医学のあゆみ
Volume 269, Issue 4, 2019
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特集 ncRNA の医科学と医療Ⅱ―機能性ncRNA
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ヒトpiRNA とPIWI 蛋白質の機能欠損と疾患
269巻4号(2019);View Description Hide DescriptionPIWI-interacting RNA(piRNA)は生殖組織特異的に発現する小分子RNA であり,Watson-Crick 型塩基対を介して標的転写産物に作用することによって,その発現を制御する.piRNA のおもな標的は転移性DNA 因子(トランスポゾン)である.piRNA の機能欠損はトランスポゾン活性化によるDNA 損傷,ひいては生殖組織の発生異常および不稔を引き起こす.最近,piRNA 機能欠損とヒト疾患の関連が報告されるようになってきた.piRNA の機能性パートナー因子PIWI 蛋白質の変異を起因とする疾患の報告もある.本稿では,まず前半でマウスモデルの研究から明らかになったpiRNA/PIWI 蛋白質によるトランスポゾン抑制機構の作用機序を紹介し,後半ではpiRNA/PIWI 蛋白質の機能欠損と疾患との関連に関して解説する. -
RNA サイレンシングの仕組み
269巻4号(2019);View Description Hide Description低分子干渉RNA(siRNA)やマイクロRNA(miRNA)といった小分子RNA は,相補的な配列を持つメッセンジャーRNA(mRNA)の機能を抑制する.この現象はRNA サイレンシングとよばれている.小分子RNA は単体では働かず,アルゴノート(Ago)蛋白質とともに機能的な複合体(RISC)を形成することによってはじめて機能する.RISC は,そのなかに含まれている小分子RNA と相補的なmRNA に結合し,そのmRNA を切断したり,あるいはその不安定化を引き起こしたり,翻訳を阻害したりする.本稿では,とくに小分子RNA とAgo がRISC を形成する過程を中心に,生化学的手法に加え,生物物理的な手法により明らかとなりつつあるRNA サイレンシングのメカニズムについて概説する. -
miRNA の発現と疾患との関わり
269巻4号(2019);View Description Hide Description短鎖RNA であるマイクロRNA(miRNA)はゲノムから産生され,細胞の状態制御において重要な機能を担う.miRNA の異常な発現は,がんをはじめさまざまな疾患に認められており,医学領域では疾患バイオマーカーとしてだけでなく,投与や産生阻害による治療法としてもmiRNA が注目されている.第5 期FANTOM(Functional Annotation of the Mammalian Genome)プロジェクトはヒトの初代細胞を用いてmiRNA のプロモーター領域を一塩基レベルで初めて同定し,ヒトの初代細胞における細胞種特異的なmiRNA の発現パターンとプロモーター領域を網羅するmiRNA 発現アトラス(http://fantom.gsc.riken.jp/5/miRNAs)を一般公開した1).これにより,miRNA の発現制御機構や疾患との関連における研究が今後さらに加速すると期待される. -
miRNA 検出技術─ 臨床現場での使用を見据えた技術の紹介
269巻4号(2019);View Description Hide Description近年,患者由来の検体,とくにリキッドバイオプシー中に存在するマイクロRNA(miRNA)が新たな疾患関連のバイオマーカーとして着目されている.しかし,これらの配列長は22 塩基と短いため,これまでのようなポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などによる増幅反応では検出が難しかった.しかし,新しい技術の開発により,miRNA の検出と定量が可能となってきた.さらに,網羅的な患者検体中のmiRNA の発現状態が解析されることにより,次世代診断システムの技術開発が行われてきている.本稿では,これからの臨床現場での使用を見据えたいくつかの技術について紹介したい. -
細胞内構造を支配するncRNA
