Volume 270,
Issue 9,
2019
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【8月第5土曜特集】 脳機能イメージングの最前線
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医学のあゆみ 270巻9号, 677-678 (2019);
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総論
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医学のあゆみ 270巻9号, 680-684 (2019);
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ヒトを対象に磁気共鳴イメージング(MRI)を撮像するようになって約40 年が経ち,脳MRI は臨床現場・研究分野の両側面で非常に有用かつ重要なツールへと成長を遂げた.拡散MRI は臨床現場で急性期脳梗塞や脳腫瘍の画像診断に用いられる一方,撮像方法を工夫して脳組織に存在する水分子の動きを定量することで,脳の微細構造やその変化を推測する試みが数多く行われている.この手法としてさまざまな数式やモデルが提唱されているが,どれも生体の脳構造に正確に反映させることは困難であるため,結果の解釈には注意が必要である.また近年新たに開発されたsynthetic MRI は,1 回の短時間撮像で複数のコントラスト画像を得ることができる画期的な撮像法である.これはT1 値,T2 値,プロトン密度を算出し画像を作成することでなされ,計算値を応用して脳容積や軸索・ミエリン量の定量も試みられている.近年話題となっている人工知能との相乗効果により,臨床現場・研究分野でこれらのイメージングを利用しやすくなることが期待される.
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医学のあゆみ 270巻9号, 685-691 (2019);
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MRI 技術の進展により,ヒト生体の解剖学的情報を三次元的に構成する技術は大幅に進んだ.超高磁場7 テスラ(7 T)MRI を用いることで,非侵襲的に数百μm 程度の解像度で撮像し,三次元再構成することが可能となり,構造機能連関を解明するための次世代イメージング装置として期待されている.ヒトを含む霊長類生体の大脳皮質構築と神経線維走行を三次元的に構築し,高次認知活動中の神経活動を描出・統合して解析する超高解像度脳情報画像化システムを開発し,マクロレベルでの神経回路解明と種間比較をめざす試みを紹介する.
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医学のあゆみ 270巻9号, 693-698 (2019);
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われわれの体を構成している真核細胞に呼吸能力のある好気性細菌が入り込んで共生をはじめたミトコンドリアは,細胞およびそれらの集合体としての個体の機能維持に必須なエネルギー供給を担っている.母系遺伝する独自のミトコンドリアDNA(mtDNA)を持ち,核内DNA とは独立して分裂・増殖することができるため,細胞内に存在する多数のミトコンドリアが,状況に対応して絶えず分裂と融合を繰り返しており,ミトコンドリアの異常が生体の健康の変調や各種疾患の発症に関与している.本稿では,ミトコンドリア機能の非侵襲的・定量的計測を可能とする新規PET プローブ[18F]BCPP-EF の開発と,本プローブのAlzheimer 病,Parkinson 病(PD),脳梗塞などの脳神経変性疾患の早期診断への適用の可能性について,著者らが実施した動物実験の結果を紹介しながら概説する.
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医学のあゆみ 270巻9号, 699-706 (2019);
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PET は,数ある生体計測法のなかで,たとえ生体深部であってもごく微量の物質を最も高い定量精度で画像化できる方法である.もともと脳研究のための方法として産声を上げたPET は,全身のがん診断法として普及が進んだが,解像度や感度などに課題が残され,次世代装置の開発は世界的な競争下にある.著者らは,頭部PET への強いニーズに応えるべく頭部専用PET 装置の理想を追い続けている.注目したのは検出器の配置方法である.1975 年のPET の誕生以来,円筒状に検出器を並べることが常識とされてきた.これに対して著者らは,頭部にフィットする半球状のほうがより少ない検出器数で装置感度を高められることに着眼した.本稿では,三次元放射線位置(DOI)検出と同時計数の飛行時間差(TOF)検出の2 つの新しい放射線計測技術を用いて試作した,世界初となるヘルメット型PET 装置について紹介する.
