Volume 268,
Issue 13,
2019
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【3月第5土曜特集】 制御性T 細胞研究の現在
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医学のあゆみ 268巻13号, 1027-1027 (2019);
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基礎
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医学のあゆみ 268巻13号, 1030-1035 (2019);
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制御性T 細胞(Treg)は,免疫恒常性維持に必須の細胞群であり,異常,過剰な免疫反応を抑制することにより恒常性を維持している.Treg 細胞の発生,分化,機能維持には,これまで転写因子Foxp3 が中心的役割を果たしていると考えられてきたが,近年Treg 特異的なエピジェネティック変化も必要であることがわかってきた.Treg 特異的なエピジェネティック変化は,おもにTreg 機能に関連した分子の遺伝子内部に認められ,ごく狭い領域のDNA 脱メチル化やヒストンの修飾として検出される.さらにこれらTreg 型エピゲノムは,Foxp3 発現以前から徐々に形作られ,Treg 細胞系譜の成立,およびTreg 機能をつかさどる遺伝子群の発現に貢献している.これらのことは,Treg 分化にはTreg 関連因子の構成的発現を担う上位機構としてTreg 型エピゲノムの形成が必要であることを示している.Treg 分化は転写因子からの理解にとどまらず,特異的エピゲノム成立の観点から理解していく必要があろう.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1036-1042 (2019);
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制御性T 細胞(Treg)は広範な免疫抑制機能を示し,炎症などさまざまな細胞外環境の変化に対してもその機能を安定に維持することで,自己免疫寛容と免疫恒常性の維持に必須の役割を担っている.従来,ヒト自己免疫疾患IPEX 症候群の原因遺伝子として同定されたFoxp3 がTreg 特異的に発現する分子マーカーであり,その発生・分化と抑制機能をつかさどる“マスター転写因子”として位置づけられていた.その一方で,Foxp3+T 細胞は従来考えられてきたほど安定な集団ではなく,すくなくともその一部は置かれた環境によってはFoxp3 発現を失ってヘルパーT(Th)細胞に分化する“可塑性”を示すことが報告され,Treg の系列安定性と可塑性に関して議論が続いている.本稿では,Treg の系列安定性と可塑性をめぐる論争について概説し,Foxp3+T 細胞の可塑性は,運命決定を受けたTreg の分化転換を意味するわけではなく,Foxp3+T 細胞の不均一性に起因するという著者らの研究成果を紹介するとともに,Treg の系列安定性を規定するエピゲノム制御機構について,最近の知見を紹介する.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1043-1048 (2019);
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免疫システムはT 細胞による自己と非自己の識別機構を基盤として外敵を認識・排除する一方,自身の細胞に対する反応性を示さない(自己寛容).しかし,この原則はかならずしも完全ではなく,一部のT 細胞は潜在的に自己反応性を持ちながら生体内に存在し,なんらかの原因によって明らかな自己反応性を示すようになる.こうした自己反応性T 細胞の活性化を細胞レベルで抑える細胞集団として,制御性T 細胞(Treg)が存在する.胸腺微小環境は,胸腺髄質上皮細胞および胸腺内の樹状細胞(DC)による自己抗原の提示によってT 細胞受容体シグナル経路を活性化するとともに,サイトカイン受容体やCD28 などの副刺激経路を介してTreg のマスター遺伝子であるFoxp3 の発現を安定化させる条件が揃っている.Tregへの分化は,負の選択と同じく自己抗原に対する抗原特異性に基づいて起こるため,どのような自己抗原が,どのような抗原提示細胞によって提示されてTreg への分化が決まるかを理解することが重要である.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1049-1056 (2019);
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制御性T 細胞(Treg)は免疫寛容の中枢ともいうべき細胞である.一般的に通常のT 細胞と同様に胸腺で生まれ,リンパ節などの二次リンパ組織で活性化されて感染部位などに集積する.一方で組織に常在するTreg,あるいは損傷を受けた組織に集積するTreg が存在することが報告されている.これらは組織Treg とよばれ,免疫調節のほか,組織の細胞と相互作用して恒常性の維持や組織修復に寄与する.著者らは,脳梗塞慢性期にTreg が脳内に集積し,脳Treg とよぶべき性質を獲得してアストログリオーシスを制御していることを見出した.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1057-1063 (2019);