269巻4号(2019);View Description Hide Description哺乳類細胞に存在する数万種類ものノンコーディングRNA(ncRNA)のなかで,細胞内構造体の骨格として働く一群のRNA をアーキテクチュラルRNA(arcRNA)とよぶ.arcRNA は膜構造を持たない非膜系構造体の形成に必須であり,その代表例として,核内構造体パラスペックルの骨格として働くNEAT1 arcRNA があげられる.NEAT1 は,22.7 kb にも及ぶ長大なncRNA で,癌などのさまざまな疾患への関与が知られている.NEAT1 は,RNA ポリメラーゼⅡで転写されるが,スプライシング,ポリA 付加,核外輸送といった一般的なmRNA 成熟経路をいっさい経ずに,核内で巨大RNP 複合体のパラスペックルを形成している.NEAT1 配列中には,パラスペックル形成に必要な3 種類の機能ドメインが存在し,そこに集約されたプリオン様蛋白質が液相分離を誘発することによって,非膜系構造体が形成されると考えられる. -
lncRNA の機能 ─ クロマチンへの制御機能
269巻4号(2019);View Description Hide Description近年のトランスクリプトーム解析によって明らかにされた無数の長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)のなかには,重要な生命現象の制御を担うlncRNA がいくつも存在することが報告されている.また,細胞のエピジェネティックな状態,蛋白質・DNA との網羅的な相互作用が調べられ,スクリーニングや計算機を用いたRNA の構造・配列解析などから,これらのlncRNA の多くが機能を持つと考えられている.実際,lncRNAXist,HOTAIR などは,ヒストン修飾因子であるポリコーム蛋白質群(PcG)をはじめとする制御因子やDNA との相互作用を介して,ヒストンやDNA の修飾を介したクロマチン構造の制御を行う.また,クロマチンのループ構造やヌクレオソーム配置の制御を行うlncRNA も知られている.これらの機能性lncRNAは,疾患などに関与するものも少なくなく,病理メカニズムの解明,バイオマーカーや治療の標的などの観点からも着目されている.lncRNA の生理作用の解明は医学への応用や,より深い生命現象の理解へとつながるであろう. -
RNA-クロマチン相互作用の機能と疾患におけるその役割
269巻4号(2019);View Description Hide Descriptionヒトのゲノムにおいて蛋白質配列のコード領域はおよそ2%であるが,その他の広大なゲノム領域の隅々までRNA への転写は行われており,そのほとんどが蛋白質配列をコードしないノンコードRNA(ncRNAs)であることが知られている.近年,このncRNA の機能に関して多くの知見が得られており,その分子機能のみならずヒトの疾患との関連性が明らかになってきた.nc 領域から転写される転写産物の多くは核内に局在し,RNA-クロマチン相互作用を介して,核やゲノムの立体構造,遺伝子発現,クロマチンリモデリングなどに関わることが報告されている.RNA-クロマチン相互作用は,さまざまな生物学的プロセスを媒介するが,そのなかでも代表的なものはゲノムインプリンティングである.ゲノムインプリンティングは,ヒトの正常な発生に必要不可欠な機能であり,その機能喪失は疾患を引き起こす原因にもなる.ゲノムインプリンティングに関連するRNA-クロマチン相互作用は,これまで遺伝的な背景に関連する現象を中心に調べられてきたが,エピジェネティックな制御にも関連している.しかし,詳細な分子メカニズムについてはRNA-クロマチン複合体の複雑さと解析の技術的な困難性から,現在でも完全に理解されているわけではない.一方で,RNA やRNA 結合蛋白質を測定する新しい解析技術が開発され,RNA-クロマチン相互作用の性状を徐々に明らかにしつつある.本稿では,RNA-クロマチン相互作用のこれまでの知見と,新しい技術に関して現状と限界を概説する.さらに転写,ゲノム構造,遺伝子調節の間にある複雑な相互作用を解明するための解析技術を紹介し,その将来的な方向性について議論する. -
RNA 依存性RNA ポリメラーゼ(RdRP) とがん
269巻4号(2019);View Description Hide Descriptionテロメラーゼに存在する酵素活性は,①逆転写酵素活性と,②RNA 依存性RAN ポリメラーゼ(RdRP)活性がある.これらの2 つの酵素活性は異なる細胞周期の時期に,異なる場所で,異なる機能を発揮する.本稿では,それぞれの酵素活性の発がんにおける意義を解説すると同時に,現在,著者らが行っているRdRP 活性を標的とした抗がん戦略がどのように進んでいるかを解説する.
