Volume 269,
Issue 9,
2019
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【6月第1土曜特集】 レクチン医学最前線
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医学のあゆみ 269巻9号, 629-629 (2019);
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総論
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医学のあゆみ 269巻9号, 632-639 (2019);
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生物を構成する細胞は糖鎖で覆われ,さまざまな糖結合蛋白質(レクチン)がその糖鎖を認識する.これは,調べられた限りすべての生物に備わるしくみである.その数は未知であったが,最近藤本らの調査により,約50 の蛋白質家系(分子骨格とよぶ)が存在することが明らかになった.そのなかには,今までレクチン活性が予測されていなかったものも含まれる.この観察は,まだ知られないレクチン分子骨格が存在することを示唆するだけでなく,進化工学などの技術を駆使することによって,まったく新しい分子構造を有するレクチンを創出できる可能性を示す.レクチンを自在に作りだすことができれば,複雑な糖鎖構造の理解に一石を投じることができる.将来,人工的にさまざまな物性と特異性を持ったレクチンを作りだすためには,これまで自然がはぐくみ生み出してきた多様なレクチンについてまず学び,得られた知識を統合することが必要である.本稿では,“レクチンを制することは糖鎖の把握につながる”という立場で医学・医療を含むレクチン応用を展望する.
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レクチンの臨床に向けたアプローチ
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医学のあゆみ 269巻9号, 642-649 (2019);
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癌細胞の最外層は糖衣(glycocalyx)とよばれる糖鎖層で覆われている.癌の標的治療を開発する際,下層の膜蛋白ではなく糖鎖を狙うほうが効率的なはずである.しかし,糖鎖標的抗体を作ることにはさまざまな課題があり,糖鎖を標的とする癌治療の開発はあまり進んでいない.レクチン(糖鎖結合蛋白)の多くは赤血球凝集活性を持つことが多いため,今まで治療薬剤の担体候補とはみなされてこなかった.しかし,膵癌に特徴的に発現するフコシル化3 糖構造であるH タイプ1/3/4 糖鎖に結合するrBC2 レクチンは血管内投与しても,いっさい赤血球凝集を起こさないことが明らかになった.このrBC2 レクチンに緑膿菌外毒素(PE)を融合させたLDC(lectin drug conjugate)は,in vitro,in vivo のどちらの膵癌モデルに対しても著明な抗腫瘍効果を示した.難治癌の代表である膵癌に対して,まったく新規の概念に基づく新たな標的治療の道が開けてきた.
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医学のあゆみ 269巻9号, 651-657 (2019);
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フコシル化(フコースによる糖鎖修飾)は,がんや炎症に関連が深い糖鎖修飾である.著者らの研究室では,膵がんの新しい糖鎖バイオマーカーとしてフコシル化ハプトグロビンを発見し,その測定系の開発と臨床応用について検討してきた.健常人と膵がん患者を比較した場合,フコシル化ハプトグロビンはCA19-9 に匹敵するバイオマーカーであることがわかった.本稿では,2 種類のフコースを認識するレクチンを用いたフコシル化ハプトグロビン測定系の有用性とその問題点,さらにはフコシル化ハプトグロビンそのものを認識する次世代型糖鎖抗体の作製に関して紹介する.開発当初は膵がんの早期診断マーカーをめざしたが,新規アッセイ法で測定したフコシル化ハプトグロビンはむしろ膵がんの転移(とくに肝転移)を反映している可能性が強い.一方でフコシル化ハプトグロビンは膵がん以外の疾患バイオマーカーとして使える可能性があり,今後の展開が期待される.
