医学のあゆみ
Volume 272, Issue 7, 2020
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特集 ACLF(acute-on-chronic liver failure)
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わが国の診断基準と全国調査に基づいた実態
272巻7号(2020);View Description Hide Description厚生労働省“難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究”班は2018 年,“我が国におけるAcute-On-ChronicLiver Failure(ACLF)の診断基準(案)”を発表した1,2).同基準では,急性増悪発症前のChild-Pugh スコア5~9 の肝硬変に限定しており,プロトロンビン時間(PT)-INR 1.5 以上かつ血清総ビリルビン値5.0 mg/dL 以上をACLF の条件としている.この診断基準に準拠して,2017 年発症のACLF を対象に全国調査を実施した.調査対象は,ACLF の確定診断例のみならず,INR 1.5 または血清総ビリルビン値5.0 mg/dL 以上の関連病態症例にも範囲を広げた.本稿では,ACLF の診断基準(案)と第1 回の全国調査について,概説する. -
海外の診断基準─ EASL- Clif Consortium とAPASL ACLF ResearchConsortium
272巻7号(2020);View Description Hide Description慢性肝疾患は持続性の壊死・炎症に伴う肝線維化と再生結節形成から肝硬変に進行し,徐々に非代償化,さらに肝不全に至る.一方で,感染などの増悪因子により急速に肝不全に陥る急性増悪が知られていた.近年,そのなかでもとくに予後不良の病態をacute-on-chronic liver failure(ACLF)と定義して,予後予測やその治療法確立の試みがなされている.アジア太平洋肝臓病学会(APASL)からは,慢性肝疾患患者における凝固異常とビリルビン高値に加えて腹水や肝性脳症の発症による診断基準が提唱されている.一方で,欧州肝臓学会(EASL)からは肝硬変患者に合併する臓器不全の重症度評価に基づく診断基準が提唱されている.慢性肝疾患の成因や増悪因子がさまざまであることから,その多様性に則した診断基準が提案されている.それぞれの診断基準をもとにした前向き研究による治療方針の確立が待たれる. -
アルコール関連ACLF
272巻7号(2020);View Description Hide Descriptionわが国ではじめてacute-on-chronic liver failure(ACLF)の診断基準,重症度分類案が示された.本稿ではACLF に関わる肝硬変の成因のうち,急性増悪の原因でも頻度が高いアルコール関連の病態,メカニズム,予後,治療,課題などに関して述べる.診断基準,重症度を明確にするとことにより,より迅速に適切に治療を行える可能性がある. -
ACLF とウイルス肝炎,自己免疫性肝炎
272巻7号(2020);View Description Hide Description近年,欧米やアジアにおけるacute-on-chronic liver failure(ACLF)の診断基準とは異なるわが国独自のACLF の診断基準が策定され,わが国におけるACLF の現状がわかりつつある.そのなかで,ウイル肝炎を背景とするACLF は全体の20%弱,自己免疫性肝炎(AIH)を背景としたものは5%前後であり,わが国のACLF の原因としてウイルス肝炎やAIH が占める位置は大きいといえる.とくにAIH はその診断が困難な症例も多く,早期のステロイド導入で予後が大きく異なるという報告もあり,AIH を念頭に入れた治療計画を立てることが肝要である.これまでのACLF に関する報告の多くは海外からのものであり,今後わが国の診断基準を用いた症例の蓄積と詳細な検討が期待される.本稿では,ウイルス肝炎,AIH を背景としたACLFに関してこれまでの知見を交えて報告する. -
ACLF と細菌感染症
272巻7号(2020);View Description Hide Description細菌感染症が慢性肝障害の急性増悪であるacute-on-chronic liver failure(ACLF)発症の誘因になることは広く知られている.もともと,ACLF の基礎疾患である肝硬変患者では腸管防御機構が破綻しており,易感染状態となっている.その結果,腸内細菌やエンドトキシン(LPS)が腸管から門脈を経由し肝へと流入する(腸肝相関;gut-liver axis).その結果,肝および全身に高度の炎症を引き起こし,ACLF を発症する.すなわち,ACLF の発症予防や合併症対策として,細菌感染症に対する治療戦略は重要である.そこで本稿では,総論として肝硬変およびACLF における腸内細菌の変化,腸管防御機構の破綻とACLF の発症機序について解説を行い,各論としてACLF の誘因となる特発性細菌性腹膜炎およびビブリオ菌感染症,ACLF の合併症であり細菌感染症が発症の誘因となる肝腎症候群,および肝性脳症の治療戦略について解説を行う. -
