医学のあゆみ
Volume 267, Issue 13, 2018
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【12月第5土曜特集】 蛋白質代謝医学─構造・機能の研究から臨床応用まで
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- 蛋白質の一生(揺籠から墓場まで)
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【合成(誕生)】 クロマチンによるエピジェネティックな転写制御
267巻13号(2018);View Description Hide Description蛋白質は生物を構築する主要な構成成分であり,そのアミノ酸配列情報はゲノムDNA に遺伝子としてコードされている.ヒトでは,2 万数千種の遺伝子がゲノムDNA の1~3%程度を占めている.蛋白質産生の第一歩は,RNA ポリメラーゼによる転写によってmRNA として遺伝子が読み取られるステップである.真核生物ではゲノムDNA はクロマチンとして高度に折り畳まれており,遺伝子の転写を強く阻害している.近年,このクロマチンによる転写の抑制が遺伝子発現の多様な調節を可能にしており,細胞の分化などさまざまな高次生命現象の根幹を担う“エピジェネティクス”の本体であるということが明らかになってきた. -
【合成(誕生)】 エピジェネティクスと蛋白質生合成の制御
267巻13号(2018);View Description Hide Descriptionエピジェネティクスの根幹は,DNA やヒストン蛋白質の化学修飾を介した遺伝子ごとの転写制御にある.しかし近年,エピジェネティクスが転写制御以外の作用点を持ち,蛋白質の運命を左右する事例の報告があいついでいる.本稿ではエピジェネティクス制御の機構として,DNA メチル化やヒストン修飾と,選択的スプライシング,リボソームRNA 生合成,アミノ酸代謝などとの関わりを取り上げ解説する. -
【合成(誕生)】 翻訳システム
267巻13号(2018);View Description Hide Description遺伝子が発現する際,メッセンジャーRNA(mRNA)の塩基配列にコードされた遺伝情報はリボソーム上で解読されてアミノ酸配列に翻訳され,蛋白質が合成される.翻訳は,①開始,②伸長,③終結,④リボソーム再生,の4 つの段階からなる.各段階で,蛋白質合成装置であるリボソーム,鋳型となるmRNAおよび各段階に特異的な翻訳因子からなる複合体が,その構成や構造をダイナミックに変動させながら蛋白質を合成する.この4 つの段階はあらゆる生物で共通であり,蛋白質への翻訳反応の根幹をなすものであるが,一方で生物種により大きく相違する点も存在する.本稿では,これまで明らかにされた翻訳による蛋白質合成反応の機構について原核生物,真核生物,オルガネラ(ミトコンドリア)におけるユニークな特徴と,医学への応用について紹介する. -
【合成(誕生)】 リボソーム機能欠損と生合成エラーによる疾患発症メカニズム―遺伝子発現の中心装置としてのリボソームの新規機能
267巻13号(2018);View Description Hide Description遺伝暗号をアミノ酸配列に変換するリボソームは,遺伝子発現の根幹装置として生存に必須な役割を果たす.異常なリボソーム産生に起因するリボソーム病は,すべての遺伝子発現に普遍的な機能を持つリボソームの異常により特定の組織や器官のみで症状が現れる.その機構はいまだに解明されていない.最近,リボソームプロファイリングをはじめとする新規手法の開発により,分子機構の理解が急速に進んでいる.また,組織や発生時期特異的なリボソームの存在とその特異的機能も明らかになりつつあり,“特殊化リボソーム”という概念も確立しつつある.さらに,リボソームが遺伝子発現のさまざまな段階で重要な役割を果たすことが明確になっている.とくに翻訳伸長の停滞を解消する品質管理機構において,リボソームの特異的修飾を介した異常蛋白質分解の分子機構の解明が急速に進んでいる.本稿では,リボソームの生合成過程から遺伝子発現における新規機能までを概説し,リボソーム異常による疾患とその発症機構に関する知見を紹介する. -
【合成(誕生)】 新生鎖の生物学―翻訳途上の新生ポリペプチド鎖が積極的に関与する生命現象
267巻13号(2018);View Description Hide Description数千から数万種に及ぶ細胞内の蛋白質はいきなり完成するわけではない.mRNA の情報がポリペプチド鎖へと翻訳される途上で,すべての蛋白質はtRNA が付加したポリペプチド鎖(新生鎖)の状態を経過する.従来,新生鎖はポリペプチド合成反応の単なる過渡的な中間体にすぎないと理解されてきたが,最近,新生鎖が自分自身の機能化や品質管理も含めて,細胞全体の生命現象の制御と調節に積極的に関わることが明らかになってきた.本稿では,新生鎖の生物学の概念を紹介したうえで,これまで受動的な反応中間体と考えられていた新生鎖が,リボソームをプラットフォームとして独自の機能を発揮してさまざまな生命現象に関与する最新の知見について解説する. -
【成熟(フォールディング)】 熱ショック応答によるプロテオスタシス制御と老化関連疾患
