Volume 282,
Issue 1,
2022
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【7月第1土曜特集】 基盤病態としての慢性炎症
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医学のあゆみ 282巻1号, 1-1 (2022);
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医学のあゆみ 282巻1号, 2-8 (2022);
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近年,大うつ病性障害や統合失調症などの精神疾患の病態生理において炎症応答の関与が注目されている.統合失調症や大うつ病性障害などの精神疾患では全身性に炎症応答が誘導されていることが報告され,これらの炎症応答が神経機能を変化させ,精神疾患病態を誘導することが示唆されている.また,疾患ゲノム研究からも炎症関連分子が関与することが報告された.最近の精神疾患のモデル動物からの知見では,ストレスなどの環境要因が骨髄からのミエロイド系細胞を動員し,末梢で炎症応答を誘導すること,脳内の免疫担当細胞であるミクログリアを活性化し病態に関わる脳機能変化を誘導することが示された.また,これらの免疫応答を増強・維持するメカニズムとして転写・エピゲノムが報告され,精神疾患との関与が示唆される.今後,細胞種特異的な多階層のオミクス解析や,シングルセル解析などにより,精神疾患における炎症の分子実体が解明され,精神疾患の新たなバイオマーカーや創薬標的の提言につながることが期待される.
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医学のあゆみ 282巻1号, 9-13 (2022);
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アルツハイマー病(AD)は最も患者数の多い代表的な認知症であり,アミロイドβの蓄積や神経原線維変化を病理学的な特徴とする.近年,脳内の免疫系細胞であるミクログリアや末梢のT 細胞がAD の病態に関与していることを示す知見が蓄積しているが,その機能は多岐にわたるため各細胞の病態への寄与が議論されている.一方で,近年の1 細胞遺伝子発現解析の発展から,ミクログリアやT 細胞は局在する部位や病態によって性質が異なることから多様性に富む細胞であることが明らかになってきた.免疫系細胞のサブタイプや病態での役割は疾患の種類,局在,病態の進行度によって大きく異なる.本稿では,AD を対象に免疫系細胞の多様性やその病態での役割について最新の知見を総括する.今後,神経変性疾患の病態が1 細胞レベルで解明され,より病態進行に主要な細胞,遺伝子群が発見されることで症状の進行を妨げる新規治療法の開発へとつながっていくことが期待される.
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医学のあゆみ 282巻1号, 14-18 (2022);
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アトピー性皮膚炎の発症機序は,①皮膚バリア機能異常,②免疫・アレルギー学的異常,③痒みの異常,の3 点を軸に捉えることでその理解が大きく進んだ.外来抗原に対する防御機構として合目的的に発達してきた皮膚組織修復応答であるが,角層バリアに脆弱性を持つアトピー性皮膚炎患者では,皮膚組織修復応答が過剰に反応し悪循環を起こしている病態と理解される.さらにアトピー性皮膚炎の分子生物学的機構の解明が進むことで,急性期におけるサイトカインプロファイルや関連する免疫細胞の構成が,慢性期におけるそれらとは大きく異なることが明らかとなった.一方,生物学的製剤をはじめとする新規薬剤での治療において不可逆的な変化と考えられていた苔癬化症状の改善が報告されるようになった.今回,近年のアトピー性皮膚炎研究における新知見をもとに最新の治療戦略を考察する.
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医学のあゆみ 282巻1号, 19-25 (2022);
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気道や肺組織における慢性炎症は,気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD),間質性肺疾患(ILD)などを代表とする多くの呼吸器疾患の病態形成に関わる.慢性炎症の発症には環境因子と遺伝的素因が重要であることが知られているが,病態形成に関わる分子機構はいまだ不明点が多い.持続する慢性炎症は肺組織の病的線維化につながり,臨床的に大きな問題となる.2 型免疫応答は寄生虫感染時や組織修復において生体保護的に働くが,その過剰な活性化は慢性炎症や病的線維化につながることがわかってきた.本稿ではまず,有害な外的環境因子を感知するセンサーとしての気道上皮細胞の役割と,病原性2 型免疫応答を介した慢性炎症や病的線維化の誘導機構について解説する.また本来,生体防御に役立つはずの免疫記憶が生体にとって有害な反応を起こしてしまう,病原性免疫記憶による慢性気道炎症や組織病的線維化の病態形成機構について,近年明らかになった知見を紹介する.
