医学のあゆみ
Volume 265, Issue 4, 2018
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特集 MHC クラスⅠb 拘束性T 細胞研究の新展開
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MHC クラスⅠb 分子の多様な機能
265巻4号(2018);View Description Hide Descriptionほとんどすべての有核細胞に発現するMHC クラスⅠ(MHC-Ⅰ)分子は,ウイルスなどに由来する蛋白質の断片,すなわち抗原ペプチドを小胞体で結合し,それを細胞表面へ移送しキラーT 細胞に提示することで,獲得免疫系を活性化する.これらのMHC-Ⅰ分子はMHC-Ⅰa あるいは古典的MHC-Ⅰ分子とよばれている.これに対しそれ以外のMHC-Ⅰ分子を一括して,MHC-Ⅰb あるいは非古典的MHC-Ⅰ分子とよんでいる.MHC-Ⅰb 分子は特殊なペプチドや糖脂質などの低分子を特定の免疫細胞に提示して,その活性を調節したり抗体分子や鉄の輸送調節に関与したりするなど,多様な機能を有する.本稿ではMHC-Ⅰb 分子の多様な機能とその構造的基盤について概説する. -
H2-M3 拘束性T 細胞の生体防御における意義
265巻4号(2018);View Description Hide DescriptionマウスのH2-M3 はMHC クラスⅠb 分子のひとつであり,多型性がきわめて少なく,細菌またはミトコンドリア蛋白質に由来するN 末端がフォルミル化メチオニンではじまる疎水性のペプチドを結合して,H2-M3拘束性CD8+ T 細胞に認識される.H2-M3 拘束性CD8+ T 細胞は胸腺で上皮細胞と骨髄由来細胞で正の選択を受けて分化し,NK 関連レセプターやメモリー型の表面形質をもつことが特徴である.末梢ではクローン増殖なしにT 細胞レセプター(TCR)からの刺激で早期に活性化されエフェクター分子を発現する自然免疫に近いT 細胞応答で,Listeria monocytogenes(リステリア),Mycobacterium tuberculosis(結核),Chlamydiapneumonia(クラミジア),Salmonella thyphimurium(サルモネラ)などの細胞内寄生性細菌の一次感染症での早期感染防御を担う. -
Qa-1 拘束性CD8 陽性制御性T 細胞の分化と機能
265巻4号(2018);View Description Hide Description生体は病原性物質に対しては免疫応答を活性化させる一方,生体に必要な外来抗原および自己に対しては免疫応答を制御することにより,免疫学的恒常性を維持している.制御性T 細胞(Treg)は,免疫寛容誘導において中心的な役割を果たしている.Treg 研究の多くはCD4 陽性Treg に関するものであるが,近年CD8陽性Treg に関してもその知見が蓄積されてきている.なかでもQa-1 拘束性CD8 陽性Treg に関しては詳細な検討がなされている.MHC classⅠb 分子であるQa-1 によりペプチドがCD8 陽性Treg に提示されることで自己免疫応答が制御され,このようなQa-1 拘束性CD8 陽性Treg の欠失は自己免疫疾患発症に直結する.本稿では,Qa-1 拘束性CD8 陽性Treg の分化および機能について,最新の知見を含め概説する. - 【CD1d 拘束性T 細胞の最近の話題】
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新しいTraj18 ノックアウトマウスの開発とiNKT 細胞機能研究の新展開
265巻4号(2018);View Description Hide Descriptionナチュラルキラー(NK)T 細胞はCD1d に提示される糖脂質などを認識し,自然免疫系と獲得免疫系の橋渡しをする重要な細胞である.NKT 細胞はiNKT 細胞とTypeⅡ NKT 細胞に大別できるが,個々の機能について,Traj18 欠損マウスとCd1d 欠損マウスを用いて評価が行われてきた.しかし最近になってTraj18 欠損マウスにはTCR レパトア異常があることが明らかにされ,αβT 細胞の40%のクローンが消失していることが明らかとなった.今回新しいゲノム編集技術であるCRISPR/Cas9 を用いて,Traj18 領域を欠失させることでiNKT 細胞特異的欠損マウス(CRISPR-Traj18 マウス)の創出に成功した.CRISPR-Traj18 マウスを用いることで肥満モデルにおけるCD1d 依存的な増悪はtypeⅡ NKT 細胞よりもむしろiNKT 細胞が中心を担うことを明らかにした. -
自己血管内皮細胞反応性type Ⅱ NKT 細胞の血管炎における役割
265巻4号(2018);View Description Hide Description血管炎を自然発症するenv-pX ラットから,自己血管内皮細胞に反応し,血管炎を惹起するT 細胞クローンVASC-1 を単離した.フェノタイプおよびジェノタイプ解析から,VASC-1 はtype Ⅱ NKT 細胞であると考えられた.VASC-1 は血管内皮細胞上のCD1d 分子に提示される自己細胞内抗原sterol carrier protein2(SCP2)のP518-532を認識し,活性化して炎症性サイトカインを放出する.一方,文献的には自己反応性type Ⅱ NKT 細胞の免疫抑制能が示唆されている.自己反応性type Ⅱ NKT 細胞が正常では免疫抑制性に働くとすると,env-pX ラットでは機能失調に陥っている可能性があり,そのことが血管炎の発症に関与している可能性が考えられる. -
肺におけるsulfatide 反応性type Ⅱ NKT 細胞の機能解析
265巻4号(2018);View Description Hide DescriptionNatural killer T(NKT)細胞は,自然免疫細胞と獲得免疫細胞の両方の特徴をもつ,CD1d 拘束性のT 細胞である.NKT 細胞はtype Ⅰ NKT 細胞と,type Ⅱ NKT 細胞の2 つのサブセットに分けることができる.Type Ⅱ NKT 細胞をフローサイトメトリーで同定可能な試薬がないことから,type Ⅱ NKT 細胞の直接的な機能解析はtype Ⅰ NKT 細胞と比較しほとんど進んでいない.著者らは螢光標識したsulfatide loaded CD1dtetramer を作製し,type Ⅱ NKT 細胞のサブセットのひとつであるsulfatide 反応性type Ⅱ NKT 細胞を解析した.そしてマウスsulfatide 反応性type Ⅱ NKT 細胞は,これまで報告されていた肝に加え,肺に多く存在することを発見した.マウス肺sulfatide 反応性type Ⅱ NKT 細胞はc-kit の発現,未刺激状態でのGranzyme Aの発現など,type Ⅰ NKT 細胞とも通常のT 細胞とも異なる性質をもっていた. - 【MR1 拘束性T 細胞の最近の話題】
