医学のあゆみ
Volume 265, Issue 3, 2018
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特集 超高齢社会における肺炎診療を考える―成人肺炎診療ガイドライン2017 のインパクト
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肺炎の疫学 ─ 死亡原因からみた日本の肺炎の疫学
265巻3号(2018);View Description Hide Description肺炎の疫学を死亡統計から観察すると,興味深い変化が近年起こっていることに気づく.2011 年,肺炎は脳血管障害を抜いて,悪性腫瘍,心疾患に次いで日本人の死亡原因の第3 位となった.このまま高齢化とともに,肺炎の死亡率も増加すると考えられたが,実際は,2012 年から減少に転じている.その原因を考察すると,超高齢社会のさらなる高齢化が考えられる.すなわち,死亡年齢の上昇と,死亡場所の変化が死亡診断書の病名に影響している可能性が考えられる.このような背景のなか,ガイドラインが出された2017 年には,肺炎の死亡率は急激に減少し,脳血管障害,さらに老衰についで日本人の死亡原因の第4 位あるいは第5 位になる可能性が予想される.そして,その方向性はまさに「成人肺炎診療ガイドライン2017」が示した方向性に合致する.すなわち,肺炎診療の主役が医療者から患者本人へと手渡されることの象徴であると考えられる. -
誤嚥性肺炎と終末期肺炎の考え方
265巻3号(2018);View Description Hide Description日本呼吸器学会からの成人肺炎診療ガイドライン2017 では,「医療・介護関連肺炎や院内肺炎では,まずは患者背景のアセスメントを行い,易反復性の誤嚥性肺炎のリスクがある場合や疾患末期や老衰の状態と判断した場合,個人の意志やQOL を考慮した治療・ケアを行う」ことを提唱している.これは,超高齢社会を迎えた日本の肺炎診療の限界と進歩を表しており,高齢者の肺炎診療における終末期の考え方に呼吸器学会としてはじめて言及した形になった.繰り返す誤嚥性肺炎を終末期肺炎とみなすことができるが,誤嚥性肺炎の明確な診断は困難な場合が多い.終末期の診療においては,医療者は十分な科学的証拠を提供し,患者側は将来の方針について事前に家族や医療者と共同で話しあう自発的なプロセス(advanced care planning)が重要である. -
重症度設定の意義
265巻3号(2018);View Description Hide Description急性疾患患者の診療初期に,重症度あるいは予後予測を客観的指標を用いて迅速に評価することは,重要な診療項目である.客観的指標により患者群を迅速に振り分けることで,相応の診療内容の提供に結びつけうる.日本呼吸器学会『成人肺炎診療ガイドライン2017』では,その骨子となるフローチャートに,従来の肺炎予後予測指標に加えて,sepsis-3 であらたに提唱された敗血症の概念が取り入れられている.これらに基づき,治療の場(外来,入院,ICU 入室)と介入(抗菌薬,呼吸循環管理)を決める.なかでも,とくに重症例の早期選別が重要で,市中肺炎や医療/介護施設関連肺炎ではA-DROP で中等症以上,院内肺炎ではIROAD重症,あるいは敗血症であれば,重症あるいは超重症と評価する.とくに敗血症という致死的病態を迅速に認識し,治療介入に役立てることで,救命率の改善につなげることができる. -
細菌叢解析法からわかった原因菌と検出菌との相違
265巻3号(2018);View Description Hide Description肺炎診療においては原因菌の正確な情報が重要な因子であるが,高齢化に伴う原因菌の多様化や薬剤耐性などが予測される現代においては,培養法を中心とした検査法のみでは原因菌に関する十分な情報が得られているかどうかは不明であり,培養で得られた結果が肺炎における真の原因菌かどうかを判断することはしばしば難しい.著者らは,従来の培養法に加え,細菌のみが保有する16S ribosomal RNA 遺伝子を用いた細菌叢解析法を用い,市中肺炎,医療介護関連肺炎,院内肺炎患者の気管支洗浄液の細菌叢の検討を行った.その結果,従来から知られている原因菌に加えて,口腔内レンサ球菌や嫌気性菌がこれまでの既報と比較しより重要な役割を果たしている可能性が示された.また,口腔内レンサ球菌は,高齢者,全身状態が不良な患者において,より多く検出される可能性が示唆された.さらに,近年原因菌であるかどうかが議論されているMRSA や緑膿菌などの耐性菌については,細菌叢解析の結果,培養法ではこれらの菌種の原因菌としての関与が過大評価されている可能性が示唆された. -
高齢者肺炎における抗菌薬治療の適応と限界
