Volume 268,
Issue 1,
2019
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【1月第1土曜特集】 白血病UPDATE
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医学のあゆみ 268巻1号, 1-1 (2019);
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白血病各論
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医学のあゆみ 268巻1号, 4-9 (2019);
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白血病は骨髄を主体に増殖する造血細胞の腫瘍であり,白血病細胞の主体が未分化な芽球であるものを急性白血病,分化した細胞が増殖するものを慢性白血病として定義されてきた.現在は形態的特徴に加えて,細胞系統,免疫学的形質,細胞遺伝学的・分子遺伝学的特徴を組み合わせて分類されている.2008 年に発表されたWHO 分類第4 版が2017 年に改訂され,現在はそれに基づいた分類が用いられている.今回の改訂では著しい進歩をみせるゲノム研究の成果が取り込まれており,WHO 分類のめざす方向として一貫している.同時に臨床的な観点も重視されており,統合的な分類がこれからも用いられると思われる.
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医学のあゆみ 268巻1号, 10-16 (2019);
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急性白血病は,単一の異常な未分化造血細胞に由来するクローン性増殖を主体とした悪性腫瘍である.従来,“増殖促進”と“分化抑制”の機序が必要とされていたが,網羅的な解析により多彩な遺伝子異常が同定され,さらに複雑な機序が明らかになっている.急性白血病を発症する原因遺伝子はde novo,二次性,治療関連,家族性それぞれに共通して認められるものも多いが,分子発症機構はそれぞれ特徴的なパターンがあり,治療反応性に影響すると考えられる.また,正常造血時にみられるクローン性造血が白血病発症の素地として重要な役割を果たしている.急性白血病でみられる遺伝子異常はほぼ全容が明らかにされたが,それぞれがどのように発症・進展に寄与しているかを明らかにする必要がある.今後さらに分子病態に基づいた急性白血病の診療への応用が期待される.
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医学のあゆみ 268巻1号, 17-20 (2019);
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次世代シーケンサーに代表される網羅的遺伝子解析技術の進歩に伴い,白血病におけるゲノム異常の全体像が明らかになり,発症年齢によるゲノム異常の相違や共通点に関する知見も増えつつある.これまで小児と成人は異なる治療プロトコールで治療が行われてきたが,思春期・若年成人(AYA)世代とよばれる若年成人の治療法の選択などから,小児臨床研究グループと成人グループが共同で臨床試験を計画するような機会も増えてきている.急性骨髄性白血病(AML),急性リンパ性白血病(ALL)ともに多様な病態を含んでおり,ゲノム異常に基づく病型分類や予後予測が有用であると考えられている.しかし,小児と成人においてはゲノム異常の相違点も多く,それらの臨床的意義も異なる可能性もあり,適切な治療を提供するうえで相互の病態理解が重要である.
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医学のあゆみ 268巻1号, 21-26 (2019);
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わが国における年間の白血病新規患者数は12,194 人,死亡者数は8,801 人である.成人では急性骨髄性白血病(AML)が最も多く,成人白血病全体の約半数を占める.急性リンパ性白血病(ALL)はAML の約1/4 である.白血病の罹患率・死亡率ともに50 歳以上から急増し,高齢であるほど高い.成人白血病は2003 年より緩やかな生存率の改善を認めるが,欧米諸国よりも生存率は低い.急性白血病に特異的といえる症状や所見はない.血球減少による症状や骨痛,皮膚所見などを見逃すことなく,まずは疑って採血検査を行うことが重要である.その際,目視血液像での白血球分画に注意する.輸血の必要性,播種性血管内凝固(DIC)や臓器障害の有無で緊急対応を要するかを判断し,早めのコンサルテーションを行う.現在,WHO 分類改訂第4 版が急性白血病の病型分類として用いられ,従来の形態学から遺伝子異常を用いた病因に基づく疾患単位へと病型分類が変化してきている.
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医学のあゆみ 268巻1号, 27-31 (2019);
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小児白血病の発症要因は長い間不明であったが,ゲノム医療の進展に伴い,遺伝性素因の関与が明らかになってきた.白血病発症に関わる遺伝子変異の多くは遺伝性骨髄不全や骨髄異形成症候群(MDS)の成因と共通であり,また若年成人と一連のスペクトラムを形成する.たとえばGATA2 の異常はMonoMac症候群という免疫不全を起こすのみならず,思春期から若年成人にmonosomy 7 を伴うMDS を発症する.SAMD9/SAMD9L の異常もまた,内分泌学的あるいは神経学的な症候群に加えてmonosomy 7 を伴うMDS を発症する.この動きにWHO の2016 年のブックレットにおいてはじめて生殖細胞系列素因を有する骨髄系腫瘍が記載された.これらの知見は疾患の発症機転の解明や正確な診断に寄与するのみならず,治療に際して薬剤選択,放射線治療の可否,移植ドナーの選択にも影響する.一方,生殖細胞系列の遺伝子検索は倫理的あるいは心理的な問題も生じるため,その対策も急務である.
