Volume 268,
Issue 5,
2019
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【2月第1土曜特集】 動脈硬化UPDATE
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医学のあゆみ 268巻5号, 311-311 (2019);
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基礎
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医学のあゆみ 268巻5号, 314-318 (2019);
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PCSK9 は2003 年に家族性高コレステロール血症の3 番目の原因遺伝子として同定され,PCSK9 阻害薬は既存治療薬で効果不十分であった患者の心血管イベント抑制する薬剤として,すでにわが国でも使用されている.そのLDL コレステロール(LDL-C)低下効果は主として肝におけるLDL 受容体活性の最大化によるが,PCSK9 自体は肝細胞以外にも作用し,また標的分子はLDL 受容体に限らない.PCSK9阻害薬は多面的に動脈硬化疾患を抑制する可能性があるが,新規機序による薬剤でもあり,詳細は今後の研究により明らかとされるであろう.
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医学のあゆみ 268巻5号, 319-323 (2019);
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近年,脂肪酸の量的・質的制御がどちらも動脈硬化の進展に重要な役割を果たすことが明らかになってきた.肝において過栄養下で誘導される転写因子SREBP-1 による脂肪酸合成の活性化は,中性脂肪を多く含む大型のVLDL 産生を引き起こし,リポ蛋白質プロファイルの変化を介して動脈硬化形成を促進する.また,脂肪酸の鎖長に着目すると,脂肪酸伸長酵素Elovl6 の欠損マクロファージでは脂肪酸組成の変化に起因してコレステロールエステルの蓄積が抑制され,動脈硬化の形成が抑制される.一方,脂肪酸の不飽和度の違いは炎症の制御に重要な役割を果たしており,パルミチン酸やステアリン酸などの飽和脂肪酸はマクロファージなどの自然免疫細胞においてNLRP3 インフラマソームを活性化することで炎症応答を惹起する.脂肪酸代謝酵素への介入や,食事による脂肪酸組成の是正は,脂質代謝や炎症の制御を介した動脈硬化の予防・治療の糸口になることが期待される.
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医学のあゆみ 268巻5号, 324-328 (2019);
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総コレステロール(TC)値を25~30%低下させても心血管イベントが30%程度減少するにすぎず,現実にはまだ動脈硬化性心疾患発症リスクが残っている.これをresidual risk(残余リスク)といい,血液中の低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)の高値以外を成因とするリスクがあると考えられる.その中で炎症反応が心筋梗塞の発症に寄与している可能性が以前から指摘されており,さまざまな炎症性サイトカインが関与していると考えられている.最近ではinterleukin-1β(IL-1β)からinterleukin-6(IL-6)を経る炎症過程が心血管疾患の発症と関係があると考えられるようになっている.IL-1βを介して炎症を抑えるモノクローナル抗体Canakinumab(カナキヌマブ)によって,心筋梗塞の既往患者で心血管イベント(非致死性心筋梗塞,非致死性脳卒中,心血管死)の発生が15%低下することが確認された.心血管疾患に対する抗炎症療法は今後の展開に強い期待が寄せられる.
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医学のあゆみ 268巻5号, 329-332 (2019);
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動脈硬化病変のマクロファージには,プロテアーゼ活性を持たないカルパインファミリーメンバーであるカルパイン-6 が高発現している.カルパイン-6 は細胞質で,エクソン-ジャンクション複合体(EJC)を核内にエスコートする蛋白質であるCWC22 と結合することにより,EJC の核内への移行を阻害し,EJC の下流にあるRca1 の発現を抑制する.その結果,Rac1 によって負に制御されている受容体非依存性細胞外物質取込み機構であるピノサイトーシスが亢進し,LDL によるマクロファージの泡沫化が加速する.一方,マクロファージは動脈硬化病変におけるアポトーシス細胞をエフェロサイトーシスという機能により処理し,局所の炎症を抑制するという多面的役割を持っている.