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医学のあゆみ 282巻1号, 26-31 (2022);
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心不全は心臓が悪くなるだけでなく,全身が悪くなる症候群とされており,加齢のほかに慢性腎臓病(CKD),慢性閉塞性肺疾患(COPD),糖尿病,クローン性造血(CHIP)などの多くの併存疾患を合併することが知られている.特に現時点のアンメットメディカルニーズである“左室駆出率が保持された心不全”(HFpEF)は,多くの併存疾患が先行し心不全を発症する.その機序として,心不全および併存疾患はすべて炎症の存在を共通基盤としていることがあげられる.HFpEF の発生機序は,複数の併存疾患が存在し全身性の炎症状態が存在しているうえに,心臓に炎症が波及して発症するモデルが考えられている.心不全と併存疾患の全体を考慮するには,炎症の存在に加えて代謝リモデリングも重要であり,実際には両者が相乗的になり病態を形成する.本稿ではそのうち,炎症に関して焦点を絞って解説を行う.炎症の発症には自然免疫系細胞と獲得免疫系細胞の両者が関与しており,近年では免疫系細胞の起源である造血幹細胞の遺伝子変異が炎症を惹起することが知られている.心不全に対する抗炎症薬の効果については議論があったが,最近やはり炎症が心不全の原因となっているエビデンスが蓄積されてきており,注目されている.
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医学のあゆみ 282巻1号, 32-37 (2022);
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慢性腎臓病(CKD)は末期腎不全(ESKD)だけでなく心血管疾患や全死亡のリスクであり,その病態解明と治療開発が急務である.CKD では原疾患によらず腎臓において慢性炎症を認め,組織障害と線維化が進行する.これには免疫細胞の持続的な活性化のみならず腎実質細胞が炎症性の形質を獲得することが影響しており,治療対象として注目されている.またCKD では,腎臓に加えて他臓器の変化が全身性の慢性炎症を惹起し,心血管疾患や死亡のリスクを高めている.加えて,加齢に伴う自然免疫の活性化,細胞老化,免疫老化などによって生じる慢性炎症(inflammaging)がCKD に関与していることも指摘されている.近年筆者らは,高齢個体において腎障害後に三次リンパ組織(TLT)が形成され,炎症を遷延させ,CKD 進展の一因となる可能性があることや,免疫老化がその形成に寄与することを見出した.CKD の進行抑制には慢性炎症の病態解明が重要であると考えられ,今後さらなる研究の発展が期待される.
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医学のあゆみ 282巻1号, 38-42 (2022);
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非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)はメタボリックシンドロームの肝臓における表現型といわれ,肝臓への過剰な脂質蓄積を背景に慢性炎症が惹起され,組織線維化から臓器機能不全に至る疾患である.NASH では中性脂肪に加え,細胞障害性を有する脂質の蓄積がもたらす脂肪毒性によって肝細胞死が誘導される.肝臓は定常状態から多数の組織常在性マクロファージが存在するが,肝障害時には骨髄由来の浸潤マクロファージが増加し,組織内の細胞構成や活性化状態はダイナミックに変化する.シングルセル解析によってマクロファージの多様性が指摘されているが,死細胞をマクロファージが取り囲む病理学的構造に基づく解析においても,疾患特異的マクロファージの亜集団の存在が明らかになってきた.代謝ストレスによってもたらされる肝細胞死の特性と,病態形成に直結するマクロファージの機能解析が進むことで,新規治療・診断ターゲットの探索につながることが期待される.
