Volume 265,
Issue 13,
2018
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【6月第5土曜特集】 自然免疫の最前線
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医学のあゆみ 265巻13号, 1057-1057 (2018);
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自然免疫系受容体の機能と構造
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医学のあゆみ 265巻13号, 1061-1066 (2018);
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Toll 様受容体(TLR)ファミリーは,自然免疫において病原体の構成成分を認識するパターン認識受容体のひとつである.このファミリーに関して,この10 年ほどの間に構造生物学的研究が大きく進展した.それぞれのTLR の細胞外ドメインおよびそのリガンド複合体の立体構造が明らかにされ,それに基づきリガンド認識機構やシグナル伝達機構の理解が大きく深まった.TLR はリガンド依存的に活性化型の二量体を形成するという共通の機構を有する一方で,そのリガンド認識機構はTLR の間で大きく異なっていた.これらのTLR の構造基盤はTLR の機能を理解することおよびそれを制御する薬剤の開発に大きく貢献するであろう.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1067-1072 (2018);
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C型レクチン受容体はおもに糖鎖構造を含む分子を認識する自然免疫受容体である,Dectin-1 を契機として,近年,真菌や細菌由来のリガンドが同定され,さまざまな機能が明らかとなってきた.真菌感染時には貪食作用の促進に加え,誘導される免疫応答が菌排除に関与していること,また,糖を多く含む細菌に対しては複数の受容体がそれぞれ特徴的な機能をもち,効率よい獲得免疫応答の誘導に作用することが明らかとなった.最近では生体内に存在する内因性リガンドも報告され,それらの分子は損傷などで死細胞が多い条件下に出現することから,生体内における感染以外の異変までも感知する機能が見出された.活性型のみならず抑制型のC 型レクチン受容体も多く存在し,正と負のバランスを調節しながら多様な自然免疫応答の誘導に寄与していると考えられる.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1073-1077 (2018);
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臨床現場で遭遇する敗血症性ショックのひとつとしてエンドトキシンショックが知られており,その原因の化学的本体はグラム陰性細菌の外膜の主構成成分であるリポ多糖(LPS)であることがわかっている.2011 年にノーベル生理学・医学賞の対象になったこともあり,LPS センサーとしてToll 様受容体4(TLR4,おもに細胞表面に局在)の存在が専門外の人にも広く知られるようになった.TLR4 による細胞表面でのLPS 検知システムに加え,細胞内のLPS 検知システムの存在も報告されている.グラム陰性細菌がマクロファージなどの宿主細胞内に感染(侵入)して細胞内がLPS で汚染されると,これをカスパーゼ11(ヒトカスパーゼ4,5)プロテアーゼがTLR4 非依存的に感知し,宿主細胞に自爆細胞死(パイロトーシス)を促す.カスパーゼ11 の基質としてガスダーミンD(GSDMD)が同定され,その機能解析も進みつつある.切断され活性型へと変換されたガスダーミンD のN 末端断片は重合体を形成し,さらに宿主の細胞膜を貫通して穿孔(ポア)を形成する.宿主細胞はガスダーミンD ポアによりやがて膨潤破裂し,寄生した細菌をIL-1βなどの炎症性内容物とともに細胞外へと放出することが判明した.これら新しい分子機構の発見は,敗血症や炎症性疾患の治療法の開発のあらたなターゲットとして注目されている.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1079-1084 (2018);
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ウイルスが宿主細胞内に侵入すると,細胞質内にウイルス由来の核酸が現れる.自然免疫はこの細胞質内の核酸を認識し,Ⅰ型インターフェロンやIL-6 などの炎症性サイトカイン産生を誘導する.ウイルス由来のRNA は宿主のRNA と異なり二重鎖RNA 領域を形成するために,病原体関連分子パターンとしてパターン認識受容体のRIG-I 様受容体により認識される.このRIG-I 様受容体の活性化は厳密に制御されており,その異常な活性化は全身性エリテマトーデス様の自己免疫疾患の発症につながることが動物実験などから明らかとなっている.そのため,RIG-I 様受容体には翻訳後修飾を担うユビキチンリガーゼやリン酸化酵素,脱リン酸化酵素など多くの制御因子が関与する.また,RIG-I 様受容体の結合を助けるセンチネルとしての役割を果たす分子も複数存在する.一方で,ヘルペスウイルスなどのDNA ウイルスのゲノムは,細胞質に存在するとcGAS やAIM2 分子に認識され,自然免疫応答が誘導される.
