最新医学
Volume 65, Issue 4, 2010
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特集【パーキンソン病−最近の進歩−】
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アプローチ
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変貌する疾患概念と治療ガイドライン改訂版の取り組み
65巻4号(2010);View Description Hide Descriptionパーキンソン病の疾患概念は,Braak 仮説やプリオン仮説の登場によって大きく変貌しつつある.パーキンソン病はα-synuclein が脳内に広範に蓄積する多系統変性疾患であり,精神症状や自律神経症状などの非運動症状を高頻度に合併する.患者のQOL には運動症状のみならず非運動症状が強く関与している.現在改訂中の治療ガイドラインはQOL の改善を重要視し,エビデンスに基づいた,独立性と透明性の高い手法を用いて作成されている.
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病因・病態の解明
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パーキンソン病原因遺伝子研究の進展
65巻4号(2010);View Description Hide Description複数のパーキンソン病原因遺伝子が同定され,それら遺伝子変異を導入したモデル生物による研究が急速に進んできた.その結果,遺伝子間の関係,病理経路においての位置づけが明らかになりつつある.現在までの知見から「タンパク質分解の異常」,「ミトコンドリアと酸化ストレス」というキーワードで結びつけられる共通の病理経路の存在が示唆されている.モデル生物によるさらなる研究が,効果的な治療法・予防法の開発を可能にする. -
孤発性パーキンソン病のリスク遺伝子
65巻4号(2010);View Description Hide Description患者の95% を占める孤発性パーキンソン病は多因子疾患である.孤発性パーキンソン病のリスク遺伝子を同定するため,ゲノムワイド関連解析を行い,パーキンソン病発症にかかわる2つの新しい遺伝子座PARK16, BST1 を同定した.また,常染色体優性遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子SNCA, LRRK2 の孤発性パーキンソン病への関与を証明した.一方ゴーシェ病変異も,頻度は低いが発症へのeffect sizeが大きいrare variant として重要である.さらなる遺伝子の解明が期待される. -
Braak 脳幹上行仮説の検証
65巻4号(2010);View Description Hide DescriptionBraak のレビー小体病理脳幹上行仮説は,レビー小体病理の初期に迷走神経背側核と孤束核周囲が侵されることが,プリオン病の伝播経路と類似することを根拠としている.パーキンソン病の病因が,外部から腸管ないし扁桃より迷走・舌咽神経を逆行し,中枢神経系に到達する,α-synuclein プリオン説,神経回路網伝播説は極めて魅力的であるが,前提として多くの除外設定を設けており,高齢者ブレインバンク例には適用できない.
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注目される症候
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運動症候の病態生理
65巻4号(2010);View Description Hide Descriptionパーキンソン病には,振戦,固縮,無動,姿勢反射障害の4大症状がある.静止時振戦は古典的な症状であるが,随意運動で抑制される機構が注目され,また近年,Jankovic らがre-emergent tremor という状態を記載している.静止時振戦の起源は視床など大脳基底核ループ内に想定され,無動の原因は大脳基底核神経活動の過剰な同期化に由来する仮説も見られる.運動症候に対し,脳深部刺激療法(DBS)以外の非薬物治療も検討されている. -
治療上問題となる運動症状
65巻4号(2010);View Description Hide Description進行期パーキンソン病では,長期治療中に対応に苦慮するさまざまな運動症状が出現する.wearing-off 現象,no-on/delayed on 現象,on-off 現象といった運動症状の日内変動(motor fluctuation),ジスキネジア,すくみ足,腰曲がり(camptocormia)などの姿勢異常,嚥下障害などがある.それぞれの症状の抗パーキンソン病薬との関連を見極めることが治療の第1歩である.これらの運動症状への対応について述べる. -
最近注目される非運動症状
65巻4号(2010);View Description Hide Descriptionパーキンソン病において嗅球は最も初期に病理変化が出現する部位の1つであるが,最近の病理研究の進歩により,扁桃体などの中枢の嗅覚伝導路でも早期から病理変化を認めることが明らかになってきた.これらの脳領域の機能障害により,パーキンソン病では特徴的な運動症状の出現以前から嗅覚障害や表情認知障害といった臨床症状を呈するものと考えられている.これらの非運動症状の把握は,パーキンソン病の発症前診断に応用できるものと期待される. -
ドパミン調節異常症候群
65巻4号(2010);View Description Hide Descriptionドパミン調節異常症候群は,パーキンソン病患者へのドパミン補充療法と関連して生じる行動障害である.L-ドーパへの必要量を超えた渇望とともに,病的賭博,性欲亢進などの衝動制御障害や常同的な動作の反復(punding)を呈する.危険因子には若年発症,男性,新奇性追求性格,ドパミンアゴニスト服用などが挙げられる.治療にはアゴニストの減量,中止が奏効することがある.危険因子を持つ患者では,予防のため早期から薬剤の選択や用量に配慮する.