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樹状細胞(DCs)は樹状突起を有する系統マーカー陰性,主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスⅡ陽性の抗原提示細胞(APCs)であり,通常型DCs(cDCs)と形質細胞様DCs(pDCs)に大別される複数のサブセットから構成される.DCs は炎症状態では自然免疫と適応免疫をつなぐ最も強力なAPCs として,種々のエフェクターT(Teff)細胞を誘導して免疫系を賦活する.一方,定常状態では制御性T(Treg)細胞などが関与する免疫寛容を誘導し,免疫学的恒常性の維持に重要であると考えられている.本稿では,DCsによるTreg 分化の制御について紹介する.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1064-1068 (2019);
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細胞性免疫による生体防御反応において重要な働きをするT 細胞には,ヘルパーT 細胞と細胞傷害性(キラー)T 細胞のほかに,制御性T 細胞(Treg),ナチュラルキラーT 細胞(NKT)がある.これらのT 細胞はすべて胎児肝,あるいは骨髄で産生された造血幹細胞に由来し,胸腺内で分化・成熟する.ゲノムオーガナイザーとしてクロマチン構造調整を行うSATB1 は,造血初期の造血幹細胞から発現が認められ,胸腺内のCD4+ CD8+ダブルポジティブ細胞期にその発現量が最大となる.したがって,SATB1 がT 細胞分化に重要であることは知られていたが,その役割の詳細は不明であった.近年,SATB1 コンディショナルノックアウトマウスを用いた解析により,胸腺や末梢で分化成熟するT 細胞サブセットの機能発現制御にSATB1 が深く関わることが明らかとなってきた.本稿では,SATB1 のT 細胞分化と免疫寛容における役割を中心に,最近の知見をまとめて解説する.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1069-1074 (2019);
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Treg 細胞の分化・維持・機能発現すべてにおいて,さまざまな転写因子が重要な役割を担っている.単独の発現でTreg 細胞のすべてを構築できる転写因子は発見されていない一方で,ひとつの欠損によりTreg 細胞の分化や維持,機能発現に重大な異常が引き起こされる転写因子は多数存在することから,さまざまな転写因子が協調や分業によりTreg 細胞を形作っていることが示唆されている.本稿で紹介するNr4a ファミリー転写因子もそれらの転写因子のうちのひとつであり,著者らの研究でTreg の分化や維持で必須の役割を担っていることが明らかとされてきた.Nr4a のTreg 分化における最も重要な機能のひとつはFoxp3 発現の誘導といえるが,ほかにもIL-4 やIL-21 などのヘルパーT 細胞が産生するサイトカインの発現を抑制する機能も併せ持ち,Treg の分化や維持に大きく寄与している.本稿では胸腺でのTreg 細胞の発生分化,および末梢における分化後のTreg の維持におけるNr4a の機能について解説する.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1075-1080 (2019);
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生体には過剰な免疫応答を防ぐために,免疫抑制機能に特化した制御性T 細胞(Treg 細胞)とよばれるT 細胞が存在する.Treg 細胞の分化は,T 細胞受容体の下流で活性化されるシグナル伝達経路によって制御されている.そのひとつであるカルシウム(Ca)シグナルは,細胞外からのCa 流入によって活性化される.近年になって,Ca 流入を制御する一連の分子,さらにTreg 細胞のマスター転写因子Foxp3 の転写調節領域が明らかにされた.これらの遺伝子欠損マウスの解析によって,Ca シグナルは胸腺内のTreg 細胞の分化に必須であること,末梢ではTreg 細胞の性質の維持,誘導性Treg 細胞の分化を制御していることが明らかにされた.本稿では,これらの知見について解説する.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1081-1085 (2019);
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水溶性食物繊維の摂取は腸内常在細菌の組成を変化させ,生体の免疫システムへ大きな影響を与えている.近年の研究成果から,妊娠期の水溶性食物繊維の摂取が胎児の免疫システムの発達に大きな影響を与えていることが示されている.妊娠マウスに水溶性高食物繊維(sHFD)を摂取させると,腸内細菌の代謝産物である短鎖脂肪酸(SCFAs)が上昇し,生まれてきた仔マウスの血漿中のSCFAs の濃度も上昇した.さらに,sHFD を摂取させたマウスから生まれた仔マウスでは,Foxp3 陽性胸腺Treg の割合が上昇していた.そのメカニズムは,SCFAs のレセプターであるGPR41 を介して胸腺上皮細胞にAire 遺伝子の発現が誘導され,Foxp3 陽性胸腺Treg が産生されることが示唆された.胎児期や授乳期は母親の腸内細菌の影響を強く受けており,出生直後に産生されるFoxp3 陽性胸腺Treg は長期にわたって過剰な免疫を抑制する機能を持つとされることから,母体由来のSCFAs により産生された出生直後のAire 依存的Foxp3 陽性Treg は将来的な子どものアレルギー疾患や自己免疫疾患を抑制する可能性がある.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1086-1090 (2019);
