Volume 270,
Issue 10,
2019
-
【9月第1土曜特集】 TRP チャネルのすべて
-
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 865-867 (2019);
View Description
Hide Description
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 869-874 (2019);
View Description
Hide Description
温度受容の研究はマウスなどのモデル生物を中心に分子レベルの研究が進んできたが,ゲノム配列データの蓄積や次世代シーケンサーの発達により,さまざまな動物種を対象にした研究が近年展開されてきた.それらの研究により温度受容のセンサー分子として働く温度感受性TRP チャネルの応答特性はときに大きく変化して,種特異的な生理機能の獲得や,異なる温度環境へ適応する進化の過程で重要な役割を担ってきたことが明らかとなってきた.一方で,温度感受性TRP チャネルの種間多様性はチャネル機能の構造基盤の特定にも貢献してきた.チャネル特性の種間差の原因となるアミノ酸を特定し,詳細な立体構造情報と重ね合わせることによって,チャネルの活性化や抑制の作用機序の理解が進んできた.本稿では,脊椎動物を対象にした研究例を中心に紹介し,温度感受性TRP チャネルの進化的な変遷や機能的な種間多様性およびその構造基盤について解説する.
-
TRPC チャネル
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 876-882 (2019);
View Description
Hide Description
TRPC サブファミリーはショウジョウバエのTRP に最も高い相同性を示し,最初にクローニングされた哺乳動物のカルシウム(Ca2+)透過型陽イオンチャネル群である.サブファミリーの枠を越えてヘテロ会合体を形成し,種々の情報伝達分子と相互作用する性質のためか,これまで報告された生体機能や病態への関与は複雑かつ多岐にわたり,しばしば一致しない結果が得られている.この意味で,本分野の研究は新しいアプローチによる検証が必要なフェーズに入りつつある.最近,まさにこのようなタイミングで,TRPC4,TRPC3/C6 チャネルの分子立体構造が相次いで報告された.また,脂質によるTRPC の活性化・制御機構についても新しいアプローチによる展開が得られた.本稿では,これらの話題を中心に概説する.
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 883-888 (2019);
View Description
Hide Description
中枢神経系においても末梢組織と同様にTRPC チャネルが分布することは知られてきたが,そのチャネル機能の生理学的・病態生理学的な意義に関する知見は末梢組織に比べて圧倒的に不足してきた.しかし近年,さまざまな神経細胞や,アストロサイト・ミクログリアといったグリア細胞にTRPC チャネルが機能的に発現していることが報告され,それらの細胞機能における生理的な役割が明らかにされつつある.また,TRPC チャネルの遺伝子欠損マウスの表現型解析が進み,同チャネル群が中枢神経系において高次脳機能をfine tuning する役割を担っていることが明らかにされつつある.また最近の研究では,一部のTRPC チャネルが病態時の神経グリア連関に関与することも報告され,創薬標的として重要性も指摘されるようになってきた.本稿では,神経細胞およびグリア細胞に分け,各種脳細胞の細胞機能におけるTRPC チャネルの生理学的および病態生理学的意義を紹介する.
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 889-895 (2019);
View Description
Hide Description
TRPC チャネルファミリー(TRPC)の一部を構成するTRPC1/C4/C5 チャネルサブファミリー(TRPC1/C4/C5)は,サブファミリー内でホモ四量体やヘテロ四量体を細胞膜上に形成してNa+,K+,Ca2+を透過する陽イオンチャネルとして機能する.さらに,ほかの機能分子との相互作用を介してチャネル機能の修飾や細胞膜への移行などの調節を受ける多機能性のイオンチャネル蛋白質である.最近,特異的かつ高活性の低分子チャネル活性化薬や阻害薬が相次いで報告されており,生理機能やがんを中心とした疾患との関わりの解明が飛躍的に進みつつある.本稿では,TRPC1/C4/C5 の構造・発現調節・活性調節,生理機能と疾患での役割を概説するとともに,とくに創薬標的としての可能性と発見・開発されてきた薬物群の特徴について解説する.