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医学のあゆみ 270巻9号, 707-711 (2019);
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脳機能イメージングの主要なモダリティであるPET と磁気共鳴画像法(MRI)を組み合わせたPET/MRI装置は,PET による分子イメージングを含む各種の機能画像と,MRI による神経線維束も含めた形態画像および血流情報をはじめとする機能画像を同時に計測することができるマルチモーダルイメージングのツールであり,各種の脳神経疾患の診断能の向上や病態生理の解明への貢献が期待される.また,PETとMRI の同時収集を生かしてPET 画像の部分容積効果補正やリアルタイム体動補正を行うことにより,より高精度のPET 計測が可能となるほか,PET による特定の神経系の活動の評価とMRI による脳神経活動の評価を同時に行うことが可能であり,複合的な脳機能計測による脳病態研究,大脳生理学的研究が可能となる.一方で,PET/MRI 装置の発展に向けて技術開発を進めなければならない点や,技術的に解決すべき課題もあり,今後も継続的な研究が必要である.
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各論
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医学のあゆみ 270巻9号, 714-719 (2019);
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脳血管障害に対する核医学検査は,1990 年代後半には方法論がほぼ確立し,現在も臨床において有効に利用されている.定量的な脳循環代謝評価が目的であり,比較的簡便な方法がすでに普及しているため,“最前線”として取り上げられるものはあまりない.わが国では,1996 年に15O-ガスによるポジトロン断層撮影(PET)検査の保険適用が認められ,おもに脳血管障害の血流酸素代謝測定のために用いられている.しかし,15O-ガスPET はサイクロトロンのある限られた研究施設のみで可能な検査であったため,国内では簡便な脳血流単光子放出断層撮影(SPECT)検査が普及し,さまざまな定量法も開発された.定量には通常動脈採血を伴うが,近年は非侵襲的な検査法の開発や,相対的に評価する方法等が検討されている.また,酸素代謝を反映するほかのPET/SPECT 薬剤による循環動態評価法なども検討されている.本稿では脳血流測定法を振り返るとともに,そうした新しい試みを紹介する.
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医学のあゆみ 270巻9号, 720-724 (2019);
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Arterial spin labeling 法を用いた非造影MR 灌流画像(ASL)による脳血流量(CBF)定量測定の妥当性についてはすでに報告されているが,arterial transit time(ATT)延長やarterial transit artifac(t ATA)によるCBF の測定誤差は,依然課題として残っている.最近では,ASL で得られるCBF 以外の画像情報に着目し,ATA,ATT 値,CBF マップの空間変動係数などを側副血行路や脳循環代謝の指標として用いる報告もある.その他,主幹脳動脈閉塞部位に一致した信号上昇(BVA),出血性梗塞との関連性が示唆される再開通後高灌流像,crossed cerebellar diaschisis(CCD)に代表される遠隔効果なども,急性期脳梗塞におけるASL の画像所見として重要である.
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医学のあゆみ 270巻9号, 725-731 (2019);
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認知症診療におけるFDG-PET 検査とアミロイドPET 検査は,現時点ではまだ保険適用になっていないが,近い将来かならず承認されることが予想される.FDG-PET は軽度認知障害(MCI)の段階や早期認知症の段階で,疾患特異的な代謝低下パターンを指摘することで早期診断・鑑別診断に非常に有用である.Alzheimer 病(AD)では頭頂側頭連合野,後部帯状回・楔前部から糖代謝低下がみられる.Lewy 小体型認知症ではAD 類似の代謝低下パターンに後頭葉の糖代謝の低下がみられ,この点がAD との鑑別点となる.アミロイドPET はAD においては発症前の段階で非侵襲的にアミロイド沈着を描出することができる.アミロイド沈着があってもかならずしもAD とは限らない.臨床においては,アミロイドPET の読影はアミロイド沈着陽性か陰性かのいずれかの判定を行う.しかし,まだAD の根治薬が開発されていない現在の状況でいかに臨床応用を行うか,「アミロイドPET イメージング剤の適正使用ガイドライン」に従って実施するべきである.
