Volume 274,
Issue 3,
2020
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特集 HIFと疾患─ノーベル賞受賞と将来展望
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医学のあゆみ 274巻3号, 243-243 (2020);
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医学のあゆみ 274巻3号, 245-247 (2020);
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酸素にわれわれは最大の親しみを感じる.これは酸素が生存に必須だからである.しかし,生命の起源を探ると,むしろ酸素に頼らないどころか,酸素を嫌う有機体にたどり着く.進化を遂げた好気性多細胞生物においてさえ,構成する細胞がすべて無条件に酸素を好むわけではないという,酸素との面白い関係が浮かび上がってくる.つまり,身体局所においては,構成細胞に最適の“低酸素環境”が形成されると考えることができる.また,大気が酸素で満たされるとともに獲得した低酸素環境への適応機構は,好気性多細胞生物にさまざまなストレスや環境の下で生存していく能力を与えたともいえる.今,このような視点からアプローチする,新たな酸素生物学がひらかれようとしている.
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医学のあゆみ 274巻3号, 248-252 (2020);
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転写因子である低酸素誘導因子(HIF-1)は遺伝子発現の制御を通じて生体の酸素代謝を細胞,組織,個体レベルで調節する性質を持ち,広範な生命現象に関わる因子である.本稿では,ミトコンドリアを含む細胞内小器官の機能,とくにエネルギー・活性酸素種(ROS)の代謝においてHIF-1 が果たす役割を論じ,ミトコンドリア病であるリー(Leigh)症候群,麻酔薬プロポフォールによる副作用プロポフォール注入症候群(PRIS)を例にとり,ミトコンドリアとHIF-1 の相互作用を解説して病理現象,治療戦略との関連を考えていきたい.
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医学のあゆみ 274巻3号, 253-255 (2020);
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肺高血圧症は肺動脈の攣縮やリモデリングにより肺血管床が減少し,酸素化能と心拍出量が低下することで生命予後が悪化する致死的疾患である.酸素環境は肺高血圧症の病態に大きな影響を与えることが知られており,とくに低酸素誘導型転写因子(HIF)が果たす役割について数多くの知見が報告されている.近年,HIF 機能を活性化させるHIF 刺激薬が臨床応用されており,これら薬剤が肺血管系に与える影響に大きな注目が集まっている.本稿では,肺高血圧症の病態進展においてHIF シグナルが果たす役割についてこれまでの知見を紹介するとともに,低酸素環境での換気応答におけるHIF の機能につき概説する.
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医学のあゆみ 274巻3号, 256-260 (2020);
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生体内において,最大の酸素消費臓器である肝臓では豊富な血流が灌流しているが,その解剖学的構造の特異性により,肝小葉内の特定の領域にある肝実質細胞が常に酸素濃度の低い状態“低酸素”にあるユニークな特徴を持つ.この肝小葉内の酸素濃度の違いは,生理的に肝臓が担うさまざまな代謝機能の維持に重要である.一方,薬物,アルコールや高カロリー食などの過剰な摂取は,肝臓内の酸素代謝の恒常性を破綻させ,より厳しい低酸素環境を生み出し,肝病変の形成や進展に大きな影響を及ぼす.これら生理的および病的な低酸素環境を感知し応答するシステムの中心分子がプロリン水酸化酵素(PHD)と低酸素誘導因子(HIF)である.本稿では,さまざまな肝疾患の成り立ちや進展を低酸素感知応答システムの観点から理解を深めるために,これまでに明らかになってきた本システムによる病態特異的な制御機構について概説する.
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医学のあゆみ 274巻3号, 261-264 (2020);
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低酸素誘導因子(HIF)は細胞が低酸素に応答するための主要な転写因子であり,2019 年11 月に,HIF 活性化薬であるロキサデュスタットが,透析患者の腎性貧血を対象に販売が開始された.慢性腎臓病(CKD)の進行のfinal common pathway として,尿細管間質の低酸素の悪循環が知られており,HIF は低酸素に応答することで腎臓病の病態を修飾し,適切な疾患・病気への介入によって保護的に働くことが期待されている.実際に,HIF 活性化は動物実験レベルでは急性腎障害(AKI)やCKD のさまざまなモデルで有効性が示されている.しかし,HIF の過度の活性化は逆に腎線維を増悪することや,HIF 自体がseptic AKI の発症の要因となっていることなど懸念される事項もある.HIF 活性化薬の腎臓病への適応には,HIF 活性化薬の最適な投与方法に関する研究や,異なるHIF-αやプロリン水酸化酵素(PHD)のアイソフォーム(それぞれ3 つある)がそれぞれ特定の病態にどう関わるかという,より文脈を限定した研究も必要である.さらにHIF 活性化薬は,透析患者のみならず保存期腎不全患者の腎性貧血に対しても製造販売承認申請中であり,今後販売が開始されると腎臓病の進行自体への効果についても臨床的な知見が得られるものと予想される.