267巻13号(2018);View Description Hide Description熱ショック応答は蛋白質の構造異常に対する細胞の普遍的な適応機構であり,蛋白質フォールディングを介助する熱ショック蛋白質(HSP)群の誘導を特徴とする.この応答を制御する熱ショック転写因子1(HSF1)は,細胞内に生じたミスフォールディング蛋白質に対処できる容量(プロテオスタシス容量)の主要な調節因子のひとつである.HSF1 の活性調節は,老化や老化と関連する神経変性疾患やがんと関連することが知られている.最近,これらの疾患の病態がHSF1 のリン酸化による翻訳後修飾,そしてHSF1自身の転写調節による発現制御と密接に関連することがわかった.さらに,HSF1 複合体によるHSP 遺伝子の転写の準備と誘導の基盤機構が明らかにされた.このHSF1 複合体はDNA 修復に寄与することもわかり,太古から存在するHSF1 が広く細胞の恒常性を担う鍵因子のひとつであることが明らかとなってきた. -
【成熟(フォールディング)】 フォールディングからミスフォールディングへ―Anfinsen のドグマからアミロイド形成
267巻13号(2018);View Description Hide DescriptionIn vitro でのフォールディング研究は,蛋白質の構造や機能を理解するための基礎研究として行われてきた.アンフィンゼンのドグマからはじまったジスルフィド結合の形成機構,モルテングロビュール中間体の構造と役割,速いフォールディング反応,フォールディングの理論研究などを経て,2000 年以降,1 分子フォールディング研究へと展開した.他方,蛋白質の特徴は,ゆで卵の白身に代表されるように,加熱・凝集することである.凝集はフォールディング研究の障害とみなされたが,1990 年代以降,さまざまなアミロイドーシスの原因となるアミロイド線維が注目された.アミロイド線維は変性蛋白質が形成する結晶性の析出であり,フォールディングと同様に,ミスフォールディングによるアミロイド線維形成は蛋白質の本質的な特徴であることが明らかとなった.フォールディングとミスフォールディングを包括的に理解することが,蛋白質の多様な構造形態と,それによって引き起こされる機能と病態の理解につながると期待される. -
【成熟(フォールディング)】 シャペロニン
267巻13号(2018);View Description Hide Descriptionシャペロニンは分子内部の空洞に変性蛋白質のポリペプチド鎖を収納して凝集を避けて安全な折り畳み(フォールディング)を保証する蛋白質複合体であり,細胞質蛋白質の1 割程度はシャペロニンに依存してフォールディングをしている.変性蛋白質はシャペロニンの空洞内で自由に折り畳むと思われてきたが,実際は蛋白質のポリペプチド鎖が空洞の壁や窓に係留された状態で部分的なフォールディングを繰り返し,天然の立体構造に近づいたところで空洞中に放出され,フォールディングが完成することがわかってきた. -
【成熟(フォールディング)】 Hsp47(コラーゲン特異的分子シャペロン)―線維化疾患治療の標的因子として
267巻13号(2018);View Description Hide Description哺乳類の全蛋白質の約3 割を占めるコラーゲンは,グリシンが3 つおきに配置される“(グリシン-XY)n”という連続した配列を有し,この領域を介して3 つのコラーゲン分子間で三重らせん構造が形成される.三重らせん構造はコラーゲンの結合組織での役割に不可欠であり,正しい三重らせん構造形成に必要とされるのが,heat shock protein 47(Hsp47)という分子シャペロンである.Hsp47 は基質特異性を持ったはじめての分子シャペロンであり,小胞体内で三重らせん構造に結合することで,そのフォールディングと安定化に寄与している.Hsp47 が欠損したマウスは基底膜形成不全により胎生致死となり,Hsp47 がない線維芽細胞から分泌されたコラーゲンの三重らせん構造は緩んでいる.コラーゲンの合成に関与する遺伝子の変異により骨が脆くなる骨形成不全症や,コラーゲンが過剰に生産されることで病態の悪性化に寄与する線維化疾患など,コラーゲンとその特異的な分子シャペロンHsp47 は,さまざまな疾患に関与している. -
【成熟(フォールディング)】 集合シャペロンを介したプロテアソーム形成機構
267巻13号(2018);View Description Hide Descriptionプロテアソームは巨大で複雑な超分子酵素複合体であり,選択的な蛋白質分解を行うことによって,生命現象の諸相で重要な役割を果たしている.真核生物のプロテアソームは層状のリング構造からなり,構造的に似て非なる6~7 種類のサブユニットから構成されており,サブユニットが厳密に配置することで,蛋白質分解装置としての高度な機能を果たしている.興味深いことに,その複合体形成は自発的には起こらず,“プロテアソーム集合シャペロン”とよばれる数種類の蛋白質の介助が必要であることが知られている.近年,これらの集合シャペロンの構造機能解析が進み,プロテアソーム形成機構の理解が大きく進展した.これにより,集合シャペロンはプロテアソームの形成過程において一過的に介入することにより,隣接するサブユニット間の相互作用を助ける“マッチメーカー”や,不良品ができないように一時的にパーツ間の相互作用をブロックする“チェックポイント”としての機能を果たすことで,その形成を促していることがわかってきた. -
