Volume 41,
Issue 81,
2022
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骨・関節感染症の治療戦略
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Ⅰ.疫学・病態
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別冊整形外科 81号, 2-6 (2022);
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Semmelweis が手指衛生により産褥熱を低減させ,Robert Koch が細菌を発見し,Joseph Lister がフェノールによる術野・手術器具消毒により“手術熱”を減少させたことで,外科医は「敗血症による死」という悩みから解放されたが,現在においてもなお手術部位感染(SSI)は撲滅されていない.わが国での人工関節周囲感染(periprosthetic joint infection:PJI)発生率は1.36%であり1),われわれ人工関節外科医はPJI をゼロに近づけるべく,これからも努力し続けなければならない.わが国におけるSSI 予防元年は1999 年とされ,予防対策などが広く議論されながら,近年では2018 年にMusculo skeletal Infection Society の第2 回国際コンセンサス会議での推奨内容がPJI 対策として参考にされている.
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別冊整形外科 81号, 7-11 (2022);
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人工物を用いる人工関節置換術や脊椎インストゥルメンテーションなどの手術例に手術部位感染(SSI)が発生した場合,対応に難渋し人工物の抜去を余儀なくされるなど,患者・医師双方に負担が大きくなるばかりでなく,医療経済的にも損失をきたす.予防が肝要であり,そのためにはSSI の実際の発生率,起因菌および危険因子の経時的把握が必要である.Japanese Database of Surgicalsite infection following arthroplasty and spinalinstrumentation(J‒DOS)はこうした状況に対応するために立案されたわが国最初の人工関節置換術/脊椎インストゥルメンテーションに関するSSI の前向き観察研究である.本稿では,2021 年に登録が開始されたJ‒DOSの研究背景と経緯,2021 年の登録状況,今後の展望について概説する.
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別冊整形外科 81号, 12-15 (2022);
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下肢開放骨折の治療成績の検討は主として,骨癒合時期や感染発生率について骨折部位,軟部組織再建の時期,方法,内固定材の種類などを変数として行われており,機能評価は跛行や関節可動域制限の有無に限られたものが多く,患者立脚型でのdisability の報告はこれまで少ない.そこで本研究では,当院で加療し,日本骨折治療学会開放骨折登録(Database of OrthopaedicTrauma:DOTJ)に登録した下肢長管骨開放骨折の治療成績を,DOTJ で使用されているlower extremity functionalscale(LEFS)[表1]を用いて後方視的に検討した.特にこのLEFS の各項目のなかで,どのような動作が困難となったかを検討した.
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別冊整形外科 81号, 16-19 (2022);
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人工関節周囲感染(periprosthetic joint infection:PJI)や手術部位感染(SSI)において,黄色ブドウ球菌感染症はもっとも頻度が高く,かつ難治性である.感染時に細菌がどこに潜んでいるかを知ることは,PJI,SSIの治療,および今後の研究の一助となる.本稿では,黄色ブドウ球菌の感染巣としてStaphylococcal abscesscommunity(SAC),インプラント上のバイオフイルム,骨細管内への浸潤,細菌の細胞内寄生について述べる.
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別冊整形外科 81号, 20-24 (2022);
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近年,バイオフィルムに関する新規の研究結果として,病態の理解としてバイオフィルム形成における原因菌の集簇・成熟・菌体外毒素の放出のプロセスや,バイオフィルムに対する有効な治療に関する進歩が報告される1).バイオフィルム関連感染では,バイオフィルム内の菌は抗菌薬や免疫応答から守られているため,従来抗菌薬の効果判定に使われる最小発育阻止濃度(minimuminhibitory concentration:MIC)が局所で達成されても,十分な殺菌効果が得られない可能性が報告されている1,2).そのため,バイオフィルムが難治性の原因となる整形外科感染症では,バイオフィルムの形成を予防とした抗菌作用をもつ生体材料の使用や,感染巣でのバイオフィルムの破壊をターゲットとした局所抗菌薬治療が新たな治療方法として期待される.さらに,クオラムセンシングと呼ばれる細胞同士のシグナル伝達を抑制することで,細胞の共同体の組成であるバイオフィルム作成を阻止する治療法が注目されている3,4).ここでは,インプラント周囲感染に対する治療戦略として,近年報告されるバイオフィルム形成の予防やバイオフィルムの破壊に注目した治療戦略に関する新しい知見について概説する.
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Ⅱ.予防
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別冊整形外科 81号, 26-31 (2022);
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1999 年に米国疾病予防管理センター(CDC)の手術部位感染防止ガイドライン1)が日本語に翻訳され,手術部位感染(SSI)がわが国の医療に定着して以来,わが国における感染予防に対する意識が大きくかわった.世界的にはMusculoskeletal Infection Society(MSIS)の整形外科感染対策における第2 回国際コンセンサスミーティング(International Consensus Meeting:ICM)2)が2018年に開催され,日本語にも翻訳されている3).わが国においては2006 年に『骨・関節術後感染予防ガイドライン』が整形外科領域のSSI 予防ガイドラインとして初刊され,その後,2015 年に改訂版が発刊された4).これらのガイドラインがSSI/人工関節周囲感染(periprostheticjoint infection:PJI)対策として広く参考にされているのが現状である.外因性要因である手術室環境に関しては,SSI/PJI との関連について明確なエビデンスがない項目が多いが,手術室への入室にはじまり,手術室内におけるあらゆる行動など,さまざまな問題点があげられる.それら手術室環境については,医師や医療スタッフが注意することでコントロール可能な項目が多く,ガイドラインに加え,最近の報告やわれわれが取り組んできた問題点を交えて報告する.
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別冊整形外科 81号, 32-37 (2022);
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抗菌薬含有セメント(antibiotics-loaded bonecement:ALBC)は1969 年にBuchholz らにより感染人工関節の一期的再置換術に適応されたのを嚆矢とする1).セメントビーズ,スペーサーや感染人工関節再置換術など治療目的で使用される際,セメント40 g あたり1.0 g 以上の抗菌薬を使用するのに対し,初回置換術における予防的適応では1 g 以下が標準的使用量である(表1)2).2018 年の整形外科領域感染に関する第2 回国際コンセンサスでは初回人工関節置換術におけるALBC 適応の手術部位感染(SSI)/人工関節周囲感染(periprostheticjoint infection:PJI)予防に関するエビデンスがclinical question として取り上げられた.レビューの結果として,「決定的なエビデンスが欠如しており,コスト,有害事象,耐性菌発現等の観点から全例使用を推奨しない」という推奨文がmoderate とのエビデンスレベルとともに提示されたが,投票結果は賛成38%,反対58%でコンセンサスが得られなかった3).英国やノルウェーでは本法が頻用されている4,5)一方で,米国で初回人工関節に使用されることはまれであり6),本法に関してはいまだ定まった評価は欠如している.本稿ではALBC の予防的適応に関する現在までの知見を紹介し,その有用性と限界を概説する.