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自然免疫応答のプラットホーム
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医学のあゆみ 265巻13号, 1087-1093 (2018);
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Toll 様受容体(TLR)7 は,RNA ウイルスの感染に対する反応に重要な役割を果たしている.また一方で,全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患にもかかわっていると報告されている.したがって,TLR7 の発現制御と活性化の制御機構を理解することは,ウイルスに対する生体防御を増強することや,TLR7 を介した反応を抑制してあらたな自己免疫疾患の治療法を開発するためにも重要なことである.TLR7 は細胞内の小胞輸送によってその活性化が制御されていることが報告されている.著者らはTLR7 に特異的に会合する低分子量G 蛋白質Arl8b を同定した.そして,Arl8b はTLR7 の細胞内での移動を制御してⅠ型インターフェロン産生を調節していることが明らかとなった.これらのことから,細胞内のTLR7 輸送戦略を明らかにすることで,あらたなSLE に対する治療法が登場するものと期待される.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1094-1100 (2018);
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免疫細胞におけるエンドリソソームシステムは,殺菌や物質分解,抗原提示を担うのみならず,さまざまな受容体を介するシグナル伝達のハブとしての機能を果たす.この小胞空間でシグナル伝達を可能にするために,免疫細胞はユニークな空間制御機構を有し,その制御機構の破綻は免疫応答の異常を引き起こす.Toll 様受容体(TLR)7 および9 は,この小胞空間でシグナルを伝達し,炎症性サイトカインやⅠ型インターフェロン産生を誘導する.エンドリソソームにTLR と共局在するアミノ酸トランスポーターSLC15A4 は,小胞空間より緩衝能の高いヒスチジンを汲み出して小胞内酸性化のプロセスを正しく進行させることにより,TLR7/9 を介したシグナル伝達を媒介し,自己免疫疾患の病態形成にかかわる.さらにSLC15A4 はmTORC1 に依存したリソソーム生合成制御を介してさまざまな炎症応答を制御しており,自己免疫疾患をはじめとする炎症性疾患のよい治療標的となりうる.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1101-1107 (2018);
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生命機能の根幹を支えるミトコンドリアは,古くからエネルギー(ATP)産生やカルシウム貯蔵に関わる細胞内の要所として,さらに1990 年代以降は細胞死(アポトーシス)制御のプラットフォームとしても詳細な研究が行われてきた.近年,ミトコンドリアにはこれまで知られていない新たな生理機能として,RNA ウイルスに対する自然免疫にも密接に関わる機構が備わっていることが明らかになった.ミトコンドリアを介した自然免疫の作動については,本来このオルガネラがα-プロテオバクテリアを起源とした好気性細菌に由来するとされる細胞内共生説から鑑みると,一見奇妙なシナリオとも思われる.本稿では,おもに哺乳動物の細胞内における抗ウイルス自然免疫系において,ミトコンドリアを介した生体防御の仕組みについての研究背景も紐解きながら,最新の知見を概説する.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1108-1114 (2018);
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核酸が引き起こす自然免疫応答については,歴史的にToll 様受容体などの細胞外に存在する核酸のセンサー蛋白質の研究が先行していたが,最近になり,細胞質に存在する核酸についてもセンサー蛋白質が多数同定され,研究が飛躍的に進展している.本稿では,DNA ウイルス感染などによって細胞質に露出してくるDNA に応答して,自然免疫応答を惹起するのに重要な機能を担っているSTING 蛋白質を取り上げ,その活性化機構について著者らの最新の知見を紹介する.ウイルス感染に対する自然免疫応答というコンテキストで理解されてきたSTING であるが,ごく最近,損傷ミトコンドリアや老化した核などから漏出してくる自己DNA に対しても免疫・炎症応答を引き起こすことが明らかになり,これら損傷オルガネラが関与する疾病の治療のターゲットとしても注目を浴びている.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1115-1121 (2018);
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転写後制御機構は,RNA 誕生から分解に至るあらゆるRNA 代謝制御をつかさどる遺伝子発現制御システムである.ゲノム上に1,500 程度存在するRNA 結合蛋白質は,このようなRNA 代謝の中心的役割を果たしていると考えられている.近年,RNA 結合蛋白質は,免疫機能制御においても炎症制御や細胞分化・成熟といったさまざまな場面で遺伝子発現を調節するという報告が蓄積している.とくに炎症制御の観点からみると,炎症性サイトカインをコードするmRNA の半減期は非常に短いことが知られており,このなかで著者らはこれらのmRNA 半減期を制御するRNA 結合蛋白質を同定し,さらにこの蛋白質が免疫活性化受容体シグナル伝達経路と密接に関連することを明らかにした.今後,このようなシグナル伝達経路と転写後制御の新しいフィードバック機構がさらに明らかになると考えている.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1122-1126 (2018);
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自然免疫機構は,病原体に特有の成分を感知し,サイトカインやⅠ型インターフェロンなどを介して炎症を誘導することにより,病原体の排除を行う.一方で,自然免疫機構は,自己成分,栄養成分や環境汚染物質などにも反応するため,過度の炎症による組織損傷を惹起して,神経変性疾患,生活習慣病や呼吸器疾患などの発症要因となる.異物を感知する自然免疫機構の中心を担っているのが,Toll-like receptorやNOD-like recepto(r NLR)などのパターン認識受容体である.本稿では,NLRによる病原体の感知と炎症の誘導について概要を述べた後に,非感染性の炎症に起因するさまざまな疾患の発症にかかわるパターン認識受容体NLR family pyrin domain containing 3 の活性化メカニズムと,その制御について解説する.
