医学のあゆみ
Volume 272, Issue 5, 2020
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【2月第1土曜特集】 気分障害UPDATE─難治性うつ病に対しあきらめず取り組む
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- 総論
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難治性うつ病の定義
272巻5号(2020);View Description Hide Descriptionわが国のうつ病患者数は右肩上がりで増加しているが,標準的な抗うつ薬治療に反応しない“難治性うつ病”患者も一定の割合で存在する.難治性には,①治療抵抗性,②治療不耐性,③偽難治性,の3 つの側面があり,日常診療においては,とりわけ偽難治性に注意が必要である.治療非反応の背景には薬剤選択,投与量や投与期間,診断,併存疾患,重症度,心理社会的要因,治療アドヒアランスなど,さまざまな要因が関与している.これらを精査し,安易に“治療抵抗性”と判断しないことが肝要である.一般に“作用機序の異なる2 種類以上の抗うつ薬を十分量・十分期間用いても十分に改善しない”場合を難治性うつ病とよぶが,かならずしもコンセンサスは得られていない.Thase とRush によるStage 分類が有名であるが,Stage モデルに基づく難治性うつ病の定義もいまだ一致した見解には至っておらず,さらなる検討が待たれる. -
抑うつの難治化とその転帰
272巻5号(2020);View Description Hide Descriptionうつ病の約3 割は遷延化,慢性化するとされている.その背景として,薬物療法をはじめとする治療的要因や本人の置かれた環境要因などがまずあげられる.一方,うつ病の遷延化,慢性化にはパーソナリティの病理や発達障害特性の存在,加齢に伴う脳器質因,不安症,アルコール・薬物の使用障害,摂食障害などのほかの精神疾患の併存,さらには身体疾患の併存などが関与することがある.また,うつ病から気分変調症,双極性障害や統合失調症などへの移行も問題となる.うつ病,抑うつ症状の遷延化,慢性化では年齢への着目が重要である.うつ病治療によってうつ病の抑うつ症状はある程度軽快したとしても,併存症の病理(とくに,パーソナリティの病理や発達障害特性)があらわとなって,抑うつ症状が遷延化,慢性化することも少なくない.うつ病が遷延化,慢性化する場合,多元的な要因への着目と併存症への対応が求められる. -
うつ病の診断・治療上のエラー
272巻5号(2020);View Description Hide Description昨今,うつ病患者は増加の一途をたどり,うつ病自体も多様化,難治化している印象を受ける.増え続けるうつ病患者に対してわれわれ精神科医は限られた診察時間のなかで診断や治療を含むさまざまな取り組みを行う必要があり,時間が不足することなどで診断や治療がおろそかになり,エラーが発生することがよくある.診断では双極性障害との鑑別や不安症,神経発達症などの併存疾患,パーソナリティの傾向を十分に確認し,多角的な診断をつける必要がある.一方,治療においてはうつ病の重症度や分類,年齢の特徴を考慮した治療を選択し,薬物療法では副作用はもちろんのこと,服薬アドヒアランスにも十分注意した治療を行うことが重要である.それでも治療が上手くいかない場合には一度立ち止まって診断を再確認し,認知行動療法などの精神療法をあわせて行うことが望ましい.本稿では,著者が務める施設での検査入院を紹介しつつ,うつ病の診断,治療上のエラーについて解説する. - 各疾患へのアプローチ
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双極性障害の影響を考慮したアプローチ
272巻5号(2020);View Description Hide Description難治性うつ病の一部は双極性障害であることが知られている.双極性障害であれば抗うつ薬ではなく,リチウムなどの気分安定薬を積極的に投与していくことで改善に導ける可能性がでてくる.本稿では,まず正しい診断のために,躁的因子の見つけ方を解説した.そのうえで双極性障害もしくはそれに近い双極スペクトラムが強く疑われた場合には,①まずは抗うつ薬の増強療法に準じてリチウムを追加し,②追加しても改善しない場合には抗うつ薬を漸減・中止し,③リチウム単剤にしても改善しない場合にはラモトリギンを併用し漸増することを,私の考える戦略として提唱した.最後に,後に双極Ⅱ型障害と診断変更された難治性うつ病の症例を示し,長期にわたる紆余曲折の末にラモトリギンが著効し回復した経過を示した.主治医がさじを投げたら終わりだが,患者のみならず主治医も耐えれば,いつか好転する可能性も残される.難治性うつ病における教訓は,「主治医がけっしてあきらめないこと!」である. -