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別冊整形外科 81号, 38-41 (2022);
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人工関節置換術における術後合併症は多岐にわたるが,そのなかでも治療に難渋する病態の一つが人工関節周囲感染(periprosthetic joint infection:PJI)である.PJI はいったん発症すると,バイオフィルムが金属インプラント表面に形成される特性から,治療に難渋しやすいだけでなく再燃のリスクが常に存在する.近年ではPJI に罹患することにより,死亡率が上昇するといった報告も散見されるようになった1,2).不運にもPJI を発症した場合には,インプラントの抜去を余儀なくされることが決してまれではなく,患者・医療者ともに大きな負担を強いられる.したがって,われわれ整形外科医は,PJIの発症をできる限り予防する取り組みが求められる. PJI を予防するためには,患者側因子と術者側因子に分類して対策を講じる必要がある.2018 年に米国で開催された第2 回International Consensus Meeting(ICM)において,PJI の予防について幅広く議論されており,きわめて多くの内容が推奨に盛り込まれている3).われわれ整形外科医が直接介入しやすいのは術者側因子であり,術者側因子は手術室環境・手術機材・術中洗浄液・手術時間・術後創傷管理などきわめて多岐にわたる.そのなかでも,手術機材においては,インプラントを体内に恒久的に挿入するという整形外科手術の特性上,インプラントクオリティを上昇させることがPJI を予防するための至上命題とされてきた. 本稿では,PJI 予防のなかでも,整形外科インプラントに対する抗菌処理に焦点をあてつつ,昨今の抗菌インプラントの特徴や臨床成績などを近年の文献を交えながら概説したい.
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別冊整形外科 81号, 42-45 (2022);
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整形外科分野において,人工関節や内固定材料などのインプラントを用いた治療は日常的に行われる標準的な手法であり,今後さらに高齢化が進行していくわが国においてはインプラントを用いた手術件数がより増加していくと予測される. インプラントを使用するにあたり合併症の発生は深刻な問題であり,特に人工股関節全置換術(THA)の主な合併症として脱臼,弛み,破損および術後感染があげられる.近年では人工関節の材質やデザインおよび手術手技の改良による脱臼や弛み・破損の抑制,手術環境整備など合併症への対策がすすんでいる.しかし完全に克服したとはいえず,特に感染は一度発生すると,その治療には多大な困難が伴う.加えて昨今,糖尿病や肝疾患,透析患者などの感染リスクの高い症例に対する人工関節置換術や人工関節再置換も増加しており,感染症対策の必要性が増している. 日本整形外科学会の学術プロジェクト研究である「人工関節置換術および脊椎instrumentation 術後感染症例の実態調査」によると,術後感染発生率は人工関節置換術で134/9,882 例(1.36%)と報告されている1).また,初回THA よりも再置換術のほうが有意に感染率は高かったという報告もある2). 近年では人工関節周囲感染(periprosthetic joint infection:PJI)の予防対策の一つとして,人工関節表面の細菌付着やバイオフィルム形成を阻害することを目的に抗菌性素材を表面に付与してインプラント自体に抗菌性をもたせる抗菌人工関節研究・開発が盛んに行われている3~9).銀は太古よりその抗菌性能が知られており,ヒポクラテスも創傷の治療として用いていたともいわれている10).銀は無機系抗菌薬のなかでも広い抗菌スペクトルと優れた抗菌性能を有しながらも比較的安全性が高く,なおかつ耐性菌を生じにくいとされる.また,ハイドロキシアパタイト(HA)は脊椎動物の骨の主成分であり,良好な生体親和性と優れた骨伝導性を有する.佐賀大学では2005 年より,京セラ社(京都)と抗菌性インプラント開発の共同研究を行い,銀とHA を複合化して金属表面にコーティングする技術を開発した.そして銀HA コーティングを行った人工股関節インプラントを,当大学で行った臨床治験の後に,2015 年9 月にAG—PROTEX HIP システムとして製造販売承認を取得した.
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Ⅲ.検査・診断
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別冊整形外科 81号, 48-53 (2022);
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人工股関節全置換術(THA)において,鼻腔内保菌が手術部位感染(SSI)と関連があり,その原因菌がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や,これを含む黄色ブドウ球菌(黄ブ菌)である場合は,しばしば難治性となることが知られている.また,その保菌宿主に関しての整形外科手術におけるSSI 発生率は,MRSA 保菌者において6.9 倍, メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)保菌者において2.8 倍とされるなど1,2),感染リスクが高いと考えられている.中でも,MRSA の保菌の65%は鼻腔内から検出されたという報告3)や,ムピロシンカルシウム水和物による鼻腔内除菌により,ほかの体表部位の黄ブ菌も減らすことができるという報告4)もあり,全身の部位のなかでも鼻腔内における保菌が重要であると考えられている.このようなことから,THA を施行する際には,手術前にMRSA もしくは黄ブ菌の鼻腔内保菌検査および除菌を行うことが推奨されており5~7),効果的な保菌検査および除菌方法を検討し,実行していくことはきわめて重要である.
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別冊整形外科 81号, 54-59 (2022);
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慢性骨髄炎などの骨・軟部組織感染症は,原因菌を検出できないことも多く,骨や滑膜などの生体組織に血液培養ボトルを使用した培養検査を行うことで,検出率の向上が期待できる.しかし,再発が繰り返される慢性感染は,抗菌薬に耐性のあるバイオフィルム内に存在する冬眠状態の抗菌薬感受性を認める細菌が原因とされ1),血流が乏しい組織に形成されるバイオフィルムおよびバイオフィルム内の細菌が,治療抵抗性の要因となる2). われわれは,このような骨・軟部組織に形成されたバイオフィルム内の細菌検出を目的として,人工関節周囲感染(periprosthetic joint infection:PJI)における超音波処理後培養検査(超音波処理法)3,4)に着目した.検出感度の向上を目的とし,血液培養ボトルによる培養検査前に,超音波処理により骨・軟部組織におけるバイオフィルムを破砕することで,バイオフィルム内の生菌を検出する方法を考案した5).われわれは,これまでPJI や整形外科感染症に対し,本検査法を用いた治療を行っており,本稿では,PJI および整形外科骨・軟部組織感染症における新規超音波処理法を用いた原因菌検出率を報告し,有用性を検証する.
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別冊整形外科 81号, 60-63 (2022);
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人工関節周囲感染(periprosthetic joint infection:PJI)において,原因菌の同定は診断および治療において重要である.原因菌の同定方法としては,細菌培養検査がもっとも一般的な方法であるが,PJI 患者のなかには細菌培養検査で細菌が検出されないculture-negativePJI 患者が多数存在する.Culture-negative PJI は,PJI全体の7~42.1%と報告されており1,2),そのような症例では,原因菌と原因菌に対する抗菌薬の感受性が不明であるため,感染に対する治療戦略を立てるのがむずかしくなり,実際culture-negative PJI は臨床成績が劣るとの報告がある3).このようにPJI 診療において,原因菌の同定は臨床的に大きな意義をもつが,原因菌同定方法に注目した報告は少ない.近年では,culture-negativePJI 患者において,細菌性遺伝子をターゲットとしたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法やシーケンサーによる遺伝子診断技術の有用性が報告されるが4,5),現状では限られた施設での研究段階であり,実際のPJI 診療への臨床応用にはいたっていない. 増菌培養は,通常の栄養培地では発育が困難な菌や,嫌気性菌などの発育に特殊な環境を要する菌に対して細菌培養検査の感度を上昇する方法として用いられており,PJI の原因菌同定方法としてもその有用性が報告される6).一般的に行われる通常培養との具体的な違いは培地と培養期間であり,通常培養は血液寒天培地を用いて培養後18~24時間で結果判定をするのに対して,増菌培養は栄養価の高い培地を用いてより長時間の培養を行う方法であり,培地や培養条件の工夫により発育しづらい菌種の同定が可能となる7). これまでわれわれは,PJI 診断において増菌培養を用いてきており,通常培養では同定困難であった症例でも原因菌の同定が可能となった症例を認めた.本研究では,当院のPJI 診断における増菌培養方法の実際と診断および治療における有用性について報告する.
