最新医学
Volume 63, Issue 4, 2008
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特集【エピジェネティクス−最近の動向と疾患−】
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アプローチ
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エピジェネティクス研究の現状と展望
63巻4号(2008);View Description Hide Descriptionエピジェネティクスとは,DNA の塩基配列の変化なしに,遺伝的しかも可逆的に遺伝子機能の発現が変化する現象で,DNA メチル化やヒストン修飾が関与する.がんをはじめ神経疾患や循環器疾患,自己免疫疾患におけるエピジェネティクス異常が,病態に関与すること,診断や治療の標的となることが明らかになりつつある.エピジェネティクス解析は,幹細胞研究や機能性RNA 研究と融合し,多くの生命現象や病態の分子機構の理解にますます重要となりつつある.エピジェネティクス研究と疾患との関連についての特集に当たり,遺伝子発現制御におけるエピジェネティクス制御の分子機構や疾患との関連について概説する.また,これまでの研究成果や今後の動向についても紹介する.
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エピジェネティクス研究によるがんの病態解明
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慢性炎症による発がん機構としてのエピジェネティック異常
63巻4号(2008);View Description Hide Description慢性炎症は発がんと密接に関連する.最近,一部の発がん危険度が高い慢性炎症組織ではDNA メチル化異常がすでに蓄積しており,その程度が発がんリスクと相関すること(エピジェネティックな発がんの素地の存在)が分かってきた.慢性炎症によるメチル化は特定の遺伝子に誘発され,低転写や一部の炎症性サイトカインの関与が示唆されている.エピジェネティック異常誘発は,慢性炎症による発がん機構として重要と思われる. -
がんにおけるエピジェネティックな変化とシグナル経路異常
63巻4号(2008);View Description Hide Descriptionエピジェネティックな遺伝子制御機構,特にCpG アイランドのメチル化は,がん抑制遺伝子の不活化メカニズムとして重要である.Wnt やRas などがんにおいて重要なシグナル経路の異常は,キーとなる遺伝子の変異が原因であることはよく知られているが,最近ではシグナルに関与するさまざまな遺伝子に高率にメチル化異常が起きていることが分かってきた.これらの知見は,発がんメカニズム解明と新たながん治療法の開発につながると期待される. -
網羅的エピゲノム解析技術の新展開
63巻4号(2008);View Description Hide Descriptionヒストン修飾やDNA メチル化は,染色体からの遺伝子発現を調節する重要なエピジェネティック修飾であり,マイクロアレイや高速シークエンサーを用いたハイスループットなゲノム解析技術がその網羅的解析を可能にした.今後ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬や脱メチル化薬などのエピジェネティック医薬の臨床開発において,症例の層別化に利用可能なエピゲノム情報に基づくバイオマーカーの開発が期待される. -
がんにおけるヒストン修飾異常の役割
63巻4号(2008);View Description Hide Descriptionヒストンタンパク質は,エピジェネティクスの中心的役割を担うクロマチン構造の重要な構成因子である.ヒストンのN末端はさまざまな化学修飾を受け,ダイナミックに遺伝子発現や発生・分化などを制御している.最近ヒストンの修飾異常ががん細胞で確認され,このエピジェネティクス機構の異常ががんの発生・進展に影響を与えていることが分かってきた.本稿では,がん細胞におけるヒストン修飾異常の関与についての知見を述べる. -
疾患モデル動物を用いたエピジェネティクス研究— 大腸多段階発がんにおける DNA メチル化異常の意義—
63巻4号(2008);View Description Hide Descriptionほぼすべてのがんにおいてエピジェネティック異常が検出されるものの,その根本的原因は不明である.マウスモデルを用いたエピジェネティクスがん研究により,少しずつではあるが,エピジェネティック異常の個体レベルでの発がん過程における修飾作用が明らかとなってきた.本稿では,今までに行われたさまざまなアプローチによるマウス生体を用いたエピジェネティクスがん研究について,特に大腸多段階発がんへのDNA メチル化の影響を中心に紹介したい.