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医学のあゆみ 282巻1号, 43-48 (2022);
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慢性炎症はさまざまな疾患の病態に関与している.骨格筋疾患においても,他の組織と同様に,組織内外における慢性炎症によって骨格筋機能が障害される.骨格筋は運動器において中心的な役割を果たし,われわれが日常生活を営むうえでその健常性の維持は必須である.幸いなことに,骨格筋は筋線維を形成することができる筋衛星細胞(サテライト細胞)を組織内に有するために,損傷後速やかに再生することができる.一方で,筋疾患においてはこのシステムが破綻することが問題となる.骨格筋の疾患は,希少疾患で難病指定されている筋ジストロフィーから,サルコペニアのような日常的なものまで含まれるが,どの病態においても炎症細胞が関与している.特にマクロファージは疾患下において炎症の亢進や収束だけでなく,サテライト細胞や間葉系間質細胞(FAP)といった骨格筋固有の細胞の機能を変えてしまうことでも,病態悪化に加担していることがわかってきている.本稿では,骨格筋病態とそのなかでの細胞同士の相互作用,つまり細胞社会の概念を念頭におきつつ,最近の知見についてご紹介したい.
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医学のあゆみ 282巻1号, 49-54 (2022);
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消化器臓器は,消化管と肝胆膵などの実質臓器からなる集合体である.腸管で吸収された栄養は門脈系やリンパ管系を介して肝臓に運搬され,この解剖学的なつながりのために消化管と肝臓の臓器連関は長く研究されてきた.さらに,この消化吸収は交感神経・副交感神経が拮抗して調節し,適切な消化管の蠕動運動や諸臓器の内分泌系および外分泌系の制御を介した精緻なメカニズムを介する.近年,これら消化器臓器を支配する自律神経系と免疫細胞の直接相互作用である神経免疫連関が局所の炎症制御に大きく寄与していることや,神経免疫連関の理解により消化器臓器の慢性炎症への新たな制御機構が明らかになってきた.本稿では,自律神経系を介した消化器臓器と中枢神経系の相互作用の織り成す臓器間ネットワークの消化器臓器における慢性炎症疾患への関与について概説する.
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医学のあゆみ 282巻1号, 55-62 (2022);
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脂質代謝の破綻は,慢性炎症を伴うさまざまな疾患と密接に関連している.脂質代謝酵素の一群であるホスホリパーゼA2(PLA2)は,リン脂質を加水分解して不飽和脂肪酸とリゾリン脂質を生成する酵素群の総称であるが,広義にはリン脂質以外の脂質を代謝する酵素も含まれる.哺乳動物では50 種類以上の分子種が存在し,構造上の特徴から細胞外に放出される分泌性PLA2(sPLA2群),細胞内に存在するCa2+依存性細胞内PLA2 (cPLA2群),Ca2+非依存性細胞内PLA2 (iPLA2群)の三大ファミリーに大別されるが,他にも新しいタイプのPLA2が多数見つかっている.近年,いくつかのPLA2分子種の遺伝子改変マウスやヒト遺伝子変異,脂質を網羅的に分析するリピドミクス解析技術の進展により,PLA2分子群の新機能が明らかになりつつある.本稿では,肥満,糖尿病を中心とする代謝性疾患に関わるPLA2分子群の役割について概説する.
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医学のあゆみ 282巻1号, 63-68 (2022);
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ヒトの腸内には500 種類以上,数にして100 兆個以上の腸内細菌が存在するといわれており,腸内細菌は宿主が代謝できない物質を代謝したり,宿主の免疫システムと相互作用しながら宿主と共生している.腸内細菌に影響を受ける臓器は,腸管はもちろんのこと,腸管以外の臓器も腸内細菌の代謝物や菌体成分などが全身を循環するため,影響を受けていることがわかってきた.本稿では,主に腸内細菌叢の影響を受けやすい腸肝軸を介した肝臓における慢性炎症とがんにフォーカスし,腸内細菌叢と疾患の関連性について概説する.また,最近トピックスとなっている以下の2 点,腸内細菌が産生する特殊な修飾型のリトコール酸の抗炎症性作用や,腸内細菌と免疫チェックポイント阻害薬の相乗効果によるがん治療の可能性についても紹介する.
