医学のあゆみ
Volume 267, Issue 9, 2018
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【12月第1土曜特集】 自己炎症性疾患─病態解明から診療体制の確立まで
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- 診療基盤の確立
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自己炎症性疾患の原因遺伝子の同定の歴史
267巻9号(2018);View Description Hide Description1999 年にKastner が,自己抗体の産生や抗原特異的なT 細胞の活性化を伴わない炎症性病態を自己炎症性疾患として定義した.その後,数多くの家族性の自己炎症性疾患について原因遺伝子が解明され,多くの場合自然免疫系の異常が疾患発症に寄与していることが明らかとなった.本稿では原因遺伝子の報告がなされた年を基準にして,原因遺伝子が見つかった背景を記述する.これまでに多くの自己炎症性疾患について原因となる遺伝子異常が解明されてきているが,いまだ自己炎症性様の病態を示すにもかかわらず原因遺伝子が確定されていない疾患や,複数の遺伝子異常が関係している自己炎症性疾患が存在しており,全容の解明が待たれる. -
わが国における自己炎症性疾患の歴史
267巻9号(2018);View Description Hide Description自己炎症性疾患の概念は1999 年に提唱されたが,わが国では2010 年代から徐々に浸透してきた.その役割を担ってきたのは,わが国の臨床家の症例報告や研究会活動と,2009 年からの厚生労働省主導の疫学調査である.2017 年に設立された日本免疫不全・自己炎症学会(JSIAD)の今後の活動で,さらなる発展が望まれる.2015 年から小児や成人の指定難病の疾患数が増え,自己炎症性疾患も含まれるようになってきていることは,自己炎症性疾患患者への福音である.わが国において自己炎症性疾患の治療薬の適応はなかったが,学会や製薬会社の努力によって,現在抗インターロイキン(IL)-1 製剤のカナキヌマブとコルヒチンが正式に承認され,使用されている.これまで,自己炎症性疾患の患者の研究から多くの生命現象が解明されてきた.インフラマソーム活性化のメカニズム,NLRP3 モザイシズム,ヒスタミン非依存性蕁麻疹,免疫プロテアソームの機能などが解明され,さらにiPS 細胞を使用した病態解析が進んでいる. -
自己炎症性疾患の病態分類
267巻9号(2018);View Description Hide Description自己炎症性疾患は,1999 年にその概念が提唱された比較的歴史の浅い炎症性症候群である.病原体成分や組織ダメージにより産生・放出される物質に共通する“分子パターン”を認識して炎症を惹起する“自然免疫系”の活性化を基本病態とする疾患が多く,自己抗原に対する“獲得免疫系”の活性化を基本病態とする膠原病と対比されることが多い.しかし,さまざまな疾患の病態理解が進むにつれ,両者に共通する経路の異常を原因として明確に区別できない炎症病態が存在することが明らかとなっている.多様化する“自己炎症性疾患”の理解を深める目的で,代表的な遺伝性自己炎症性疾患をその炎症惹起機構に基づいて分類し,全体像を俯瞰してみたい. -
自己炎症性疾患の遺伝子検査体制
267巻9号(2018);View Description Hide Description自己炎症性疾患の多くは,臨床情報からだけでは発症原因を特定することがかならずしも容易ではない.そのため,発症が遺伝的な素因によるものかどうかを明らかにすることは,確実な診断と治療法の選択のための重要な第一歩である.これまで自己炎症性疾患の遺伝子検査は,ほかの希少難病と同様に臨床研究として進められてきていたが,平成28 年(2016)度に遺伝子検査が保険収載されたことを受け,“研究”としてではなく診断目的の“検査”として実施する体制が構築されつつある.そのうえで“検査”で発症原因の特定ができなかった症例については,より広範な遺伝子変異の探索と分子レベルでの臨床情報を取得・統合することで,より高い成功率で確定診断を実現するための試みが“研究”として続けられている.本稿では,保険検査として受けることができる自己炎症性疾患の実施体制を紹介したうえで,その結果を臨床的に活用するための現在の限界と,今後の展開について解説する. -
iPS 細胞を用いた病態解析