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 897-902 (2019);
View Description
Hide Description
TRP チャネルがクローニングされてから早30 年が経過した.この間に遺伝子改変動物やヒト疾患関連遺伝子を用いた解析から,TRP チャネルの生理・病態生理機能が次々と明らかにされてきた.TRP チャネルはさまざまな環境変化を感知し,カチオン流入を通じて細胞内にシグナル伝達を行う“センサー”蛋白質としての機能を示す.一方で,さまざまな細胞内蛋白質と相互作用することで,自身のカチオン流入を細胞内シグナルとして効率的に伝える“足場”的機能も示す.著者らは最近,ジアシルグリセロール(DAG)によって活性化されるTRP チャネル蛋白質群(TRPC3 やTRPC6;TRPC3/C6)を基盤とする病態時特異的な蛋白質複合体形成が心血管機能を低下させる原因となることを見出した.TRPC 蛋白質間相互作用を阻害する既承認薬が抗がん剤の副作用(筋萎縮)を軽減することも動物で実証され,新しいTRP創薬戦略が芽生えようとしている.
-
TRPV チャネル
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 904-909 (2019);
View Description
Hide Description
われわれの体を構成する細胞は臓器の動き,血流や浸透圧の変化,細胞分裂による膜の変形などによって生じる“力”に曝されている.細胞は,このような“力”の変化を情報にしながら,場面に応じて分裂・成熟・分化などの応答を引き起こす.定型のない細胞に対して,定量的な機械的刺激(メカニカルストレス)を負荷することは困難であり,“力”を感じるセンサー(メカノセンサー)の分子実体の解明は遅れていたが,最近になってようやくいくつかの分子が同定された.興味深いことに,TRP チャネルグループのいくつかのメンバーも,細胞膜に生じるメカニカルストレスに反応するという報告が相次いでいる.著者らの研究から,TRPV2 は心筋細胞が機械的刺激に対して応答する際のkey 分子としての性質を持つことが明らかとなってきた.また,心筋細胞特異的にTRPV2 をノックアウト(KO)したマウスの心機能と生理機能の解析も進んできた.本稿では,これらの研究成果をもとに,TRPV2 が心臓の生理機能の維持に必須であるだけでなく,成熟や分化にも関係する可能性があることを紹介する.
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 910-916 (2019);
View Description
Hide Description
拡張型心筋症などの重症心不全に対しては,心臓移植がいまだ根本治療法とされている.近年の研究により,拡張型心筋症の発症・進展にはカルシウム(Ca2+)透過チャネル,TRPV2 の細胞膜発現と活性化による持続的な細胞内Ca2+濃度上昇が重要な役割を果たしていることがわかってきた.また,TRPV2 の不活化により,心機能や生命予後の改善がもたらされることが明らかになってきた.しかし,TRPV2 特異的阻害薬がなかったため,TRPV2 阻害の病態への効果は不明であった.新規TRPV2 活性化法を用いた阻害薬のスクリーニングにより,既存薬トラニラストがTRPV2 阻害作用を有することがわかり,トラニラストより低濃度でTRPV2 を阻害する新規化合物も見出された.また,それらのTRPV2 阻害薬は心筋症・心不全動物の心機能改善,心筋線維化抑制に有効であることが示された.心筋症だけでなく,すべての心不全治療をめざしたTRPV2 特異的阻害薬の開発が進みだしている.
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 917-921 (2019);
View Description
Hide Description
TRPV2 は52℃以上の侵害熱刺激を感知する熱センサーとしてクローニングされた非選択的カチオンチャネルである.クローニング後,長い間,侵害熱に対する痛み受容に関わる分子と考えられてきた.ところが著者らは,胎仔期の脊髄運動神経・DRG 感覚神経においてTRPV2 がすでに発現していることを見出した.子宮内の胎仔が52℃以上の熱刺激に曝露されることは通常あり得ない.このため,生体内に新規のTRPV2 リガンドが存在する可能性を考えた.そして解析を進めたところ,末梢(皮膚・筋肉など)に向けて非常に長い軸索を伸長しているときに細胞膜にかかる膜伸展刺激でTRPV2 が活性化し,軸索伸長を促進させていることをつきとめた.さらに著者らはTRPV2 が膜伸展刺激を感知し,軸索伸長を促進させる分子基盤も同定したので,ここに紹介する.
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 922-929 (2019);
View Description
Hide Description
われわれの身体は皮膚や粘膜に包まれ,その表面は上皮が隙間なく覆っている.上皮は外界の変化に適応するシートとして境界バリアを構築し体内の生命環境を守っている.上皮を構成する上皮細胞のひとつひとつが環境変化を適切に感知し,適切な速度で新たな細胞を供給しながら,同時に細胞間の接着を巧妙に保つことで,感染や多様な刺激から生体を防御している.その機構に温度感受性のTRP チャネルが積極的に関与していることがわかってきた.身体のなかでも口腔の上皮は,飲食物からの幅広い温度変化や強い力に曝されている特殊な環境にある.口腔の上皮は傷を受ける機会が多い反面,細胞の入れ替わりが早く瘢痕を残さず速やかに治癒する.この機構にわれわれが温かいと感じる温度で活性化されるTRPチャネルが関与する.また,痛みや違和感などを生じる病態へTRPV チャネルが関与することも示唆され,多様な調節の仕組みとともに創薬への期待が高まっている.
