Volume 271,
Issue 5,
2019
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【11月第1土曜特集】 サイトカインのすべて
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医学のあゆみ 271巻5号, 393-393 (2019);
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サイトカインの発見と病態解析
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医学のあゆみ 271巻5号, 396-405 (2019);
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インターロイキン(IL)-1 ファミリーサイトカインは,11 個のサイトカインと10 個の受容体からなる.サイトカインは,7 つの炎症性サイトカイン(アゴニスト;IL-1α,IL-1β,IL-18,IL-33,IL-36α,IL-36β,IL-36γ)と,4 つの抗炎症性サイトカイン〔アンタゴニスト;IL-1Ra(IL-1 受容体アンタゴニスト),IL-36Ra,IL-37,IL-38〕が存在し,それぞれの受容体に結合すると炎症反応あるいは抗炎症作用を誘導する.これらサイトカインと受容体の発現および活性は細かく調節され,恒常性が維持されている.一方,この調節が破綻すると炎症反応が開始または増強し,さまざまな疾患を発症する.IL-1 の命名から40 年を経た今,IL-1 ファミリーサイトカインは新たな機能が解明され,広く臨床に応用され,ルネッサンスを迎えている.
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医学のあゆみ 271巻5号, 407-413 (2019);
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インターロイキン(IL)-2 受容体の第3 のサブユニットγ鎖(IL-2Rγ)として同定された共通γ鎖(γc)は,その遺伝子変異によって先天的にT 細胞を欠損する重篤な免疫不全症,X 連鎖重症複合免疫不全症(XSCID)を惹起する.XSCID の病態解析から,IL-2RγがIL-2 以外のサイトカイン受容体のサブユニットとして機能することがわかり,現在ではIL-2,IL-4,IL-7,IL-9,IL-15 およびIL-21 の6 つのサイトカイン受容体の共通サブユニットγc であることが知られている.これらの6 つのサイトカインはγc-JAK3-STAT5 の共通の細胞内シグナル伝達系を活性化するので“γc サイトカイン”とよばれる.γc サイトカインは,おもにT 細胞をはじめとするリンパ球系細胞に作用し,その分化や増殖・生存にさまざまな形で関与することにより免疫系の構築と維持に必須の役割を果たす.
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医学のあゆみ 271巻5号, 415-418 (2019);
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生理活性の記載にはじまるサイトカインの研究は,1970 年代にはじまったDNA の組み換え技術の導入により劇的な変化を遂げた.サイトカイン遺伝子の同定により,組み換え体サイトカイン,中和抗体,遺伝子改変マウスを用いた解析が可能となり,サイトカイン機能の分子実体が明らかにされるとともに,新たなサイトカインの発見につながった.また受容体構造の解析から,複数のサイトカインが類似の作用を示すメカニズムの説明が可能となった.インターロイキン(IL)-3,IL-5,顆粒球-マクロファージコロニー形成刺激因子(GM-CSF)の生理活性の記載から遺伝子の同定,受容体の構造と機能の解析に至る過程は,こうしたサイトカイン研究における先駆的なモデルとなった.
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医学のあゆみ 271巻5号, 419-426 (2019);
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1986 年のインターロイキン(IL)-6 の分子クローニング以来,多くのサイトカインがgp130 という同じシグナル伝達受容体を共有することが見出された.現在10 種のサイトカインが,このgp130 を共有するIL-6 ファミリーである.gp130 の共有により,IL-6 ファミリーサイトカインの一部の生理活性は重複しているが,それぞれ機能的な違いもある.これらの生理活性の重複性と特異性を区別するメカニズムは完全には理解されていないが,これまでの多くの研究は炎症誘導におけるIL-6 の中心的な役割を明らかにし,IL-6 を標的とする効果的な治療法が自己免疫疾患に対して確立された.本稿ではIL-6 にとくに焦点を当てつつ,炎症や自己免疫疾患におけるIL-6 ファミリーサイトカインの役割を紹介し,それらの機能的多様性が発揮できる潜在的なメカニズムについて解説する.IL-6 ファミリーサイトカインに関して,IL-6 のクローニング以降のおもなイベントの時系列図を図1 に示す.
