Volume 270,
Issue 1,
2019
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【7月第1土曜特集】 血管新生─基礎と臨床
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医学のあゆみ 270巻1号, 1-1 (2019);
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血管:発生・再生担当細胞
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医学のあゆみ 270巻1号, 4-9 (2019);
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血管内皮細胞と血球細胞は,ともに中胚葉に由来し,共通の前駆細胞から発生する.胎仔体外の卵黄囊では,中胚葉に由来する血球血管芽細胞が血管内皮細胞と血球細胞に分化し,前者は互いに凝集し原始血管叢を形成し,後者はおもに胚型赤血球を産生する.胎仔では,側板中胚葉に由来する血管芽細胞が,背側大動脈と総主静脈を形成し,さらに,背側大動脈の腹側壁には,造血性内皮細胞とよばれる造血能を有する内皮細胞が出現する.造血性内皮細胞は,内皮造血転換とよばれる現象によって血管壁から剝離し,生涯にわたって血液細胞を供給する造血幹細胞へと生まれ変わる.造血性内皮細胞は動脈に出現することから,その運命決定には動脈分化のプロセスが必要であると考えられているが,その詳細なメカニズムについては不明な点が多い.本稿では,血管系・造血系の発生プロセスについて概説するとともに,造血性内皮細胞の運命決定機構について著者らの知見を含め紹介する.
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医学のあゆみ 270巻1号, 11-16 (2019);
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受精卵から個体が発生する過程で,血液を循環させる血管は脈管形成という過程で形成される.中胚葉から分化した血管内皮細胞が管腔を形成し,壁細胞が接着して安定した構造の血管が形成される一連の過程である.一方,個体発生過程においてほぼ全身に血管の形成が終了すると,その後に新しく形成される血管は血管新生という過程で誘導される.この血管新生の過程は,出生後のさまざまな生理的現象や病態メカニズムを解析するうえで重要なプロセスであるものの,その細胞制御に関してはこれまで十分に理解されてきていなかった.この血管新生のプロセスに,既存の血管のなかに血管内皮幹細胞が存在し,この細胞が新しい血管の形成に重要な役割を果たすことが明らかになってきた.血管内皮幹細胞を利用することで,新たな血管再生の治療が可能になることも判明してきたが,いわゆる個体の維持における血管内皮幹細胞の重要性に関しても解明されつつある.
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血管発芽・伸長・安定化シグナル
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医学のあゆみ 270巻1号, 18-23 (2019);
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脊椎動物生体内のあらゆる組織は,血管から酸素・栄養が供給されることにより恒常性が維持される.発生期において,全身に血管が張りめぐらされるメカニズムはがんなどの病態においてもほぼ共通であり,この血管形成に中心的な役割を果たすのが血管内皮成長因子(VEGF)である.VEGF はVEGF 受容体(VEGFR)を介して,血管内皮細胞にシグナルを伝え,それによって誘導される細胞の挙動の変化(透過性亢進,増殖,生存,遊走など)が血管新生の根幹となっている.近年,さまざまなテクノロジーの飛躍的な発展によって,VEGF/VEGFR シグナルの詳細,とくにVEGF の生物学的利用能(bioavailability),プロセッシング,VEGFR のシグナル伝達の使い分け,関連分子によるシグナル修飾の理解においてめざましい進歩がみられ,全容の包括的な理解が進んでいる.これにより,血管をターゲットとした疾患の新たな治療,とくに特異的なシグナル経路のブロックによる,より効果的かつ安全な抗血管新生療法の開拓という視点から新たな展開をもたらしている.
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医学のあゆみ 270巻1号, 25-30 (2019);
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受容体型チロシンキナーゼTie と,そのリガンドであるアンジオポエチン(Ang)は血管およびリンパ管の発生や病態に重要な役割を果たす.血管内皮細胞増殖因子(VEGF)/VEGF recepto(r VEGFR)システムが血管新生やリンパ管新生に関わるのに対して,Ang/Tie システムは,そのリモデリング過程に必須である.また,Ang/Tie は血管の安定化を制御するため,腫瘍血管新生や炎症などの病態との関連が深く,Ang/Tie を標的とした治療が検討されている.脈管研究では最近,臓器特異的な血管・リンパ管の発生や,その機能について注目が集まっている.いくつかの報告から,Ang/Tie は特定の臓器の血管・リンパ管の形成や,特定の内皮細胞(静脈内皮やリンパ管内皮)への分化に関与することが明らかとなってきた.このように,Ang/Tie は全身の血管・リンパ管が機能的な構造を形成・維持するために必須のリガンド受容体システムとして働いている.