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医学のあゆみ 268巻5号, 333-337 (2019);
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microRNA(miRNA,miR)研究の進展から,循環器疾患における詳細な働きが明らかにされつつある.遺伝子改変マウスを用いた検討により,生体内での複雑な機能が報告されてきた.動脈硬化の分野においても,リポ蛋白の恒常性やマクロファージの活性化に関わるmiRNA が数多く明らかとなっている.そのなかでも,miR-33a/b はその両方に関与することが報告されており,治療標的としては効率がよい可能性がある.今後,合成核酸を用いたmiRNA 制御法の発展により,従来の小分子薬物では不可能であったような治療法の開発に対する期待も高まっている.
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医学のあゆみ 268巻5号, 338-342 (2019);
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血管新生や幹細胞の維持に重要なアンジオポエチン(ANGPT)に類似する構造的特徴(N 末にcoiledcoilドメイン,C 末にfibrinogen-like ドメイン)を有する分泌蛋白質が,1990 年代後半に複数報告された1).アンジオポエチン受容体Tie2 やそのファミリーであるTie1 に結合できないため,アンジオポエチン様因子(ANGPT-like:ANGPTL)と命名され,現在までにANGPTL 1~8 の8 種のファミリー分子が同定されている(図1).本稿では,心血管疾患の病態生理におけるANGPTL2 の役割,およびANGPTL3 のトピックスについて概説する.
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医学のあゆみ 268巻5号, 343-348 (2019);
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ヒトは血管とともに老いる,といわれるように,動脈硬化性疾患はわが国において死因の第2 位を占める.動脈硬化性疾患は自然免疫と獲得免疫の両者が関与している慢性炎症性疾患のひとつであり,抗体医薬を用いた治療がすでに実臨床に登場している.しかし,心筋梗塞や脳梗塞の発症は急性であり,おおよそ慢性炎症という言葉からはかけ離れたもので,発症を予知することは困難である.さらに高血圧,糖尿病,脂質異常症,肥満,喫煙などの動脈硬化性疾患発症の危険因子に対する適切な介入後も動脈硬化のリスクは残存しており,それら残余リスクの解明と動脈硬化に対する新規予防法・治療法の開発はわれわれ循環器内科医の使命である.近年の研究により,腸内細菌は生体恒常性維持のマスター臓器と考えられており,本稿では,腸内細菌と動脈硬化性疾患について著者らの研究成果も交えながら概説し,腸内細菌に対する介入が,増加する動脈硬化性疾患への切り札となるのか,考察していきたい.
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医学のあゆみ 268巻5号, 349-354 (2019);
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脂肪酸結合蛋白ファミリーのうちFABP4 とFABP5 は脂肪細胞とマクロファージに存在し,インスリン抵抗性や動脈硬化の成因に深く関わる.著者らは以前,マウスにおいてFABP4 阻害薬の有効性を報告した.FABP4 はシグナルペプチドを有さないものの脂肪細胞から脂肪分解とともに分泌され,アディポカインとして生理活性を有することが示されている.血中FABP4 濃度は肥満,糖尿病,脂質異常症,高血圧,心不全,動脈硬化,心血管死と関連する.また近年,血管内皮細胞の障害や老化によりFABP4 が異所性に発現し,病態と関連することが示唆されている.一方,FABP5 も細胞から分泌され,生理活性作用を有することが示されている.血中FABP5 濃度は動脈硬化と関連するが,FABP4 とは異なりマクロファージにおけるコレステロール排泄能と独立して負に相関することが示されている.FABP4 およびFABP5 は動脈硬化に対する新たな治療ターゲットとして期待される.
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医学のあゆみ 268巻5号, 355-358 (2019);
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肥満,とくに内臓脂肪の過剰蓄積は,動脈硬化を代表とする心血管病の重要な発症基盤である.脂肪組織はアディポサイトカインと総称される生理活性物質を分泌する内分泌臓器であり,肥満状態ではアディポサイトカインの産生異常が引き起こされ,心血管疾患の進展につながることが明らかになってきた.アディポサイトカインの多くは肥満により産生が増加し,肥満合併症の進展に寄与するが,肥満合併症に対して防御的に作用するアディポサイトカインも存在する.本稿では,心血管疾患に対して保護的作用を有する新しいアディポサイトカインについて紹介する.