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感染防御にかかわる自然免疫系の機能
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医学のあゆみ 265巻13号, 1129-1134 (2018);
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おびただしい数の腸内細菌が常在し,また食事などを介して外界から多くの微生物が侵入する腸管においては,腸内細菌や侵入する病原微生物に対する防御機構として,腸管上皮細胞により形成される粘膜バリアが存在する.粘膜バリアは感染防御だけでなく,腸内細菌を制御しそれらと腸管上皮を分け隔てることで,腸管炎症防止に重要な役割を果たしている.著者らはその粘膜バリアにかかわるあらたな分子としてLypd8 を同定した.Lypd8 は大腸上皮に特異的に高発現するGPI アンカー型膜蛋白質であり,恒常的に腸管管腔に分泌され,とくに有鞭毛細菌の侵入を制御することで腸管恒常性維持に貢献していることが明らかとなった.こういったことから,Lypd8 を含む粘膜バリアの機能低下が起こると,腸内細菌侵入により腸管炎症が誘導されることが明らかとなっている.今後もLypd8 を含む粘膜バリア機構の詳細が明らかとなることで,腸管炎症に対するあらたな治療アプローチの開発が期待される.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1135-1141 (2018);
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ウイルス,細菌,寄生虫やカビなどの細胞内寄生性病原体のライフサイクルのなかには,宿主細胞内に感染した後に宿主細胞のオルガネラなどの膜構造体を改変し,病原体含有小胞を作り,そのなかで,あるいはそれを利用して複製するものが多数存在する.一方,宿主は病原体含有小胞を認識し,細胞自律的免疫系を活性化することによってその構造を破壊し,病原体の増殖を止め,さらには破壊により殺傷することで宿主細胞を病原体から守っている.その分子機構については,近年急速にその理解が進みつつある.本稿ではその中心にあるインターフェロン誘導性GTPase 依存的な細胞自律的免疫系について,最新の知見を交えて紹介する.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1142-1148 (2018);
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細菌感染が発端となり,重篤な全身性炎症に至る疾患を敗血症とよぶ.抗生物質の治療により,発症初期の死亡率は低く抑えられているものの,亜急性期にみられる二次感染のリスクは回避できてはいない.敗血症発症後に免疫抑制の状態に陥ることが報告されており,その一因としてリンパ球数減少が指摘されている.しかしリンパ球数減少が長期間持続する理由は不明であった.リンパ球を含むすべての血球系細胞は,骨髄に存在する造血幹細胞,血球系前駆細胞から分化する.著者らは,敗血症モデルマウスでは骨芽細胞の急激な減少とともに,リンパ球共通前駆細胞数が減少することを見出した.また骨芽細胞を特異的に除去したマウスでも,同様に骨髄のリンパ球共通前駆細胞数が減少し,骨芽細胞はIL-7 産生を介して骨髄中のリンパ球共通前駆細胞数を維持することがわかった.したがって,感染応答時では骨構成細胞がストレスを受けることで骨髄中の前駆細胞をサポートできなくなり,その結果リンパ球数減少が生じ,さらなる感染リスクを高めていることが明らかとなった.脊椎動物に細菌が感染すると,侵入した病原体を排除するために免疫システムが働く.しかし感染が重症化すると,全身性に炎症が生じる敗血症に至る.敗血症では多臓器不全や血圧低下などの生命を脅かす機能不全に陥ることとなり,アメリカでは24%という高い死亡率が報告されている1).抗菌薬の進歩により,感染初期の死亡率は年々低下傾向にある.しかし,発症後期の二次感染が予後を悪化させるケースが知られており,この原因として敗血症亜急性期に観察される免疫抑制による易感染性の増加,炎症の遷延化があげられる.これまでに100 を超える薬剤の開発が行われてきているものの,効果的な治療薬は少ない.現在行われている急性期に効果的な治療法に加え,敗血症発症後の免疫抑制への対策を講じることが,敗血症の生命予後の改善に向けて必要不可欠といえる.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1149-1154 (2018);