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医学のあゆみ 274巻3号, 265-270 (2020);
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2019 年のノーベル生理学・医学賞は,細胞の酸素利用(低酸素応答)機構解明への貢献が認められ,WilliamG. Kealin Jr.,Sir Peter J. Ratcliffe,Gregg L. Semenza に贈られた.1900 年代はじめに見出されていた低酸素と放射線感受性の変化やがんにおける代謝機構の謎が,1995 年にSemenza らによる低酸素応答性転写因子である低酸素誘導因子(HIF-1)の発見をきっかけに,堰を切ったように明らかにされてきたことが評価された.低酸素応答機構の研究にはがん研究が大きく貢献してきた一方,これら低酸素応答機構の解明はがん研究において重要な役割を果たしてきた.すなわち,低酸素応答および転写因子HIF 制御機構は,機構の破綻したがん細胞がモデルとなり,さまざまながん関連シグナルにより制御されていることが明らかにされ,発がん,がん細胞の増殖,浸潤,転移,再発に関わること,HIF 経路の活性化が,がん幹細胞の機能維持や治療抵抗性獲得において重要であることが確認されてきた.しかし,これらの分子機構を臨床応用展開するには至ってはおらず,基礎および臨床研究者が協力してさらに前に進まねばならない.本稿では,低酸素研究の流れ,HIF 分子の基礎的な知識やがんにおける意義について概説する.
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医学のあゆみ 274巻3号, 271-277 (2020);
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臓器の低酸素はがんの予後や放射線治療応答性のみならず,臓器の機能不全や線維化に関与する重要な病態であり,その低酸素の評価法は臨床的に重要となっている.組織PO2の古典的な測定方法は微小電極法,あるいはファイバー型光センサー法であり,定量性に優れる反面,侵襲性から臨床応用は限られる.低酸素部位に蓄積するニトロイミダゾール(nitroimidazole)をトレーサーとしたPET は臨床応用されているが,その感度から適応はがんに限定される.また蛍光・リン光発色剤を全身投与し,その励起後の発光減衰時間からPO2を測定する方法は,対象が検出器の到達できる臓器の表層部分に限定される反面,定量性に優れている.最も臨床応用が進んでいるBOLD-MRI は,あらゆる臓器の低酸素を半定量的に評価することが可能である.ただし,画像化している情報は血液内のdeoxyhemoglobin の割合の変化であり,組織PO2を直接反映したものではないため,その解釈には注意を要する.以上のように,現状ではヒトの臓器低酸素の評価法には一長一短があり,より優れた測定方法の開発が望まれる.
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医学のあゆみ 274巻3号, 279-284 (2020);
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低酸素誘導因子(HIF)安定化薬は,一般にヘプシジンを抑制することで鉄の囲い込みが改善され,生理的エリスロポエチン(EPO)濃度を実現することで,腎性貧血が改善する.しかし,すべての薬剤でフェリチンが低下し,トランスフェリン飽和度(TSAT)が上昇するわけではない.これは,治験によって鉄併用投与の基準や造血の強さが違うこと,ヘプシジン抑制度が違うことに起因する.またLDL 低下の程度も薬剤差が大きく,造血にはあずからないHIF-1 に対する作用の違いを感じさせる.日常臨床で使われだしたロキサダスタットは炎症状態が強くても著しい効果があることは実感できよう.ただし,他のHIF 安定化薬と違って,この薬剤の治験では赤血球造血刺激薬(ESA)未治療患者においてはフェリチン<30 ng/mL あるいはTSAT<5%でのみ主治医の判断で鉄使用が可能というガイドラインから逸脱した基準のため,鉄欠乏が放置された.そのため添付文書の切り替え用量を使うと,フェリチンが高い症例では,Hb のオーバーシュートがみられることもあり,注意を要する.またこの薬剤で血栓症が多かったのは,この鉄を使わないプロトコールのためかもしれない.
