最新医学
Volume 60, Issue 6, 2005
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特集 【消化管疾患の診断と治療 −最近の進歩−】
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アプローチ
60巻6号(2005);View Description Hide Description我が国ではHelicobacter pylori 感染がまん延していたこともあって,世界でも類を見ないほど上部消化管疾患が多かった.このため,我が国では内視鏡を中心とする診断・治療法が特に進歩を遂げてきた.しかし最近はH. pylori 感染者の減少によって上部消化管疾患が減少し,逆に大腸癌や炎症性腸疾患などが増加傾向にある.このためダブルバルーン内視鏡,カプセル内視鏡,炎症性腸疾患に対する抗サイトカイン療法や白血球除去療法など,今までとは異なった診断・治療法が要求されるようになってきた.こうした疾病構造の変化は「疾病の欧米化」とも言えるものであり,したがってその診断・治療法については欧米で発展してきたものも多い.今後は,こうした領域においても我が国発信の方法を開発していくことが急務である.
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内視鏡診断の進歩
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上部消化管・拡大内視鏡診断
60巻6号(2005);View Description Hide Description大腸拡大内視鏡は,腫瘍性病変のピット診断の有用性で普及していった.近年,上部消化管拡大内視鏡も著しい発展を見せている.その拡大診断のポイントは,粘膜内毛細血管のパターン診断である. Helicobacter pylori 非感染の正常胃粘膜, H. pylori感染の胃炎粘膜,粘膜内胃癌と非癌の境界における毛細血管パターンの違いによる診断,食道扁平上皮の下端に存在する乳頭内血管のパターン診断による癌・深達度診断などである.これらの最新の知見を概説した. -
超拡大内視鏡による生体内細胞診断
60巻6号(2005);View Description Hide Description「生体内で生きている消化管粘膜上皮を細胞レベルで観察したい」という願いから,1996 年より産学共同研究による超拡大内視鏡の開発に着手した.その結果これまでに2系統の器械の開発に至った.その1つは“Endo-Microscopy”であり,レーザー共焦点顕微鏡を応用したカテーテル型プローブで「無染色」での細胞レベルの画像の獲得に成功した.これにより,ピットのみならず細胞や核などの観察が可能となった.もう1つは“Endo-Cytoscopy”であり,通常の光学レンズ系による超拡大内視鏡でContact endoscopy の原理に基づきカテーテル型プローブを作成した(多施設共同提案).このEndo-Cytoscopy は「染色下」に施行する.メチレンブルー染色で核のみならず核小体の観察も行え,細胞診と同様の高解像の明瞭な画像での観察が可能であった.両技術ともにそれぞれの特色を有しており,今後のさらなる展開が期待される.いずれにしても現在,生きた癌細胞の生体内での内視鏡観察はすでに可能な時代となった. -
カプセル内視鏡
60巻6号(2005);View Description Hide Description近年まで小腸疾患の診断は,臓器の特徴と小腸内視鏡法の問題から他の消化管診断に比して出遅れた感があったが,2000 年にカプセル内視鏡が登場し,これらの問題は解決しつつある.カプセル内視鏡の検査自体は簡便で,カプセルを嚥下した後,1秒間に2枚の内視鏡写真を撮りながら腸蠕動で進行し,約9時間の撮影後に画像解析する.カプセル内視鏡の最も良い適応は原因不明の消化管出血で,診断率も他の画像診断と比較して優れており,今後はさらに進歩する可能性が高い. -
ダブルバルーン内視鏡を用いた小腸内視鏡検査
60巻6号(2005);View Description Hide Description山本らによって開発されたダブルバルーン内視鏡は,全小腸のリアルタイムでの内視鏡観察を可能とした.オーバーチューブ先端を支点とした安定した操作性,病変部における選択的造影,吻合した術後腸管への選択的挿入などの優れた特徴があり,小腸疾患の診断のみならず止血,ポリペクトミー,内視鏡的拡張など治療面での有用性も明らかとなってきている.今後,カプセル内視鏡とともに小腸疾患の診断と治療に大いに貢献するものと期待される.