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医学のあゆみ 268巻1号, 32-36 (2019);
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急性白血病は小児・成人双方に発症する疾患で,小児科・内科それぞれの臨床研究グループにより治療法が開発されてきた.両者の狭間にある思春期若年成人(AYA)世代の急性白血病は,成人臨床研究ではどちらかといえば高齢者の身体事情や腫瘍特性に合わせて開発されたプロトコールで治療を受け,小児臨床研究では小児に合わせて開発された治療強度の高いプロトコールで治療を受けてきた.急性リンパ性白血病(ALL)に関して,2000 年にAYA 世代ALL は小児プロトコールで治療したほうが治療成績が良好である可能性が示されて以来,これを検証したり,小児プロトコールの適用をより高齢の成人にまで拡大してALL 全体の治療成績を上げる研究が世界各国で行われている.そうした研究では,5 年生存率が40%程度であったものが70%近くにまで上昇するという劇的な改善を認めているものもある.一方,AYA 世代急性骨髄性白血病(AML)で同様の検討を行うと,小児臨床研究で治療を受けたAYA AML 症例は治療関連死亡率が高く,ALL で認められたような小児プロトコールの優位性は認められていない.本稿では,このような研究の流れを概説しAYA 世代急性白血病の治療戦略を考察する.
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医学のあゆみ 268巻1号, 37-42 (2019);
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がん細胞における分子病態の解明とともに多くの分子標的薬が臨床応用されている.急性骨髄性白血病(AML)においても,その発症・進展に関与するdriver 変異が同定され,これらdriver 変異を標的とした多くの阻害剤や抗体治療薬の開発が進められてきたが,長年臨床応用に至らずにいた.2017 年以降,FLT3 阻害剤(midostaurin),IDH2 阻害剤(enasidenib),IDH1 阻害剤(ivosidenib)など複数の標的治療薬剤がアメリカFDA で認可されるなど,AML に対する分子標的治療の実用化が実現し,AML における治療成績の向上が期待されている.FLT3 阻害剤については,gilteritinib が2018 年に世界に先がけ日本で承認されるなど,複数の阻害剤の臨床開発が進められている.今後は,標的阻害剤の併用による安全性と治療効果を評価する臨床試験の拡大が期待される.
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医学のあゆみ 268巻1号, 43-48 (2019);
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フィラデルフィア(Ph)染色体は急性リンパ芽球性白血病(ALL)の一部に認められ,同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)が絶対適応の難治性造血器腫瘍として知られている.2001 年にイマチニブがPh 陽性慢性骨髄性白血病の治療薬として承認を獲得し,Ph 陽性ALL に対して多剤併用化学療法と併用されるようになってからPh 陽性ALL はほぼ全例で血液学的寛解を得られるようになり,長期予後においても大きな改善が得られた.さらに第二・第三世代チロシンキナーゼ阻害剤の開発によって,より早く,より深く分子遺伝学的効果が得られるようになり,同種造血幹細胞移植を行わなくとも薬物療法だけで白血病細胞を駆逐できるのではないかと期待されている.本稿では,進歩を続けるPh 陽性ALL の治療法と最新の知見について紹介する.
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医学のあゆみ 268巻1号, 49-53 (2019);
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近年,急性リンパ性白血病(ALL)に対する抗体医薬の開発が進んでおり,なかでもブリナツモマブ,イノツズマブ・オゾガマイシン(InO),リツキシマブの臨床効果が明らかにされつつある.ブリナツモマブは抗CD19 抗体と抗CD3 抗体のキメラ蛋白である.再発または難治性フィラデルフィア染色体(Ph)陰性B 細胞ALL(B-ALL)に対する臨床第Ⅲ相試験で,化学療法と比べて高い寛解導入成功率と50%生存期間の延長を認めた.ただし,副作用として中枢神経系イベントが発生しうる.InO は抗CD22 抗体に細胞傷害活性化合物カリケアマイシンを抱合させたものである.InO も再発または難治性のPh 陰性B-ALL に対する第Ⅲ相試験で,化学療法と比べて高い寛解導入成功率と生存期間の延長が示されている.ただし,副作用として肝中心静脈閉塞症(VOD)が懸念される.リツキシマブは,新規発症のCD20 陽性Ph 陰性BALLに対する多剤併用化学療法にリツキシマブ併用または非併用に割り付ける第Ⅲ相試験において,非再発生存率が併用群で勝ることが確認された.今後は各抗体医薬の使い分け,あるいはそれらの組合せ,また化学療法や造血幹細胞移植との組合せ方などについて最適化していく必要がある.
