Pharma Medica
Volume 39, Issue 12, 2021
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特集【再生医療への期待~各疾患領域における現況と展望~】
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変形性膝関節症に対する細胞治療の進歩
39巻12号(2021);View Description Hide Description変形性膝関節症は関節軟骨が摩耗し,膝痛を生じる疾患で,国内に約2,500万人いると推定される1)が,現在まで,変形性膝関節症の進行を抑えて膝関節の構造を改善させる医薬品は開発されていない。私たちは,低侵襲かつ低コストで実施できる変形性膝関節症の再生医療を普及させることを目標とし,基礎研究から医師主導治験まで開発を進めてきた。本稿では,変形性膝関節症の背景と細胞治療の開発戦略,画像評価の進歩を通して,現状の課題や今後の展望について解説する。 -
神経の再生
39巻12号(2021);View Description Hide Description本稿では,神経の再生について,まず末梢神経と中枢神経の違いを述べ,次に中枢神経が自然再生しない理由を述べつつ,治療への効果的なアプローチとして幹細胞治療について言及する。 -
心不全に対する再生医療の現状と展望~ 組織移植および疾患特異的iPS細胞を用いた病態解明~
39巻12号(2021);View Description Hide Description重症心不全治療として最も重要な治療法である心臓移植は,きわめて深刻なドナー不足であり,新しい移植法案が可決されたものの,欧米レベルの汎用性の高い治療法としての普及は困難が予想される。一方,左室補助人工心臓(left ventricular assist device:LVAD)については,日本では移植待機期間が長期であるため,感染症や脳血栓などの合併症が成績に大きく影響している。このような状況を克服するため,世界的に再生医療への期待が高まっており,心臓移植やLVADに代わる新しい治療法の開発が急務である。 このような現状のなか,重症心不全においては,細胞移植,組織移植,また再生医療的手法を用いた再生創薬の研究が進み,臨床応用化が進んでいる。本稿では,これまでの筋芽細胞シートのトランスレーショナルリサーチとともに,iPS細胞由来心筋細胞シートを用いた心不全治療の試み,さらに疾患特異的iPS細胞に関して紹介し,再生医療技術を用いた新しい心不全治療を概説する。 -
難治性虚血性潰瘍に対する血管再生医療
39巻12号(2021);View Description Hide Description形成外科・皮膚科領域で診療する創傷のなかで,最も治らない創傷が難治性虚血性潰瘍である。動脈硬化により下肢から足趾への血流が不十分になると,潰瘍が生じて難治性となる。糖尿病や閉塞性動脈硬化症による足潰瘍患者は,食生活や生活習慣などの変化,高齢化に伴い増加の一途を辿っている。難治性虚血性潰瘍の治療で重要なことの1つは,創部の血流確保である。既存の治療として薬物療法,カテーテル治療による血行再建術やバイパス手術などが存在するが,これらを行っても十分な血流改善が得らない場合は四肢切断に至る例もある。特に重症下肢虚血患者では,診断後1年以内に20%以上が大切断に至り,切断後のquality of life(QOL)低下もさることながら,5年生存率20%と生命予後も悪い1)。潰瘍が悪化し,切断となる場合の予後はきわめて悪く,患者のQOL向上,生活困難性・医療費負担の軽減,早期の社会復帰のため,難治性潰瘍を改善し,切断を防ぐ有効な治療法の開発が切望されている。下肢の切断を余儀なくされる難治性虚血性潰瘍患者に対する新たな血管組織再生治療法として,血管内皮前駆細胞を用いた治療が注目されている。 -
消化管再生医療の最新について
39巻12号(2021);View Description Hide Description消化管は体腔内の器官,すなわち内臓でありながら,生体内最大の表面積で外界と接する臓器である。腸管上皮は,その管腔を隙間なく覆う単層の細胞から構成される組織であり,その役割は,外界と接する物理的防御壁としてだけでなく,摂取した食物の消化・運搬・吸収といった栄養吸収における門戸としての役割,さらには消化管ホルモン分泌や腸内細菌叢を構成する微生物との相互作用,免疫応答といった数多くの重要な機能を果たしている。広範な腸管切除後に生じる短腸症候群など,消化管の臓器としての機能欠損は,生涯にわたる不可逆的な機能損失により長期予後を悪化させる。新規クラスの薬剤も認可されつつあるが,重症の短腸症候群に対する唯一の根本的治療は小腸移植である。しかし,ドナー不足や強い拒絶反応の問題もあり,移植の実施は少数にとどまっている。このような現状にあって,小腸移植に代わる治療法として根本的な消化管再生医療の開発が期待されてきた。しかしながら,消化管という複雑かつ多機能を有する臓器の再生は非常に困難であり,今までのところ臨床使用可能な技術の確立には至っていない。本稿では,最近目覚ましい発展をみせる消化管再生医療の動向について,筆者らが取り組む炎症性腸疾患に対する消化管上皮幹細胞移植療法を含む,さまざまな最新の研究について概説する。 -