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医学のあゆみ 270巻9号, 732-738 (2019);
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タウ蛋白の異常凝集体からなるタウ病変は,Alzheimer 病(AD)に代表されるさまざまな認知症患者の脳内に認められ,病態への深い関与が推察されている.近年,脳内タウ病変を生体内で可視化する実用的なタウPET イメージング技術が登場したことで,認知症病態の解明が急速に進みつつある.タウPET で評価をしたタウ病変は病気の症状に関連する脳領域に認められ,患者の死後脳を用いた研究で確認されているタウ病変の分布と一致している.さらに,タウPET の集積程度は認知機能障害や運動機能障害などの臨床的重症度とも相関を認めている.このことはタウPET が認知症の診断のみならず,客観的な重症度評価を行う検査としても有用である可能性を示唆している.タウPET の登場により,脳病態の理解は深化しつつある.さらに,今後登場が期待されるタウを標的とした疾患修飾薬の臨床試験においても,診断およびモニタリングバイオマーカーとして基盤的技術となることが期待される.
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医学のあゆみ 270巻9号, 739-745 (2019);
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神経変性疾患の診断に有用な機能画像は,①神経障害の局在を反映する画像と,②疾患特異的な病態を反映する画像,に大別できる.前者の代表は脳血流SPECT やFDG-PET である.後者は,アミロイドイメージングなどの異常蛋白蓄積を可視化する画像,ドパミン系などの神経伝達機能画像,ミクログリア活性など炎症機序に関連した画像などにさらに分類できる.本稿では,FDG-PET とドパミン系機能画像について述べる.FDG-PET は疾患に特徴的な脳機能低下の分布を感度よく検出できるため,種々の神経変性疾患の鑑別診断や早期診断に有用である.障害の局在だけでなく,疾患特有のネットワーク異常も検出できる.ドパミン系機能画像はParkinson 症候群の診断と鑑別に有用である.黒質線条体ドパミン神経節前機能の指標となるドパミントランスポーターSPECT が保険収載され日常診療で利用できるが,ドパミン受容体画像,FDG-PET,123I-MIBG 心筋シンチと合わせれば,詳細な病態評価が可能となる.
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医学のあゆみ 270巻9号, 746-751 (2019);
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Lewy 小体型認知症(DLB)は,αシヌクレインを主要構成成分とするLewy 小体の存在を神経病理学的特徴とする変性性認知症疾患である.DLB は認知症疾患の20%前後を占め,Alzheimer 病(AD)と比べて予後が悪いとされている.DLB の臨床症状は認知機能障害,精神障害,自律神経障害,運動機能障害,睡眠障害など多様で,臨床所見では診断が困難な症例も存在する.2017 年のDLB の国際診断基準において,指標的バイオマーカーとして線条体でのドパミントランスポーター(DAT)密度低下,心筋へのメタヨードベンジルグアニジン(123I-MIBG)の取り込み低下,示唆的バイオマーカーとしてSPECT/PET における後頭葉の血流・代謝低下を伴う全般性の血流・代謝低下が盛り込まれた.DLB を正確に診断するには核医学画像検査の役割が非常に大きい.本稿では,これら各種検査の特徴につき解説する.
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医学のあゆみ 270巻9号, 752-758 (2019);
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Alzheimer 型認知症(AD)の病理における主要な因子として,アミロイドβ(Aβ)の集積と神経原線維変化の形成に加え,神経炎症が第3 の因子として認知され関心が集まっている.脳の障害や変性疾患に伴う炎症反応に応じてグリア細胞は活性化し,炎症性サイトカインの関連遺伝子とともに,18 kDa translocatorprotein(TSPO)とよばれる受容体の発現が促進される.生体内におけるグリア細胞活性化の評価のために,TSPO に特異的に結合するPET 放射性薬剤が開発され,これを用いたTSPO-PET イメージングが神経炎症の評価に使用されてきた.本稿では神経炎症とグリア細胞の活性化について論考し,TSPOPETイメージングの開発状況について記述し,これまでのAD およびAD 前駆状態におけるPET 炎症イメージングから得られた知見について検討する.
