医学のあゆみ
Volume 270, Issue 2, 2019
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特集 飛行機・新幹線内での医療 ─ 医療従事者の方はいらっしゃいますか?
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高度1 万メートルのドクターコール─ 乗客医師による医療支援
270巻2号(2019);View Description Hide Description飛行中の機内において600 便に1 例の割合で急病人が発生している.急病人は軽症例が多いが,心疾患,脳血管障害を疑わせる重症例も発生している.急病人に対してまず客室乗務員が初期対応を行うが,医師の処置が必要な場合は,乗客である医師に支援を求めることになる.要請に応えてたまたま乗り合わせた医師が診療を行う際には,機内環境の影響を十分考慮に入れ,客室乗務員,機内搭載の医薬品・医療機器,地上からの医療支援システムを活用することが重要である.客室乗務員にはバイタルサインの計測,記録,情報収集,通訳などを依頼し,搭載医薬品と医療機器を使用して診療を行う.対応が困難な場合は不慣れな処置は行わず,再度医師の支援を求める機内アナウンスを依頼するか,航空会社が契約している地上の医師に対処方法のアドバイスを受けるべきである.急病人診療への協力はあくまでも善意で行われる行為であり,診察するだけでも十分な協力である. -
航空機と神経疾患
270巻2号(2019);View Description Hide Description航空機内での医学的緊急事態の原因として,失神や意識障害,脳卒中,痙攣発作といった,脳神経内科医や脳神経外科医が対応する症状や疾患の頻度が高い.この原因として,通常と異なる環境,つまり低い気圧に伴う低酸素状態,機内の乾燥,日常と異なる食事や睡眠サイクル,脱水,アルコール摂取などが関与するものと考えられている.機内でのこれらの症状や疾患への診断と治療は容易ではないが,治療できる病態と死に至る可能性のある病態を可能なかぎり鑑別する.後者であれば地上の医療相談サービス専門医と連絡をとり,状況によっては機内スタッフに目的地外着陸の助言を行う.また,患者には,搭乗の前には内服薬はかならず手荷物に入れ,いつもと同じタイミングで内服すること,そして上述した誘因を避けることを指導する必要がある. -
飛行機頭痛
270巻2号(2019);View Description Hide Description飛行機搭乗時に生じる,一群の定型的特徴を有する頭痛は飛行機頭痛(headache attributed to aeroplanetravel)とよばれる.90%以上は着陸下降時に生じるが,離陸上昇時・水平飛行時に生じることもある.搭乗時間の長短は関係しない.急激に出現し,数秒で最高に達し15~30 分で自然消失する.頭痛の程度はきわめて強く耐え難い痛みで,部位は前頭部から眼窩周辺,ほとんどが片側性である.嘔気・嘔吐,光・音・匂い過敏の随伴はなく,流涙・鼻汁,結膜充血もまれである.頭痛の持続時間は20 分前後で自然軽快する.頭痛の頻度は飛行機搭乗時にほとんど常に頭痛を生じる例(15%前後)から,時々生じる例まで多様である.発症機序は明らかでないが,一部の患者はシュノーケリングや高山からの急速な下山によって同様の頭痛を生じることから,気圧変化による副鼻腔壁三叉神経刺激の関与が推測されている.国際頭痛分類の診断基準により診断するが,副鼻腔・内耳疾患などの器質的疾患の除外が必要である.予防には離着陸30 分前のナプロキセンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服が有効とされる. -
航空機と呼吸器疾患
270巻2号(2019);View Description Hide Description上空での航空機内は気圧の低下に伴う酸素分圧低下,閉鎖腔内の気体体積増加,乾燥など,呼吸器疾患を有する患者にとって不都合な環境となる.機内で酸素投与が必要となるか事前の評価が重要であり,海抜レベルでの経皮的酸素飽和度(SpO2),6 分間歩行時のSpO2,hypoxic challenge tes(t HCT)を用いたアルゴリズムが有用である.酸素投与が必要と判断された場合は事前に航空会社へ問い合わせ,酸素ボンベや携帯型酸素濃縮器(POC)を準備する必要がある.航空機内で乗客が呼吸器症状を訴えた場合,リスクとなる既往歴があるかを確認し鑑別を進める.地上の医療スタッフと連携して対応すべきである. -
空路による海外渡航における循環器疾患患者への対応
270巻2号(2019);View Description Hide Description近年,海外渡航数が増加傾向にあり,その経路は空路によるものがほとんどである.医療技術・デバイスなどの進歩により,心血管疾患の既往を持つ渡航者が増加してきており,心血管疾患患者特有の航空機搭乗可能条件も示されている.さらに,航空法で定められた自動体外式除細動器(AED)を含む最低限の医療器材・薬剤が国際線航空機内に常備されるようになり,急変時対応も可能な体制が整ってきている.渡航前の準備においては,内服薬の準備が最重要事項であるが,植込型機械的デバイスへの配慮も必要であり,デバイス手帳や簡易英文診断書の準備が必要である.また,感染症に罹患することで状態が悪化する心血管疾患もあり,十分に注意をするよう促し,渡航先に応じて可能なかぎり予防接種を推奨する.またエコノミークラス症候群で知られているように,静脈血栓塞栓症はあらかじめ発症リスクの層別を行い,とくにハイリスク例には予防手段を十分指導しておくことが重要である. -
