最新医学
Volume 65, Issue 7, 2010
Volumes & issues:
-
特集【神経変性疾患におけるTDP-43】
-
-
-
総説
-
-
前頭側頭葉変性症と筋萎縮性側索硬化症— TDP-43 が変えた疾患概念—
65巻7号(2010);View Description Hide Description前頭側頭葉変性症(FTLD)は,行動異常や言語機能異常が見られる非アルツハイマー型の変性疾患を指す臨床的概念であり,その背景病理は多彩である.その中で,ユビキチン陽性・タウ陰性の封入体を有する群は,FTLD-U と呼ばれてきた.FTLD-U と筋萎縮性側索硬化症(ALS)で見られるユビキチン陽性封入体の主な構成成分がTDP-43 からなることが明らかになり,FTLD-U とALS とは同一線上にあるmultisystem disorder と理解されるようになっている.本稿では,FTLD の疾患概念,分類,ALS との関連などについて述べた.
-
-
基礎
-
-
TDP-43 蓄積症の発見
65巻7号(2010);View Description Hide Description前頭側頭葉変性症(FTLD)のユビキチン陽性構造物の成分を同定するため,患者および対照脳不溶性画分のプロテオミクス解析を行った.患者脳の25kD 付近にTDP-43 が頻度高く検出され,抗体による免疫染色とウエスタンブロット解析の結果,構成成分として同定された.TDP-43 は孤発性の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の特徴的構造物の成分であることも判明し,その後ALS 患者にTDP-43 遺伝子の変異が発見されたことから,ALS 病態形成の中心分子となった.タウ,α-シヌクレインに次ぐ第3の神経変性関連タンパク質TDP-43 が同定され,細胞内異常タンパク質を介した神経変性疾患の共通の分子機構の解明,治療法の開発が期待される. -
TDP-43 の生理機能
65巻7号(2010);View Description Hide DescriptionTDP-43 はRNA 認識モチーフ(RRM)を有するRNA/DNA 結合タンパク質である.その生理機能として,DNA の転写制御,pre-mRNA のスプライシングの制御,mRNA の安定化,miRNA のプロセシングへの関与が報告されている.ノックアウトマウスは胚発生初期に致死となるが,ショウジョウバエもしくはゼブラフィッシュにおけるTDP-43 の欠損は運動ニューロンの機能異常を示し,神経系で重要な機能を担っていることが示されている. -
細胞内 TDP-43 蓄積のメカニズム
65巻7号(2010);View Description Hide Description神経変性疾患の発症に関与すると考えられるタウやα-シヌクレインに次ぐ細胞内のキープレーヤータンパク質としてTDP-43 が同定され,注目を集めている.筆者らは,患者脳に蓄積するTDP-43 の特徴を培養細胞に再現させることにより,細胞内TDP-43 蓄積モデルの構築に成功した.このモデルを用いることで,筋萎縮性側索硬化症や前頭側頭葉変性症などに対する新たな治療薬の開発が期待できる. -
TDP-43 タンパク質新規アイソフォームの同定と 35-kDa 封入体特性の検討
65巻7号(2010);View Description Hide Description我々は,アポトーシス条件下に加えて,非アポトーシス条件下においてもカスパーゼ3には依存せず下流開始コドンから翻訳されて,新規アイソフォーム(35-kDa と25-kDa)が産生されていることを見いだした.また,35-kDa アイソフォームがstress granule とaggresome という2種類の封入体を形成することを確認し,TDP-43 タンパク質のRNA 調節因子としての新たな機能が示唆された. -
TDP-43 の異所性局在機構
65巻7号(2010);View Description Hide DescriptionTDP-43 は,それまで全く不明であった孤発性筋萎縮性側索硬化症(ALS)の細胞質内ユビキチン化封入体やスケイン様封入体の本体として,本邦と欧米の研究チームから同時に報告された核タンパク質である.ALS の病巣におけるTDP-43 の核染色性低下と細胞質への染色性の移行は極めて特徴的であり,その異所性局在と病態生理の関連について多くの研究がなされている.本稿ではTDP-43 の異所性局在の分子機構とその病的意義について,我々の知見を交えて概説する. -
TDP-43 凝集体形成阻害化合物の検索
65巻7号(2010);View Description Hide DescriptionTDP-43 は,筋萎縮性側索硬化症および前頭側頭葉変性症などにおいて出現するタウ陰性ユビキチン陽性細胞内凝集体の主要構成成分として同定され,タウ,α-シヌクレインに次ぐ第3の細胞内異常蓄積タンパク質として注目されている.本稿では,TDP-43 蓄積を伴う各種神経変性疾患の新規治療薬開発を目指し,細胞モデルを用いたTDP-43 凝集体形成阻害化合物の検索を行った結果について簡単に紹介する. -
TDP-43 プロテイノパチーの動物モデル
65巻7号(2010);View Description Hide Description近年,多くの神経変性疾患においてミスフォールドタンパク質の凝集・蓄積がかかわる共通の発症メカニズムが考えられるようになった.最近,タウ陰性の前頭側頭葉変性症(FTLD)と孤発性筋萎縮性側索硬化症(ALS)における凝集・蓄積タンパク質としてTDP-43 が同定され,さらにTDP-43 の遺伝子変異が家族性ALS の原因となることが明らかにされ,これらはTDP-43 プロテイノパチーと総称されている.そして,マウス,ラットのみならずショウジョウバエなど,さまざまな動物モデルが開発されつつあり,TDP-43 の異常が引き起こす神経変性メカニズムの解明,治療法開発を目指した研究が進行中である. -
TDP-43 の神経病理
65巻7号(2010);View Description Hide Description筋萎縮性側索硬化症の下位運動ニューロンの封入体および前頭側頭葉変性症の神経細胞内封入体は,タウやシヌクレインには陰性でユビキチンにのみ陽性を示し,その主要な構成タンパク質がTDP-43 であると同定されて,病理学的診断の指標となっている.TDP-43 陽性封入体は神経細胞の胞体,神経突起,核内,グリア細胞にも形成され,封入体の形態と臨床病理像にはサブグループが存在する.