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自然免疫学の発展により,ワクチンアジュバント開発にもあらたな時代が到来している.これまで経験的にしか用いられてこなかったワクチンアジュバントの免疫学的な機序が解析されはじめ,自然免疫学のあらたな知見を踏まえた新規ワクチンアジュバントの開発が加速している.ワクチンの安全性が重要視される現在,ワクチンはより精製された抗原を用いたサブユニットワクチンへと移行しているが,サブユニットワクチンが十分な効果を発揮するためには有用なワクチンアジュバントの追加が不可欠である.ワクチンアジュバントは大きくDAMPs 誘導型アジュバントとPAMPs 型アジュバントに分かれ,どちらも新規ワクチンアジュバントへの大きな可能性を秘めている.今後,より詳細な自然免疫システムの解明が進むにつれ,あらたなワクチンアジュバントの候補物質がつぎつぎと登場してくることが予想される.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1155-1158 (2018);
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われわれは日常的に病原性・非病原性微生物に曝されており,腸管を含む体表面はこれら微生物に対する第一線の防御バリアとして機能している.とくに腸管を覆う上皮細胞は腸管免疫細胞とともに,腸内細菌を含む無数の微生物と直接対峙している.上皮細胞は細胞表面にα1,2-フコースなどの糖鎖を発現しており,腸内細菌叢の恒常性を維持するとともに,病原性微生物感染に対して防御的な役割を担っている.α1,2-フコースは,セグメント細菌を含む腸内細菌と3 型自然リンパ球によって発現が誘導される一方,CD4 陽性T 細胞によって制御されている.これら腸内細菌,免疫細胞,上皮細胞の3 者間ネットワークによってα1,2-フコースの発現が調節され,腸管における感染防御および共生基盤が形成されている.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1159-1169 (2018);
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インターフェロン(IFN)はその発見から半世紀以上になるが,多くのウイルス認識にかかわるパターン認識受容体の同定とともに研究が進展し,ウイルス感染後におけるIFN 遺伝子の発現誘導機構やその後の受容体を介する抗ウイルス活性の発現メカニズムについて多くの新しい知見が加わった.さらにこれらのIFN システムが,宿主およびウイルス側の多くの因子によって正および負に制御されていることが示されてきた.本稿では,ウイルス感染時におけるIFN 応答の制御機構について,自然免疫センサーの介するIFN 産生経路とIFN 受容体を介する経路の2 つの局面から概説する.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1171-1176 (2018);
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免疫は,生体内に侵入した病原微生物を排除するための生体防御システムであり,免疫の活性や抑制には免疫レセプターが重要な役割を担っている.免疫レセプターは,その数や種類が種によって大きく異なることが知られている.そのなかでもとくにLILR とよばれる多重遺伝子ファミリーは,ヒトで多様化した免疫レセプター群のひとつであり,5 種類の抑制化型レセプター,5 種類の活性化型レセプター,1 種類の分泌型で構成されている.これまでLILR の機能はほとんど明らかとなっていなかったが,著者らの最近の研究から,抑制化型LILRB1 はマラリア原虫の免疫逃避に利用され,マラリアの重症化と関連することが明らかとなった.一方で,活性化型LILRA2 は,抗体免疫から逃れた病原微生物を検知する役割を担っていることがわかった.このようなLILR ファミリーの機能は,ヒトと病原微生物とのダイナミックな共進化を反映しているのかもしれない.