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医学のあゆみ 270巻9号, 759-763 (2019);
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てんかんの有病率は人口の0.5~1.0%と高く,その1/4 は薬剤治療への反応が乏しく,手術的治療が検討される.機能画像は非侵襲的な術前検査として大きな役割を果たしている.てんかんにおけるPET・SPECT 検査は,認知症や腫瘍などの一般的な疾患と大きく異なる.てんかん発作により脳の活動性はダイナミックに変化し,RI 製剤投与のタイミングで得られる画像は大きく変化する.てんかんにおけるPET・SPECT 検査では,まず,いかに完全な発作間欠期あるいは発作開始時に検査を施行することが重要であり,読影時には検査の質の評価が重要となる.SISCOM やeZIS などの定量的解析は読影の大きな助けとなるが,それだけに頼らずPET やSPECT そのものの画像,脳波結果や臨床情報,MRI の画像と合わせて統合的に診断を行う姿勢が重要である.
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医学のあゆみ 270巻9号, 764-769 (2019);
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てんかん外科において,最も重要なプロセスが焦点診断である.脳波-機能的MRI 同時記録(EEGfMRI)とは,このための重要性の高い2 つの検査を組み合わせた手法であり,電気生理学手法と構造学的手法の融合,また,脳波の高い時間分解能と,MRI の高い空間分解能を相補的に融合させた方法といえる.具体的には棘波(spike)に代表される発作間欠期てんかん性活動(IED)を脳波計測で捉え,同期して生じる局所的なBOLD 変化を同時に撮像されるMRI にて検出し,その部位を検討することで焦点診断を試みる.検査を成功させるにはいくつかのマネジメントが必要であり,とくにアーチファクトの除去,発作間欠期活動の同定,解析に適切な脳血流関数モデルに注意が必要である.最近になって複数の改善法が報告されており,焦点性てんかんにおける診断能は格段に向上している.EEG-fMRI は,とくにMRI にて構造学的な異常を示さないタイプの焦点性てんかんに対する非侵襲的な術前検査として,大きく期待されている.
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医学のあゆみ 270巻9号, 770-775 (2019);
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統合失調症の機能的磁気共鳴画像(fMRI)研究は,統合失調症の症状に対応する脳部位の活動をみるものからはじまったが,現在は脳内の神経ネットワークについての研究が行われるようになっている.さまざまな脳内ネットワークのなかで最も注目されるものはdefault mode network(DMN)とよばれるものである.DMN は覚醒しているが,なにもせずぼんやりとしているときに,課題施行時と比べて高い脳活動を示す,互いに機能的つながりを持っている脳内ネットワークを指す.統合失調症患者では,DMN 内の機能的な結合性が患者群で亢進しているという結果が繰り返し得られており,これが統合失調症の病態に関わっていると考えられる.さらに近年では,コネクトームの概念のもと脳全体のネットワークの研究が進んでいる.今後,さらなる大規模データの解析などを通して研究が発展し,統合失調症のバイオマーカーの開発や脳内ネットワークの修正の手法による治療法の開発につながることが期待されている.
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医学のあゆみ 270巻9号, 776-783 (2019);
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近年,脳波(EEG)や脳磁図(MEG)を用いた神経生理学的検査や解析技法の進歩に伴い,精神現象を神経生理学的に捉えようとする研究が盛んに行われるようになり,精神科領域においてもあらたな知見が数多く報告されている.たとえば,統合失調症者では感覚フィルタリング機能を反映しているとされる聴覚P50 のゲーティング機構の障害や,前注意過程あるいは予測符号化の指標とされる聴覚ミスマッチ陰性電位の異常,相貌認知に関わるN170 成分の異常などが報告されている.さらに最新の研究では,統合失調症の脳内における興奮性ニューロンと抑制性介在ニューロンの相互バランスの破綻を反映しているとされる,高周波ガンマ(γ)帯域の神経同期活動の障害が多く報告されており,同様の現象が疾患モデル動物でも確認されている.このような神経生理学的アプローチを用いて精神現象を抽出する試みは,“神経現象学”とよばれる分野にも通じ,今後さらに発展していくであろう.本稿では,これらの知見を概説するとともに,今後の統合失調症研究の展望についても言及した.
