医学のあゆみ
Volume 266, Issue 12, 2018
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特集 眼内血管新生疾患の病態と治療—加齢黄斑変性と糖尿病網膜症
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- 【加齢黄斑変性】
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加齢黄斑変性のメカニズム
266巻12号(2018);View Description Hide Description加齢黄斑変性(AMD)は慢性進行性疾患であり,滲出型AMD および地図状萎縮(GA)という2 つの最終段階を有する.アジアにおいては滲出型AMD がGA より多く,不可逆的な視機能喪失の重要な原因となっている.臨床的な検討から,アジア型AMD は欧米型AMD より脈絡膜異常が強いことがわかってきた.また,基礎的な研究では,この数年で疾患感受性遺伝子の機能解明が進み,炎症,細胞外マトリックスの変化,血管新生関連因子などの複合的な作用が判明してきた.本稿ではAMD のメカニズムについて,これまでに多く研究されてきた網膜色素上皮(RPE),Bruch 膜の異常だけでなく,脈絡膜異常についても最新の文献をもとに解説する. -
加齢黄斑変性の予防
266巻12号(2018);View Description Hide Description国内失明原因の第4 位である加齢黄斑変性(AMD)は,不可逆な中心視力の低下をきたしうるため,予防が重要である.AMD は加齢に伴い進行するため,高齢化社会では社会問題となる.リスク因子としてタバコ,肥満・メタボリックシンドローム,食生活の乱れなどの環境因子と,遺伝的素因がある.環境因子については介入可能であり,予防としては禁煙,ライフスタイルと食生活の改善,Age—related Eye Disease Study(AREDS)に基づく抗酸化サプリメントの摂取が推奨される.サプリメントについてはアメリカで約4,000 人を集めたランダム化臨床試験が2 回行われ,エビデンスベースの組合せがあり,その内訳はビタミンC・E,ルテイン・ゼアキサンチン,亜鉛である.AMD は長年の慢性炎症の末に発症する疾患であり,長期にわたる予防意識の継続が重要である. -
加齢黄斑変性の抗VEGF 療法
266巻12号(2018);View Description Hide Description滲出型加齢黄斑変性(滲出型AMD)の治療は,日本眼科学会から提唱された治療指針に示されている抗血管内皮増殖因子(VEGF)剤の硝子体内注射(抗VEGF 療法)が主流となり,症例によっては抗VEGF 療法により治療後の視力の維持にとどまらず,改善させることもできるようになった.現在,国内では3 剤の抗VEGF剤が保険承認されており,個々の患者の病型や全身状態などを考慮して使い分けが行われている.抗VEGF剤を投与することで滲出性所見は吸収され視機能の改善効果を得ることができるが,どの薬剤を投与するにしても導入期に2~3 回の投与を行い,その後の維持期においても,再燃時に再投与を行う必要時投与(pro renata:PRN)や,個々の患者の再燃時期を見越して予防的な意味合いも込めて再投与を行う計画的投与(treatand extend:TAE)など,継続した経過観察および再投与を必要とする.本稿では,滲出型AMD に対する抗VEGF 療法における治療の効果や薬剤の使い分け,維持期における投与の方法について,最近の考え方も含めて説明する. -
滲出型加齢黄斑変性に対する併用療法
266巻12号(2018);View Description Hide Description以前,有効な治療法が存在しなかった加齢黄斑変性(AMD)に対して光線力学療法が臨床導入された時,画期的な治療方法として注目を集めた.病的新生血管へ選択的に取り込まれたベルテポルフィンが照射レーザーによって活性酸素を生じ,血管を閉塞させる.しかし,正常組織への影響はゼロではなく,治療後に起こる虚血や炎症によって再発や合併症を生じることが少なくなかった.そのため,その後に出現した抗血管内皮増殖因子(VEGF)療法に主役の座を奪われてしまったという経緯がある.しかし,2017 年にAMD の特殊型である(しかしアジア人では有病率の高い)ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)に対する大規模ランダム化臨床試験の結果が報告され,光線力学療法は大きく見直されることとなった.抗VEGF 療法単独と比較して,光線力学療法と抗VEGF 療法の併用療法が視力改善,治療回数などにおいて優位性を示したのである.今後は併用療法についての研究が多くなされ,最適化されていくと考えられる.また,併用療法にステロイドを加えたトリプル療法も選択肢となりうる. - 【糖尿病網膜症】
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糖尿病網膜症の病態
266巻12号(2018);View Description Hide Description人工知能(AI)や光干渉断層血管造影(OCT angiography)などにより,糖尿病網膜症(DR)診療は大きく変わろうとしている.基礎研究の積み重ねにより,糖尿病網膜症における重要性が証明された血管内皮増殖因子(VEGF)の分子標的薬剤が臨床応用され,一定の効果を示している.しかし,それとともに抗VEGF 療法不応例や無効な病態も明らかになってきている.DR は病理学的観察や分子メカニズムの解明,さらにイメージング技術の進歩により,硝子体や脈絡膜の変化も明らかになっている.また,基本病態は微小血管障害であるが,炎症細胞浸潤,神経障害などの病態も明らかになり,神経血管単位(NVU)の異常という概念が定着している.糖尿病患者のquality of life(QOL)が損なわれるDR は依然として重要な疾患であり,視機能改善をめざした新規治療法や最適な治療計画につながる病態解明に期待したい. -
糖尿病網膜症に対する光凝固術