ACLF と門脈圧亢進症─消化管出血に起因するACLF の病態
272巻7号(2020);View Description Hide DescriptionACLF は増悪因子であるアルコール多飲,感染症,消化管出血,原疾患の増悪を引き金として,高度の全身性炎症と肝不全が急速に進行して多臓器不全を引き起こす予後不良の病態である.肝硬変に伴う門脈圧亢進症は,全身および門脈の循環動態を変化させ,腹水,肝性脳症,肝腎症候群,食道静脈瘤を生じさせ,免疫機能の低下は,腸管バリア機能障害によるbacterial translocation(BT)を介した高エンドトキシン血症を引き起こす.また,食道静脈瘤出血に伴う出血性ショックは,虚血性肝障害や腸管虚血を引き起こし,腸管バリア機能障害を悪化させ,全身性炎症および免疫応答を惹起し,肝不全や腎機能障害,肝性脳症悪化などを含む多臓器不全を引き起こす.消化管出血に起因するACLF の発生頻度は低いものの,いったん生じると致死率は高いため,食道静脈瘤の予防的治療などによる門脈圧亢進症の管理は,ACLF の発症を防止するうえで重要である. -
ACLF の治療
272巻7号(2020);View Description Hide DescriptionACLF の病態は肝硬変を背景に,増悪要因により肝のみならず複数の臓器不全をきたし,全身管理が必要となる重篤な疾患である.わが国においてその実態解明が進行中ではあるが,いまだ不明な点も多く,治療ガイドラインもない.海外の報告では治療アルゴリズムが提唱されており,肝移植を基本とした治療方針になっており,血液濾過透析を中心とした人工肝補助療法は移植までの橋渡しとして行うことが示されている.一方,わが国では2010 年に臓器移植法が改定されたが,脳死ドナーが少なく,ドナー不足は深刻な問題である.したがって,ACLF 症例のなかで肝移植まで到達可能な症例がどの程度存在するか,またその予後については未知であり,移植に代わる新規治療法の登場も期待される.本稿ではACLF の病態,重症度と予後,それに基づく治療方針,今後の展開をわが国のデータおよび文献を踏まえて概説する.
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連載
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- 診療ガイドラインの作成方法と活用方法 12
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医療経済評価を日本の診療ガイドラインにいかに組み入れるか
272巻7号(2020);View Description Hide Description医療経済評価は単に「お金」の話と誤解されることが多いが,その目的は「限りある資源を有効に使うこと」であり,投資(費用)と結果(健康アウトカム)を同時に評価することで,期待される結果が,投資した額に見合うかどうかを評価するものである.高額な医療技術が相次いで導入され,医療費の高騰が社会問題となっている今日においては,医療提供者は社会的視点からの費用対効果も意識する必要がある.したがって,わが国の診療ガイドラインにおいても「患者個人の立場」のみならず諸外国と同様に「集団の立場」に基づく医療経済評価の結果も勘案したうえで策定すべきと考えられる. - NEW 老化研究の進歩
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- 老化研究の進歩 1
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老化の分子シグナル
272巻7号(2020);View Description Hide Description老化は遺伝子発現によって制御されており,さまざまな疾患発症に関与している.老化を遅延させる方法として,食餌量を約70%程度に抑えたカロリー制限(CR)がある.CR は寿命延長やがん・老化関連疾患の発症率低下を導くことが知られているが,その分子メカニズムは完全には解明されていない.近年,著者らは,転写因子FoxO ファミリー,ミトコンドリア機能および摂食促進ホルモンNeuropeptide Y(NPY)が,CR における寿命延長,抗腫瘍効果,ストレス応答および脂肪代謝に関与していることを明らかにした.一方,蛋白質に翻訳されない非コードRNA であるmicroRNA(miRNA)は寿命や代謝に深く関与することを示した.本稿では,CR および代謝機構におけるFoxO ファミリー,ミトコンドリア機能,NPY およびmiRNA 機能を中心に概説する.
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