Volume 268,
Issue 2,
2019
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特集 Gorlin 症候群―発生から治療法まで
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医学のあゆみ 268巻2号, 109-109 (2019);
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医学のあゆみ 268巻2号, 111-113 (2019);
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本稿ではGorlin 症候群に関わる医学史について概説する.Gorlin 症候群の疾患概念が提唱されてから約半世紀の間に診断基準が策定され,疾患が認知されるようになるとともに,ショウジョウバエの研究からヘッジホッグシグナル経路が同定され,それがGorlin 症候群の病態に関与することが明らかになった.さらに,この約20 年間で,ヘッジホッグシグナル経路を阻害する分子標的治療薬が開発され,アメリカではFDA の認可を受けている.この一連の発見の歴史を追っていくと,疫学研究,臨床報告,基礎研究の知見が複雑に絡み合って疾患の解明が進んでいく様子がよくわかる(表1).その過程を学ぶことは,医学史として興味深いだけでなく,新規に発見されたほかの疾患を解明する際にも役立つはずである.
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医学のあゆみ 268巻2号, 114-117 (2019);
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ヘッジホッグシグナルは形態形成や組織の維持・再生に関わる伝達経路である.有核細胞1 つが1 本持つ一次繊毛(primary cilia)にこのシグナル経路は存在し,リガンドであるヘッジホッグが細胞膜上の受容体(Ptch)に結合することで特定の標的遺伝子の転写が開始される.このシグナル経路が発生期に障害されると先天奇形(全前脳胞症や多肢症など)が生じ,出生後に障害されると腫瘍が形成される.ヘッジホッグシグナルの調節には多くの分子が関与しており,日々新しい研究成果が報告されている.Gorlin 症候群(基底細胞母斑症候群)では,ヘッジホッグシグナルの受容体であるPTCH1 の遺伝子の変異が同定され,多くの患者で検出される.PTCH1 の変異によってヘッジホッグシグナルが亢進することで,腫瘍が多発すると同時に,症候群の特徴である先天奇形が発生する.
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医学のあゆみ 268巻2号, 118-122 (2019);
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Gorlin 症候群は発生異常と易腫瘍形成を特徴とする神経皮膚症候群のひとつである.発生異常として肋骨奇形,皮膚小陥凹,大頭症など,易腫瘍形成として基底細胞癌(BCC),歯原性角化囊胞(OKC),髄芽腫などを認める.日本での発症頻度は1/235,800 である.頻度の高い症状として,OKC(86.3%),大脳鎌の石灰化(79.4%),手掌・足底の小陥凹(69.2%)などがある.欧米との比較において,日本ではBCC の頻度が低く,発症年齢が高年齢であることが特徴的であり,人種差や遺伝的背景,地理的要因などが考えられる.Gorlin 症候群は各症状の好発年齢に応じて適切に検査や治療を行うことが必要である.また,放射線や紫外線への感受性が高いことから,それらに対する曝露を最小限にしていくことが望まれる.早期診断が生活の質(QOL)を維持するために重要である.
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医学のあゆみ 268巻2号, 123-126 (2019);
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Gorlin 症候群は,分泌型蛋白質であるソニックヘッジホッグ(SHH)の抑制性の膜型受容体PTCH1 をコードするPTCH1 遺伝子の変異により生じる常染色体優性遺伝疾患である.発症機序は,PTCH1 の機能喪失変異による半量不全のため生じるSHH 伝達の亢進である.約半数の症例でフレームシフト変異が検出され,ナンセンス変異がそれに次ぐ.スプライシング変異の場合はメッセンジャーRNA(mRNA)の解析が望ましい.大きな欠失は約1 割を占め,その場合はサンガー法によるシークエンスでは変異の検出ができないため,MLPA 法やマイクロアレイ法による解析が必要となる.遺伝子型と表現型の相関は知られていないが,遺伝子欠失の場合その範囲が広く,多くの遺伝子が欠失していると非典型的な症状がみられ,重症となる.ごくまれにSUFU 遺伝子やPTCH2 遺伝子の変異によることもある.SUFU 遺伝子に変異がある場合,髄芽腫の発症リスクがきわめて高い.最近,モザイク症例の報告もあいついでいる.
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医学のあゆみ 268巻2号, 127-131 (2019);
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Gorlin 症候群は,ヘッジホッグシグナル経路の主要抑制因子PTCH1 のヘテロ接合変異によって生じる先天性神経皮膚症候群のひとつである.ヘッジホッグシグナルは,生体発生においては軸発生の重要なオーガナイザーであり,成体においては脳や毛囊における幹細胞の維持において重要な役割を担っている.Gorlin症候群では,ヘッジホッグシグナルの過剰発現により先天奇形や,易腫瘍形成の症状を認める.Gorlin 症候群患者由来の人工多能性幹細胞(iPS)細胞を用いることにより,発生異常や腫瘍発生のモデルを構築し,疾患のメカニズム解明や治療薬開発への道が開ける可能性がある.
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医学のあゆみ 268巻2号, 132-135 (2019);
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Gorlin 症候群は大脳鎌の石灰化,肋骨異常,骨格異常など骨代謝に関連する症状を認める.Gorlin 症候群の骨の病態を示す複数の研究が存在する.Ptch1 のヘテロノックアウトマウスでは,ヘッジホッグシグナルが亢進することで骨密度の増加をきたす.Gorlin 症候群患者由来の人工多能性幹細胞(iPSCs)でも,骨への分化誘導がかかりやすい性質がある.一方で,成熟骨芽細胞特異的Ptch1 ヘテロノックアウトマウスは高骨代謝回転での骨粗鬆症を発症する.また,Gorlin 症候群患者由来のストローマル細胞では,骨分化誘導機能をもつ蛋白が減少していることも報告されている.Gorlin 症候群では骨代謝は影響を受けている可能性が高いが,依然として未解明な点が多く,今後のさらなる研究が期待される.