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医学のあゆみ 270巻9号, 784-788 (2019);
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近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)は,簡便に脳機能を計測できる機器である.その長所が精神疾患研究および臨床応用に適していると考えられ,国内多施設共同研究の結果を受け,2009(平成21)年4 月1 日,“光トポグラフィー検査を用いたうつ症状の鑑別診断補助”として精神科領域ではじめて先進医療の承認を受け,2014(平成26)年4 月に保険収載された.しかし,この結果は慢性期で診断の確定した被験者を対象とし,横断面の計測であったため十分な一般化可能性と信頼性を確保したものではない.本稿ではまず,脳機能画像データに関する妥当性と信頼性について概説し,そのうえで脳機能画像を精神疾患臨床に応用するために行うべき研究について紹介する.
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医学のあゆみ 270巻9号, 789-794 (2019);
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脳機能イメージングはその撮像・解析技術の発展とともに,さまざまな精神疾患の病態解明をめざした研究に用いられ,多くの成果が報告されている.うつ病研究においても,ネガティブな情動刺激に対する扁桃体の過活動や報酬予測時の線条体の低活動,遂行機能に関わる背外側前頭前野の機能低下とデフォルトモードネットワークの過活動あるいは抑制障害など興味深い知見が蓄積している.また,近年では機械学習の手法を用いて,脳全体の活動パターンなど,多くの指標が含まれるデータから必要な情報を学習アルゴリズムにより抽出し,疾患の判別やサブタイプの同定を行うことも試みられている.今後,結果の再現性を検証するための多施設でのデータ解析と撮像プロトコールの共通化,MRI スキャナーの差を乗り越えるための技術開発が進み,脳機能イメージングがうつ病の客観的診断やサブタイプの同定,治療反応性予測法の開発などへ臨床応用されることを期待したい.
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医学のあゆみ 270巻9号, 795-800 (2019);
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うつ病患者や抑うつ傾向者は,注意や記憶,認知判断において感情的にネガティブな情報処理が促進される“ネガティビティバイアス”を持つ傾向がある.本稿では,抑うつと関連するネガティビティバイアスについて概説し,著者らの研究グループによるネガティビティバイアスの心理物理学的定量評価法とfMRI による脳イメージング研究を紹介する.最後に,ネガティビティバイアスへの効果的な介入手段のひとつとして,神経活動の修正を狙ったニューロフィードバック訓練法の可能性について議論する.
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医学のあゆみ 270巻9号, 801-808 (2019);
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近年,不安障害の脳機能画像に関するメタ解析研究の進展により,不安障害や不安症状に対して,さまざまな角度から神経基盤の病態解明が進んでいる.本稿では不安障害および強迫性障害を中心に,疾患の神経基盤の特徴について MRI による脳形態の評価,機能的 MR(I fMRI)や陽電子断層撮像法(PET)を用いた特定の認知機能に対する脳賦活に関して,近年の知見を紹介する.
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医学のあゆみ 270巻9号, 809-812 (2019);
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強迫症は,繰り返される不安と,それを軽減するための長時間に及ぶ繰り返し行動で特徴づけられる精神疾患である.生涯有病率2%程度とよくみられる疾患で,人生の比較的早期に発症することが多いこともあり,学業や社会生活に多大な影響を与える.前頭葉-線条体回路の変化がその病態の中心と考えられており,脳機能イメージング研究でも前頭葉-線条体回路における変化が報告されてきた.しかし近年,とくに安静状態機能的MRI を用いたネットワークレベルでの研究が盛んに行われるようになり,当初考えられていたより広範囲のネットワーク変化が報告されるようになってきている.本稿では強迫症の脳機能イメージングのなかでも,とくに安静状態機能的MRI を用いて脳ネットワークを評価した研究に関して概説する.