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制御性T 細胞(Treg)は自己抗原などに対する異常な免疫反応の抑制に特化したT 細胞であり,免疫自己寛容の維持に不可欠な細胞である.Treg を含むT 細胞はT 細胞受容体(TCR)により抗原を認識し,その結合が細胞内にTCR シグナルを伝達する.このTCR シグナルは,T 細胞の分化・活性などT 細胞の抗原特異的な反応をコントロールする.Treg は細胞分化や末梢の機能において,各TCR シグナル分子への依存度や制御が通常のT 細胞(Tconv)とは異なり,その異常は自己免疫疾患の要因になると考えられる.Treg とTconv で異なる制御を受けるTCR シグナル分子は,自己免疫病や腫瘍における免疫療法において両者を弁別的に作用する標的分子としても重要になると考えられ,さらなる分子メカニズムの解明が期待される.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1091-1100 (2019);
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坂口志文先生が特定のT 細胞集団による能動的な免疫抑制の存在をはじめて報告したのは1982 年1).そのT 細胞集団がCD25 の発現によって定義できることを報告したのは1995 年2).そのT 細胞集団の分化を決定づける転写因子Foxp3 を同定し報告したのは2003 年である3).“制御性T 細胞(Treg)”という言葉とその領域の研究はCD25 やFoxp3 の同定後,急速に広がった.本稿では,Treg 研究の領域において明らかにされてきた事実のうち,“抑制の具体的なメカニズム”について,現状までの知識を概説したい.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1101-1105 (2019);
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免疫応答を抑制するFoxp3+ 制御性T 細胞(Treg)は,免疫応答を亢進するFoxp3-通常型T 細胞(Tconv)と同様に,末梢リンパ組織での抗原刺激に応じてナイーブ型からエフェクター型に分化する.エフェクター型Treg(eTreg)は,非リンパ組織に集積し,局所における炎症抑制や組織修復など,さまざまな側面から組織の恒常性維持に寄与していることが明らかにされた.この多様な機能からeTreg の分化機構,非リンパ組織における集積・維持機構について精力的に研究が行われており,これらに寄与する環境因子・転写因子などが同定・報告されている.同定された機構の多くはTreg,Tconv のエフェクター分化に共通する機構であったが,一部Tconv にはみられないTreg に固有のエフェクター分化・組織集積機構が存在する可能性が示唆されている.本稿ではこれらの知見について概説し,今後の研究展開について議論する.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1106-1110 (2019);
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制御性T 細胞(Treg)は転写因子Fopx3 の発現を特徴とし,免疫恒常性維持に重要な役割を担っており,さまざまな免疫応答を抑制するために多様な抑制機能を発揮する.活性化ヘルパーT 細胞はTh1,Th2,Th17,および濾胞性ヘルパーT 細胞(Tfh)などに分類され,異なった免疫応答を惹起する.近年の研究で,Treg はこれらの活性化細胞群と同じ転写因子やケモカイン受容体を発現後,組織に遊走し,これらの免疫応答を効率的に抑制することが明らかとなった.濾胞性制御性T 細胞(Tfr)は,濾胞性ヘルパーT細胞(Tfh)および抗体産生の制御に特化した新しいTreg のサブポピュレーションと同定された.本稿ではTfr について,著者らの最新の知見を述べたい.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1111-1114 (2019);
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制御性T(Treg)細胞は活性化に伴いエフェクターTreg(eTreg)細胞へと変化し,炎症部位や組織へ移行する.このTreg 細胞の活性化を制御する分子機構は何か,その破綻はどういったことを引き起こすのか,についてはいまだに未解明な部分が多く残されている.bHLH 型転写因子E 蛋白質(E2A,HEB,E2-2)は,その拮抗因子であるId 蛋白質(Id1-4)とともにリンパ球の分化・活性化に必須の働きをしていることが知られている.著者らは,Id2,Id3 がTreg 細胞の活性化を制御し,eTreg 細胞への分化のゲートキーパーとして機能していること,同時にeTreg 細胞の細胞死を抑制することで組織の炎症を抑制することを見出した.興味深いことに,Treg 細胞特異的にId2,Id3 を欠損させると全身性のTH2 炎症が異常に亢進し,ヒトのアレルギー疾患(アトピー性皮膚炎,好酸球性食道炎,気管支喘息)と類似の病態を呈する.このことは,アレルギー炎症におけるTreg 細胞の抑制機能の重要性を示すものであり,その転写制御機構を正常に保つことが免疫恒常性を維持するのに必須であることを示唆するものである.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1115-1119 (2019);
