医学のあゆみ
Volume 266, Issue 13, 2018
Volumes & issues:
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【9月第5土曜特集】 心不全のすべて─分子生物学から緩和ケアまで:beyond ガイドライン
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- 基礎研究は心不全をどこまで解明したか―心不全を理解するために必要な最新の基礎知識
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シングルセルトランスクリプトーム解析―心肥大から心不全発症の分子機序に関するあらたな解析
266巻13号(2018);View Description Hide Description心不全は癌と並び世界中で多くの患者の命を脅かしている.心臓に対する慢性的な血行力学的負荷は心肥大および心不全を引き起こすことが知られているが,その詳細な分子機構は明らかでない.著者らは,圧負荷心不全モデルマウスおよび心不全患者の心臓から単離した心筋細胞のシングルセルトランスクリプトーム解析を行い,心筋細胞の肥大化にはERK1/2・NRF1/2 シグナルによるミトコンドリア遺伝子の発現活性化が重要であり,肥大心筋細胞は代償性心筋細胞と不全心筋細胞へ分岐し,不全心筋細胞への誘導にはp53 シグナル活性化に伴った代謝・形態リモデリングが重要であることを明らかにした.また心筋遺伝子発現応答においてマウスとヒトの間の種を超えた保存性を確認し,心不全に特徴的な遺伝子発現パターンにより患者病態を層別化できることを実証した.これらの技術は,心臓疾患の詳細な病態解明に役立つだけでなく,個々の心不全患者の臨床像と連結した心臓分子病態の理解に直結し,循環器疾患における精密医療の実現に大きく貢献するものと期待される. -
次世代シークエンス解析は心筋症の遺伝子解析を変えたか―次世代遺伝子解析による心筋症の理解とprecision medicine
266巻13号(2018);View Description Hide Description次世代シークエンサーは遺伝子配列を高速かつ大量に解読できることから,生命科学の各分野に革新的進歩をもたらしている.とくにヒトゲノム解析の効率化はめざましく,心筋症患者の原因変異同定,心筋症診療現場での遺伝学的検査に大きなインパクトを与えると考えられる.確かに,次世代シークエンサーを活用した既報遺伝子のターゲットリシークエンスにより,既報変異として知られるvariant をきわめて効率的に検出できるようになった.一方で,既報変異を有しない心筋症患者においては,次世代シークエンス解析で原因変異の候補となるvariant が多数検出されても,それが真の原因変異かどうか,いわゆる“pathogenicity”を証明するステップが律速段階となり新規原因変異同定に至らないことが多い.次世代シークエンス解析が心筋症の遺伝子解析を変え,診療現場でそのデータを有効活用できるレベルまで到達させるには,大きな家系の集積,正確な臨床情報収集が不可欠である.そのためには各施設間でのデータシェアリング推進も有効と考える. -
microRNA・long non-coding RNA とは何か―新しい世界からみた心不全
266巻13号(2018);View Description Hide DescriptionDNA から転写されるRNA には,蛋白質を作る情報を持ったメッセンジャーRNA(mRNA)と,蛋白質を作る情報を持たないノンコーディングRNA(ncRNA)がある.ncRNA は長らく意味のないものと考えられてきたが,最近,20 塩基程度のmicroRNA(miRNA:miR)や,約200 塩基以上の長さを持つ長鎖ncRNA(long ncRNA:lncRNA)について研究が急速に進展し,生物学的役割の解明に興味が注がれている.本稿では,これらのncRNA について,とくに心不全の診断と病態との関わりについて解説する. -
収縮と拡張の分子生理学―心筋の構造から心機能を考察する
266巻13号(2018);View Description Hide Description心筋の収縮・拡張は筋小胞体とサルコメア蛋白の相互作用によって生じる.すなわち筋小胞体を中心としたカルシウム(Ca)ハンドリングと,ミオシンを中心とする太いフィラメントとアクチンを中心とする細いフィラメントの相互作用に基づいている.サルコメア蛋白はCa のみならず翻訳後修飾などにより調節されることが知られている.筋小胞体から放出されたCa は,細いフィラメントへの結合・離開によってサルコメア蛋白の収縮・弛緩に関与しており,心筋収縮・拡張を考えるうえで非常に重要なファクターである.その詳細については他稿に譲り,本稿ではアクチン,ミオシン,ミオシン結合蛋白,タイチンといった心筋サルコメア構成蛋白がいかにして張力を生み出しているか,またそれらがいかなる機序で調節を受けているかについて概説する. -
カルシウムハンドリング―カルシウムシグナル異常はどこまで解明されたか
266巻13号(2018);View Description Hide Description心臓の機能,すなわち収縮・弛緩機能は心筋細胞内のCa2+濃度を的確にコントロールすることによって規定されている.そのCa2+の調節をおもに担っているのが,筋小胞体膜上に存在するCa2+-ATPase(SERCA)とリアノジン受容体である.SERCA は細胞質内のCa2+を筋小胞体内へ取り込み,リアノジン受容体は細胞質内へCa2+を放出する役割を担っている.心不全や致死的不整脈では,分子レベルでさまざまな破綻をきたすが,心不全時などにみられるカルシウム(Ca)ハンドリング破綻からの視点では,これらの受容体の機能異常や発現量の低下がおもな原因となっている.すなわち,SERCA の機能,発現量の低下やSERCA の機能を規定しているホスフォランバンのリン酸化低下,さらにはリアノジン受容体の制御異常などがみられる.よって,Ca シグナル異常に関与している経路を解明し,これらの受容体を正常な状態へと修復することによりCa ハンドリングの改善が期待でき,心不全や致死的不整脈に対するあらたな治療法になる可能性を秘めている. -
メタボローム解析でどこまでわかるか―栄養・代謝異常は心不全の原因か
266巻13号(2018);View Description Hide Description著者らの研究グループは,臓器連関のひずみの結果生じる心不全の病態を深く読み解くために,多くの研究室とコラボしながら多彩な研究を行ってきた.キャピラリー電気泳動-質量分析法による解糖系,TCA 回路,アミノ酸代謝・核酸代謝の中間代謝産物の網羅的定量解析,安定同位体標識化合物を用いた代謝経路解析,MALDI-イメージング質量分析技術を用いた代謝産物の二次元的マッピングなどの技術を駆使して,ストレス下における心筋代謝の動的変化とその病態生理学的意義を解明してきた.圧負荷による左心肥大,糖尿病性(あるいは脂肪毒性)心筋症,肺動脈性肺高血圧などの疾患モデル動物を用いてリピドミクス解析を行い,新規生理活性脂質の探索や心筋細胞膜リン脂質リモデリングの病態生理学的意義の検討も行っている(http://www.cpnet.med.keio.ac.jp/research/basic/pathogenesis/). -
多臓器連関―心臓と多くの臓器・組織は連関している