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医学のあゆみ 270巻1号, 31-37 (2019);
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トランスフォーミング増殖因子(TGF)-βはシグナル伝達因子の遺伝子変異が遺伝性血管疾患の原因となることや,さまざまな遺伝子改変マウスの解析から,血管内皮細胞および血管平滑筋細胞ともに作用し,血管の形成・維持に重要な働きを持つことが示されている.近年,TGF-βによって内皮細胞がその性質を失い,間葉系細胞に分化転換する内皮間葉移行(EndMT)という現象が発生期のみならず,成体のがんや臓器・組織線維化の過程,動脈硬化,肺高血圧症,糖尿病などでも観察されるようになった.EndMT を制御するシグナル,転写因子,誘導因子が明らかになりつつあり,EndMT の制御方法を介した関連疾患の治療法開発に期待が集まっている.
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医学のあゆみ 270巻1号, 39-43 (2019);
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アペリン(Apelin)はG 蛋白質共役受容体(GPCR)であるAPJ のリガンドとして,1998 年に同定された生理活性オリゴペプチドである.Apelin はさまざまな組織において発現が認められており,器官形成から恒常性維持などの多様な生理機能に関与することが報告されている.そのなかでもとくに,血管系に関しては血管新生から血管成熟化および安定化,さらに動静脈血管の並走構造の制御など,重要な役割を果たすことが明らかとなっている.また,腫瘍血管においてもApelin とAPJ の高い発現が認められ,腫瘍血管の形成や正常化の制御への関与が示唆されている.最近では,新たなAPJ のリガンドとしてElabela が同定され,血管形成における重要性が示されつつある.本稿では,血管におけるApelin/Elabela-APJ の構造や発現部位に関する現在の知識と,血管形成におけるApelin シグナルの生理学的および病理的な機能について要約する.
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医学のあゆみ 270巻1号, 45-50 (2019);
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血管はおもに内腔面を構成する血管内皮細胞と,反管腔側から内皮細胞を被覆する血管壁細胞からなる.血管壁細胞の動員は血管新生(とくに血管伸長過程と,それに引き続く血管の安定化)に必須の役割を持つ.血管壁細胞はさらに,①周皮細胞と,②血管平滑筋細胞,の2 種に大別される.周皮細胞はおもに毛細血管を被覆する一方,血管平滑筋は動脈から細動脈,または静脈血管の比較的血管径の太い血管を被覆する.しかし,しばしばこの周皮細胞は平滑筋細胞と混同され,周皮細胞機能の理解の弊害となっている.2018 年,マウス脳血管を用いた一細胞RNA シークエンスが行われ,これまでの組織形態学的分類に加えて新たに遺伝子発現パターンよる血管壁細胞の分類がなされた.本稿では,まず血管壁細胞の組織形態学的特徴と,最近のトランスクリプトーム解析を踏まえた血管壁細胞の定義と分類について述べ,その後に血管壁細胞の発生機序と血管新生における役割について概説する.
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医学のあゆみ 270巻1号, 51-56 (2019);
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血管は周囲の微小環境に応じて新たに分岐・伸長し,血流のない不要な血管をなくして,機能的な血管から血管網を作り上げる(いわゆるリモデリングを行う)動的な組織である.最初は造血幹細胞と同じ系譜でもって発生し,自発的に血管内皮増殖因子(VEGF)を基本とする分化促進環境のもと,血管内皮細胞が生じて同じ細胞同士でネットワークが形成される.この血管形成プログラムはエピゲノム制御をもとに転写因子のカスケードを介して生じていることが明らかになった.また,ペリサイト被覆化などの安定化を受け,生後はきわめて安定的な閉鎖血管系が構成されるが,がん増殖・転移や動脈硬化・血栓などの病的な環境に陥った場合,あるいは創傷治癒などで新生血管を増やす必要が出た場合に,ふたたび血管内皮細胞は微小環境制御を受けて増殖や炎症につながる転写因子群を活性化していくことが知られている.この転写ネットワークは複数の転写因子ファミリーとその過度な,あるいは異所的な活性化を防止するための多くのフィードバック回路によってフェイルセーフのシステムを構築していた.そこで本稿では,包括的なエピゲノム解析によって解明されつつある,血管形成に関わる内皮細胞の転写カスケードおよび血管新生に関わる転写ネットワークについて概説する.
