医学のあゆみ
Volume 274, Issue 6, 2020
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特集 がんにおけるカヘキシア─とくにサルコペニアの問題を考える
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カヘキシアとサルコペニア概論
274巻6・7号(2020);View Description Hide Descriptionカヘキシア(悪液質)は,食欲不振,体重減少,骨格筋の減少を主徴とした病態であり,がんの他,多くの疾患に合併して認められる.サルコペニア(骨格筋萎縮)は骨格筋量および骨格筋力の低下を特徴とする症候群であり,加齢によるもの(一次性)と,廃用や疾病,低栄養によるもの(二次性)がある.カヘキシアとサルコペニア(とくに二次性)はその病態において共通している点が多く,両者のメカニズムには共通する因子が存在する.とくに炎症性サイトカインが重要な役割を担っており,各種炎症性サイトカインを上流とする代謝異常が,筋萎縮,食欲低下および体脂肪量減少などを招来している.がんカヘキシア(がん悪液質)およびそれに伴うサルコペニアにおいては,全身性炎症を背景とした複数の原因が関与しているため,多臓器・多要因に着目したメカニズムの解明とともに薬物療法,栄養療法,運動療法などによる早期の集学的介入が重要である. -
カヘキシアにおけるサルコペニアの分子機構
274巻6・7号(2020);View Description Hide Description欧州サルコペニア・ワーキンググループ(European Working Group on Sarcopenia in Older People:EWGSOP)は,サルコペニアが臨床の医師に役立つように分類して,一次性と二次性という用語を使用するよう提唱してきた.加齢以外の原因がない場合は一次性サルコペニア,他の原因によるものは二次性サルコペニアと分類される.身体活動性低下に関連するもの,重症臓器不全や悪性腫瘍といった疾患に関連するもの,さらに吸収不良やエネルギー・タンパク質の摂取量不足のような低栄養に関連するものが二次性に含まれる.二次性サルコペニアに分類されるカヘキシアにはがん,心臓疾患に伴う場合,慢性閉塞性肺疾患(COPD),慢性腎臓病(CKD)などが含まれる.それぞれの病態において骨格筋萎縮が生じるが,その制御機構にかなり類似した特徴がある.高齢者がカヘキシアになった場合,サルコペニアとの相乗効果によりさらに症状が悪化する可能性がある.しかし実際には,両者の分子メカニズムはかなり異なるので,かならずしも症状が単純な形で現れない.ここでは一般的なサルコペニアとカヘキシアのメカニズムの類似点,相違点について整理する. -
カヘキシアにおけるサルコペニアと液性因子
274巻6・7号(2020);View Description Hide Descriptionがんカヘキシアは,全身性炎症や劇的な代謝変化を伴う制御不能な体重減少を特徴とする.がんカヘキシアにおける筋力・筋量減少(サルコペニア)は虚弱を引き起こし,生存の危険因子となる.これまでがんカヘキシアは不治と考えられていたが,近年,その発症の分子機序が明らかにされはじめ,治療開発が進んでいる.がんカヘキシアにおけるサルコペニアを惹起する液性メディエーターとして,従来から知られているサイトカインに加え,細胞外小胞,循環マイクロRNA(miRNA),熱ショックタンパク質(HSP)70/90,副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)などの液性因子が注目されている.このような液性因子の機能や動態を正確にプロファイリングすることで,液性因子を標的にした創薬のみならず,発症を予想し疾患進行度をモニタリングするためのバイオマーカーの開発も期待できる. -
カヘキシアにおけるサルコペニアに対する栄養療法の考え方
274巻6・7号(2020);View Description Hide Descriptionがん患者に対する栄養管理には,①がん治療に伴う生体侵襲に対する代謝学的緩和と早期回復をめざした栄養管理,②がん自体の進行に伴う悪液質(cachexia:カヘキシア)などの代謝変動に対する栄養管理,③終末期の病態,患者環境,倫理感を配慮した栄養管理,④食を中心とする生活の質(QOL)を人生の最期まで担保,維持する社会的な栄養管理などがある.がん患者に対する栄養管理は,カヘキシアに伴うエネルギーやタンパクの消費の増大を受けて,十分量のエネルギー補給とサルコペニア(骨格筋量および筋力の減少)の予防を目的としたタンパク・アミノ酸の投与とコエンザイムQ10(CoQ10)やビタミンD をはじめとする各種微量栄養素の補充が有効である.加えて最近,低分子グレリン様作用薬が開発され,食欲亢進作用や体重増加促進作用を発揮することが報告されている.しかし,終末期に至り不可逆的カヘキシア(refractorycachexia)をきたした場合には,インスリン抵抗性の増悪,タンパク合成の低下に伴いサルコペニアは一気に増悪し,ついにはエネルギー消費量が減衰する.この際にはエネルギーやタンパク・アミノ酸の投与量を減じ,過負荷にならない栄養管理が求められる. -
カヘキシアにおけるサルコペニアに対する複合介入
274巻6・7号(2020);View Description Hide Descriptionカヘキシアにおけるサルコペニアに対する介入方法は,薬物的介入と非薬物的介入に分けられる.非薬物的介入には栄養療法・運動療法・心理社会的介入などがあるが,いずれも単独ではがん患者の予後を改善する十分なエビデンスは得られていない1,2).カヘキシアは骨格筋,脂肪組織,消化器・中枢神経・免疫系におけるさまざまな分子機構が関与している多因子症候群である.したがって,そこに対する治療的アプローチも,それぞれの病態に1 対1 に対応するものではなく,多面的な複合介入が必要である3).また,介入のタイミングや介入の対象に関しても,種々の取り組みが行われている.本稿では,これらの取り組みについて順に紹介しつつ,当院を中心に多施設協同で実施中であるカヘキシアに対する複合介入研究,Nutrition andExercise Treatment for Advanced Cance(r NEXTAC)研究について説明する. -