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医学のあゆみ 269巻9号, 659-667 (2019);
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糖鎖はすべての細胞の最外層に位置し,細胞の種類や状態で劇的に変化することから“細胞の顔”と比喩される.自然界において,この糖鎖情報を解読する主要な分子がレクチンである.そのため,レクチンは糖鎖や細胞を分離分析するための試薬として,古くから活用されてきた.しかし,レクチンそのものを医療に応用するという研究はほとんど行われてこなかった.こうしたなか,著者らは高密度レクチンアレイとよばれる先端技術を用いて,ヒト胚性幹(ES)/人工多能性幹(iPS)細胞に結合するレクチン(rBC2LCN)を同定し,薬剤と融合させたレクチン-薬剤複合体(LDC)を創出することで,治療用細胞中に残存する未分化細胞を除去する技術を開発し,実用化することに成功した.さらに最近では,rBC2LCNレクチンが膵がん幹細胞に強く反応することを見出し,LDC を用いることで膵がんを殺傷除去できることをマウスモデルを用いて明らかにした.本稿では,これまでに著者らが得てきたLDC に関する知見と,今後の研究展望について紹介したい.
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医学のあゆみ 269巻9号, 669-675 (2019);
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日本人の平均寿命が延びるとともに,健康寿命の向上が社会的に求められている.歯科の世界では,自分の歯で人生の終焉まで食事ができることが健康寿命の伸長につながると考えられる.そのためには口腔感染症を予防しなくてはならないが,その半面,口腔細菌は外部からの細菌の侵入を防ぐためのバリアの役割を果たしているので,われわれは口腔細菌と共生していくことも必要である.これまでに抗菌剤などが口腔ケア製剤として利用されているが,それとは異なる発想として,口腔細菌の歯面への付着を抑制することで口腔細菌によるバイオフィルム形成を抑制できるのではないかと考え,代表的な齲蝕原菌であるS. mutans の唾液付着を抑制するレクチンのスクリーニングを行った.さらに,得られたレクチンの糖鎖認識特異性から,S. mutans が認識する糖鎖構造を解析して口腔ケア製剤に利用可能なレクチンを探索し,その含有物を用いた口腔ケア製剤の効能について検討を行ったので報告する.
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医学のあゆみ 269巻9号, 677-682 (2019);
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哺乳動物由来C 型レクチンによる免疫機能の調節が,生体の恒常性の維持や疾患の発症に重要な役割を担うことが明らかになってきた.Dectin-1 はC 型レクチン受容体(CLR)のひとつで,最近注目されている.Dectin-1 は樹状細胞やマクロファージに発現しβグルカンを感知後,細胞質内領域の免疫受容体チロシン活性化モチーフ様モチーフ(HemITAM)を介して活性化シグナルを伝達する.これまで著者らのグループでは,Dectin-1 が真菌由来のβグルカンを感知し,自然免疫細胞からのサイトカイン・ケモカイン産生や活性酸素種(ROS)を誘導することにより病原真菌の排除に関与することを明らかにしてきた.最近,さまざまな研究グループから,Dectin-1 による炎症性疾患への関与も明らかにされてきた.本稿では,Dectin-1 の大腸炎発症における役割について概説する.
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医学のあゆみ 269巻9号, 683-688 (2019);
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インフルエンザウイルスは,粒子表面糖蛋白質のひとつであるヘマグルチニン(HA)が宿主細胞上の受容体である糖鎖を認識し,感染する.インフルエンザウイルスが自然宿主であるカモとヒトの間の異種動物間伝播と糖鎖結合特異性については,古くから研究が進められてきた.一方1997 年に香港でH5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスがヒトに直接感染し,死者が出た事件以降,鳥とヒトのインフルエンザウイルスの受容体特異性に起因する感染性の違いがそれほど単純ではないことが明らかとなってきた.また,鳥の間のウイルス伝播の過程にも,ウイルスの受容体特異性と宿主組織における糖鎖の構造多様性が関連していることが明らかとなってきた.本稿では著者らの研究を含めて,レクチンであるHA 蛋白質について紹介する.