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血管新生解析
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医学のあゆみ 270巻1号, 58-62 (2019);
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マウスは血管新生研究に限らず,多様な医科学研究に頻用される代表的なモデル動物のひとつである.多くの遺伝子改変マウスが,1980 年代のトランスジェニック技術の開発を皮切りに近年のゲノム編集技術を用いて作製されてきた.本稿では,著者らが整備してきた血管発生および血管新生研究に有用な蛍光レポーターマウス,血管内皮細胞を欠損する遺伝子改変マウスの解析を通して明らかにしてきた種特異的な血管発生機構と,その分子基盤としての血管内皮増殖因子(VEGF)受容体の発現制御機構および血管内皮細胞に高発現する遺伝子群の網羅的同定について概説したい.
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医学のあゆみ 270巻1号, 63-69 (2019);
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ゼブラフィッシュは,血管研究の分野で主要なモデル生物として位置づけられている.1990 年代から現在に至るまで,順遺伝学的スクリーニングにより心血管系に異常をきたすさまざまな変異体が単離され,血管の分化・発生メカニズムの解明に大きな貢献をもたらしてきた.さらに,ゼブラフィッシュの胚は小さく透明であることから,ライブイメージングに適しており,血管研究に有用なイメージングツールが数多く開発されてきた.蛍光イメージングによって内皮細胞の動態(構造・応答)を生きたまま詳細に捉えることで,固定サンプルでは見ることのできない動きを伴った生命現象を解析することができる.また,近年ではゼブラフィッシュを用いた循環器疾患モデルの樹立や,治療薬の開発をめざした創薬スクリーニングも実施されており,医学応用へ向けた研究も進んでいる.本稿では,ゼブラフィッシュを用いた血管研究の概要と最新の知見,今後の展望について紹介を行う.
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医学のあゆみ 270巻1号, 71-77 (2019);
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全身に張りめぐらされた血管ネットワークの形成は,個体の発生や分化,生体の恒常性維持に必須である.近年,血管ネットワーク形成を解析するための細胞分化制御法が確立し,動脈・静脈・リンパ管の形成や血管を介した生体の恒常性維機構が少しずつ明らかになりつつある.一方,複雑な血管ネットワークの細微な破綻が心疾患のみならず,がんや生活習慣病などさまざまな疾患の原因となることが知られており,血管を基軸とした疾患における病態解明の研究は,国内外で盛んに行われている.しかし,既存の血管生物学的な解析法や考え方だけでは複雑な血管ネットワークによる恒常性維持機構や病態解明には限界があり,血管研究は大きな転換期を迎えようとしている.本稿では,近年注目を浴びている網羅的なゲノム,RNA,蛋白質,代謝物などのオミクス解析技術,とくにメタボロミクスを駆使した血管生物学研究の現状について概説したい.
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臓器・疾患特異的血管新生
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医学のあゆみ 270巻1号, 80-86 (2019);
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高齢化や生活習慣病の増加に伴い,わが国における動脈硬化性疾患の罹患率は増加の一途をたどっている.動脈硬化などによる血管狭窄・閉塞に伴う血流不全は,さまざまな組織における虚血の原因となり患者の予後を悪化させている.著者らのチームでは,脂肪組織由来間葉系前駆細胞(ADRCs)を用いた血管新生療法(TACT)の臨床研究を行っている.これは薬物治療や血行再建術など従来の治療法では救肢できない重症虚血肢(CLI)症例の患肢に,患者皮下脂肪より採取した自己ADRCs を投与し,血管新生を促すことにより血流の改善をはかるものである.現在良好な治療経過を認めており,多施設共同研究として広く展開している.ADRCs は冠動脈硬化による虚血性心疾患(急性心筋梗塞,虚血性心不全など)の治療にも応用されており,その有用性が報告されている.本稿ではその概要を紹介する.
