医学のあゆみ

これまで原因が明らかでなかった良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん（BAFME）について遺伝学的解析を行い，わが国においてはほとんどの家系においてSAMD12 のイントロン4 にTTTCA およびTTTTAリピート伸長変異が存在することを明らかにした．リピート伸長の長さはてんかんの発症年齢と逆相関した．患者剖検脳においてはTTTCA から転写されたUUUCA リピートからなるRNA 凝集体（RNA foci）が検出された．2 家系においては，SAMD12 にリピート伸長変異を認めなかったが，それぞれTNRC6A とRAPGEF2のイントロンにやはりTTTCA およびTTTTA リピート伸長変異を見出した．健常人においては，まれにTTTTA リピート伸長変異を認めるものの，TTTCA リピート伸長変異が見出されなかった．3 遺伝子のイントロンに存在する同様のリピート伸長変異が同様の臨床病型を引き起こすことから，これらの遺伝子の機能そのものというより，TTTCA リピート伸長変異そのものがRNA を介して病態に関与しているという，てんかんにおけるあらたな病態機序を提唱した．

Fuchs 角膜内皮変性症（FECD）は，滴状角膜（Guttae）というデスメ膜の隆起を特徴とする，両眼性に緩徐に角膜内皮細胞が減少し，最終的には角膜浮腫・水疱性角膜症による視力低下・疼痛を引き起こす疾患である．現在，世界の角膜移植の約4 割を占める重要な疾患でもある．近年，18 番染色体上のTCF4 遺伝子のイントロン3 にあるCTG リピート伸長が疾患の約8 割にみられるとの報告があり，疾患の重要な変異として注目されはじめている．また，リピート伸長のみられる疾患細胞において，RNA 凝集およびRAN 翻訳の存在が報告されてきており，とくにRNA 凝集を治療ターゲットとしたantisense oligonucleotide 治療を中心に，今後の新規治療の研究の展開が期待されるところである．

筋萎縮性側索硬化症（ALS）および前頭側頭型認知症（FTD）のあらたな原因遺伝子変異として，C9orf72 遺伝子の非翻訳領域内に存在するGGGGCC リピート配列の異常伸長が発見された（C9－ALS／FTD）．このC9－ALS／FTD を含めて，遺伝子非翻訳領域内のリピート配列の異常伸長により発症する一群の疾患はノンコーディングリピート病と総称されている．ノンコーディングリピート病の病態メカニズムとして，①ハプロ不全，②リピートRNA 毒性，および③リピートRNA から非古典的な翻訳（RAN 翻訳）によって産生されるペプチド毒性，の3 つが提唱されている．本稿ではそれぞれの病態メカニズムについて概説し，RAN 翻訳のメカニズムについての最新の知見を紹介する．

トリプレットリピート病とは，ヒトゲノム内に存在する3 塩基の繰返し配列（トリプレットリピート）が異常伸長することに起因する遺伝性の神経疾患群のことである．トリプレットリピート病は，ゲノム上のリピートの挿入位置によって，原因遺伝子産物の蛋白質欠失による機能喪失，リピート由来のポリペプチド鎖を含んだ蛋白質の毒性，あるいはトリプレットリピートが異常伸長したRNA 由来のRNA 毒性がそれぞれの発症病態の中心にあると考えられてきた．しかし最近，トリプレットリピート病において，従来の翻訳開始点AUG 配列によらず，トリプレットリピートを起点とする翻訳機構（RAN 翻訳）が発見された．さらに，RAN翻訳由来の異常蛋白質が発症病態に重要な役割を果たす可能性が見出され，トリプレットリピート病の疾患概念がさらに拡張されようとしている．本稿では，最初にトリプレットリピート病の概要を説明し，次にトリプレットリピート病におけるこれまでの病態仮説とRAN 翻訳の関与について解説し，最後に今後の展望を述べる．