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医学のあゆみ 268巻5号, 359-364 (2019);
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寒冷に恒温動物が曝されると,交感神経が活性化し,褐色脂肪細胞とよばれる熱産生を行う脂肪細胞が急速な熱産生を誘導する.同時に,脂肪燃焼・熱産生に関わる遺伝子の発現を急速に誘導し,熱産生の能力を最大限に引き出す.この急性のストレス反応は生命維持に必須の応答である.一方,寒冷環境が長期に持続すると,皮下の白色脂肪組織に熱産生を行うベージュ脂肪細胞と命名された褐色化した脂肪細胞が誘導されてくる.この現象は白色脂肪組織の“ベージュ化”ともよばれ,慢性的な寒冷環境に適応する重要な仕組みである.褐色脂肪細胞とベージュ脂肪細胞は活発にエネルギーを消費するため抗肥満効果を有する.褐色脂肪細胞と異なり,白色脂肪細胞では熱を産生する遺伝子は働いていない.それではなぜ,長期の寒冷刺激によって,働いていない白色脂肪組織の熱産生に関する遺伝子が働くようになるのか.この謎を解く鍵が“エピゲノム”とよばれる,遺伝子のさらに上位にある調節機構である.
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医学のあゆみ 268巻5号, 365-368 (2019);
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脂質代謝異常および動脈硬化の研究において,実験動物モデルの使用は不可欠な手法である.約100年前からロシアの研究者がはじめて高脂肪食を負荷したウサギを用いた動脈硬化の研究を行って以来,さまざまな動物モデルが使われてきたが,現在では動脈硬化の研究においては遺伝子改変マウスが最も一般的な研究ツールとなっている.しかし,動脈硬化の機序解明を目的とした基礎研究と,動脈硬化の新規診断法および治療法開発を目標とする臨床橋渡し研究のうえで,実際にどの実験動物モデルを選択するか,使用される実験動物モデルから得られた研究結果をどのように解釈するのかに関してはまだ多くの問題が残っている.とくにヒトの動脈硬化は,複雑な遺伝要因と種々な環境因子の相互作用によって長い年月をかけて進展する疾患であり,最終的に合併症である心筋梗塞や脳卒中の発症につながる.残念ながら,現在の実験動物モデルではヒトの動脈硬化複合病変や合併症などを再現できず,多くの研究成果はヒトに応用できないのが現状である.本稿では脂質代謝異常と動脈硬化研究における実験動物モデルの現状および今後の課題について概説したい.
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医学のあゆみ 268巻5号, 369-373 (2019);
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NAFLD/NASH 患者において,心血管イベントは高率に発症する.NAFLD/NASH と動脈硬化症に共通する脂質異常症として,低HDL-C 血症,高TG 血症が知られているが,最近small, dense LDL の増加も報告されている.NAFLD/NASH に蓄積する脂質は,肥満や2 型糖尿病を背景としてTG が示唆されているが,コレステロール合成系のデスモステロールの蓄積の報告もある.NAFLD/NASH と動脈硬化症の発症に共通する分子メカニズムとして,TTC39B を介した核内受容体LXR の調節低下が報告されており,動脈硬化症を合併するようなNAFLD/NASH 患者においては,よりコレステロール系の蓄積が,共通する分子メカニズムとして関与している可能性がある
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診断
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医学のあゆみ 268巻5号, 376-379 (2019);
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日本独自の技術である血流維持型汎用性血管内視鏡は,冠動脈を中心にその病態解明の役割を果たしてきた.数年前にdual infusion 法ができ,大動脈の観察が可能になった.すると,自然破綻プラークがこれまで考えられていたよりもはるかに高い頻度で同定され,puff-chandelier タイプの破綻プラークをサンプリングすると,アテローム,フィブリン,マクロファージ,石灰化が同定された.また,アテローム内の成分のひとつであるコレステロール結晶は空洞像であると考えられてきたが,それを可視化することに成功した.偏光顕微鏡で観察するとアテロームからはずれて,遊離する単層および重層の結晶が認められた.日常的に飛散するasymptomatic subclinical accumulation plaque(ASAP)が,臓器の機能低下に関わる,すなわち原因不明の脳梗塞であるESUS,認知症,慢性腎臓病(CKD),サルコペニアをはじめとして,老化に関わるものの一部が説明できるのではと推測される.
