医学のあゆみ
Volume 275, Issue 5, 2020
Volumes & issues:
-
【10月第5土曜特集】 がんゲノム医療─網羅的解析からの知見と臨床応用の展望
-
-
- 総論
-
わが国におけるがんゲノム医療の展望
275巻5号(2020);View Description Hide Descriptionわが国では,次世代シークエンサーを用いて固形がん組織に生じているがん関連遺伝子の変化を一度に調べる遺伝子パネル検査が2019 年に保険収載され,全国200 超のがんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院で保険検査として行われている.これらの検査では,体細胞変異の他,腫瘍変異負荷(TMB),マイクロサテライト不安定性(MSI),生殖細胞系列変異,LOH スコアなどが測定される.得られたゲノム変異データと診療情報は,医師たちと臨床検査企業の尽力により,がんゲノム情報管理センター(C-CAT)に集約されている.現在,血液腫瘍などに対して新たな遺伝子パネル検査の実装が進められているとともに,固形がんにおいては,より侵襲性の低いリキッドバイオプシーを用いた遺伝子パネル検査の薬事承認申請もなされている.一方で,国内外を問わず,遺伝子パネル検査で得られる遺伝子変化の情報が患者の薬剤投与に結びつく割合は10%程度であり,その向上には意義不明変異(VUS)の解決,既知の遺伝子変化に対応した新規治療法の開発,新たな治療標的遺伝子の同定などが必要である. -
固形がんを対象にした改訂版遺伝子パネル検査に基づく診療ガイダンス
275巻5号(2020);View Description Hide Description遺伝子パネル検査の保険収載などを踏まえ,臨床現場での適応可能性を考慮した「次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス」の改訂版が2020 年3 月に発出された.改訂版は保険収載されたがん遺伝子パネル検査に関する解説(総論)と,実地診療でとくに問題となるクリニカルクエスチョン(CQ)からなる二部構成とした.CQ ではがんゲノムプロファイリング検査をどのような患者に行うべきかについて,検査後に考慮される治療には試験的な薬物療法が想定されることから,検査後の全身状態および臓器機能が薬物療法に耐えられることを予想した患者選択を行うべきであること,がんゲノムプロファイリング検査は行うべき時期について治療ラインで限定せず,その後の治療計画を考慮した最適なタイミングを検討することなどを推奨した.改訂版ががんゲノム医療中核拠点病院をはじめとするがんゲノム医療の実施施設において活用されることを期待しつつ,今後のがんゲノム医療の進展に合わせた継続的な見直しも必要である. -
治療抵抗性腫瘍におけるがん遺伝子パネル検査に基づくがんゲノム医療
275巻5号(2020);View Description Hide Description次世代シークエンサー(NGS)の登場により,網羅的遺伝子(ゲノム)解析に基づくprecision medicine(精密医療)が注目されるようになった.がん領域でも,個々のがんにおける遺伝子異常に基づく治療(いわゆる,がんゲノム医療)が提供されつつある.わが国では,2019 年6 月に2 つのがん遺伝子パネル検査が,標準治療がない,あるいは標準治療が終了した(見込みも含む)固形がんに保険適用され,保険診療下でのがんゲノム医療体制が整備された.標準治療抵抗性腫瘍に対するがん遺伝子パネル検査の有用性に関しては,NGS の結果の解釈やアクセス可能な薬剤の有無により左右されるが,奏効率や無増悪生存期間の面ではおおむね良好な成績が期待されている.一方,医療費の面で費用対効果が危惧されるが,NGS の結果に基づく治療においては,延命効果が期待される一方,単位期間当たりの治療費は増えないと報告されている.今後は,NGS によるがん遺伝子パネル検査を,より効率的に治療に結びつけるための検討が必要である. -
NCC オンコパネルと海外の遺伝子パネル
275巻5号(2020);View Description Hide Description2019 年6 月,2 品目の検査機器によるがんゲノムプロファイリング検査が保険収載され,わが国における本格的ながんゲノム医療が開始された.これらの検査機器は次世代シークエンサー(NGS)を利用して,固形がん患者に対して約100~300 個のがん関連遺伝子における複数タイプの遺伝子異常を包括的に検出する.そして検出された遺伝子異常に応じて,適切な分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が適用される.その100~300 個の遺伝子群,または広義にはこの検査機器システム一式が遺伝子パネルとよばれる.保険収載された2 つの遺伝子パネルは,国産開発されたOncoGuideTMNCC オンコパネルシステムと,米国で開発されたFoundationOne® CDx である.本稿では,これらわが国で保険収載された遺伝子パネルと,米国食品医薬品局(FDA)によって承認された遺伝子パネル,および承認申請中のリキッドバイオプシーによる遺伝子パネルや先進医療実施中の代表的な遺伝子パネルの概要と特徴を解説し,さらに対象遺伝子数や仮想的遺伝子パネル,がんゲノム情報管理センターの話題を含めた今後の展望を述べる. -