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臨床応用
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エピジェネティック治療の現状と展望
63巻4号(2008);View Description Hide Descriptionエピジェネティック治療は従来の治療薬とは異なり,がんにおけるエピジェネティックな異常を直接ターゲットにした方法である.その特徴は,遺伝子変異を伴わないエピジェネティックな変化の可逆性にある.すでに米国をはじめとした諸外国で臨床応用されており,その効果は近未来的ながん治療のオーダーメード化に際し必須な薬剤となり得ることを容易に想像させる. -
前がん状態における DNA メチル化異常
63巻4号(2008);View Description Hide DescriptionDNA メチル基転移酵素(DNMT)の発現やスプライスの異常を伴うDNA メチル化異常は,諸臓器における前がん状態に高頻度に検出され,特にウイルスの持続感染・慢性炎症・喫煙などを背景とする多段階発がん過程に早期から寄与する可能性がある.DNA メチル化異常を伴う前がん状態からは,より悪性度の高いがんを生ずると考えられる.DNA メチル化プロファイルを指標とする発がんリスク診断・発がん予防の実用化が望まれる. -
胸部悪性腫瘍におけるエピジェネティック異常
63巻4号(2008);View Description Hide Description分子生物学の発展に伴い,悪性腫瘍に対し,分子生物学的手法による多くの取り組みが行われている.肺がん,胸膜中皮腫においてもエピジェネティクスの観点で,発がん機構の解明から臨床応用に至るまで,研究が行われている.特に臨床病理学的因子とメチル化の関係,メチル化を指標とした診断,メチル化阻害薬,ヒストンジアセチル化阻害薬を用いた臨床試験なども行われているが,臨床応用には今後,越えるべきハードルも残されている. -
臨床検体を用いた DNA メチル化検出とがん診断への応用
63巻4号(2008);View Description Hide DescriptionDNA プロモーター領域に存在するCpG アイランドのメチル化は,欠失や突然変異と同様に遺伝子の不活化を導く.臨床検体を用いたDNA メチル化の検索はがんやその高リスク群の診断,予後や薬剤感受性の予測を目的としたマーカーとして盛んに臨床応用が試みられている.がん種ごとにさまざまではあるが,高頻度にメチル化を認める遺伝子が存在すること,プロモーターの限られた遺伝子領域の検索で済むこと,簡便で鋭敏な検索法があることから,がん診断への応用が期待されている.
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各種疾患におけるエピジェネティクス研究の新展開
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ゲノムインプリンティング異常と疾患
63巻4号(2008);View Description Hide Descriptionインプリント遺伝子は,由来する親の性に従って一方のアレルから発現する.複数のインプリント遺伝子が特定の染色体領域に存在しドメインを形成していることが多く,インプリンティング調節領域(ICR)によりドメインレベルで遺伝子発現が調節されている.このドメインレベルのインプリンティング調節機構が破綻すると,さまざまな疾患が発症する.本稿では,現在までに分かっているドメインレベルのインプリント調節機構とヒト疾患との関連を解説する. -
心疾患のエピジェネティクス
63巻4号(2008);View Description Hide Description心血管系の圧・容量負荷が長期にわたると,「心不全」と呼ばれる予後不良の病態へと至る.近年,心肥大・心不全発症に心筋のエピジェネティック変化が重要な役割を果たすことが報告されるようになった.我々は心筋細胞において,心機能の低下に応じてエピジェネティック修飾レベルが変化する遺伝子をゲノムワイドにスクリーニングする目的で,「Differential Chromatin Scanning(DCS)法」を新たに開発し,ラット心筋をモデルとしてヒストンアセチル化の変化を解明した. -
神経疾患におけるエピジェネティックな異常
63巻4号(2008);View Description Hide DescriptionDNA や染色体の化学修飾に基づくエピジェネティックな遺伝子調節は,近年特に神経細胞で重要であることや環境で変化することが判明した.したがってその異常は,これまでよく知られてきたがんや先天異常だけでなく,神経系の異常を後天的に引き起こしている可能性がある.また,よく用いられている精神疾患薬の作用機序がエピジェネティックな修復であることも判明した.本稿では,特に精神疾患や精神発達障害疾患におけるエピジェネティックな異常について,最新知見や仮説を交えて概説する. -
再生医療とエピジェネティクス研究
63巻4号(2008);View Description Hide Description幹細胞研究は再生医療の大きな期待である.ヒトES 細胞の樹立や日本発の成果である人工多能性幹細胞(iPS 細胞)の樹立は,近年の幹細胞研究の急速な発展の起爆剤になっている.細胞はゲノムDNA に刻まれた情報を最適に使い分け,その性質を決定している.DNA のメチル化を含むエピジェネティクス機構が細胞・組織特異的な遺伝子発現の基盤となり,個々の細胞の性質を決定しているのである.言い換えれば,人為的なエピジェネティクス制御が可能になれば,幹細胞の樹立や分化の制御が可能になるということである.
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【エッセー】
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- 代謝病の周辺(4)
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【対 談】
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【トピックス】
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【特 報】
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【今月の略語】
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