266巻12号(2018);View Description Hide Description糖尿病網膜症(DR)に対する汎網膜光凝固(PRP)の有効性は,1980 年代に確立され,多くの患者の失明を防いできた.PRP により黄斑浮腫が惹起され視力低下をきたす症例が問題となっていたが,ステロイドや血管内皮増殖因子(VEGF)阻害薬の併用により防ぐことが可能となった.また,従来の凝固法より短照射時間・高出力設定で凝固を行うパターンスキャンレーザーの登場で,光凝固時の疼痛も軽減している.しかし最近,糖尿病黄斑浮腫(DME)に適応となっているVEGF 阻害薬の硝子体注射を継続することにより,DR 自体が改善すると報告され,今後,網膜光凝固治療自体が消えゆく治療法になるかもしれないといわれている.しかし,VEGF 阻害薬が高価であること,定期的な通院が前提であることから,DR に対する光凝固治療は今後も必要な治療法として存在し続けると思われる. -
糖尿病網膜症の抗VEGF 療法
266巻12号(2018);View Description Hide Description糖尿病網膜症(DR)の病態研究から,血管内皮増殖因子(VEGF)が網膜血管新生や血管透過性亢進における主要な分子機構であることが解明され,その中和療法の臨床導入は必然であった.血液網膜柵の破綻により惹起される糖尿病黄斑浮腫(DME)を適応として抗VEGF 薬が認可され,世界的にfirst-line の治療となっている.興味深いことに,治験の事後(post-hoc)解析ではDR の進行を遅延させ,また改善させる効果も併せもつことが明らかになり,DME 以外の網膜病変への良好な影響も報告されている.血管新生を特徴とする増殖糖尿病網膜症(PDR)において,視力予後と合併症予防の観点から抗VEGF 薬の有効性が報告され,適応拡大が現実味をおびてきている.視力改善が大きく,合併症の頻度が少ないという医学的メリットの反面,社会的・経済的な制約も大きい.今後,創薬の工夫とともに,適応や治療レジメンの最適化により,患者や社会へ効果的に還元されることを期待したい. -
糖尿病網膜症のステロイド治療─病態と薬理作用を意識した治療戦略
266巻12号(2018);View Description Hide Description糖尿病患者における視力低下のおもな原因となる糖尿病黄斑浮腫(DME)に対する治療は,臨床において重要な課題である.DME の病態においては,血管内皮増殖因子(VEGF)が重要な役割を担っており,治療においても抗VEGF 薬が第一選択として使用されることが多い.しかしDME の病態は複雑であり,抗VEGF 薬に反応性の低い症例も少なくなく,ほかの多様な炎症性サイトカインや炎症関連分子も関与していると認識されている.多面的にサイトカインの産生を抑制するステロイド治療は今なお重要な選択肢のひとつである.ステロイド治療は強い浮腫改善効果をもたらすが,一方で白内障や眼圧上昇といった合併症が誘導されやすいので注意が必要である.ステロイドの抗炎症効果を利用して,白内障手術や網膜光凝固治療後の合併症の発症あるいは進行予防を図ることもできる.本稿では,ステロイドの作用を理解し,DME の病態に即した治療戦略について考察する.
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連載
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- Sustainable Development を目指した予防医学 20(最終回)
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健康とまちづくりⅡ:公共空間・地域デザインの可能性
266巻12号(2018);View Description Hide Description近年,建造環境・地域環境と健康に関する研究が進んでいる.環境を整えることで個人の行動や選択に働きかけその結果として健康の増進を目指すアプローチを“ゼロ次予防”戦略の健康まちづくりとして位置づける.この“ゼロ次予防”戦略の健康まちづくりとして,公共空間と地域環境について室内化学物質を低減したオフィスづくり,身体活動を高める階段利用を促す空間づくり,歩きやすいウォーカビリティの高い地域づくりの観点から,著者らの研究や国内外の研究を紹介する.また,これらの研究成果の社会実装を試みたプロジェクトを紹介する. - 移行期医療 ― 成人に達する/達した患者への医療 13
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発達障害と成人への移行支援
266巻12号(2018);View Description Hide Description◎発達障害における小児期ケアから成人期ケアへの移行は,発達障害自体の周知やそれについての対応の共通理解が十分ではないので現状では社会資源の少なさも含めて多くの問題がある.障害を抱えている場合には社会にでるまでの猶予期間は通常よりも長くすることが一般的であるが,知的障害を抱える自閉症スペクトラム障害(ASD)の場合には短いことが多い.本稿では,発達障害の概念から成人期での自立に向けて,発達障害の症状に起因する社会生活上の困難とその対応,とくにASD における感覚過敏の問題,ADHD における多動・衝動や不注意の症状などについて対応を含めて概説する.また自立に向けては,自己コントロール,スケジュール管理,金銭管理,性の問題やICT,余暇活動などの課題についてのトレーニングや教育が必要である.しかしこうした課題を思春期からはじめるということは社会資源の問題もあり容易ではない.
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TOPICS
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- 免疫学
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- 脳神経外科学
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- 循環器内科学
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