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医学のあゆみ 271巻5号, 427-431 (2019);
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インターロイキン(IL)-10 ファミリーはIL-10 を含む9 つのサイトカイン(IL-10,19,20,22,24,26,28A,28B,29)より構成される.これらのサイトカインは自然免疫,獲得免疫に関わる免疫担当細胞などから産生され,免疫学的恒常性の維持において中心的役割を担っている.その作用は多様であり,ときに二面性を有することより臨床応用が十分に進んでいない.たとえば,IL-10 は制御性T 細胞(Treg)などより産生され抑制性サイトカインとして機能するが,液性免疫に対しては促進性に作用し,自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)の病勢を悪化させると考えられている.一方で,TGF-βと協調的に液性免疫を負に制御するinhibitory cytokine synergy(ICS)作用も認める.本稿では,自己免応答制御機構におけるIL-10 をはじめとするIL-10 ファミリーの役割につき,Treg との関連も含め,概説する.
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医学のあゆみ 271巻5号, 433-443 (2019);
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ウイルス干渉の現象を説明する蛋白質因子として見つかったインターフェロン(IFNs)は,その後,受容体の種類の違いから,Ⅰ~Ⅲ型の3 つのクラスに分類され,多くのIFN メンバーより構成される抗ウイルス因子のファミリーであることが示された.このなかでⅠ型およびⅢ型IFNs は,いずれもウイルス感染細胞から強力に遺伝子発現が行われ,抗ウイルス状態を誘導する.Ⅰ型とⅢ型IFNs の違いは,これらの受容体の発現分布の違いにより,Ⅰ型IFNs は全身性のIFN 応答を引き起こすのに対し,Ⅲ型IFNs はとくに上皮系の細胞に発現が高く,感染局所の第一線でウイルス感染防御を担っていると考えられている.本稿ではIFNs の発見の歴史をはじめ,とくにⅠ型とⅢ型IFNs に焦点を当て,これまでに明らかとなったウイルス感染による,これらの遺伝子発現誘導の分子メカニズムおよび受容体シグナルについて概説する.
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医学のあゆみ 271巻5号, 445-452 (2019);
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インターロイキン(IL)-12 サイトカインファミリー(IL-12,IL-23,IL-27,IL-35,IL-39)は,2 つの異なるサブユニットから構成されるヘテロダイマーサイトカインで,そのサブユニットが共有されるというほかのサイトカインファミリーにはない,きわめてユニークな構造的特徴を有している.おもに樹状細胞などの抗原提示細胞より産生され,ヘルパーCD4+ T(Th)細胞の各エフェクター細胞(Th1,Th2,Th17,制御性T 細胞,制御性B 細胞)への分化や,エフェクターサイトカインとして,各Th 細胞や制御性T/B 細胞の機能発揮を促進または抑制している.近年,これらのサイトカインに対する抗体医薬が乾癬や関節リウマチ,炎症性腸疾患などの自己免疫疾患や炎症性疾患の治療に応用されている.本稿では,このIL-12 ファミリーサイトカインのうち,IL-12,IL-23,IL-35 について,サイトカイン同定の歴史と最近のトピックス,治療応用の現状,今後の展開を概説する.IL-27 とIL-39 については,別稿に記載されている.
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医学のあゆみ 271巻5号, 453-461 (2019);
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インターロイキン(IL)-17A は炎症性のサイトカインで,近年,IL-17A やその受容体を標的とした抗体治療薬が開発され,乾癬,乾癬性関節炎,強直性関節炎などの治療に著効を示している.IL-17A には6 個のファミリー分子が存在するが,IL-17A 以外の分子については解析が遅れている.著者らはこれまでに,IL-17F は細菌,真菌に対する感染防御においてはIL-17A と同等の役割を果たしているが,自己免疫性関節炎や脳脊髄炎などの自己免疫疾患に対する関与は小さいことを示している.最近,腸管免疫においてはIL-17A よりIL-17F の寄与が大きく,IL-17F を阻害すると制御性T 細胞(Treg)誘導能を持つClostridium やLactobacillus などの細菌が増殖し,Treg が増えるために実験的大腸炎が抑制されることを見出した.今後,IL-17A 以外のファミリー分子を標的とする新たな治療法の開発が期待される.
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医学のあゆみ 271巻5号, 462-468 (2019);
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TGF-β(transforming growth factor-β)は多彩な作用を有するサイトカインであり,とくに細胞増殖の抑制,上皮間葉移行(EMT)の誘導,線維化促進,免疫抑制は代表的な作用として知られる.TGF-βは早期のがんに対しては多くの場合,腫瘍抑制作用を発揮するが,進行したがんではEMT の誘導や免疫抑制などを介して腫瘍促進因子として働く.TGF-βは潜在型複合体として産生され,その作用の発揮には活性化のプロセスが必要である.潜在型TGF-βはLTBP とよばれる細胞外マトリックスと結合する蛋白質を含むものと,膜貫通蛋白質GARP に結合したものが存在する.GARP は制御性T 細胞(Treg)などに比較的特異的に発現することから,TGF-βの免疫抑制作用を理解するうえで重要であり,今後の研究の発展が期待される.