不安症の影響を考慮したアプローチ
272巻5号(2020);View Description Hide Descriptionうつ病発症に小児期虐待,特性不安・神経症傾向が関連し,その生物学的基盤として扁桃体活性化が仮説として示唆されている.不安症のうつ病との併存は意外なほど多いが,不安症とうつ病で共通である上記の要因により併存が多い可能性はある.しかし,この可能性は臨床研究ではまだ十分に実証されていない.難治性うつ病では小児期虐待,不安症の併存が多いことが報告されている.上記の仮説は難治性うつ病でも当てはまるかもしれない.小児期虐待,特性不安・神経症傾向,扁桃体活性化,不安症併存が難治性うつ病でより顕著であるのかどうかを,大規模な研究で検証する必要がある.現時点では,難治性うつ病では不安症併存が多いこと,小児期虐待歴が多いことなどが臨床的に明らかになっている.そのような視点で難治性うつ病の診療を行うことが,患者理解を深めることにつながると思われる. -
パーソナリティ障害を併存するうつ病
272巻5号(2020);View Description Hide Descriptionパーソナリティ障害の併存がうつ病の難治性の予測因子のひとつであるのは自明だが,最近のTRD-Ⅲ研究ではパーソナリティ障害の併存を除外基準にし,検討すら行っていない.さらに国際疾病分類第11回改訂版(ICD-11)では,自己記入式質問紙研究による5 因子構造に近似した5 つの特性のディメンジョナル診断となり,信頼性は増したが臨床的有用性の検討はこれからである.そもそもパーソナリティ障害を通常の診察で診立てるのには相当の臨床経験を要する.そこで,①高機能/完全主義,②抑制的/過剰コントロール(全般性の社交不安障害,回避性パーソナリティ障害),③感情統制障害/コントロール不能(境界性パーソナリティ障害),といった診断横断的な3 つのプロトタイプを念頭に診療を進め,診立てができたときには傾聴・共感を超えてvalidation を通して治療を進めることで,難治性うつ病を寛解に導くことができることを詳述した. -
難治性うつと神経発達症の関連について考える─自閉スペクトラム症,注意欠如・多動症に焦点を当てて
272巻5号(2020);View Description Hide Description神経発達症のなかでも代表的な疾患が自閉スペクトラム症(ASD),および注意欠如・多動症(ADHD)である.両者における抑うつの併存率は比較的高く,それぞれが抱える特徴による失敗体験から二次的なうつ状態を呈することも多い.ASD やADHD が難治性うつの背景にある場合,うつに対する薬物療法だけでは不十分で,ASD やADHD の特徴自体に対する介入や,それらの特徴を考慮したアプローチを考慮することが必要になる場合もある.幼少期のエピソードが明確であるなど,ASD やADHD の特徴が比較的明らかであればいいが,閾値下ASD や成人発症のADHD など,非典型的な一群も存在する.心理検査はASD やADHD の傾向を有する患者のスクリーニングや個々の特徴把握,そして介入を考えるうえで役に立つ.うつ状態がなかなか改善しない場合には,神経発達症の特徴が関与していないか再度検討してみることは有用であると考えられる. -
難治性うつ病に対する,身体疾患の影響を考慮したアプローチ
272巻5号(2020);View Description Hide Description身体疾患はうつ病の発症を促進するとともに,身体疾患の併存はうつ病を難治化させやすい.難治性うつ病に取り組むうえで,まず身体疾患が潜在している可能性や併用薬の影響を再検討し,それらの状況の改善をはかる必要がある.原発性睡眠障害は有病率が高いためとくに要注意であり,鉄欠乏,臨床閾値下の甲状腺機能低下なども見落とさないようにしたい.また,体内の炎症は脳内に影響し,いくつものルートでうつ病を引き起こすことが判明してきており,難治性うつ病においては抗うつ薬,電気けいれん療法による一般的な治療に加え,栄養状態,肥満,腸内環境の改善を視野に入れた適切な食事摂取,断酒・禁煙,病状的に可能であれば運動・リラクゼーションを指導し,慢性炎症の改善を促すことが重要である.現在,一部の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や栄養素(ω3 脂肪酸,クルクミンなど)も抗うつ効果が期待されており,また漢方薬も場合によっては選択肢になりうる.支持的精神療法によるストレス対処支援は重要である.ベンゾジアゼピン系薬の漫然使用を避けることも念頭に置きたい. -
認知症や神経変性疾患を考慮した高齢者のうつ病へのアプローチ
