最新医学
Volume 61, Issue 8, 2006
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特集【循環器疾患と抗凝固療法−最近の話題−】
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アプローチ
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現代日本人における抗凝固療法の必要性
61巻8号(2006);View Description Hide Descriptionかつて日本人は,欧米人に比較して血栓症が少なく出血性合併症が多いとされてきた.近年の国際共同研究の進展と日本人の生活習慣の欧米化により,最近では差異よりも人類としての共通性が強調されるようになった.野山を駆け巡り,常に創傷の危機に暴露されていた先祖と異なり,我々は出血の危機の少ない世界で長寿を謳歌している.むしろ増加する血栓性疾患の危機に対抗するため,抗凝固薬が必要な時代に生きているのだ.
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心房細動と脳血栓塞栓症
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心房細動時の左房内血栓と脳血栓塞栓症の発症予防における抗凝固療法のエビデンス
61巻8号(2006);View Description Hide Description心房細動に伴う心原性脳塞栓症の予防が重要であることは,医師のみならず一般の方々にも知られるようになった.しかしながら,心房細動患者における抗凝固療法についてはまだまだ解決されなければならない課題が残されている.心原性脳塞栓の予防にワルファリンが極めて有効と分かっていても,その投与率は低いことが明らかにされている.特に高齢者および発作性心房細動患者に対してその傾向が強い.一方,アスピリンは比較的低リスクの心房細動患者に使用されているが,その有効性,安全性について最近日本のエビデンスが,また低用量ワルファリンと抗血小板薬の併用に関しても新しい知見が示されている. -
本邦における心房細動例の塞栓症リスク層別化と抗凝固療法の薬効評価
61巻8号(2006);View Description Hide Description心原性脳塞栓症の原因となる基礎心疾患のうち45〜55% が非弁膜症性心房細動であり,洞調律例に比べ心房細動例では脳梗塞発症リスクが年間5〜6倍高い.フィブリンの分解産物である血中Dダイマーは,非弁膜症性心房細動例において上昇し,除細動や抗凝固療法により低下することから,塞栓準備状態の指標になることが報告されている.血中Dダイマーと従来の臨床背景因子の組み合わせにより,詳細な塞栓症リスクの層別化が可能である. -
心原性脳血栓塞栓症における急性期抗凝固療法の意義とその臨床効果
61巻8号(2006);View Description Hide Description心原性脳塞栓症の早期抗凝固療法が明らかに予後を改善するというエビデンスは存在しない.現時点では,急性心筋梗塞や心内血栓を合併しているような再発の高リスク例には,ヘパリンの静脈投与から開始してワルファリンの経口投与に切り替える方法が考えられる.早期再発リスクが高くない心房細動には最初からワルファリン療法でも良く,出血性脳梗塞や大梗塞では重篤な頭蓋内出血の危険性が大きいので抗凝固療法を行うべきではない.
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冠動脈疾患・深部静脈血栓症
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冠動脈インターベンション治療時の未分画ヘパリンを越える新たな抗凝固療法
61巻8号(2006);View Description Hide Description血栓性の疾病である急性冠症候群の治療・予防には抗血栓薬が必須である.抗凝固薬としては従来,未分画ヘパリンのみが選択肢であった.近年,吸収,代謝が不安定な未分画ヘパリンの欠点を克服した低分子ヘパリン,ペンタサッカライド,選択的トロンビン阻害薬など,新たな抗凝固薬が欧米を中心とした臨床試験で成果を収めている.本邦でも新たな抗凝固薬の必要性があるか否かを真剣に議論する必要がある. -
心筋梗塞の発症における凝固系の関与と病理像から見た抗凝固療法のポテンシャル
61巻8号(2006);View Description Hide Description心筋梗塞の多くは,冠動脈プラークの破綻を契機として閉塞性血栓が形成されることにより発症する.この血栓は血小板とともに外因系血液凝固の最終産物であるフィブリンから構成されている.プラーク内には組織因子が多量に発現していることから,プラーク破綻に続く血栓形成では血小板に加えて凝固系の役割は大きい.また,血中microparticle 由来の組織因子の役割も注目されている.出血性合併症の問題は残されるが,心筋梗塞の発症予防における抗凝固療法の有効性が期待される. -
本邦では,深部静脈血栓症の発症予防をどう行うか?—日本人の予防と治療における抗凝固療法の考え方—
61巻8号(2006);View Description Hide Description深部静脈血栓症/肺血栓塞栓症の予防および治療の中心は抗凝固療法である.欧米では根拠に基づいた投与方法が確立されているが,日本人のエビデンスは全くない.我が国では欧米の投与法を日本の現状に合わせて推奨しているだけであり,これが十分であるか否かは不明である.今後,低分子量ヘパリンや�a 阻害薬などの新しい抗凝固薬が我が国にも登場し,これに伴って日本人のエビデンスも確立されることが期待される.
