医学のあゆみ
Volume 267, Issue 7, 2018
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特集 DDS(ドラッグデリバリーシステム)UPDATE
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循環器疾患におけるDDS
267巻7号(2018);View Description Hide Description循環器疾患におけるドラッグデリバリーシステム(DDS)の代表例として薬剤溶出性ステントがあげられる.薬剤の放出を制御するポリマーを用いてシロリムスなどの免疫抑制剤やパクリタキセルを冠動脈局所に作用させることで,ステント治療後の再狭窄を抑制し,カテーテルによる血管内治療の成績を劇的に向上させることができた.さらにステントを使用せず,バルーンの表面にパクリタキセルを塗布した薬剤コーテッドバルーンも開発された.人工心肺などの補助循環装置においても共有結合法やイオン結合法を用いたヘパリンコーティングが施されており,回路表面の生体適合性を向上させている.このような医療機器におけるDDS は広く臨床応用されているが,循環器領域の薬剤でのDDS 応用例はいまだ少なく,今後の研究開発が期待される. -
がん領域におけるDDS
267巻7号(2018);View Description Hide Description現時点でもがんの多くは,“生存期間の延長”“QOL の改善・維持”を目的にがん薬物療法がなされている.ここで使用されるいわゆる抗がん剤はtherapeutic window が狭く,そのため薬物有害反応により患者QOL を損なうことが多く,投与量の制限につながっている.そこで,EPR 効果を応用した優れたドラッグデリバリーシステム(DDS)技術により,抗がん薬をより選択的にがん罹患部に到達させることで治療効果を高め,かつ有害反応の軽減をはかることを目的に,がんDDS 製剤の開発が進んできた.これまで,従来の抗がん剤をリポソームに内包したDoxil®(アドリアマイシン内包リポソーム),Vyxeos®(シタラビン+ダウノルビシン内包リポソーム)およびOnyvide®(イリノテカン内包リポソーム)は,それぞれKaposi 肉腫・卵巣がん,急性骨髄性白血病および膵がんに使用されており,またアルブミンを付加することにより抗がん薬を送達するナノ粒子デリバリーによる製剤として,abraxane®(アルブミン付加パクリタキセル)は乳がん・肺がん・胃がん・膵がんに使用されている.また国内で開発されたNK105(パクリタキセル内包高分子ポリマーミセル)は現在,国内でランダム化比較試験が行われているところである. -
感染症領域におけるDDS
267巻7号(2018);View Description Hide Description感染症領域ではカルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)や基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌,市中感染型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(CA-MRSA)などあらたな薬剤耐性菌の出現が問題となっている.一方で,新規抗菌薬の開発は停滞しているため,既存の抗菌薬を有効に活用が必要となる.既存の抗菌薬の有効活用のためには薬物動態・薬力学(PK/PD)理論などを用いた抗菌薬の適正使用が重要であるが,有害事象の問題から十分な量を投与できないことが多い.そのため感染症領域では,有害事象の軽減,薬物動態改善,服薬アドヒアランス向上などを目的として,DDS 技術が応用されている.抗菌薬を含めた抗微生物薬に応用されたDDS 技術としてはリポソーム化製剤,マイクロスフェア製剤,吸入製剤があり,感染症の診療で用いられている. -
抗体薬物複合体(ADC)
267巻7号(2018);View Description Hide Description従来型Naked 抗体に加え,抗体薬物複合体(ADC),bispecific antibody などの次世代型抗体医薬の開発も盛んになってきている.ADC の場合,抗体は高分子としてEPR 効果により腫瘍選択的に集積することができる.さらに,抗体の持つ抗原抗体反応によるactive targeting で,がん組織・がん細胞に特異的に作用させることができる.抗体と薬剤をつなぐリンカーは,血中では安定で,がん組織・がん細胞内で薬剤を効率的に放出することができる.このように,高分子キャリアとしての特性を持つ抗体とcontrolled release 能を持つリンカー・薬剤の組合せは,理想的なドラッグデリバリーシステム(DDS)製剤といえる.そこで重要になるのが,抗体デリバリーとcontrolled release の評価である.本稿では,著者らが行っているDDS テクノロジーと分子イメージングを駆使したADC の研究開発について紹介する. -
放出制御DDS の開発─長期徐放性製剤から遺伝子導入細胞製剤まで
