,近年ではレジスタンストレーニングの効果も注目されている. -
心臓移植・肺移植とリハビリテーション医学・医療
264巻13号(2018);View Description Hide Descriptionわが国では1997 年に臓器移植法が施行されたことで,脳死での臓器提供による移植が可能になったが,海外に比較すると少数にとどまっている.2016 年9 月末までに臓器移植を受けたのは,心臓移植302 名,肺移植320 名,心肺同時移植3 名である.移植後5 年の生存率は,心臓92.3%,肺72.8%と海外のデータに比較してもまったく遜色ない.リハビリテーションは移植適応判定に必須であり,また,リハビリテーションにより移植が不要になる例があったり,移植後もリハビリテーションが必要になることから,リハビリテーションは移植医療においても重要である.14,000 人の移植希望登録者に対し年間約300 人程度しか移植を受けることができていない.国民一人ひとりの臓器提供に関する意思表示の促進や終末期にその意思が尊重される病院体制の整備への取組み強化などを通じた提供者数の増加が望まれる.リハビリテーション従事者も移植医療とリハビリテーションの実際を理解しておく必要がある. -
腎臓と肝臓のリハビリテーション医学・医療
264巻13号(2018);View Description Hide Description身体障害者福祉法では,腎機能障害は1972 年に,肝機能障害は2010 年に制定された.腎疾患や肝疾患患者では,腎機能や肝機能障害に伴い,筋力低下,脂質・糖代謝異常,心機能低下,神経系機能障害,精神心理的異常などさまざまな障害が発生する.これらの二次的障害や合併症により身体活動量が低下し,廃用症候群に陥り,生活の質(QOL)も低下させてしまう.両疾患では身体活動量や運動耐容能が低下した患者の死亡リスクが高く,その予後を改善させるためにも適切な運動や身体活動を積極的に行う対策が必要である.いくつかの腎疾患ガイドラインでは,運動療法の重要性が述べられているが,理想的なプロトコールは十分に確立されていない.包括的な腎臓と肝臓のリハビリテーションが身体機能,筋力の向上,健康関連QOL の改善だけでなく,それぞれの臓器保護のための介入手段のひとつとしても期待されている. -
高齢者のフレイルとリハビリテーション医学・医療
264巻13号(2018);View Description Hide Description老年医学では,高齢者には個体差があり,同じ年代に属していても疾病・障害を起こしやすい者とそうでない者が存在することを説明するために“フレイル”という概念を使う.フレイルは高齢者に限定した場合,「多くの臓器の生理学的な冗長性が全般的に障害された状態」と表現でき,その主要な原因は,サルコペニアと栄養障害である.フレイルは死亡率の増加,ADL の低下および転倒など,高齢者にとって好ましくない帰結を確実にもたらすので,積極的なアプローチが必要であるが,可逆性があり十分な運動と栄養補給がなされれば,予防および回復が期待できる.とくに回復期リハビリテーション病棟では,運動量は十分に確保できるものの,それに見合った栄養補給を行わないと,機能的には回復してもサルコペニアの状態のままで退院することになるため,退院後すぐに機能低下を起こす可能性がある.とくに大腿骨近位部骨折の患者では,転倒による骨折の再受傷のリスクを残すことになる. -
支持・緩和医療主体の時期のがんリハビリテーション医療
264巻13号(2018);View Description Hide Description進行がん・末期がん患者では,がんの進行あるいはその治療の過程でさまざまな身体面の障害が生じ,起居動作や歩行,セルフケアをはじめとする日常生活動作(ADL)に制限を生じ,生活の質(QOL)の低下をきたしやすい.これらの問題に対して,身体機能や生活能力の維持・改善を目的とするリハビリテーション医療を行うことは重要である.支持・緩和医療が主体となる時期のリハビリテーションの目的は,「余命の長さにかかわらず,患者とその家族の希望・要望を把握したうえで,身体的にも精神的にも負担が少ないADL の習得とその時期におけるできるかぎり質の高い生活を実現すること」に集約される.リハビリテーション診療の内容は,生命予後が月単位の場合には,動作のコツの習得や適切な補装具の利用,痛みや筋力低下をカバーする方法の指導などにより,残存機能をうまく活かしてADL 拡大を図る.一方,生命予後が週・日単位の場合には,楽に休めるように,疼痛,呼吸困難,全身倦怠感などの症状の緩和が主体となる. -