【成熟(フォールディング)】 天然変性蛋白質 ―蛋白質の構造・機能研究の新しいターゲット
267巻13号(2018);View Description Hide Descriptionこれまで変性した蛋白質は“ヌードル”にたとえられ,蛋白質研究を妨げる“やっかいもの”とされてきた.しかし,1997 年に発表されたPeter Wright らの研究によって,天然状態でポリペプチド鎖が大きく揺らいだ天然変性蛋白質が細胞内で中心的な役割を果たすことが示され,この“やっかいもの”が一転して蛋白質研究の表舞台に躍り出た.この研究を契機に,蛋白質の構造・機能研究の新しいターゲットとして,天然変性蛋白質の研究が本格的にスタートした.本稿では,これまでに明らかにされてきた天然変性蛋白質の構造・機能研究を概説し,天然変性蛋白質研究の将来を展望する. -
【輸送(細胞内物流システム)】 蛋白質の居場所決定における生体膜への組込み
267巻13号(2018);View Description Hide Description蛋白質は,20 種類のアミノ酸が数百個程度鎖状につながった物質として,遺伝子の指示に従って合成される.アミノ酸の並び方で鎖の取る立体構造と働きが決まる.また,蛋白質にはそれぞれ最適の細胞内外の居場所がある.蛋白質群の40%程度は,細胞を区切っている膜を越えて細胞外に分泌されたり,膜に組み込まれて膜蛋白質になる.このようなイベントは,個々の蛋白質の生まれかけのとき,あるいは生まれた直後に起こる.水に混じりやすいアミノ酸と水を避けるアミノ酸の並び方で膜との位置関係が決まり,膜に存在するトランスロコンおよびインサーターゼとよばれる膜蛋白質のガイドによって,膜への組込みや膜を越えた移動が実現する.このような蛋白質を配置するために細胞に備わった仕組みは,バクテリアから高等生物まで生物種を越えて共通性が高いことが,最近の研究の進歩で明らかになった. -
【輸送(細胞内物流システム)】 核-細胞質間蛋白質輸送と創薬研究
267巻13号(2018);View Description Hide Description真核細胞最大のオルガネラである細胞核は,細胞生存の司令塔としてつねに細胞質と情報交換を行っている.たとえば,遺伝子発現を制御する転写因子は,適切なタイミングで速やかに核内へと移行し機能することで,細胞内の恒常性を保つ.この“核-細胞質間蛋白質輸送システム”は,核膜に存在する核膜孔を介して行われる.これまでに約20 種類以上の輸送運搬体が同定され,多様な分子輸送経路の存在が続々と明らかになっている.さらに,核輸送をターゲットとした阻害薬も多く同定されており,とくに核外輸送分子CRM1 の機能阻害薬は複数のがんに対する臨床試験が進行中である.本稿では核蛋白質輸送の基本分子メカニズムと阻害薬との関係を紹介し,核輸送の視点からがんや感染症をはじめとする疾患治療への可能性を探る. -
【輸送(細胞内物流システム)】 小胞体膜への蛋白質の標的化―蛋白質の個性に応じた輸送経路
267巻13号(2018);View Description Hide Description細胞質では,mRNA 上の遺伝情報に基づいてリボソームによる翻訳(蛋白質合成)が行われている.合成された蛋白質が生体内で機能を発揮するには,核や小胞体,ミトコンドリアといった細胞小器官に運ばれ,適切なプロセシングを受けて成熟する必要がある.本稿では,膜蛋白質や分泌蛋白質の合成・プロセシングを行う小胞体への蛋白質輸送において共翻訳的に輸送される経路と,翻訳終結後に輸送される経路について記述する.前者ではシグナル認識粒子(SRP)がシグナル配列を認識し輸送するSRP 経路,後者では膜貫通ドメイン認識複合体がテイルアンカー型蛋白質の膜貫通ドメインを認識し輸送する経路(哺乳動物ではTRC40 経路,出芽酵母ではGET 経路)について記述する.さらに,最近わかってきたSRPによるシグナル配列の認識に翻訳の一時的な休止を要する特殊な輸送モデルについても記述する. -
【輸送(細胞内物流システム)】 ミトコンドリアへの蛋白質移行
267巻13号(2018);View Description Hide Descriptionミトコンドリアは1,000 種類以上の蛋白質から構成され,そのほとんどが核ゲノムにコードされている.これらの蛋白質はサイトゾルで前駆体として合成された後,あるいは合成途上にミトコンドリアに移行し,外膜,膜間部,内膜,マトリックスへと仕分けられる.ミトコンドリア蛋白質の移行経路と,それを担うトランスロケータ(膜透過装置)を中心とする40 種類を超える因子の解明が進み,移行システムの全体像が明らかになってきた.さらに最近,ミトコンドリアへの蛋白質移行の障害とこれに対処する細胞全体の応答システムについて急速に研究が進展し,理解が深まりつつある.とくに,mRNA の終止コドンの欠失により生じるノンストップミトコンドリア蛋白質によるトランスロケータの占有を回避するための細胞システムについても,ホットな話題があいついでいる. -
【輸送(細胞内物流システム)】 ペルオキシソームの形成と分解を基盤とした恒常性制御機構