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診断と臨床評価の進歩
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脳機能画像を用いた早期診断
65巻4号(2010);View Description Hide Description特発性パーキンソン病は,ドパミン神経伝達機能画像で特徴的な所見を示す.ドパミンシナプス前細胞神経終末は被殻尾側で早期から強く障害されるが,線条体吻側は進行期でも比較的保たれる.一方,ドパミンシナプス後細胞は早期には保たれている.ドパミン神経伝達機能画像は特発性パーキンソン病と他疾患との鑑別に役立てることができ,その臨床診断,特に早期診断の精度を高めることができる. -
New MDS-UPDRS
65巻4号(2010);View Description Hide DescriptionMovement Disorder Society-sponsored revision of the Unified Parkinson's Disease Rating Scale(MDS-UPDRS)が2008 年に発表された.このスケールは従来のUPDRS と比べて,非運動症状評価項目の増加など現在のパーキンソン病診療のニーズを満たすための改訂と,尺度使用に関する注意書が詳しく記載されるなどの改良が見られる.今後,普遍的な症状評価尺度になると考えられる.
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治療
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パーキンソン病治療の動向
65巻4号(2010);View Description Hide Description近代のパーキンソン病治療の端緒となったL-ドーパ治療の開始から最近の動向まで触れた.パーキンソン病の治療は徒弟制様の経験則に基づいた治療法であったが,米国で2001 年,アルゴリズムが発表されてから,ある程度の普遍性を持った治療法に変換した.今後もエビデンスが更新されていき,そのエビデンスによってシステムレビューや治療ガイドラインが改訂され,それに沿った治療法が実践されていくものと思われる. -
定位脳手術の適応と限界
65巻4号(2010);View Description Hide Description定位脳手術には破壊術と刺激術とがあり,刺激術は両側手術の安全性が高く,刺激調節が可能である.視床手術は振戦に有効である.視床下核刺激術と淡蒼球内節手術はパーキンソン症状のすべての主要運動症状を改善させる.視床下核刺激術は淡蒼球内節手術と比較して,ジスキネジア以外は有効性が優れる傾向があり,術後の薬剤減量効果が高い.脚橋核刺激は歩行障害や平衡障害を改善させるが,有効性はまだ確立されていない. -
パーキンソン病の遺伝子治療と再生医療の可能性
65巻4号(2010);View Description Hide Descriptionパーキンソン病は,アルツハイマー病に次いで2番目に多い神経変性疾患である.パーキンソン病の治療は対症療法が中心であり,病気の進行を遅らせ,停止させることができる治療法は確立していない.そのため神経細胞死を抑制し,治療に伴う運動合併症を軽減する治療法の開発が求められている.遺伝子治療や再生医療の分野では臨床治験を含めた活発な研究が行われており,パーキンソン病に対する新しい治療法として期待されている. -
パーキンソン病における自律神経症状の治療
65巻4号(2010);View Description Hide Descriptionパーキンソン病の非運動症状は,自律神経症状,認知症,うつ,嗅覚異常,睡眠障害など多岐にわたっている.α-synuclein 染色によるレビー小体やレビー神経突起の分布により,病理学的変化も我々の予想以上に広がりを見せている.自律神経症状に関しては排尿障害,便秘の頻度は高い.また起立性低血圧,勃起機能不全も無視できない症状である.これらの症状はQOL に大きく影響を与えるので,充分コントロールすることが重要である. -
パーキンソン病のリハビリテーション治療
65巻4号(2010);View Description Hide Descriptionリハビリテーション治療は,内科的かつ外科的な治療に加えて行うことで,症状だけでなくQOL の面からもさらなる改善が期待できる治療法である.患者本人自らが参加できるので,患者やその家族の関心が高く,患者の積極性を引き出すことにも繋がる.初期段階でのstigma に対するケアが必要で,進行に伴うステージごとの治療目標や介入方法を適切に行う.外部リズム刺激など,音楽療法を取り入れたリハビリテーションが近年注目される.
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【エッセー】
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- 学会の旅・留学の旅−私の呼吸器病学−(16)
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【対 談】
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【トピックス】
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【総 説】
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エンドサイトーシスによる受容体シグナルの制御とがん
65巻4号(2010);View Description Hide Description細胞膜上の受容体はリガンドの結合により活性化し,シグナルを伝達した後,エンドサイトーシスにより細胞内へ取り込まれる.この機構は受容体シグナルの下方制御において非常に重要であり,この機構の異常は受容体の細胞膜上での過剰発現を引き起こし,細胞のがん化の一因となることが報告されている.本稿では,活性化した受容体のエンドサイトーシス機構,およびエンドサイトーシス異常と細胞のがん化のかかわりについて概説する.
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【今月の略語】
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