267巻9号(2018);View Description Hide Description人工多能性幹細胞(iPS 細胞)は多能性幹細胞の一種であり,特徴として体細胞より誘導できるという点がある.したがって,遺伝性の疾患を持つ患者から血球や皮膚線維芽細胞などの体細胞を採取し,これらからiPS 細胞を樹立し分化誘導すると,患者の遺伝的背景を共有したさまざまな体細胞を得ることができる.自己炎症性疾患は遺伝性疾患が多く,樹立したiPS 細胞に遺伝子異常が反映されることや,おもな責任細胞である自然免疫担当細胞,とくに好中球や単球系細胞のiPS 細胞からの分化系が確立されていることなどから,iPS 細胞を用いた解析に適した疾患群である.本稿では自己炎症性疾患のうち,おもに慢性乳児神経皮膚関節(CINCA)症候群および中條-西村症候群(NNS)の病態解析に関する研究を報告し,将来展望について考察する. -
自己炎症性疾患の治療の現状─診療ガイドライン解説
267巻9号(2018);View Description Hide Description近年,自己炎症性疾患の原因遺伝子の発見,病態解明,新規治療法の開発とともに疾患認知が深まり,周期性発熱・不明熱や原因不明の慢性炎症疾患として診療されてきた患者のなかから多くの患者が発見されるようになり,診療ガイドラインの整備が強く求められていた.2017 年に,厚生労働省難治性疾患克服研究事業の研究班により『自己炎症性疾患診療ガイドライン2017』が上梓された.抗インターロイキン(IL)-1βモノクローナル抗体であるカナキヌマブが,2011 年にクリオピリン関連周期熱症候群(CAPS)に,2016 年に既存治療で効果不十分な家族性地中海熱(FMF),TNF 受容体関連周期性症候群(TRAPS),メバロン酸キナーゼ欠損症(高IgD 症候群:HIDS/MKD)に対して適応承認となったことで,自己炎症性疾患の治療の新時代の扉が開かれ,予後の改善が望めるようになった.本稿では同ガイドラインより,疾患ごとの治療の要点について解説する. - 病態解明・治療法確立にむけての新展開
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パイリンインフラマソームと自己炎症性疾患
267巻9号(2018);View Description Hide Descriptionインフラマソームは病原体由来の菌体成分やストレス分子によって活性化され,炎症性サイトカインであるインターロイキン(IL)-1βの産生を誘導する.MEFV 遺伝子がコードするパイリンの役割は不明であったが,細菌由来のトキシンなどによりRhoA ファミリーのGTPase が阻害され,パイリンインフラマソームが活性化されることが示されている.このパイリンインフラマソームの活性化には,RhoA を介したパイリンのセリン残基のリン酸化と,リン酸化セリンを認識する制御蛋白である14-3-3 蛋白と,パイリンの結合によるインフラマソームの制御システムの破綻が関連している.これらの知見を裏づける遺伝性自己炎症疾患の存在も明らかになっている.遺伝性自己炎症疾患であるPyrin-associated autoinflammationwith neutrophilic dermatosis(PAAND)は,MEFV 遺伝子のエクソン2 の領域に該当するセリン残基からなるアミノ配列の変異によりパイリンと14-3-3 蛋白との会合が障害され,パイリンインフラマソームの活性化が生じ,炎症が諾起される.メバロン酸キナーゼ欠損症(MKD)においては,ゲラニルゲニルピロリン酸の欠乏により,RhoA キナーゼの活性が低下することにより,パイリンインフラマソームの活性化が生じると考えられている.このように,パイリンインフラマソームの関連するあらたな疾患・病態が明らかにされている. -
NLRC4 インフラマソーム
267巻9号(2018);View Description Hide DescriptionNLRC4 はNLR ファミリーのひとつであり,NAIP とASC とともにインフラマソーム複合体を形成する.NLRC4 インフラマソームは,細菌のflagellin やT3SS 構成成分によって活性化し,インターロイキン(IL)-1βやIL-18 を産生する.NLRC4 異常症は,NLRC4 をコードするNLRC4 遺伝子の機能獲得変異によって発症する自己炎症性疾患である.変異型NLRC4 は,病原体刺激にかかわらずつねに活性化しているため,恒常的にIL-1βとIL-18 が産生される.その結果,乳児期から継続する周期熱,紅斑または寒冷蕁麻疹様皮疹,関節痛,乳児期発症腸炎,脾腫・血球減少・凝固障害といったマクロファージ活性化症候群(MAS)様兆候など,多彩な症状を呈する.現時点で確立された治療法はないが,患者の臨床症状に合わせてステロイド,免疫抑制剤,生物学的製剤による治療が行われる. -