267巻13号(2018);View Description Hide Descriptionペルオキシソームは多くの代謝機能を有する生体に不可欠なオルガネラである.近年のペルオキシソーム形成に必須な多数のペルオキシン遺伝子(PEX)のクローニングと機能解析の飛躍的な進展により,ペルオキシソーム欠損症の全病因PEX 遺伝子の解明,ついでペルオキシソームの形成と分解機構の概要が明らかになりつつある.本稿では,哺乳類ペルオキシソームへの蛋白質輸送の分子機構およびペルオキシソーム特異的分解(ペキソファジー)などオルガネラ恒常性維持機構,酸化ストレス応答戦略など,あらたなペルオキシソームの機能について解説する. -
【分解(死)】 多様化するユビキチンコード
267巻13号(2018);View Description Hide Description低分子量蛋白質であるユビキチンは,エネルギーを利用した酵素群(E1,E2,E3)のカスケード反応により,基質蛋白質に付加される.ユビキチン修飾系は,従来知られている基質蛋白質の選択的分解における役割に加え,シグナル伝達,DNA 修復,免疫応答など多彩な細胞内機能の時空間的制御に重要な役割を担う.ユビキチンによる修飾様式は一様ではなく,モノユビキチン化やhomotypic なポリユビキチン化(M1,K6,K11,K27,K29,K33,K48,K63)の存在がこれまで知られてきたが,最近では,分岐鎖や混合鎖とよばれる異なるタイプのユビキチン鎖が同一鎖状に存在するheterotypic なポリユビキチン化も報告されはじめている.さらに,ユビキチン自体の修飾の存在も明らかになったことから,今後,ユビキチン修飾が持つ構造的多様性(ユビキチンコード)とその生理学的意義について,さらなる理解が必要となろう. -
【分解(死)】 プロテアソームの機能と疾患
267巻13号(2018);View Description Hide Descriptionプロテアソームは真核生物においてユビキチン化蛋白質を分解する巨大な複合体型のプロテアーゼであり,細胞周期,DNA 修復,シグナル伝達,蛋白質品質管理,免疫応答などさまざまな細胞内の生命活動に必須である.プロテアソームによるユビキチン化蛋白質の分解はユビキチン認識サブユニットによる基質の認識,ATPase サブユニットによる立体構造の解きほぐし,脱ユビキチン化酵素による脱ユビキチン化を経て行われる.近年のプロテアソームの詳細な構造解析により,プロテアソームが基質分解時にダイナミックに構造変化していることがわかった.プロテアソームはがん,神経変性疾患,老化,自己炎症性・免疫疾患など多くの疾患と関係することから,プロテアソーム阻害剤bortezomib(Velcade®)が多発性骨髄腫の治療薬として開発されたように,プロテアソームを標的とした疾患治療薬の研究開発が現在盛んに進められている. -
【分解(死)】 カルパインファミリーは個性派揃い
267巻13号(2018);View Description Hide DescriptionカルパインはCa2+依存的な細胞内システインプロテアーゼのファミリーであり,蛋白質の機能調節において重要な一端を担う.また,さまざまな疾患の増悪因子として知られ,治療の標的として広く認知・注目されている.ヒトに存在する15 種のカルパインは多様な発現様式と特徴的な構造を有するが,その生物学的意義や固有の機能は多くが謎であった.しかし近年,カルパインの遺伝子異常あるいは活性制御異常による疾患の同定および発症機構の解析を通じて,それらがしだいに明確になってきた.本稿ではその取組みについて,カルパインファミリーの構造と制御機構とともに概説する. -
【分解(死)】 カスパーゼによる細胞死実行機構
267巻13号(2018);View Description Hide Description細胞死実行に必要な遺伝子ced-3 は,線虫を用いた細胞死の遺伝学的な研究によって同定された.CED-3 はP1 にアスパラギン酸を要求する特徴的なシステインプロテアーゼ,インターロイキン1(interleukin-1:IL-1)β変換酵素と類似した構造を持つことがわかり,カスパーゼファミリー発見のきっかけとなった.カスパーゼ活性化によるアポトーシス実行では,複数の基質切断によって細胞死に導かれる.カスパーゼは切断配列の選択性が高いことから,細胞内での活性化部位や活性化強度によって非細胞死の制御を行うことができる.本稿では,細胞死に関わるカスパーゼの活性化機構と生理機能を解説する. -
【分解(死)】 オートファゴソーム形成の分子機構
267巻13号(2018);View Description Hide Descriptionオートファジーは真核細胞における基本的な分解機構であり,自己成分をリソソームへと運んで分解するメカニズムの総称である.その代表例であるマクロオートファジーは,オートファゴソームとよばれる二重膜オルガネラの新生を通して細胞質成分を隔離し,リソソームへと輸送する.オートファゴソーム形成は多数のオートファジー関連(Atg)蛋白質が担っており,それらの多くはオートファジーが誘導されると細胞内の局所に集積する.この集積のはじまりはAtg1/ULK 複合体が担っており,下流因子の集積はホスファチジルイノシトール(PI)3-キナーゼ複合体がPI 三リン酸の産生を通して行っている.集積したAtg 蛋白質のうちAtg9 は初期膜の供給を担い,Atg2-Atg18 複合体は小胞体とオートファゴソーム前駆体膜の間の繫留を通して膜伸長を担うと考えられている.ユビキチン様Atg 結合系は基質認識に中心的役割を担うが,オートファゴソーム形成における役割は謎に満ちている. -
