最新医学
Volume 58, Issue 9, 2003
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特集 【肝疾患の分子生物学— 治療への応用—】
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アプローチ
58巻9号(2003);View Description Hide Description遺伝子組み換え技術は,肝炎ウイルスの遺伝子情報の解明に多大な貢献をした.ゲノムの網羅的解析やDNA 配列多型の解析が比較的容易にできるようになり,肝炎や肝細胞がん発生の分子的機序の解明に有力な手段を与えることになった.病的状態や治療反応に多数の遺伝子がどのようにかかわっているか,いまだ不明な点が多いが,肝再生や肝がんに関してはさまざまな新知見が得られており,今後の臨床応用が期待されている.
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B型肝炎
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HBV 遺伝子型と治療
58巻9号(2003);View Description Hide DescriptionB型肝炎ウイルス(HBV)は,A型からH型の8つの遺伝子型に分類されている.日本においては,主に遺伝子型Bと遺伝子型Cが分布しており,それぞれ異なった臨床的な特徴を持つ.遺伝子型Bは遺伝子型Cに比較するとHBe 抗原の陽性率が低く,より早期にseroconversion すると言われている.またIFN に関しても,遺伝子型BのほうがCに比較して感受性が高い.ただし,遺伝子型Bは若年でseroconversionするため,治療によりseroconversion を妨げることもあり,特に若年者に対する治療に関しては遺伝子型を考慮に入れて慎重に適応を決定する必要がある. -
ラミブジン治療と YMDD 変異
58巻9号(2003);View Description Hide Descriptionラミブジンは大きな副作用もなく,抗ウイルス効果も強い薬剤であるが,連用によりYMDD モチーフに変異を生じ,耐性が出現する.高感度な検出系を用いると,耐性ウイルスはラミブジン投与前や投与後1〜3ヵ月といった早期から存在する例があるが,必ずしもブレークスルーには至らないことが判明した.耐性ウイルスの増殖に関与する他の要因を見つけ,耐性出現の抑制につながる方法を探すことが今後の課題である. -
B型慢性肝炎に対する HB ワクチン治療
58巻9号(2003);View Description Hide DescriptionB型慢性肝炎の慢性化機構の1つとして,樹状細胞機能などの宿主の不十分な免疫応答が挙げられる.HB ワクチン療法には樹状細胞機能増強,CD4 陽性リンパ球誘導能があり,HBe 抗原の陰性化を高率に誘導する.抗ウイルス療法のみではHBV排除に限界がある.HBs 抗原パルス樹状細胞によるワクチン療法も動物レベルで成功した.今後ヒトへの応用により,B型慢性肝炎におけるワクチン療法の開発が期待される.
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C型肝炎
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HCV の遺伝子構造と抗ウイルス治療
58巻9号(2003);View Description Hide DescriptionNS5A におけるinterferon sensitivity determing region(ISDR:aa.2209〜2248)は,HCV の遺伝子解析によりIFN の感受性を決定する領域として同定された.臨床上IFN 治療効果の予測に有用であるが,ISDR の機能に関してはいまだ不明な点も多い.近年,培養細胞においてHCV 増殖を再現するHCV replicon system が開発された.このシステムを用いることにより,NS5A を含むHCV タンパク質の機能解析や薬剤耐性機序の解明など,HCV 研究が急速に進展しつつある. -
インターフェロン治療効果を規定する宿主因子
58巻9号(2003);View Description Hide Description十人十色.人には個性(or 個体差)がある.一目見れば分かる顕在化した個体差のほかに,遺伝子に刻み込まれてはいるが通常は表に出ない潜在的個体差もある.特定の疾患への罹りやすさや,特定の薬剤への感受性の高低の背景には,この遺伝的多型性(genetic polymorphism)の関与が多少ともある.C型肝炎のIFN 治療において,幸せなレスポンダーと不幸なノンレスポンダーを分かつ「運命の遺伝子」は,果たして存在するのだろうか? -
インターフェロン治療効果と樹状細胞機能
58巻9号(2003);View Description Hide DescriptionC型慢性肝炎患者を対象にして,末梢血樹状細胞サブセットの肝炎の病態や抗ウイルス療法における意義を検討した.患者ではミエロイド系樹状細胞,リンパ球系樹状細胞ともに非感染者に比べて減少していた.またC型肝炎患者のミエロイド系樹状細胞はTh1 誘導能が低下しており,IFNα反応性に起こるTh1 誘導能の亢進や,MICA/B発現誘導を介したNK 細胞活性化能の亢進が認められず,IFNαに対する反応性が低下していた.IFNαとリバビリン併用により,ミエロイド系樹状細胞のTh1 誘導能は回復した.以上より,C型慢性肝炎においてIFNα抵抗性やIFNα治療効果発現機序に樹状細胞システムが深く関与していることが明らかになった. -
C型肝炎ウイルス感染の分子機構と臨床への応用
58巻9号(2003);View Description Hide DescriptionC型肝炎ウイルス(HCV)を効率良く増殖できる細胞培養系やチンパンジー以外の実験動物は,現時点では存在しない.我々はHCV の感染機構をin vitro で評価するため,HCV エンベロープタンパク質による細胞融合アッセイ系とエンベロープタンパク質を被ったシュードタイプウイルスを作製した.その結果,HCV の2つのエンベロープタンパク質が細胞表面のタンパク質受容体を認識し,エンドサイトーシスによって細胞内へ侵入することが示唆された.さらに,HCV のエンベロープタンパク質のCD81 との結合や細胞融合活性を阻害できるヒト型抗HCV エンベロープ抗体を得ることができた.