がん周術期のリハビリテーション医学・医療
264巻13号(2018);View Description Hide Description周術期リハビリテーションが充実していれば.手術的治療におけるリスクが軽減でき,結果として機能改善にも繋がる.岡山大学病院では,手術的治療が決まった肺がん,食道がんなどのがん患者に対して,術前から手術に備えて評価やリハビリテーション治療を行い,手術後には手術直後からリハビリテーション治療を再開するシステムを採用している.そのシステムを紹介し,その効果についても言及する.また白血病や悪性リンパ腫に対する造血幹細胞移植前後において,移植前から開始し移植直後に再開するbio-clean room(BCR)内でのリハビリテーション治療や,乳がんにおいて行っている周術期リハビリテーションについて記載する.骨軟部組織悪性腫瘍では,病変部位切除後の再建術後のリハビリテーションについて,人工関節をはじめ,rotation plasty やhip transfer などを紹介する.がんの周術期における長期のICU 入室は,ICU-AW やPICS といった病態に繋がる.ICU 入室中のリハビリテーション治療や早期の離床の重要性に関しても考える必要がある. -
転移性骨腫瘍のリハビリテーション医学・医療―最期まで歩くためのリハビリテーション
264巻13号(2018);View Description Hide Description高齢者の増加とともにがん患者は増加の一途をたどり,2016 年のがん罹患数は年間100 万人を超えた.また,診療技術の進歩により5 年生存率が改善しており,根治をめざせない患者であっても長期生存が可能になってきた.骨転移診療の目標は,疼痛を軽減し,骨折・麻痺などの症状を予防・治療し,運動機能を保ち,患者の生活の質(QOL)を最期まで維持することである.骨転移患者のリハビリテーションを行うさいには,生命予後や局所の骨折・麻痺のリスクを適切に評価し,背景因子を含めてゴール設定をしなければならない.リスクを恐れて安静にするのではなく,患者の希望に沿って最期まで歩行できるように,どこまで安全に動くことができるかという視点でリハビリテーションを行うことが重要である. - その他のトピックス
-
リハビリテーション医学の宇宙医学への応用―筋骨格系廃用予防装置の開発
264巻13号(2018);View Description Hide Description長期宇宙滞在は人体に種々の影響を及ぼす.とくに筋骨格系は無重力により著しい廃用性変化をきたす.国際宇宙ステーション(ISS)では大型のトレーニング装置を用いて運動が行われるが,将来の有人宇宙探査では小型宇宙船で使用できる装置が必要となる.ハイブリッドトレーニングシステム(HTS)は従来とは逆の発想で,運動時に拮抗筋を電気刺激筋収縮して重力に代わる運動抵抗を発生し,小型で種々の運動で使用できる.地上での検証実験を繰り返し,2009 年に国際公募ISS 利用研究テーマに採択され,2014 年に宇宙飛行士を対象にISS 実験を行った.HTS を使用した上肢に筋肥大,骨密度増加を認め,筋骨格系の維持にはメカニカルストレスが重要であることを再認識する結果が得られた.著者らは2015年HTS を用いたトレーニング装置を産学共同開発し,市販化した.宇宙医学研究と臨床医学研究の同時進行と相互フィードバックを目指し,今後も研究開発を進めて行きたい. -
急性期から活動性の改善を見すえたICU におけるリハビリテーション治療
264巻13号(2018);View Description Hide DescriptionIntensive care uni(t ICU)医療の発展により,救命される患者が増加したが,ICUで安静臥床を強いられると循環血液量減少,交感神経応答不良,筋力低下,心肺機能低下など二次的合併症の発生が懸念される.また長期間の鎮静や人工呼吸器管理は,死亡率の増加やICU 滞在日数の延長を招く.ICU では治療のための鎮静および臥床は必要であると考えられてきたが,近年,ICU であっても早期離床を行うことは実行可能であり,安全かつ有効であることが複数報告されている.ICU で行う急性期からのリハビリテーション治療は全身に影響を及ぼし,心肺機能も高め,生命予後も改善させる.著者らは,従来から実施していたICU での“急性期リハ”に代わるearly mobilization(EM)を導入するため,リハビリテーション科医師より早期離床の重要性を啓発し,救急科医および看護師の理解と協力のもと,過鎮静を行わないsedation 管理が徹底された.著者らも最大限の効果が得られるリハビリテーション医療システムを構築しようと努力し,患者の社会復帰までを見すえて,徹底した急性期からのリハビリテーション治療を実践している. -