267巻7号(2018);View Description Hide Descriptionドラッグデリバリーシステム(DDS)のなかで最も実用化されているのは放出制御DDS である.放出制御の目的は,薬理効果の持続と増強,副作用の低減,利便性の向上である.必要な薬物量を,必要なときに,できるだけ必要な場所で放出する製剤である.これまでに最も使用されているのは,1 日1 回投与の徐放性経口投与製剤である.そして,つねに一定量を同じ速度で長時間放出するもの,1 時間おきに,あるいは必要なときにシャープな薬物血中濃度のピークを与える放出が必要である.また,サーカディアンリズムによって症状が最も悪化するときに薬物を多く放出できる時間治療薬や,バイオセンサーの生体シグナルに応答してプログラムされた放出ができるデバイスが開発されている.本稿では,とくに長期徐放性製剤,刺激応答性製剤,究極の放出制御DDS である遺伝子で活性物質(薬物)を産生し,薬物を補充することなく放出できる遺伝子導入細胞製剤などについて紹介する. -
薬物動態学を基盤としたDDS の開発─DNA ナノ構造体およびエクソソームを基盤とするDDS
267巻7号(2018);View Description Hide Description薬物の体内動態は,身体を構成する細胞などと薬物との相互作用によって決まる.ドラッグデリバリーシステム(DDS)は,この相互作用の制御を通じて薬物の体内動態を最適化することを目的に適用されるものであり,適切なDDS を開発することで薬物ターゲティングによる有効性の向上や副作用の軽減が達成される.全身投与後の標的部位へのターゲティング効率は,全身からの消失のパラメータである全身クリアランスと,標的部位による取込み(移行)クリアランスの比で表される.したがって,標的部位による取込みクリアランスを増大する,あるいは標的以外へのクリアランスを減少させることで,標的への薬物ターゲティング効率を改善することが可能である.本稿では,ターゲティング型DDS を開発するうえで必要となる薬物動態学的理論基盤を整理するとともに,著者らが開発に取り組むDNA ナノ構造体およびエクソソームを基盤とするDDS について,薬物動態学的考察を中心に紹介する.
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連載
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- 地域包括ケアシステムは機能するか 5
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地域包括ケアシステムの深化としての地域共生社会の実現に向けて
267巻7号(2018);View Description Hide Description地域包括ケアシステムの深化としての,「我が事」「丸ごと」の地域共生社会の実現が謳われているが,「我が事」と「丸ごと」の地域共生社会を実現する方法を明らかにする.「丸ごと」の地域共生社会の実現のためには,相談,サービス,地域づくりにおいて世代横断的な仕組みとその対応の重要性を指摘し,最終的には住民のニーズに合わせた全住民を対象とする介護保険制度が「丸ごと」地域共生社会の完成版であるとした.一方,「我が事」地域共生社会の実現については,住民が地域の課題を「我が事」にするためには,会議によって地域の課題に直面できるようPDCA サイクルを活用し,支援していくことの必要性を指摘した.また「我が事」の担い手は多様な住民があらたな役割や居場所を得られるようにすることで,「我が事」の人材を確保することの必要性を指摘した.さらには,「我が事」地域共生社会の実現には専門職が不可欠であり,同時に公助による安心した社会を基盤に可能となることを明らかにした. - NEW 医学・医療におけるシミュレータの進歩と普及 1
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- 医学・医療におけるシミュレータの進歩と普及 2
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グローバルスタンダードにみるシミュレーション医学教育のあり方
267巻7号(2018);View Description Hide Description◎国際基準に基づいて医学部の教育プログラムを評価し,医学教育の質を保証することが国際的に求められている.医学部教育では,質保証の観点から,診療参加型臨床実習の充実が重視される.診療参加型臨床実習を安全かつ効果的に実施するには,臨床実習開始前に,学生がシミュレーション教育で十分なトレーニングを受けておくことが望まれる.
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TOPICS
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- 耳鼻咽喉科学
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- 生化学・分子生物学
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- 脳神経外科学
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FORUM
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- がん教育の現状と課題 6
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- 医療社会学の冒険 7
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