【分解(死)】 オートファジーの生理的機能
267巻13号(2018);View Description Hide Descriptionオートファジー(autophagy)は,自分(auto)を食べる(phagy),つまり細胞が自分自身の一部をリソソームで消化する分解経路である.そのなかでもマクロオートファジーはほとんどの真核生物に保存された大規模分解系であり,細胞内の蛋白質やオルガネラなど多彩な構造物を分解する.マクロオートファジーは蛋白質分解を介するアミノ酸供給,細胞内の異常構造を分解する品質管理などさまざまな重要機能を担っている.またオートファジーの破綻がヒトにおいてさまざまな疾患発症に関連している可能性が指摘されている.本稿ではオートファジーが生体にとってどのような意義を持っているのかについて解説する. -
【分解(死)】 p62 を介した選択的オートファジー
267巻13号(2018);View Description Hide Descriptionp62/SQSTM1 は,さまざまな分子との相互作用を介して細胞内のシグナリングハブとして機能する一方,オートファジーの選択的基質(カーゴ)のレセプターとしての役割を果たしている.本稿では,p62 のオートファジーレセプターとしての役割に焦点を当て,それを制御する分子機構について紹介する. -
【分解(死)】 小胞体ストレス応答とゴルジ体ストレス応答
267巻13号(2018);View Description Hide Description細胞質蛋白質の合成・成熟過程は比較的単純であり,“細胞質シャペロンと熱ショック応答機構”によってその過程が進行している.一方,分泌蛋白質や膜蛋白質は細胞外という厳しい環境で機能するために,その合成・成熟過程は特殊かつ複雑であり,専用の細胞小器官である小胞体とゴルジ体が用意されている.これらの細胞小器官のなかで,“小胞体シャペロンと小胞体ストレス応答機構”および“翻訳後修飾酵素とゴルジ体ストレス応答機構”といった複雑なメカニズムが働くことによって,分泌蛋白質や膜蛋白質の合成・成熟過程が進行していく.本稿では,小胞体ストレス応答とゴルジ体ストレス応答を中心に,分泌蛋白質・膜蛋白質の代謝医学について述べる. -
【分解(死)】 蛋白質品質管理のための小胞体関連分解
267巻13号(2018);View Description Hide Descriptionリボソームで合成された全蛋白質のおよそ30%が小胞体内腔に挿入される.小胞体は分泌蛋白質や膜蛋白質のフォールディングの場とされ,多くの分子シャペロンや構造形成に必要な酵素群が存在し,フォールディングの場として適した環境を構築している.しかし,このような環境においても外的環境ストレスや遺伝的変異などによって正しい立体構造を形成できない場合もあり,そもそも複雑な立体構造を持つ蛋白質はフォールディングが困難である.そのような構造異常蛋白質の蓄積を防ぐため,蛋白質品質管理のひとつとして小胞体関連分解(ERAD)が存在する.本稿では,レクチン蛋白質による基質認識機構と還元酵素ERdj5 を介した逆行輸送機構を中心に,蛋白質品質管理のひとつとしての小胞体関連分解について,その巧妙なプロセスを紹介する. -
【分解(死)】 蛋白質分解経路のキープレーヤーp97/Cdc48
267巻13号(2018);View Description Hide Description真核細胞に普遍的に豊富に存在する代表的なAAA 型シャペロンp97/Cdc48 はホモ六量体のリング状構造で,そのN ドメインやC 末端領域に基質の選択性やその後の運命決定に関わるさまざまなコファクターが結合して機能し,ATP を加水分解して,基質蛋白質の三次元構造をほどく働きがある.ユビキチン-プロテアソーム系による蛋白質分解経路において,26S プロテアソームの上流で,ポリユビキチン化基質蛋白質の選択性とプロセシングを制御する重要な因子であるとともに,それ自体20S プロテアソームと複合体を形成して,新しいタイプのプロテアソームとして機能することが発見された.また,オートファジーの制御においても重要な機能を果たす.p97/Cdc48 は,細胞内のさまざまな蛋白質分解経路を総合的に制御する細胞のプロテオスタシス機能のキープレーヤーであり,そのヒトホモログVCP の変異は,多系統蛋白質症や筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患の原因となることが明らかとなってきた. - 蛋白質の品質管理とその制御
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膜/分泌蛋白質の生合成プロセスを監視するプレエンティブ品質管理
267巻13号(2018);View Description Hide Description真核細胞リボソームで新合成されたポリペプチド鎖は,その一部がただちにユビキチン経路で分解される.これら不安定な新合成ポリペプチドの多くは膜/分泌蛋白質である.ヒトゲノムにコードされた遺伝子産物の1/3 を占める膜/分泌蛋白質は,そのN 末端に小胞体移行性シグナル配列を持つ.一方,それらの一次配列には大きなバリエーションが存在し,かつ小胞体移行効率も多様である.低効率シグナル配列を持つ膜蛋白質の代表例プリオンは,ストレス下でシグナル配列に能動的ブレーキをかけ,小胞体移行を阻害している.小胞体への移行を妨げられた新合成プリオンは,プロテアソームならびにBAG6 複合体により細胞質にて速やかに分解されることで,小胞体内に凝集する致命的リスクを下げている.このような“細胞質性”膜/分泌蛋白質の分解プロセスを,“プレエンプティブ(pre-emptive;予防的)な蛋白質品質管理”と呼称する.近年,この新しい品質管理機構と疾患との関連も続々と報告されつつある. -