266巻13号(2018);View Description Hide Description虚血性心疾患,弁膜症,心筋症に加え,生活習慣病の悪化や喫煙などさまざまな複合的な要因で心不全は発症する.しかし,心不全の原因はかならずしも心臓自体にとどまらず薬剤性,ウイルス・細菌感染,炎症といった心臓以外の原因によっても発症・悪化する.さらに腎不全,肝不全,呼吸器疾患など他臓器疾患によっても大きく影響を受けることも知られている.近年では腸や骨格筋,脂肪と心臓との連関に関する研究が進み,新しい視点から心不全の病態メカニズムの解明が進められている.本稿では,多臓器連関として代表的な心・腎・脳連関に触れた後,近年注目されている心腸連関や心臓・脂肪連関,心臓・骨格筋連関を中心として多臓器連関について概説する. -
心不全における慢性炎症の役割と機序―なぜ心臓に慢性炎症が起こり,心不全になるのか
266巻13号(2018);View Description Hide Description心不全では炎症性サイトカインの上昇が認められ,慢性的な炎症が病態に関与していることが示唆されていたが,詳細な機序は不明であった.近年,この慢性炎症に自然免疫系が大きく関与していることが明らかとなってきた.すなわち,心筋組織を構成する細胞のなかに自然免疫系を活性化する分子(DAMPs)が多く含まれており,さまざまな心疾患による圧負荷や容量負荷などの負荷によって細胞からDAMPs が漏れ出して,それが自然免疫系を構成する toll-like recepto(r TLR)などを活性化することにより慢性炎症が起こるということがわかってきたのである.さらに,慢性炎症に関与する細胞の動態についてもあらたな研究が進んできており,心不全発症に関与する慢性炎症の解明が進んでいる. -
オートファジーと心臓の恒常性―オートファジーは心不全の原因か?
266巻13号(2018);View Description Hide Description2016 年大隅良典博士のノーベル医学・生理学賞受賞によって,オートファジーは大きな注目を集めている.心臓におけるオートファジーについても,古くからその存在が知られていたものの,その意義については長く不明であった.哺乳類におけるオートファジーの機能がつぎつぎと報告されるなか,心筋細胞特異的Atg5(autophagy related 5)欠損遺伝子改変マウスの作製・解析によって,恒常的条件下,血行動態ストレス下,加齢でのオートファジーの心保護機能が明らかになった.近年は,オートファジー誘導能を有する物質が心血管保護作用を発揮することが動物実験やヒトを対象とした研究においても報告されている.また,既存薬剤のスクリーニングにおいて明らかにされたオートファジー誘導能を有する薬剤にも心保護作用を有する薬剤が含まれていることが報告されており,今後オートファジー誘導に基づくあらたな治療が開発されることが期待される. -
小胞体ストレスとは何か―小胞体ストレスと心不全発症
266巻13号(2018);View Description Hide Description小胞体は膜構造を有するオルガネラのひとつであり,蛋白質の合成・折り畳み,Ca 貯蔵および脂質合成などの機能を担っている.これらの古典的な小胞体機能に加え,外部刺激を感知し,自らシグナルを発信することにより,小胞体が細胞の生死を決定する重要な役割を有することが明らかになった.小胞体ストレスとは,外部刺激により折り畳み異常や正常な修飾を受けていない蛋白質が小胞体内に蓄積した状態である.近年,神経変性疾患や糖尿病などの疾患に加え,心肥大時の蛋白質合成亢進,虚血時の酸化ストレス,一部の抗がん剤が小胞体ストレスを引き起こし,小胞体発信シグナルが循環器疾患の発症および進展に関与することが明らかになりつつある. - 心不全パンデミックとは何か―心不全の現状を知り将来を考える
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日本と世界の心不全の疫学―心不全の現在と未来を識る
266巻13号(2018);View Description Hide Description社会の高齢化と循環器疾患における疾病構造の変化に伴う心不全患者の増加は,社会における医療負担や医療経済的問題でもあり,効果的・効率的治療法の確立が求められている.日本ならびに世界各国の心不全患者を対象とした多施設登録観察研究を概観すると,心不全患者の増加は世界的な健康問題である一方,心不全患者の臨床的特徴には地域差が認められ,その国あるいは地域の心不全患者の現状に合致した治療・管理体制の確立が求められる.また,多施設登録観察研究で得られた情報は,心不全患者の臨床像や治療実態を把握するのみならず,予後予測モデルの開発にも寄与する.予後予測モデルは治療方針の決定や医療者・患者・家族の意思決定支援の一助になると考えられるが,わが国の心不全患者に対する予後予測モデルは開発されていない.これらの点から,日本における多施設登録観察研究の継続的な実施は,心不全患者の治療や疾病管理の質の向上に大きく寄与すると期待される. -
急性・慢性心不全診療ガイドライン―2017 年改訂版のポイント
266巻13号(2018);View Description Hide Description「慢性心不全治療ガイドライン」(2010 年)と「急性心不全治療ガイドライン」(2011 年)が一本化され,日本循環器学会と日本心不全学会の合同で「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017 年改訂版)」として改訂された.今回の改訂内容の主要なポイントは以下のとおりである.① 心不全の定義を明確化,一般向けにわかりやすい定義もあらたに記載.② 心不全とそのリスクの進展のステージと治療目標をあらたに記載.③ 心不全を左室駆出率で分類して記載.④ 心不全診断アルゴリズムをあらたに作成.⑤ 心不全進展のステージを踏まえ心不全予防の項をあらたに設定.⑥ 心不全治療アルゴリズムをあらたに作成.⑦ 併存症の病態と治療に関する記載を充実.⑧ 急性心不全の治療において時間経過と病態を踏まえたフローチャートをあらたに作成.⑨ 重症心不全における補助人工心臓治療のアルゴリズムをあらたに作成.⑩ 緩和ケアに関する記載を充実. -
超高齢社会における心不全診療提供体制の展望
266巻13号(2018);View Description Hide Descriptionわが国において急速な高齢化が進行するなかで,心不全に対する診療提供体制の改革が求められている.急増する心不全は,個人や家族ばかりでなく,社会的な疾病負担が非常に大きく,医療経済的にも負担が大きい.慢性心不全の予後は不良であり,生活の質(QOL)も著しく低下する.予後の改善や再入院を減らす目標達成のためには,優れた心不全疾病管理プログラムに基づいた医療の提供に加えて,患者の生活習慣の改善,セルフケアの実践,心臓リハビリテーション,生活環境への介入などの多面的な対策が必須であり,病院中心の医療から地域のケアシステムにおいて医療を行う体制への変革が必要であろう.医療サイドで求められるのが,多職種によるチーム医療と治療介入,地域のかかりつけ医を中心とする医療・ケアである.今後の心不全対策を効率的に行うためには,疾患登録による実態調査研究が不可欠であり,対策基本法の立法が望まれる. -
心不全チーム医療に必要な人材・システムとは