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再生
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HGF を用いた肝再生療法
58巻9号(2003);View Description Hide DescriptionHGF は,肝細胞の増殖を促進する因子として劇症肝炎患者血漿から単離・精製された生理活性物質である.最近,HGF は成熟肝細胞のみならずoval cell に代表される肝前駆細胞に対しても増殖促進作用を有することが明らかとなった.また,HGFが肝芽細胞や骨髄細胞の肝細胞分化に必須の因子であることも報告されており,HGF は肝再生時に肝細胞の増殖と分化の両方に影響を与えていることが考えられる.一方,HGF は抗アポトーシス作用,抗線維化作用など多くの生理活性をも有しており,それらの生理活性から劇症肝炎,成人生体部分肝移植および肝硬変を対象疾患として遺伝子組み換え型ヒトHGF の臨床応用が計画されている. -
遺伝子導入による肝硬変の治療
58巻9号(2003);View Description Hide Descriptionこれまで高度肝硬変からの臓器再生は困難であると認識されてきたが,近年原疾患の治療により肝の線維化も改善することが臨床例で報告され,肝硬変も可逆的な疾患であるという認識がなされつつある.教室では,非代償性高度肝硬変患者の救済を目的として,これまでHGF およびMMP の遺伝子導入による肝硬変治療の開発に取り組んでおり,現在,臨床研究の実施準備を進めている. -
肝幹細胞による再生医療
58巻9号(2003);View Description Hide Description幹細胞は大きく胚性幹細胞(ES 細胞),成人幹細胞に分けられる.最近になり,成人幹細胞の中でも骨髄細胞,臍帯血細胞に存在する幹細胞,肝幹細胞が,次世代の肝臓の再生療法の細胞源となる可能性が示されてきた.循環器領域においては,自己骨髄細胞を用いた血管再生療法は臨床応用がすでに行われている.ここでは,肝幹細胞の研究の現状と動向,また次世代の骨髄細胞を用いた肝臓再生療法の臨床応用への課題について述べる.
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肝がん
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レチノイドによる肝発がん予防
58巻9号(2003);View Description Hide Descriptionレチノイドは,がん細胞に分化や細胞死を誘導する.肝がん細胞は核内受容体(RXRα)のリン酸化によりレチノイド不応性に陥っている.非環式レチノイドはRXRαの機能を回復させる機能も併せ持ち,下流の遺伝子発現を介して肝がん細胞に細胞死を誘導し,肝内に潜在するがん細胞クローンを除去する(clonal deletion).このため,短期間の投与により年余にわたる発がん予防効果が得られる.将来はIFN との併用による相乗効果も期待される. -
鉄代謝と肝がん予防
58巻9号(2003);View Description Hide Description鉄イオンは人体で最も多い遷移金属で,2価と3価の状態を行き来する際に活性酸素種(ROS)やフリーラジカルを産生する.ROS やフリーラジカルは,脂質過酸化やタンパク質・DNA 分子の修飾を介して組織障害や発がんに関与する.C型慢性肝炎では,肝細胞に鉄が沈着していること,IFN など他治療に抵抗性の症例で,瀉血療法がALT の低下や肝線維化を改善することが明らかになってきている.瀉血の持続は,肝内炎症の沈静化ばかりでなく,将来の肝がん発生のリスクを低下させる可能性も示唆している. -
先天免疫による肝がん治療の可能性
58巻9号(2003);View Description Hide Description肝細胞がんの約50% はMHC クラスⅠ関連分子であるMICA/B を発現しており,その発現がNK 細胞感受性を規定している.レチノイドはMICA/B の発現を亢進させ,肝がんのNK 感受性を促進する.また,α-ガラクトシルセラミドは樹状細胞のCD1d によりNKT 細胞に提示され,NKT 細胞を介してNK 細胞を活性化する.先天免疫に関与する細胞の機能修飾は,微小な肝がんに対する治療法を開発するうえで重要な戦略である.
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【エッセー】
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- 生活習慣のはなし(17)
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【対 談】
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【トピックス】
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【今月の略語】
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