265巻3号(2018);View Description Hide Description高齢者の感染症は典型的な症状を欠き,むしろ意識変調,失禁,転倒など,非特異的症状が目立つことが多い.免疫能の低下もあり,重症化しやすい側面もあるが,抗菌薬治療が奏功した場合でも,悪化した基礎疾患のために全身状態が速やかに改善せず,抗菌薬治療が長引く傾向にある.肺炎の原因菌は特殊なものはなく,成人肺炎の場合と同様である.耐性菌を注視することが大切であるが,そのことにより“耐性菌感染症が多い”と錯覚するのではなく,初期抗菌薬はペニシリン系薬およびセファロスポリン系薬から選択してよい.治療効果は,解熱,炎症反応の鎮静化,胸部X 線上の陰影の消退など,抗菌薬の直接効果ではない事項が指標とされることが多いが,本来は,“喀痰中の菌の消失”が抗菌薬の効果指標であることを認識することが重要である.抗菌薬をどのように駆使しようとも,ヒトの健康寿命には限りがあるという視点を有することも必要である. -
高齢者の肺炎予防 ─ ワクチンと口腔ケア
265巻3号(2018);View Description Hide Description肺炎は現在,死亡原因の第3 位を占める重要な疾患である.年齢階級別死亡者数では全体の96%以上を65 歳以上の高齢者が占めており,肺炎死亡者数が増加しているおもな原因は日本社会の高齢化によるものと推測されることから,とくに高齢者における肺炎予防は重要である.「成人肺炎診療ガイドライン2017」では,肺炎予防として肺炎球菌ワクチン接種,インフルエンザワクチン接種,早期のインフルエンザ治療,口腔ケア,について述べられている.本稿では,当ガイドラインに基づき,それぞれについて概説する.
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連載
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- 救急医学 ─ 現状と課題 15
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マスギャザリング医療の骨格と課題
265巻3号(2018);View Description Hide Description◎マスギャザリング医療の対象は,4 つに大別され,スポーツイベントはそのひとつである.マスギャザリング医療は,①イベントに潜むリスクの評価,②イベント期間の前後を含むサーベイランス(情報収集)と報告,③発生した事案への最適な反応,を基礎とする.イベントのリスクを評価するうえで,救急・災害医療および公衆衛生学の視点が欠かせない.事案発生の迅速な検知と最適な反応には,サーベイランスの強化,多機関の情報共有と協力・連携体制,医療サービス形態や医療資源配分の構想などが求められる.システムの効率化や統合に,近代的技術の応用も検討すべきである.大規模スポーツイベントの開催を控えたわが国にとって,救急・災害医療従事者がこれらを理解し,共通認識をもつことは,地域,医療機関,自治体などの活動に寄与するうえで焦眉の問題である.本稿では,マスギャザリング医療の基本骨格と課題,工学技術の現状と応用可能性について解説する. - Sustainable Development を目指した予防医学 5
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食物由来の化学物質曝露とそのコントロール
265巻3号(2018);View Description Hide Description残留性有機汚染物質(POPs)をはじめとする化学物質はその製造・使用の禁止にもかかわらず,高い残留性・生物蓄積性をもつことから,現在もさまざまな環境媒体・生体からの検出が続いている.このため,これらPOPs はいぜんヒトにも曝露が続いており,健康への影響が懸念されている.POPs はその生物蓄積性のため,食物連鎖を通じて濃縮されることが知られており,高次捕食者から高いレベルで検出される.ヒトにおいて,POPs の一種であるポリ塩化ビフェニル(PCBs)の曝露はその大半が食物由来の曝露であることが知られており,曝露リスクをコントロールするためには,そのなかからおもな曝露源を特定する必要がある.このような背景から,コホート調査における化学物質の測定および食事調査アンケートの結果を解析したところ,PCBs は,食事パターンによって残留濃度が異なること,調理手段によって曝露濃度を低減できる可能性が示唆された.
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- Choosing Wisely キャンペーンとは 2
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- NEW 医療社会学の冒険 1
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