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医学のあゆみ 268巻5号, 381-387 (2019);
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医学は“見える化”とともに進化を遂げてきた.血管内治療は薬剤溶出性ステントの登場で一種の踊り場を迎えたかに見えるが,そもそもの原因である動脈硬化という視点に立つと,いまだ解決をみない課題は数多い.著者らは,血管内イメージングという観点から敵を知るためのツールとして,多結晶ガラスファイバーの技術を導入した世界最小径の血管内視鏡カテーテル,さらにイメージセンサーを先端に搭載した世界初の次世代電子血管内視鏡カテーテルを開発・実用化し,臨床の場に投入した.今後,動脈硬化性疾患においても予防医療に軸足が移りゆくなかで,脂質のコントロールはガイドラインによる一律の数値目標のみならず,個々の患者に対しどのようなアプローチがよいかという個別評価が求められる時代になると予測する.心臓カテーテルと内視鏡の融合により血管内視鏡が生まれて30 年になるが,新たな医薬品と新たな医療機器の融合により,動脈硬化に対する新たな診断と治療が生まれる時代が訪れつつある.
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医学のあゆみ 268巻5号, 388-392 (2019);
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家族性高コレステロール血症(FH)は,①高LDL コレステロール(LDL-C)血症,②早期の冠動脈疾患,③腱・皮膚の黄色腫,の3 つがおもな特徴となっている.成人(15 歳以上)FH ヘテロ接合体の診断基準としては,高LDL-C 血症(未治療時のLDL-C 180 mg/dL 以上),腱黄色腫(手背,肘,膝など,またはアキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫,FH あるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2 親等以内)となっている.FH 患者のアキレス腱肥厚の診断については,アキレス腱X 線撮影が施行されてきた.肥厚の有無については,左右のアキレス腱が9 mm 以上を所見として取り扱われてきた.今回アキレス腱X 線撮影について,われわれ診療放射線技師を中心として詳細な検討を行い,FH 診断のためのアキレス腱肥厚測定技術の開発を行った.
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検査
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医学のあゆみ 268巻5号, 394-398 (2019);
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コホート研究において脂質異常症,とくに高コレステロール血症が冠動脈疾患を代表とした動脈硬化性心血管疾患のリスクになることが明らかにされて以降,標準脂質低下薬としてのスタチンをはじめエゼチミブとPCSK9 阻害薬が臨床使用されている.著者らの研究グループはエゼチミブの酸化ステロール吸収阻害効果に着目し,冠動脈内皮機能をアウトカムとした臨床試験CuVIC Trial でその有用性を検討した.現在,脂質管理においてはLDL コレステロール値が重視されているが,腸管吸収阻害を含めた脂質低下のメカニズムによる臨床効果の差異についても検討が進んでいる.
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医学のあゆみ 268巻5号, 399-401 (2019);
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空腹時血清トリグリセリド(TG)値の高値は動脈硬化性疾患のリスク上昇と関連するが,食後TG 値の上昇はより鋭敏に心血管イベントの発症と相関する.この食後高脂血症の状態では小腸由来でTG がリポ蛋白内に残存するカイロミクロンレムナントが蓄積しており,動脈硬化惹起的な状態にある.著者らは,カイロミクロンレムナントを定量的に評価しうる血清アポリポ蛋白B-48 濃度測定系を世界に先がけて開発した.空腹時アポB-48 濃度はこれらレムナントの蓄積するさまざまな疾患で上昇し,その測定によりレムナント蓄積の定量的評価が可能である.また頸動脈肥厚や冠動脈狭窄罹患率と有意な正相関を示すことから動脈硬化性疾患のリスク評価に有用であり,同時にさまざまな治療により減少することからレムナントの抑制効果を評価する指標となりうる.今後,動脈硬化性疾患の有効なリスク評価マーカーとなりうると期待される.