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PD-1 はT 細胞の活性化に伴って発現し,T 細胞レセプター(TCR)シグナルを減弱させてT 細胞の過剰な反応を抑制するレセプターである.PD-1 欠損マウスはさまざまな自己免疫疾患を呈するが,PD-1 がFoxP3 陽性制御性T 細胞(Treg)の分化や機能調節にどのように関わるのかは不明である.著者らは,PD-1 欠損T 細胞が体内ではFoxP3 陽性Treg の存在下で抑制状態にあるが,Treg のわずかな機能不全により活性化し,致死的な自己免疫疾患を起こすことを見出した.①自己反応性T 細胞はPD-1 の発現にかかわらずTreg による優勢的な(ドミナント)抑制を受けており,②Treg の抑制が不十分な場合,PD-1 やほかの抑制機構が働く,という多段階の制御機構が存在することを示している.また,PD-1 欠損下ではFoxP3 の発現が不安定化し,病原性の自己反応性T 細胞へと再分化しやすくなることも明らかになった.FoxP3 陽性Treg とPD-1 は,致死的な自己免疫を避けるため緻密に役割分担を行っていると考えられる.PD-1 阻害薬が積極的にがん治療に応用されている現在,抗PD-1 治療の奏効率を上げ,副作用としての自己免疫疾患を軽減するために両者の役割を理解することが必須である.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1120-1124 (2019);
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ある種の腸内細菌は,大腸の粘膜固有層局所でのナイーブT 細胞から末梢誘導性Treg(pTreg)への分化を促進する.これは,腸内細菌が難消化性食物繊維を分解することで産生される酪酸の作用である.酪酸はヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の阻害作用を持つ.これにより,pTreg へと分化しつつあるT 細胞内でヒストンアセチル化が亢進し,Treg のマスター転写因子Foxp3 の発現が上昇する.このことがpTreg分化促進のメカニズムであることを著者らは明らかにした.腸内細菌や酪酸により分化誘導されたTregは抑制性サイトカインであるインターロイキン(IL)-10 を産生し,マウス実験大腸炎の炎症を抑えることから,酪酸の炎症性腸疾患の治療への応用が期待できる.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1125-1134 (2019);
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腸管は外界に接しているため,病原微生物に対する防御機能を備える一方で,食物や常在細菌,真菌に対しては,過剰な免疫応答が起こらないようにしなければならない.このバランスは非常に重要で,免疫不全は易感染性を招き,過剰な免疫応答はアレルギーや炎症性腸疾患を引き起こす.従来,この過剰な免疫応答を防ぐ仕組みには制御性T 細胞(Treg)が重要な役割を果たしていることが示唆されていたが,そのメカニズムがよくわかっていなかった.著者らは,①Treg は腸内のLactobacillus murinus やClostridiumⅩⅣa のような特定の微生物によって分化誘導されること,②これらの微生物の増殖は,食品に含まれるβグルカンが特異的な受容体であるDECTIN-1 を刺激することによって生産されるインターロイキン(IL)-17F やその下流で生産される抗菌蛋白質によって制御されていること,を示した.DECTIN-1は自然免疫受容体のひとつであり,腸管ではほかにも多くの自然免疫受容体が発現している.これらが食品成分や常在微生物構成成分などと反応することにより,腸管免疫の恒常性維持に重要な役割を果たしていると考えられる.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1135-1139 (2019);
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制御性T 細胞(Treg)は生体内で高い増殖能を示すが,その機序の詳細については不明な点が多い.Tregは周囲の栄養環境から強く影響を受けることが知られており,ロイシンやグルタミンをはじめとするアミノ酸がmTOR 経路を介してT 細胞の分化に関与していることが示されているが,分化後のTreg との関わりは不明であった.しかし近年,mTOR 経路がTreg の分化のみならず,脂質合成経路を介してTreg の免疫抑制能の維持にも重要な働きを持っていることが報告された.今回著者らは,アミノ酸トランスポーターSLC3A2 を介して取り込まれた分枝鎖アミノ酸が,mTOR 経路のシグナルを活性化させることにより,生体内でのTreg の増殖能および免疫抑制能を制御していることを明らかにした.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1140-1144 (2019);
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細胞がアポトーシスに陥ると,細胞膜を構成するリン脂質の分布が変化し,それまで細胞膜の内側に存在していたホスファチジルセリン(PS)が細胞膜の外側に表出する.PS を表出するようになった細胞は,アポトーシス細胞として免疫細胞に速やかに貪食されるが,細胞のターンオーバーが盛んに行われている粘膜上皮組織では,アポトーシス細胞は“垢”として体外に排出されることで生体の恒常性を保っている.本研究を通して著者らは,粘膜組織で発生したアポトーシス細胞が単に貪食されるためだけの存在ではなく,制御性T 細胞(Treg)を調節して免疫応答をコントロールしていることを明らかにした.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1145-1150 (2019);