消化器癌における血液循環腫瘍DNA 解析の展望
275巻5号(2020);View Description Hide Descriptionリキッドバイオプシーは血液や尿などの体液サンプルを用いて,腫瘍組織を用いることなく腫瘍の状態を診断する検査法である.なかでも血液循環腫瘍DNA(ctDNA)の解析は腫瘍組織解析の欠点を克服する可能性を秘めている.ctDNA 解析は,治癒切除不能の進行再発悪性腫瘍に対する化学療法や分子標的治療薬の選択,治療効果モニタリング,悪性腫瘍切除後の微小残存腫瘍(MRD)を用いた再発リスク判定や術後化学療法の選択などに利用することが期待されている.本稿では,ctDNA 解析の有用性と欠点,今後の展望について概説する. - がんと免疫
-
がん免疫研究とがん免疫療法の展望
275巻5号(2020);View Description Hide Description免疫チェックポイント阻害薬は,長年期待されていた腫瘍抗原特異的T 細胞応答を介して,多くのがんに治療効果を示したが,その効果はまだ限定的であり,治療効果予測や治療法選択のためのバイオマーカーの同定や,治療効果を上げる個別化・複合がん免疫療法の開発が期待されている.そのためには,ヒトがん免疫病態の解明による科学的ながん免疫療法の開発が重要である.最近,マルチオミックス解析など各種新技術を駆使した免疫チェックポイント阻害薬のresponder とnon-responder の細胞・分子レベルでの詳細な比較研究が進められ,腫瘍免疫学の進歩とともにがん免疫療法の改良が進められている.がん免疫療法の反応性に関与する患者の免疫状態は,がん細胞の性質,患者の体質や生活習慣,環境因子により規定され個人差が大きいが,今後,産官学連携体制を強化して,全国レベルで日本に住む日本人での解析など,重点的に進めることが重要である. -
免疫チェックポイント阻害薬─がんに対するT 細胞免疫応答の制御
275巻5号(2020);View Description Hide Description免疫システムにはアクセルとブレーキが存在し,“免疫チェックポイント分子”はそのブレーキ役を担う.従来のがん免疫療法はアクセルを踏むことに重点を置いているのに対して,ブレーキ解除によって免疫系のアクセルが入るようにしたのが免疫チェックポイント阻害薬である.免疫チェックポイント阻害薬の治療効果には個人差が大きく,奏効率は約20%である.がん特異的なキラーT 細胞は,樹状細胞ががん抗原を提示することによって誘導される.患者体内にがん特異的なキラーT 細胞が存在する場合には,免疫チェックポイント阻害薬はすでに存在するキラーT 細胞を活性化して増殖させることで抗腫瘍効果を発揮するが,体内に存在しない場合には,免疫チェックポイント阻害薬を投与しても増殖効果がない.この弱点を克服するには,新しいがん特異的キラーT 細胞を作り出す特異的免疫療法との併用が有効と考えられるが,いまのところ,がんの突然変異にまで対応可能な特異的免疫療法はなく,今後の課題となっている. -
CAR-T 細胞を用いたがん治療の現状と展望
275巻5号(2020);View Description Hide Descriptionがん特異的抗体の抗原認識部位とCD28 などの共刺激分子およびCD3ζとの融合体であるキメラ抗原受容体(CAR)を発現するCAR-T 細胞は,がん特異的抗原を認識して活性化し,がん細胞を傷害する.CD19 を標的としたCAR-T 細胞のB 細胞性血液がんに対する効果は驚異的であり,すでにわが国でも承認されている.次にターゲットとなる疾患としては多発性骨髄腫が有力で,すでにBCMA を標的としたCAR-T 細胞の有効性が報告されているが,さらによい標的を求めた探索が続いており,筆者らも活性化インテグリンβ7 に特異的なCAR-T 細胞が有効である可能性を示し,その臨床開発を進めている.しかし現在のところ,固形がんに対して有効なCAR-T 細胞の開発には誰も成功しておらず,次の大きなブレイクスルーが待たれる.そのために克服すべき課題も含め,本稿に述べる. -
免疫代謝を考慮した免疫チェックポイント阻害がん治療の効果予測マーカー
275巻5号(2020);View Description Hide Description免疫チェックポイント阻害治療は,さまざまながん種に導入され劇的な効果をあげているが無効例も多く存在しており,効果を予測するバイオマーカーの開発が求められている.これまで開発されてきたバイオマーカーは腫瘍側の性質に着目したものであるが,がん免疫応答は腫瘍細胞と免疫細胞の相互作用であり,宿主免疫側からのアプローチも必須である.血中の代謝産物とT 細胞のエネルギー代謝関連の解析を行ったところ,PD-1 抗体治療においてCD8+T 細胞による抗腫瘍免疫は宿主の細胞内エネルギー代謝や腸内細菌叢由来代謝産物と密接に関係していることが明らかになり,それらはバイオマーカーとして有用な可能性が示唆された.宿主免疫側に着目しバイオマーカーを探索することは重要であり,今後のがん免疫治療において新たな指標をもたらすものと考えている. -