マイトファジー―PINK1 とParkin によるミトコンドリア蛋白質の品質管理
267巻13号(2018);View Description Hide DescriptionPINK1 とParkin は遺伝性潜性パーキンソン病(PD)の原因遺伝子産物であり,PINK1 はプロテインキナーゼ,Parkin は基質にユビキチンを付加するユビキチン連結酵素(E3)である.ミトコンドリアの膜電位が低下するとPINK1 がユビキチンをリン酸化し,リン酸化ユビキチンがParkin を活性化して,その結果ミトコンドリア上の基質がユビキチン化され,異常ミトコンドリアがマイトファジーを介した分解に導かれる.このモデルは生化学的・細胞生物学的な知見に基づいて提唱されていたが,近年PINK1 とParkin の構造解析が進展した結果,分子構造のレベルでも仮説の正しさが示されつつある.本稿ではPINK1 の分子構造を中心に,そこから導かれる最新の知見を解説する. -
ER ファジー―オートファジーによる小胞体の選択的分解
267巻13号(2018);View Description Hide Descriptionオートファジーは,さまざまな細胞成分を二重膜小胞であるオートファゴソームで隔離し,リソソーム/液胞に輸送して分解する.近年,ミトコンドリアやペルオキシソームなどのオルガネラがオートファジーで選択的に分解されることが明らかとなり,Parkinson 病などの疾患との関連からもとくに注目を集めている.2015 年には,小胞体(ER)も選択的オートファジーの標的となることが出芽酵母と哺乳動物細胞において示された.小胞体をオートファファゴソームに隔離させる“レセプター蛋白質”が同定され,小胞体の選択的オートファジー,すなわち“ER ファジー”の分子基盤,生理的意義,疾患との関係などが明らかになってきた.さらに哺乳類においては,ER ファジーのためのレセプターが複数存在し,状況に応じて使い分けられているようである.本稿では,このように急速に理解が進みつつあるER ファジーについて概説する. -
標的蛋白質の分解を誘導するハイブリッド化合物SNIPERs とPROTACs
267巻13号(2018);View Description Hide Description標的蛋白質の分解を誘導するケミカルプロテインノックダウン技術が,有望な創薬様式として最近注目を集めている.この技術は化合物によって標的蛋白質とE3 ユビキチンリガーゼを近接させ,ユビキチン-プロテアソーム系を利用して標的蛋白質を分解させるものである.この技術をもとにして開発されたSNIPERs やPROTACs と命名された化合物は,標的蛋白質とE3 ユビキチンリガーゼのリガンドをハイブリッドさせた構造を持っており,原理的にはすべての細胞内蛋白質を標的として分解を誘導できる汎用性を有している.ここ数年,強力な分解誘導活性を持つ薬剤の開発やマウス個体レベルでの効果の実証,さらには従来の阻害薬とは異なるSNIPERs やPROTACs の特徴などが次々と報告され,ケミカルプロテインノックダウン技術の基礎研究が大きく進展した.またこの技術をもとにして臨床開発をめざした研究が国内外で急速に進んでいる. -
セレブロンモジュレーター
267巻13号(2018);View Description Hide Descriptionサリドマイドの標的因子として単離・同定されたセレブロン(CRBN)は現在では,結合する化合物の形状に応じて認識する基質が変換されるユビキチンリガーゼCRL4CRBNとして機能することが,数多くの研究から明らかになってきた.セレブロンに結合する化合物群は,以前はIMiDs とよばれており,そのなかでも多発性骨髄腫(MM)への優れた治療効果を有するレナリドマイドやポマリドミドが知られていた.現在,CRBN は免疫調節作用にとどまらない幅広い作用を持ちうることが判明してきており,CRBN モジュレーターとよばれるに至っている.また並行して,CRBN をベースとしたPROTACs という名前で知られるあらたな蛋白質分解誘導薬の開発も進んできている.本稿では,サリドマイドからCRBN モジュレーターへの発展,およびCRBN ベースのPROTACs など最新の知見について紹介する. -
生体分子の液-液相分離
267巻13号(2018);View Description Hide Description近年,“液-液相分離”によって生じる蛋白質および核酸の液滴が細胞内に普遍的に存在することが明らかとなり,液-液相分離が生体分子の組織化と機能発現の基本原理としてさまざまな生命現象を説明できるのではないかと大きく注目されている.この細胞内液滴は膜のないオルガネラ(membrane-less organelles)や凝縮体(condensate)とも呼称され,細胞質ではストレス顆粒(SGs)やP ボディー,核内では核小体やCajal ボディー,PML ボディーなどが有名である.最近ではヘテロクロマチンやスーパーエンハンサー,転写伸長時のRNA ポリメラーゼⅡ,異物DNA の認識などにおいても特異的な液滴が形成し,機能することがわかってきた.これらの液滴は,細胞内で特定の分子を一過的に濃縮させることで生体反応を促進させる場として機能する.本稿では,液-液相分離によって形成する代表的な細胞内液滴を取り上げ,その機能と形成機構を紹介する. - 生理病態学と関係する蛋白質の動作原理