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哺乳類の胎児は母体内では無菌状態で維持されているが,出生後ただちに環境微生物に曝露され,その一部は皮膚や粘膜に常在菌として定着する.とりわけ下部消化管には膨大な数の腸内細菌がコロニーを形成している.過剰な炎症を抑制するために,幼若期に制御性T 細胞(Treg)が誘導される.これら腸内細菌によって,誘導型の大腸Treg はCTLA4 やIL-10 などの免疫抑制分子を高発現している.しかし,どのような機構でTreg が機能的に成熟し,病理的な炎症応答を抑制することで腸内細菌と宿主免疫系の共生関係が構築されるのかは不明であった.本稿では,DNA メチル化依存的な大腸Treg の恒常性維持機構について,近年の研究結果を中心に解説する.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1151-1157 (2019);
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腸管の制御性T 細胞(Treg)は,腸内細菌に対する免疫反応を制御し腸管の恒常性維持に貢献しているが,その機構は明らかでない.著者らは腸管の恒常性維持にTreg のT 細胞レセプター(TCR)のレパトワの多様性が腸管恒常性にどのように関与しているかを明らかにした.多様なTCR レパトワを持つTregが,腸内細菌による大腸遊走性樹状細胞(migDC)の活性化を制御し,末梢性Treg(pTreg)細胞の分化を促進し,ほかの免疫細胞の活性化を抑制していることが示された.TCR レパトワの多様性が限られたマウスでは,migDC の活性化が抑えられず,大腸粘膜で炎症性Th17 細胞への分化を促し,Th17 細胞性の大腸炎を自然発症した.以上から,腸管粘膜の恒常性維持には多様なTCR レパトワを持つTreg が重要な役割を果たしていることがわかった.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1159-1164 (2019);
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皮膚は生体の最外層に位置するため,紫外線,化学的・物理的刺激などの環境因子や細菌・ウイルスなどの病原体に恒常的に曝露されている.定常状態では表皮バリアや免疫寛容機構により皮膚炎の発症は抑制されているが,外界とのせめぎ合いの結果,免疫が惹起されると,免疫細胞によって多彩な皮膚免疫反応が引き起こされる.CD4+Foxp3+制御性T 細胞(Treg)は免疫細胞サブセットのひとつであり,免疫応答を負に制御する機能を有する.皮膚は多数のTreg を保持することが知られる一方で,二次リンパ組織や腸などの他臓器に比べ,その機能は未解明な点が多い.本稿では,皮膚Treg の特徴にはじまり,その局在や維持機構および免疫抑制機能に関して概説するとともに,近年注目を集める免疫システムとは独立した皮膚Treg の機能について触れる.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1165-1169 (2019);
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樹状細胞(DC)は,制御性T 細胞(Treg)の増殖誘導やホメオスタシスに重要な役割を果たす.リンパ組織においてTreg の増殖誘導に特化したDC サブセットが存在する.皮膚においてもさまざまなDC サブセットが存在し,Treg の増殖誘導に関わるサブセットが報告されている.表皮Langerhans 細胞(LC)は,ハプテンを塗布した免疫寛容の誘導や放射線照射し骨髄移植を行う実験系でTreg の誘導に関与すると報告されてきた.一方,紫外線を照射した皮膚ではTreg がCD4 の半分以上に増殖するが,この際に重要なのはLC ではなく,CD11b-type のランゲリン陰性真皮DC サブセットである.紫外線照射により皮膚で増えたTreg は全身のTreg のホメオスタシスにも関与する.紫外線照射によって皮膚でDC とTreg がクロストークし,全身の免疫制御に貢献していることが示唆された.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1171-1176 (2019);
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制御性T 細胞(Treg)は生体の恒常性維持に必須の細胞であるが,腫瘍局所にも集積し,免疫応答を抑制するため腫瘍の増殖・増大を助長する.そのため,Treg を標的としたがん免疫療法が課題となっている.がん微小環境では,がん細胞はWarburg effect により解糖系が亢進しているため糖やアミノ酸が枯渇し,代謝産物の脂肪酸が富んでいる.それにより,解糖系により活性化するエフェクター細胞は活性化の維持が困難であり,逆に脂肪酸によりエネルギーを得るTreg のような免疫抑制細胞にとっては,その機能を発揮しやすい特殊な環境となっている.Treg の解糖系を亢進することでTreg の機能抑制を認め,抗腫瘍効果が期待できることを著者らの実験により示唆された.本稿では,代謝制御による腫瘍内Treg の制御という視点から解説する.腫瘍局所の代謝制御はTreg だけでなく,ほかの細胞においても有用であり,今後のがん免疫療法において非常に重要な意味を持つと考えられる.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1177-1181 (2019);
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制御性T 細胞(Treg)は広範な免疫抑制活性を示し,免疫寛容と免疫恒常性の維持に重要な役割を担っている.一方,造血システムは造血幹細胞(HSC)を造血ヒエラルキーの頂点とし,末梢の需要に応じた成熟血液細胞を生涯にわたって供給し続けることで維持される.さまざまな外界からのストレスから造血システムを維持するためには,造血幹細胞ニッチ(HSC niche)とよばれる造血システムを取り巻く複数の細胞コンポーネントが必須な役割を担っていることが明らかとなっているが,最近になり,Treg もまた外界からの免疫学的ストレスを制御することにより,造血システムの維持に必須の役割を担っていることが明らかとなってきた.本稿では,Treg と骨髄環境制御に関する最近の知見について解説する.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1183-1190 (2019);