266巻13号(2018);View Description Hide Description心臓病による死亡数はがんに次いで多く,関連学会も“ストップCVD(脳心血管病)”を掲げて死亡率の低下や健康寿命の延伸に向けた啓発に乗り出している.なかでも課題となっているのは心不全患者の急増や高齢化への対応である.心不全の平均年齢は80 歳を超え,独居,低収入など社会背景に問題がある患者も増えている.このような心不全患者では単に医師が医学的介入を行うだけでは入院が回避できないことが多く,看護師,薬剤師,リハビリ指導士,栄養士,医療ソーシャルワーカーなどの多職種が多面的に介入する必要がある.その結果,薬剤コンプライアンスの上昇,運動能力の維持,生活態度の改善,セルフモニタリングが可能となり,その相乗効果が予後改善に結びつくと考えられている.本稿では,医師以外の多職種がどのように心不全患者にかかわるべきかについて述べる. -
行政が考える心不全診療のあり方―人事交流医系技官の立場から
266巻13号(2018);View Description Hide Description行政が考える心不全診療のあり方については,『脳卒中,心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方について』(平成29 年7 月)および『循環器疾患の患者に対する緩和ケア提供体制のあり方について』(平成30 年4 月)などにおいて示されている.これらの報告書においては,増悪と寛解を繰り返す臨床経過などの心不全の疾患特性を踏まえ,心不全患者を地域全体で管理する重要性が示されている.これらの報告書も踏まえた循環器疾患に関連する施策が,第7 次医療計画,平成30 年度診療報酬改定,厚生労働科学研究などの観点から厚生労働省において進められており,関連学会においても,報告書を踏まえた取組みが進められている.今後,地域において適切な心不全診療の体制を構築していくためには,このように行政と関連団体などの関係者が,心不全診療のあり方について共通の認識を持ちながら,施策や取組みを進めていくことが重要である. - 心不全の新しい診断法―心不全の最新の診断法を真に理解し利用する
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バイオマーカーをどう利活用するか?―BNP,NT-proBNP を中心に
266巻13号(2018);View Description Hide Descriptionわが国の高齢化に伴い,心不全は今後20 年間有病者数が増えることが推算されている.心不全の早期診断によって心不全の診療の質を向上させる必要があることから,バイオマーカーの役割は小さくない.とくにBNP とNT-proBNP は心不全の診療に不可欠なものとなっている.本稿ではその特徴,意義,さらにはBNP とNT-proBNP の違いについて概説する. -
心エコーによる拡張機能評価―拡張機能をどのように評価するか,またその意義は?
266巻13号(2018);View Description Hide Description拡張機能評価は従来,カテーテルを用いた侵襲的手法によって行われてきた.一方,心エコーは,非侵襲的に拡張機能の良しあしや左室充満圧の高低を予測することができる.しかし,単一の心エコー指標で拡張機能を定量的に評価するのは限界がある.したがって一般的には,①左室流入血流速度,②僧帽弁輪移動速度,③左房容積,④三尖弁逆流血流速度,を総合的に判断して拡張機能を評価している.また最近では運動負荷を利用した拡張期ストレスエコー検査も,拡張機能障害を顕性化するものとして注目されている.心エコーで評価する拡張機能評価は臨床的に重要な情報を提供し,何よりも現時点で心エコー以外に日常臨床で手軽に使える拡張機能評価法がない.各指標の意味合いと限界点を知ったうえで心エコーを賢く使いこなすことが望まれる. -
CT およびMRI による心不全の評価
266巻13号(2018);View Description Hide Description近年循環器領域のMRI,CT の発展は著しく,心不全の診療において有効性の高い検査となりつつある.心臓MRI は心機能評価,心筋組織性状診断,心筋バイアビリティ診断,心筋虚血診断など多様な情報が得られる特徴がある.とくに遅延造影MRI により梗塞と線維化の評価が可能であり,心不全疾患の診断・予後評価に有用である.近年では心機能評価において,シネMRI 画像から心筋ストレインを求めることのできるfeature tracking 法や,心筋組織性状評価においてびまん性の心筋線維化を定量的に評価可能なT1 マッピング法などの新しい評価法も心不全の診療に利用されるようになっている.一方,心臓CT は冠動脈疾患の鑑別においてはすでに日常臨床で広く用いられている.最近では低被曝でのシネCT や遅延造影CT により,心機能解析や心筋性状の評価を日常臨床の検査として行うことも可能になりつつある.本稿では,心不全の診療におけるMRI とCT の現状と今後の可能性について概説する. -
心臓核医学による心不全診断―核医学により何を診断できるのか
266巻13号(2018);View Description Hide Descriptionわが国における死因の第1 位は悪性新生物,第2 位は心疾患であり,心疾患のなかでも心不全による死亡が最も多い.わが国において,心不全患者総数に関する正確な統計調査は行われていないが,高齢化社会に伴って,今後心不全患者数が増加していくことが予想されている.心不全診療において,病態や重症度の評価,治療戦略の検討,治療効果の判定,生命予後や将来リスクの層別化を行うためには基礎心疾患の診断が不可欠である.心不全診療では,急性期治療に成功すると基礎心疾患を鑑別し,リスク層別化評価に従って治療方針が決定される.わが国における心不全の基礎心疾患は,虚血性心疾患が約30~40%,非虚血性心疾患が約60~70%であり,虚血性心疾患が多い欧米と様相が異なる.基礎心疾患の鑑別と心不全の重症度を評価し,その経時的変化を評価するために心臓超音波,multislice computedtomography(CT),cardiac magnetic resonance imaging(CMR),心臓核医学検査などの画像診断法が用いられている.心臓核医学検査は,心筋血流,心筋バイアビリティ,心機能,心筋代謝および心臓交感神経活性などを評価することができ,ほかのモダリティでは得られない情報を提供することが可能であることから,基礎心疾患の診断,重症度の評価,治療方針の決定,治療効果の判定,予後予測の評価などに広く用いられている.本稿では,心不全診療における心臓核医学検査について概説する. -
血行動態を知る重要性―右心カテーテル検査結果から何を考えるか
266巻13号(2018);View Description Hide Description右心カテーテル検査(RHC)は心不全の評価・診断・治療に対するルーチンのアプローチとして行うことは推奨されていないが,病態によってはRHC による評価が必須であったり,治療方針決定にきわめて有用であったりすることも少なくない.急性心不全患者において非侵襲的データに基づきながら標準的治療を行っても心不全症状が改善しない場合には,右心カテーテルによる持続的血行動態モニタリングの適応となる.また,慢性心不全患者においても,圧波形による疾患の鑑別,シャントの同定,右心機能・右心不全の評価,肺血管の可逆性の評価,補助人工心臓からの離脱が可能かどうかの評価などには,やはりRHC が有用である. -