がん悪液質に関連したサルコペニアに対する薬物介入の今後
274巻6・7号(2020);View Description Hide Descriptionがん悪液質は二次性サルコペニアのひとつであり,多くの悪性腫瘍に併存する機能的疾患である.食欲不振,炎症,タンパク異化を標的とした薬剤が単剤あるいは併用療法で検証されたが,いまだに標準治療は確立していない.近年はアナモレリン塩酸塩などの新規薬剤の開発も進んでいる.本稿では,がん悪液質に対するこれら新旧の薬剤の臨床研究をまとめ,将来の薬物開発の方向性を探る. -
カヘキシアに対する漢方医療の可能性
274巻6・7号(2020);View Description Hide Descriptionがん悪液質は積極的ながん治療を中止させる主な要因であり,その進行をいかに食い止めるかが,がん患者の生存率や生活の質(QOL)の向上に大きく影響する.現在,がん悪液質の進行を抑制したり緩徐にしたりする方法はない.がん治療において漢方薬は汎用されるものの科学的根拠が貧弱で,経験に則った処方がなされている.近年,漢方薬の効果を基礎医学的に証明する試みが広く行われており,漢方薬の作用機序を分子レベルで明らかにしている研究も増えてきた.これまでの基礎医学的研究の結果,漢方薬によるがん悪液質改善作用は,中枢神経系を介した摂食亢進や骨格筋のタンパク維持機構の改善,炎症性サイトカイン類の産生抑制が関与する可能性が提唱されている.とくに,漢方薬のなかでも補剤が有効であることが示され,エビデンスに基づいた漢方薬の臨床応用がなされるものと期待される.
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連載
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- 老化研究の進歩 18(最終回)
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未来の老化研究
274巻6・7号(2020);View Description Hide Description老化は,“複雑すぎて研究にならない”“加齢とともにエントロピーが増加する現象であり,遺伝子が関わらないので,生物学ではなく物理学の分野である”と思われてきたが,分子生命科学研究の発展の歩みと歩調を合わせる形で研究が進み,徐々にそのメカニズムが見えてきた.それは,老化が代謝が大きく関わる生命活動そのものの現象ということである.代謝に必要な栄養など,外部からの影響も受けることから,生活習慣を見直すことで老化の速度を遅らせることができるとも考えられるようになってきた.未来の老化研究がどのような形で発展するかは,これまでの分子生命科学研究の発展の歴史と老化研究の歴史を重ねることで予想可能になる. - 再生医療はどこまで進んだか 10
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iPS細胞を用いたがんに対する免疫療法
274巻6・7号(2020);View Description Hide Description網膜色素変性症の患者を対象に,世界ではじめてiPS 細胞由来の分化細胞を用いた医療が行われたのが2015 年である.その後の約5 年で種々の分化細胞が臨床試験や治験を通じて開発されており,すでにそのなかには,がん治療を目的とした免疫細胞製品も名を連ねる.がん治療におけるiPS 細胞の応用として,がん発生を再現し治療法の開発につなげる研究と,免疫細胞を再生し治療につなげる研究があるが,本稿では後者の研究開発と臨床応用に向けての動きについて解説する. - 臨床医が知っておくべき最新の基礎免疫学 3
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自然リンパ球と呼吸器疾患
274巻6・7号(2020);View Description Hide Description自然リンパ球(ILCs)は,2013 年に新しく定義された細胞種であり,自然免疫系に属するリンパ球である.抗原非依存的な刺激によって迅速に活性化して,多量のサイトカインを産生することが特徴であり,感染防御の第一線で働くことが知られている.さらにILCs は組織常在性の細胞であり,免疫細胞のみならず非免疫細胞とも相互作用をして,組織恒常性の維持に寄与する.組織に局在し,抗原非特異的な刺激に応じて多量のサイトカインを産生するILCs の性質上,その不適切な活性化が病態形成につながることもある.ILCs の研究はとくに呼吸器領域で進んでおり,ILCs が喘息やCOPD,肺線維症の病態に関与することが報告されている.近年ではILCs をターゲットとした治療法の開発も盛んに行われており,いくつかの治療薬はすでに認可され,臨床応用が始まっている.
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TOPICS
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- 循環器内科学
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- 細胞生物学
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- 麻酔科学
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FORUM
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- パリから見えるこの世界 94
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- 書評
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『感染症大全 ─ 病理医だけが知っているウイルス・細菌・寄生虫のはなし』(堤 寛 著)
274巻6・7号(2020);View Description Hide Description※この記事は書評です。
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