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生理機能診断
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食道pH モニタリング —Bravo pH モニタリングを中心に—
60巻6号(2005);View Description Hide Description24 時間食道pH モニタリングは胃食道逆流症(GERD)の診断と治療に有用な検査であるが,従来の有線式の検査は負担も大きく,日常生活での胃食道逆流(GER)を感知するのには適切ではなかった.最近無線式のカプセル型の食道pH モニタリングが開発され,仕事や運動時などほとんどすべての日常生活においてのGER を検査できるようになった.まだ問題点もあるが,GERD 診断の強力な武器になる可能性が考えられる. -
安定同位元素(13C)を用いた呼気試験
60巻6号(2005);View Description Hide Description安定同位元素13C を用いた呼気試験は,胃排出能,消化管通過時間,脂肪の消化吸収機能などの評価に応用されている.いずれも簡便で安全な検査であり,日常診療においても施行可能である.胃排出能検査では,13C-acetate を用いた90 分法による標準検査法が提唱されており,RI 法に代わりうる検査法として期待されている.しかし,その他の検査は各施設により検査方法が異なっており,今後標準的な検査法の確立が待たれるところである.
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放射線診断
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Multi detector-row CT,Virtual CT,PET
60巻6号(2005);View Description Hide DescriptionCT における最近の進歩は,検出器の多列化による高速・高画質化である.消化管領域では高精細の冠状断像や仮想内視鏡像が簡単に得られるようになった.一方PET では,PET-CT の登場によるCT とPET の融合画像が最新の話題である.本稿では,CT とPET の最近の動向を簡単に述べ,次に消化管疾患への応用について概説する.最後にPET とCT の融合画像を用いた新しいnavigation image への応用も簡単に紹介する.
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遺伝子診断
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遺伝性消化管疾患の遺伝子診断の現状 —消化管ポリポーシスを中心に—
60巻6号(2005);View Description Hide Description遺伝性消化管ポリポーシスと遺伝性非ポリポーシス大腸癌は,代表的な遺伝性疾患である.家族性大腸腺腫症ではAPC 遺伝子に加えてMYH 遺伝子が新たな原因遺伝子として同定されている.これに対し,遺伝性非ポリポーシス大腸癌ではミスマッチ修復遺伝子が原因とされる.一方,過誤腫性ポリポーシスでは細胞増殖やアポトーシス関連のシグナル伝達タンパク質を規定する遺伝子変異の存在が明らかとなっている.今後,疾患概念の再構築や遺伝子治療を念頭に置いたさらなる遺伝子解析が必要である.
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内視鏡治療
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内視鏡的粘膜切除術の最近の動向
60巻6号(2005);View Description Hide Description我が国における内視鏡的粘膜切除術は現在までさまざまな方法が開発されており,現在もさらに安全かつ簡便な方法を求めて変化している.本稿では,内視鏡的粘膜切除術の皮切りとも言えるポリープ切除から現在までの手技の変化と特徴,問題点のほか,実際に手技を行ううえでのコツを述べた.新しいナイフやスネア,スコープなどの処置具も紹介する.また,現段階で当院において行われている新しい治療用内視鏡(R-scope)を用いた手技にも触れた. -
消化管狭窄に対する内視鏡治療 —バルーン拡張術,ステント療法ほか—
60巻6号(2005);View Description Hide Description消化管狭窄の非手術的治療には,バルーン,ブジー法とステント法がある.前者は主に良性狭窄での手術に代わる低侵襲治療として,後者は主に癌性狭窄での対症療法として使われる.ステントはself-expandable metallic stent(SEMS)により容易になった.経内視鏡的に挿入できるthrough the scope(TTS)タイプのものが開発され便利になってきているが,日本では承認が遅れぎみである.
