Volume 266,
Issue 5,
2018
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【8月第1土曜特集】 遺伝子解析研究の新時代
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医学のあゆみ 266巻5号, 323-323 (2018);
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ゲノム解析法の進歩
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医学のあゆみ 266巻5号, 327-334 (2018);
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シングルセル解析とナノポアシークエンスは,これまで不可能であったさまざまな解析を可能とする.シングルセル解析により,オミクスレベルでの稀少な細胞や細胞集団の不均一性などについての解析が可能となり,さまざまな研究分野において利用されはじめている.本稿の前半では,シングルセル解析技術やそのデータ解析について概説する.また,シングルセルのマルチオミクス解析などの応用技術についても紹介する.ナノポアシークエンスにより,100 kb を超えるような長鎖DNA のシークエンスやRNA鎖を直接シークエンスすることが可能となっている.後半部では,ナノポアシークエンスの原理やナノポアシークエンサーについて概説する.また,ナノポアシークエンスを用いたゲノムDNA やRNA の解析についても述べる.
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医学のあゆみ 266巻5号, 335-340 (2018);
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Pacific Biosciences 社のロングリードシーケンサーが2011 年に発売され,最近ではOxford NanoporeTechnologies 社のシーケンサーも普及している.10,000 塩基を超える長いDNA 断片を読み取った配列(リード)が得られるため,短いDNA 断片を解読するショートリード技術に比べて,ゲノム解析周辺の問題は格段に容易に解けるようになったかにみえる.しかし,現実にはロングリードには15~20%のエラーが入る(平均5,6 塩基に1 回の読み間違い).このエラーとどう付き合うかは案外難しく,ロングリードシーケンシングをうまく使いこなすために肝要である.本稿ではロングリードシーケンシングの数理的背景を,高校の数学の範囲で解説する.
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医学のあゆみ 266巻5号, 341-345 (2018);
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ハイスループットシークエンス技術の革新により,ゲノムシークエンスデータ,トランスクリプトームシークエンスデータなど,種々のオミックス情報を安価に取得することが可能になり,これらのデータの蓄積が世界中で急速に進んでいる.一方で,こうした大規模なオミックスデータから有用な情報を抽出するためは,膨大な計算環境リソース,ストレージが必要である.近年,ゲノム解析にクラウド環境での計算技術が注目されている.本稿においては,まず解析ワークフロー,データのシェアリングの観点から,クラウド利用の利点について,海外のクラウドにおけるゲノム解析の動向を交えつつ説明する.次に,著者らのクラウド環境でのがんゲノム解析プラットフォームについて紹介する.
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医学のあゆみ 266巻5号, 347-354 (2018);
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遺伝統計学(statistical genetics)は遺伝情報と形質情報の因果関係を,統計学の観点から解析する学問分野である.ゲノム配列解読技術の発達が大規模疾患ゲノム解析の実施を可能とし,数多くのヒト形質における感受性遺伝子変異のカタログが構築されている.遺伝統計学は,得られた疾患感受性遺伝子情報を多彩なオミクス情報と分野横断的に統合し,疾患ゲノム情報の適切な解釈と社会実装に貢献する学問分野として注目されている.
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基盤情報・資源と共有化
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医学のあゆみ 266巻5号, 357-363 (2018);
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ヒト1 個人の設計図であるヒト全ゲノムの配列情報について,迅速かつ安価に取得できる時代となった.国際1000 人ゲノム計画により,頻度1%までのヒトがもつ変異カタログが収集されたが,さらに,集団ごとに特徴的な,フェノタイプ(形質)により強い影響を与える低頻度の変異を網羅すべく世界各地で大規模なプロジェクトが行われている.日本においても同様の取組みが進んでおり,すでに東北メディカル・メガバンク機構とバイオバンク・ジャパンから約4,500 人以上の日本人の全ゲノム情報から同定された5,000 万以上の変異情報が公開されている.世界規模では,10 万人以上の全ゲノム情報が利用できる状況となっており,今後は,これらのゲノム情報と付随するヘルスケア情報をセキュリティを担保しつつ,世界のゲノム共通基盤として将来的に共有化されることで,ゲノムサイエンスや医療に効率よく役立てていくことが重要となる.