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医学のあゆみ 282巻1号, 69-74 (2022);
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粥状動脈硬化症の発生および進展の鍵を握っているのは血管壁における慢性炎症である.原因としては,老化に加えて糖尿病,高血圧,脂質代謝異常などの危険因子の集積が重要であると考えられる.慢性炎症反応の誘導に関して自然免疫系分子の関与も明らかとなってきた.炎症性刺激によるマクロファージの活性化はプラーク不安定化と破綻にも深く関与しており,さらにイベント発症を決定する重要なプロセスである血栓の形成・増大においても炎症性因子が関与すると考えられる.動脈硬化の進展とイベント発症の予防および治療戦略を考えるうえで,基盤病態となる慢性炎症の制御機構の解明が重要である.
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医学のあゆみ 282巻1号, 75-80 (2022);
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慢性炎症が引き起こす眼疾患に加齢黄斑変性(AMD)がある.神経組織である網膜の中心部(黄斑)に生じるため,中心視力を脅かす.失明原因のうち,国内では第4 位,米国では第1 位である.50 歳以上の1%以上が罹患し,超高齢社会では社会問題である.網膜の裏打ち構造にあたる脈絡膜に起因する疾患とされ,眼球のなかでは観察しづらい部位であることからこれまで不明の点が多かった.しかし近年の検査機器などの発達により,病態解明は飛躍的に進んだ.発症の危険因子には加齢,喫煙のほか,メタボリックシンドロームや脂質代謝異常に関連するものがある.特に脂質代謝については眼局所における蓄積だけでなく,マクロファージに蓄積して慢性炎症を引き起こすメカニズムが提唱された.ここではAMD の慢性炎症との関連を疫学的データや動物実験のデータとともに解説する.
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医学のあゆみ 282巻1号, 81-85 (2022);
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身体中のどの部位に慢性炎症があっても,血液検査で白血球数が定常状態から変動(たとえば,貧血と白血球増加)することは臨床現場でよく経験される.一見単純なこの現象が,実は骨髄での非常に複雑なシグナルリレーを経て成り立っていることが最近の研究の蓄積でわかってきた.本稿は,慢性炎症と骨髄の相互反応を骨髄球系細胞を中心とした視点で紐解き,特に炎症性貧血,造血幹細胞からの骨髄球系偏向分化,交感神経による末梢血への血球動員の3 つのポイントから,体のあらゆる部位の慢性炎症が骨髄とは無関係に論じるのは難しい,という印象を読者に持っていただくことを目的としている.
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医学のあゆみ 282巻1号, 86-91 (2022);
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多くのがん組織は炎症反応を伴っており,非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)の長期服用ががんのリスクを低減することから,炎症反応は積極的に発がん促進に関与すると考えられた.炎症に関連するシグナル経路のなかでも,シクロオキシゲナーゼ2(COX-2)依存的なプロスタグランジンE2(PGE2)が,発がん促進に中心的な役割を果たすことが遺伝学的な解析で明らかにされた.COX-2/PGE2活性化により形成される微小環境では,腫瘍随伴マクロファージ(TAM)や,がん関連線維芽細胞(CAF)が活性化し,サイトカインや増殖因子,活性酸素種(ROS)の産生により,がん細胞の未分化性の維持や生存・増殖が促進される.このような炎症反応により形成される腫瘍微小環境は,発がんだけでなく転移巣の形成にも関与すると考えられている.したがって,がんにおける慢性炎症反応の制御は,発がんや転移の予防戦略としても期待される.