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紫色の光照射で緑から赤に変色する光変換蛍光蛋白質Kaede あるいはKikGR 発現マウスを使った全身細胞動態評価系を用いると,免疫細胞の臓器間移動を追跡できる.本稿では,健常時および末梢組織炎症時における,リンパ器官間,末梢組織-リンパ器官間のTreg のダイナミックな細胞動態と,細胞動態と関連したフェノタイプ・多様性・機能変化を紹介する.接触皮膚炎モデルを,KikGR 発現マウスと単細胞レベルの遺伝子発現解析を組み合わせて解析し明らかにした,強い免疫抑制作用を有し皮膚炎症部位にとどまりやすいGzmB/Il10 Treg 陽性細胞と,Treg の機能発現には個々のTreg が強い免疫抑制作用を有するとともに組織停滞性が重要であることを紹介する.さらに,DSS 誘導性大腸炎モデルを,KikGR 発現マウスと細胞周期可視化Fucci マウスを組み合わせて解析し見出した,炎症大腸でのTreg 増殖,大腸-所属リンパ節間を移動するTreg 数の増大と,大腸から所属リンパ節に移行する強い免疫抑制作用を有するTreg サブセットを紹介する.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1191-1196 (2019);
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自己および非病原性外来性抗原に対する免疫寛容を誘導することで免疫学的恒常性は保たれており,免疫寛容の破綻は自己免疫疾患の発症につながる.なかでも制御性T 細胞(Treg)は免疫寛容の誘導・維持において中心的役割を果たしている.Treg は,①胸腺より分化する“内因性Treg(nTreg)”と,②胸腺外で分化する“末梢性Treg(pTreg)”,に大別され,両者が協調して免疫寛容が保たれている.しかし,nTreg と異なり,pTreg は特異的な細胞表面マーカーおよびマスター制御遺伝子が不明であったことから研究の大きな障壁となっていた.近年著者らは,胸腺外で誘導され転写因子Egr2 を高発現するCD4+CD25-LAG3+Treg を同定した.同Treg は抑制性サイトカインであるインターロイキン(IL)-10 および腫瘍増殖因子(TGF)-β3 をともに高産生し,液性免疫に対する強力な制御能も有する.本稿では,CD4+CD25-LAG3+Treg による免疫制御機構について,最新の知見も含め概説する.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1197-1203 (2019);
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腸管は外界と体内を隔てており,腸内細菌に由来する抗原や食物抗原をはじめとする多くの抗原につねに曝される.腸管は抗原が体内に侵入するのを防ぐと同時に,過剰な免疫反応を起こすことなく栄養素などを取り込む必要があり,腸管免疫系はその絶妙なバランスにより保たれる.腸管免疫系において,T細胞は腸管上皮および粘膜固有層に存在する.粘膜固有層はいわゆるヘルパーT 細胞が多く,なかでもTh17,Th1 細胞が多く存在している.炎症性腸疾患をはじめとする腸管疾患との関連性の検討が進められる一方で,腸管上皮内のT 細胞の役割については不明な点が多い.とくにCD4+CD8αα+(DPIELs)T 細胞はおもに腸管上皮に存在するユニークな細胞である.制御性T 細胞(Tregs)とDPIELsはともに,TGF-βおよびレチノイン酸(RA)を分化に必要とするという共通点がある.Tregs は転写因子Thpok を発現し,粘膜固有層に多く存在するのに対し,DPIELsはThpok を発現せず腸管上皮に多く存在する.腸管上皮においてはTregs が少なく,DPIELsが年齢とともに増加する.炎症性腸疾患,セリアック病といった患者腸管においてはDPIELsが有意に減少していることが判明しており1),腸管におけるDPIELsの役割作用について着目されている.近年,DPIELsは腸管上皮における炎症の抑制の役割をTreg と相補的に担い,一部のDPIELsはTregs より分化することが示された.さらにLactobacillus 属によるAhr-ligand により誘導されることも明らかとなり,Lactobacillus 属がいわゆる善玉菌であることとも矛盾しない.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1205-1209 (2019);
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結核やマラリアなどの慢性感染症では,持続的免疫応答による組織傷害を防ぐため,免疫応答の制御が必須である.感染のような緊急事態では,通常免疫系の恒常性維持に働いているFoxp3+制御性T 細胞(Treg)に加え,インターロイキン(IL)-10 やIL-27 を産生するFoxp3-CD4+T 細胞が重要な役割を果たす.IL-10 産生CD4+T 細胞はTr1 細胞とよばれ,マラリアをはじめ各種感染症で免疫応答の暴走による組織傷害を防止する役割が知られている.一方,IL-27 を産生するCD4+T 細胞はTr27 細胞とよばれ,実験的マウスマラリアモデルと結核患者の胸水や末梢血で検出される.マラリアにみられるTr27 細胞は,原虫抗原特異的に活性化したCD4+T 細胞が,Th1 やTr1 細胞とは異なる経路でIL-27 を産生する細胞に分化すると考えられる.T 細胞のIL-2 産生やクローン増殖を抑制し,防御免疫応答に対して抑制的に機能する.