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医学のあゆみ 266巻5号, 364-369 (2018);
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特定の疾患患者や住民の血清,ゲノムDNA などの生体試料と臨床情報を大規模に収集,保管,配布し,ゲノム医科学研究に資するバイオバンクが世界中で構築され,プレシジョンメディシンの基盤となりつつある.バイオバンク・ジャパン(BBJ)は2003 年に設立され,51 疾患,27 万人,44 万症例を有する世界最大級の疾患バイオバンクとして,日本人の塩基多型の実態解明や,ゲノム網羅的関連解析による生活習慣病などの感受性遺伝子の同定に大きく貢献し,疾患発症にかかわる遺伝因子と環境因子の相互作用の解明にも役立ってきた.2018 年度からは,試料のさらなる利活用をめざす新体制が発足した.すでに18 万人分の90 万カ所のSNP タイピング結果を公開し,今後は全ゲノムシークエンス解析結果なども適宜公開する.BBJ 試料を用いた研究により,疾患の病態解明や診断,治療,予防法の確立がはかられることが期待される.
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医学のあゆみ 266巻5号, 370-376 (2018);
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多くの疾患が,生活習慣などの環境要因と遺伝要因の双方の影響を受けて発症する.このような多因子疾患の病因解明には,健常な集団を継続的に調査し,疾患発症に関与する要因を明らかにするアプローチが重要である.東北メディカル・メガバンク計画(TMM)では,出生コホートを含む15 万人規模の前向き一般住民コホートを実施しているが,あわせて複合バイオバンクとして,全ゲノムシークエンスやSNPアレイ解析も行い,日本人集団における遺伝的バリアントデータを収集している.また,トランスクリプトーム,プロテオーム,メタボローム,エピゲノム解析を組み合わせたゲノム多層オミックス解析も実施し,データの公開と分譲を行っている.TMM のこれまでの活動を通じて,複合バイオバンクにおけるゲノム解析技術応用の限界や,ゲノム情報共有化に関連する課題も明らかになってきた.TMM は,これら課題を解決しながら,ゲノム医療・個別化予防の早期実現に資する取組みを行っている.
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医学のあゆみ 266巻5号, 377-382 (2018);
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オープンサイエンスの隆盛に伴い,研究データの公開を求められる場面が多くなってきている.一方,2017 年5 月30 日に施行された改正個人情報の保護に関する法律(以下,個人情報保護法)においてヒトのゲノムデータの一部が個人識別符号に,また,疾患へのかかりやすさ,治療薬の選択に関するものなどの解釈を付加し,医学的意味合いをもったゲノム情報や多くの診療情報が要配慮個人情報に規定されたため,研究者はそれらの情報の厳格な管理を求められている.この“データ公開”と“プライバシー保全”を両立し,日本の法令に準拠した形でデータの共有を進める目的でNBDC は“NBDC ヒトデータベース”の運営を行っており,本稿では当該データベースへのデータ登録方法や,登録されたデータの利用方法について紹介する.また,NBDC ヒトデータベースに登録されたデータの利用促進を目的として,公開されたデータを再解析し検出されたバリアントと,研究を実施する際に一般的に利用されているさまざまなデータベースに収載されたバリアントを統合し,それらの頻度情報やアノテーション情報を統合したあらたなWeb サービス“TogoVar”を開発・公開したので,その紹介も行う.
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疾患ゲノム研究最前線
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医学のあゆみ 266巻5号, 385-388 (2018);
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次世代シークエンサーを用いた多遺伝子検査(遺伝子パネル検査)により遺伝子変異を同定し,診療の方針を決定していくがんゲノム医療の保険診療が現実のものとなりつつある.ゲノム検査を行うことで,包括的な遺伝子異常の診断を行うことができ,標的遺伝子に合わせた阻害薬の選択につながると同時に,付随する遺伝子変異情報が得られることになる.得られる変異のアノテーション(意義づけ)をいかに行うかがゲノム医療の質を左右する.京スーパーコンピュータ分子動力学シミュレーションを用いたRET融合遺伝子に生じた薬剤耐性二次変異の意義付けをその試みのひとつとして紹介する.