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医学のあゆみ 270巻9号, 813-816 (2019);
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注意欠如・多動症(ADHD)の病態理解について,脳機能イメージングは多大な寄与をしてきた.核医学検査はADHD のドパミントランスポーターの密度に関する知見を,安静時機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)は神経ネットワーク間の機能的結合の異常を示し,課題関連fMRI は,実行機能,報酬系,時間感覚,デフォルトモードネットワークなどの神経心理学的障害の神経基盤を示すとともに,領域間の相互作用についても示唆を与えてきた.脳磁図の所見はまだ乏しいが,機能的結合の異常を同じく支持している.また近年,問題となったADHD の成人期までの持続についても,fMRI や脳磁図が中間表現型となりうることが示唆されている.脳機能イメージングは,ADHD をネットワークとその相互作用の異常として再定義しており,病態理解における重要性がますます増すものと思われる.
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医学のあゆみ 270巻9号, 817-822 (2019);
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愛着障害とはアタッチメント,日本語では愛着形成に大きな問題を抱えた状況を指す.アメリカ精神医学会は精神障害の診断基準であるDSM-5 で,①反応性愛着障害(RAD),②脱抑制型対人交流障害(DSED)の2 つを,愛着障害の最重症型として定義している.近年,マルトリートメントは脳の構造的障害や機能障害をもたらすことが脳画像研究からわかってきた.たとえば,虐待を受けて育ち,養育者との間に愛着がうまく形成できなかった愛着障害の子どもは,報酬の感受性に関わる脳の“線条体”の働きが弱いことがつきとめられた.
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医学のあゆみ 270巻9号, 823-828 (2019);
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オキシトシンによって,現在は治療が困難な自閉スペクトラム症(ASD)の中核症状が治療できるようになることが期待されている.しかし,単回投与ではこれまで一貫して改善効果を報告してきた一方で,反復投与では改善したという報告もあれば改善を認めなかったとする報告もあり,結果が食い違っていた.その理由として,オキシトシンは反復投与すると効果の強さが変化することが疑われたが,ASD の症状を繰り返して評価できるような客観的な方法がなかったため,この疑問を確かめることができなかった.この疑問に対して著者らの最近の研究では,マルチモダリティの脳画像解析や定量的表情分析を評価項目に応用して行った自主臨床試験の解析結果を示し,さらに動物実験による検証を行い,反復投与による改善効果の経時変化や反復投与に特異的な効果発現メカニズムを示した.本稿では,これらの研究成果について概説する.
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医学のあゆみ 270巻9号, 829-834 (2019);
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ディスレクシアは,読み書きに特異的な中枢神経系の機能障害に起因する学習障害である.これまで脳機能マッピングの研究から,音韻処理,視覚性単語形状の処理,発話や文法処理に関わる脳領域の機能不全が報告されている.近年は,ネットワーク解析や脳活動パターン解析など機能的磁気共鳴画像(fMRI)データの解析方法や測定技術の発展に伴い,領域間結合の実態やfMRI 研究の診断利用の可能性など,新たな知見が報告されている.言語に依存しない神経基盤があると考えられる一方で,言語の特徴が発症率の違いをもたらすと考えられる.日本語のディスレクシアの神経基盤のfMRI 研究は,アルファベット言語の研究に比べて非常に少ない.この障害に苦しむ人びとのために,fMRI を用いた認知神経科学研究による支援や早期診断に有益な基礎資料の提供が早急に求められている.
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医学のあゆみ 270巻9号, 835-841 (2019);
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痛みとは“組織の実質的あるいは潜在的な障害に結びつくか,このような障害を表す言葉を使って述べられる,不快な感覚,情動体験である”と定義されている1).また,慢性疼痛は“急性疾患の通常の経過,あるいは創傷の治癒に要する妥当な時間を超えて持続する痛み”と定義されている2).現在,国内の慢性疼痛保有率は成人の22.5%,約2,300 万人に上るといわれている3).慢性疼痛患者はその痛みのためにQOL が著しく低下し,日常生活に大きな支障をきたしている.痛みの慢性化を考える際,一次体性感覚野,二次体性感覚野,前帯状回,島,前頭前野,視床など痛みに関連する脳領域のいわゆる“ペインマトリックス”や,さまざまな脳内ネットワークの機能の低下あるいは破綻に起因すること,下行性疼痛抑制系の問題などもその要因としてあげられる.本稿では,慢性疼痛のなかでも著者の専門とする線維筋痛症の脳機能画像研究から,慢性疼痛と脳機能について述べた.