マイクロサテライト不安定性とがん免疫チェックポイント阻害薬
275巻5号(2020);View Description Hide Descriptionマイクロサテライト不安定性(MSI)の高い(MSI-H)の大腸がんは,右側大腸に生じたがんに多く,低分化腺がんが多い.Stage Ⅱ,ⅢのMSI-H の大腸がんではMSI のない(MSS)大腸がんに比べて再発率が低く,予後良好といわれるものの,進行大腸がんでは,MSI-H は予後不良と考えられてきた.しかし,この予後不良である理由のひとつは,MSI-H にはBRAF 変異陽性が多く,BRAF 変異大腸がんの予後が著しく悪いためであることが明らかになってきている.BRAF 変異を除くと,進行がんであってもMSIHの大腸がんは長期予後が良好な傾向がみられている.さらに,このMSI-H 陽性の大腸がん,ならびにDNA ミスマッチ修復経路に異常をきたした(dMMR)大腸がんでは,がん免疫チェックポイント阻害薬が高い治療効果を示すことが明らかにされ,それまで大腸がんでは単剤での治療効果が限定的と考えられていた免疫チェックポイント阻害薬がMSI-H の大腸がん治療薬として承認されるようになった.本稿では,MSI-H のがんと免疫チェックポイント阻害薬について,大腸がんを中心に概説する. - 各論
-
【固形腫瘍の網羅的なゲノム解析と分子標的】 食道がんの網羅的ゲノム解析
275巻5号(2020);View Description Hide Description食道がんは組織別にみると扁平上皮がんと腺がんが大部分を占め,世界的に地域によって組織別の発生頻度は大きく異なっている.日本では喫煙,飲酒が主なリスクファクターである扁平上皮がんが多くの割合を占めているが,肥満や胃食道逆流症による下部食道の持続的な炎症に起因するバレット上皮がリスクとなっている食道腺がんの割合も近年増加傾向にある.食道がん全体の5 年相対生存率は約37%と予後不良であり,治療成績改善のためにはゲノムレベルでの病態理解,それをもとにした治療戦略の構築が必要であると考えられる.本稿では食道扁平上皮がん,食道腺がんに対して次世代シークエンサーを用いた大規模ゲノム解析の結果から,食道扁平上皮がんと食道腺がんそれぞれにおける遺伝子異常やがん進化の過程についてこれまでの知見の一部を紹介する. -
【固形腫瘍の網羅的なゲノム解析と分子標的】 胃がんのゲノム解析と治療標的
275巻5号(2020);View Description Hide Descriptionさまざまながん種において大規模かつ網羅的なゲノム解析が行われるようになり,胃がんのがんゲノムの全体像が明らかになってきた.それに伴い,新たな治療標的が同定されるようになり,近年では腫瘍免疫の解明が進み,免疫チェックポイント阻害薬による治療が適応となった.今後,症例ごとのゲノム解析によって個別化治療が行われると考えられる.ゲノム解析においては,新規の治療候補の探索のみならず,既存の化学療法や分子標的治療薬,免疫チェックポイント阻害薬などの治療薬に対する適切な患者群の選別も期待される.本稿では,胃がん領域におけるゲノム解析のトピックを概説し,現行あるいは今後の治療にどのようにつながっていく可能性があるのかに関しても考察する. -
【固形腫瘍の網羅的なゲノム解析と分子標的】 大腸がんのゲノム異常と分子標的療法
275巻5号(2020);View Description Hide Descriptionわが国ではがんゲノム医療がはじまり,個別のゲノム変異に伴う適合薬剤の投与が行われている.組織からのシーケンス解析は,NCC オンコパネルなどのがんパネルを用いたターゲットシーケンス法で行われている.大腸がんのドライバー変異と適合薬剤は,左側結腸のRAS/BRAF 野生型であれば抗EGFR 抗体+化学療法など,近年多くの組み合わせが報告されている.大腸がんはドライバー変異の有無自体に予後因子としての臨床的意義があり,たとえばMSI-high はmicrosatellite stable(MSS)に比べて転移性大腸がんでは予後不良として知られている.RTK,RAS-MAPK,RAF 経路変異については,RTK のみの症例が重複変異例に比べて予後良好である.さらに,右側結腸におけるドライバー変異は頻度が高く,再発後の生存率は右側(とくにBRAF 変異)症例において低い.大腸がんにおいて治療につながるゲノム変異(アクショナブル変異)はRAS は40%~,HER2 増幅は3%であった.さらに,大腸がんでも多がん腫でも治療につながる分子標的変異の検出と合致する薬剤の存在は,生命予後の改善に寄与していた. -
【固形腫瘍の網羅的なゲノム解析と分子標的】 膵臓がんのゲノム異常とそれに基づく治療戦略