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医学のあゆみ 266巻5号, 389-392 (2018);
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血液腫瘍の多くは,固形腫瘍に比べ軽度な侵襲で検体を経時的に採取可能であり,かつ細胞レベルでの解析も容易なことから,染色体分析に代表される古典的な遺伝子検査が診断・治療選択・予後予測に必要な検査として,一般診療のなかで活用されてきた.さらには近年の遺伝子解析研究により,多くの疾患特異的な遺伝子異常とその臨床的意義が明らかとなり,あらたな知見をもとに疾患分類や予後リスク分類が再編され,遺伝子解析の診療上の重要性が増している.
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医学のあゆみ 266巻5号, 393-397 (2018);
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がんはゲノム不安定性とともに,ゲノム異常に伴って誘導されると免疫サーベイランスからの回避にも立脚した疾患である.今日,がんの免疫治療の効果が実証され,がんの免疫的理解の重要性が高まっている.免疫ゲノム解析では,通常の網羅的ゲノム解析(全ゲノムシークエンス,エクソーム,RNA シークエンス)からの情報を利用して,免疫的解釈を行おうというものである.がんゲノム解析はゲノム配列の多様性の解析に立脚したものであり,HLA やTCR,体細胞変異からのneoantigen など,免疫ゲノムの配列は多様性の宝庫であり,免疫遺伝子のゲノム解析はこの多様性をさまざまな統計的手法を導入して明らかにしている.また,シークエンス解析により,PD-L1 などの免疫関連遺伝子の体細胞変異同定および微生物の検出,メタゲノム解析も重要であり,これらのゲノム解析の結果と臨床的な免疫学的事象との相関をみる必要がある.
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医学のあゆみ 266巻5号, 399-404 (2018);
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ゲノムシークエンスのコスト低下に伴い,大規模かつ系統的な遺伝子解析研究が可能となった.肝癌においても,エクソーム研究,全ゲノムシークエンス研究が数多く行われ,体細胞変異の網羅的検出が行われている.突然変異のパターンの解析からは,点突然変異や構造異常の集積,突然変異原や遺伝子変異と関連する塩基置換パターンが報告されている.また,ヒトゲノムへのウイルスの挿入,ドライバー遺伝子候補が検出されている.本稿では,肝癌の全ゲノムシークエンスの結果に最近の知見を交えて報告する.
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医学のあゆみ 266巻5号, 405-409 (2018);
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次世代シーケンサー(NGS)を活用した網羅的ゲノム解析による未診断疾患に対する原因同定へのアプローチは,各国でナショナルプロジェクトとして行われている.わが国では2015 年7 月より,希少・未診断疾患を対象として,まず小児,ついで成人の研究プロジェクト,IRUD が開始され,2018 年3 月に最初の区切りを迎えた(第1 期).第1 期プロジェクトでは,各地域にIRUD 拠点病院(クリニカルセンター)と,解析センター,データセンターなどを配置し,全国体制で,希少疾患や診断困難な患者の情報・検体を登録・収集を行い,網羅的ゲノム解析を行った.第1 期IRUD 研究プロジェクトにおいて,NGSによる全エクソーム解析を中心とした解析の結果,約35%で原因が特定された.一方,残りの未確定症例における課題も明らかとなり,第2 期IRUD,他,新規プロジェクトなどで,技術的,情報的,機能的にさらなる改良・解析が行われる予定である.
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医学のあゆみ 266巻5号, 410-415 (2018);
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次世代シークエンサー(第二世代)の登場から10 年以上が経過し,さまざまな疾患の責任遺伝子がかつてないスピードで同定されるようになった.多因子が絡むありふれた疾患や比較的まれな疾患に対しても大規模なゲノムワイド関連解析を利用したアプローチが進む一方,Mendel 遺伝病に代表される希少疾患に対しては,罹患者とその家系を対象とする従来からのfamily based アプローチが行われている.希少疾患ではその症例集積がひとつのボトルネックとなるが,近年ではMatchMaker Exchange などのシステムを利用した多国間多施設共同研究が,新規責任遺伝子同定の加速の一助となっている.次世代シークエンスに伴うあらたな解析技術の開発により,一塩基置換や短い挿入・欠失のみならず,コピー数多型解析なども可能になりつつある.本稿では,Mendel 遺伝病に対する現代の網羅的遺伝子解析について,フローチャートなどを示して概説する.