プロテアソーム関連自己炎症性症候群―中條-西村症候群と関連疾患
267巻9号(2018);View Description Hide Description中條-西村症候群(NNS)は,わが国において1930 年代から断続的にさまざまな名称で報告されてきた疾患であるが,長く病態不明であった.2010 年に海外からJMP 症候群とCANDLE 症候群が報告され,さらにNNS とともにいずれもPSMB8(proteasome subunit β-type 8)遺伝子変異による免疫プロテアソーム機能不全がその原因であることが明らかとなった.乳幼児期発症の周期性発熱,皮疹,筋炎などの炎症とともに,進行性のやせ,萎縮,拘縮などの消耗をきたす特異な自己炎症性疾患と考えられ,3 疾患合わせてプロテアソーム関連自己炎症性症候群(PRAASs)とよばれる.病態としても,Ⅰ型IFN 応答シグナル亢進,すなわちⅠ型IFN 異常症を示し,全身性自己免疫疾患との間に位置する自己炎症性疾患として注目されるが,その全貌は明らかではない.最近,PSMB8 以外のプロテアソーム関連遺伝子の変異によるPRAASs や,PRAASs とは異なる病像を示すPRAASs 関連疾患も報告されている. -
核酸シグナル異常によるⅠ型インターフェロン症
267巻9号(2018);View Description Hide Descriptionインターフェロン(IFN)がウイルス感染抑制効果を持つことは,1950 年代から知られていた.1970 年代から,過剰なIFN の生体への毒性や胎内感染におけるIFN の病態との関与も実験的に知られていた.1984 年にAicardi とGoutières によって,進行性の神経病変をもつ5 家系8 名の乳児が報告された(Aicardi-Goutières 症候群:AGS).その後,それらの病態がIFN により生じることが解明され,AGS と胎内感染の病態の類似性,および臨床像の類似性が知られることとなった.2006 年以降,AGS の原因となる遺伝子変異が発見され,核酸シグナルの異常であることが解明された.Ⅰ型IFN の過剰産生が病態の中心となる単一遺伝子病が次々に発見され,2011 年にYanick によってⅠ型インターフェロン症という疾患概念が提唱された.昨今もⅠ型インターフェロン症に分類される疾患がみつかっており,その疾患概念は拡大している.さらに,病態研究からあらたな核酸シグナルに関する知見が見出され,治療への展開も進んでおり,科学的発展がめざましい分野である.Ⅰ型IFN が病態の中心となる全身性エリテマトーデス(SLE)との臨床像の関連もあり,SLE などの疾患理解への手助けにもなると考えられる.本稿では,Ⅰ型インターフェロン症の核酸シグナルを中心とした病態をおもに解説する. -
LUBAC・ユビキチン関連異常症
267巻9号(2018);View Description Hide Description腫瘍壊死因子(TNF)-αやインターロイキン-1(I L-1)β,Toll 様受容体(TLR)をはじめとするリガンド刺激によって駆動される自然免疫系の炎症応答により,転写因子NF-κB の活性化が惹起されるが,それに至る細胞内シグナル伝達の過程で担当分子はユビキチン化とよばれる翻訳後修飾を受け制御されている.この経路上でユビキチン化と関連する分子には,直鎖状ユビキチンを生成する高分子複合体LUBACや,OTULIN あるいはA20 といった脱ユビキチン化酵素群が知られているが,近年これらの分子をコードする遺伝的異常により自己炎症性疾患を発症しうることが,あいついで明らかにされた.本稿では,このカテゴリーに属する4 疾患について概説する. -
Blau 症候群
267巻9号(2018);View Description Hide DescriptionBlau 症候群は,NOD2 遺伝子の変異により,皮膚,関節,眼に肉芽腫をきたす疾患である.優性遺伝により家族性発症する症例をBlau 症候群,孤発例は若年発症サルコイドーシス(EOS)とよばれてきたが,本質的には同一疾患である.自然免疫に関与する分子の異常により発症する狭義の自己炎症性疾患に分類される.初発症状である皮疹は自覚症状を伴わず見逃されてしまうことが多いが,他臓器病変に比べて生検がしやすく,肉芽腫の確認により診断の契機になる.治療介入が遅れると関節拘縮や失明をきたすため,患者のquality of life(QOL)を著しく損なう.現時点では,病因に基づいた特異的な治療法は確立しておらず対症療法にとどまるが,早期の治療介入ができれば患者の予後の改善が可能になるため,さらなる疾患の啓蒙が望まれる. -