272巻5号(2020);View Description Hide Description一般に,うつ病が難治化した場合,まず行うべきことは診断の再考や併存疾患の検討であろう.高齢者のうつ病の場合は,認知症や神経変性疾患など脳器質性疾患との鑑別や併存を考慮することが重要となる.高齢者のうつ病と脳器質性疾患との鑑別を困難にする要因として,うつ病でみられる“抑うつ状態”と脳器質性疾患でみられる“アパシー”との臨床上の類似性があげられる.また,うつ病と脳器質性疾患は合併・併発することも多く,その場合の薬物療法については一定の見解がなく,議論がなされている.本稿では,まず抑うつ状態とアパシーの臨床的な違いについて精神医学的視点から解説し,次にうつ病と認知症が併存した場合の治療について,これまでのエビデンスのレビューとともに解説する. -
睡眠障害の影響を考慮したアプローチ
272巻5号(2020);View Description Hide Description不眠症状はうつ病の残遺症状として最も頻度が高いことが報告されており,不眠症状の残遺がその後の抑うつ症状の再燃やうつ病の難治化と関連していることが示唆されている.うつ病の残遺不眠の状態ではすでに鎮静系の抗うつ薬や睡眠薬の多剤併用がなされていることが多いため,さらなる薬物の増量は効果が期待できないばかりか,副作用の増大が懸念されるため行うべきではないであろう.睡眠衛生の乱れや,睡眠時無呼吸症候群などのほかの睡眠障害により残遺不眠状態となっている可能性があるため,不眠症状に対する適切な再評価を行うことが最も重要である.非薬物療法として,不眠に対する認知行動療法(CBT-I)のうつ病の不眠症状に対する効果が示されている.今後はCBT-I を含めた非薬物療法の併用により,うつ病の残遺不眠の治療戦略が示されることを期待する. -
栄養・運動を考慮したアプローチ
272巻5号(2020);View Description Hide Description現代の食生活は豊かであると一般に考えられているが,栄養学的にみるとバランスを欠きやすい現状にある.また,運動不足は年々深刻になっている.主として21 世紀以降の研究により,うつ病と関連する食事・栄養学的要因や介入研究のエビデンスが蓄積され,栄養学的アプローチはうつ病治療において重要な戦略となってきている.エネルギー過剰摂取による病態の合併はうつ病と双方向性の関連がある.また,食の欧米化や製品化によるバランス異常が原因で微量栄養素(ビタミン・ミネラル)の不足やn-3 系多価不飽和脂肪酸不足がうつ病と関連するという報告が蓄積されている.腸内細菌との関連も指摘されている.また,運動は脳機能に良好な影響を与え,うつ病の予防・治療効果についてのエビデンスも蓄積されている.本稿では,これらについての知見を著者らの検討も含めて概観し,うつ病患者に対する栄養・運動面からのアプローチについてまとめてみた. -
難治性うつ病とアドヒアランス─うつ病の訪問診療
272巻5号(2020);View Description Hide Descriptionうつ病治療ではアドヒアランスが低いことで知られており,薬物療法の評価の際にアドヒアランス不良が背景にあり,見かけ上“反応性不十分”と判断される可能性がある.うつ病の治療が奏効しない場合や難治性うつ病の可能性がある場合には,アドヒアランスに問題がないかどうか検証を行う.抗うつ薬の治療継続率は,1 カ月後,3 カ月後,6 カ月後において,それぞれ72.8%,54.0%,44.3%であり,半数以上の患者が半年以内に治療を中断,とくに最初の1 カ月に多くが治療中断していた.治療ガイドラインに沿った期間,治療を継続する必要性を繰り返し患者に説明する.治療者-患者関係のモデルは大きく分けて3 つあるが,shared decision making(治療者と患者との意思決定の共有)モデルで治療を行うと患者の治療への理解が深まり,治療満足度が向上し,アドヒアランスの向上につながる可能性がある.難治性うつ病では訪問診療の導入も検討する.とくに高齢者のうつ病は未治療となっていることも多く,うつ病の併発によって内科的基礎疾患の増悪,それによる入院および救急受診の増加,ADL の低下,フレイルの増悪にもつながることから,うつ病に対する精神科訪問診療で患者の生活を支援することが望ましい.本稿では,難治性うつ病とアドヒアランス,治療者-患者間の治療決定モデル,うつ病の訪問診療について論ずる. -
難知性うつ病に対する作業療法アプローチ