ICF とリハビリテーション医学・医療の新しい展開―保健・医療・障害福祉の国際的標準言語を使いこなす
264巻13号(2018);View Description Hide Description国際生活機能分類(ICF)は,2001 年の第54 回WHO 総会において採択された,健康状態に関連する生活機能状態の分類である.たんなる統計ツールではなく,研究・臨床・社会政策・教育の分野にも広く活用されることが期待されている.ICF は生活機能の障害と背景因子とから構成され,項目数は1,400 を超える.生活機能は心身機能と身体構造,活動と参加から構成され,各項目に対して健康のレベル(問題の重大さ)による評価点が付される.コード化の煩雑さを軽減し診療で活用しやすくするために,さまざまな病態・診療状況に対応する“ICF コアセット”が開発されてきた.特筆すべきこととして,30 項目からなる“リハビリテーションセット”が開発され,日本語版の簡潔で直感的な説明文が作成された.今後,ICF が保健・医療・障害福祉の国際的標準言語としてリハビリテーション医療に組み込まれ,活用されることが重要であると思われる. -
障がい者スポーツとスポーツ医科学
264巻13号(2018);View Description Hide Description内閣府が厚生労働省の調査をもとに毎年公表する『平成29 年版障害者白書』によると,日本の障害者概数は身体障害者392 万2 千人,知的障害者74 万1 千人,精神障害者392 万4 千人であり,国民の6.7%がなんらかの障害を有しながら生活している.これまで,日本の障がい者スポーツ全般や実施者数に関する全国的な調査はほとんどなく,その振興や活動も恵まれたものではなかった.しかし,2011 年のスポーツ基本法により法整備や環境整備が推進され,パラリンピックのテレビ中継などによる障がい者スポーツに対する社会の認知度の向上に伴い,実施者数の増加や競技環境の改善が徐々に得られている.しかし,まだまだその医学的重要性については,医師を含めて医療者に十分に理解されていないのが現実であろう.本稿では,障がい者スポーツの概論と医科学的知見についてまとめる. -
自動車運転リハビリテーション―運転再開と中止
264巻13号(2018);View Description Hide Description運転リハビリテーション(DR)はわが国では1961 年に国立身体障害者更生指導所で開始され,近年,対象患者は認知機能に障害をもつ者へと広がってきた.脳卒中や脳外傷,その他の脳疾患患者の運転再開(または中止)に取り組むには,まず運転免許適性検査基準を満たし,道路交通法上の“一定の病気等”のなかで免許拒否・取消あるいは保留・停止に該当するかを確認する.次に認知機能がある程度保たれているのを確認するために神経心理学的検査,運転操作能力に関しては簡易自動車運転シミュレーター検査により評価し,さらに指定自動車教習所に実車教習を依頼する.これらをもとに専門的知識のある医師が包括的な運転再開(または中止)を判断して,公安委員会の運転適性相談を受けることを勧め,最終的に問題がなければ運転を再開する.運転再開または中止は,公安委員会,医療機関,指定自動車教習所の協働を要するテーマであり,今後はエビデンスの集積が必要である. -
摂食嚥下障害の評価
264巻13号(2018);View Description Hide Description日常臨床において病歴聴取,問診,診察により摂食嚥下障害の可能性があると判断すれば,スクリーニング検査を行う.スクリーニング検査で摂食嚥下障害が疑われれば,通常,嚥下造影検査(VF),嚥下内視鏡検査(VE)のどちらかあるいは両方を行う.VF,VE を用いると食塊通過を観察することができ,誤嚥や咽頭残留の評価に適しているため,標準的な検査法として広く使用されている.治療方針の決定が困難な場合,詳細な嚥下障害の原因や神経生理学的側面の評価が必要な場合は,筋電図,マノメトリー,嚥下CT 検査が有用である.筋電図検査では,神経原性変化,筋原性変化の鑑別,輪状咽頭筋の弛緩,嚥下関与筋の一連の協調運動を評価する.高解像度マノメトリーでは,上咽頭から舌根部,下咽頭,食道上部括約筋,食道へと協調的かつ連続的に発生する内圧の時間・空間的データが得られる.嚥下CT では嚥下運動の立体的動態の描出が可能となり,嚥下動態の詳細な把握が可能である.
-