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医学のあゆみ 282巻1号, 92-99 (2022);
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関節リウマチ(RA)は関節滑膜増殖および軟骨破壊を伴う慢性炎症性疾患であり,わが国での有病率は0.5~1%と報告されている.関節滑膜には自己反応性を含むと思われる活性化CD4+T 細胞をはじめとした免疫細胞の浸潤が認められるだけでなく,滑膜線維芽細胞(FLS)を含め組織の非免疫細胞からサイトカイン,ケモカイン,増殖因子(GF)などが産生され炎症を誘導し,骨の破壊まで生じる.また,当該疾患ではその症状が両側対称性に現れることも診断基準とされており,神経系が関与していることも示唆されているが,その詳細なメカニズムはいまだ明らかとなっていない.本稿では,これまで筆者らが世界に先がけて報告してきた炎症誘導機構である“IL-6 アンプ”および固有神経の活性化によりIL-6 アンプが特異血管部で活性化し,血中免疫細胞の組織侵入口を形成するメカニズムである“ゲートウェイ反射”を基盤としたRA 発症メカニズムについて議論したい.
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医学のあゆみ 282巻1号, 100-104 (2022);
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二次予防の進歩により,心血管疾患(CVD)の予後は大きく改善されてきたが,CVD は依然として世界的に主要な死亡原因となっている.数多くの研究により,炎症がCVD の残存リスクだけでなく次の治療ターゲットとしても注目されている.実際に,完全ヒト型抗IL-1βモノクローナル抗体であるカナキヌマブを用いたCANTOS 試験では,CVD 患者に対する抗炎症療法の有効性が証明された.細胞外マトリックス(ECM)に存在してダイナミックに発現を変化させる非構造タンパク質であるオステオポンチン(OPN)は,多様な生物学的機能を媒介し,CVD の多くの病的状態に関与している.急性炎症においては創傷治癒,組織修復といった保護的な役割を果たす一方,炎症を慢性化させる起点となり,臓器のリモデリングを加速させ,重大な心血管系有害事象(MACE)を増やすといった有害な面を有する.本稿では,CVD の発症に寄与するOPN の作用機序と治療標的としてOPN の可能性について議論する.
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医学のあゆみ 282巻1号, 105-111 (2022);
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生体内で生じる炎症反応には多種多様な細胞が関与する.「どの細胞が,いつ,どこで何を引き起こしているのか」という時空間的な挙動を明らかにすることは,炎症の病態を理解するうえで大変重要である.筆者らはこれまで,生体二光子励起顕微鏡を駆使して,関節炎や非アルコール性脂肪性肝炎など慢性炎症疾患におけるマクロファージの動態を可視化することに成功してきた.さらに最近,生体イメージング系をヒト組織へ応用し,非侵襲的に疾患をリアルタイムに診断できる方法を開発している.本稿では,これらの研究成果について実際の画像を紹介しながら概説する.
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医学のあゆみ 282巻1号, 112-117 (2022);
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高脂肪食,運動不足のエネルギー過剰の生活習慣により,肥満,特に内臓脂肪蓄積を介して慢性炎症からインスリン抵抗性が惹起され,2 型糖尿病を発症するものが増加している.内臓脂肪での慢性炎症に大きな役割を果たすのは,マクロファージ(Mφ)である.筆者らはフローサイトメトリーによる解析により,非肥満の状態では抗炎症性M2 マクロファージが優位であり,肥満に伴い炎症性M1 マクロファージが優位になることを明らかにしてきた.すなわち,M2 マクロファージからはIL-10 が分泌され,抗炎症作用によりインスリン感受性を賦与し,M1 マクロファージから炎症性サイトカインが分泌され,全身をインスリン抵抗性に導くという仮説である.肥満脂肪組織では,その肥大化に血管新生が追いつかず低酸素になる.マクロファージの低酸素誘導因子(HIF)-1αを介した低酸素反応が慢性炎症を惹起し,インスリン抵抗性をさらに悪化させることを示した.本稿では,最近のシングルセルRNA 解析から明らかになった新たなマクロファージのサブタイプである脂質の貯蔵に関連する脂質関連マクロファージ(LAM)についても,最近の論文をレビューする.