心筋生検の有用性―病理診断を治療と予後評価にどのように活かすか
266巻13号(2018);View Description Hide Description循環器領域の実臨床から要望があり,治療と予後評価に活かせる病理組織学的所見に焦点を絞る.心筋炎のなかでは,ステロイドや免疫抑制療法が有効な好酸球性,巨細胞性,肉芽腫性,ループス心筋炎の診断は重要であり,心筋炎疑診例での凍結組織を用いた迅速診断は有用である.また,劇症型心筋炎と誤診される虚血性疾患の存在にも留意する.リンパ球,組織球浸潤の増加とTNC の高発現は予後不良因子である.一部の原発性および二次性心筋症の診断には,①PAS,diastase PAS,oil red O などの特殊染色,②デスモソーム蛋白,Gb3,lamp-2,ATGL,LC-κ,LC-λ,ATTR,AA,dystrophinⅠ,Ⅱ,Ⅲ,dystrophinA,B,lamin A/C,emerin,CD36 などの免疫染色,③電顕による検索が,酵素補充療法,中鎖脂肪酸療法,補助人工心臓や心臓移植の適応判断において有用である. - 心不全の新しい治療法―心不全の最新・最適治療を識る
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急性心不全・急性増悪マネジメント―薬物療法から補助循環までロジカルな治療法の選択
266巻13号(2018);View Description Hide Description急性心不全の初期対応は確実な診断と病態把握からはじまり,評価した病態に応じた治療選択を行い,時間軸を念頭において実践することが重要である.ただなんとなく治療を開始するのではなく,薬剤投与をする場合も薬剤の特性を念頭において選択する.その後,変化する病態を評価しながら軌道修正をしていくことがガイドラインでも強調されている.だれが治療を行っても,病態把握に応じて“時間軸”を念頭におきながら対応できるようになることが重要であり,スタッフとともにこのコンセプトを共有し,しっかりと実践していただきたい.一方,初期の血行動態の不安定さの判断は重要で,補助循環装置の導入のタイミングを逃すことなく,血圧のみでなく血中乳酸値も参考にしながら対応することが重要である. -
現在の最適薬物治療―ACEI/ARB,β遮断薬,ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬,利尿薬をどう使い分けるか
266巻13号(2018);View Description Hide Description現在,心不全の診療は左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)と左室駆出率が維持されている心不全(HFpEF)に分けて考えられており,HFrEF における薬物療法では,アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)/アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB),β遮断薬,ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の予後改善効果が大規模臨床試験で確立されているが,HFpEF においては大規模臨床試験で予後改善効果が確認された薬物はいまだ存在していない.利尿薬に関しては慢性心不全と急性心不全に分けて考える必要があり,既存の利尿薬で慢性期長期予後を改善するエビデンスをもつ薬剤は存在しない.利尿薬は急性期にうっ血症状を改善する目的で投与し,必要最低限の範囲に留めておくのがよいであろう.またフロセミドは,強力な利尿薬であるがゆえに交感神経賦活化作用があり,心不全慢性期に利尿薬が必要な症例においては長時間作用型ループ利尿薬などを検討することが望ましい.今後,アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)やivabradine といった新しい心不全治療薬がわが国で使用可能となるため,HFrEF のさらなる予後改善効果のみならず,HFpEF の予後改善効果が期待される. -
難治性心不全の治療戦略―強心薬・補助循環の使用法をマスターする
266巻13号(2018);View Description Hide Description治療に難渋する心不全は,“重症心不全”,“難治性心不全”,“Stage D の心不全”などとよばれる心不全であり,大きく分けて2 つのタイプに分別される.1 つは心不全増悪を繰り返しきたすようになり,最大限の薬物治療や非薬物治療を行っても高度に運動耐容能が障害された状態から脱せずに治療に難渋するタイプである.もう1 つは短い病歴で発症し,重度の心機能低下のため,いわゆる“急性期”から脱するのが困難なタイプである.これらは難治性心不全のなかでも治療反応への期待値が異なり,強心薬や補助循環を用いたストラテジーを立てるうえでは,使用するタイミングや適応が少し異なることがあり,注意が必要である.本稿では難治性心不全のこの2 つの典型的な例を示し,強心薬や補助循環の使用法について概説する. -
未来の薬物療法
266巻13号(2018);View Description Hide Description本稿では,今後に臨床応用が期待される心不全新薬を紹介する.Neprilysin はナトリウム(Na)利尿ペプチドを分解する中性エンドペプチダーゼ(NEP)であり,その阻害薬はNa 利尿ペプチド上昇をもたらす.末梢血管抵抗の上昇と血管浮腫を回避するため,valsartan とneprilysin 阻害薬との合剤LCZ696 が開発され,PARADIGM-HF 試験にて慢性心不全患者の予後改善をみた.Ivabradine は陰性変力作用を有さずに洞調律心拍数を低下させる.SHIFT 試験では,β遮断薬導入下でも心拍数70/min 以上の慢性心不全患者において,ivabradine が心不全イベントを減少させた.Omecamtiv mecarbil は直接アクチン・ミオシン結合を増加させ,細胞内カルシウム(Ca)濃度に影響されずに収縮力を増強させる.現在,生命予後をエンドポイントにした第Ⅲ相試験が進行中である. -
心不全における非薬物療法―CRT,ICD,WCD の最適な使用方法
266巻13号(2018);View Description Hide Description心臓再同期療法(CRT)は,同期不全を有する心不全症例の生命予後を改善する効果が示されており,薬剤抵抗性の心不全症例に対する治療の重要な選択肢となっている.しかし,CRT を行った症例のなかにも非反応例が存在しており,反応例をいかに選別するかが重要である.また,心不全症例では心室性不整脈による突然死が主要な死因のひとつであり,これを予防することも非常に重要である.植込み型除細動器(ICD)は,抗不整脈薬よりも高い生命予後改善効果を示すことから,一次予防・二次予防いずれの点においても心不全症例に対する重要な治療となる.さらには,CRT およびICD の両者の機能を併せ持ったCRT-D や,近年では,着用型自動除細動器(WCD)といった機器も使用可能となっている.心不全症例における予後の改善のため,このような非薬物療法の効果や適応について十分に理解し,適切に使用する必要がある. -
補助人工心臓の使い方―どのタイミングでどのデバイスを使用するのか?