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サイトカイン信号の制御と病態
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医学のあゆみ 271巻5号, 470-477 (2019);
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サイトカインとは免疫担当細胞同士,あるいは免疫担当細胞と周辺細胞とのコミュニケーションをつかさどる可溶性分子である.おもに造血,炎症や免疫応答を促進したり調節したりする働きがある.サイトカイン受容体の主要なシグナル伝達機構はJAK チロシンキナーゼ-STAT 経路であり,非常にシンプルなものである.JAK には4 種類,STAT には6 種類存在するが,サイトカインによっておもに活性化されるJAK やSTAT が決まっている.JAK-STAT 経路は生理的・病理的な意義の解明のみならず,構造学的な理解も進んでいる.一方で,JAK-STAT 経路を抑制する機構も存在する.その代表がSOCS ファミリーであり,さまざまな免疫制御に関わることが明らかにされている.
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医学のあゆみ 271巻5号, 478-483 (2019);
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メッセンジャーRNA(mRNA)は蛋白質やゲノムに比べて不安定な構造体であり,細胞内において存在可能な期間はそれほど長くはない.しかし,mRNA は転写後修飾やRNA 結合蛋白質との相互作用を通じて安定化または不安定化され,これらの安定性に基づいてそれぞれのmRNA の“寿命”が規定されている.さまざまな外的刺激により発現が誘導されるサイトカインの場合においても,適切な免疫応答を導くためにサイトカイン遺伝子の発現量はmRNA の安定化・不安定化のメカニズムを介して制御されている.近年,サイトカイン遺伝子のmRNA の安定化・不安定化をつかさどる遺伝子が多数報告されており,それらが炎症反応や免疫細胞の活性化の制御において非常に重要であることが明らかとなってきた.本稿では,サイトカインmRNA の分解に関わる蛋白質によるサイトカイン産生制御機構,これらの蛋白質のリン酸化などの翻訳後修飾によるmRNA 安定化機構について最新の研究も含めて概説する.
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免疫病とサイトカイン
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医学のあゆみ 271巻5号, 486-490 (2019);
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アレルギー性疾患や自己免疫疾患などの免疫関連疾患は全世界で患者数が増加傾向にあり,病態の解明とその制御が喫緊の課題である.ヘルパーT(Th)細胞が病態形成に深く関与する免疫関連疾患では,記憶型Th 細胞の細胞集団のなかの一部に病原性の高いpathogenic T細胞が生まれることが各種疾患の発症に重要である(“病原性Th 細胞疾患誘導モデル”)と考えられる.慢性アレルギー疾患の病態形成に関与する記憶型病原性Th2(Tpath2)細胞の誘導や維持に,上皮サイトカインをはじめとするさまざまなサイトカインは重要な役割を果たす.また,Tpath2 細胞が産生するIL-5 などの各種Th2 サイトカインや,amphiregulin といった上皮成長因子が慢性気道炎症の病態形成に深く関与している.本稿では,著者らの研究室で精力的に研究を行っている記憶型Th2 細胞に焦点を当て,各種サイトカインの作用という観点から近年の研究結果を中心に概説する.さらに,気道炎症における組織線維化の誘導機序について最新知見を紹介する.
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医学のあゆみ 271巻5号, 491-495 (2019);
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生体防御におけるB 細胞の重要な機能が抗体分子の産生であることはいうまでもないが,B 細胞の産生するサイトカインが免疫応答の調節に関与することが近年の研究により明らかにされてきた.B 細胞が産生するインターロイキン(IL)-6,IL-17,granulocyte macrophage colony-stimulating facto(r GM-CSF)などの炎症性サイトカインは感染防御に必要であると同時に,多発性硬化症や関節リウマチなどの自己免疫疾患を促進する機能を持つ.一方,B 細胞が産生する抗炎症性サイトカインIL-10 やIL-35 は自己免疫疾患を抑制する機能を持ち,このようなサイトカインを産生する制御性B 細胞(Breg)を用いた新たな細胞療法への応用も期待されている.本稿ではB 細胞の産生するサイトカインによる免疫調節について,とくに自己免疫疾患の抑制や誘導に焦点を絞り,最近の知見を紹介する.
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医学のあゆみ 271巻5号, 496-499 (2019);
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制御性T 細胞(Treg)は免疫抑制機能に特化したT 細胞集団である.Treg は特異的な遺伝子発現パターンを有しており,特徴的な抑制性分子やサイトカインを発現する.Treg によって産生されたIL-10 やIL-35,TGF-βなどの抑制性サイトカインは免疫反応を抑制し,過度な炎症反応を制御する.また,Treg がamphiregulin(Areg)などの成長因子などを産生することで組織修復など特殊な役割を担うことも知られている.本稿では,Treg の産生するサイトカインとその機能について概説する.