275巻5号(2020);View Description Hide Description膵臓がんは依然として難治がんの代表格で,治療法も他のがん種と比較すると限定的である.膵臓がんのゲノム異常は,KRAS,CDKN2A,TP53 とSMAD4 遺伝子(いわゆるビッグ4)の異常が太い幹として存在し,これらを切り倒すことは現状では非常に難しい.他の罹患率の高いがん種と比較して,がん種としては遺伝子異常の多様性は少ない.しかし,多数例の網羅的なゲノム解析を行うことで,膵臓がんの数%はKRAS-wild-type で,創始となる遺伝子異常が治療標的である場合が存在することが明らかになってきた.さらに,膵臓がんの5~10%は家族性であり,その10~20%にBRCA2 などの遺伝子異常がみつかる.現状では,膵臓がんを根治できる治療法は外科手術のみであり,網羅的なゲノム解析などの結果,膵臓がんにおいては改めて早期発見とそれに伴う外科切除,術後補助化学療法の重要性が明らかとなった. -
【固形腫瘍の網羅的なゲノム解析と分子標的】 乳がんの遺伝子解析に基づく治療戦略
275巻5号(2020);View Description Hide Description乳がん領域では個別化医療をめざし,サブタイプ分類や多遺伝子アッセイ,遺伝学的検査,がん組織のがんゲノム検査が臨床導入されている.乳がんの薬物治療はサブタイプ分類に基づいて選択される.原発性乳がんの周術期治療では保険適用外ではあるが,多遺伝子アッセイにより患者個人の再発リスクを分類することが可能になり,多遺伝子アッセイのリスク分類を使用して化学療法追加効果が検討されている.再発治療ではエストロゲンレセプター(ER),HER2 の発現状況に応じて,遺伝学的検査やPD-L1 検査を行い,治療方針を決定する.がんゲノム検査の導入により,免疫療法,遺伝性乳がんの治療,腫瘍ゲノム異常を標的にした治療や腫瘍ゲノム異常と既存の治療の抵抗性など,幅広く新たな知見が集積されつつあり,個人別に最適な治療が選択,実施できるよう,検査・治療薬の開発,適応への展開が注目される. -
【固形腫瘍の網羅的なゲノム解析と分子標的】 肝がんのゲノム解析と分子標的医療
275巻5号(2020);View Description Hide Description肝がん(HCC)は,わが国におけるがん死亡率の第3 位であり,わが国をはじめとした東アジアで多いがんのひとつである.近年の大規模なゲノム解析によって,HCC におけるドライバー遺伝子の全体像はかなり詳細に明らかとなってきており,その成果を臨床に応用することもすでにはじまっている.本稿では,大規模なHCC ゲノム解読研究や最新の知見を踏まえ,これまでに明らかとなったHCC におけるゲノム異常の全体像からみえる新たな治療開発への展開について紹介する. -
【固形腫瘍の網羅的なゲノム解析と分子標的】 個別化医療のための肺がんの遺伝子スクリーニング─LC-SCRUM-Asia
275巻5号(2020);View Description Hide Description発がんやがん細胞の増殖・生存をつかさどるドライバー遺伝子を標的とする分子標的薬は,高い奏効割合と無増悪生存期間の改善が得られるため,肺がん診療におけるキードラッグであり,個別化医療の要である.上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異を除く,個々のドライバー遺伝子陽性の割合は非小細胞肺がんの数%にとどまるため,患者の同定には網羅的な遺伝子解析が必要である.LC-SCRUM-Asia(旧LC-SCRUM-Japan)は全国・アジア規模で次世代シークエンサー(NGS)を用いた肺がんの遺伝子スクリーニングを実施し,ドライバー遺伝子陽性例の同定と臨床試験の登録に貢献し,ROS1,BRAF,NTRK,MET 陽性例に対する分子標的薬の保険償還につながった.2020 年7 月までに日本の215 施設と台湾の6 施設が参加しており,スクリーニングを行った症例は1 万例以上に達している.今後もスクリーニングを継続し,まだ治療標的となっていないドライバー遺伝子に対する分子標的薬の開発,血漿検体に対するNGS の臨床応用,耐性例に対する治療開発などをめざしている. -
【固形腫瘍の網羅的なゲノム解析と分子標的】 ALK 陽性腫瘍
275巻5号(2020);View Description Hide Description1994年,最初のALK 融合タンパクであるNPM-ALK が,未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)で報告された.ALK 陽性ALCL(ALK+ALCL)以外の造血器腫瘍においては,ALK 陽性大細胞型B 細胞リンパ腫(ALK+LBCL),ALK 陽性組織球症においてALK 融合の存在が定義となっている.固形腫瘍における最初のALK 融合は,炎症性筋線維芽細胞腫瘍(IMT)において同定された.2007 年,ALK 陽性上皮性腫瘍の最初の報告として,非小細胞肺がんにおいてEML4-ALK が報告された.その後,腎細胞がん,大腸がん,乳がん,卵巣がん,甲状腺がん,膀胱がんなどにおける報告があるがALK 融合の頻度はきわめて低い.その他,皮膚腫瘍としてスピッツ腫瘍や類上皮細胞組織球腫などで,ALK 融合が報告されている. -