266巻13号(2018);View Description Hide Description2011 年4 月に植込み型補助人工心臓(iVAD)が心臓移植への橋渡し(BTT)目的で保険適用されて以来,900 例以上に使用されてきた.iVAD 植込み実施施設は毎年新規登録が行われ,2018 年までに48 施設の陣容となった.年間装着数は180 例に迫りつつある.アメリカにおけるiVAD 治療はINTERMACS(Interagency Registry for Mechanically Assisted Circulatory Support)に義務登録され,年間3,000 例を超える装着が行われている.その成績(BTT)は改善傾向にあり,なかでもわが国のiVAD 治療はアメリカを凌ぐ良好な成績である.この優れたiVAD の治療効果が浸透し,iVAD 管理施設システムが構築され,植込み実施施設のない地域の重症心不全患者に対しても治療が行われるようになった.重症心不全患者すべてがiVAD の適応となるわけではない.INTERMACS profile 1 では,救命が可能か,臓器機能が回復可能かなどを見極めて適切な次の治療に結びつける必要がある(BTD).この場合,経皮的心肺補助装置(PCPS)や体外設置型のVAD が使用される.2017 年10 月からはカテーテル型VAD であるImpella が保険償還された.Impella が重症心原性ショックにどのような役割を果たすかを今後検討する必要がある. -
新しいデバイスによる心不全治療
266巻13号(2018);View Description Hide Description近年,心不全の非薬物治療におけるデバイス治療は著しい進歩を遂げたが,未解決の問題解決に向けて,さらにあらたなデバイス治療が登場し続けている.心原性ショック患者に対する新しい循環補助治療である小型心臓ポンプ(IMPELLA®)は,従来のデバイスに比べ左室から大動脈への生理的循環様式を保持したまま,循環サポートを加えることができる.Inter atrial shunt device(IASD)はHFpEF 患者の左房圧上昇を防ぎ,心不全増悪を起こしにくくすることが期待されている.Cardiac contractility modulation(CCM)はHFrEF 患者の心収縮能を改善させることが報告され,従来の心臓再同期療法が奏効しない症例に対しても効果を発揮する可能性がある.これらの新しい治療は今後さらなるエビデンスの蓄積を待ちつつ,患者の病態を見極めながら使用していくことが求められる. -
心臓移植の成績と課題―世界的に最もよい予後と少ないドナーというわが国の課題
266巻13号(2018);View Description Hide DescriptionStage D 重症心不全における治療として,植込み型補助人工心臓の役割が非常に大きくなってきており,欧米では心臓移植を前提としない植込み型補助人工心臓治療(DT)も開始されている.わが国においても近日中にDT が開始される予定であるが,やはり予後や患者のQOL を考慮すると,心臓移植がgoldstandard であることは間違いない一方で,国際心肺移植学会(ISHLT)の統計による10 年生存率は50%程度とまだまだけっして満足できる数字ではなく,さらなる予後の改善が要求される.1999 年にわが国初の心臓移植が大阪大学で施行されて以降,すでに20 年が経過した.その間に改正臓器移植法が施行され,徐々に臓器提供数も増加傾向にあるが,重症心不全患者数の増加には追いついておらず,待機期間の長期化に歯止めがかかっていない.2010 年7 月の改正臓器移植法施行後,心臓移植件数は年々増加傾向にあり,年間約50~60 例程度となっている.わが国における心臓移植治療の問題点として,末期重症心不全患者に対するドナー数の不足がきわめて深刻であることがあげられる. - さまざまな心不全―原因別に心不全を診て考える
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二次性心筋症の鑑別と治療―いかに高率に二次性心筋症を見分け治療するか
266巻13号(2018);View Description Hide Description心筋症は,病変の首座が心臓にある“原発性心筋症”と,全身疾患の心病変である“二次性心筋症”とに大別される.“二次性心筋症”を鑑別する最も重要な意義は,二次性心筋症にはすべてではないが疾患特異的な治療法が存在することである.心筋症のなかから二次性心筋症を鑑別・診断できれば,適切な治療が行われ,心臓の収縮障害や拡大を防ぐことができるものも存在し,予後改善に直接つながる.そのため,心筋症においてはまず二次性心筋症を疑うことからはじまり,広く他科疾患への理解を深めなければならない.本稿では,臨床で遭遇する機会の多い二次性心筋症としてアミロイドーシス,サルコイドーシス,Fabry 病について概説する. -
右心機能障害の診断法と治療法―心筋症,VAD 植込み後の右心不全の問題
266巻13号(2018);View Description Hide Description左心不全に合併する右心不全の診断には超音波診断もあるが,重症例では右心カテーテルで行うことが望ましい.右心カテーテルの指標としてCVP/PCWP,PAPi,PVR,RVSWI などがある.補助循環を使用しない状況での右心不全治療は静注強心薬を中心としてvolume control に利尿薬を適宜使用する.右心不全を有する心筋症患者に対する左室のみの補助は困難を伴うものの,ホスフォジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬などの併用で可能な場合がある.心原性ショックの場合には,しばしば周術期の機械的右心補助の必要性が焦点となるが,そのような場合にPVR とRVSWI の組合せが有用である.術前に右心不全が明示的に存在しない症例でも,植込み型左室補助人工心臓施行後に顕在化して治療に難渋する場合があり,そのような症例でもPDE5 阻害薬などを使用する. -
成人先天性心疾患の諸問題―心不全の臨床的特徴と移行医療
266巻13号(2018);View Description Hide Description成人先天性心疾患(ACHD)に伴う心不全は,循環器内科領域で日ごろ経験される左心不全と異なり,原疾患となる先天性心疾患と心修復術後の血行動態が多様である.その特徴は,①右心系(肺循環-右心室)病変による右心不全が問題となること,②種々の姑息術後・心修復術後の後遺症(弁狭窄,弁逆流,心筋障害,遺残短絡,チアノーゼ,不整脈)が問題となること,③体心室が解剖学的右室の例があること,④機能的単心室を伴う心疾患のFontan 術後例があること,⑤術前後ともに肺高血圧が問題となること,⑥晩期合併症,加齢に伴う成人病が病態を修飾することである.ACHD に伴う心不全の診療には,画像診断を含む総合的かつ専門性の高い臨床的評価と外科治療,カテーテル治療,アブレーション治療などの集学的な治療体制,妊娠出産の対応などACHD チームによる対応が重要である. -