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別冊整形外科 81号, 64-67 (2022);
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化膿性脊椎炎において,適切な抗菌薬治療を行ううえで起因菌の同定は重要である.また,適切な抗菌薬治療は,感染の再発や耐性菌の出現,治療費の削減にもつながるとされる1).起因菌の同定は重要であるが,時に同定できない症例があり,その場合は広域抗菌薬での治療や経験的抗菌薬使用となる.従来,化膿性脊椎炎において起因菌を同定する方法として,血液培養を採取する方法と,局所から検体を採取し培地で培養する組織培養がある.過去の報告によると,血液培養の陽性率40~80%2,3),組織培養の陽性率47~70%3~5)であり,いずれも確実な抗菌薬の効果を確約できるほどの検出率ではない.局所検体を採取するためには手術による開放生検が組織採取のゴールドスタンダードとされている6).しかし,近年の画像技術の進歩やMRI の普及などにより,感染巣が椎体終板や椎間板のみに限局している早期の化膿性脊椎炎が診断できるようになってきた7).感染巣が限局している場合は手術による開放生検の適応となることが少なく,CT ガイド下生検や全内視鏡下脊椎手術(fullendoscopicspine surgery:FESS)によるドレナージがしばしば試みられる8,9).これらの方法は,前述の手術による検体採取に比べて患者への負担や侵襲はおさえられるが,そもそもの検体量が不十分となる場合や,採取した組織が壊死組織であったり,感染部位から検体を採取できなかったりすることが多いことなどから起因菌の検出率が低いことが指摘されている9). 化膿性脊椎炎に限らず,そのほかの領域で起因菌の検出率を向上させる手技として,血液以外の検体を血液培養ボトルで培養する方法が用いられている.これまで関節液10,11)や胸水12),腹水13),眼内炎の硝子体14),肺炎の気管支肺胞洗浄液15)など,他分野でもその有用性が報告されている.整形外科感染対策における国際コンセンサス16)においても,人工関節周囲感染症に関して,起因菌の検出率を高めるためには,採取した検体を血液培養ボトルで培養すべきであるとの提言がなされている.前述のように他分野で使用されてきている血液培養ボトルを利用した培養方法は化膿性脊椎炎においても応用可能と考えた. 当院では,従来であれば起因菌の検出が困難であったMRI で椎体終板や椎間板内に感染巣が限局し周囲に明らかな膿瘍を形成していない化膿性脊椎炎の症例において,局所の洗浄手技を行う際に生じる灌流洗浄液を血液培養ボトルで培養し,起因菌検出率の向上につなげる工夫を行っているため報告する.
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別冊整形外科 81号, 68-74 (2022);
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感染後の変形性膝関節症(OA)に対する人工膝関節全置換術(TKA)や,TKA 後インプラント周囲感染(periprosthetic joint infection:PJI)では,術前の正確な感染活動性の評価が適切な治療方針の決定に重要である.一般的に感染の評価は,身体所見(発赤,熱感,腫脹,瘻孔形成),血液検査[C 反応性蛋白(CRP),赤沈],関節液検査(細胞数,分画),関節液培養,画像(X 線像,MRI,シンチグラフィ)で行われる. さらに重要な評価法として,術中に滑膜を採取し,凍結標本で高倍率の1 視野あたりの好中球数をカウントする迅速診断がある1).これはInternational ConsensusMeeting(ICM)on orthopaedic infections が作成したPJI の診断基準のminor criteria の一項目に入っているものである2).凍結切片を用いた評価についてはきわめて高い診断能があるという報告がある一方で,結果は病理医の主観的評価に依存しており,有用性は限定的とする意見もある3). 近年,われわれはエコーガイド下に外来で滑膜を採取する技術を開発し4),感染後のOA 例,PJI 疑い例,PJI後の二期的TKA 再置換術例に対して,永久標本による病理組織診断を行っている.本稿では本法を紹介し,術中迅速病理診断の有用性と問題点について文献的に考察する.
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別冊整形外科 81号, 75-78 (2022);
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人工関節周囲感染(periprosthetic joint infection:PJI)は診断に難渋することが多い疾患であり,精度の高い診断方法が必要とされている.近年の人工関節置換術施行数の増加に伴い人工関節再置換術例も増加しており,今後も増加することが想定されている1).人工関節再置換術ではPJI か無菌性弛みかの診断が重要となる.2013 年にPJI に関する国際コンセンサス会議(International Consensus Meeting:ICM)が行われ,予防・診断・治療などの多数の項目について,文献をもとに診療に関するさまざまな推奨が提唱された.その際に新しいPJI の診断基準が提唱され2),PJI の確定診断に用いられるようになった.一方で実際の患者にはPJI の診断基準を満たしていないが無菌性弛みに対する治療が奏効せずに,臨床経過からPJI が強く疑われる症例が多く存在する.それらの患者の感染診断には,分子生物学的診断法による関節液マーカーの測定やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法による細菌性デオキシリボ核酸(DNA)の増幅と同定の有用性が報告されてきた.2018 年の第2 回ICM では診断基準が改定され,スコアリングシステムが導入された3).そのなかで,PJI の確定診断が得られないグレーゾーンの症例については,次世代シーケンサーなどの分子生物学的診断法が補助的な診断として有用であることが記載されている. 本稿では,これまでわれわれが行ってきたリアルタイムPCR 法を用いた細菌性DNA の同定によるPJI の診断について,当院におけるPJI 診断の精度とその有用性,および今後の展望について論述する.
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別冊整形外科 81号, 79-84 (2022);
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超音波処理による培養検査を行うことでバイオフィルム内の生菌検出を向上できる1)が,休眠状態の細菌は検出できない2,3).われわれは,このようなバイオフィルム内の培養困難な細菌検出を目的として,人工関節周囲感染(periprosthetic joint infection:PJI)や骨・軟部組織感染症におけるnext generation sequencing(NGS)4,5)を超音波処理法1)と併せて行うことを考案し,2015 年より検討している(図1)5,6). 最新のMusculoskeletal Infection Society(MSIS)によるPJI 診断ガイドラインでは,診断未確定の症例にNGS を考慮することを注訳として記載されている7).しかし,手術中摘出された臨床検体は採取箇所や検体種により細菌濃度の低いものが存在し1),NGS において偽陽性や偽陰性の要因となる5,6). 本稿では基礎的検証に加え,超音波処理による血液培養ボトル併用の培養検査1)が陰性であった慢性骨髄炎患者のNGS 検証結果を報告する.