航空性中耳炎と耳管機能
270巻2号(2019);View Description Hide Description最近,ビジネスや旅行,インバウンドの増加など,航空機に搭乗する機会が増え,急激な気圧の変化に曝露される機会が多くなってきている.来年は2020 年東京オリンピックの年であり,国内外からたくさんの観光客が訪れ,航空性中耳炎に罹患する頻度の増加が予想される.本稿では,航空性中耳炎と耳管機能について,またその対策についても述べる. -
新幹線乗車時に起こりうる症状・疾病─ 新幹線頭痛を含めて
270巻2号(2019);View Description Hide Description新幹線は通常の鉄道と異なるさまざまな特徴がある.高速走行時,とくにトンネル進入で生じる車内の気圧変化に対処するため,車両は気密構造で設計されている.また諸外国の高速鉄道と異なり,在来線と独立した閉鎖システムの鉄道施設で構築され,駅間距離が長いうえ,トンネルや高架橋が多い.一方で長大編成による大量輸送,過密な列車ダイヤが正確に運用されている,こうした新幹線のシステムが身体に及ぼす影響や,疾病・傷害が車内で生じた際の救援・救助や避難面からの課題を述べる. -
航空機内での医療をめぐる法律問題
270巻2号(2019);View Description Hide Description搭乗中の医師が機内アナウンスの要請に応じない場合の法的責任について考察する.医師法上の応召義務違反には当てはまらず,刑法上の保護責任者遺棄罪にも該当せず,民事上の損害賠償責任が生じる可能性も低いと考える.ただし,医師が積極的に要請に応じるための法整備は必要と考え,「応急手当実施者保護法(仮称)」を提案する. -
航空機内における医療支援体制─ ドクターコール:高度1 万メートルでの急病人発生
270巻2号(2019);View Description Hide Description「皆さま,おくつろぎのところ恐れ入ります.ただいま機内に急病のお客さまがいらっしゃいます.お客さまのなかで,ご協力いただけるお医者さま,看護師の方は乗務員までお知らせ下さい」.航空機内において,急病人発生時に医療従事者のみなさまに支援をお願いすることを“ドクターコール”とよんでいる.機内での傷病は軽症も含め国際線・国内線を合わせて1 日に2 件程度発生している.高度10,000 m,時速900 km以上で飛んでいる航空機内でどのような対応が可能なのか.機内で急病人が発生した際には,短い時間でさまざまな側面から情報を得ながら航空会社は運航判断を行う.搭乗している医療従事者による支援は,航空会社が運航判断をしなければならないときに大きな助けとなっている.医療従事者のみなさまに少しでも応召していただきやすいよう,日本航空における機内での急病人の発生状況,機内搭載医薬品・医療機器,機内医療後方支援の仕組みなどを対応事例も踏まえながら紹介させていただきたい.
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連載
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- 医学・医療におけるシミュレータの進歩と普及 24
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シミュレータを活用した医療安全教育
270巻2号(2019);View Description Hide Description◎危機的状況への対処や危険手技の習得には,シミュレーション教育が必須である.危機的状況への対処では,高機能患者シミュレータを用い,学習目的を設定したシナリオ作りが重要である.危険手技の習得には,単にシミュレーション・トレーニングを行うだけでなく,技術認定を行うべきである. - 健康寿命延伸に寄与する体力医学 12
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運動トレーニングによる高血圧改善の機序─ 中枢性機序を中心に
270巻2号(2019);View Description Hide Description本態性高血圧はきわめて発症率の高い生活習慣病であり,運動不足がその一因である.したがって,定期的な運動トレーニングは高血圧を予防し改善する.高血圧の発症機序自体が多様でありその詳細が不明であるように,運動トレーニング効果の機序も不明な点が多い.こうしたなか,神経系機能の改善,すなわち中枢性機序と,血管系機能の改善を中心とした末梢性機序が提案されており,それを裏づける研究論文数がこの10 年間のうちに飛躍的に増えてきている.本稿では,運動トレーニングが高血圧を予防し改善する機序のうち,とくに中枢性機序について焦点をあて,高血圧発症の原因とされる中枢内の炎症反応,レニン-アンジオテンシン系の異常,酸化ストレスとの関連を踏まえながら最近の知見を概説する.
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- 腎臓内科学
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FORUM
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- パリから見えるこの世界 81
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