超高齢者の心不全―超高齢者ならではの特殊性
266巻13号(2018);View Description Hide Descriptionわが国はすでに超高齢社会を迎えており,年齢が90 歳以上の超高齢者人口が増加し続けている.加齢とともに心不全発症が増加する現実を踏まえると,今後,超高齢心不全患者数が増加することは確実である.超高齢心不全患者の特徴を把握するための疫学調査は十分ではないが,心不全発症率増加,死因としての心疾患の増加,大動脈弁狭窄症や虚血性心疾患の関与,左室駆出率の保持された心不全(HFpEF)の増加,多様な併存疾患の存在,薬剤治療域の減少,多剤併用,認知機能低下,フレイル,サルコペニア,低栄養といった特徴を有していると認識されている.高齢者では,治療の目的は生命予後の改善よりも症状緩和と生活の質(QOL)の維持向上が優先される場合が多い.ゆえに,超高齢心不全患者の治療においては,心臓のみならず,多臓器疾患,社会経済的問題,精神的問題,フレイルなどについて包括的評価介入を行うことが求められる.増加する患者へ対応し緩和医療を導入するために,地域医療の担い手による多職種チームアプローチが必要とされており,患者の生活のあり方に沿った治療が提供されることが望ましい. -
心不全患者における不整脈―心房細動と心室性不整脈
266巻13号(2018);View Description Hide Description心不全と心房細動(AF)は密接な関係があり,相互のリスクを増加させる.心不全による神経液性因子の活性化,細胞内カルシウム(Ca)動態の異常などが影響し,これにAF による血行動態の増悪が関与し悪循環を生む.これらの治療として,最近ではカテーテルアブレーションの有効性が徐々に明らかにされてきた.また,心不全に伴う心室性不整脈(VA)は突然死の原因でもあり,見逃すことができない不整脈である.2017 年に『急性・慢性心不全診療ガイドライン』が改訂され,従来通り植込み型除細動器(ICD)適応が突然死予防として推奨され,それに加え心臓再同期療法(CRT)の適応,とくに軽症心不全と房室ブロックに対する適応が大きく改訂された.さらにカテーテルアブレーションによる心室性不整脈(VA)への治療のエビデンスも蓄積してきており今後の治療戦略に新しい選択が広がることが期待される. -
心不全治療としてのstructure heart disease intervention
266巻13号(2018);View Description Hide Description心不全の有病率は年齢とともに上昇する1,2).世界に類をみない超高齢社会となったわが国では,すでに100 万人を超える心不全患者が存在する.そして,団塊の世代がすべて75 歳以上に達する2025 年には120 万人以上になると予想されており,患者数がピークとなる2035 年には130 万人程度にまで達する可能性がある3).“心不全はあらゆる心疾患の終末像”といわれるように,実に多様な病態が心不全を引き起こす原因となる.心不全の治療の基本は生活習慣の改善や薬物治療であるが,構造的心疾患(structureheart disease)に対するカテーテルインターベンションも近年では,心不全に対するあらたな治療選択肢として注目を集めている.本稿では,前半において2018 年にわが国で保険収載された僧帽弁閉鎖不全症(MR)に対する経皮的僧帽弁形成術デバイスであるMitraClip®(Abbott)について,そして後半では,今後の導入が期待される心房中隔シャントデバイス(CORVIA MEDICAL)と肺動脈圧モニタリングデバイスであるCardioMEMSTM(Abbott)について概説する. -
注目されているonco-cardiology―抗がん剤による心筋障害とがん患者・サバイバーの心不全管理
266巻13号(2018);View Description Hide Description高齢化,さらにはがんの治療の進歩に伴い,循環器疾患とがんとを合併する患者が増加してきている.また,アントラサイクリン系やトラスツズマブのみならず心筋障害を引き起こす抗がん剤もあり,循環器医にもいままではともすればあまり接触のなかったがんの分野の知識が求められるようになってきた.しっかりと循環器医の視点を保ちつつ,リスク評価,がん治療関連心筋障害(CTRCD)の早期発見,迅速な対応が求められている.患者視点に立脚すると,循環器とがんとどちらにも精通した医療が求められ,それこそが現在注目されている“onco-cardiology”という新しい学際領域であると考えている.循環器医と腫瘍医がたがいに協力しあう姿勢が大事である -
睡眠時無呼吸への介入は有効か―呼吸補助療法の適応
266巻13号(2018);View Description Hide Description心血管疾患には睡眠時無呼吸を高率に合併する.睡眠時無呼吸には閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と中枢性睡眠時無呼吸(CSA)の2 つのタイプがあり,OSA は生活習慣と深く関連しており,心血管疾患の危険因子として捉えられるべきものである.したがってOSA に対する呼吸補助療法である持続気道陽圧(CPAP)には心血管疾患の予防効果が期待されていたが,現時点で確固たるエビデンスは得られていない.この原因のひとつは試験全体としてのCPAP 使用時間の維持が困難であることがあげられ,1 日4 時間以上使用できた群に限ると心血管イベント抑制効果が得られたという報告が多い.一方,心不全に伴うCSA に対する呼吸補助療法としてはサーボ制御圧感知型人工呼吸器(ASV)が心不全,とくに左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)の予後を改善するものと期待されてきたが,こちらも大規模臨床試験はネガティブな結果に終わっている.ただしわが国では心不全に伴うASV は保険承認が得られており,ステートメントなどに則った適正使用が求められる. -
周産期心筋症と心疾患合併妊娠―周産期心筋症の治療と心疾患合併妊娠の注意点