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別冊整形外科 81号, 85-89 (2022);
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近年,整形外科で行われる医療の高度化に伴い重篤な術後感染症の発症リスクが増加しており,原因菌種を可能な限り迅速に検出・同定することで適切な抗菌薬を選択し,治療を開始することが臨床上重要である.しかし,現在の細菌検出法のゴールドスタンダードである細菌培養検査は,原因菌の同定までに数日(2~3 日)を要するため,結果が判明するまでの間は経験に基づく経験的治療を施行せざるをえない.その結果,広域スペクトルの抗菌薬使用による薬剤耐性菌の出現や,抗菌薬の選択ミスによる感染遷延化の危険性など,感染症治療の早期においてはいまだ重大なリスクを抱えている. われわれ整形外科領域においては無菌的な領域を扱うことが多く,特に人工関節置換術後に細菌感染が発生した場合,細菌は人工関節周囲にバイオフィルムを形成するため,その治療には難渋する.また弱毒菌感染や,すでに抗菌薬が投与されている場合,細菌培養検査では偽陰性となる確率が高い.さらに関節リウマチ患者はC 反応性蛋白(CRP)値のベースラインが高く,感染が生じているのか,現病の悪化なのかを判断するのに難渋する.したがって感染症の原因菌種を迅速に検出・同定するシステムの確立が求められており,近年では迅速検査法の開発競争が熾烈となり,抗原検出法,質量分析法や遺伝子検出法の分野では検査の迅速化・自動化が試みられている. われわれはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を用いた人工関節周囲感染症の原因菌種迅速同定法を検討するなか,富山大学の仁井見らと北海道三井化学社が共同開発した真核生物である酵母をホストとした新たな耐熱性デオキシリボ核酸(DNA)polymerase(yeast-made TaqDNA polymerase)に着目した.これはbacterial DNAcontamination-free を世界ではじめて実現したTaqDNA polymerase であり,高感度で正確な細菌DNA の検出を可能にした1).さらに仁井見らは,融解温度(meltingtemperature:Tm)値の組合せによるTm mapping法を用いて,血液培養検査における原因菌種迅速同定システムを構築した2).ここでは,Tm mapping 法を用いて人工関節周囲の関節液から迅速原因菌種の同定を行ったので,その結果と課題について報告する.
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別冊整形外科 81号, 90-93 (2022);
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整形外科術後の感染は約1~2%に生じ,時に難治性である.特に人工関節手術や脊椎インストゥルメンテーション手術における感染では治療に難渋することを経験する.感染の診断の基本は患者の熱型把握や局所臨床所見および血液生化学検査である.また,局所より感染組織や貯留液が採取可能であれば培養検査が有用となる.しかしながら,発熱を伴わない感染や局所および採血上の炎症所見が乏しい場合も存在する.本稿では化膿性脊椎炎・椎間板炎および脊椎手術術後感染症に対する画像診断,特に18F—fluorodeoxyglucose positron emissiontomography/CT(18F—FDG PET/CT)の有用性について文献レビューを行い,自験例を併せて報告する.
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別冊整形外科 81号, 94-97 (2022);
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αディフェンシン(αD)は病原菌に反応して好中球から放出される抗菌ペプチドであり,人工関節周囲感染(periprosthetic joint infection:PJI)のバイオマーカーとしての有用性が報告されている1~3).関節液中αD を測定する方法として,海外ではイムノアッセイとラテラルフローテストが使用されている1).前者は判定に約24時間を要すが,感度・特異度ともに96%といずれも高い1).一方,後者は20 分で結果が出るものの,感度71%,特異度90%と感度がやや低い1).後者は2017 年よりSynovasure αディフェンシン検出キット(検出キット)[Zimmer Biomet 社,Warsaw]としてわが国でも使用可能となり,国内での報告も散見される4,5).本稿の目的は,当院での検出キットの経験を報告し,使用上の注意点について考察を加えることである.
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別冊整形外科 81号, 98-102 (2022);
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人工関節周囲感染(periprosthetic joint infection:PJI)の診断は身体所見,各種検査結果などから総合的に判断する必要があり,時に診断に難渋することもある.PJI の診断の一助として各種バイオマーカーの測定が注目されており,その一つにαディフェンシン迅速診断キット(Synovasure:Zimmer Biomet 社,Warsaw)がある.αディフェンシン迅速診断キットはPJI に対しての感度特異度は比較的高いとの報告があるが,PJI 以外の感染症に対する報告は少ない.本稿でわれわれは人工膝関節全置換術(TKA)前にαディフェンシン迅速診断キットを使用し,偽陽性となった2 例を経験したので報告する.
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別冊整形外科 81号, 103-107 (2022);
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インプラントを用いることが多い整形外科手術では,手術部位感染(SSI)の早期診断が重要である1~5).しかし,手術侵襲後には感染を合併しなくても全身性炎症反応が生じるため,SSI の早期診断はむずかしい1,4).従来,白血球数・分画2),C 反応性蛋白(CRP)3,5),赤血球沈降速度5)などがSSI 診断マーカーとして用いられてきたが,感染を伴わない手術侵襲後にも変動,あるいは感染の軽快後も異常値が持続するため,SSI 診断における特異度は低く,必ずしも診療上有益な情報を得ることができなかった1,4). 近年,新しい敗血症診断マーカーとしてプレセプシン(PSEP)が発見され6),敗血症の早期診断ばかりでなく重症度・予後予測にも有用であるとの報告がある6~9).そこでわれわれは2012 年9 月以降,東北大学病院整形外科脊椎診療班における全身麻酔下予定手術例を対象として,PSEP と従来のマーカーを経時的に測定してきた.本稿ではPSEP の術後非感染例と感染例における周術期動態,術後創傷感染症早期診断における有用性について述べる.
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別冊整形外科 81号, 108-110 (2022);
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人工関節周囲感染(periprosthetic joint infection:PJI)は,人工関節置換術の1~2%で発生し,もっとも重大な術後合併症の一つである1,2).PJI の術後2 年以内の死亡率は25.8%と報告されている3).PJI の診断は臨床所見と血液や関節液の各種バイオマーカー,細菌培養検査,組織学的検査の組み合わせで行われており4),現在のところ,PJI を完璧に診断することができる単独のバイオマーカーは存在しない.血液中の炎症マーカーは特異性が低いという特徴があり,また細菌培養検査は原因菌同定のゴールドスタンダードであるが感度が低く,またコンタミネーションによる偽陽性の頻度も高いのが特徴である.PJI の診断は依然として課題であり,正確で迅速なバイオマーカーの開発が期待されている. 近年,PJI のバイオマーカーとして,いくつかの物質が報告されている.関節液中の白血球数,多核白血球分画,白血球エステラーゼ,IL—6,IL—8,αディフェンシ(CRP)と並び,αディフェンシンがもっとも研究されている関節液中のバイオマーカーであり,αディフェンシンは,International Consensus Meeting 2018(ICM2018)のPJI 診断基準の小基準にも含まれている4).しかし,αディフェンシン検査はわが国では研究用に限られ,かつ検査キットが高価であるため一般の病院で使用することはむずかしいのが現状である.われわれはαディフェンシンにかわるバイオマーカーの検索を行ってきた. ミエロペルオキシダーゼ(MPO)は,好中球のアズール顆粒に含まれ,次亜塩素酸の生成を触媒することで病原微生物に対して殺菌的に作用する酵素である.近年,病原微生物に対し好中球が放出する好中球細胞外トラップ(NETs)という構造物が注目されており7),NETs 放出と同時に細胞内のMPO が放出されることがわかってきた8).これらの動態から,われわれはMPO にPJI の新規バイオマーカーとしての可能性を模索するにいたった.これまでに,PJI 診断におけるMPO 検査の診断精度を評価し,MPO がPJI 診断のための優れたバイオマーカーとなることを報告した9).本稿では,さらにαディフェンシンの測定を加え,関節液中のMPO とαディフェンシンを比較した.