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連載
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- 医学・医療におけるシミュレータの進歩と普及 17
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腹診シミュレータ― 漢方で重要な腹診を教育,標準化するシミュレータ
269巻4号(2019);View Description Hide Description◎古代中国で生まれた医学が,わが国に伝わり,国内で発展したわが国の伝統医学が漢方である.漢方には腹部の所見である腹証を得るために,腹診という日本独特の診察法が江戸時代に確立された.漢方では生体の不調は腹部に腹証として表現されると考えられるので,腹診は臨床的に重要な診察法である.しかし,臨床的意義のある標準的な腹証を用意することも難しく,腹診手技やそのときの抵抗感などの習得はかなり困難である.この腹診を教育するために,あるいは腹証を標準化するために,著者らは腹診シミュレータを作製してきた.腹診シミュレータは虚証から実証までの5 段階の腹力モデルと,心下痞鞕,腹直筋攣急,胸脇苦満,小腹鞕満,小腹不仁,振水音,腹部動悸などの腹証モデル,これらの腹証を組み合わせた漢方方剤モデルなどがある.本稿では,この現状とこれを用いる腹診学習システムに関する試みを紹介したい.腹診を十分に教育し,漢方医療の質の担保,腹証を標準化して漢方を世界標準のひとつにするためにも,腹診シミュレータの果たす役割は重要であると考えている. - 健康寿命延伸に寄与する体力医学 5
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中・高年齢者のサルコペニア予防・治療における食事への配慮
269巻4号(2019);View Description Hide Description中・高年齢者のサルコペニア予防・治療における食事について考えるとき,蛋白質の摂取が基本となる.まずは,必要な蛋白質摂取量を確保することが重要である.近年は蛋白質を構成するアミノ酸についての研究も進んでおり,分岐差アミノ酸(BCAA)のなかでもロイシンの筋合成作用が注目されている.摂取した蛋白質が体内で十分に利用されるためにはアミノ酸代謝に関わるビタミンB6も重要であり,十分なエネルギー摂取も不可欠である.ビタミンD の筋肉に対する作用も注目されており,ビタミンD の供給源となる魚類やきのこ類の摂取,適度な日光曝露が推奨される.
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TOPICS
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- 輸血学
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- 医師のバーンアウト(燃え尽き症候群)をふせぐためには?― 脳神経内科領域の取組みから学ぶ 9
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バーンアウト(燃え尽き症候群)に対する地方大学・地方基幹病院の対策
269巻4号(2019);View Description Hide Descriptionバーンアウト(燃え尽き症候群)は1970 年代に心理学者ハーバート・フロイデンバーガーにより命名,提唱され,医療・福祉従事者や教師に多い症状とされてきた.著者らが医師となった1980年代にはバーンアウトを意識した記憶はない.今振り返ると,バーンアウトの知識に乏しかっただけで無意識にくぐり抜けてきたといえる.最近では,神経内科医は他診療科医に比べてバーンアウトの頻度が高いとの報告もある1).その背景としては,高齢化による患者数増に伴う事務仕事の増加や,common disease から神経難病まで,急性疾患から慢性疾患まで幅広い疾患を担当しなければならない神経内科診療の多様性があげられる.医療需要の変化に対応しきれない神経内科医の現状がうかがわれる2,3). -
病院建築への誘い─ 医療者と病院建築のかかわりを考えるVol.7
269巻4号(2019);View Description Hide Description◎本シリーズでは,医療者であり,建築学を経て病院建築のしくみつくりを研究する著者が,病院建築に携わる建築家へのインタビューを通じて,医療者と病院建築のかかわりについて考察していきます. -
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