肝臓領域における細胞を用いた再生医療の将来展望
39巻12号(2021);View Description Hide Description本稿では,肝疾患領域の細胞を用いた再生医療の現状について概説する。2000年から基礎研究成果を基盤に,2003年から開始された肝硬変症に対する自己骨髄細胞投与療法,その後,血管内皮細胞投与療法,さらに自己脂肪組織細胞投与療法が実施されてきた。また,英国エジンバラ大学のForbesらは,肝硬変症に対して自己マクロファージ細胞投与療法を実施し,一方でSokalらは,代償性肝硬変症から急激に肝不全状態になるacute on chronic liver failure(ACLF)に対する,肝臓から採取した肝前駆細胞の投与療法を実施している。さらに,自己間葉系幹細胞を用いた治験も実施されてきた。日本では2017年より他家間葉系幹細胞投与療法の肝硬変症に対する治験を進めてきた(Phase Ⅰ,Ⅱ)。また,2019年よりES細胞由来の肝臓様細胞を門脈より投与する先天性の尿素酵素欠損症に対する医師主導治験が進んでいる。本稿では,現在進んでいる細胞を用いた肝臓疾患に対する細胞を用いた再生療法を俯瞰し紹介する(図1)。 -
眼科領域の再生医療
39巻12号(2021);View Description Hide Description近年,培養細胞などを用いる新しい治療法として再生医療が注目を浴びている。低分子化合物を代表とする従来用いられてきた医薬品や従来の手術治療とは異なる作用機序によって,今まで治療が困難であった疾患の治療が可能となることに期待がかかっている。本稿では,われわれが眼科領域,とりわけ難治性角膜疾患に対して開発している再生医療技術について紹介する。 -
口腔
39巻12号(2021);View Description Hide Description歯科では古くから再生医療が実施されてきており,古くは第一次世界大戦後の帰還兵の歯周炎に対して自家骨移植が実施されている。約100年前より実施されてきている自家骨移植は依然としてゴールドスタンダードとされ,21世紀になった今でも臨床で実施されているが,近年ではバイオマテリアルを用いた再生療法や,細胞を用いた再生医療も歯科では盛んに研究され,その一部は臨床応用されている。本稿では,特に細胞を用いた再生療法に関して解説させていただく。 -
先天代謝異常
39巻12号(2021);View Description Hide Description先天代謝異常のうち尿素回路異常は,出生直後から高アンモニア血症を呈する場合があり,迅速な治療が必要になる。本疾患では,正常な機能である尿素サイクルの一部に先天的酵素欠損があり,蛋白質の代謝産物であるアンモニアが解毒・排泄されないため,アンモニアの体内蓄積を生じる。アンモニアには神経毒性があり,その結果,嘔吐,意識障害,痙攣,呼吸障害などが起きる。また,頭蓋内出血の危険もある。血中アンモニア濃度(正常参考値:40~85μg/dL)が500μg/dLを超えると致死的であり,この濃度に至らなくても不可逆的な中枢神経脳障害を起こすことがあり,その結果,精神発達遅滞などの後遺症を起こす。高アンモニア血症は不可逆的な中枢障害を起こし,精神発達遅滞が生じるため,成長を待つ間もなく,アンモニア除去を行う必要がある。しかし,侵襲的治療(血液濾過透析,肝移植)は新生児に負荷が大きい。本疾患に対する有効な根治療法は肝移植手術である。しかし,ドナー不在や低体重,循環系の合併症により肝移植が困難な症例が存在する。低体重の症例では,移植片が大きすぎるため通常の生体肝移植手術が困難な場合がある。そのような理由から,われわれは,ヒト胚性幹細胞(ES細胞)由来肝細胞を移植することにより,新生児期に発症した患児の血中アンモニア値を安定させ,新生児期を乗り切り,肝移植へつなぐことができると考えた。 -
がんに対する遺伝子改変免疫細胞療法~ CAR-T細胞療法を中心に~