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Ⅳ.治療総論
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別冊整形外科 81号, 112-115 (2022);
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抗菌薬含有セメントビーズは骨・関節感染症の局所制御ツールの一つである.しかし,同質で手頃なサイズのビーズを一度に大量に作製することは困難である.われわれはイソメディカルシステムズ社(東京)とセメントビーズ作製器(パールメーカー)を共同開発し2014 年10 月から使用している1~3).その使用経験とこれまでに骨・関節感染症に対して用いた17例の経過をあわせて報告する.
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別冊整形外科 81号, 116-119 (2022);
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骨・軟部組織感染症において,抗菌薬の組織移行性や細菌のバイオフィルム形成の問題から治療に難渋することがある.通常の抗菌薬の経静脈投与で感染コントロールが不良な難治性骨・軟部組織感染症に対して,圓尾らはcontinuous local antibiotics perfusion(CLAP)を提唱している.これは抗菌薬の局所投与により感染巣に高濃度の抗菌薬を分布させることを目的としており,骨組織感染症に対するintra-medullary antibiotics perfusion(iMAP),軟部組織感染症に対するintra-soft tissue antibioticsperfusion(iSAP)が含まれる1~4). 本稿では,骨髄炎に化膿性膝関節炎を併発した症例に対してiMAP,iSAP を併用し,感染の鎮静化が得られた症例を経験したので報告する.
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別冊整形外科 81号, 120-122 (2022);
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骨感染症は,現在においても治療に難渋することが多い.近年,骨感染症に対する抗菌薬の使用法が変化してきた.本稿では骨感染症における抗菌薬の使用法について解説する.
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Ⅴ.治療各論
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別冊整形外科 81号, 124-129 (2022);
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近年,化膿性脊椎炎は国内外において増加傾向にあり,しかも診断が遅延あるいは誤診しがちな疾患として注目を浴びている.欧米では10 万人あたり5~10 人の発生頻度であり,国内においても10 万人あたり2007 年は5.3 人であったが,2010 年には7.4 人に増加した1).2011年にYoshimoto らは国内における化膿性脊椎炎の103 例のうち65 歳以上の高齢患者の割合が43.7%で,時代とともにその割合は37.5%(1988~1993 年),44.4%(1994~1999 年),55.5%(2000~2005 年)と増加傾向にあったと報告している2).この理由には,MRI による画像診断の進歩と化膿性脊椎炎という概念の普及があげられる.さらに,インプラントを用いた脊椎手術の普及,抗菌薬の乱用による耐性菌の増加,人口の高齢化およびこれに伴う易感染性宿主の増加など医療環境の変化が考えられる. 化膿性脊椎炎は,早期に診断し適切な対応をとれば保存的治療で十分に治癒可能であるが,時に診断が遅れ,結果として感染の重篤化や遷延化,すなわち麻痺の発現や敗血症を惹起し治療に難渋することがある.化膿性脊椎炎の早期画像診断法としてMRI の有用性が確立されているが,発症後,超早期には感染を示唆する所見に乏しく,また信号変化が認められても特異性が低いうえ,罹患椎体の骨微細構造の変化をとらえることも不可能である.筆者らは骨微細構造画像が得られる多列器CT(multi-detecter row CT:MDCT)を用いて化膿性脊椎炎の初期から抗菌薬投与後治癒までの椎体の病態解析を行い,その有用性を報告している3). 化膿性脊椎炎の治療は局所の安静と感受性のある抗菌薬治療の保存的治療が原則であるが,中には局所の骨破壊が進行し神経麻痺の発症により手術になる.局所の骨破壊が進行増大すると,脊柱変形や麻痺を併発するため診療上大きな問題となる.骨破壊の実行役として破骨細胞は不可欠であり,破骨細胞が欠損したreceptor activatorof nuclear factor—κB ligand(RANKL)knockoutmouse では,炎症を伴うも骨破壊は起こらないことが知られている4).最近,骨粗鬆症のみならず関節リウマチ,転移性骨腫瘍の骨破壊はRANKL により分化・活性化した破骨細胞の関与が指摘され,抗RANKL 抗体治療が実践されている5).しかし,化膿性脊椎炎における骨破壊の機序はいまだ解明されていない.そこで,本研究では血行性化膿性脊椎炎に対する骨破壊機序をMDCT で解明し,抗RANKL 抗体の骨破壊抑制効果を検証する.
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別冊整形外科 81号, 130-135 (2022);
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化膿性膝関節炎は短期間に関節軟骨などを破壊し,膝関節機能を著しく低下させる病態であり,緊急に適切な対処が迫られる.治療としては,適切な抗菌薬の使用に加え,十分な滑膜切除と確実なドレナージが必須である.滑膜切除は従来,関節切開により行われたが,システマティックレビューでは関節鏡視下のほうが,関節切開よりもリスクが少なく,再手術率も少ないと報告され1),近年では関節鏡視下に行われることが多い.しかし,後方関節腔を含めた滑膜切除は,神経血管損傷の危険性もあり比較的困難な処置と考えられている2~5).加えて,排液のために関節腔に挿入するドレナージは通常,関節腔の前方部分に挿入されるため,重力のために後方に貯留しやすい関節液の排液には不利である6,7).また,前方のドレナージは膝蓋大腿関節や大腿脛骨関節に挾まれやすいために可動域訓練や歩行訓練は困難である場合もあり,関節拘縮の発生も危惧される. われわれは,通常の膝蓋下外側・内側ポータルに加え,近位内側,後内側,後外側ポータルを加えた5 ポータルより後方関節腔を含めた広範囲関節鏡視下デブリドマン(広範囲AS デブリ)を行い,後内側ポータルから後方中隔を貫通して後外側ポータルに連続する後方留置オープンドレナージ(後方ドレナージ)を行うことで効果的な排液が可能となり,ドレーン留置中も歩行可能で,かつ良好な成績を得ることができたので報告する.
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別冊整形外科 81号, 136-142 (2022);
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近年,高齢化および糖尿病や透析患者,ステロイドおよび免疫抑制剤使用患者の増加に伴い,化膿性脊椎炎は増加している1).このため,罹患者はcompromised hostが必然的に増加し,治療に難渋することが多い.治療としては抗菌薬に加えて安静が基本であるが,麻痺や不安定性を認めた場合では手術が必要となる.また,感染治癒後に脊柱変形や機能障害を呈することもあり,適切な治療が必要である.本稿では近年の文献をふまえ,化膿性脊椎炎に関して治療を中心に解説をしていく.
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別冊整形外科 81号, 143-146 (2022);
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化膿性脊椎炎の治療の基本は,抗菌薬による保存的治療である.保存的治療の指針に関する十分な研究がなされたとはいえないものの,Infectious Disease Society ofAmerica(IDSA)からガイドラインが示され1),その後も質の高い報告が続き,推奨される治療が確立されつつある.一方,適切な保存的治療には手術適応の理解も重要である.本稿の目的は,化膿性脊椎炎の保存的治療と手術適応に関して,近年の報告をレビューし,自験例の研究結果と合わせて,わが国における適切な化膿性脊椎炎の保存的治療を検討することである.