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医学のあゆみ 266巻5号, 416-420 (2018);
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患者数の少ない疾患を臨床症状のみから正確に診断することは,たとえその疾患が医学的に既知の疾患であっても容易ではない.次世代シーケンサーを用いた網羅的な遺伝学的解析方法を取り入れることすなわちクリニカルシーケンスが希少遺伝性疾患や診断不明患者の診断に病因診断に有用と期待されている.クリニカルシーケンスについて,おもに質保証の観点から現状と課題を概観し,結果の解釈を進めるうえで病的バリアントデータベースの構築が必須であることを説明した.さらに,個別の診断不明患者の原因診断の手がかりを得ることを目的とした国家的なプロジェクトネットワークとしての未診断疾患イニシアチブについて説明し,新規疾患の同定における表現型データ共有が重要であることを強調した.希少遺伝性疾患あるいはその疑いのある診断不明患者に対して網羅的遺伝子解析を行った場合の偶発的・二次的所見の扱いについて,現場の視点から議論した.
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医学のあゆみ 266巻5号, 421-426 (2018);
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1990年代以降ポジショナルクローニングによって,単一遺伝性疾患の病因遺伝子の解明は急速に進んだ.単一遺伝性疾患については,研究の焦点は,その病態機序を解明することに移ってきており,原因療法の開発が射程距離に入ったものも多い.その病態に基づいて,Alzheimer 病ではAβ凝集阻害をめざした抗体療法,Duchenne 型筋ジストロフィーや脊髄性筋萎縮症ではスプライスを変更させ正常化するアンチセンス療法などがトライされており,市販になっているものもある.福山型筋ジストロフィーはわが国に多い常染色体劣性遺伝疾患で,レトロトランスポゾンのスプライシング異常により発症し,是正するアンチセンス核酸治療により分子標的治療に道がひらかれつつある.ジストログリカンの糖鎖にリビトールリン酸が発見され,フクチン,FKRP,ISPD などジストログリカン異常症はリビトールリン酸を合成・転移する酵素の欠損である.
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医学のあゆみ 266巻5号, 427-434 (2018);
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多因子疾患・形質の感受性遺伝的座位は,今世紀に入って一塩基多型(SNP)を用いたゲノムワイド関連解析(GWAS)によってつぎつぎと明らかにされてきた.GWAS の解析人数は,当初100 人前後からはじまったが,徐々に数千人の大規模研究になっていき,さらに国際メタ解析研究によって数万人を超え,そして現在バイオバンクスケールの研究へと飛躍的にサンプルサイズを増大させており,もうすぐ百万人に達する見込みである.それと合わせて発見される感受性座位の数も増大し,多いもので一形質当り数百カ所を数えるものもある.また,次世代シーケンサーを用いたあらたな解析により,これまで明らかとならなかったレアバリアントの果たす役割の解明がはじまっている.これら多数の座位を用いた遺伝的リスクスコアは疾患発症リスク予測効果を示している.さらにはエピゲノムデータとの統合解析などにより,GWAS バリアントの多くが遺伝子調節領域に局在することが明らかにされ,実験的に発現量の調節に影響するSNP の同定がはじまっており,今後はGWAS を細胞内ネットワーク解明に利用したり,その成果を用いたあらたな疾患病態の解明やゲノム創薬が期待される.
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医学のあゆみ 266巻5号, 435-440 (2018);
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ゲノムワイド関連解析(GWAS)の導入により,さまざまな生活習慣の発症にかかわる多くの疾患感受性ゲノム領域同定が達成されている.糖尿病,肥満,脂質異常症などはGWAS がもっとも成功した領域であり,それぞれについて100 カ所以上の関連ゲノム領域が同定されている.この情報を利用した発症予測および効率的介入の試みもなされているが,一部のハイリスク群の抽出は可能であるものの,現時点ではかならずしも有用な情報とはいえない.一方,個々の領域がいかなる機序で疾患感受性に寄与するかはほとんど明らかになっていない.今後ゲノム情報を生活習慣病診療に応用するためには,その合併症および薬剤反応性等の情報,さらには環境要因との相互作用を精力的に探索することが必要と考えられる.