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医学のあゆみ 271巻5号, 500-507 (2019);
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コレラ毒素(CT)はコレラ菌による感染症,いわゆるコレラの病因物質であるが,同時に免疫アジュバント(免疫増強剤)としても機能し,感染症やがんに対する防御免疫を増強することがわかってきている.しかし,CT がどのようにして免疫アジュバント作用を発揮するのかに関してはあまりわかっていない.著者らは,CT のB サブユニット(CTB)が生体内のマクロファージに作用し,炎症性サイトカインであるインターロイキン(IL)-1βの産生を誘導すること,そしてこのCTB の作用に細胞内の病原体センサーNLRP3 やPyrin を介した炎症誘導機構が関与することを明らかにした.今後,CT の免疫アジュバント作用の分子基盤とともに,NLRP3 やPyrin を介した炎症性サイトカインの産生誘導機構の解明が進むことが期待される.
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医学のあゆみ 271巻5号, 508-514 (2019);
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100 年以上前にマクロファージは発見されたが,その発見以来ほかの免疫細胞とは異なり,体内にはサブタイプ(亜種)はないと考えられてきた.しかし近年のさまざまな研究の進歩により,マクロファージは疾患の発症に関わるさまざまなサブタイプが存在する可能性が考えられている.今回,著者らは線維化の発症時期に患部に遊走するマクロファージのサブタイプに着目し,最新のテクノロジーを用いて解析し,線維症の発症に関わるマクロファージの新しいサブタイプを同定したので,それを報告する.
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医学のあゆみ 271巻5号, 515-519 (2019);
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自然リンパ球(ILC)は粘膜組織に局在するリンパ球の一種であり,組織の恒常性維持や外来微生物に対する迅速な生体防御に反応を担う.環境因子の影響を受けて過剰に産生される炎症性サイトカインや脂質メディエーターはⅠ型アレルギー反応や自己免疫疾患などの過剰な免疫応答に起因する組織障害の原因にもなりうる.そのため,ILC の可塑性やサイトカインによる機能制御はアレルギー疾患や種々の自己免疫疾患の治療のみならず,組織修復過程で生じる線維化の予防に有効な治療法として期待される.
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生命現象とサイトカイン―病態との関連
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医学のあゆみ 271巻5号, 522-528 (2019);
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近年の遺伝子欠損マウスを用いた研究で,造血幹細胞の発生・維持,各系列の血液細胞の産生に必須のサイトカインが次々に明らかになった.その結果,造血幹細胞の維持にはB 細胞,赤血球,血小板の産生にも必須のサイトカインが協調して働くなど,細胞種間で共用されているサイトカイン(CXCL12,SCF,TPO,FL など)と血球系列特異的に用いられているサイトカイン(Dll4,IL-15 など)が使い分けられ,造血が精緻に調節されていることが見えてきた.また最近,蛍光蛋白質遺伝子をサイトカイン遺伝子座に挿入するマウスや,細胞種欠損マウス,細胞種特異的遺伝子欠損マウスを作製することが可能となり,生体で必須の機能を担うサイトカインの産生細胞の特定が進んでいる.
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医学のあゆみ 271巻5号, 529-533 (2019);
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がん組織にはさまざまな白血球が浸潤しており,がんの増殖を促進または抑制するような微小環境を形成している.ケモカインはがんへの白血球浸潤制御に中心的な役割を果たすが,近年ではがん微小環境における細胞間相互作用や血管新生などにも関与することが明らかになってきた.しかし,ケモカインによるがん微小環境制御のメカニズムは複雑であり,いまだ全容解明には至っていない.現時点でのがん微小環境におけるケモカインの役割について整理すべく,ケモカインによるがん微小環境の制御について概説する.
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医学のあゆみ 271巻5号, 534-539 (2019);
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炎症性腸疾患(IBD)はおもに消化管に炎症を起こす慢性の難治性疾患である.その発症原因および炎症維持機構の全容はいまだ明らかにされていないが,遺伝的に疾患感受性のある個体にある種の環境因子が加わることが引き金となり,腸管免疫の恒常性が破綻すると考えられている.種々の免疫担当細胞から産生されるサイトカインは腸管の炎症惹起の鍵となる因子であり,IBD 患者の腸管粘膜においては,自然免疫および獲得免疫からなる本来緻密に制御されたサイトカインネットワークに乱れが生じる.近年,生物学的製剤の導入によりIBD の治療戦略は飛躍的な発展を遂げているが,個々の患者のサイトカインプロファイルの多様性と複雑性から効果は一律ではなく,多岐にわたる治療選択肢が求められる.本稿では,IBD の病態形成におけるサイトカインの役割と,サイトカインを標的とした治療法の現況や今後の開発の展望などについて概説する.