266巻13号(2018);View Description Hide Description妊娠・出産を通じて,循環動態はダイナミックに変化する.なかでも,循環血漿量が非妊時の約1.5 倍に増加するため,器質的心疾患を持つ女性では,心不全合併の大きなリスクとなる.とくに,心機能低下や狭窄病変,肺高血圧症の症例では注意を要する.周産期心筋症とは,心疾患既往のない女性が妊娠から産後に心収縮能低下をきたし,急性心不全を発症する二次性心筋症のひとつである.日常臨床で遭遇する頻度は多くないが,母体死亡のおもな原因にあげられる重要疾患である.病因は未解明であるが,高齢,妊娠高血圧症候群,慢性高血圧症,多胎妊娠,子宮収縮抑制剤の使用などが危険因子として知られている.また周産期の心不全には好発時期があることも知られている.器質的心疾患では循環血漿量が増加する妊娠20~30 週に,周産期心筋症と虚血性心疾患では分娩~産後1 カ月に心不全診断のピークがある. - 望まれる心不全診療―これからの心不全診療に求められるもの
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あらたな心不全予防戦略―心不全の一次予防と二次予防
266巻13号(2018);View Description Hide Description心不全の治療はこの20 年ほどで大きな変遷を遂げた.過去禁忌とされてきたβ遮断薬にはじまり,アルドステロン拮抗薬などの薬物療法に加え,冠動脈ステントやCRT などのデバイスの進歩,さらには弁膜症に対するあらたな手術療法の発展などにより,われわれは心不全治療に対する多くの選択肢を手にするようになった.これらはいずれも心不全発症後の治療法(心不全二次予防)であるが,次のフォーカスは心不全を発症しないようにするための心不全一次予防ではなかろうか.そのためには,心不全の概念・病態を広く国民に啓発し,その多くが予防可能である点を周知させることがまずは必要となろう.また,高齢化に伴い,心臓疾患の最終病態である心不全が今後さらに増加することは明白な事実であることから,心不全の一次予防・二次予防を行うと同時に,医療経済的にも大きな問題である心不全再入院の予防へ向けた取り組みも必要となってくる.本稿では,2018 年3 月に改訂された日本循環器学会/日本心不全学会編『急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017 年改訂版)』においてあらたに追記された心不全予防の項を参考に,心不全予防に関する最近の知見について概説したい. -
心不全治療としての運動療法の有用性
266巻13号(2018);View Description Hide Description虚血性心疾患について徐々に確立してきた心臓リハビリテーションであるが,近年心不全を対象とするエビデンスも充実しつつある.しかし,詳細な方法論など,未解決の部分も多い.実際にめざすべきゴール,期待すべき心臓リハビリテーション(以下,心臓リハビリ)の効果についても症例ごとに異なり,方法論についても症例ごとの調整が望まれる.本稿では心臓リハビリのうちの運動療法に話を絞り,そのメカニズムや問題点に焦点をあてて詳述する. -
心不全患者を地域,自宅でどのように診ていくか
266巻13号(2018);View Description Hide Description超高齢化社会において,高齢心不全患者をどのように診ていくかは社会に突きつけられた課題である.高齢心不全患者ができるかぎり在宅で生活の質(QOL)を保ちながら暮らすためには,早い段階からの在宅管理,再入院の予防,急性増悪時の治療,生活環境や在宅での看取りを含めた包括的な医療の提供が必要となる.在宅で看取りまで行うには積極的な心不全治療を行いながら,個々の患者・家族が終末期をどのようにすごしたいかを共有し,治療を選択していく必要がある. -
終末期医療と緩和ケア―心不全患者に対する緩和ケアの現状と課題
266巻13号(2018);View Description Hide Description緩和ケアは,生命を脅かすすべての疾患に対して考慮すべきであると世界保健機関(WHO)で提唱されており,緩和ケアが必要とされる疾患のなかでも心不全の占める割合は大きい.心不全患者はしばしば全人的苦痛を抱えているため,患者・家族のquality of life(QOL)改善のためには,終末期に至る前からの多職種チームによるサポートが重要である.しかし,心不全は急性増悪による入退院を繰り返しながらも最期は急速に悪化するため,終末期の判断が困難であり,比較的早期の段階から,患者や家族と望む治療と生き方について医療者と共有し,事前に対話しながら計画するアドバンスケアプランニング(ACP)の普及が望まれる.また,心不全はがんとは異なり,症状緩和のために最期まで原疾患に対する治療が必要であり,多職種チームにより患者の身体的・心理的・精神的な要求を頻回にアセスメントしながら,QOL改善のための緩和ケアを行うことが推奨される. -
心不全と遠隔医療支援システム―OpiVol Fluid Index®,CardioMEMS™ などの在宅診療を補助するモニタリング
266巻13号(2018);View Description Hide Description心不全診療において,いかに心不全の再入院を予防するかが大きな課題であり,外来での継続的な管理,在宅診療が,これからの心不全診療に求められている.従来の日常診療や患者自身によるセルフモニタリングにはある一定の限界があり,情報通信技術(ICT)を用いたセルフケアサポートシステムや,デバイスを用いた遠隔モニタリングの診療が近年注目されている.そのなかでも,肺うっ血をモニタリングする胸郭インピーダンスによるOpiVol Fluid Index® と,肺動脈圧をモニタリングするCardioMEMSTMが,現在,最もエビデンスの構築されたデバイスである.それらを管理する心不全チームを中心とした受入れ体制の整備,そしてどのような質の高い介入ができるかが,心不全の再入院のみならず生命予後まで改善できるかのポイントである.また,左房圧や左室圧をモニタリング対象としたあらたなデバイスの開発もされており,スマートフォン(高機能携帯電話)が普及した現代社会のニーズに合う,期待される分野である. - 心不全のトピックス
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第3の心不全:HFmrEF―疾患概念とその治療法
266巻13号(2018);View Description Hide Description心不全において左室駆出率(LVEF)は予後に影響を与える重要な指標であることから,これまで心不全は大きく,①LVEF が低下している心不全(HFrEF)と,②LVEF が保持されている心不全(HFpEF),に分類されてきた.一方で以前から,これら2 つの分類の境界領域であるLVEF 40~49%のグループは疾患の特徴や治療に対する反応性という点で既存の2 つのグループとの違いが指摘されていた.これを踏まえ,2016 年にLVEF 40~49%のグループはLVEF が軽度低下した心不全(HFmrEF)としてあらたに分類された.HFmrEF はあらたな研究や治療対象として注目されているが,これまでの臨床研究ではHFpEF として扱われており,いまだに十分なデータがないことから,その臨床像は明らかではない.本稿では,現時点で判明しているエビデンスをもとに,あらたな心不全分類の狙いから,HFmrEF の疾患概念,特徴,診断と治療,予後について論じる. -
