医学のあゆみ
Volume 268, Issue 7, 2019
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特集 血糖管理の新展開─CGM・ポンプ・データマネジメントシステム指導から人工膵臓まで
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HbA1c,SMBG を超える血糖管理の視点
268巻7号(2019);View Description Hide Description最近,持続血糖測定(CGM)やフラッシュグルコースモニタリング(FGM)の登場により,しばしば“BeyondHbA1c・SMBG”といわれる.その理由は,糖尿病治療の指標として長年用いられてきたヘモグロビンA1c(HbA1c)と血糖自己測定(SMBG)の限界が再認識され,新技術に期待が集まっているからである.血糖管理指標として,HbA1c は中長期的な指標として優れており,血糖管理目標の中心に据えられている.しかし,HbA1c は低血糖や血糖変動を捉えられないので,日々の治療に直接活かすことは難しい.HbA1c を正常に近づけることが強調されるあまり,重症低血糖が増えた可能性も指摘されている.SMBG は食後血糖上昇や低血糖を確認でき,インスリン調節に利用できるが,測定回数が限られるため血糖変動全体を表すことはできない.CGM とFGM は,HbA1c とSMBG の限界を超えながら補完する新技術である.一方,新技術により血糖管理のデータは膨大となり,医療スタッフも患者も十分活用できない可能性がある.新しい時代に向けて,医療スタッフは膨大化するデータを指導に活かす力を高めなければならない. -
新しいインスリンポンプの特徴と選択のポイント
268巻7号(2019);View Description Hide Description日本にインスリンポンプ療法(以下,ポンプ療法)が導入されてからおよそ40 年が経過し,デバイスは進化を続けている.“治療困難な患者に対しての高度で管理の難しい治療”と思われていたポンプ療法も,機能面・利便性がはるかに向上して,もはや“難しい”ものではなくなってきた.ただインスリンを注入するだけでなく,グルコース値を連続して測定する持続血糖測定(CGM)機能と連動したポンプ,SAP が登場し,アラートを鳴らし,インスリンを自動で停止することも可能となった.また,チューブのないパッチポンプも登場してきている.一方で,その多様性が,馴染みのない者にとって利点・欠点の見極めを難しくしているのも確かである.今回,新規デバイスとして注目すべき3 社3 機種の特徴とその使い分けのコツについて,1 型糖尿病患者に対してインスリンポンプを多数導入してきた当科の経験を踏まえて概説したいと思う. -
SAP の進歩による低血糖予防効果
268巻7号(2019);View Description Hide Description持続皮下インスリン注入(CSII,通称インスリンポンプ)機器に,リアルタイムCGM 機能を付帯させて,両者の長所を活用しようと考えるのは当然の流れである.本機器はsensor augmented pump(SAP)とよばれている.両者を連動させることにより,低血糖をできるだけ減らすことのできる(具体的にはCGM のデータから低血糖の発症を予測し,事前にインスリン注入を停止する)機器が,わが国においても2018 年から使用可能となった.このことは,わが国におけるインスリン治療が次世代に突入したことを意味する.アメリカでは低血糖のみならず,高血糖をできるだけ減らせる(CGM のデータから低血糖・高血糖を予測し,事前にインスリン注入を停止・追加注入する)機器が2017 年から発売された.この事実は小型の人工膵臓が実用化されたことを意味する.本稿では,CGM 機器の現状に加え,とくに低血糖をできるだけ減らすことのできるSAP 機器のポテンシャルを中心に触れたい. -
ポンプ治療におけるフラッシュグルコースモニタリング(FGM)活用の実際
268巻7号(2019);View Description Hide Descriptionフラッシュグルコースモニタリング(FGM)は,近距離無線通信(NFC)の技術を利用して,指先の穿刺なしに皮下グルコース値を把握できる持続血糖モニタリング(CGM)デバイスのことを指す.工場による較正により2 週間の安定した精度を保つことから,ほかのCGM デバイスのように実測の血糖値による補正は必要ないとされる.そのときのグルコース値だけでなく,今の値が上昇傾向にあるか低下傾向にあるかが矢印で示され,グルコース値のトレンドもグラフで表示されるため,血糖値を“点”から“線”で把握することが可能である.微細なインスリン調整のできるインスリンポンプ治療(CSII)とFGM を組み合わせることにより,血糖トレンドを確認しながら基礎インスリンの注入プログラムの微調整,追加インスリン量の調整を行うことにより,1 型糖尿病患者のさらなる血糖コントロールの改善が期待できる. -
