最新医学
2011, 66巻9月増刊号
Volumes & issues:
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特集【アルツハイマー病】
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総論
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疫学:増加するアルツハイマー病患者
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Description少子高齢化社会を迎えた我が国において認知症者数は増加している.1970 年代では高齢者における認知症有病率は4% であった.アルツハイマー病(AD)の頻度は,認知症全体の約25 % で,AD 有病率は1% と報告されている.その後,認知症者数は増加していき,特にAD の増加が著しく,現在では全認知症患者の60 ~ 70 % がAD と診断されるようになった.全世界においても認知症者の増加が推計されており,治療・予防法の確立が望まれている. -
アルツハイマー病の病態研究の進歩
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Descriptionほとんどの神経変性疾患において,病態の本質にかかわる部分で,ある種のタンパクが構造異常を来し,細胞の内外に蓄積することが明らかになった.このような病態をプロテイノパチーと呼ぶ.アルツハイマー病(AD)はその中でも最もよく研究され,異常タンパク蓄積解消のための根本治療法の開発が進められている.ここではAD 病理について簡単に述べた後,今日のプロテイノパチー研究の主要な課題であるoverlap,propagation,そしてoligomer について概説する. -
Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)の成果とJ-ADNI の進捗
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Descriptionアルツハイマー病(AD)の発症メカニズムに即した疾患修飾薬の大規模治験が開始されているが,その実用化には,画像・生化学バイオマーカーによるAD の客観評価法の確立が重要である.ポジトロン断層撮影(PET)イメージング,磁気共鳴画像(MRI)による脳容積評価や体液生化学マーカーなどを組み合わせて,AD の進行過程のモニター・発症予測法を確定しようとする大規模臨床観察研究(Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative:ADNI)が米国で成功を収め,本邦でも軽度認知機能障害(MCI)を中心に全600 人の被験者を2~3年間にわたり追跡するJ-ADNI が順調に進捗している. -
アルツハイマー病における未解決の問題点
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Descriptionアルツハイマー病(AD)研究はこの20 年で大きく進展した.しかし,まだ未解決の重要な問題が残っている.本稿ではそのうち,アミロイドβタンパク(Aβ)からτへの橋渡し,ε4 allele の作用点,アミロイド蓄積の始まり,アミロイドカスケード仮説を取り上げ,それぞれの未解決点を論じる.
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診断
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特徴的症状と診断のポイント
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Descriptionアルツハイマー病(AD)の臨床的特徴は,近時記憶障害とエピソード記憶障害,遂行・実行障害である.これらの症状が,いつとはなく出現し,次第に進行し,時間の見当識障害や空間認知障害が加わってくる.診察時には,取り繕いや同伴者への依存がしばしば見られる.診断には経過と臨床症状が最も重要で,血液検査や画像検査を鑑別診断の補助とする.AD の初期には,これらの検査には明らかな異常がないことが特徴である. -
臨床診断基準
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Descriptionアルツハイマー病(AD)の臨床診断基準は日本神経学会『認知症治療ガイドライン2010』で,DSM-IV,NINCDS-ADRDA 診断基準がグレードBとして推奨された.Probable AD では,診断感度81 %,特異性は70 % で,病理所見との一致率は87.6 % である.2011 年4月には米国National Institute of Aging/ Alzheimer’s Association(NIA / AA)から,新たに認知症,AD dementiaおよび軽度認知機能障害(MCI)の診断基準が提案された.この基準は最近10年の病態解明とバイオマーカー研究の成果によるものであり,今後の検証が期待されている. -
評価尺度
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Description2008 年に診療報酬点数が改正され,認知症関連検査の幾つかにも保険点数が設定された.それらの臨床心理・神経心理検査を紹介する.ここで紹介した検査の一部は,主治医が診療をしながら施行することは困難なことが多く,施行に熟知した専門のスタッフが必要となることがあるが,支援器機などを利用すれば,施行が容易,あるいは抗認知症薬の薬効を予測することが可能になる検査もあり,ぜひ積極的に活用したい. -
画像
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Descriptionアルツハイマー病(AD)における画像診断法の進歩は近年目覚ましいものがある.CT,MRI,などの形態画像では,AD において側頭葉内側を中心に広範な大脳萎縮を認める.脳血流SPECT,FDG-PET などの機能画像では,後部帯状回,楔前部,頭頂側頭葉の機能低下がAD で確認される.近年はAD 脳内の老人斑を描出するアミロイドイメージングの開発が進み,AD の病態解明に大きく寄与している. -
遺伝子と生化学バイオマーカー
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Descriptionアルツハイマー病(AD)患者の多くは孤発例であるが,単一遺伝子変異を伴う家族性AD が一部存在する.APOE ε4 アレルは,孤発性AD 発症の危険因子である.APOE ε4 アレルは脳内のアミロイドβ(Aβ)沈着を早期に誘導し,AD 病態を誘発させる.髄液生化学バイオマーカーでは,Aβ42 低下,総タウ・リン酸化タウ増加がAD の研究診断基準に組み入れられ,AD のサロゲイトマーカーとして重要である.さらに髄液生化学所見は,軽度認知機能障害(MCI)からAD 発症への予測因子と成りうる.