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医学のあゆみ 268巻5号, 403-408 (2019);
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トリグリセリド(TG)含有リポ蛋白(TGRL)は,リポ蛋白リパーゼ(LPL)によってTG が加水水解されることにより代謝される.LPL やその活性化因子であるアポリポ蛋白C-Ⅱ(APOC2)の遺伝的欠損は,カイロミクロン(CM)などTGRL の異常蓄積をきたす疾患である原発性高CM 血症の原因として古くから知られている.アポリポ蛋白A-Ⅴ(apoA-Ⅴ;遺伝子名APOA5)は2001 年に同定された比較的新しいアポリポ蛋白であるが,TGRL 代謝や動脈硬化において重要な役割を果たすことが次々と明らかになってきている.その欠損は原発性高CM 血症のような重度な高TG 血症の原因となるだけでなく,その遺伝子変異は動脈硬化のリスクとなる.APOA5 遺伝子変異は,早発性心筋梗塞のリスクとして低比重リポ蛋白(LDL)受容体(LDLR)遺伝子変異に次ぐとの報告もある.apoA-Ⅴはどのような蛋白で,どのような機能を持ち,その欠損はどのようなメカニズムで高TG 血症を発症するのか? apoA-Ⅴ欠損症の高TG 血症は二次的・環境要因(糖尿病,食事過多,加齢など)によって著しく悪化するという特徴があるが,著者らはこの過程に脂肪酸・TG 合成系酵素群を制御する転写因子SREBP-1c が重要な役割を果たすことを明らかにしてきた.本稿では,apoA-Ⅴをめぐる近年の知見と今後の課題を展望したい.
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臨床
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医学のあゆみ 268巻5号, 410-414 (2019);
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糖尿病は細小血管障害のみならず,虚血性心疾患などの動脈硬化疾患の重要なリスク因子である.しかし,血糖改善が虚血性心疾患の発症を十分に予防できないことも複数の大規模臨床試験で示されている.糖尿病における虚血性心疾患の予防には血糖管理を良好に保ってもなお存在する残余リスクへの介入が必要である.糖尿病に合併する脂質代謝異常として,高トリグリセリド(TG)血症,低HDL コレステロール(HDL-C)血症,small dense LDL の増加,レムナントの増加などがあり,これらは動脈硬化惹起性リポ蛋白異常である.糖尿病に伴うリポ蛋白代謝異常の改善は動脈硬化予防治療の中心である.本稿では,糖尿病におけるリポ蛋白異常の発症機序とその治療について解説する.
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医学のあゆみ 268巻5号, 415-419 (2019);
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HDL コレステロール(HDL-C)の低値が動脈硬化性疾患の危険因子であることはよく知られているが,健診などで偶発的に見つかる超高値のHDL-C をどう取り扱うかについては一定の見解が示されていなかった.初期の横断研究ではCETP 欠損症の話に焦点が当てられ,日常診療でのカットオフポイントを探ろうという動きにつながりにくい状況があった.その後,高HDL-C のレベルに焦点を当てたいくつかのコホート研究が行われ,70 mg/dL 以上でまとめると脳・心血管疾患のリスクは低いが,カットオフ値を80 mg/dL に上げるとリスクの低下を認めず,さらに90 mg/dL 以上にするとむしろリスクが上昇する可能性が示されている.したがってプライマリケアの現場でこのような症例に遭遇した場合,動脈硬化性疾患の家族歴や既往歴を確認して,頸動脈エコーなどの非侵襲的な検査などを行い,潜在的なリスクがないかどうかを確認することが望ましい.また超高値のHDL-C だけに目を奪われることなく,最優先目標であるLDL コレステロールの管理を徹底することが動脈硬化性疾患の予防のためには重要である.
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医学のあゆみ 268巻5号, 420-425 (2019);
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高比重リポ蛋白コレステロール(HDL-C)値の低値は,動脈硬化性心血管病の独立した危険因子である.HDL 粒子は動脈硬化プラークよりコレステロールを引き抜き,プラークを退縮させるが,引き抜かれたコレステロールはコレステリルエステル転送蛋白(CETP)によりApoB 含有リポ蛋白に転送され,LDL 受容体を介して肝へ回収される.CETP 欠損症では著明な高HDL-C 血症を認めるが,CETP 欠損が動脈硬化に及ぼす影響に関する疫学的検討については,これまで相反する結果の報告がなされてきた.著者らはCETP 欠損症が多数集積する秋田県大曲地方での検討から,CETP 欠損に起因する高HDL-C 血症ではむしろ動脈硬化性疾患が増加する可能性を,世界に先がけて提唱してきた.近年,HDL-C 値を上昇させる治療としてCETP 阻害薬の開発と臨床試験があいついで実施されたが,ほとんどの薬剤においてイベント抑制効果がなく,事実上開発中止となっている.今後,単なるHDL-C 値の上昇ではなく,HDL粒子の機能に着目した治療法の研究が進むものと考えられる.