【固形腫瘍の網羅的なゲノム解析と分子標的】 遺伝性乳がん・家族性乳がんとその診断
275巻5号(2020);View Description Hide Description遺伝性乳がんは特定の遺伝子に生殖細胞系列の病的バリアント(病的変異)があることを背景として発症する乳がんで,乳がん全体の5~10%程度を占める.また,家族性乳がんは乳がん全体の15%程度を占め,家系内に集積を認める乳がんを指す.家系内集積を認める原因には類似した生活習慣なども含まれるが,その多くは遺伝要因であるために遺伝性乳がんとほぼ同義として用いられることも多い.遺伝性乳がんは,遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)で知られているBRCA1/2 の他にもTP53,PTEN,CDH1,CHEK2,ATM,STK11,PALB2,NF1,NBN などの病的バリアントも原因となることがわかってきている.遺伝性乳がんの診断,治療,その後のフォローアップ,サーベイランス,リスク低減手術などの方法が確立してきており,遺伝学的検査を行うメリットは大きいと考えられるため,産婦人科や遺伝子診療部と連携することで遺伝性乳がんの診断・治療・管理へのアクセスが容易となることが望まれる. -
【固形腫瘍の網羅的なゲノム解析と分子標的】 腎がんにおける網羅的なゲノム解析
275巻5号(2020);View Description Hide Description腎がんは中高年の男性に好発する悪性腫瘍であるが,その大部分を淡明細胞型腎細胞がん(ccRCC)が占める.遺伝性疾患であるフォンヒッペル・リンドウ病に関する研究を通して,ccRCC ではVHL 遺伝子が高頻度に変異していることが明らかにされている.また,網羅的なゲノム解析の成果により,ccRCCの発生に関わる遺伝子変異(PBRM1,BAP1,SETD2,TCEB1 など)が新たに同定された.このうち,TCEB1 遺伝子はVHL 複合体の構成要素であるelongin C タンパクをコードしており,VHL 遺伝子の変異・メチル化と合わせると,ccRCC のほぼすべての症例でVHL 複合体の機能喪失が生じており,これによって低酸素誘導因子(HIF)タンパクが蓄積している.診療への応用という観点からは,ccRCC では直接的なdruggable な変異が少なく,克服すべき点も多いが,今後の研究により正確で効果的な診療が提供されることが期待される. -
【固形腫瘍の網羅的なゲノム解析と分子標的】 成人グリオーマの遺伝子分類
275巻5号(2020);View Description Hide Description近年のシークエンス技術の革新により,脳原発悪性腫瘍の遺伝子異常の全貌が次々と解明されてきた.このことにより,脳原発悪性腫瘍の分類は2016 年のWHO 脳腫瘍病理分類の改訂を機に大きく変更されることとなった.従来の分類は病理学的所見に基づいてのみ行われたが,遺伝子異常に基づく分子診断が組み込まれ,遺伝子異常と病理学的所見の両方を用いて分類されることになった.グリオーマ(glioma;神経膠腫)は最も頻度の高い脳原発悪性腫瘍であるが,本疾患も遺伝子異常に基づく分類が行われる.成人グリオーマの分類においては,IDH 変異(IDH1 またはIDH2 遺伝子)・1p/19q 共欠失が用いられ,これらの分子マーカーによりきわめて明確に分類される.遺伝子異常に基づいた分類は各疾患の予後・治療反応性をより正確に評価することが可能であり,適切な治療選択に結びつく.本稿では,成人におけるグリオーマの遺伝子異常に基づく分類とその特徴について説明する. -
【固形腫瘍の網羅的なゲノム解析と分子標的】 骨・軟部肉腫のゲノム異常と分子標的
275巻5号(2020);View Description Hide Description骨肉腫や脂肪肉腫に代表される骨・軟部肉腫はいずれもまれな疾患で,現在のWHO 分類では100 を超える組織型が定義されている.旧来,肉腫の診断には臨床像,画像検査所見,病理組織学所見が主軸に置かれ,それらに基づいて治療などの臨床的な方針が決定されてきた.しかし近年,次世代シーケンサーに代表される遺伝子変異解析技術の飛躍的な向上により,従来の手法では分類できなかった腫瘍の亜型が次々と同定され,その分類に基づいた治療方針の検索がなされるようになってきており,診断・治療に大きな変化が生じてきている.本稿では,肉腫のなかでも比較的頻度の高い骨肉腫,脂肪肉腫,近年特徴的な遺伝学的異常が注目されている腫瘍を中心として,それらにみられる遺伝子異常と,その知見に基づき導入が試みられている治療方法に関して解説していく. -
【造血器腫瘍】 急性骨髄性白血病の分子分類と分子標的薬