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医学のあゆみ 268巻2号, 136-139 (2019);
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高発がん性遺伝性疾患であるGorlin 症候群患者の腫瘍を放射線で治療すると,その後何年かたって基底細胞癌や横紋筋肉腫などの二次がんを発生することが知られている.本稿では,Gorlin 症候群に高頻度で発生する髄芽腫に着目し,Gorlin 症候群の原因遺伝子であるPtch1 が関与しているヘッジホッグシグナル経路と放射線応答について,最近の報告をまとめる.また,放射線被ばくによる髄芽腫発生のメカニズムに関する著者らの成果を紹介する.
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医学のあゆみ 268巻2号, 140-143 (2019);
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Gorlin 症候群にはさまざまな合併症が知られているが,根本的な治療はなく,それぞれの合併症に対する治療を行う.先天奇形や腫瘍が治療の対象となるが,腫瘍に対し適切に対処できれば,生命予後は良好である.基底細胞癌(BCC)の治療には外科手術による摘出がおもに行われてきたが,近年ヘッジホッグ経路の阻害薬のうち,SMO 阻害薬であるvismodegib とsonidegib の効果が認められ,FDA の認可を受けた.髄芽腫には多角的な治療が行われるが,放射線療法の放射部位に多岐にわたる腫瘍が発生した報告があり,放射線療法は慎重に行うべきである.角化囊胞性歯原性腫瘍(KCOT)は,非症候性に比べGorlin 症候群患者では再発・悪性化しやすく,十分な摘出が必要である.過度な放射線や日光曝露を避け,腫瘍の早期発見・治療のため,歯科口腔外科や皮膚科などの定期的な診察が必要である.
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連載
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地域包括ケアシステムは機能するか 9
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医学のあゆみ 268巻2号, 149-153 (2019);
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これから日本が迎える超高齢社会の主要な課題の一つは,団塊の世代が75 歳以上となる2025 年と,それ以降の社会の変化への対応である.そのために現在,最期まで住み慣れた家や地域で暮らし続けられるよう,高齢者の生活に根差した医療システムが再構築されている最中だ.具体的には,①市区町村が地区医師会とともに,患者の最期までかかわることができるよう,在宅医療を含めた『地域包括ケアシステム』を推進していく.②同時に,高齢者ケアにかかわる組織や専門職間の連携を円滑にするための対話をしながら,これから急増していく認知症や看取りへのケアの統合を図っていく.③さらに,要介護期前に,日常生活の中で虚弱予防を組み込んでいくことができるよう,市民参加型の新たなコミュニティづくりを進めていく.今後わが国では,高齢者の生活を総合的に支えるこのようなシステムづくりを通じて,活力ある超高齢社会の共創を目指していくことが期待されている.
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医学・医療におけるシミュレータの進歩と普及 6
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医学のあゆみ 268巻2号, 154-158 (2019);
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◎私が“ハーヴェイ君”にはじめて出会ったのは,1971 年10 月である.アメリカ心臓病学会の本部「ハート・ハウス」で,ハーヴェイ教授主宰の第1 回セミナー『ベッドサイドにおける心臓病患者の診かた』に出席したが,静かに語り続けるハーヴェイ教授の姿に,私は教育に賭ける“マスター・ティーチャー”の姿を見た.そして彼の弟子であるゴードン教授らのチームが作り上げた心臓病患者マネキン“ハーヴェイ君”が会場に登場したとき,私は思わず目を見張った.“ハーヴェイ君”は,人と等身大のマネキンであり,呼吸音,頸静脈波の視診,頸動脈,全身動脈や心尖拍動を触れることができ,聴診もシミュレータに具備された聴診器を使って行うことができた.私がずっと頭に描いてきた,ベッドサイド診断法を自学自習できる“ハーヴェイ君”を目の当りにして,「これこそ臨床教育に必要なものだ」と確信した.そして1989 年,ついに“ハーヴェイ君”を大阪に導入することができた.
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TOPICS
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再生医学
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医学のあゆみ 268巻2号, 144-145 (2019);
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免疫学
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医学のあゆみ 268巻2号, 145-146 (2019);
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消化器内科学
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医学のあゆみ 268巻2号, 146-148 (2019);
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FORUM
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『当直医マニュアル』出版30 周年 記念座談会
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医学のあゆみ 268巻2号, 159-165 (2019);
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◎『当直医マニュアル』(小社刊)は2018 年で,初版発行より30 周年という記念すべき年を迎えた.本書は1988 年の初版発行以来,これまで30 年間で21 回の改訂を重ね(2019 年版で第22 版),「第一線の当直医療の現場」を担う研修医必携の書として多くの読者の好評を得て,わが国のプライマリ・ケア領域のマニュアル書籍の中で確固たる地位を築いてきた.これを機に,初版より現在まで一貫して編集委員会を主導してこられた小畑達郎先生をはじめ,初代編集委員の近藤克則先生,小松孝充先生に加えて,わが国の救急医療と臨床研修を牽引してこられた箕輪良行先生の4 名にお集まりいただき,『当直医マニュアル』30 年のあゆみを大いに語っていただいた.
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パリから見えるこの世界 75
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医学のあゆみ 268巻2号, 166-170 (2019);
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