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医学のあゆみ 268巻5号, 426-431 (2019);
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高比重リポ蛋白コレステロール(HDL-C)値は心血管疾患の負の危険因子であり,新たな治療標的として期待されてきた.しかし,HDL-C 値はコレステロール逆転送系のスナップショットにすぎず,かならずしも高ければよいというわけではないことが,近年明らかになってきた.一方,HDL のコレステロール引き抜き能が心血管病のリスク層別化に有用であるという報告があいついでいる.ただし,コレステロール引き抜き能の評価には培養細胞や煩雑な手技を要すること,また測定法が標準化されていないこともあり,限られたコホート研究での報告にとどまっている.本稿ではコレステロール引き抜き能について概説するとともに,臨床応用に向けた取組みについて紹介する.
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医学のあゆみ 268巻5号, 432-436 (2019);
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脳心血管病の発症には明らかな性差とその加齢変化がある.つまり,若年成人では男性に比べて女性では脳心血管病の発症は少なく,閉経期以降に女性の脳心血管病の発症率が増加して年齢とともに性差が小さくなる.危険因子である高血圧,脂質異常症,糖尿病,動脈硬化指標についても同様の傾向がみられる.脳心血管病の発症予防効果をみたスタチンなどの薬物介入試験では,総じて治療によるリスク低下率には性差を認めない.しかし,非高齢女性では絶対リスクが低いため,ガイドラインでは管理目標を男性より緩くしている.一方,高齢者では治療目標の性差がほとんどなくなる.
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治療
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医学のあゆみ 268巻5号, 438-442 (2019);
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Proprotein convertase subtilin/kexin type 9(PCSK9)はLDL 受容体の分解を促進するため,PCSK9 遺伝子の機能獲得型変異は家族性高コレステロール血症を発症させ,逆に,機能喪失型変異は低LDL コレステロール(LDL-C)血症と動脈硬化リスク低下を呈する.すでにわが国における抗PCSK9 抗体医薬の発売から2 年以上経過した現在において,PCSK9 を標的にした核酸医薬の開発も進められている.PCSK9 のsiRNA であるinclisiran は,すでに第Ⅱ相試験も終了し,抗体医薬以外では最も開発が進んでいる.また,アンチセンスオリゴヌクレオチドも,著者らを含むいくつかのグループで開発が進められている.抗体医薬とinclisiran の臨床場面での違いは投与回数であるが,利便性,安全性,経済性についての議論が今後必要である.また,合成・分泌を妨げないが肝以外の全身の細胞から分泌されたPCSK9 もすべて標的にする抗体医薬と,肝のみに作用してPCSK9 の合成・分泌そのものを阻害する核酸医薬の違いの意義は今後の課題である.さらに,PCSK9 阻害薬がアフェレシスの代替治療となりうるかも検討が必要である.
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医学のあゆみ 268巻5号, 443-447 (2019);
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動脈硬化性疾患の予防・治療のための脂質低下治療にスタチンが中心的な役割を演じてきたが,大規模臨床試験の結果,スタチンにより低下するリスクは20~30%であり,スタチン治療後においてとくに高トリグリセリド(TG)血症,低HDL コレステロール(HDL-C)血症が残存する場合にはイベントの発生を十分に抑制しにくいことが明らかとなった.高TG 血症に対して使用する薬物としてはフィブラートが主として使われてきたが,腎機能障害の際の懸念から,より安全性が高く,効果の強いフィブラート系薬剤開発のニーズがあり,選択的PPARαモジュレーター(ペマフィブラート)が開発された.ペマフィブラートはヒトPPARαに対して非常に高い選択性を有するアゴニストとして同定されたが,ペマフィブラートは既存のフィブラートと同程度のTG 低下,HDL-C 上昇効果を示し,安全性が高いことが示された.現在進行中の大規模臨床試験の結果が期待される.