アデノシンデアミナーゼ-2(ADA2)欠損症
267巻9号(2018);View Description Hide DescriptionADA2(アデノシンデアミナーゼ2)欠損症はCECR1(cat eye syndrome chromosome region 1)遺伝子の機能喪失型変異によって発症する自己炎症性疾患であり,2014 年にはじめて報告された1,2).当初は,若年発症の脳梗塞や結節性多発動脈炎類似の症状を呈する患者において,全エクソーム解析により責任遺伝子が同定され,ひとつの疾患として確立された.その後,免疫不全や造血障害といった多彩な臨床像を呈することがわかってきた.これまでに世界で150 例ほどが報告されており3),日本においても数例存在することが確認されている4()「サイドメモ」参照).本稿では ADA2 欠損症の病態,治療法,疑うべきポイントや治療法などについて最新の知見を紹介する. -
全身型若年性特発性関節炎の病態と治療
267巻9号(2018);View Description Hide Description全身型若年性特発性関節炎(s-JIA)は,自然免疫の異常を背景とし,全身性の炎症を繰り返す自己炎症性疾患と考えられている.その病態には細胞傷害性T リンパ球やマクロファージの異常活性化と炎症性サイトカインの過剰産生,そしてマクロファージ活性化制御不全が関与している.マクロファージ活性化症候群(MAS)の病態には,家族性血球貪食性リンパ組織球症の原因遺伝子の異常やインターロイキン(IL)-18 の過剰産生に続発するNK 細胞の機能障害が関与している.また慢性関節炎の病態には,γδT 細胞により産生されるIL-17 が関与している.サイトカインプロファイルにより有効な治療法の選択が可能となるか,また,インターフェロン(IFN)-γ・IL-18 を標的としたMAS に対する新規治療法の確立など,今後のさらなる研究の進展が期待される. -
PFAPA 症候群―成人発症例を含めての総説
267巻9号(2018);View Description Hide DescriptionPFAPA 症候群は周期性発熱,アフタ性口内炎,咽頭炎,頸部リンパ節炎を主症状とし,おもに5 歳以下の乳幼児期に発症し,8 歳ごろまでに自然治癒する,予後が良好な頻度の高い非遺伝性の自己炎症性疾患である.1987 年にMarshall らによってはじめて報告され1),1999 年にThomas らによって診断基準が確立されたが2),病因・病態はいまだ不明な部分が多い.通常3~8 週間の間隔を置いて,3~6 日間まで上記の症状が出現し,シメチジンの連日内服で一定の予防効果が得られるが3,4),発熱時にはプレドニゾロンの頓用使用が著効する4-6).扁桃摘出術を施行するとほぼ完治するが7-9),元来予後が良好で自然治癒する疾患であり,成長・発達障害も起こさないため,一定の侵襲性のある扁桃摘出術の適応と施行時期は慎重に考える必要がある.最近では扁桃摘出術後に数年経過した後の再発例や10),成人発症の例も報告されている11). -
Behçet 病の免疫病態―自己炎症とMHC-I-opathy
267巻9号(2018);View Description Hide DescriptionBehçet 病は原因不明の炎症性疾患である.患者はかつてのシルクロード沿いに集積し,HLA-B*51 をはじめとした遺伝素因の重要性が認識されてきたが,移民における疫学研究は環境因子の重要性も支持している.近年の遺伝子解析でHLA 以外にも免疫機能分子関連の疾患感受性遺伝子が次々と同定され,獲得免疫系と自然免疫系の双方が病態形成に関わると想定される.その一方でA20 ハプロタイプ欠損という単一遺伝子の異常による家族内発症も報告され,病態のエフェクター相は自然免疫系に担われることが示唆された.さらに,HLA-クラスⅠとERAP-1 がエピスターシスを示すという共通性から,強直性脊椎炎や乾癬とともに“MHC-I-opathy”という概念も提唱されている.このように病態解明は進んできたが,多様な病型に対応する疾患感受性遺伝子の異同や病態解析に基づく新規治療の開発は今後の課題である.
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