医学のあゆみ
Volume 265, Issue 11, 2018
Volumes & issues:
-
特集 Real World Data(実臨床データ)を用いた臨床疫学研究
-
-
-
データベース研究で用いられるReal World Data の種類と特徴
265巻11号(2018);View Description Hide Description医療系データベースは,大きく分けて,医療現場で行われている情報をそのまま取得,整理してデータベースに格納される,リアルワールドデータ系のデータベースと,医療現場における疾患や薬剤の各種情報を自発的に入力する,レジストリ系のデータベースの2 種類に大別される.このうち,リアルワールドデータ系の医療データベースとしては,診療報酬請求(レセプト)情報データベース,DPC データベース,調剤薬局における調剤データベース,そして,電子カルテ(EMR)由来の診療情報データベースの4 種別に分類される.研究の目的に応じて,どのデータベースが最適か,それぞれ得意不得意な点があるので,よく理解して活用する必要がある.一方,診療情報のみならず,全国の自治体が所管する母子保健情報や学校健診情報といった各種健診情報と医療情報がつながっていくことによって,個人単位での健康の歴史を紡いでいくような健康ライフコースデータ基盤の確立も,新時代の医学にとってたいへん重要である. -
Real World Data を用いた統計モデリングとその費用対効果評価への応用 ─ JJ 医療経済モデル
265巻11号(2018);View Description Hide Description中央社会保険医療協議会にて費用対効果評価の導入が進められている.統計学の立場にたつと,科学的に妥当な費用対効果評価のため,どのようなデータソースが求められるのかが問題である.費用対効果評価には,臨床試験アプローチとモデル分析アプローチがある.本稿では,Real World Data を用いたモデル分析の例として2 型糖尿病(JJ 医療経済モデル)を取りあげる.JJ 医療経済モデルは,比較する薬剤がもたらすHbA1c,収縮期血圧,BMI,non-HDL-コレステロールの変化と薬剤費を入力することで,糖尿病合併症(網膜症発生,網膜症増悪,冠動脈心疾患,顕性腎症,非心血管死,下肢切断,心血管死,末期腎不全)の確率計算を通じて,生存年,質調整生存年(QALY),増分費用効果比(ICER)を出力する.この事例が示すように,慢性疾患において費用対効果を行うためには,現実の臨床成績を反映し,長期間がカバーされ,複数施設を追跡できるデータソースが求められる.疾患レジストリ,電子カルテ,診療報酬請求情報,薬局チェーンの調剤記録の活用が期待される. -
ナショナルデータベース(NDB)およびDPC データを用いた臨床疫学研究
265巻11号(2018);View Description Hide DescriptionNDB データは,匿名化されたレセプト情報および特定健診・特定保健指導情報を全国の医療機関などから収集し構築した巨大なデータベースである.DPC データは全国のDPC 病院から収集され,レセプト情報のほかに様式1 という入院患者詳細情報を含む.NDB データ利用には4 つの壁があり,データハンドリングに際してはさまざまな落とし穴がある.いくつかの研究班がこれらの問題解決や人材育成に取り組んでおり,成果がまたれる.一方,DPC データはすでに数百編の臨床疫学研究論文を世に出しており,Real World Dataを用いた臨床疫学研究の最前線を駆け抜けている.NDB・DPC データ研究は,臨床医学,疫学・統計学,医療情報学などの学際研究である.データを収集・管理するシステムを円滑化し,若手研究者を育成し,データ利用者数を拡大することが急務である. -
関節リウマチコホートを用いた臨床疫学研究
265巻11号(2018);View Description Hide Description関節リウマチ(RA)の治療はあらたな治療薬の開発により著しく進歩した.多くのRCT が行われ,その有用性を検証してきた.しかし,短期的アウトカムを求めるRCT はRA の真のアウトカムである長期予後の改善を証明できない.したがってRA においては観察研究が必須であり,以前から日常診療を対象としたRealWorld Data の重要性が認識されてきた.東京女子医科大学病院膠原病リウマチ痛風センターでは,2000 年から通院中のすべてのRA 患者を対象としたコホート研究IORRA を実施しているが,2018 年までに約6,000名の91,884 人年のデータを集積し,このReal World Database を用いて,多くのReal World Evidence を創出してきた.慢性疾患であるRA では,今後もReal World Evidence の蓄積が望まれる. -
大規模臨床研究からみた日本人2 型糖尿病患者の食事療法
265巻11号(2018);View Description Hide Description食事療法は2 型糖尿病患者の血糖コントロールや合併症発症予防・遅延のための治療の基本であるが,その根拠はいまだに一般対象者による研究や少人数の糖尿病患者を対象とした観察・介入研究が多く,糖尿病患者を対象とする大規模臨床研究からのエビデンス創出が求められている.また,食事療法は,食習慣や食文化などの観点から人種・民族差が大きく影響するため,わが国発の日本人2 型糖尿病患者のための食事療法に関するエビデンス構築が必要である.そこでわが国では国際的にいち早く,1996 年から糖尿病専門医療機関59 施設の2 型糖尿病患者2,033 名を追跡するJapan Diabetes Complications Study(JDCS)を実施し,糖尿病の臨床像を明らかにしてきた.本稿では,JDCS でこれまでに得られた日本人2 型糖尿病患者の食事摂取状況や食品・栄養素摂取状況と合併症発症リスクの関係を整理し,紹介していく. -