39巻12号(2021);View Description Hide Description新しいがん免疫療法として注目されている遺伝子改変T細胞療法(genemodifiedT cell therapy)は,キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor:CAR)-T細胞療法1)とT細胞受容体(Tcell receptor:TCR)-T細胞療法に分けられる。これらは,T細胞の腫瘍ターゲティング効率を高めるためのテクノロジーで,がん細胞を認識するCARあるいはTCRを発現させたT細胞を体外増幅し,輸注するという免疫細胞療法である。また最近は,T細胞だけでなく,NK細胞を用いたCAR-NK細胞療法の開発も進んできている2)。 特に, 急性リンパ芽球性白血病(acute lymphoblastic leukemia:ALL),悪性リンパ腫などのB細胞性腫瘍に対し,CD19抗原(B細胞の分化抗原)を認識するCAR-T細胞療法は優れた治療効果を発揮し3)-5),すでに細胞製剤として認可されている。 さらに,ゲノム編集技術の応用も活発となってきている。1つは,T細胞のTCRをゲノム編集により破壊して移植片対宿主病(graft-versus-hostdisease:GVHD)を防ぎ,他人のT細胞(同種T細胞)を用いることを可能にした方法(ユニバーサルCAR-T細胞療法と呼ばれる)である6)。この場合,iPS細胞をベースとした方法が期待され,海外では臨床試験も開始されている。また,CD19-CAR-T細胞療法の長期的有効性を高めるために,ゲノム編集技術によりCAR遺伝子をゲノムの特定領域に挿入する方法の開発が行われている7)。さらには,CAR-TやTCR-Tなどの遺伝子改変T細胞療法で,投与する遺伝子改変T細胞のPD-1遺伝子をゲノム編集技術により破壊し8),免疫チェックポイント阻害薬(抗体医薬)の新しいがん免疫療法として注目されている遺伝子改変T細胞療法(genemodifiedT cell therapy)は,キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor:CAR)-T細胞療法1)とT細胞受容体(Tcell receptor:TCR)-T細胞療法に分けられる。これらは,T細胞の腫瘍ターゲティング効率を高めるためのテクノロジーで,がん細胞を認識するCARあるいはTCRを発現させたT細胞を体外増幅し,輸注するという免疫細胞療法である。また最近は,T細胞だけでなく,NK細胞を用いたCAR-NK細胞療法の開発も進んできている2)。 特に, 急性リンパ芽球性白血病(acute lymphoblastic leukemia:ALL),悪性リンパ腫などのB細胞性腫瘍に対し,CD19抗原(B細胞の分化抗原)を認識するCAR-T細胞療法は優れた治療効果を発揮し3)-5),すでに細胞製剤として認可されている。 さらに,ゲノム編集技術の応用も活発となってきている。1つは,T細胞のTCRをゲノム編集により破壊して移植片対宿主病(graft-versus-hostdisease:GVHD)を防ぎ,他人のT細胞(同種T細胞)を用いることを可能にした方法(ユニバーサルCAR-T細胞療法と呼ばれる)である6)。この場合,iPS細胞をベースとした方法が期待され,海外では臨床試験も開始されている。また,CD19-CAR-T細胞療法の長期的有効性を高めるために,ゲノム編集技術によりCAR遺伝子をゲノムの特定領域に挿入する方法の開発が行われている7)。さらには,CAR-TやTCR-Tなどの遺伝子改変T細胞療法で,投与する遺伝子改変T細胞のPD-1遺伝子をゲノム編集技術により破壊し8),免疫チェックポイント阻害薬(抗体医薬)の場合に懸念される全身性の副作用を回避する工夫が試みられている。この方法は固形がんの場合に有用と思われる。 本稿では,CAR-T細胞療法を中心に,最近の研究開発の動向について2,3の話題を紹介する。
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連載
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- 【Medical Scope】
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遅発性ジスキネジア
39巻12号(2021);View Description Hide Description本稿では,まず,遅発性ジスキネジア(tardive dyskinesia:TD)の定義,分類,診断基準と重症度評価について解説する。最近のメタアナリシスでは,第2世代抗精神病薬は第1世代抗精神病薬と比べてTDの有病率と発生率が低いこと,クロザピンへの切り替えによりTDが改善することが示されている。抗精神病薬は用量依存的にTDを惹起するかどうかについては,最近のレビューでは結論づけられないとしている。TDにおける危険因子として,高齢,女性,人種,遺伝子多型,気分障害などがある。TDの発現機序はいまだ解明されていないが,二大仮説であるドパミン受容体過感受性仮説と酸化ストレス仮説を中心に説明する。 - 【インタビュー】