筋強直性ジストロフィー（DM）は，骨格筋のみならず，心筋，平滑筋，脳，眼，内分泌器官などさまざまな臓器を侵す全身性疾患である．遺伝子上のCTG あるいはCCTG といった繰返し配列の異常伸長が原因のリピート病であり，これらが転写された伸長CUG・CCUG リピートを持つ異常RNA の毒性により，選択的スプライシング制御因子が障害される．この結果，広範なスプライシング異常が引き起こされ，多彩な全身症状につながるとされている．これまでDM の根本的治療法はなかったが，その病態にRNA 毒性が深く関わることが判明して以降，DM の治療戦略として，異常RNA を核酸医薬により分解する方法や，スプライシング制御因子の障害を低分子化合物により阻止する方法，異常伸長リピートの長さを制御する方法が試みられている．

脊髄小脳変性症（SCD）は，小脳とそれが関連する神経系統の障害を起こし，体幹のバランス障害や手足の運動障害，呂律の障害（構音障害）などを呈する疾患の総称である．遺伝性，とくに常染色体優性遺伝性のSCD は，多数の原因遺伝子が知られるようになり，とくに古典的には遺伝子の非翻訳領域（UTR）であるイントロンや5′または3′のUTR に位置するリピート配列の伸長によって起こる疾患が，近年ではあいついで解明されている．また逆に，UTR に存在するリピート伸長によって起こる疾患のなかでは，SCD が多数種類を占めていることも興味深い事実である．本稿では，その病態と最新の治療戦略について概説する．

世界に例をみない超高齢社会を迎えつつある日本において，団塊世代が後期高齢期に入る2025 年に向けて，刻々と時間が経過している．日本における超高齢社会のケアシステムのあり方は，高齢期においてもできるかぎり自立が維持でき，弱っても安心してすごせるような地域社会を実現することである．本稿では，そのような方向をめざすものとしての地域包括ケアがどのような経過で政策として展開されてきたのか，その理念がどのように深化しているのかを述べる．そして，そのような経過を踏まえつつ，都市部における地域包括ケアシステムのモデル化をめざし，千葉県柏市で取り組まれている柏プロジェクトの実践を通して，当面の地域包括ケア政策の諸課題を述べるとともに，地域包括ケアの実現が可能であり，いまが正念場であることを訴える．

◎国際医療福祉大学医学部は，平成29 年（2017）4 月に1 期生を迎えた．留学生20 名を含む医学生140 名は，先進的なカリキュラムを英語で行っているが，1 年次から積極的にシミュレーション教育を導入している．入学時BLS トレーニング，薬理学における高機能患者シミュレータを用いた薬物投与とバイタルサインの学習，解剖発生学における婦人科モデル・高機能分娩シミュレータを用いた学習，模擬患者との医療面接，循環器，呼吸器，消化器などの器官別授業（フィジカルアセスメント・聴診シミュレータ・超音波を用いた学習）を1 年余で実践した．大人数の学生を対象としたシミュレーション教育には，十分なスペースと機能を備えたシミュレーション施設の設置や担当教員の確保など多くの調整を要した．この新しい教育には，知識としての学びにシミュレーションで視診，聴診，触診を重ねることで，早期から医療安全や患者中心の医療の意識を植え付ける目的がある．

医療機関や介護保険施設では，嚥下困難者が食物や飲料を摂取する際，誤嚥を防止するために嚥下補助食品であるとろみ調整用食品（とろみ剤）が汎用されている．食物や飲料の摂取時に加え，とろみ剤は，嚥下困難患者が医薬品を内服する際にも使用されている．これまでの研究によって，とろみ剤が錠剤の崩壊性に影響を及ぼすことが明らかにされているが1,2），その検討は十分であるとはいいがたい．　本研究では，嚥下補助製品であるとろみ剤および服薬ゼリー製品が錠剤の崩壊性に及ぼす影響を検討した．

本シリーズでは，医療者であり，建築学を経て病院建築のしくみつくりを研究する著者が，病院建築に携わる建築家へのインタビューを通じて，医療者と病院建築のかかわりについて考察していきます．