Real World Data を用いた薬剤疫学研究の薬事利用に関する一考察 ─ GCP renovation における“Fit-for-purpose data quality”の実践
265巻11号(2018);View Description Hide Description薬剤疫学は,各国における薬事制度に立脚し,おもに日常診療で得られるデータReal World Data(RWD)に基づき,医薬品の市販後安全性確保と適正使用に資するエビデンスの創生を目的とする学問である.しかし,この分野では新医薬品の承認審査への応用をめざすエビデンス創出についてはほとんど議論されてこなかった.2017 年2 月にICH が公表したGCP renovation では,RWD を用いた観察研究を含むさまざまな研究デザインにより生み出されるエビデンスを薬事承認申請に用いる方針が示され,これらのあらたな研究デザインに関する規定が次世代のGCP に盛り込まれることが謳われている.本稿では,薬事上の意思決定において,利用目的に応じたデータ品質水準,Fit-for-purpose data quality の観点から,RWD を利用する際に求められるデータ品質に関する考察を行う. -
健康保険組合由来の診療報酬(レセプト)データベースとその活用
265巻11号(2018);View Description Hide DescriptionReal World Data の発展が注目されている.診療(調剤)報酬明細(レセプト)のデータベースは,病院由来と保険者由来では異なる特徴がある.保険者由来のなかでも健保組合由来のデータベースについて述べる.健保組合は全国に約1,400 組合あり,約2,850 万人が加入するが,そこに集約されるレセプトデータの特徴は,“網羅性”と“追跡性”が優れることにある.最近では,健保組合由来のレセプトデータを利用した論文は年に20 報を超える.多くは,薬剤疫学,公衆衛生,医療の質,医療経済などの研究に利用されているが,今後は医薬品の製造販売後調査での活用や予測モデル開発などの活用が期待される. -
電子カルテ由来の診療情報データベースの基盤構築と応用に向けて ─ 新時代の幕開け
265巻11号(2018);View Description Hide Description医療の質の向上には,医療の評価をつねに行うことが必要である.そのためには質の高いデータベースと,データベースを解析することのできる臨床疫学や医薬経済の専門家が必要とされる1).医療データベースの構築に関しては,いままでは学会のリーダーシップや医療現場の自助努力にゆだねられ,システム構築にかかる膨大な人手や資金のいずれも不足しており,研究費がなければその維持管理を行うことは非常に困難であった.しかし,次世代医療基盤法の制定やICT の発展により,臨床試験のような実験的環境(Ideal World)ではなく,日常診療の環境(Real World)のデータベース構築が現実となりつつある.“データをいかにして集めるか”ということに心を悩ませた時代から“データをいかにして活用するか”をようやく考えることができる時代になりつつあり,いままでとは異なる速度でエビデンスが創出されることが期待される.
-
-
連載
-
- Sustainable Development を目指した予防医学 11
-
疾患の遺伝要因と予防医学
265巻11号(2018);View Description Hide Description程度の差はあるが,すべての疾患には遺伝要因が関与している.ある程度以上,遺伝要因が関与している疾患を遺伝性疾患と総称するが,そのなかには,単一遺伝子疾患,染色体異常とともに多因子疾患が含まれる.多因子疾患は生涯に3 人に2 人が罹患するありふれた疾患である.このなかには,先天奇形,2 型糖尿病や大部分の癌などの生活習慣病,アレルギー・免疫疾患,精神疾患などがある.ヒトゲノム解析手法の急速な進展に伴って,ヒトゲノムの網羅的解析に関するコストも劇的に下がり,ついに単一遺伝子疾患では臨床現場のニーズにも対応できるようになってきた.また,多因子疾患においても,発症に関与する多くの遺伝子が明らかになってきた.一方,各多因子疾患の想定されている遺伝要因における関与が明らかになった遺伝子で説明できる割合は,合計しても10%程度にとどまっている.残りの遺伝要因の解明および発症予防への応用が今後の課題である.
-
移行期医療 ― 成人に達する/ 達した患者への医療 4
-
-
低出生体重児の移行期医療
265巻11号(2018);View Description Hide Description◎低出生体重児,なかでもNICU で入院加療を要した極低出生体重児や超低出生体重児では,脳性麻痺,視力障害などの神経・感覚器の障害,知的障害,発達障害の合併の頻度が一般児に比べ高率である.乳幼児期から続くこれらの合併症に加え,子宮内環境への適応や,臓器の未熟性と関連した臓器機能の障害が思春期以降に起こるリスクも増加している.高血圧,腎機能障害,慢性呼吸器疾患,2 型糖尿病,うつ病などの精神疾患などである.年長になるほど合併する疾病群は多岐にわたり,より個別化するため,必要に応じて専門科への紹介,思春期をすぎると成人科との連携が必要である.成人科への移行に向け,理解度と自立性に応じて,患者本人と家族の意識付けを段階的に行うことに加え,担当している医療者の意識も必要である.自分がフォローアップしている患者の長期的な医療管理の必要性を判断し,どのように移行していくかを計画しなければならない.
-
-
TOPICS
-
- 腎臓内科学
-
- 社会医学
-
- 再生医学
-
-
FORUM
-
- Choosing Wisely キャンペーンとは 8
-
- 医療社会学の冒険 3
-