272巻5号(2020);View Description Hide Description精神科作業療法は長きにわたり統合失調症患者への実践により研鑽されてきた.しかし近年では,精神障害者退院促進事業などの取り組みにより,退院を前提とした各疾患に対する具体的な作業療法が問われる時代となった.とくにうつ病の作業療法では再発予防の観点から注目されており,症状の再燃要因となる心身の改善に加えて,自尊心の回復やストレス対処技能の獲得が目的となる.再発予防を前提とした新たな生活への援助は各患者の残されている能力,引き出される能力,代償される能力に対して,心身の回復状況を評価しながら実施され,導入期,継続期,集結期の各期において適切な援助をチーム医療に基づき実施することで,患者が望む社会生活の実現に寄与する.作業療法士は患者の社会復帰に向けた自己課題に対する内省と社会適応のための行動変容を促すことが役割であり,それらが社会生活に適切に汎化されるように支援しなければならない. - 治療効果の検討
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難治性うつ病の適切な薬物療法を考える
272巻5号(2020);View Description Hide Description難治性うつ病の薬物治療を考える際の前提として,すでに投与されている薬剤を含め,用いる薬剤による恩恵と弊害を評価し,常に恩恵が弊害よりも上回るように意識しておく必要がある.そのためには,治療対象とする具体的な症状は何か,その重症度はどの程度か,また,その症状はいつから継続していて,現在服用中の,あるいはこれまでに服用した薬剤でどれだけ変化したかをきちんと把握できるようにしておく.すでに多剤が使用されている場合は抑うつ症状,とくに意欲低下,易疲労感,思考制止,焦燥感などと捉えられていたものが副作用による影響であり,薬剤の減量や中止が症状改善につながりうるということを考えておく.現在使用している抗うつ薬の忍容性が確認されており,増量の余地がある場合はまず増量をし,それでも症状が改善しない場合は,①ほかの抗うつ薬への切り替え(スイッチング),②抗うつ薬や抗うつ薬以外の薬剤の併用(adjunctive)から,これまでの薬剤への反応性,忍容性を考え,患者と共有意思決定を行っていくことが一般的である.本稿では,上述したいくつかの治療をどのように使い分けるか,そのリスクとベネフィットを示しながら概説したい. -
治療抵抗性うつ病に対する認知行動療法
272巻5号(2020);View Description Hide Descriptionうつ病治療においてファーストラインの薬物療法で改善が認められるのは3 割程度で,ファーストライン治療で奏効しないうつ病にどのように対応するかは確立されていない.薬物療法と並びうつ病の診療ガイドラインで治療選択のひとつとして推奨されている認知行動療法(CBT)は,ものの考え方(認知)や行動に働きかけを行いながら気分の改善をめざす,構造化された短期精神療法である.治療抵抗性うつ病に対する認知行動療法の系統的レビューでは,通常療法単独と比べて通常療法に認知行動療法を併用することで介入終了6 カ月後,介入終了12 カ月後いずれの時点においてもうつ症状の改善が認められ,認知行動療法による持続効果が示されている.このように,治療抵抗性うつ病に対して認知行動療法の効果が期待されるが,その前提として,質の確保された認知行動療法が適切に実施される必要がある.わが国において,認知行動療法のスーパービジョンや治療者育成につながるプログラムのさらなる充実が期待される. -
難治性うつ病に対する対人関係療法の付加の効果
272巻5号(2020);View Description Hide Description1970 年代にKlerman とWeissman により,うつ病に対する精神療法として対人関係療法(IPT)が開発されて以降,うつ病以外のさまざまな精神疾患に対するエビデンスが蓄積されてきている.難治性うつ病に対するIPT の効果については結論がでておらず,その背景要因の多様さのため個々の症例で適応を吟味する必要がある.本稿ではIPT について,うつ病および他疾患における研究報告を紹介した後,難治性うつ病へのIPT の付加する際の考え方について私見を述べたい. -
難治性うつ病に対する電気けいれん療法の有効性と安全性
272巻5号(2020);View Description Hide Description電気けいれん療法(ECT)は1930 年代にはじまった精神疾患の治療法であり,その有効性は十分な科学的根拠に基づいていて,うつ病の治療ガイドライン内でも推奨されている.日本精神神経学会はECT 推奨事項を発表し,その治療の適応,一般的な手法,有害事象,インフォームドコンセントなどについて解説している.ECT は単極性,双極性いずれのうつ病に対しても有効であると考えられており,とくに自殺の可能性や生命危機の差し迫った重症のうつ病や複数種類の抗うつ薬に反応しない薬物治療抵抗性のうつ病に適応があると考えられている.本稿では数あるECT の研究のなかで,とくにうつ病に対して薬物療法とECT とを併用した研究や再燃予防を目的としたメンテナンスECT に関する研究についてまとめて解説した. -