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予防・管理
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予防療法の進歩
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Description近年,アルツハイマー病(AD)の修正可能な危険因子の解明が進み,生活習慣の改善などによる発症リスク低減の可能性が注目されている.しかし,最近の米国立衛生研究所(NIH)によるシステマティック・レビューでは,既知の各種AD 危険因子・防御因子のいずれもエビデンスの質が低いと報告された.現時点で確立されたAD 予防法はないが,精神・身体両面の活動性および健康的な生活習慣の維持が推奨されるべきである. -
生活習慣病とアルツハイマー病
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Description生活習慣病がアルツハイマー病(AD)の後天的危険因子としてその関係性が注目され,糖尿病や中年期の高血圧,脂質異常症の管理によるAD 発症予防が期待される.また,全身と脳のクロストークはAD 患者の病態把握に重要な視点である. -
MCI の管理
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Description軽度認知機能障害(MCI)とは認知症の前駆状態を含んだ病態である.認知症への移行の危険因子は,手段的日常生活動作の障害,アパシー,複数の領域における認知機能障害であり,生物学的マーカー検査の施行は予測に有用である.臨床所見や検査所見が初期アルツハイマー病(AD)を示唆する場合は,速やかに抗AD 薬の投与を開始することが重要である.また,生活習慣病をチェックし,必要に応じてその治療を開始することが大切である. -
地域の取組み,介護保険サービスの利用法
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Description認知症への地域の取組みとして,サポーター養成やサポート医養成などが実施されているが,地域での病気としての認知度が高くなってきている.実際,認知症の人に対する見守り支援などが始まっている.一方,介護保険サービスの利用によって,認知症の介護負担の軽減が図られようとしている.デイサービスやショートステイなど,適切な時期に適切なサービスを利用することが重要である. -
アルツハイマー病における進行別対応,終末期対応
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Descriptionアルツハイマー病(AD)の全経過は10 年以上に及び,進行するにつれて多彩な問題が次々に出現するため,それぞれの病期に応じた適切な対応が求められる.介護者に対する支援は軽度のうちから積極的に行われる必要があり,それが患者自身の安定にも寄与しうる.経過中には,自動車運転,施設入所,経管栄養,肺炎治療,緩和ケアなど,衆知を集めて検討すべき課題が多い.全経過を通じて,患者の尊厳と平安が保たれるよう対応することが重要である. -
アルツハイマー病における医療経済分析
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Description今後高齢者の増加に伴って,アルツハイマー病患者の増加が予想される.医療資源は限られており,同じコストをかけるのであれば,効果が高い治療法を選択できることが望ましい.我が国では,ドネペジルは1999 年,ガランタミンとメマンチンは,2011 年に薬価基準収載された.ドネペジルの経済効果は,各国および我が国でも認められている.我が国におけるガランタミンとメマンチンの経済分析はこれからである.