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医学のあゆみ 268巻1号, 54-60 (2019);
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B 細胞分化抗原CD19 を標的とするキメラ型抗原受容体(CAR)遺伝子を導入した患者自身のT 細胞(CD19-CAR-T 細胞)を用いる養子免疫療法は,CD19 陽性の再発・難治性B 細胞性急性リンパ性白血病(r/r B-ALL)に対して劇的に奏効した.そしてNovartis 社のCD19-CAR-T 細胞製剤(tisagenlecleucel)は2017 年にアメリカ食品医薬品局(FDA)に承認され商業化された初の遺伝子細胞製剤となった.現在,アメリカ・中国を中心に医療経済市場におけるシェア拡大をめざして激しい技術開発競争が繰り広げられている.こうした現状を踏まえて本稿では,がんに対するCAR-T 細胞療法開発を牽引し日々進化を続けている,ALL に対するCAR-T 細胞療法の現状を概説する.
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医学のあゆみ 268巻1号, 61-66 (2019);
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最初のチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)イマチニブが上市され17 年が経過した.その間に,イマチニブ耐性を克服するために第二世代TK(I ニロチニブ,ダサチニブ,ボスチニブ)が開発され,第Ⅲ相試験でイマチニブに対する優位性が確立した.しかし,これらはゲートキーパー変異T315I に効果がなく,これに感受性を示す第三世代TKI ポナチニブが開発された.TKI の標的分子はABL1 以外にもPDGFR,c-KIT,SRC ファミリーなど幅広く,その選択性もTKI ごとに異なり,いわゆるoff-target 効果に多様性が生まれ,特有の有害事象に反映される.現在では,慢性骨髄性白血病(CML)の長期予後を規定するのは原疾患ではなく心血管イベントなどの合併症であることから,このようなTKI の特性をよく理解し,5 種類のTKI を駆使して合併症をうまくコントロールし,テーラーメードのCML 治療を行う必要がある.
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医学のあゆみ 268巻1号, 67-71 (2019);
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ABL チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)であるメシル酸イマチニブの登場によって,慢性骨髄性白血病(CML)の治療は劇的な進歩を遂げた.第二(ニロチニブ,ダサチニブ,ボスチニブ)および第三世代(ポナチニブ)のTKI も臨床で使用できるようになり,さらに治療成績は向上し,CML では治療不要寛解(TFR)が治療目標となってきた.現在の主流な治療効果判定はRQ-PCR によるbcr-abl mRNA 発現量で判定し,一定の治療効果が得られているCML 患者は,安全にTKI を中止できることがわかってきた.多数のTKI 中止試験が世界中で進行しており,TKI 中止における至適なTKIs 内服期間や,中止を予測できる因子の解析が進んでいる.
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医学のあゆみ 268巻1号, 72-76 (2019);
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同種造血幹細胞移植は白血病に治癒をもたらす治療法として確立している.免疫抑制方法の進歩や感染症対策など支持療法の発展により治療関連死亡は低下してきているが,移植片対宿主病(GVHD)を含めた,今なお制御できないある一定の致死的合併症のリスクが移植には存在する.最近の進歩として,疾患側のリスクを遺伝子レベルで評価できるようになった点と,治療介入後の微小残存病変(MRD)をモニタリングすることにより予後の推定がより詳細にできるようになった点があげられる.この疾患のより深い理解と,予後のより正確な推定が進んだことにより,移植の適応が変わりつつある.本稿では近年,白血病に対する同種造血幹細胞移植の適応がどのように変化しているかを中心に紹介する.