275巻5号(2020);View Description Hide Description急性骨髄性白血病(AML)の遺伝子変異解析は次世代シーケンサーの登場によって飛躍的に発展し,網羅的な変異プロファイルが作成されるようになった.さらに,変異の有無とその組み合わせに基づいてAML を11 のサブグループにわける分子病理学的な分類方法が提唱された.このような分類は同時に表現型,予後,治療に対する反応性などの臨床的な特徴を有する.臨床的な応用として,分類の他に予後の予測と治療があげられる.遺伝子変異は,以前より予後因子としての役割を有していた核型異常と組み合わせることで,より包括的な予後予測システムが作成された.さらに分子病態の解明によって分子標的薬の開発が進み,わが国ではFLT3 阻害薬が使用可能である.さらにFDA では,IDH1/IDH2 阻害薬やBCL2阻害薬がAML に対して承認されており,わが国での開発が待たれる. -
【造血器腫瘍】 慢性骨髄性白血病のゲノム異常と臨床的意義
275巻5号(2020);View Description Hide Description慢性骨髄性白血病(CML)はBCR-ABL1 融合遺伝子を特徴とする骨髄増殖性疾患で,一般に数年の慢性期の後に移行期・急性転化期へと進展し致死的となる.チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の登場後は治療成績が飛躍的に向上したが,現在でも一部の患者はTKI 治療に抵抗性を示し,予後不良の転帰をたどる.TKI 抵抗性症例の約半数にABL1 遺伝子変異を認めるが,その他の治療抵抗性の分子機序は不明な点が多い.一方,最近のゲノム解析により,CML はしばしばBCR-ABL1 以外に,ASXL1 やRUNX1 などの遺伝子変異を有することがわかってきた.しかし,こうした付加的ゲノム異常が腫瘍の病型や治療抵抗性,予後などにどのように関わるかについては,CML 研究において今後解決されるべき問題である.本稿では,CML のゲノム解析の最新の知見を概説し,CML における付加的遺伝子変異,およびその臨床的意義について論じる. -
【造血器腫瘍】 AML に対する新規分子標的薬
275巻5号(2020);View Description Hide Description急性骨髄性白血病(AML)は未分化な骨髄芽球がクローナルに増殖した病態である.次世代シーケンサーをはじめとする近年の急速なオミクス解析技術の進歩により,AML におけるドライバー変異の同定,多段階発症機構,治療前後でのクローン構造の動的変化などの理解が飛躍的に高まった.このようなAML バイオロジー解明の進展と並行して,AML に対する新規薬剤の開発も盛んに行われてきている.本稿では,AML に対する新規分子標的薬に焦点を当てて,AML バイオロジーとの観点と合わせて紹介する. -
【造血器腫瘍】 成熟B 細胞腫瘍のゲノム解析の進歩
275巻5号(2020);View Description Hide Description成熟B 細胞腫瘍は悪性リンパ腫の90%近くと大部分を占めるが,その分類は50 種類以上にも分けられる多彩な疾患の集団である.従来,濾胞性リンパ腫(FL)におけるBCL2 とIgH の再構成など,いくつかの染色体異常は診断の一助となってきた.しかし,ひとつの病型として診断された集団でも治療反応性や予後などの違いがあり,ヘテロな集団であるといえる.近年の次世代シーケンサーを用いたゲノム解析の進歩は凄まじく,その成果はWHO 分類の診断に用いられているだけでなく,ゲノム異常に基づくびまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(DLBCL)の亜分類など,従来の疾患分類を超えた細分化も可能としつつあり,m7-FLIPI といった疾患予後予測モデルにも利用されている.これらの知見の集積は分子標的薬開発や予後予測モデルの構築へ寄与するようになっており,ゲノム異常に基づく病態の理解はより重要性を増している.本稿では,近年のゲノム解析の進歩を中心に,代表的な疾患の各論を述べる. -
【造血器腫瘍】 T/NK 細胞リンパ腫における網羅的遺伝子解析とその臨床応用
275巻5号(2020);View Description Hide DescriptionT/NK 細胞リンパ腫は,不均一な病型から構成される予後不良な成熟T 細胞腫瘍である.従来,アントラサイクリン系薬剤を基盤にした多剤併用化学療法が行われているが,B 細胞腫瘍に比べて予後不良である.現在,さまざまな新規薬剤が登場しているが,新規薬剤の奏効率も十分とはいえず,治療標的や予後予測マーカーとなる新たなバイオマーカーの探索が必要である.近年,次世代シーケンス技術の進歩に伴いハイスループットな網羅的遺伝子解析が可能となったことで,さまざまな悪性腫瘍における遺伝子異常の全体像が明らかとなり,遺伝子異常に基づいた新規バイオマーカーの探索が盛んに行われている.T/NK 細胞リンパ腫においても,リンパ腫発症に関連するドライバー遺伝子やパスウェイの異常が同定され,これらの情報をもとにした新規治療標的や分子分類の開発が進んできている.本稿では,T/NK 細胞リンパ腫の主病型における現在までの遺伝子解析研究と,その臨床応用に関して概説する. -
【造血器腫瘍】 家族性白血病と胚細胞性変異