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筋萎縮性側索硬化症診療における新たな展開
39巻12号(2021);View Description Hide Description筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis;ALS)では、下位運動ニューロンが障害を受け四肢の筋力低下から呼吸困難に至る。根本的な治療法が確立しておらず、進行の速さと不可逆性から厳しい予後を呈する疾患である。ただ近年では家族性ALS において原因遺伝子の同定が急速に進み、遺伝子変異をターゲットとした治療薬の開発が臨床応用に近づきつつある。同時に、病態や表現型の評価を可能にする各種マーカーや予後予測因子の探索も活発に行われている。そこで名古屋大学神経内科学の勝野雅央教授に、ALS 診療における現状や今後の展望、また研究ベースでの実用化が進む遺伝子診断への対応についてご解説いただいた。
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投稿
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PET薬剤の新たな投与法に関する実用性の検討
39巻12号(2021);View Description Hide Description【目的】PET検査に用いるデリバリーFDG製剤の投与法について,自動投与装置を用いない方法としてシリンジポンプとデリバリーFDG輸送容器の活用を検討する。 【方法】デリバリーFDG製剤を用い,疑似投与系の造成を行い,漏洩線量と投与率を測定した。 【結果】製剤液量について1mL,5mL,9mLで検討し,1mL,5mLの条件ではすべてのサンプルで90%を超える投与率であった。しかし,9mLの条件の一部で90%を下回る投与率のサンプルが確認された。その場合でも生理食塩液15mLに加えエアー10mL送る形式,ならびに生理食塩液35mLのみを送る形式にすると,投与率は95%以上となった。また,漏洩線量に関してもシリンジシールド使用時と比較し,最大97%の低減となった。 【結論】シリンジポンプを利用したデリバリーFDG製剤の投与は,実用に耐えうることがわかった。
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その他
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- 【EBM HOT FLASH】
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EMPEROR-Reduced試験
39巻12号(2021);View Description Hide DescriptionEMPEROR-Reduced(EmpagliflozinOutcome Trial in Patients withChronic Heart Failure and a ReducedEjection Fraction)試験は,標準的心筋保護薬による治療を受けている収縮機能の低下した慢性心不全(heartf a i l u r e w i t h r e d u c e d e j e c t i o nfraction:HFrEF)患者において,2型糖尿病の有無にかかわらず,SGLT2阻害薬の追加が,心血管死や心不全悪化リスクを有意に抑制するかどうかを検証した大規模ランダム化試験である1)。先行する同様のデザインのDAPA-HF試験とのメタ解析論文もほぼ同時期に発表となった2)。これら一連のエビデンスから,アンジオテンシン変換酵素阻害薬/アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬,β遮断薬,非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬という従来の心不全治療薬の3つの柱に,SGLT2阻害薬が新たな柱として選択可能な薬剤クラスであることを証明した重要な試験である。
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