心不全におけるカヘキシアとサルコペニアの重要性―体組成に着目する
266巻13号(2018);View Description Hide Descriptionカヘキシアは体重減少を,サルコペニアは骨格筋減少を主徴とする病態であり,その病態機序は部分的に重複すると考えられている.カヘキシアとサルコペニアはそれぞれ心不全症例の5~15%,30~50%程度に合併するとされており,ともに心不全における独立した予後規定因子として近年注目を集めている.心不全では脂肪組織にさきだって骨格筋の喪失を認めることが多く,病期の進行とともに体重減少をきたすようになる.したがって,骨格筋や脂肪組織の喪失を防ぐことがこれらの病態の治療につながる.本稿では,カヘキシアとサルコペニアについて,最近提唱されてきた定義,心不全症例における疫学について述べる.さらに現在想定されている心不全における炎症を中心としたカヘキシアとサルコペニアの病態機序,臨床試験で検討されてきた運動療法,各種薬物治療,補充療法といった治療法について記載する. -
ビッグデータ解析の活用と展望―ビッグデータから何がわかるか
266巻13号(2018);View Description Hide Description循環器疾患は増加傾向にあり,いまだ予後不良な症候群である.観察研究や臨床研究から多くの知見が得られているが,個々の病態の差異に基づいた予後予測および最適化された治療はいまだ困難であり,あらたな研究手法としてビッグデータを用いた研究が注目されている.しかし,医療におけるビッグデータの活用は現時点では初期段階にあり,そのデータ収集や解析手法は確立されていない.著者らはこれまで慢性心不全患者を対象としたビッグデータを用いた研究として,予後予測モデルの作成,および予後因子についてのデータマイニングを行ってきた.これらは仮説に基づいた研究と異なり,データから網羅的な検討を行うため予想外の未知の知見が得られる可能性があり,このような研究が進むことで個々の違いに応じた医療の実施が可能となっていくことが期待される. -
iPS 細胞の心不全への応用―iPS 細胞を心不全の診断,治療にどのように活かすか
266巻13号(2018);View Description Hide Description人工多能性幹細胞(iPS 細胞)は患者体細胞から樹立可能な幹細胞であり,広く医療に応用されることが期待されている.患者から樹立されたiPS 細胞は,患者ゲノムの遺伝情報を有している自己の多能性幹細胞と考えられており,移植した際に免疫拒絶されることはないため,再生医療への応用に多くの期待が集められている.一方でiPS 細胞が患者の遺伝情報を受け継いでいることより,遺伝性疾患の病態解明や創薬に向けた研究も活発になされている.すなわち,心筋症などの遺伝子変異が原因の疾患を有する患者からiPS 細胞を樹立し,培養皿上で心筋細胞を分化誘導することにより,患者の生体内で起こる病的現象が培養皿上で再現できる可能性がある.この病気の表現型を呈する細胞を培養皿上で分子生物学的,細胞生物学的に解析することにより,病態解明研究や創薬研究が活発に行われており,本稿ではそれらを概説する. -
重症心不全に対する細胞シートを用いた心筋再生治療
266巻13号(2018);View Description Hide Description重症心不全治療としてもっとも重要な治療法である心臓移植は,きわめて深刻なドナー不足であり,新しい移植法案が可決されたものの,欧米レベルの汎用性の高い治療法としての普及は困難が予想される.一方,左室補助人工心臓(LVAD)については,日本では移植待機期間が長期であるため,感染症や脳血栓などの合併症が成績に大きく影響している.このような状況を克服するため,世界的に再生医療への期待が高まっているが,重症心不全を治癒させるまでに至らず,心臓移植やLVAD に代わる新しい治療開発が急務である.このような現状のなか,重症心不全においては細胞移植,組織移植,また再生医療的手法を用いた再生創薬の研究が進み,臨床応用化が進んでいる.本稿では,これまでの筋芽細胞シートのトランスレーショナルリサーチとともに,iPS 細胞由来心筋細胞シートを用いた心不全治療の試みに関して紹介し,心臓移植,人工心臓を含めた新しい治療体系の展望に関して概説する. -
心筋細胞分裂による心筋再生
266巻13号(2018);View Description Hide Description従来,成人の心筋細胞は強固なサルコメア蛋白に覆われており,分裂しないと考えられてきた.しかし低頻度ではあるものの,おもに既存の心筋細胞が分裂することにより心筋細胞が増殖していることが明らかとなり,あらたな心筋再生戦略として内因性の増殖能を制御・増幅することが注目されている.また,生直後のマウスは完全に心筋を再生できる増殖能を保持しており,この再生能には酸素環境,miRNA,非心筋細胞(心臓線維芽細胞,マクロファージなど),Hippo-YAP 経路といった細胞内外のさまざまな要素が関与していることも報告されている.これらを修飾することで成体のマウスでも心筋細胞の増殖が促進されうることが示されており,内因性の増殖能を制御・増幅することが重症心不全に対する補助的治療法として期待されている.本稿では,こうした最近の“心筋細胞の増殖能”に関する話題を紹介する. -
心筋細胞分化誘導における心臓再生―ダイレクトリプログラミングによる心筋細胞分化誘導
266巻13号(2018);View Description Hide Description治療抵抗性の難治性心不全患者の最終手段である心移植にはドナー数不足,拒絶反応などの問題が存在する.ES/iPS 細胞から誘導した心筋による再生医療が期待されているが,幹細胞混入による腫瘍形成の可能性,移植細胞の長期生着などの課題が存在する.これらを解決するあらたな再生医療として,“ダイレクトリプログラミング”が注目されている.これは心臓に内在する線維芽細胞への遺伝子導入により,心臓内で直接心筋細胞を誘導するというコンセプトの治療である.線維芽細胞などの非心筋細胞は心臓構成細胞の50%以上を占め,病態下ではさらに増殖する.ゆえに心臓線維芽細胞を生体内で直接心筋細胞に誘導できれば,心臓に元来数多く存在する線維芽細胞をセルソースとして活用できる.この手法には,幹細胞移植の抱える課題の克服,簡便な低侵襲的治療での心不全治療が実現できる可能性があり,世界中のグループにより臨床応用に向けた研究が行われている.
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