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医学のあゆみ 270巻1号, 87-93 (2019);
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血管は全身に血液を供給する点で組織の恒常性維持に必要不可欠の器官である.その一方で,血管自体からのアンジオクライン因子も恒常性の維持に重要な役割を果たすことがわかってきた.また,肺毛細血管は効率的にガス交換を行うために特徴的な形態をしているが,特異的なアンジオクライン因子も発現している.最近,各臓器における血管ネットワークの差異や臓器内での血管細胞の多様性が注目されている.本稿では,肺毛細血管網の特徴を著者らの研究成果を踏まえ,とくにアンジオクラインシグナル,ペリサイトに焦点を当て概説する.
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医学のあゆみ 270巻1号, 95-99 (2019);
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発生期の網膜では,視覚に有利な配向となるように血管網が形成される.一方,糖尿病網膜症などにみられる血管閉塞では,新生血管が精巧なパターンを再現することなく,虚血網膜から逸脱して伸長する.すなわち,網膜血管新生における“正常”と“異常”との本質的な違いは,その空間配置にあるといえる.近年,虚血性網膜疾患に対する抗血管内皮増殖因子(VEGF)療法が普及しているが,血管新生を阻害するのではなく網膜内に誘導することによって正常血管網を再構築することができれば,病態の根治につながると期待される.本稿では未熟児網膜症を例に,虚血網膜における異常血管新生の実態を紹介する.さらに,マウス網膜の解析により明らかとなった,新生血管の伸長方向を制御する分子機構に焦点をあて,血管正常化の治療の可能性について述べる.
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医学のあゆみ 270巻1号, 101-106 (2019);
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骨の形成・恒常性維持および修復過程において,血管が不可欠であることは知られているが,その詳細な細胞・分子メカニズムは不明な点が多い.近年,世界的に長管骨の血管の解析が精力的に進められている.そのなかで特殊な免疫染色方法が開発され,骨のなかでもとくに骨幹端に存在する特異的な血管のサブタイプ;CD31high Endomucinhig(h H 型血管)が血管新生と骨形成を同調して制御していることが示された.また,この血管は低酸素誘導因子(hypoxia inducible factor:Hif)-1αにより制御されていることも明らかにされている.さらに,血流と血管内皮細胞のNotch シグナルが骨格系の老化過程を制御する重要な因子であるとも報告されている.このように近年,骨血管の観察技術の飛躍的な向上により当分野の研究が活発となっている.本稿では骨内血管の形態学的特徴を中心に,近年の報告について紹介する.
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医学のあゆみ 270巻1号, 107-110 (2019);
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腫瘍組織において血管は,栄養や酸素の供給,転移の経路になるなど,がんの進展に重要な役割を果たしている.そのため,今から40 年以上前にがんを“兵糧攻め”にする目的でがんの新生血管を標的とする血管新生阻害療法が提唱された.以降,腫瘍血管の内側を構成する血管内皮細胞はがん治療における“2 番目に重要な標的”となったが,腫瘍血管新生制御には,腫瘍血管およびそれを構成する血管内皮細胞の性質を分子生物学的に理解する必要がある.腫瘍血管内皮細胞(TEC)の特異性が明らかになってきており,現在の血管新生阻害療法は血管新生因子,血管内皮増殖因子(VEGF)とその受容体(VEGFR)とそのシグナル伝達系の分子を標的としたものが中心である.しかし近年,腫瘍血管新生はVEGF/VEGFR以外のさまざまな因子により複雑に制御されていることがわかってきた.また,血管新生阻害療法はがん幹細胞や腫瘍免疫との関連性も報告されている.血管新生阻害療法のさらなる発展のために,がんを養う血管内皮細胞の多様な解明が期待される.