275巻5号(2020);View Description Hide Description家族性白血病には他の白血病と同じく急性型・慢性型,およびリンパ系・骨髄系に分類されるなど,さまざまな病型が含まれる.初期に発見されたRUNX1,GATA1,CEBPA,RAS 経路など,原因となる胚細胞性遺伝子異常の多くは,家族内に発症した白血病症例の解析により発見されてきた.これらの古典的な遺伝子異常が典型的な若年発症例の解析によって発見されたものである一方,高齢発症家族性白血病症例においても胚細胞性変異の報告があり,これまで知られていた以上に多くの白血病症例において発症に関与していることが判明した.とくに,DDX41 胚細胞性変異は他の遺伝子異常に比較してより高齢発症例に認められ,血縁者間造血幹細胞移植後のドナー由来白血病の報告も散見される.また,最新の知見ではSAMD9/9L およびSBDS 胚細胞性変異が骨髄異形成症候群由来の白血病の原因として報告された.これら原因遺伝子の異常の検出が,家族性白血病における遺伝学的・病理学的鑑別診断に必須となっている. -
【小児腫瘍】 小児腫瘍へのゲノム医療の展望
275巻5号(2020);View Description Hide Description小児がんなどの希少がんには標準治療が確立していない疾患が多く含まれることもあり,わが国におけるがんゲノム医療の提供体制では,積極的なゲノムプロファイリング検査の対象となっている.現在のがんゲノム医療では主に直接の治療標的となる変異遺伝子を探索する“治療選択”が中心であるが,小児腫瘍の診療では従来から診断や予後予測などの用途でもゲノム検査が有用であり,ゲノム医療の応用範囲はさらに広く,再発率の低下と合併症の最小化に期待が寄せられている.しかし,腫瘍発症に関わる遺伝的背景が二次的にみられることが想定され,小児がん診療に関わる医療者には社会的・倫理的な配慮も含めた遺伝性腫瘍の知識が必須である.まださまざまな課題が残されてはいるが,がんゲノム医療を小児腫瘍に広く実装することで,将来的には非腫瘍性疾患まで含めた“ゲノム医療”へと展開することが期待される. -
【小児腫瘍】 小児急性リンパ性白血病(ALL)の網羅的ゲノム解析からの知見と臨床的意義
275巻5号(2020);View Description Hide Description近年の小児急性リンパ性白血病(ALL)の治療成績向上の要因のひとつとして,次世代シーケンサー技術を用いた網羅的なゲノム異常の同定,およびそれらの知見が診断,予後予測,標的治療へと応用されてきたことがあげられる.現在,B 細胞性ALL は23 のサブグループにまで細分類され,T 細胞性ALL におけるSPI1 融合遺伝子陽性群など新規サブグループの発見にとどまらず,ALL の分子病態理解はクローン進化と再発様式や生殖細胞系列の異常,ゲノムワイド関連解析(GWAS)と多岐にわたり,患者自身の特性にも基づいたより広い意味での個別化医療へと展開されている.今後,全ゲノム解析やオミクス解析によって分子生物学的特徴がより明らかとなり,新規診断法や治療法の開発,また次世代シーケンサー技術の臨床応用が進み,ALL 患者の生命予後がさらに改善されるものと期待される. -
【小児腫瘍】 小児急性骨髄性白血病におけるゲノム異常と臨床的意義
275巻5号(2020);View Description Hide Description小児急性骨髄性白血病(AML)と成人AML の分子病態の違いが明らかとなってきた.小児AML においては染色体転座を有する症例が多く,発症年齢によって多く認められる転座は異なる.変異遺伝子数は年少児では少なく,年齢とともに増加傾向にあり,観察される変異遺伝子も成人と大きく異なる.近年,AML では遺伝子変異に基づく亜型の提唱や予後予測モデルの構築が行われ,AML 診療に遺伝子の変異情報が不可欠となってきているが,小児における臨床的意義は成人AML と異なる可能性があり,臨床的解釈を行ううえで留意をする必要がある. -
【小児腫瘍】 小児がんにおける分子プロファイリングの新展開─小児固形腫瘍のゲノム・エピゲノム統合解析
275巻5号(2020);View Description Hide Description小児がんのなかでも固形腫瘍は依然として予後不良であり,小児がん関連死亡の約70%は固形腫瘍に起因する.最近,米国を中心とした大規模ながん種横断的な全ゲノム解析プロジェクトにより,小児固形腫瘍においては,成人がんと比べると治療標的となるようなアクショナブルの変異の頻度は極端に少ないことが明らかとなった.しかし少数ではあるものの,神経芽腫におけるALK,ATM など治療の標的となりうる変異が同定され,臨床応用の方向性が示されつつある.さらに,スーパーエンハンサー領域の網羅的解析により,神経芽腫は転写因子の発現パターンにより特徴づけられることが見出され,新たな分子病態が明らかとなった.一方,ゲノム解析に加えてエピゲノム解析を行うことで,肝芽腫では分子病態の全貌が明らかとなり,新規の治療標的が見出された.統合的ゲノム解析により小児固形腫瘍の全体像を明らかにすることは,新規克服法の開発に有用と考えられる. - トピックス
-
分子標的薬と治療抵抗性のメカニズム