新規デバイスのデータを統合して行うデータマネジメントシステム指導
268巻7号(2019);View Description Hide Description血糖変動幅と低血糖を反映できないHbA1c の弱点は血糖自己測定(SMBG)が補ってきたが,測定ポイントが1 日数点に限られていた.持続血糖モニタリング(CGM)とフラッシュグルコースモニタリング(FGM)の進歩により,HbA1c とSMBG の弱点が克服され,糖尿病患者自身がリアルタイムかつ持続的に血糖値として捉えることができるようになり,治療の安全性が著しく高まった.しかし,CGM もFGM の結果も,食事や運動などのデータと統合して評価しなければ,血糖変動の結果をみるだけで原因の究明と改善につなげることは難しい.従来,食事・運動の内容や量,注射量は本人の記憶やメモに頼っていたため曖昧であったが,これらのデータとSMBG を一画面に表示できるアプリ(スマートe-SMBG)が実用化されている.このアプリの諸データとCGM,FGM の曲線を,PC 上で統合して表示できるソフトの開発に著者は参加し,実用化を進めている.このようなデータ統合により,血糖に影響する生活習慣と薬物治療を統合して把握できることで,患者も血糖変動の原因を理解しやすくなる.また,24 時間の変動と原因が納得できれば,治療修正を受け入れやすくなる.現在,このようなデータを統合して患者指導することをデータマネジメントシステム指導(DMS 指導TM)と名づけ,広く臨床で用いられるよう開発を進めている. -
各種デバイスのデータ活用─グルコースデータを個から地域へ活かす
268巻7号(2019);View Description Hide Description糖尿病診療において,めざましい勢いで先進的な医療機器が開発・導入されている.持続グルコース測定器,インスリンポンプがその代表で,その進歩は著しく,1 型糖尿病患者を中心に新しい診療体系の確立が進んでいる.リアルタイムの経時的グルコース変動の情報は,患者自身が現在のグルコース濃度の絶対値とともに,その値が上昇・下降のトレンドとして瞬時に認知でき,治療に速やかに活用できる.これまでの血糖自己測定機器を含め,測定された血糖データは情報通信技術(ICT)の進歩とともに個人健康記録(PHR)を利用して,情報を自分自身で保持・携帯することが可能となり,自己管理ツールから患者-家族-医療者間での遠隔情報共有のコミュニケーションツールにまで発展している.これにより,リアルタイムデータを用いた遠隔診療も現実のものとなった.また,持続血糖モニタリングのデータは生活習慣に対する多くの気づきを与えてくれるため,保健指導のツールとして期待されはじめている. -
人工膵臓による血糖管理:外科の立場から─ 外科周術期の人工膵臓療法の現状と将来展望
268巻7号(2019);View Description Hide Description外科的糖尿病の本態はストレス誘導性高血糖であり,手術侵襲に伴う炎症性サイトカインや酸化ストレスが引き金となって発症する.ストレス誘導性高血糖は,インスリン分泌能の低下やインスリン抵抗性の悪化を伴う糖毒性の要因となる.この糖毒性の悪化により,細胞障害,組織障害が進行するだけでなく,最悪の場合は臓器障害に陥り,多臓器不全にまで至る.従来のsliding-scale 法に代表されるマニュアル式血糖管理法の問題点は,①周術期のストレス誘導性高血糖,②厳密な血糖管理に伴う低血糖発作,③手術成績に悪影響を及ぼす血糖変動を適宜コントロールできないこと,である.著者らはこうした問題点を解決するためにベッドサイド型人工膵臓(STG-55®,日機装社®)を用いた人工膵臓療法を開発した.本法は2016 年,“人工膵臓療法”として保険適用となった. -
人工膵島による血糖管理─ いかにして,厳格な血糖管理を可能とするか
268巻7号(2019);View Description Hide Description糖尿病患者の血糖管理が重要であることはいうまでもない.しかし,1 型糖尿病患者をはじめとする内因性インスリン分泌能が低下した患者では,現在でも厳格な血糖管理は困難である.このような患者への治療手段のひとつとして,closed-loop system である人工膵島があげられる.センサーで連続計測した血糖値をもとに,インスリンやブドウ糖(グルカゴン)を投与するシステムであり,低血糖を生じることなく厳格な血糖コントロールを可能とする.人工膵島には,①短期使用のベッドサイド型と,②長期使用の携帯型がある.ベッドサイド型は30 年前から臨床応用されており,おもに集中治療室(ICU)や外科救急領域における血糖管理に使用されている.一方,携帯型は現在開発が急速に進んでおり,平均血糖値の低下や,とくに夜間の低血糖の減少などが報告されている.血糖コントロールに苦しむ患者のために,一刻も早く長期臨床応用可能なfully closed-loop である人工膵島の開発が進むことを期待している.