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別冊整形外科 81号, 147-152 (2022);
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化膿性脊椎炎の年間発生率は10 万人あたり0.5~2.2 人であり1),一般的に高齢者や慢性疾患併存患者に多く発生する.近年では糖尿病,血液透析,ステロイドやその他免疫抑制剤の使用,抗悪性腫瘍薬治療中などによる易感染性宿主が増えており,これに伴う化膿性脊椎炎の発生が増加している2). 化膿性脊椎炎の治療の基本は抗菌薬と安静・外固定による保存的治療である.しかし,初期の臨床症状は非特異的であるため診断が遅れ,整形外科へ紹介されたときにはすでに病状が進行している症例も多い.硬膜外膿瘍による神経障害が発生した症例や,脊柱の不安定性や後弯変形を生じた進行例には手術的治療が適応される.治療に難渋する症例も多く,抗菌薬が進歩した現在においても依然として生命を脅かす疾患であり,死亡率も高い.Rutges らのシステマティックレビューでは化膿性脊椎炎の死亡率を2~20%と報告している3). 手術的治療を要する患者の割合は文献によりばらつきがある.2017 年にKugimiya らは化膿性脊椎炎83 例を調査し,手術的治療を要したのは14 例(16.9%)であったと報告した4).2018 年のPola らの207 例の調査では,手術的治療を必要としたのは47 例(22.7%)であり,80.5%が後方法,19.5%は前後合併法であったと報告している5).さらに,2021 年のBlecher らの35 例の調査では10 例(28.6%)が手術的治療を要し,後方法が9 例,前方法が1 例であったとしている6). 本稿では化膿性脊椎炎に対する各種手術的治療の概説と,治療選択におけるアルゴリズムの1 例を紹介し,今後の手術的治療の課題について述べる.
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別冊整形外科 81号, 153-157 (2022);
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化膿性脊椎炎の治療において離床のタイミングに対する明確なエビデンスやガイドラインはない.本稿では当院で経験した症例の離床可能となった時期についてカルテを用いて後ろ向きに検討したので報告する.
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別冊整形外科 81号, 158-162 (2022);
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わが国では近年の高齢化に伴い基礎疾患を有した化膿性脊椎炎の顕著な増加がみられており,整形外科医として本疾患に遭遇する機会は少なくない.当科でもこの20年間に徐々に症例数が増加しており(図1),かつては若年や壮年期に多かった本疾患のピークは現在70 歳代と高齢化がみられている(図2). 本疾患は腰椎,次いで胸椎に多く発生する.局所の安静と適切な抗菌薬による保存的治療が原則であるが,保存的治療抵抗性で手術的治療を要する症例も必ず存在する.手術的治療はこれまでわが国では低侵襲手術として経皮的病巣掻爬ドレナージ1),標準術式として前方掻爬骨移植術が選択されてきた2).本疾患に対する脊椎インストゥルメンテーションは海外では古くから行われ3),わが国でも一部の施設から有用性が報告されてきた4~6).しかしわが国では感染例に対するインプラントの使用は原則禁忌とされていたため慎重な意見が多くを占め,広く普及するにはいたらなかった. 近年,本疾患に対する経皮的内視鏡下掻爬洗浄術7,8)の有用性が報告され,当科でも初期の保存的治療抵抗例における最小侵襲手術として頻用してきた9).呼称変更に伴い現在は全内視鏡下掻爬洗浄術として報告されている10).また本疾患に対する経皮的椎弓根スクリュー(percutaneouspedicle screw:PPS)を用いた低侵襲後方インストゥルメンテーションの有用性が報告され11),脊椎手術におけるPPS の普及に伴い,本疾患にも急速に適応が拡大されてきた. 本稿ではそれぞれの治療法における代表例を呈示しながら本疾患に対する現在の当科の治療体系を紹介する.
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別冊整形外科 81号, 163-166 (2022);
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化膿性脊椎炎は進行性の疾患であり,進行すると骨破壊や神経症状をきたす.そのため早期の診断と治療が必要である.従来は脊椎疾患の侵襲的な検査や手術後が多かったが,近年は菌血症を伴う全身感染症の一つのかたちとしての感染形態が増加している.治療は安静と抗菌薬投与による保存的治療が基本と考えられているが,確立した方法や明確な基準はないのが現状である. われわれは化膿性脊椎炎に対しては抗菌薬投与と床上安静を組み合わせた保存的治療を行っている.本稿では,われわれが治療を行った化膿性脊椎炎の臨床像と治療成績を検討したので報告する.
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別冊整形外科 81号, 167-173 (2022);
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感染性偽関節・骨髄炎は整形外科の分野において治療に難渋する領域である.患者にとっては社会的,経済的,肉体的,精神的な不利益や苦痛を長期にわたって強いられ,場合によっては感染した四肢を失う可能性もあり,重篤な病態である. 偽関節の原因として感染は主因の一つである.すべての感染性偽関節・骨髄炎で臨床所見が顕在化(皮膚の発赤や熱感,排膿,開放創など)するとは限らないため,偽関節の症例では感染の有無を必ず判断する必要がある1).感染性偽関節であった場合,骨癒合を得るために感染を制御する必要がある.かつては感染治療過程と骨癒合を得る過程を同時並行してすすめるという治療の考え方もあったが,現在は感染の制御を先行し,その次の段階で骨再建のための処置を追加する段階的治療戦略が主流である1). 感染性偽関節・骨髄炎の治療のゴールは,① 感染の制圧,② 骨癒合の獲得,③ 骨長・アライメントの再建,④ 運動機能の再獲得である2).上記ゴールに到達するためには的確な壊死組織のデブリドマンと組織再生に必要な良好な軟部組織条件を再獲得する必要がある.そこで良好な軟部組織を再獲得するためには創外固定を用いたdistraction histogenesis,もしくは遊離組織移植(Masquelet法を併用する方法と併用しない方法を含む)が選択される.局所感染を制御した後にデブリドマン(腐骨切除)後に生じた骨欠損部の再建を行うことが必要である.この骨欠損部の再建に関して,2000 年にMasqueletがinduced membrane technique(Masquelet 法)を報告した3).文節型の骨欠損に対する既存の再建法には,創外固定器を用いたbone transport 法(BT 法)と血管柄付き骨移植法とがあったが,血管柄付き骨移植法を行う場合に要求されるmicro surgery の技術を必要としないことやBT 法を行う場合に考慮が必要な創外固定器関連合併症の懸念がないことなどの利点も多く,Masquelet法は現在骨再建方法として広く普及している4,5).その一方で,BT 法は治療部位の安定性が得られやすいこと,また骨再建のためにdonor を必要とせず治療が患肢で完結するといった利点がある. 本稿では,感染性偽関節・骨髄炎に対するリング型創外固定器を用いたBT 法について,その適応や治療の特徴に関して症例とともに検討し報告する.