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連載
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老化研究の進歩 16
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医学のあゆみ 274巻3号, 291-298 (2020);
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摂取カロリーを30~40%減らすカロリー制限は,さまざまな生物種において老化を遅らせ,寿命を延長する.哺乳類におけるカロリー制限のメカニズムは,いまだ全容が解明されていないが,エネルギー不足状態に対する代謝適応だと考えられている.著者らは,摂食亢進作用やエネルギー消費抑制作用を持つニューロペプチドY が,カロリー制限による寿命延長効果や抗がん作用,酸化ストレス耐性に必須であることを報告した.また,漢方薬の六君子湯は,ニューロペプチドY の発現を亢進させて,カロリー制限の効果(抗酸化酵素の増加)を一部模倣することを見出した.さらに,Ames dwarf マウスやカロリー制限マウスで共通して発現増加する遺伝子群の上流に,HNF-4α/PGC-1αが結合する共通配列(DFCR-RE2)を同定して,細胞やマウスを用いた迅速かつ簡便なカロリー制限模倣物のバイオアッセイスクリーニング系(CRISP)を開発した.
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再生医療はどこまで進んだか 8
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医学のあゆみ 274巻3号, 299-306 (2020);
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近年iPS 細胞を用いた再生医療が急速に発展しており,すでに自家iPS 細胞および他家iPS 細胞を用いた臨床研究が進んでいる.一方で他家iPS 細胞を用いる場合は移植片に対する拒絶反応が起こるおそれがあるため,現在これを避けるためにさまざまな研究が行われている.免疫拒絶が起こる大きな原因の一つがドナーとレシピエント間のHLA 型のミスマッチであるため,本稿ではそのなかで,HLA ホモiPS 細胞をストックする方法,HLA 完全欠失iPS 細胞を誘導する方法,免疫細胞を抑制する遺伝子を導入/強制発現する方法,およびHLA の部分破壊と部分一致を組み合わせた方法などを紹介する.本稿によって現状の移植免疫の考え方および進展,課題について理解が深まることの助けとなれれば幸いである.
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NEW 臨床医が知っておくべき最新の基礎免疫学
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医学のあゆみ 274巻3号, 307-308 (2020);
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臨床医が知っておくべき最新の基礎免疫学 1
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医学のあゆみ 274巻3号, 309-318 (2020);
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生体防御の仕組みは,自然免疫系と獲得免疫系に分けられる.自然免疫系では,それぞれの免疫細胞がいろいろな病原体を認識できるレセプターをひと通り発現している.反応は早いが,あまり強くない.獲得免疫系では,それぞれの免疫細胞が病原体に強力に結合できるレセプターを1 種類だけ発現しており,病原体の感染に際して増殖して対応する.反応は遅いが,強力である.獲得免疫系の特徴としては,特異性,多様性,自己寛容,免疫記憶があげられる.分化過程で遺伝子再構成により多様な反応性を持つ細胞群がランダムに作られ,そのなかから自己反応性の細胞が取り除かれて自己寛容になる.自己寛容は末梢でも起こる.病原体の感染時に増えて対応した細胞の一部が残ることにより免疫記憶が形成される.自然免疫系はまず病原体を感知して獲得免疫系を駆動し,獲得免疫系は自然免疫系の細胞を利用して病原体の排除を行うという形で,両者は連携している.
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TOPICS
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脳神経外科学
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医学のあゆみ 274巻3号, 285-286 (2020);
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循環器内科学
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医学のあゆみ 274巻3号, 287-288 (2020);
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神経精神医学
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医学のあゆみ 274巻3号, 288-289 (2020);
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FORUM
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特別寄稿
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医学のあゆみ 274巻3号, 319-321 (2020);
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現在,新型コロナウイルスの世界的流行が続いており,全世界の新規感染者数はまだ増加傾向にある.この流行を収束させるためには有効なワクチンや治療薬の開発が待たれるが,それが実用化されるまでは,感染の拡大をいかに抑えるかが重要となってくる.ここでは,このウイルスの感染性を消失させるために有効な消毒法について解説する.