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糖鎖を標的とした工学的アプローチ
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医学のあゆみ 269巻9号, 690-696 (2019);
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ワクチンなどの医薬品開発やナノバイオテクノロジーへの将来的応用をめざして,近年,蛋白質複合体を人工的に設計構築する研究が盛んに行われてきている.たとえば,人工的に設計した蛋白質分子をナノスケールのブロックとして利用し,自己組織化能力によって多様な複合体構造を構築する“蛋白質ナノブロック”の研究などが報告されてきた.一方で,糖鎖を特異的に認識結合するレクチンの多くは,複数の糖鎖認識ドメインが連結会合した複合体を形成することで,分子内に複数の糖鎖結合部位を持つ多価性を有しており,結合の親和性や特異性を向上させるうえで非常に重要な役割を果たしている.そこで,蛋白質ナノブロック戦略を利用して,レクチンの多価性を向上させたレクチンナノブロックの研究開発を進めることにより,高機能な人工レクチン超分子複合体の創出につながる可能性がある.今後,レクチン工学分野のみならず,将来的に創薬や細胞工学技術開発などの医薬産業分野への波及効果が期待される.
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医学のあゆみ 269巻9号, 697-702 (2019);
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ボロン酸(boronic acids)は糖との結合性から,レクチンになぞらえて“ボロノレクチン”と形容される.低分子ながら多様な生体分子と相互作用し,合成化学的にその選択性をデザインできるたぐいまれな分子群である.おもに有機合成におけるカップリング試薬としてのニーズ拡大に呼応し,今日ではきわめて多種多様な誘導体が安価に入手できる環境にある.ある局面ではリボースを至適に安定化することから,これを生命起源説のひとつである“RNA ワールド仮説”の支持根拠とする学説がある.ボロン酸が関わる分子認識では,それ自体の解離挙動と同期した顕著な親・疎水性変化が誘起され,これらを分子的にプログラムすることで高分子材料への複合的・階層的な環境応答性の付与,それを通じた機能化が可能となる.本稿では,著者らが展開する“ボロノレクチン”の機能をふんだんに生かした疾病診断や,ドラッグデリバリーシステム(DDS)関連の研究のなかから,とくにシアル酸認識によるがんターゲティングの手法,および糖尿病治療を目的としたグルコース応答型インスリン供給システムへの応用例を中心に概説する.
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医学のあゆみ 269巻9号, 703-709 (2019);
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本稿では,糖鎖-レクチン相互作用の概略から医療応用などについて解説し,合成高分子による糖・糖鎖認識システムについて紹介する.加えて,新規性の高い糖認識官能基としてbenzoxaborole 基の特性を評価しており,これと温度応答性高分子と組み合わせることでレクチン模倣高分子(benzoxaborole 基含有高分子)を設計した.レクチン模倣高分子は水溶液中において単糖・二糖・三糖および糖鎖に対してそれぞれ親和性を有することが明らかとなった.これらの知見はいまだ非常に限定的であるが,合成高分子による糖・糖鎖認識を達成する結果であり,非蛋白性合成レクチンを用いた糖認識バイオマテリアルという概念の実証例であるといえる.
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医学のあゆみ 269巻9号, 711-717 (2019);
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糖蛋白質は恒常的な生命現象やさまざまな疾病と密接に関わっており,標的とする疾病関連糖蛋白質に対して選択的に相互作用し,その機能を精密に制御する新たな人工生体機能分子の創製は,生物学や医学をはじめとする多くの分野においてきわめて重要である.本研究において,標的糖蛋白質として着目したα-フェトプロテインL3(AFP-L3)は,肝細胞がん(HCC)患者に過剰発現する腫瘍マーカーであり,現在,AFP-L3 を標的とした治療法の開発が望まれている.一方,AFP-L3 の構造的特徴はアスパラギン結合型糖鎖を有し,かつその糖鎖の還元末端のN-アセチル-D-グルコサミン(GlcNAc)にα1-6 結合でフコース(Fuc)が付与したコアフコース構造を有することがあげられる.そこで,本研究ではAFP-L3 の糖鎖構造を選択的に認識し,特定波長の光照射下でAFP-L3 を選択的,かつ効果的に光分解する新たな人工生体機能分子のデザイン・合成および機能評価を行ったので,本稿で紹介する.