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医学のあゆみ 268巻5号, 448-451 (2019);
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心血管病(CVD)のいわゆる残余リスクのひとつとして低HDL コレステロール(HDL-C)血症があり,これまでにHDL をターゲットにした薬物の開発と多くの臨床試験が行われてきた.CETP(cholesterylester transfer protein)欠損症による高HDL-C 血症はかならずしも長寿ではなかったが,CETP 阻害薬が開発され,CVD 発症抑制効果を検討する大規模臨床試験が行われた.その結果,アナセトラピブ以外のCETP 阻害薬は,血中HDL-C レベルを大きく上昇させたものの,CVD 発症はむしろ増加したか変わらないという結果であった.唯一アナセトラピブはCVD 発症を有意に抑制したが,かならずしもHDL-Cレベルの上昇で説明されるものではなく,結局開発は中止になった.ほかにもナイアシンに加えて,アポA-ⅠやHDL の模倣薬も開発されたが,現状ではHDL をターゲットにした,CVD 発症を抑制する有効な薬物はない.HDL をターゲットにした薬物ではないが,プロブコールはHDL-C レベルを低下させるものの,コレステロール逆転送系を賦活化させて動脈硬化進展を抑制することから,今後はHDL の量とともに質(機能)も考慮に入れた研究・開発が重要と思われる.
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医学のあゆみ 268巻5号, 452-456 (2019);
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LDL コレステロール低下薬であるスタチンは,動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)予防に欠かせない薬物である.しかし,服用継続困難(不耐)例はまれではなく,不耐の正しい認識と適切な対処はASCVD 予防に求められる医療技術のひとつである.不耐理由としては筋障害と肝障害が重要であり,前者では反偽薬(ノセボ)効果が関与することを念頭に,十分な説明に基づく患者-医師関係を基盤とした診療姿勢が重要であろう.軽度の肝機能異常については投薬継続での経過観察が十分可能とされている.筋ならびに肝に関連した有害事象のメカニズムは解明不十分であるが,スタチン以外のLDL コレステロール低下療法としてPCSK9 阻害抗体薬が適応拡大申請中であるなど,今後の進展が期待されている.
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医学のあゆみ 268巻5号, 457-461 (2019);
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2017 年,動脈硬化性疾患予防ガイドラインが5 年ぶりに改訂された.本ガイドラインでは近年の研究の進歩を受け,主として冠動脈疾患予防の観点から,脂質異常症を中心にさまざまなリスクファクターの管理について記述している.2012 年以前のガイドラインとの比較では,①Clinical question(CQ)とSystematic review(SR)の導入,②絶対リスクの算出,③高リスク状態の追加,④二次予防における高リスク病態での厳格なLDL コレステロール(LDL-C)管理,⑤家族性高コレステロール血症(FH)の記載の拡充,⑥エビデンスレベルと推奨レベルの導入,などを新たな特徴としている.本稿では,『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017』1)の概要を説明するとともに,次期改訂へ向けての課題を考えたい.
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医学のあゆみ 268巻5号, 462-465 (2019);
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わが国においても高齢化や生活習慣病が引き金となる動脈硬化性疾患の罹患率は増加の一途をたどり,その対策は急務となっている.その一病態である末梢性動脈疾患(閉塞性動脈硬化症やBuerger 病,膠原病に伴う血管炎)に対しては,治療ガイドラインなどにより生活習慣改善の指導,薬物療法,血行再建術(血管内治療・外科的バイパス術)などの集学的治療が推奨されているが,これらの治療を行ってもなお下肢切断が免れない患者も少なからず存在する.また,末梢性動脈疾患を罹患した患者は生活の質(QOL)が障害されるばかりではなく,生命予後もきわめて悪いことが知られている.著者らが開発から普及に積極的に取り組んでいる“血管再生療法”とは,虚血組織において毛細血管レベルでの血管再生を人為的に促進させる治療であり,従来の治療法では救肢が不可能な症例に対する新しい治療として世界中から注目され,治療選択肢のないこれらの患者から期待されている.本稿では,重症虚血肢に対する血管再生療法の開発から変遷,さらに著者らが現在取り組んでいる“脂肪組織由来間葉系前駆細胞を用いた血管再生療法”の現状と今後の展望について概説する.