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臨床
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医学のあゆみ 268巻13号, 1212-1216 (2019);
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免疫が関与する疾患の多くは遺伝因子,環境因子など複数の要因が働いて発症する多因子疾患である.主要組織適合遺伝子複合体をはじめ,いくつかの疾患感受性遺伝子が報告されていたが,2007 年,商業アレイを用いたゲノムワイドの関連解析(GWAS)が開始され,疾患感受性遺伝子の解析が進められてきた.その結果,多くの疾患感受性多型は遺伝子の発現量に関与することが判明しつつある.さらにこのような病態形成に関わる遺伝子の発現は細胞特異的であることが多く,これにはエピゲノムが密接に関わっていると考えられている.ゲノム情報は疾患の成立以前から存在しており,疾患や表現型(=結果)に対する明確な因果関係を持つ.より深い疾患の理解には,これらの情報を用いた病態の把握と創薬への応用が重要である.本稿では,自己免疫疾患を中心にGWAS を概説し,さらに制御性T 細胞(Treg)に関するゲノム情報の現状を紹介する.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1217-1222 (2019);
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関節リウマチ(RA)は最も罹患率の高い自己免疫疾患のひとつであり,複数の関節における炎症と骨破壊を特徴とする.生物製剤の治療効果やゲノムワイド関連研究,RA 動物モデルを用いた研究から,RA の抑制におけるFoxp3+ Treg 細胞の重要性が示唆されている.一部のFoxp3+ T 細胞は炎症環境下においてFoxp3 発現を消失し,病原性Th17 細胞(exFoxp3Th17 細胞)へと分化転換して,マウスの自己免疫性関節炎を増悪化する.一方で,安定した抑制機能をもつFoxp3+ Treg 細胞の亜集団の同定は今後の課題である.また,RA の原因となる自己抗原の一端が明らかになりつつあり,Foxp3 の発現誘導およびFoxp3 発現の安定化を通して,抗原特異的制御性T 細胞(Treg)を創成することが将来的に可能となるかもしれない.これらのアプローチは,Treg 細胞の挙動の理解に基づくRA の新しい治療戦略の確立につながる.本稿では,RA におけるTreg 細胞研究の現状と展望について概説したい.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1223-1228 (2019);
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IPEX 症候群とはX 連鎖劣性遺伝形式をとり,難治性下痢症,多腺性内分泌異常,皮疹を臨床的三徴候として,自己免疫性の血球減少や腎炎などを合併する.その原因遺伝子はFOXP3 であり,CD25+ CD4+T 細胞すなわち制御性T 細胞のマスター遺伝子である.患者においてはFOXP3+ CD25+ CD4+T 細胞はほとんど認められないことが多い.新生児期あるいは乳幼児期に発症することが多く,治療介入が遅れると敗血症や低栄養で乳児期に死亡する.免疫抑制剤による治療は効果あるが,永続性に乏しく,根治療法は造血細胞移植(HCT)である.またIPEX 症候群様の症状を呈しながら,FOXP3 変異を認めない患者も少なからず存在し,それらはIPEX 様症候群と称され,近年,いくつかの原因遺伝子も同定されている.IPEX 様症候群も含めたIPEX 症候群の理解は,ヒトにおける免疫調節異常を知るうえできわめて重要である.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1229-1233 (2019);
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中枢神経系の自己免疫疾患である多発性硬化症(MS)では,Foxp3+制御性T 細胞(Treg)を含めて,さまざまな制御性リンパ球の数的・機能的異常が報告されているが,その背景因子の研究は進んでいなかった.しかし近年,Treg に影響を与える腸内環境の変化,マイクロRNA(miRNA),生体分子や薬剤などの情報が集積され,自己免疫疾患発症の理解に新たな視点を与えている.本稿では,MS における腸内細菌叢異常や,血中微小胞エクソソーム含有miRNA(exosomal miRNA)の偏倚とTreg 異常との関連について,最近の情報を紹介する.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1235-1240 (2019);
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天疱瘡は角化細胞間接着分子であるデスモグレイン(Dsg)1 またはDsg3 に対する自己抗体により生じる自己免疫性水疱症のひとつである.自己抗体がB 細胞から産生されるためにはCD4+ T 細胞(Treg)からのヘルパー活性が必要であり,マウスにおいて自己反応性T 細胞が解析されてきた.この天疱瘡におけるTreg の役割に関してはまだ未知の部分が大きい.しかし,天疱瘡モデルマウスを用いて,制御性T 細胞の役割が少しずつ解明されてきた.モデルマウスおよびDsg3 特異的T 細胞の解析により,Dsg3 特異的免疫寛容やTreg の重要性が今後解明されると思われる.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1241-1245 (2019);