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レクチンを標的とした工学的アプローチ
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医学のあゆみ 269巻9号, 720-726 (2019);
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レクチンとは,糖を認識する蛋白質の総称である.レクチンの改変にもさまざまな視点からのアプローチが考えられるが,著者らは糖認識特異性を自由に作りだすことをめざし,改変レクチンの研究を行ってきた.われわれの体のなかにはさまざまな抗原を認識する抗体が存在するように,植物にもレクチンという生体防御を担う分子が存在している.抗体と同様に,レクチンの分子構造には類似のvariable bindingloop が存在し,糖鎖に特化して認識する.しかし,レクチンには抗体(免疫グロブリン)にみられるような多様性を作るメカニズムは存在しない.そこで,遺伝子工学的にレクチンのvariable binding loop にランダムな変異を導入し,目的とする糖鎖を特異的に識別できる改変レクチンをスクリーニングにより探索した.本稿では,科学の進展とともに試行錯誤したさまざまな経緯に触れながら,どのようなアプローチでレクチンのvariable binding loop を見出し,改変レクチンの創出に至ったか,また今後どのような応用が可能かなどについて紹介する.
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医学のあゆみ 269巻9号, 727-732 (2019);
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糖鎖高分子・糖鎖高分子ナノゲルによる糖鎖機能材料のバイオテクノロジーへの応用について記す.糖鎖高分子は合成高分子であり,ビニル基に対する付加重合を制御することで種々の分子形状を容易に制御することができる.糖鎖高分子を合成するために糖鎖のビニル化合物の誘導体を用いることで,合成高分子であるナノゲルに糖鎖の分子認識能を付与することができる.糖鎖高分子ナノゲルに対して親・疎水性基を加えて,物性を制御した糖鎖高分子ナノゲルを構成した.ナノゲルは三次元的な構造をしていることから,線状高分子よりも一分子で多くの糖結合サイトに結合することができ,強い結合を達成していた.分子認識性はゲルの物性によって大きく変化し,相転移状態にあるナノゲルについては,糖鎖高分子とナノゲルの結合が膨潤・収縮ゲルに比べて強かった.また,オリゴ糖・硫酸化糖などの生理活性糖鎖を用いて,糖鎖高分子や糖鎖高分子ナノゲルを作製することもでき,医療に資する分子機能材料も創製できた.硫酸化糖鎖高分子ナノゲルは,血管内皮増殖因子(VEGF)などの細胞成長因子と結合し,血管新生抑制効果を発揮した.
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医学のあゆみ 269巻9号, 733-735 (2019);
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わが国の糖尿病患者数は予備軍も含めると約1,000 万人といわれている.一方で,世界に目を向けると現在4 億人超の糖尿病患者がいると推計されている.糖尿病を放置したり,適切な治療が行えないと,命に関わるさまざまな重篤な合併症を引き起こすため,早期発見と早期の治療開始が求められる.国内では健康診断での血液検査により,糖化ヘモグロビン(HbA1c)量などを用いて血糖値測定を行い,問題がある場合は専門医を受診し治療を開始する体制が整っている.一方,健康診断の受診率は2016 年度で51.5%であり,かならずしも十分な診断ができているわけではない.このような背景のもと,著者らは微粒子の分散・凝集変化という目視での簡易診断を実現しうる血糖診断材料の研究を行っている.本稿では研究背景とその概念を述べたい.
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レクチンの新たな視点
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医学のあゆみ 269巻9号, 738-742 (2019);
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多くの細胞増殖因子,サイトカインなどはグリコサミノグリカン(GAG)に親和性を持つことが知られている.すなわち,細胞増殖因子やサイトカインは,GAG という糖鎖を認識し結合するレクチンと解することができる.著者らは,線維芽細胞増殖因子(FGF)がレクチンとしてどのような糖鎖を認識しているのかに興味を持って研究を進めてきた.その結果,20 種以上のFGF ファミリーのなかには,ヘパリン/ヘパラン硫酸のみならず,コンドロイチン硫酸にも親和性を有するものがあることや,ヘパリンにまったく親和性を示さないFGF も存在することが明らかとなった.一方,ヘパリン/ヘパラン硫酸と結合することにより生理活性が高まるという多くのFGF の性質から,それ自体に糖鎖を担わせることにより細胞増殖因子としての機能が向上する可能性が考えられた.そこで,FGF1 にプロテオグリカンの糖鎖付加部位を融合した蛋白質をデザインし,これを動物細胞で発現させた.分泌されたFGF1 は期待どおりにGAGが付加されており,単純蛋白質と比較して,いくつかの観点から高機能化していた.このような戦略は,新たな創薬シーズの提案・創出に有効であると考えられる.本稿では,生理活性蛋白質をレクチンとして捉え,その糖への親和性を基盤として機能向上をはかり,これを診断薬・創薬につなげる試みを紹介したい.