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医学のあゆみ 268巻1号, 77-82 (2019);
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一般にがんのサバイバーシップは“がんの診断を受けてから治療中だけでなく,治療終了後も含めた人生を,本人だけでなく周囲あるいは社会全体でさまざまな問題を解決しながら歩んでいくという考え”と解釈される.白血病治療後のサバイバーシップの一般的な課題としては,晩期合併症といわれる治療終了後にみられる治療と関連した,あるいは疾患そのものと直接的・間接的に関係した状態とその対策,周囲との人間関係,ライフスタイルと健康増進の問題,恋愛や結婚,出産,育児,介護,就学・就労問題,経済的な問題などライフコース特有の問題,リハビリテーション,などがある.本稿ではとくに晩期合併症を中心に,その対策とともに述べる.
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トピックス
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医学のあゆみ 268巻1号, 84-89 (2019);
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小児急性リンパ芽球性白血病(ALL)は,治療反応性や微小残存病変(MRD)を利用したリスク層別化による治療強度適正化,支持療法の改善などによって,過去数十年で劇的に治療成績が改善したが,予後不良な一群も含まれている.フィラデルフィア染色体陽性様ALL(Ph-like ALL)は既知の遺伝子異常を有しない“いわゆるB-other ALL”のなかで,フィラデルフィア染色体陽性ALL(Ph+ ALL)と同様の遺伝子発現プロファイルを呈す疾患群として2009 年に提唱され,予後不良な一群として報告されている.これまでに国内外の研究グループから,ABL 関連融合遺伝子やEPOR またはJAK2 遺伝子再構成,さらにJAKSTAT関連融合遺伝子など,治療標的となりうる遺伝子異常がPh-like ALL の白血病細胞から同定されている.Ph-like ALL に対するキナーゼ阻害剤の併用による予後の改善の改善も報告されており,前向き研究による検証が進められている.
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医学のあゆみ 268巻1号, 91-96 (2019);
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成人急性リンパ芽球性白血病(成人ALL)に対する治療成績は,同種移植を行ったとしても長期生存率は40%程度で,再発が治療成績に影響を及ぼしていることは明らかである.ALL の病態の解明とともに抗体・免疫療法が開発され,再発・難治ALL に対する治療成績の改善が期待されている.プリン代謝拮抗薬であるネララビンは,T 細胞性ALL(T-ALL)に対して選択的に効果が期待できる薬剤である.前治療が多彩であっても有用で,完全寛解が得られた症例の多くでは同種移植が可能で,移植関連死亡も少ない.有害事象としては神経毒性が問題となる.クロファラビンは第二世代のプリン代謝拮抗剤である.単剤での効果は乏しく,クロファラビン・エトポシド・シクロホスファミド併用化学療法は同種移植を前提とした再発・難治ALL に対する有望な治療法である.ネララビンとクロファラビンは同種移植の橋渡しとして重要な役割を果たすことが期待され,再発・難治ALL に対する治療法の選択肢が広がることは意義がある.
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医学のあゆみ 268巻1号, 97-102 (2019);
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白血病細胞特異的な抗原(LAPs)を有する細胞を検出できるフローサイトメトリー(FCM)や,白血病特異的なDNA やキメラmRNA を検出するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などにより,多数のフィラデルフィア染色体(Ph)陰性成人急性リンパ性白血病(ALL)症例で,10-5の感度で白血病細胞が検出可能となった.このような高感度の方法によっても白血病細胞が検出されない状態をimmunophenotypic CR,molecularCR とよぶ.血液学的CR とimmunophenotypic/molecular CR の間に存在する白血病を微小(測定可能)残存病変(MRD)とよぶ.治療開始後早期のMRD 反応は,成人Ph 陰性ALL の最も強い予後因子であり,寛解後療法の選択(同種造血幹細胞移植vs. 化学療法継続)に有用である.
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医学のあゆみ 268巻1号, 103-106 (2019);
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次世代シークエンサー(NGS)とスーパーコンピュータにより短期間でゲノム情報の解読が可能となった結果,がん細胞特異的な体細胞遺伝子変異(ドライバー変異)の解析データを臨床向けに翻訳して実診療に役立てる“臨床シークエンス”が急速に普及しつつある.とくに,がん細胞を含む臨床検体の採取が容易な白血病関連領域の臨床シークエンスは,正確な診断および適切な治療方針の決定だけでなく,予後予測や微小残存病変(MRD)モニタリングなど広範囲な診療への応用が期待される.膨大な量の解析データからドライバー変異を選び出し,文献やデータベースを参照して臨床現場へ報告する作業過程(メディカルインフォマティクス)は多大な労力と時間を消費するため,近年この作業過程に人工知能(AI)を導入する試みが行われ,その有用性が実証されつつある.