-
-
臨床応用
-
-
アルツハイマー病およびレビー小体型認知症におけるリン酸化 TDP-43
65巻7号(2010);View Description Hide Descriptionリン酸化TDP-43 異常蓄積が,アルツハイマー病およびレビー小体型認知症の約30〜50% に認められる.タウおよびα-シヌクレインの蓄積が高度な症例,海馬硬化を伴う症例に出現しやすいとされている.両疾患におけるTDP-43 異常蓄積の病理組織学的および生化学的特徴は,前頭側頭葉変性症における異常蓄積のtype 3 に類似する.両疾患ともTDP-43 蓄積を伴う症例に特徴的な臨床像は見いだされていないが,高齢の患者が多いとの報告がある. -
グアム島の筋萎縮性側索硬化症(ALS)— TDP-43 と神経原線維変化から見るパーキンソン認知症,古典型 ALS,前頭側頭葉変性症との異同—
65巻7号(2010);View Description Hide Descriptionグアム島のALS(G-ALS),パーキンソン認知症(PDC)と日本人孤発性ALS,前頭側頭葉変性症,およびそれぞれ対照を神経原線維変化と異常TDP-43 から比較した.G-ALS の神経原線維変化の数はPDC より少なく,グアム人対照と同様であった.異常TDP-43 蓄積は,前頭葉と歯状回で前頭側頭葉変性症がPDC より著明で,G-ALS は日本人ALS と同様であり,PDC とは局在が異なっていた. -
脳脊髄液および血液中の TDP-43 定量とその臨床的有用性
65巻7号(2010);View Description Hide Description髄液および血液中のTDP-43 は,前頭側頭葉変性症および筋萎縮性側索硬化症(ALS)のバイオマーカーとして有用である可能性がある.我々は髄液中TDP-43 の定量が可能なELISA 系を開発し,ALS 患者,特に発症早期の患者では対照患者と比較して髄液中TDP-43 濃度が有意に増加していることを世界で初めて報告した.ヒトの血液・髄液中のTDP-43 を定量した報告はまだ少数であり,TDP-43 のバイオマーカーとしての有用性を検証するためには今後さらに大規模な検討が必要である. -
家族性筋萎縮性側索硬化症と TDP-43
65巻7号(2010);View Description Hide Description筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態機序において,TDP-43 の異常が一義的な役割を果たすとされ注目されている.TDP-43 遺伝子変異を有するALS はALS-10 と分類され,その臨床・病理像は孤発性ALS と全く同じである.近年見いだされた遺伝性に運動神経細胞死を引き起こす遺伝子群は,TDP-43 をはじめとしてRNA 代謝に関与するという共通の機能を持つ.今後のALS 研究では,これらの遺伝子異常によるRNA 代謝障害が重要な意義を持つ. -
前頭側頭葉変性症と TDP-43
65巻7号(2010);View Description Hide DescriptionTDP-43 の遺伝子変異は約30 の報告があるが,それはほとんど筋萎縮性側索硬化症であり,運動ニューロン症状を持たない前頭側頭葉変性症(FTLD)での報告は非常に少ない.一方,FTLD の原因遺伝子はタウとプログラニュリン(PGRN)遺伝子の頻度が高いが,PGRN 遺伝子異常を持つFTLD にはTDP-43 タンパク質の蓄積が見られる.PGRN の機能喪失がTDP-43 の代謝・修飾に影響を及ぼし,FTLD に寄与する機序が想定されている.
-
-
【対 談】
-
-
-
【トピックス】
-
-
-
【今月の略語】
-
-