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別冊整形外科 81号, 174-179 (2022);
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感染性偽関節・骨髄炎に対する治療は,感染・壊死組織の徹底的な切除と骨・軟部組織再建の2 段階に分けられる.当科ではデブリドマン後に採取した深部組織の培養陰性化を感染鎮静化の指標としている.デブリドマンの結果,感染性偽関節・骨髄炎例では広範な骨欠損が生じることが多く,骨再建に血管柄付き骨移植が選択されることが多い.下肢長管骨の感染性偽関節・骨髄炎に対して当科で血管柄付き骨移植を施行した症例を調査し,さらに最近の新たな取り組みについて報告する.
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別冊整形外科 81号, 180-184 (2022);
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下腿は開放骨折部位としてもっとも頻度が高く,Gustilo 分類type ⅢB 下腿開放骨折は骨・軟部組織の広範な欠損を伴う高エネルギー外傷である.通常創汚染が高度であるために深部感染を生じる危険性が高い1,2).深部感染を防止するために,これまで種々の取り組みがなされてきた.しかし深部感染を起こす要因は特定されておらず,感染を避けるための方法も未確定のままである. 当科でGustilo 分類type ⅢB 下腿開放骨折感染の防止策を検討した結果,① 徹底したデブリドマンを行い初期治療時から陰圧閉鎖療法を使用すること,② 開放創のセカンドルックを必ず行い,原則初回手術から72時間以内に施行すること,③ 初回手術から14 日以内に軟部組織再建を完了させることの3 項目を治療原則とした. 本稿の目的は,治療原則策定前に治療したGustilo 分類type ⅢB 下腿開放骨折例と治療原則に則り治療したGustilo 分類type ⅢB 下腿開放骨折例を比較して,深部感染発症率の相違について検討することである.
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別冊整形外科 81号, 185-189 (2022);
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人工膝関節全置換術(TKA)および単顆型人工膝関節置換術(uni-compartmental knee arthroplasty:UKA)後の感染は0.5~1.4%とされ1,2),人工膝関節の手術数の増加とともに懸念すべき問題となっている.人工関節周囲感染(periprosthetic joint infection:PJI)の診断や治療方針に関して,近年は国際的なガイドラインなどによって診断や処置が確立されつつある.本稿ではPJI におけるインプラント温存に向けてのデブリドマンと洗浄(débridement, antibiotics and implant retention:DAIR)の手技と注意点,および自験例の成績について述べる.筆者がDAIR において強調したい点は,全周性滑膜切除を確実に達成すべく最初に後方滑膜切除を鏡視下に行うことである.
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別冊整形外科 81号, 190-196 (2022);
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人工関節周囲感染症(periprosthetic joint infection:PJI)は,原因菌がインプラントおよび周囲の骨・軟部組織に広範なバイオフィルムを形成することが多く,抗菌薬の全身投与のみでは治療が困難であることが多い.そのため,治療としてはインプラントの抜去や,感染巣のデブリドマンと骨欠損部の再建を伴う人工股関節再置換術が必要となることが多く,2013 年にはInfectious Disease Society for America(IDSA)より手術方法に関する指針がガイドラインとして出されている1).IDSA ガイドラインでは,インプラントの弛みの有無だけでなく,感染の発症時期や原因菌の種類などを考慮して手術方法を決定することが推奨され,初回人工関節置換術後の手術部位感染(SSI)に起因するPJI や急性血行性PJIが,洗浄デブリドマンとインプラントの温存(débridment, antibiotic and implant retention:DAIR)が適応である.一方で,人工関節が生体骨に強固に固着された患者では,インプラントを抜去する場合に広範囲な骨欠損を生じる可能性があり,慢性PJI でもインプラントの抜去が困難であるPJI においては,インプラント温存が選択されることも少なくない.一方で慢性PJI ではDAIR の成功率は低いことが報告されている2).従来行われるDAIR の問題点としては,セメントスペーサーに代表される局所の抗菌薬治療が行われない点があげられ,局所抗菌薬治療が併用されることでDAIR の治療成績の向上が期待される. DAIR 後に行われる全身抗菌薬の投与は,原因菌の最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration:MIC)を指標として行われることが一般的である.しかしPJI 例では,全身抗菌薬の投与によりMIC が達成されているはずの症例で,感染の再燃を認める症例を多く認める.これはインプラント周囲の感染巣に形成されたバイオフィルムが,抗菌薬や免疫細胞から内部の細菌を保護する作用を有し3),バイオフィルムの破壊に必要な濃度の抗菌薬[最小バイオフィルム破壊濃度(minimumbiofilm eradication concentration:MBEC)]が感染巣に到達されていないためである4).MBEC を達成するには,MIC より100 倍以上高濃度の抗菌薬が必要なため,抗菌薬の全身投与によりPJI の感染巣に存在するバイオフィルムを破壊することは困難であり4),そのため,慢性PJI の治療では,インプラントに弛みを認めない症例でも,インプラントの除去や骨・軟部組織の広範囲なデブリドマンが一般的に行われる1).外科的デブリドマンはもっとも強力にバイオフィルムの破壊が可能であるが,インプラント周囲だけでなく骨髄内や軟部組織内に広範に広がったバイオフィルムを完全に切除することは困難であり,広範囲な外科的デブリドマンは機能的な損失を大きくすることが懸念される.そのため組織の損失を最小限にしてバイオフィルムを破壊できるような局所抗菌薬治療がDAIR において有用であると期待できるが,DAIR の手技では抗菌薬含有スペーサーを留置するスペースがないため,DAIR において局所抗菌薬治療が行われることはほとんどない. 持続抗菌薬灌流(continuous local antibiotic perfusion:CLAP)は高濃度の抗菌薬を骨髄内(intra-medullaryantibiotics perfusion:iMAP)または軟部組織(intra-soft tissue antibiotics perfusion:iSAP)や関節内(intra-joint antibiotics perfusion:iJAP)に低流量で灌流する新規の治療法であり5~9),本法では持続的に高濃度の抗菌薬を感染巣に曝露させることで,バイオフィルムの破壊に必要なMBEC を局所で達成することが可能とされ4,5),PJI 治療で重要な局所でのバイオフィルムの破壊が可能となる可能性が示唆されている3,10,11). インプラント感染の治療において,局所の抗菌薬治療の重要性は以前から認識されている3).一方で,抗菌薬含有セメントに代表される局所抗菌薬治療は,DAIR に使用することは困難であり,DAIR では,抗菌薬は主に全身投与でのみ使用されてきた.本稿では,われわれがインプラント温存時に行っている術前検査や感染巣の範囲の同定,デブリドマンおよびDAIR 時のCLAP を用いた局所の抗菌薬治療について述べる.
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別冊整形外科 81号, 197-199 (2022);
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人工股関節全置換術(THA)および人工骨頭置換術(BHA)術後感染(人工股関節周囲感染)は難治化しやすく,重篤な術後合併症の一つである.インプラントを抜去し,抗菌薬含有セメントスペーサー留置(firststage)後,期間を空けて再置換術(second stage)を施行する二期的再置換術は,遅発性,慢性期感染に対する標準的な治療である.当科では以前より治療アルゴリズムを作成し,徐々に改良しながら治療にあたっている(図1)1).当科における術後成績,感染再燃に関連する因子を検討したので報告する.