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内因性リガンドによる自然免疫系の活性化
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医学のあゆみ 265巻13号, 1179-1184 (2018);
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エンドソームに局在する核酸センサーのひとつTLR7 は,微生物RNA を認識して微生物への免疫応答で重要な役割を果たすとともに,Sm/RNP などのRNA 関連自己抗原を認識し,種々のマウス全身性エリテマトーデス(SLE)モデルで疾患発症に必須の核酸センサーとしても機能する.TLR7 がRNA 関連自己抗原を認識することで,B 細胞ではRNA 関連自己抗原への自己抗体産生を誘導し,樹状細胞や濾胞樹状細胞ではⅠ型インターフェロン(IFNⅠ)を産生し,SLE の病態に関与する.一方,おもにB 細胞に発現する抑制性受容体CD72 はSm/RNP を特異的に認識し,Sm/RNP によるTLR7 依存的なB 細胞の活性化を抑制する.その結果,B 細胞のRNA 関連自己抗原への抗体産生が特異的に抑制され,SLE の発症が阻止される.自己抗原特異的に免疫応答を抑制するCD72 は,SLE の治療標的としても重要と期待される.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1185-1191 (2018);
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転写因子interferon regulatory factor-5(IRF5)はToll-like recepto(r TLR)-MyD88経路を介した自然免疫応答において重要な役割を果たし,また自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)の病態発症と関連することが知られている.IRF5 によるSLE 発症機構として,IRF5 がその抑制機構の破綻により過剰に活性化され,Ⅰ型インターフェロンおよび炎症性サイトカインが過剰に産生されることで最終的にSLE の発症に至るというモデルが示唆されている.著者らの知るかぎりでは,これまでに研究されたすべてのSLE モデルマウスにおいてIRF5 が病態発症に必要であることが示されており,病態発症に関与する免疫細胞におけるIRF5 の役割も解析されている.IRF5 の活性または量を半減させることでSLE病態が抑制されることが示唆されており,IRF5 の選択的抑制が新しいSLE 治療法の開発につながる可能性がある.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1192-1197 (2018);
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Toll 様受容体などに代表される自然免疫受容体は,外界から侵入した細菌やウイルスなどの構成成分を迅速に察知し,これらを排除すべく免疫応答を活性化する.一方,このような病原体由来分子に加え,自然免疫受容体は自己細胞に由来する分子をも認識することが明らかになってきた.このような分子は細胞がダメージを受けた際に曝露・放出されることから,細胞障害関連分子(DAMPs)ともよばれる.DAMPs が活性化する免疫応答は,炎症やがんなどの病態と関連があると考えられている.著者らは最近,プロスタグランジンE2(PGE2)が死細胞から放出され,DAMPs による免疫応答を負に調節していることを,あらたに見出した.DAMPs による自然免疫応答の活性化を制御し,恒常性維持に寄与する機構のひとつであると考えている.DAMPs による自然免疫応答の制御について,著者らの最近の知見も含めて紹介する.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1198-1203 (2018);
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食べ物や微生物との接触をたえず避けることのできない消化管は,宿主が危険にさらされる病原微生物に対しては適切に排除する一方で,食事成分など宿主が必要とするものに対しては過剰な免疫応答を起こさないという免疫寛容が備わっている.腸管粘膜固有層には樹状細胞やマクロファージ,好酸球といった自然免疫細胞が存在し,腸管バリア機構の一端を担っている.それらの免疫細胞は,自然免疫応答を通じて腸管免疫を制御していることが近年明らかとなってきた.たとえば,腸管粘膜固有層の樹状細胞は,粘膜面の防御機構として非常に重要な免疫グロブリンA(IgA)の誘導に重要であるだけでなく,Th1細胞やTh17 細胞,制御性T 細胞の誘導に重要である.一方,腸管粘膜固有層の好酸球は放射線障害によって誘導される腸管の線維化の病態メカニズムにとっても重要である.本稿では,著者らの最新の知見を含めて概説する.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1204-1210 (2018);
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MYD88 は,自然免疫系で重要な役割を果たすToll 様受容体からのシグナル伝達を担うアダプター分子である.シークエンス技術の発達により,さまざまなB 細胞リンパ腫からMYD88 変異が高頻度に同定されている.MYD88 変異は,ほとんどがToll 様受容体との会合に必要な領域であるTIR 領域に起こる点突然変異であり,90%以上がL265P 変異である.MYD88L265P変異はリンパ腫の増殖および生存に必須であり,また正常なB 細胞に発現させると増殖を誘導することから,この変異はMYD88 の機能を亢進させる.しかし,リンパ腫の形成はMYD88L265P変異単独では起こらず,ほかの遺伝子変異が必要であると考えられる.MYD88L265P変異はB 細胞抗原受容体からのシグナルを伝達するCD79B の変異と共存することが多く,この2 つの変異は協調的に働き,自己反応性B 細胞の増殖や分化を誘導した.したがって,一部のB 細胞リンパ腫はこれら自然免疫系と獲得免疫系の分子に変異を獲得し,シグナル伝達の異常によって腫瘍化すると考えられる.