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 930-933 (2019);
View Description
Hide Description
TRPV4 は温度刺激をはじめとして低浸透圧刺激,機械刺激などによって活性化されるイオン透過型受容体である.中枢神経系において,TRPV4 は温度刺激によって恒常的に活性化することで神経活動の基盤となることが報告されているなど,生体のホメオスタシスの維持に重要な役割を果たしている.著者らは,これまで脳内の温度変化とTRPV4 の関与について研究し,過剰なTRPV4 の活性化がいくつかの脳疾患の発症や進行過程において中心的な役割を果たすことを発見してきた.そのため,脳内温度およびTRPV4 をターゲットとしたアプローチは,新規の病態メカニズム解明に有用であると期待できる.
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 934-941 (2019);
View Description
Hide Description
TRPV4 遺伝子の片アレルの変異(優性変異)は,骨・軟骨と神経・筋の単一遺伝子病を生じる.骨・軟骨では,変容性骨異形成症(MTD),Kozlowski 型脊椎骨幹端異形成症(SMD-K),常染色体優性型短体幹症(AD-BO),Maroteaux 型脊椎骨端骨異形成症(SED-M),parastremmatic dwarfism(PD),短指症を伴う家族性指関節症(FDAB)などの一連のスペクトルの表現型の骨系統疾患となる.神経・筋でも,先天性脊髄性筋萎縮症(SMA),遠位型脊髄性筋萎縮症,遺伝性運動感覚神経障害などの類似の表現型のスペクトルを形成する.疾患・表現型と遺伝型・変異の間には明確な関連はない.同じ変異が異なった疾患,異なったカテゴリーの疾患となることがある.家系内の同一の変異を持つ患者が,異なる疾患と診断されることも多い.骨・軟骨と神経・筋の異常を合併する例も知られている.これまでに発見された変異のリストからは,ハプロ不全は変異の作用としては考えにくい.
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 942-946 (2019);
View Description
Hide Description
TRPV4 は,熱さや冷たさなどの温度の認識する非選択性のイオンチャネルである.TRPV4 は代謝制御,低浸透圧および引っ張りなどの機械刺激の認識に重要である.興味深いことに,変形性関節症,骨系統疾患,末梢神経障害を発症する家系の一部には,TRPV4 にさまざまな変異が見出されることが知られている.TRPV4 の全長構造は解明されたが,チャネル活性それ自体の制御にはまだ不明な点が多い.本稿ではTRPV4 の全長構造に基づいて,TRPV4 の制御機構についての知見をホスフォイノシタイドとの結合を中心に述べる.
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 947-951 (2019);
View Description
Hide Description
TRPV5 とTRPV6 はTRP チャネルのなかでは例外的に非常に高いカルシウム(Ca2+)選択性を持ち,上皮におけるCa2+そのものの輸送に特化したチャネルである.上皮Ca2+輸送は個体全体のCa2+恒常性維持を担っており,その破綻は骨粗鬆症や尿路結石症などのCa2+関連疾患を引き起こすと考えられている.実際に,TRPV5 遺伝子の変異によって腎Ca2+漏出型高Ca2+尿症による尿路結石症を,TRPV6 遺伝子変異によって新生児副甲状腺機能亢進症(TNHP)を発症することが最近報告された.両チャネルの構造も明らかになったため,今後詳細なCa2+輸送・調節メカニズムの解明が期待される.
-
TRPM チャネル
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 954-959 (2019);
View Description
Hide Description
TRPM4 チャネルはTRP 蛋白質スーパーファミリーのなかにあって,一価陽イオンを選択的に透過させるユニークな性質をもつ.全身に広く発現し,種々の生体機能の制御に関与するカルシウム(Ca2+)依存性陽イオンチャネル(CAN)の分子実体と考えられている.最近,TRPM4 蛋白質の分子立体構造が解明され,そのイオン選択性や活性化機構についての理解が大きく進んだ.また,TRPM4 ゲーティングの数理化により,細胞内Ca2+動態に連結した実用性のある細胞興奮モデルが構築されている.本稿では,これらの新しい知見を紹介しつつ,このチャネルが心血管系の生理機能や病態生理に果たす役割について述べる.