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医学のあゆみ 271巻5号, 540-546 (2019);
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皮膚は外的有害刺激から体内を守る臓器である.皮膚の防御機能は物理的バリアと免疫学的バリアに大別できる.本稿では免疫学的皮膚バリアにおけるサイトカインの役割を,尋常性乾癬とアトピー性皮膚炎(AD)に焦点を当てて解説する.乾癬は,鱗屑を付着する紅斑性局面が出現する疾患である.組織学的特徴は表皮肥厚と,T 細胞や樹状細胞などの免疫細胞が真皮に密に浸潤することである.その背景には,IL-23-IL-17 サイトカイン軸の持続的活性化が存在する.AD は,瘙痒を伴う慢性湿疹が全身に出現する疾患である.皮膚バリアの破綻,Th2 型サイトカインの過剰産生,瘙痒の3 要素が病態を形成する.ADはIL-4/IL-13 サイトカイン軸の持続的活性化だけでなく,IL-31,IL-22,IL-17 など多様なサイトカインが関与する.本稿では,乾癬とAD におけるサイトカインの役割を解説する.
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医学のあゆみ 271巻5号, 547-550 (2019);
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中枢神経系自己免疫疾患である多発性硬化症(MS)と視神経脊髄炎(NMO)では,サイトカインの解析研究によって病態の理解や新たな治療法の開発が着実に前進している.MS 病態との関連で最近とくに注目されるサイトカインにgranulocyte-macrophage colony-stimulating facto(r GM-CSF)がある.動物モデルや患者検体を用いた研究でGM-CSF やGM-CSF 産生T 細胞のMS 病態への関与が示され,GMCSFシグナル阻害療法の開発もはじまっている.一方,抗アクアポリン4 抗体陽性のNMO では,インターロイキン(IL)-6 が抗体産生細胞の誘導,好中球活性化,血液脳関門(BBB)の透過性亢進などに関与することが示されてきた.近年,抗IL-6 受容体抗体がNMO の再発を有意に減少させることが臨床試験で証明され,IL-6 がNMO 病態の鍵を握るサイトカインであることは確実になった.
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医学のあゆみ 271巻5号, 551-558 (2019);
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今日では骨免疫学の概念は広く受け入れられ,免疫系に関わるサイトカインの多くが骨代謝細胞にも作用すること,骨代謝にとって重要な制御因子が免疫系制御にも関わることが判明し,骨と免疫系の相互作用が理解されるようになった.骨免疫学に関わる最も重要なサイトカインが破骨細胞分化因子であるreceptor activator of nuclear factor-κB ligand(RANKL)である.RANKL は破骨細胞分化に必須であるだけでなく,免疫組織の形成や乳腺発達にも重要な生理的に多彩な機能を持つサイトカインである.反面,その過剰な発現は骨粗鬆症,炎症性骨破壊,がんの骨転移といったさまざまな病態の原因となることがわかっている.このRANKL を軸とした病態解明は,抗ヒトRANKL モノクローナル抗体デノスマブによる治療に結びつき,関節リウマチにおける炎症性骨破壊やがんの骨病変の予後を大きく改善している.これは骨免疫学を基盤とした基礎分野と臨床分野の研究が相互に高め合った理想的な結果といえる.
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医学のあゆみ 271巻5号, 559-563 (2019);
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サイトカインは,心血管代謝系の恒常性と病態の両方で多様な働きを持つ.たとえば,慢性炎症は心血管代謝疾患をはじめとする生活習慣病に共通した基盤病態であるが,サイトカインは慢性炎症プロセスを制御する.一方で,サイトカインはストレスへの適切な応答を調節し,組織保護,生理機能の維持にも働く.脂肪組織や肝,心臓といった古典的な内分泌臓器ではない臓器からもサイトカインが分泌され,局所作用に加え遠隔作用も示し,恒常性維持とストレス応答に寄与することも明らかとなっている.このようなアディポカイン,ヘパトカイン,カルディオカインなどと総称される分子は,臓器連関を介した臓器機能障害の進展や拡大にも寄与する.高齢化や肥満の増加とともに急増している複数疾患の併発(multimorbidity)の病態を理解し,診断・治療法を開発するためには,このような新たなサイトカイン機能を明らかにすることが求められる.