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シェーグレン症候群(SS)は唾液腺や涙腺などの外分泌腺を標的とする自己免疫疾患であり,遺伝因子,環境因子などさまざまな要因が病態発症に結びついていることが知られているが,詳細な発症機序に関してはいまだ不明な点が多い.SS の病態形成にはT 細胞が中心的な役割を果たしていることがよく知られている.そのなかでも,末梢における制御性T 細胞(Treg)の数的あるいは質的な異常がSS の病態と大きく関与している.本稿では,SS 疾患モデルを用いて得られた病態発症機序とTreg との関係性を総括するとともに,SS 患者から得られたTreg に関する免疫病理学的所見を詳説する.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1246-1252 (2019);
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制御性T 細胞(Treg)は,自己抗原に対する免疫応答や感染性病原体などの外来異物に対する過剰な免疫応答を抑制し,生体内の免疫バランスを調整する重要な細胞である.がんにおけるTreg の役割は,がんや腫瘍組織から分泌されるさまざまなサイトカインやケモカインを通じてがん局所に集積し,がん抗原に高い親和性をもつ細胞傷害性T 細胞の機能を強力に抑制し,がんに対する有効な抗腫瘍免疫応答の阻害である.マウスモデルで,遺伝的にTreg を生体内から完全に排除すると重篤な自己免疫疾患が発症するが,移植腫瘍に対する抗腫瘍免疫応答は増強し腫瘍を拒絶できることが明らかとなった.そのためヒトのがんにおいても,Treg の機能を抑制するかTreg を除去することで,抗腫瘍免疫を再活性化しがんを駆逐しようとする試みが注目を浴びている.Treg を標的とした治療法は,Treg に特異的に発現するさまざまな分子に着目し,Treg の数を減少させたり,Treg の免疫抑制機能を阻害する薬剤の開発が中心であり,今まさに臨床応用がはじまっている.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1253-1258 (2019);
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制御性T 細胞(Treg)はさまざまな免疫反応を抑制するT 細胞サブセットであり,その機能はアレルギー疾患の制御においても重要である.喘息や食物アレルギー,アトピー性皮膚炎といったⅠ型アレルギー疾患においてTreg が果たす役割は大きい.実際に,Treg の数的・質的変化に伴う病態の形成・悪化については多くの知見が集積されている.本稿ではマウスモデルを用いた基礎的な検討に加えて,臨床におけるアレルギー疾患とTreg の関連についての報告を踏まえ,アレルギー疾患におけるTreg の重要性とその抑制機序を概説する.またこれらの知見が将来的に新規アレルギー疾患治療戦略につながる可能性についても紹介する.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1259-1264 (2019);
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胎児は母体にとって半異物(半分が自分で,半分が他人)であるが,胎児は許容され妊娠が維持される.このシステムを母子免疫寛容とよび,免疫抑制機能を持つ制御性T 細胞(Treg)が父親抗原特異的免疫寛容に重要な役割を果たす.ヒトでは父親抗原特異的Treg の同定には至っていないが,正常妊娠では子宮内膜でのみ共通のT 細胞受容体(TCR)を有するTreg クローンが増加しており,母子境界領域に存在する抗原に対して反応していると考えられる.また,胎児染色体流産では免疫抑制活性の強いeffector Tregの数が子宮内膜で減少しているが,effector Treg のクローナリティーは変化しない.一方,妊娠中期以降に発症する妊娠高血圧腎症(PE)ではeffector Treg のクローナリティーが低下していた.ヒトの妊娠維持において,妊娠初期は子宮のeffector Treg 量が重要で,妊娠後期にはクローナルな(父親抗原特異的)effector Treg が重要である可能性がある.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1265-1272 (2019);
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動脈硬化は脳梗塞や心筋梗塞などの致死的疾患を引き起こす.その主要な原因と考えられている生活習慣病に対する治療法の進歩にもかかわらず,いまだに4 人に1 人が動脈硬化性疾患で亡くなっており,その発症機序の解明や有効な治療・予防法の開発が切に望まれている.動脈硬化の発症・進展において,病的な免疫応答による慢性炎症の関与が明らかにされている.心臓病の既往のある患者において,炎症性サイトカインを標的とする抗体医薬を投与することで動脈硬化を予防できることが最近示されており,免疫療法の有効性が期待される.制御性T 細胞(Treg)は免疫応答を調節することで動脈硬化の進展を抑制することが明らかにされており,動脈硬化に対する免疫療法の新規標的として期待される.本稿では,動脈硬化におけるTreg の役割についての最新の知見を概説し,Treg に着目した動脈硬化の免疫療法の可能性について考えてみたい.
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医学のあゆみ 268巻13号, 1273-1277 (2019);
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ヒトT 細胞白血病ウイルス1 型(HTLV-1)は成人T 細胞白血病(ATL)やHTLV-1 関連脊髄症(HAM)の原因であり,ヒトで最初に発見されたレトロウイルスである.HTLV-1 は生体内でCD4,CD25+T リンパ球に感染し白血病を起こすことが知られていたが,感染細胞,ATL 細胞は制御性T リンパ球類似の形質を有することが明らかになった.この形質獲得にはHTLV-1がコードするHTLV-1 bZIP facto(r HBZ)が重要な役割を担っている.制御性T リンパ球あるいはFoxp3+T リンパ球に感染することが,ウイルス感染細胞の生存・伝播に有利に作用することが推測され,ATL はそのような性質を有するT リンパ球の腫瘍であると理解できる.HTLV-1 の感染細胞を増やすという生き残り戦略が発がん・炎症を引き起こし,ATL 発症につながっている.