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免疫疾患とMAIT 細胞
265巻4号(2018);View Description Hide DescriptionMucosal-associated invariant T(MAIT)細胞は,腸管粘固有層やPeyer 板に多く存在することからその名が冠せられた自然リンパ球である.皮膚や腸管,呼吸器系など外来侵入物に対する免疫応答の最前線に位置し,自然免疫と同じくらいのスピードでエフェクター機能を発揮することが可能である.ヒトでは末梢血リンパ球の数%を占める大きな細胞集団であることからも,その役割に注目が集まっている.さまざまなヒト免疫疾患において,MAIT 細胞の減少や活性化,炎症組織への集積が報告されている.本稿では免疫疾患と動物モデルにおけるMAIT 細胞の最近の知見について紹介する. -
MAIT 細胞分化と機能における新展開
265巻4号(2018);View Description Hide DescriptionMucosal-associated invariant T(MAIT)細胞は,自然免疫と獲得免疫の両方の性質を有する自然免疫型T細胞に属し,ヒト最大のT 細胞亜集団を形成する.MAIT 細胞は細菌感染からの生体防御において重要な機能を果たすばかりでなく,自己免疫疾患,肥満・2 型糖尿病などの生活習慣病,がんなど,各種ヒト疾患への関与が示されている.MAIT 細胞は,MHC classⅠb に属するmonomorphic なMR1 分子に提示された微生物由来ビタミンB2代謝中間産物を抗原として認識し,活性化される.MR1 はMAIT 細胞分化を拘束するが,健常・病態においてMAIT 細胞分化・機能がいかに制御・攪乱され,疾患とどうかかわっているのかは,いまだ多くが未解明である.本稿ではこれまでに報告されているMAIT 細胞の分化・機能に関する知見を簡潔にまとめ,今後のMAIT 細胞研究の方向性を示した.
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連載
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- 救急医学 ― 現状と課題 16
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Acute Care Surgery のいま―わが国におけるAcute Care Surgeon 育成
265巻4号(2018);View Description Hide Description◎Acute Care Surgery とは,“Trauma Surgery”“Emergency General Surgery”“Surgical Critical Care”を一体として取り扱うあらたな外科領域で,2005 年にアメリカ外傷外科学会によって提唱されたものであるが,アメリカ内のみならず,徐々に世界に広がりつつある.Acute Care Surgery をわが国に導入・普及するにあたって,日本国内での解釈の相違から,多少の混乱が生じている.このため日本Acute Care Surgery 学会では,Acute Care Surgery の基本概念は踏襲しつつ,わが国におけるAcute Care Surgery に関して,その“診療領域”“専門領域”を明確に示した.この専門領域が明確となったことにより,わが国でのAcute CareSurgeon とは,この専門領域を臨床実践できる外科医と規定することで,そのアイデンティティーを確立することが可能となった.若き外科医のなかにはAcute Care Surgeon をめざす者も少なくない.日本AcuteCare Surgery 学会では,彼らが標準的なAcute Care Surgery を実践できるようになるための指針とその手順を明確に提示し,この指針に基づいた十分な修練により,適切な外科診療能力を習得した外科医に対して,日本Acute Care Surgery 学会認定外科医の資格を付与していく. - Sustainable Development を目指した予防医学 6
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ロコモティブシンドロームと予防医学の現状
265巻4号(2018);View Description Hide Description2007 年に日本整形外科学会が主導しロコモティブシンドロームという言葉が誕生した.これは運動器の機能低下により移動能力が低下した状態を指す.ロコモティブシンドロームに介入し,できるだけ移動能力を維持し機能低下を最小限とすることにより,高齢社会で問題となっている自立して生活できない期間(要支援,要介護状態の期間)を短縮させることが期待されている.フレイル,サルコペニアも高齢者で問題となる.フレイルは身体的・精神的・社会的な側面をすべて含む.ロコモティブシンドロームは身体的フレイルと近いといえるが,診断基準を明らかとしている点でロコモティブシンドロームはより明快である.サルコペニアは,筋力,筋量に視点をおいたものであるが,その多くはロコモティブシンドロームに内包されるものと考えられる.ロコモティブシンドロームに対する介入方法としては,運動,栄養が肝要であり,片脚立位運動,スクワット運動が日本整形外科学会から推奨されている.ロコモティブシンドロームへの予防介入はフレイルやサルコペニアへの介入ともなると考えられるが,意義が明らかにされるにはさらなる検討が待たれているところである.
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TOPICS
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- 細胞生物学
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- 内分泌・代謝学
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- 神経精神医学
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FORUM
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- Choosing Wisely キャンペーンとは 3
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Choosing Wisely とHigh Value Care― 価値に基づいた医療へのACP の取組み
265巻4号(2018);View Description Hide Description - 病院建築への誘い ― 医療者と病院建築のかかわりを考える
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