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ユビキチンリガーゼが関与する疾患
267巻13号(2018);View Description Hide Description酵母での研究が主体であったユビキチン化は,1990 年代にがんや免疫疾患などに関与することが明らかとなり,その後,ヒトにおけるさまざまな領域の疾患の研究でも注目される存在になった.ユビキチン化はとくに細胞内シグナル伝達,細胞周期およびDNA 修復に関して重要な制御システムであることがわかり,がん研究の発展に寄与している.実際に多くのがん遺伝子産物やがん抑制遺伝子産物がユビキチン介在性分解で制御されている.また,免疫細胞の細胞内シグナル伝達のあらゆるレベルでユビキチン化が関与しており,自己免疫疾患・アレルギー・炎症における重要性が注目されている.多くの神経変性疾患では異常蛋白質の蓄積が関与するが,ユビキチン化がその制御システムとして機能していることが知られてきた.本稿では,とくに疾患に関与するユビキチンリガーゼについて,その約30 年間の研究の歩みと最近の知見を紹介する. -
脱ユビキチン化酵素(DUB)と疾患
267巻13号(2018);View Description Hide Description脱ユビキチン化酵素(DUB)は連結したユビキチンのC 末端を加水分解するプロテアーゼで,ヒトでは約100 種存在する.DUB はシステインプロテアーゼのUSP,UCH,ジョセフィン,OTU,MINDY ファミリーと金属プロテアーゼのJAMM/MPN+ファミリーという6 つのファミリーに分類され,ユビキチン修飾が制御する多彩な細胞機能変換に対して拮抗的に働き,フリーのユビキチン量を確保する.したがって,DUB の遺伝子異常はユビキチンシグナルの制御不全やさまざまな疾患を発症させる.本稿ではヒトDUB 酵素群を俯瞰的に概説するとともに,炎症・免疫制御をつかさどり,遺伝子異常が疾患を引き起こすDUB として知られるCYLD,A20,OTULIN を紹介する.さらに,近年注目されているオートファジー制御に関わるDUB やDUB を標的とした最新の創薬研究を解説する. -
ミステリン―もやもや病の責任遺伝子産物
267巻13号(2018);View Description Hide Descriptionミステリンは推定分子量591kDa の巨大な細胞内蛋白質である.p97/VCP などと類似のタンデムAAA+ATP アーゼドメイン,およびRING フィンガー型ユビキチンリガーゼドメインを含む.日本人に多い脳血管疾患であるもやもや病の責任遺伝子として著者の手により分子クローニングしてきた因子であるが,基質,生理機能,病態機能いずれも不明であり,探索を続けてきた.最近に至って,意外にもミステリンは脂肪滴(ユビキタスに形成される脂肪蓄積オルガネラ)に局在し,中性脂肪代謝を制御する因子であることをつきとめた.本稿ではミステリンの酵素活性・細胞内機能・疾患変異による病態機能について,著者らの研究を中心に概説する. -
シャペロンによるプリオン凝集体の形成と伝播の制御
267巻13号(2018);View Description Hide Description酵母プリオン蛋白質の一つであるSup35 蛋白質が凝集し,その凝集体(プリオン)が伝播・維持されるには,シャペロン蛋白質が必要である.本稿では,Sup35 プリオン(アミロイド)形成や分断を制御するシャペロンの機能について概説する.プリオンの形成では,Sup35 のモノマー,オリゴマーに対してHsp104,ヌクレオチド交換因子(NEF)が働きかけ,アミロイドの核形成を促進させる.それに対して,Hsp70:Hsp40 は,そのオリゴマーの形成を阻害する効果がある.一方,アミロイドの分断では,過去にはHsp104 単独で分断されると考えられていたが,最近の知見によるとHsp70:Hsp40 やNEF,smallheat shock protein といったほかの因子も重要な役割を持つことがわかってきた.これらのプリオン形成・伝播に関する知見は,アミロイド・蛋白質凝集体が関与するプリオン病などの多くの神経難病の病態解明およびその治療薬の開発につながるものと期待される. -
神経変性疾患の原因となる蛋白質