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炎症・代謝・老化と血管の関わり
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医学のあゆみ 270巻1号, 112-117 (2019);
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19 世紀の内科医William Osler が残している「人は血管とともに老いる」という言葉のとおり,狭心症や心筋梗塞,脳梗塞などの動脈硬化性疾患は老化とともに増加する.加齢に伴い血管には構造的・機能的変化が生じ,さまざまな動脈硬化性疾患の病態基盤が形成される.さらに,高血圧や糖尿病,脂質異常症などの生活習慣病を合併することで動脈硬化の病態はさらに進展し,心血管イベントという形で顕在化する.老化は細胞レベルでも生じ,血管の動脈硬化巣においても老化細胞が存在している.老化細胞は周囲の若年細胞に炎症を惹起し,老化形質を促進させることで血管老化が進行していく.血管における細胞老化の抑制,あるいは老化細胞の除去は次世代の動脈硬化性疾患の治療法となる可能性を秘めており,昨今盛んに研究されている.
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医学のあゆみ 270巻1号, 119-122 (2019);
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血管は炎症プロセスのなかで鍵となる働きをする.血管の応答により免疫細胞が炎症部位に集積し,生理活性物質が組織へ移行する.血管新生も炎症から修復のプロセスに必須である.一方,炎症はリンパ管新生も誘導する.炎症と修復は血管・リンパ管細胞,マクロファージをはじめとする免疫細胞,線維芽細胞に加えて組織を構成する実質細胞,さらに細胞外基質との間のダイナミックな相互作用が実行する.このような複雑な相互作用の異常は炎症の慢性化や不十分な修復をもたらし,組織機能障害を引き起こす.マクロファージは炎症・修復の流れのなかで多彩な働きを示す.とくに,血管新生や成熟の制御は適切な炎症の収束と組織修復をもたらすうえで重要な機能である.リンパ管新生の異常もリンパ浮腫をはじめとする炎症性疾患の原因となることがわかってきている.
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医学のあゆみ 270巻1号, 123-129 (2019);
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動物が生命活動を継続するにあたって必要なエネルギーを産生するために,全身の血管網による酸素や各種栄養素の供給は必須である.同時に,血管自体も自らエネルギーを産生することにより,各臓器におけるエネルギー需要への応答を行っている.その手段として血管を形成するが,出生後に生じるのはおもに発芽的血管新生によって誘導される.このとき,既存血管の内皮細胞から遊走性の高い非増殖性のtip cell,増殖活性の高いstalk cell,静止状態のphalanx cell などに分化して血管新生を担う.いずれの細胞もおもにPFKFB3 を鍵因子として解糖系に依存し,酸化ストレスを避けつつ迅速なATP 産生を行い,すばやくエネルギー需要に対応する.腫瘍内皮細胞では増殖能の亢進に適応するため,解糖系だけでなく酸化的リン酸化によるATP 産生も高まっている.血管と代謝組織のクロストークは,メタボリックシンドロームなどの病態形成にも重要である.本稿では脂肪組織と骨格筋について取り上げ,代表的な代謝臓器における血管の役割と介入対象としての可能性を探る.最後に,著者らが近年研究しているANGPTLファミリーの血管と代謝疾患への関わりについても紹介する.
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医学のあゆみ 270巻1号, 131-139 (2019);
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肥満,とくに内臓脂肪組織では,脂肪細胞の肥大,M1 マクロファージの集積による炎症の亢進,血管新生の低下による低酸素が起こるが,それぞれの因果関係はかならずしも明らかでない.著者らは,マクロファージ特異的低酸素誘導因子(HIF)1-α欠損マウスにおいて,血管内皮増殖因子(VEGF)の発現低下にもかかわらず,前駆脂肪細胞の血管新生が十分に発達しているという意外な結果を見出した.さらなる解析で,脂肪組織の炎症性M1 マクロファージが前駆脂肪細胞に直接働きかけて血管新生因子の発現を低下させ,さらに血管に乏しい病的肥満の形成に関与しているマクロファージのHIF-1αは,血管新生の誘導というよりは炎症性サイトカインの分泌と前駆脂肪細胞の血管新生因子の発現抑制に関与していることが明らかとなった.