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炎症性腸疾患治療
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クローン病に対する抗サイトカイン療法
60巻6号(2005);View Description Hide Descriptionクローン病の病態には,主に粘膜固有層の単球・マクロファージが作るIL-1,IL-6,TNFα,IFNγ といった炎症性サイトカインが重要な役割を果たしている.モノクローナル抗体を用いてこれらをブロックする治療が開発され,とりわけTNFαに対するキメラ型モノクローナル抗体インフリキシマブは大成功を収めている.使用には多少の注意が必要であるが,ステロイドより安全性が高く効果も高いことが証明されつつある. -
クローン病に対する新たな治療法
60巻6号(2005);View Description Hide Descriptionクローン病は成分栄養剤の登場で多くは薬物療法を受けることなく緩解導入が可能で,長期の緩解維持も行われている.しかし,栄養療法や薬物療法を併用しても病態の改善効果が得られないことがあり,難治性の痔瘻や下痢などが問題となっている.ここでは,副作用が少なく安全性が高い治療法として体外循環白血球系細胞除去療法,経口吸着炭素製剤療法,プロバイオティクス療法について解説した.
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抗腫瘍治療
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新しい胃癌化学療法
60巻6号(2005);View Description Hide Description切除不能進行胃癌に対する化学療法は,best supportive care と比較して予後の改善が認められてはいるが,標準的治療法は確立されていない.しかしながら近年の化学療法の発展は目覚ましく,有望な薬剤が登場し,単剤でもかなりの効果が期待できる.さらに併用においては,従来まで用いられてきた5-FU 単剤,5-FU+CDDP 療法を凌駕することが認められつつあることから,胃癌に対する化学療法の新たな展開が期待されている. -
胃MALT リンパ腫に対する治療 — t (11;18)(q21;q21)転座からみたH. pylori 除菌療法の効果と限界—
60巻6号(2005);View Description Hide Description胃MALT リンパ腫の病態は,t(11;18)(q21;q21)転座の結果生じるAPI2-MALT1 融合遺伝子陰性で除菌に反応する群(A群), API2-MALT1 陰性で除菌に反応しない群(B群), API2-MALT1 陽性で除菌に反応しない群(C群)の3群に分類される.A群はHelicobacter pylori 陽性,深達度SM までで,臨床病期がI期である.除菌の適応はA群である.B群は隆起型,MP 以深,高悪性度成分を有する例が多いが,特異的な遺伝子異常は見つかっていない.C群はH. pylori 陰性,cobblestone粘膜を呈する例が多く,高悪性度成分を認めない.2次治療はB群では積極的に進めるべきである.C群の取り扱いはいまだ一定のものはないが,十分なインフォームド・コンセントのもと慎重な経過観察という選択肢も考慮される. -
GIST に対する分子標的治療
60巻6号(2005);View Description Hide DescriptionGISTs はKIT 陽性細胞からなる消化管間葉系腫瘍である.その発生にはc-kit 遺伝子の機能獲得性変異が深くかかわっている.従来,転移や腹膜播種を来した悪性GISTs に対して有効な治療法はなかったが,慢性骨髄性白血病の分子標的治療薬としてBCR-ABL をターゲットに開発されたメシル酸イマチニブが,KIT シグナル系を阻害することでGISTs に対しても高い奏効率を示している. -
血管新生阻害療法
60巻6号(2005);View Description Hide Description近年,腫瘍血管新生阻止を標的とする新しい制癌戦略が注目を集めている.腫瘍は自らの成長に必要な酸素や栄養素を獲得するため,周辺組織にさまざまな因子を放出して新たな血管を形成する.新生血管の増生により癌病巣は加速度的に発育し,また新生リンパ管の発達により転移が促進される.この腫瘍血管新生が制御できれば癌との共存も可能との考えから,現在,血管新生阻害薬の臨床開発が国内外で急速な展開を見せている.
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【エッセー】
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- 解剖学者がみたミケランジェロの彫刻(18)
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【対 談】
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【トピックス】
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【今月の略語】
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