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医学のあゆみ 266巻5号, 441-448 (2018);
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虚血性心疾患(CAD)は生活習慣病に位置づけられるが,その素因には遺伝的要因が40~50%程度関与していることが明らかとなっている.したがって遺伝的要因の解明をスタート点とすることにより,より個人に適した医療,プレシジョンメディシンが可能になると考えられる.CAD の重篤な病態である心筋梗塞(MI)における一塩基多型(SNP)を用いた全ゲノム関連解析(GWAS)を著者らが報告1)して以来,近年におけるゲノム情報整備や技術的革新に伴って全世界で生活習慣病のGWAS が数千~数万サンプルを用いて行われるようになり,さまざまな疾患の原因,感受性遺伝子が同定されてきた.心疾患においても例外ではなく,数千人単位での約1,000 万個のSNP を用いたGWAS およびそれらのメタ解析による数万人~数十万人単位のGWAS が進められ,心疾患の遺伝的素因がつぎつぎに明らかとなってきており,現在までに150 以上の感受性染色体座位が報告されている.一方で,近年,急速に開発が進んだ次世代シークエンサーを用いて全ゲノムや全エクソンを数千人,数万人単位で網羅的にシークエンスし,疾患に強く影響を与える低頻度多型の探索から,創薬につなげる研究も精力的に進められてきている.これら遺伝的要因の情報をもとに,あらたに探索した疾患パスウェイと既存薬剤のネットワークなどを統合解析することによるドラックリポジショニングや創薬ターゲット分子が期待できるとともに,疾患関連バリアント情報,臨床情報,遺伝子発現情報も組み合わせることにより,あらたな疾患発症予知法などの開発も可能となり,プレシジョンメディシンへの貢献が期待できる.
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医学のあゆみ 266巻5号, 449-453 (2018);
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自己免疫疾患は,遺伝・環境因子が関与する多因子疾患である.多くの自己免疫疾患においてHLA 領域が最大の遺伝因子であるが,大規模検体を用いた解析によって,疾患の原因となっているHLA 分子のアミノ酸配列が明らかになっている.また,ゲノムワイド関連解析(GWAS)によって,多数の疾患感受性遺伝子領域が明らかになったが,その多くは複数の自己免疫疾患で共有されている.これらの遺伝因子は,抗原レセプターシグナルにかかわるもの(PTPN22),NF-κB シグナルにかかわるもの(TNFAIP3/TNIP1),Th1/Th17 細胞の分化活性化にかかわるもの(IL12A/IL23R/STAT3/STAT4),インターフェロン(IFN)シグナルにかかわるもの(IRF5/IFIH1),などがある.これらの遺伝子は病態の各局面を構成しており,その積み重ねによって各疾患の感受性が規定されていると考えられる.
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医学のあゆみ 266巻5号, 455-460 (2018);
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ゲノムワイド関連解析(GWAS)の技術が確立されてからおよそ10 年が経ち,GWAS により多因子疾患の疾患感受性遺伝子が数多く同定されてきた.B 型慢性肝炎を対象としたGWAS は2009 年に日本から最初の報告がなされ,B 型慢性肝炎の発症にHLA 遺伝子が強く寄与していることが明らかとなっている.著者らは日本人のB 型慢性肝炎を対象とした最大規模のGWAS を実施し,HLA imputation 法で推定したHLA 遺伝子型を用いてHLA 関連解析を実施した.さらに同様の方法で,B 型肝炎ワクチン(HB ワクチン)に対する応答性にもHLA 遺伝子がかかわっていることを明らかとした.HLA アリルやハプロタイプに着目した解析を行うことで,HB ワクチンに対する低反応には特定のHLA-DRB1-DQB1 ハプロタイプが強く寄与すること,BTNL2 分子によるT 細胞やB 細胞の活性制御がHB ワクチンに対する高反応に寄与することを明らかにした.
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医学のあゆみ 266巻5号, 461-465 (2018);
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精神疾患は現代社会において,甚大な生活の質(QOL)の低下および経済的損失を与え,早急に克服するべき疾患である.操作的診断法の開発により,診断を均一化する試みがなされ,また薬物療法など一定の成果は得られているが,診断の不確定性はいまだ存在し,薬物療法の効果も限定的である場合がしばしば認められる.したがって,現在不明のままである病態生理に基づく治療法および診断法の開発が急務であるといえる.遺伝子研究は,全ゲノム関連研究(GWAS)が主体となって以降,精神疾患,とくに統合失調症,双極性障害,うつ病の疾患感受性遺伝子同定に多大な貢献をもたらしている.本稿では,本3 疾患のGWAS 結果を概説するとともに,遺伝子研究における“診断”の問題点を考察する.