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自然免疫系細胞による生体制御システム
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医学のあゆみ 265巻13号, 1213-1217 (2018);
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これまで免疫学では,自然免疫系で機能する細胞といえばマクロファージや好中球,樹状細胞といったミエロイド系の細胞が代表的であった.しかし,2010 年に自然免疫系で働くあらたなリンパ球として2型自然リンパ球(ILC2)が同定されたことで,自然リンパ球という分野が確立し研究が盛んに行われるようになった.発見当初,ILC2 は脂肪組織に局在すると考えられ,寄生虫の排除やアレルギー疾患の増悪に寄与する細胞と考えられていたが,現在では多方面からの機能解析が進められ,ILC2 が多様な組織に分布し,急性炎症だけではなく慢性炎症を含むさまざまな疾患に関与することが明らかになってきた.本稿では,ILC2 が病態形成においてどのように機能するのかを中心に,ILC2 の生体制御機構について概説する.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1219-1224 (2018);
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つねに外来と接している粘膜組織では,基本的に無菌状態下にある末梢での免疫応答と比較して,免疫応答の活性化と抑制のバランスを保ち複雑な制御が必要である点で大きく異なっている.2008 年の報告を皮切りに,RORγt を発現する自然リンパ球(ILCs)が報告され,その後この細胞は3 型自然リンパ球と命名された.同時に,核内転写因子やその性質の違いによりその他の自然リンパ球を1 型・2 型とすることで3 つに定義・分類されている.ILCs の発見を皮切りに,いままでT 細胞だけでは説明がつかなかった免疫応答や疾患発症のメカニズムが続々と明らかになってきている.粘膜組織における役割が注目されている3 型自然リンパ球についても,近年新しい技術の進歩によりその性質や分化がより詳細に明らかになってきた.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1225-1230 (2018);
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100年以上も前に発見されたマクロファージは,最近まで体内には1 種類しかないと考えられてきた.しかし近年のさまざまな研究から,マクロファージには疾患の発症にかかわるさまざまなサブタイプ(亜種)が存在する可能性が考えられはじめている.今回,著者らは免疫学の解析手法に加え,bioinformaticsの技術,およびin vivo imaging の技術を用いて,線維症の発症にかかわるマクロファージの新しいサブタイプを同定し,その分化メカニズムと線維症との関係性の研究を行ったので,今回本誌にて報告する.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1231-1234 (2018);
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生体内のほぼすべての組織には常在性のマクロファージが存在する.これら常在性マクロファージは特異的な機能・表現型を獲得し,各組織の正常な働きを維持するうえで必須の役割を担う.近年,組織常在性マクロファージの特異的な表現型を制御する分子メカニズムが急速に明らかにされてきた.本稿では,このマクロファージの多様化を制御する分子メカニズムについて紹介する.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1235-1239 (2018);
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樹状細胞(DCs)は樹状突起を有する系統マーカー陰性,主要組織適合遺伝子複合体クラスⅡ陽性の抗原提示細胞であり,通常型樹状細胞(cDCs)と形質細胞様樹状細胞(pDCs)に大別されるサブセットから構成される.pDCs はToll 様受容体(TLR)7 とTLR9 を高発現し,ウイルス感知後に多量のⅠ型インターフェロンを産生することから,抗ウイルス感染防御への主要なメディエーターとして考えられている.著者らはpDCs の免疫学的役割を解明するために,pDCs 特異的発現分子として同定したSiglec-H の欠損マウスとpDCs 自体が消失したpDCs 特異的消失マウスを作製した.本稿では,著者らが得た知見に基づいてpDCs の自然免疫応答における役割を中心に紹介する.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1241-1247 (2018);