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連載
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- 地域包括ケアシステムは機能するか 13
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幸手モデルは“モデル”になりうるか?― 生活モデルに基づいた地域包括ケアシステムのモデル化
268巻7号(2019);View Description Hide Description幸手モデルは生活を支援することを目的とした生活モデルに基づく地域包括ケアシステムであり,以下の骨子となる取組みがある.①:生きていくことの苦しみをひとりで抱え込む,という苦しみを終結させることが目的である.②:①のために,多様な人びとを包摂していく高い次元の社会形成をめざす.③:②を実現するために,個人と個人を取り囲む環境の双方に対してきめ細かい調整的な支援(ソーシャルワーク)とそれを担える専門性を有する人材の育成を行う.④:③を補完するために,社会保障制度による道具的支援や医療,介護,福祉を含む情報的支援に容易に接続可能かつ,個人の個別的な問題のために生活モデルを基盤として利用できる.⑤:現場と制度との応答に基づき,継続的に改変可能な成長をすることができる. - 医学・医療におけるシミュレータの進歩と普及 10
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血管インターベンションシミュレータ
268巻7号(2019);View Description Hide Description◎血管内治療法やデバイスの急速な進歩は医師のトレーニング方法にも変化をもたらし,心血管領域におけるシミュレーション医学教育を重要視する機運が高まってきている.なかでもバーチャル・リアリティ心血管インターベンションシミュレータの進歩と普及はめざましく,頸動脈,冠動脈,下肢動脈の血管形成術,ステント留置術や心臓電気生理学検査のシミュレーショントレーニングをはじめ,多くの心血管病症例トレーニングが可能になっている.アメリカ卒後医学教育認定評議会やアメリカ心臓血管造影検査インターベンション学会は,心血管領域におけるシミュレーション医学教育を推奨している.若手医師の血管造影手技や知識の向上に,シミュレーション医学教育が有効であることを示すデータが蓄積されてきており,心血管領域におけるシミュレータの活用がさらに広まっていくことが予想される.
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TOPICS
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FORUM
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- 医師のバーンアウト(燃え尽き症候群)をふせぐためには?―脳神経内科領域の取組みから学ぶ 2
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海外の脳神経内科医における燃え尽き症候群の状況と対策
268巻7号(2019);View Description Hide Description著者が“医師におけるバーンアウトの問題”に関心をもったきっかけは,2014 年のアメリカ神経学会の年次総会(フィラデルフィア)において,ダートマス大学医学部James Bernat 教授が,「脳神経内科医を取り巻く環境は大きく変化しており,バーンアウトが高い頻度で生じている」という警鐘を鳴らす目的で行った講演である.その後,同学会は学会員に対するアンケート調査を行い,複数の論文を発表し,さらにバーンアウト防止をめざしたさまざまな取組みを開始した.その“変革”の迅速さには非常に驚かされた.本稿では,海外の脳神経内科医における燃え尽き症候群の状況と対策を紹介し,わが国における現状の把握と対策につなげたい. - 医療社会学の冒険哉 10
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