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医学のあゆみ 266巻5号, 466-472 (2018);
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ヒトゲノム解析研究において,ゲノムワイド関連解析(GWAS)は2002 年の最初の論文報告以降,そのゲノム全域を対象とした仮説に基づかない網羅的解析手法によりさまざまな疾患の発症や表現型の個人差と関連する遺伝要因の探索に用いられてきた.感染症分野におけるはじめてのGWAS は2007 年に後天性免疫不全症候群(AIDS)において適用され,その後2018 年4 月の本稿執筆時までに100 報近くの論文がAIDS,マラリア,結核の世界三大感染症や肝炎などのさまざまな感染症において報告されている.そこではGWAS 以前に報告があった遺伝子群に加え,発症への寄与が予想されていなかった遺伝子の関連も見出された.その結果,病原体の感染の有無だけでなく病原体のゲノムの多様性を考慮して感染症の分子機構を理解することの重要性が,しだいに明らかとなってきている.
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エピジェネティクス/インプリンティング
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医学のあゆみ 266巻5号, 475-478 (2018);
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“エピジェネティクス”とは,DNA 配列自体の変化ではなく,シトシン塩基のメチル化やヒストン分子の修飾などの後天的な化学修飾によって遺伝子の発現を制御する機構を指す.ヒトゲノム配列の解読と高速シークエンサーの登場により,全ゲノムレベルでのエピジェネティクス修飾,つまりエピゲノムの解析が可能となった.その後,ヒトの病気の克服のために多様なエピゲノムを解読する必要性が提唱され,2010 年に国際ヒトエピゲノムコンソーシアム(IHEC)が始動した.IHEC の目的は,国際的な協調の下で各国の研究機関が分担して健常人のさまざまな細胞の標準エピゲノムを高精度で解読し,そのデータを公開することである.標準エピゲノムのデータは順調に蓄積しており,次の段階としてIHEC は疾患エピゲノムの解析を進めている.標準エピゲノム情報を利用して同定した疾患特異的なエピゲノム情報を,将来的に疾患の予防・診断・治療へ活用することが期待されている.
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医学のあゆみ 266巻5号, 479-487 (2018);
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近年,エピジェネティクスのなかで,由来親依存的発現パターンを示すインプリンティング遺伝子の存在およびその発現制御機構が明らかとなり,それに伴い,その破綻によって生じる多くのヒトインプリンティング疾患が解明されてきている(表1).本稿では,インプリンティング制御機構(とくにインプリンティングセンターとして機能するメチル化可変領域CpG islands のメチル化パターン),代表的なインプリンティング疾患発症機序(遺伝子内変異,片親性ダイソミー,エピ変異,インプリンティング領域の欠失・重複)について述べる.その後,インプリンティング疾患の代表として,著者らが疾患概念確立に貢献したKagami-Ogata 症候群について記載する.これらのデータは,ヒトインプリンティング疾患における進歩を実感させるものである.
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マイクロバイオーム
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医学のあゆみ 266巻5号, 491-496 (2018);
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次世代シークエンサーが開発されたことによる技術革新を受けて,ヒトマイクロバイオームの研究は近年,著しい発展を遂げている.マイクロバイオームがホストの健康や疾患と密接に関連することが明らかにされつつある.実際に,肥満や潰瘍性大腸炎をはじめ,糖尿病や多発性硬化症などの神経疾患に至るまで,さまざまな病態において腸内マイクロバイオームの構造破綻(dysbiosis)が報告されている.著者らが進めてきた国間の腸内マイクロバイオームの比較では,腸内マイクロバイオームの構造は国ごとに特性をもっていることから,さまざまな疾患と関連するとされる腸内細菌叢のdysbiosis も国ごとの特性をもつことが想定される.一方で,ヒト唾液中に存在するマイクロバイオームについても,近年さまざまな疾患との関係が明らかになりつつある.