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樹状細胞(DC)は,自然免疫と獲得免疫の連関を担う抗原提示細胞であるが,近年種々のサブセットが同定され,その機能的役割分担が明らかになりつつある.著者らは細胞障害性T 細胞の分化誘導能が強いDC サブセット(ケモカイン受容体XCR1 を発現するDC,XCR1+DC)を恒常的に欠失したマウスを作製・解析することにより,XCR1+DC が腸管免疫の恒常性維持に関与していることを見出した.XCR1+DC は,腸管T 細胞と相互作用することにより,腸管T 細胞集団を維持するとともに腸炎病態を制御しており,さらにXCR1 とそのリガンドXCL1 がこの細胞間相互作用に関与していた.この知見は,XCR1+DC,XCR1 のあらたな役割を発見したばかりでなく,腸管の免疫制御のための新規の標的機構を明らかにしたという点からも非常に重要である.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1248-1254 (2018);
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肥満に伴い脂肪組織では抗炎症性のM2 マクロファージ(mφ)から炎症性のM1 mφへとクラススイッチが起こり,インスリン抵抗性が惹起される.M2 mφは「抗炎症作用を有しインスリン感受性を賦与する」と報告されてきた.著者らがマウスでM2 mφを除去したところ,予想に反してインスリン感受性が亢進した.小型脂肪細胞の増加とともにアディポネクチンなどの代謝が良好なことを示す遺伝子の発現が上昇し,炎症は軽減した.M2 mφ除去後,前駆脂肪細胞の増殖像がみられた.TGF-βシグナル下流の遺伝子発現や蛋白量が低下したことやM2 mφ特異的TGF-β1 欠損マウスの解析から,M2 mφはTGF-βを介して前駆脂肪細胞の増殖と分化を抑制していることが判明した10).M2 mφは前駆脂肪細胞のニッチを形成することにより前駆脂肪細胞の質を保ち,過剰なエネルギー状態の対応に関与し体脂肪量を調節していることが示唆された.
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自然免疫系による疾患の誘導と制御
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医学のあゆみ 265巻13号, 1257-1262 (2018);
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好塩基球は末梢血白血球の1%にも満たない希少な顆粒球である.その発見時期はおよそ140 年前と古い反面,希少性やマスト細胞との類似性から,これまで積極的には研究されてこなかった.しかし近年,研究ツールのめざましい発展により,好塩基球の生体内における病態生理的役割がつぎつぎと明らかになってきた.事実,皮膚アレルギー炎症マウスモデルにおいて,好塩基球が炎症の誘導に必須の役割を果たすことが示されている.また,好塩基球が炎症の誘導のみならず,その抑制にも一役買っていることが明らかとなった.さらに,最近の研究で,好塩基球の産生するプロテアーゼとIL-4 が皮膚アレルギー炎症の誘導と抑制にそれぞれ重要な役割を果たすことが明らかとなった.また,好塩基球がトロゴサイトーシスを駆使して抗原提示細胞として機能し,Th2 細胞分化を誘導することも判明した.本稿では,好塩基球のアレルギー炎症誘導・抑制メカニズムの一端に触れることで,好塩基球の生体内での存在意義に迫りたい.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1263-1270 (2018);
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Toll 様受容体(TLR)は病原体の構成成分を認識し,生体防御に重要な免疫系を惹起することが知られるが,一方で,自己由来の核酸をも認識して,自己免疫疾患や生活習慣病の病態にかかわることが報告されている.著者らは核酸を認識するマウスTLR3,TLR7,TLR9 のリガンド認識機構について,モノクローナル抗体を独自に樹立し報告してきた.これらの抗体を用いて,TLR がエンドソーム・リソソームに局在するだけでなく細胞表面にも発現していること,細胞表面TLR に結合後,TLR と抗体の複合体が安定して細胞内に取り込まれることを見出した.さらに,TLR3 抗体はTLR 応答を増強し,TLR7 およびTLR9抗体は,それぞれTLR 応答を抑制することを報告している.腫瘍免疫や感染症に対する免疫応答は正に制御し,自己免疫疾患など過剰な免疫応答は負に制御することを目的として,これらのユニークな機能をもつモノクローナル抗体について紹介し,ヒト疾患に対する抗体医薬の可能性について述べる.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1271-1275 (2018);