267巻13号(2018);View Description Hide Description神経細胞が徐々に変性・死滅していく神経変性疾患は,家族性疾患の遺伝学的解析などから原因遺伝子が発見されるとともに,病気を特徴づける異常蛋白質病変との直接的な関連が示されて分子レベルでの発症機序の解明が進んできた.重要なことに,変性する細胞内には疾患の定義づけに用いられるようなユビキチン陽性,p62 陽性の異常蛋白質の特徴病変が認められ,その病変の分布や広がりが症状や病態進行と密接に関係していることが示されている.近年,これら神経変性に関わる蛋白質は,異常型プリオンのように自身を鋳型にして正常型を異常型に変換することにより増殖し,さらには細胞間を伝播することによって広がることが動物実験によっても明らかになってきた.このプリオン様伝播の考えは,異常型蛋白質病理を伴う神経変性疾患全体に共通する普遍的メカニズムである可能性があり,病気がなぜ進行するのかという基本的な疑問を説明するだけでなく,治療薬開発にとっても大きな意味がある.本稿では,代表的な神経変性疾患であるAlzheimer 病(AD),Parkinson 病(PD),筋萎縮性側索硬化症(ALS)の特徴病理を構成し,それぞれの疾患の神経変性・病態進行の原因となる主要な蛋白質であるタウ,αシヌクレイン,TDP-43 について概説したい. -
異物排出蛋白質―すべてがマルチなマルチドラッグ排出蛋白質
267巻13号(2018);View Description Hide Description異物排出蛋白質は細胞膜の静的障壁機能を補塡する能動的透過障壁であり,細菌からヒトまでほとんどすべての細胞に備わっている.しかし,その排出蛋白質の過剰発現によって,多剤耐性菌やがん細胞の多剤耐性など薬剤が効かないという問題が生じる.異物排出蛋白質は化学構造上ほとんど関連性のない幅広い化合物を“特異的”に排出する.本稿は,単一の蛋白質がこのように幅広い基質を認識できる仕組みを,グラム陰性細菌のRND 型異物排出蛋白質を例にとって解説する.異物排出蛋白質の結晶構造解析が明らかにしたのは,複数の基質取入れ口を持ち,複数の基質輸送経路と複数の基質結合ポケット,1 つの結合ポケット内にも複数の化合物結合サイトを持つ,すべてがマルチできわめて特異的な膜輸送体の姿であった.このマルチにより,物理的性質や存在場所の異なる異物を取り込み,化学構造のまったく異なるいくつもの化合物を認識して排出することを可能にしている. -
細胞周期制御のキー蛋白質
267巻13号(2018);View Description Hide Description細胞周期はG1 期,S 期,G2 期,M 期の4 つに分けられる.S 期では染色体DNA を複製する.M 期ではS 期で倍化した染色体DNA を2 つの娘細胞に分配し,細胞は分裂する.G1 期とG2 期ではそれぞれ次のサイクルへの準備を整える.細胞周期関連蛋白質群は,それぞれの過程を制御する分子装置のパーツとして実に多様な機能を果たす.本稿では,各個別の事象にはあえて踏み込まず,細胞周期全体をエンジンにたとえ,正確にこのサイクルを進行させるのに重要な機構,つまり細胞周期を亢進させるもの(アクセル:サイクリン-CDK 複合体)と抑制的に働くもの(ブレーキ:CDK インヒビターとユビキチン-プロテアソームシステム)に分けて解説した.また,細胞周期が密接に関与する疾患の例としてがんをあげ,2 大がん抑制経路として知られるRB 経路とp53 経路についても解説する. -
細胞死制御のキー蛋白質
267巻13号(2018);View Description Hide Description細胞死はアポトーシスとネクローシスの2 種類に分類され,これまで計画的細胞死はカスパーゼにより誘導されるアポトーシスのみとされてきた.しかし,アポトーシスのみならず,ある種のネクローシスもまた制御されていることが,数多くの研究から判明した.そのうちのひとつであるネクロプトーシスはRIPK3 とMLKL により誘導される.一方パイロトーシスは,カスパーゼ1,11(ヒトの場合はカスパーゼ1,4,5)の活性化と,それによってもたらされるガスダーミンD の活性化により誘導される.両細胞死の最終実行分子のMLKL,ガスダーミンD はともに細胞膜に孔を形成する.本稿ではネクロプトーシス,パイロトーシスの分子シグナルを中心に紹介したい. -
p16 からみた細胞老化―加齢性疾患の予防・治療に向けたsenolytic 薬の発展
267巻13号(2018);View Description Hide Description高等多細胞生物の細胞は,さまざまなストレスにさらされてDNA 損傷修復応答が活性化するが,それが持続するとやがて細胞老化を起こし,いかなる増殖刺激にも反応しない不可逆的増殖停止状態になる.この細胞老化の誘導にはがん抑制経路であるp53-p21 経路およびp16-pRB 経路が重要な役割を持つ.とくにp16 は細胞周期を不可逆的に停止させるマスター因子であり,現在最も確かな細胞老化のマーカーのひとつと考えられている.p16 の発現を可視化できるマウスを用いた実験で,個体の加齢に伴い細胞老化を起こした細胞(老化細胞)が体内に蓄積していく現象が観察されており,細胞老化と個体老化との関連が注目されている.さらにマウスにおいてp16 を発現した細胞を人為的に取り除くと,さまざまな老化現象が改善され,健康寿命が延伸することが明らかになってきた.このような最近の細胞老化研究の進展から,加齢性疾患のあらたな予防・治療法開発に向けて,老化細胞を選択的に体内から除去する老化細胞死誘導薬(senolytic 薬)の研究が進んできている.本稿では,p16 蛋白質の機能とその応用,さらにはsenolytic 薬開発に向けた研究について,最近の知見を紹介しながらこれからの展望を論じる.
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