275巻5号(2020);View Description Hide Description網羅的ゲノム解析によりEGFR,ALK,ROS1,TRK などドライバー遺伝子変異の測定が容易になってきた.分子標的薬は,これらの標的を有するがんにいったん奏効するが,獲得耐性により再発することが問題になっている.獲得耐性のメカニズムとしては,標的の変化(耐性変異),側副経路の活性化,他のドライバー変異の発生,細胞形質変化,血液-脳関門による薬物移行制限を含む多くの機構が知られている.同一腫瘍に耐性機構が複数混在することもあり,治療を一層困難にしている.一方,分子標的薬による治療の初期に一部のがん細胞が抵抗性細胞(DTC)として生存し,その後獲得耐性が発生する温床となることが注目されてきており,抵抗性が生じるメカニズムの解明も進み,AXL やIGF-1R などチロシンキナーゼ活性を有する受容体の関与が明らかにされてきている.獲得耐性や抵抗性を克服する治療の開発がさらなる予後改善に必要である. -
喫煙により気管支細胞に蓄積する体細胞性変異
275巻5号(2020);View Description Hide Description肺がんはがんのなかでも最も多い死因であり,喫煙が80~90%の症例で原因となっていると考えられている.従来,肺がんについては多くの腫瘍ゲノムが解析され,肺がんにおけるゲノム異常やドライバー変異については多くの知見が得られてきたが,がんを発症する以前の正常気管支上皮細胞において,どのようなゲノム異常がすでに起こっているかについては十分に解明されていなかった.単一細胞レベルの全ゲノムシーケンスを行うことにより,正常気管支上皮細胞にも加齢や喫煙により遺伝子変異が蓄積し,それに伴い肺がん発症につながると考えられるドライバー変異も獲得されていることが明らかになった.また,喫煙歴のある症例では,喫煙によると考えられるシグネチャーを持った変異が増加していた.一方,喫煙歴のある人,とくに前喫煙者では正常に近い細胞も少なからず存在していることが明らかになり,禁煙による肺がん発症のリスクの減少につながっている可能性が考えられた. -
食道がんとフィールドがん化
275巻5号(2020);View Description Hide Description食道がんは他がんと同様に高齢者に多いが,過度の飲酒・喫煙というリスク因子が明確ながんである.これらのリスク因子の慢性的な曝露により,多発性にがんが発生するフィールドがん化を呈する典型的ながんという特徴がある.正常食道上皮から微量DNA を採取することにより,食道において,クローン性増殖は生後間もない時期からすでに正常食道上皮で生じており,若年者ではきわめて限定的であったが,加齢とともに食道上皮全体に拡大し,高齢者では,食道の大半が食道がんで頻繁に認められるドライバー変異を獲得して増殖した,10,000 個にも達するさまざまなクローンによって再構築されていることがわかった.このクローン拡大の過程は過度の喫煙や飲酒といった生活習慣リスクによって大きく影響され,こうした生活習慣リスクを持つ人では,遺伝子変異の総数が増加するとともに,驚くべきことにドライバー変異も増加しており,このことがフィールドがん化を呈することに起因すると考えられた. -
がんゲノムにおけるスプライシング変異の検出
275巻5号(2020);View Description Hide Descriptionゲノム変異における重要なクラスのひとつに,スプライシングの異常を引き起こすものがある.そのなかで主要なものとしては,イントロンの両端二塩基(GT-AG)における変異であり,この部位における変異によりスプライシング因子の結合に影響が生じ,転写異常が起こることが知られている.しかしながら,GT-AG 以外でも,ゲノム変異によってスプライシング異常が生じる例が遺伝性疾患などの解析により数多く知られている.しかし,がんゲノムにおいて,スプライシング変異の正確な全体像の解明は進んでいなかった.本稿では,ゲノムデータとトランスクリプトームデータを統合的用いてスプライシング変異を網羅的に同定する統計的方法論,また,この方法を用いたがん種横断的な大規模解析の結果を紹介する.本解析の結果,GT-AG における変異のみならずエクソンの最後の塩基やイントロンの5 番目の塩基においてスプライシング変異の集積がみられたこと.また深部イントロンにおいて新規の偽エクソンを生じさせる変異とAlu 配列との関連性についての一端などが明らかになった. -
がん研究と一細胞解析
275巻5号(2020);View Description Hide Description腫瘍組織は腫瘍細胞に加えて血管細胞,間質細胞,免疫細胞などから構成され,腫瘍細胞自体もがん幹細胞をはじめ,ゲノムおよびエピゲノムにおいて多様な細胞の集団である(図1)1).腫瘍増殖を制御するためには細胞間相互作用,幹細胞ニッチを形成する微小環境を含めたエピジェネティック制御の理解が必要と考えられ(図2)2),一細胞解像度の解析がきわめて有用である.一細胞解析が2013 年の『NatureMethods』誌のMethod of the year に選ばれたのに続き,2019 年にはmultimodal omics が選ばれた.本稿では,マルチモード化しつつある最近の一細胞解析技術の紹介とがん研究にもたらされた成果を概説する.
-