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がんの転移は,がん細胞のもつ特質とがんにとって好都合な居住環境の存在が重要な鍵を握る.元来,感染防御において重要なシグナルとして働くToll 様受容体(TLR)であるが,実はがんが増悪化する過程において,TLR4 シグナル伝達経路をハイジャックして居住環境(転移前微小環境)形成に利用している.もともと,TLR シグナル伝達系は外界からの侵入に対し感染防御における重要な役割をもち,さらに,コーリーワクチンが概念の基盤となった腫瘍免疫を活性化するアジュバンド作用としての免疫療法が期待されている.しかし,TLR のなかでも,とくにTLR2 やTLR4 の活性化は,内因性リガンドを介して腫瘍進展を促進することも見出され,シグナル出力に依存している現象なのか不明な点が多い.本稿では,がん転移に促進作用をもつToll 様受容体に焦点を当て,最近の知見を合わせて概説する.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1276-1279 (2018);
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慢性炎症は生活習慣病やがんに共通する基盤病態である.また,高齢者では慢性炎症が起こりやすくなっていることから,加齢に伴う炎症(炎症老化;inflammaging)が加齢関連疾患の発症や進展にも寄与していることが提唱されている.脂質代謝と自然免疫との連関は多面的である.脂質代謝物が自然免疫系を活性化して慢性炎症を誘導したり,逆に自然免疫系が肝などでの脂質代謝を制御することも知られている.また,免疫細胞内での脂質代謝が免疫細胞応答を制御することも明らかとなっている.このように,脂質代謝と免疫とのリンク(免疫代謝;immunometabolism)は,恒常性の維持から加齢関連疾患までの多様な生物プロセスを制御する.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1280-1284 (2018);
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メタボリックシンドロームの病態基盤として,脂肪組織を中心とする全身の慢性炎症が指摘されている.余剰エネルギーを蓄積し肥大化した肥満の脂肪組織には,炎症性マクロファージが浸潤し,細胞死に陥った脂肪細胞を取り囲み,crown-like structure(CLS)を形成し,貪食・処理を行う.一方,CLS は脂肪組織炎症の起点となり,脂肪組織線維化をもたらし,脂肪組織における脂肪蓄積能を低下させ,脂肪肝に代表される異所性脂肪蓄積を誘導する.脂肪肝が持続すると非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に進行し,一定の割合で肝硬変や肝細胞癌に進展するが,単純性脂肪肝からNASH に進行する過程で,NASHに先行して,肝においてもCLS が認められるようになる.脂肪組織CLS と肝CLS は,異なったマクロファージで構成されていると考えられ,組織特異的,あるいは疾患特異的なマクロファージの存在が示唆される.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1285-1291 (2018);
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Ⅰ型インターフェロン(IFN)はウイルス感染時の自然免疫において重要な役割を果たす.また抗原提示細胞のMHC 分子の発現増強や成熟化,CD8+T 細胞の活性化や増殖,メモリーCD8+T 細胞の維持にも必要であり,獲得免疫においても強い影響を及ぼす.一方,近年エクソソーム解析などの遺伝子解析の技術の向上に伴い,IFN 産生にかかわるシグナル伝達物質の遺伝子変異によりIFN が過剰産生された結果,Aicardi-Goutieres syndrome(AGS),全身性エリテマトーデス(SLE),Singleton-Merten syndrome(SMS)などの自己免疫疾患が引き起こされるケースが報告されてきている.これらの疾患には共通点が多く,類似した疾患群と認識されるようになり,2011 年にはCrow らによりIFN 産生にかかわる分子の先天的異常によるIFN の過剰産生を伴う自己免疫疾患について,インターフェロノパシー(type Ⅰinterferonopathy)とする概念が提唱され広まりつつある1).さまざまな原因遺伝子が特定されるなか,近年細胞内ウイルスセンサーであるRIG-I 様受容体(RIG-I like receptor:RLR)の異常によるインターフェロノパシーもあらたに報告され,RLR とインターフェロノパシーを含む自己免疫疾患の関係についてあらたな知見を与えている.
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医学のあゆみ 265巻13号, 1292-1295 (2018);
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脳梗塞後の炎症には,さまざまな自然免疫のメカニズムが機能する.とくに,まだ治療法に乏しい脳梗塞において,炎症は重要な治療標的として期待されており,脳梗塞後の炎症における分子・細胞メカニズムを詳細に解明することが求められている.脳梗塞における炎症は細胞死に伴う無菌的炎症の典型例であり,脳細胞に加えてマクロファージ,好中球やT 細胞などが脳内に浸潤して炎症を引き起こす.炎症は1 週間程度で自然に収束するが,脳梗塞後の修復期には炎症を収束させて修復に働く細胞が脳内に誘導される.脳梗塞後の無菌的炎症は,組織損傷に伴う生体防御メカニズムのひとつであると考えられる.