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 961-968 (2019);
View Description
Hide Description
TRPM7 は陽イオンを輸送するイオンチャネルであるが,同時に細胞内側のキナーゼドメインを介してリン酸化酵素としての機能を合わせ持つユニークな分子であり,チャネルキナーゼ(channel kinase)とよばれる.このTRPM7 は全身中でも特に歯のエナメル芽細胞に高い発現が認められ,その機能的重要性が予想される.歯のエナメル質の形成や石灰化は,上皮系細胞がエナメル芽細胞に分化し成熟する過程で,エナメル基質蛋白を分泌し,その後の基質蛋白の分解脱却とミネラル輸送を介するヒドロキシアパタイトの結晶化により進む.エナメル質には再生系がないので,エナメル芽細胞の機能異常は歯の形成障害を呈する.本稿では,このエナメル芽細胞の分化や石灰化の過程におけるTRPM7 のイオン輸送とキナーゼ活性の双方の機能的重要性について紹介したい.
-
項目別
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 970-976 (2019);
View Description
Hide Description
微生物は厳しい環境で生存している.単細胞の真核生物(真核微生物)には,TRP チャネルが1 コピー程度存在する.これまでわかっている興味深い点のひとつは,微生物のTRP チャネルは液胞膜で機能していることである.外界と直接の接触はないにもかかわらず,細胞外で生じる環境変化に適応する分子装置であることがわかってきた.TRP チャネルの膜貫通領域のイオン輸送体としての機能に加えて,その細胞内領域は情報伝達系としての機能を担っている.さまざまな外界変化に迅速かつ適切に対応するために,この細胞内領域は多様な機能をもつ.微生物のTRP チャネルには,動物のTRP チャネルに備わっている根源的な機能と役割が濃縮されている.
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 977-982 (2019);
View Description
Hide Description
メタボリックシンドロームは内臓型肥満に高血圧,高血糖,脂質代謝異常が組み合わさり,心臓病や脳卒中などの動脈硬化性疾患を招きやすい病態である.メタボリックシンドロームはエネルギーのバランスが崩れている,あるいはエネルギー代謝調節機能に異常のある状態であり,エネルギー代謝調節機構の理解はメタボリックシンドローム,ならびにそれに起因する疾患のさらなる理解につながると考えられる.近年,非選択性陽イオンチャネルであるTRP チャネルがエネルギー代謝調節に関与していることが明らかになりつつある.とくに,褐色脂肪組織に発現するTRP チャネルは分化や熱産生に関わっている.また,膵β細胞においてはグルコースや消化管ホルモンなどの刺激に依存したインスリン分泌に関与することが明らかになっている.これらの組織に発現するTRP チャネルが,メタボリックシンドロームに対する治療のターゲットになりうることが期待される.
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 983-988 (2019);
View Description
Hide Description
ヒトを含む好気性生物の生存において,酸素は必須なものである.その一方で,高すぎる酸素濃度は生物にとって毒性を示す.このような酸素が示す両義性に対応するため,好気性生物は体内の酸素分圧を鋭敏に感知し,組織への酸素供給を厳密に制御する仕組みを備えている.低酸素に対する生理的な応答には,①急性(秒単位)と,②慢性(数分~時間単位)の応答に分類されるが,急性の応答にはイオンチャネルが重要な役割を担っている.1988 年に,低酸素に応じたK+チャネルの阻害が報告されて以来,さまざまな細胞種において低酸素環境下でのイオンチャネルの働きが報告されてきた.とくに近年,酸化還元(Redox)感受性TRP カチオンチャネルにより酸素感受機構の一端が担われていることが明らかにされつつある.本稿では,生体内酸素センサーとしてのTRP チャネルを介した酸素分圧変化の感知が,どのような細胞応答を制御し,生理的・病理的にどのような意義を持つのかを概説する.
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 989-997 (2019);
View Description
Hide Description
TRP チャネルはあらゆる細胞,組織,および器官の機能に関わるが,最初の遺伝子がキイロショウジョウバエの光応答で同定されたように,多彩な感覚機能における役割が特徴のひとつである.モデル動物として用いられるキイロショウジョウバエは感覚に依存した行動様式を多く示し,それらを研究する過程でTRP チャネルの寄与が明らかにされてきた.温度受容については,哺乳類と同様にTRPA,TRPV,TRPM,TRPC サブファミリーが関わっており,さらにTRPP やTRPN サブファミリーと,TRP チャネルとは別の味覚・嗅覚受容体の寄与についても報告がある.また最近,G 蛋白質共役受容体(GPCR)からTRP チャネルに至るシグナル経路を介した微細な温度変化の感知機構も明らかになった.本稿ではキイロショウジョウバエを中心に,昆虫類TRP チャネルの物理刺激および化学刺激受容における役割と生理機能について紹介する.