難治性うつ病に対する反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法─併用療法としてのrTMS 療法とその展望
272巻5号(2020);View Description Hide Description反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法は,2008 年の米国における認可に遅れること約10 年,わが国でも抗うつ薬で十分な治療反応が得られない中等症以上のうつ病に対し,2017 年に治療機器が承認され,2019年に保険診療が開始された.いわゆる難治性うつ病に対しては,しばしば薬物療法,精神療法など複数の治療が併用されるが,rTMS 療法をほかの治療と併用することで,より効果を高めることができる可能性がある.一方,ベンゾジアゼピン系薬剤など一部の治療を併用する際には留意が必要である.rTMS 療法に関する新たな知見が近年多数報告されており,より効率的な刺激方法の研究・開発や,よりrTMS 療法が効果的なうつ病のサブタイプの探索などが行われている.保険診療を実施している医療機関がまだ少ない点など,わが国でのrTMS 療法の普及には課題も多いが,うつ病の新たな治療選択肢として今後の発展が期待されている. -
リワークプログラム標準化の取り組みとリワークの効果研究
272巻5号(2020);View Description Hide Description医療機関における復職支援の取り組みであるリワークプログラム(Re-Work program)の目的は,“単に復職を果たす”ことではなく“復職後,再発なく就労を継続できること”にあり,return to work よりもさらに踏み込んだrecovery through work のためのresilience building にあるといえる.つまり,リワークは単に職場に戻るということを越えた,ライフキャリアを全うするための支援である.このような目的を果たすため,日本うつ病リワーク協会では,高い質が確保され標準化されたリワークプログラムを確立,普及するために,各種研修会の開催やリワークスタッフ認定制度,リワーク施設認定制度の設立,さらに有効性などの調査など,さまざまな取り組みを行っている.実際,リワークプログラムの有効性について,疾病理解や対人関係能力の向上,自尊心の回復,さらに就労継続割合の高さや医療経済的な優位性などの研究結果がいくつか報告されるようになってきている. -
難治性うつ病に対する漢方薬の可能性
272巻5号(2020);View Description Hide Description難治性うつ病と漢方薬とは一見するとかけ離れた存在のようにも思え,確かにうつ病に対する漢方薬のエビデンスの乏しさから考えると無理もないことのように思える.しかし,うつ病治療において漢方治療が検討されるのは,抗うつ薬を中心とした向精神薬治療のみでは奏効しない反応性不良のケースや,向精神薬治療の副作用などのために服用を継続できない忍容性不良のケースであり,これらはまさに難治性うつ病といえるのではないであろうか.本稿では,少ないながらも存在するうつ病に対する漢方薬の臨床研究を概観するとともに,漢方医学的な診断法である“証”のなかでも,精神科領域でとくに重要と考えられている“気血水(きけつすい)”に着目し,難治性うつ病に効果的な可能性のある方剤について考えてみたい. -
難治性うつ病治療に対するケタミンへの期待
272巻5号(2020);View Description Hide Descriptionケタミンは1970 年代から世界中で使用されている解離性麻酔薬である.2000 年代に入り,ケタミンは難治性うつ病患者に単回投与で即効性の抗うつ効果,および希死念慮・自殺願望の低下を示すことが報告され,現在,最も注目されている抗うつ薬候補である.一方,ケタミンは投与直後に精神病症状や解離症状を引き起こすこと,および繰り返し投与による薬物依存などの問題が解決していないにもかかわらず,米国では適応外使用が日常的に行われている.2019 年3 月,米国食品医薬品局(FDA)は,米国ヤンセン社の(S)-ケタミン点鼻薬を難治性うつ病の追加治療薬として承認した.一方,著者らはもうひとつの光学異性体(R)-ケタミンのほうが(S)-ケタミンより抗うつ効果が強く,副作用が少ないことを報告し,海外企業とともに新規抗うつ薬として臨床治験を開始した.本稿では,難治性うつ病の画期的な抗うつ薬として期待されているケタミンの光学異性体について議論したい.
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