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医学のあゆみ 270巻9号, 843-848 (2019);
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うつ病に対する認知行動療法(CBT)の有効性が確立しつつある.その臨床的効果を反映して,近年,CBT 後に脳神経活動に変化が生じることが脳機能イメージングにより明らかになりつつある.CBT 前後では前帯状回,前頭前皮質,扁桃体,海馬領域の活動変化がこれまで多く報告されてきているが,その作用機序は用いる心理課題などの研究方法や解析の多様性のため,いまだ一定のコンセンサスは得られていない.多彩な症状を持つうつ病患者の個々の特性に応じて最適な治療選択を行う一助となるよう,今後も脳機能イメージングの発展を願っている.
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医学のあゆみ 270巻9号, 849-853 (2019);
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PET と適切な検査薬を用いることで,抗精神病薬がヒトの脳内でどこに,どのように作用しているかを明らかにすることができる.抗精神病薬のおもな作用機序と考えられているD2受容体を介した作用は,抗精神病作用だけでなく,抗精神病薬により引き起こされる錐体外路症状や高プロラクチン血症といった副作用にも強く関係している.抗精神病薬のD2受容体占有率をPET で評価することで,抗精神病作用が期待され,錐体外路症状が出現しにくい至適な治療用量が提唱され,客観的な指標として活用されている.近年では,D3受容体についてもPET で評価できるようになり,抗精神病薬のD3受容体に与える影響やD3受容体を介した臨床的効果についての知見が集まりつつある.本稿では,PET により評価される抗精神病薬のドパミン受容体への作用を中心に述べたい.
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医学のあゆみ 270巻9号, 854-857 (2019);
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PET を用いることで,抗うつ薬の脳内セロトニントランスポーター(SERT)およびノルエピネフリントランスポーター(NET)占有率を測定することができる.これまでの研究から,抗うつ効果を発揮するにはおおむね70~80%のSERT 占有率が必要と考えられる.SERT 占有率の測定は日本の臨床治験にも取り入れられている.また,脳内占有率の経時変化の測定により,実際の作用部位における薬剤の動態を評価することができる.近年,NET 占有率の報告は増えているものの,SERT 占有率に比べまだ十分に検討されているとはいえない状況である.今後は,治療効果に必要なNET 占有率や,SERT 占有率とNET 占有率のバランスなどについての研究が必要である.PET を用いた占有率測定は合理的な薬物選択や用量設定に重要であり,さらなる臨床への応用が期待されている.
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医学のあゆみ 270巻9号, 858-863 (2019);
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世界アンチ・ドーピング機構による毎年の禁止表国際基準は,最新の研究成果を取り入れ作成される.しかし,中枢神経作用を有する未規制の医薬品を用いるドーピングに関しては,ヒトでの作用を直接観察する方法がなかったこと,スポーツ選手を対象とした研究が困難なことなどから,評価については困難がつきまとう.ポジトロン断層法(PET)や機能的磁気共鳴撮像法(fMRI)などの脳機能イメージングを用いることによって,非侵襲的に脳機能や脳内薬理作用を測定できる.PET によって各種物質の中枢神経作用・動態を測定し,脳機能への影響および尿中および血中濃度との相関を調べることができる.fMRI をあわせて用いることによって,競技能力の向上につながる特定の脳機能への効果を検討することができる.これまでのPET 研究によって,アンフェタミンやメチルフェニデートのような禁止興奮薬については,高いドパミン放出能またはドパミントランスポーター阻害作用が確かめられている.またfMRI では,興奮薬による報酬系機能の亢進が評価できる.以上の脳機能イメージングは,各種中枢神経作用薬の禁止物質としての選定や禁止閾値決定に対し,科学的な根拠を提供してくれる.