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 998-1003 (2019);
View Description
Hide Description
1997 年に,ラット感覚神経から哺乳類ではじめて温度で活性化される分子としてカプサイシン受容体TRPV1 が発見されて以降,“温度感受性TRP チャネル”と総称されるTRP チャネルの一群が哺乳類を中心に次々と同定された.現在までに哺乳類で温度感受性が報告されたTRP チャネルは11 であり,それぞれの活性化温度閾値はヒトが区別しうる生理的な温度範囲に広く分布している.これら“温度感受性TRP チャネル”は,感覚神経のみならずダイナミックな温度変化に曝露されることのない深部組織にも発現しており,体温近傍の小さな温度変化によって活性が制御され,さまざまな生理機能に関わっているようである.11 のうち8 の“温度感受性TRP チャネル”の原子レベルの構造がおもに低温電子顕微鏡を用いた単粒子解析によって解明されているが,温度がどのようにしてチャネル開口をもたらすかはいまだ明らかでない.
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 1004-1009 (2019);
View Description
Hide Description
いくつかのTRP チャネルは,温度刺激やさまざまな化学物質などによって開口し,侵害受容性の一次感覚神経に存在した場合,生体に加わるさまざまな刺激を痛覚として受容する.このような役割を担うTRP チャネルとして,TRPV1,TRPV4,TRPA1,TRPM3,TRPM8 などがあり,生理的条件下での痛覚の発生のみならず,炎症,感染や感覚神経の損傷などによりそれらの発現や機能が変化し,痛みが増強・持続することもある.また,皮膚,炎症細胞,関節の滑膜など非神経細胞に発現するTRP チャネルもさまざまな病態時の痛みと関連することが知られている.これらのTRP チャネルを標的として新規鎮痛薬の開発が進められてきたが,最も期待されていたTRPV1 阻害薬にその機能と関連する副作用が生じたため,いまだ臨床応用には至っていない.本稿では,これら痛みに関連するTRP チャネルについて,その創薬標的としての開発状況も含め概説する.
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 1010-1016 (2019);
View Description
Hide Description
TRP チャネルは多くの臓器に発現しているが,外界とつながる臓器である消化管において非常に重要な役割を担っている.TRP の機能異常は,炎症性腸疾患(IBD)や過敏性腸症候群(IBS)などの難治性腸疾患につながることが示唆されている.本稿では,消化管炎症,内臓痛,味覚受容機構におけるTRPV1,TRPV4,TRPA1,TRPM8 の機能について,これまでの報告を概説した.さらに,IBD モデルにおける著者らの研究成果から,TRPV4 は炎症時に血管内皮に発現増大し,JNK シグナルの活性化を介してVEカドヘリン発現を有意に低下させることで血管透過性を増大し,大腸炎症の悪化に関与することが明らかとなった.また,生理的味覚受容においてTRPV4 はsonic hedgehog 陽性の味蕾前駆細胞に発現し,Ⅲ型味細胞への分化および増殖を制御することで,酸味の感受性に関与していることを見出した.
-
Source:
医学のあゆみ 270巻10号, 1017-1022 (2019);
View Description
Hide Description
カルシウム透過性が高いTRP チャネルは生体の広い範囲に発現しており,これまでのおよそ20 年間にわたる研究から非常に多くの生理現象を説明する分子として注目されてきた.そのなかで,著者らはカルシウム活性化クロライドチャネルであるアノクタミン1(ANO1)がTRP チャネルの下流で活性化することが生理作用に影響を与えることを発見した.TRP チャネルが活性化すると細胞内へカルシウムが流れ込み,このカルシウムによってANO1 が強く活性化する.これは,TRP チャネルとANO1 の複合体形成により強化されている.本稿では,TRPV4 とANO1 の相互作用が体液分泌を促進すること,TRPV1とANO1 の相互作用が神経興奮を亢進させること,またTRPC6 とANO1 の相互作用が血管収縮を促すことについておもにまとめた.加えて,近年明らかとなっているANO1 自体の生理学的および病理学的意義についても紹介したいと思う.