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医学のあゆみ 269巻9号, 743-748 (2019);
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レクチンの寄与する免疫応答として,たとえば自然免疫応答のひとつである補体の活性化には,マンノース結合レクチンとよばれる可溶性のC 型レクチンが関与することが古くから知られている.C 型レクチンはカルシウムイオン依存的な糖結合活性を特徴とするレクチンで,とくに近年では,膜貫通型のいわゆるC 型レクチン受容体が病原性微生物に特有の多糖構造を認識し,これらを感知するセンサーとして機能していることが明らかとなってきている.そのなかには,内因性リガンドが存在する分子もあり,C 型レクチン受容体が自己・非自己双方に起因する危機を感知することで,生体の恒常性維持に重要な役割を果たしていることがわかってきた.
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レクチン‒糖鎖相互作用の物理化学的理解
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医学のあゆみ 269巻9号, 750-755 (2019);
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レクチンは糖鎖を特異的に認識する分子として幅広く機能している.レクチンは単糖に対する親和性は低くmM 程度の解離定数であるが,多くのレクチンはオリゴマー化により,複数の結合部位を提示し,より見かけの親和性を向上させている.糖鎖の結合部位は通常フラットな分子表面で行われ,糖の水酸基は水素結合のドナーおよびアクセプターとして結合に関与しており,水素結合のネットワークがレクチンの結合特異性を決めている.Ca2+などの二価イオンを介した配位結合や,脂肪族水素を含む糖のリングと芳香族側鎖がスタッキングするCH/π相互作用も高い頻度で見出される.レクチンの親和性向上のストラテジーは巧妙であり,個々のレクチンに特徴がある.レクチンによる糖鎖認識様式を解明することは糖鎖の持つ生理機能の解明につながり,ひいてはレクチンをターゲットとした創薬に貢献することになる.
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医学のあゆみ 269巻9号, 757-760 (2019);
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Aspergillus oryzae lectin(AOL)はコウジカビ(Aspergillus oryzae)由来のフコース特異的レクチンである.セレンを含むフコースの異常分散を用いたX 線結晶構造解析によってAOL の立体構造を決定したところ,全体の構造はほかのフコース特異的レクチンと同様に,6 枚のβシートからなるβプロペラ構造であった.フコースはそれぞれのβシートの境界に結合していて,その結合のおもな分子機構は6 カ所で保存されていた.フコースを結合するAOL のアルギニンおよびグルタミン/グルタミン酸残基はすべての結合部位で共通であったが,その他については同一ではなく結合部位により細かい結合様式には差があることが示唆された.また,電子密度図におけるセレン含有フコースのセレンのピーク高さは,結合部位によって差があることがわかった.これらの知見は,フコースに対する親和性が各結合部位で同一ではないことを示唆している.
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医学のあゆみ 269巻9号, 761-767 (2019);
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糖鎖は内部運動の自由度が非常に高く,溶液中では一定の三次元構造を取っておらず,多数のコンフォマーの間を揺らいでいる.レクチンはこうした揺らいだ糖鎖を標的として認識し,機能発現を担っている.本稿では,動的な糖鎖を対象とした核磁気共鳴(NMR)分光法と計算科学を組み合わせた構造解析手法を紹介するとともに,糖鎖とレクチンとの相互作用の仕組みに関して考察する.