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治療
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治療手順(非薬物療法,薬物療法の選択を含めて)
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Descriptionアルツハイマー病(AD)の治療手順を概説した.中核症状には,従前より使用されているドネペジルに加えガランタミン,リバスチグミン,メマンチンが使用可能となった.周辺症状には非薬物療法が推奨されるが,効果が乏しい場合は抑肝散や抗精神病薬などを用いた薬物療法が選択される.高血圧や糖尿病などの身体合併症管理は,AD の病態の観点からも重要である.嚥下障害に対する経管栄養の導入は,今後議論を要する. -
非薬物療法
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Description認知症性疾患では,知的機能の低下とともに生活動作や行動面の障害が現れる.これらが患者の日常生活を損なうだけでなく,介護者の負担をも増大させる.患者にみられる症状を改善させるばかりでなく,家族の介護負担を軽減し,日常生活を活性化するところに,非薬物療法の意義がある.本稿では,リハビリテーションとケアという概念も含めて,認知症患者に対する主な非薬物療法を概説し,それぞれの効果について紹介した. -
抗アルツハイマー病薬(塩酸ドネペジル)
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Description塩酸ドネペジルは,情動記憶にも作用しやすいことが分っている.心に残る良い記憶を多くしなければ,不快な記憶は残りやすく,拒絶行動を誘発し,生活行動が狭くなる.注意が散漫となると,一層脳機能障害が目立ってしまう.長期投与は症状の改善に有効ばかりでなく,脳萎縮の進行抑制もある.症状の進行抑制を考慮しながら,生活環境を整え,学習を支え,より長く豊かな生活提供に有効な薬剤である. -
新しい抗アルツハイマー病薬(ガランタミン,リバスチグミン,メマンチン)
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Description本邦では長い間抗アルツハイマー病(AD)薬がドネぺジルのみであったが,2011 年よりガランタミン,リバスチグミン,メマンチンの新たな抗AD 薬が使用可能となった.同じアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬に属する薬物であってもその特性には差があるため,変更やメマンチンとの併用の方法を含め,選択肢が大幅に増加することが推測される.今後,AD 患者の特性に合わせた治療が可能になることが期待される. -
抗アルツハイマー病薬の開始時期(MCI の薬物治療に関する話題も含めて)
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Descriptionアルツハイマー病(AD)と診断された場合には,早期にコリンエステラーゼ(ChE)阻害薬(ChEIs)を投与したほうが,その後の認知機能低下を抑制できるという報告が多い.一方,軽度認知機能障害(MCI)に関しては,ChEIs による認知症への進展率低下の科学的根拠は示されていない.しかし,一部の認知機能について改善が示されたという報告や,MCI 患者についても対象を限定すれば効果的である可能性も示唆されている. -
抗アルツハイマー病薬の使い分けと併用療法,抗アルツハイマー病薬の変更の判定基準,変更時の注意
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Description3つのコリンエステラーゼ阻害薬とN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗薬を使用してアルツハイマー病(AD)の治療を行えるようになった.重症度により治療薬選択のファーストラインは決まる.最初の治療薬で副作用があり服用できないとき,効果がないとき,そして効果の減弱があったときは別の治療薬に変更をするか,メマンチンとの併用を考える.そのためには認知機能や介護者からの情報を得て,患者についての注意深いアセスメントが必要である. -
BPSD の非薬物療法
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Description認知症の症状の出現には,神経学的な障害に加えて,さまざまな要因がかかわる.とりわけ,認知症の行動・心理症状(BPSD)の出現にはその人の生活歴や性格,社会心理学的影響などの要因が強くかかわると考えられており,個人差が大きい.アルツハイマー病(AD)では,各病期で出現しやすいBPSD があり,メカニズムも異なる.早期から出現の兆しをとらえ,適切な環境を整え,非薬物的対応を行うことで,重篤なBPSD への進展を防ぎ,その人らしさを保ったケアを継続できる. -
BPSD の薬物療法
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Description認知症の症状は中核症状とその周辺症状である認知症の行動・心理症状(BPSD)に大別される.BPSD に対しては,薬物療法が奏効することが多く,幻覚・妄想などの精神病症状および焦燥性興奮(攻撃性,暴言暴力,落ち着きのなさ,無視など),抑うつ症状,睡眠障害が薬物療法の対象となる.幻覚・妄想や焦燥性興奮では非定型抗精神病薬が,抑うつ症状では新規抗うつ薬,睡眠障害では短時間型の睡眠導入薬が第1選択となる.そのほかの薬物療法,また投与時の注意点について述べた. -
開発中の治療薬-disease modifying therapy
66巻9月増刊号(2011);View Description Hide Descriptionアルツハイマー病(AD)の治療として複数のコリンエステラーゼ阻害薬が使用可能になったが,これは症状を緩和し進行を遅らせるsymptomatic therapy(対症療法)の範疇に入るものであり,疾患そのものをターゲットにした治療法であるdisease modifying therapy(根治療法)に大きな期待がかかっている.本稿では免疫療法やセクレターゼ阻害薬,あるいはタウのリン酸化や重合を阻害する治療法といった,現在開発中のdisease modifying therapy について概説する.今後の治療法の進歩により,AD を含めて幅広い神経変性疾患が治療されることが期待されている.
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【今号の略語】
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