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別冊整形外科 81号, 200-203 (2022);
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人工股関節全置換術(THA)は良好な長期成績が報告されており,変形性股関節症患者の疼痛を軽減し日常生活動作(ADL)を改善する1).わが国において,THA の手術件数は年々増加している.人生100 年時代を迎え,ますますTHA は長期成績の向上が望まれる.わが国におけるTHA 再置換術の原因をみると,無菌性弛み,脱臼や不安定性に次いで,感染が3番目にあげられている.人工関節周囲感染(periprosthetic joint infection:PJI)は深刻な合併症の一つであり,今後PJI の治療を行う機会は増加してくるものと考えられる. 当院ではPJI に対して,原則的に二期的再置換術を行っている.PJI に対する二期的再置換術は良好な成績が報告2)されている一方で,治療に時間を要することや,それに伴い治療後の歩行能力が落ちることなどが指摘されている3).インプラント抜去から二期的再置換までの待機期間を短縮することが一つの課題である.PJI の診断基準としてMusculoskeletal Infection Society(MSIS)の診断基準4)などが汎用されているが,感染鎮静化の診断基準や確固たる指標はない.このことがPJI の二期的再置換術において,診断を難渋させ,治療を長期化させている.当院で行ったPJI の治療成績と感染鎮静化の指標について検討した.
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別冊整形外科 81号, 204-210 (2022);
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内側コンパートメントに限局した変形性膝関節症(OA)に対し人工膝関節単顆置換術(UKA)は,高い患者満足度と関節機能改善効果から,近年ますます普及している1).UKA 後の人工関節周囲感染(periprostheticjoint infection:PJI)は人工膝関節全置換術(TKA)に対し頻度は低く,その治療法に対する報告は少ない2,3).UKA 後のPJI に対してUKA 型セメントスペーサーでは感染が鎮静化せず,再置換(revision)TKA 型セメントスペーサー挿入により感染を鎮静化させ,二期的再置換を行った症例を経験したので報告する.またPubMed でUKA,PJI の二つのキーワードで渉猟しえた文献について紹介する.
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別冊整形外科 81号, 211-214 (2022);
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悪性骨腫瘍切除後再建術にはさまざまな方法が行われている.もっとも一般的に行われている再建法は腫瘍用人工関節置換術である.手技的にも簡便であり,比較的治療成績が安定していることが要因と考える.ほかに,欧米で用いられる同種骨移植やわが国を中心に用いられる自家処理骨移植,そして血管柄付き腓骨移植や骨延長術などが行われている.自家処理骨移植には,当初オートクレーブ処理が行われたが,合併症が頻発し,治療成績もわるく,近年では行われなくなった.現在では放射線処理,Pasteur 処理,液体窒素処理などの方法が行われている.中でもわれわれは基本的に十分な骨強度を有する腫瘍骨に対して,液体窒素処理骨再建術を行ってきた. 悪性骨腫瘍手術において,術後感染はもっとも深刻な合併症の一つであるが,感染率は通常の整形外科手術より高率である.その要因として,化学療法に伴う免疫不全や腫瘍切除後の大きな死腔,軟部組織の状態不良や欠損,長時間の手術などがあげられる.中でも骨盤腫瘍手術では,感染率が30%以上にもなる1).脛骨近位部腫瘍手術においても感染率は15%以上と高率で,感染後の約40%は切断にいたると報告されている2).したがって感染の予防が非常に重要となる.インプラントに関する感染を予防するために,これまでさまざまな研究が報告されている3).中でも抗菌薬を加工した髄内釘4)や銀コーティングの人工関節5)などは,すでに臨床応用され良好な成績が報告されている.われわれも2005年からチタン製インプラントに対して,ヨードコーティングの研究に着手した.そしてその基礎研究の結果をもとに6),2008年から術後感染予防および治療を目的として,ヨードコーティングインプラントを使用した臨床研究を開始した. 本研究では,悪性骨腫瘍に対して腫瘍広範切除後にヨードコーティングインプラントを併用して液体窒素自家処理骨再建術を行った症例の治療成績を評価した.
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別冊整形外科 81号, 215-222 (2022);
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下肢に生じた悪性骨腫瘍に対するインプラントを用いた再建術は,腫瘍用インプラントを要することが多い.本術式の最大の合併症であるインプラント周囲感染は8~15%に発生するという報告もあり,通常の人工関節置換術と比較すると8~15 倍にも及ぶ1~6).腫瘍用人工関節周囲感染に対する手術的治療は温存可能な骨量が乏しいこと,母床骨や軟部組織の処置がむずかしいこと,セメントスペーサーの作製がむずかしいことなどから,治療に難渋することも少なくない.また,患者の全身状態に合わせて治療法を選択する必要があり,治療戦略には一定のコンセンサスが得られていない.本稿では,筆者らが経験した症例を提示し,その治療法の詳細を報告する.
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Ⅵ.その他,最近の話題
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別冊整形外科 81号, 224-228 (2022);
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われわれは,これまで整形外科領域におけるnextgeneration sequencing(NGS)による細菌感染症診断の臨床研究を行っており1~3),現在はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を中心に全自動NGS を用いてゲノム解析センターとして活動の幅を広げ,遺伝子解析の専門的知識と技術をもつ臨床検査技師が救急医療のみならず入院治療や手術を受ける患者が安心して医療を受けられるよう全診療科を支えている. 新型コロナウイルス感染症(COVID—19)は,時に重症かつパンデミックをもたらす突然変異により人類の脅威となる4).今後,日常的に変異株検査を行う必要性があり,新たな変異株をすみやかに検出できる体制を準備しておかなければならない.診療の最前線において,迅速に世界中のウイルスゲノムデータと照合させ,ウイルスがどのような性質のものかを把握し,治療するためには,全ゲノムを瞬時に解析する必要がある.現在共有されている地球規模のデータベースは,新型コロナウイルス(SARS—CoV—2)の診断や治療法の有効性に影響を及ぼす可能性のある変異検出を可能にしている.われわれは,NGS を用いた整形外科における臨床研究をもとに,昨年4 月より全自動機器によるRNA 抽出後,quantitative定量的逆転写PCR(RT—qPCR)を用いてウイルス量を測定し,全自動NGS によるCOVID—19 の解析を行っている.そして,ゲノム解析による感染経路の特定手法を構築し,COVID—19 におけるパンデミックに対峙してきた.本稿では,これまでわれわれが行ってきたRT—qPCR と全自動NGS を組み合わせたSARS—CoV—2迅速同定および解析成果について,ウイルス型別遺伝子量と疫学的特徴,当センターで経験した整形外科病棟院内発症時におけるSARS—CoV—2 の感染経路特定法に関して報告する.
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別冊整形外科 81号, 229-232 (2022);
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壊死性軟部組織感染症は壊死性筋膜炎やガス壊疽を包括した概念であり1),もっとも鑑別を要する疾患は蜂窩織炎とされる1~10).壊死性軟部組織感染症は致死的な疾患であり,早期診断と躊躇ない治療介入が必要とされている1~10).その早期診断ツールとして2004 年に提唱されたLaboratory Risk Indicator for Necrotizing Fasciitis(LRINEC)score2)は,採血結果のみで算出可能なうえ,簡便かつ廉価なこともあり臨床現場で広く普及している.一方で,その有効性については賛否両論がある2~9).本稿の目的は,自験例を用いて壊死性軟部組織感染症と重症蜂窩織炎との鑑別におけるLRINEC score の有用性について検討することである.