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抗凝固療法の安全性をめぐる諸問題
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内視鏡治療時における抗血栓療法症例への対応
61巻8号(2006);View Description Hide Description抗血栓薬服用患者に内視鏡治療を行う場合,薬剤の中断でリバウンドの危険性があり,またそのまま継続すれば持続出血の危険性がある.この両者の危険性をともに最小限にするためには,一定の休薬期間設定が必要である.このため,日本消化器内視鏡学会は平成17年12月に指針を作成・発表した.それにより,抗凝固薬の休薬は3〜4日でINR 1.5 を基準とし,抗血小板薬は薬剤の種類により3〜5日間の休薬との基準が定められた. -
ワルファリンの薬効を規定する遺伝子—特に日本人の特徴について—
61巻8号(2006);View Description Hide Descriptionワルファリンの投与量と抗凝固効果の関係には大きな個人差が認められる.そこでワルファリンの体内動態と感受性について,個人差の原因となる影響因子について検討した.その結果,ワルファリンの体内動態の個人差には(S)−ワルファリンの主代謝酵素であるCYP2C9 の遺伝子変異(CYP2C9*3)が,感受性[抗凝固効果(INR)を(S)−ワルファリン濃度で標準化した値]の個人差にはVKORC1 遺伝子変異が大きく影響し,ワルファリン維持量の低下に寄与していた. -
ワルファリンと食事,薬物の相互作用
61巻8号(2006);View Description Hide Descriptionワルファリンは血栓制御に不可欠の薬物であるが,その有効性を最大限発揮するためには,ガイドラインのINR を厳密に守ることである.しかし,ワルファリンは食物,併用薬物などの影響を受けるので,それらについての知識と対策が必須である.特に重要なのはビタミンK含有食品,ビタミンK製剤の摂取,アルブミンとの結合がワルファリンと競合する薬物などの併用である. -
抗凝固療法の薬効を反映する新たな血栓止血バイオマーカー
61巻8号(2006);View Description Hide Description種々の要因により抗凝固薬の投与量決定は難しく,活性化部分トロンボプラスチン時間測定やプロトロンビン時間測定などの古典的抗凝固薬モニター以外に,新しいグローバルアッセイが開発されつつある.低分子ヘパリンのモニターには抗Χa 活性が重要であり,可溶性フィブリンやDダイマーなどの止血系分子マーカーにより血栓傾向の早期診断が可能となった.最適な抗凝固療法のため,新しい止血系分子マーカーの臨床応用が必要である. -
経静脈的抗凝固薬はどう進化したのか?—未分画ヘパリンから低分子ヘパリン,ペンタサッカライド,選択的凝固因子阻害薬まで—
61巻8号(2006);View Description Hide Description長年使用されてきた未分画ヘパリンは,薬効の変動,ヘパリン惹起血小板減少/血栓症などのリスクがある.ヘパリンの欠点を克服する抗凝固薬として,低分子ヘパリン,ペンタサッカライド,選択的抗トロンビン薬などが開発された.薬効モニタリングが不要となる意義は大きい.
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将来展望・遺伝子的背景
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ワルファリンを越える新たな経口抗凝固薬の開発は可能か?—経口抗トロンビン薬,経口抗Xa 薬への期待—
61巻8号(2006);View Description Hide Descriptionワルファリンは長年経口抗凝固薬としては唯一の選択肢であった.治療域と安全域の範囲の狭いワルファリン使用時にはモニタリングが必須であった.モニタリングせず,なお出血性合併症を惹起しない経口抗凝固薬の候補として経口抗トロンビン薬,経口抗Xa 薬などが開発途中にある.さらに,病的血栓と止血血栓の形成メカニズムの差異に基づいた新たな抗凝固ターゲットの設定も期待される. -
本邦に潜在的な凝固異常はどのくらいいるのか—遺伝子調査の経験から—
61巻8号(2006);View Description Hide Description静脈血栓症は,アンチトロンビン,プロテインC,プロテインSの先天性欠損症が危険因子であることは広く知られている.いずれの先天性欠損症の頻度もそれほど高くない(約700 人に1人程度)との報告が,欧米人を対象にした研究から報告され,日本人にもこれが当てはまるだろうと考えられてきた.しかし最近になり,日本人にはプロテインS K196E 変異が約55人に1人見いだされ,これがオッズ比4〜5程度で静脈血栓症の危険因子になるとの複数の報告がなされた.プロテインSは年齢や性で血中の活性値が影響を受け,妊娠時には大きく低下することが知られている.プロテインSの活性を一般住民を対象に測定すると幅の広い活性の分布を示し,K196E変異に加え,他の遺伝因子や環境因子の影響を受けるものと推察される.今後,日本人の血栓性疾患でのプロテインSの重要性が増すものと思われる.
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【エッセー】
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- 白血病医の御礼奉公(8)
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【対 談】
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【トピックス】
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【今月の略語】
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